JP3594921B2 - 振幅変調信号受信回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、中波(MF、Medium Frequency)帯や短波(HF、High Frequency)帯で広く採用されているAM(振幅変調で搬送波送出両側波帯、Double Sideband with Emitted Carrier/Emitted Carrier Amplitude Modulationを意味する)信号を受信して復調する振幅変調信号受信回路に関し、特に、復調信号の品質を高めるための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
AM信号の受信機では、実用化された時代の技術レベルから、復調回路の規模が小さく、簡易で経済的な方式が求められた結果、復調方法には、最も簡便な包絡線復調(Envelope Demodulation)/包絡線検波(Envelope Detection)が採用されている。
【0003】
AM方式を利用している最も典型的な実用例には、現在、AM放送がある。AM放送は世界中で多くの人々が受信、利用しているので多数の受信機が存在する。歴史的な観点に立つと、AM放送が実用化された時点では、上記の復調・検波方法が最良のものであったと言える。
【0004】
また、航空機無線では、AM変調波の復調が包絡線検波で行えるので、無線機の周波数安定度にほとんど依存しないという性質を重視して、復調信号の品質が悪くても現在でも用いられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来のAM信号復調技術には以下のような問題があった。
【0006】
▲1▼ AM信号が伝搬する伝搬路で発生する振幅や位相変動、たとえば、フェージングなどによって生じる相乗性外乱、電源雑音、蛍光灯雑音、都市雑音などに対して、従来の復調技術では品質の高い復調信号を得ることが困難である。
【0007】
▲2▼ AM変調技術には長い歴史があるが、実用化した当時の技術レベルでは、変調信号形式にこれらの外乱を除去して、品質の高い復調信号を得るための手段が採れるように構成されなかった。
【0008】
▲3▼ AM放送波の周波数特性は、400 Hzを0 dBとして、50 Hzから7500 Hzの範囲では1.5 dBから− 3 dBの範囲内に入るように送信されている。しかしながら、受信機の帯域特性は送信波に比べて平坦ではない。この帯域特性を受信・復調後に音質調整しても、音声品質は改善できない。このようになる主な原因は、従来の復調技術では、AM信号に影響を与える相乗性雑音を除去する手段がなく、さらに、相加性雑音に対しても弱いので、聴き易くするために単峰性の受信帯域特性を持つ受信機が製造されているためである。そこで、音楽などの音源に対しては、十分に広い平坦な周波数帯域が要求されるにもかわらず、現状の受信機では鑑賞に値する程の充分な品質が確保できないのである。
【0009】
▲4▼ 受信入力レベルを自動的に制御する自動利得制御(AGC、Automatic Gain Control)回路が用いられるが、復調信号の品質を高めるためには十分に機能していない。
【0010】
本発明は、現在用いられているAM送信波の電波型式を変更することなく、AM信号を受信して、品質の高い復調信号を得ることができる振幅変調信号受信回路を提供することを目的とする。さらには、AM信号が伝搬路で受けた外乱を復調過程で除去し、復調信号の品質を高めることができる振幅変調信号受信回路を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の振幅変調信号に対する受信回路(以下「AM信号受信回路」という)は、受信した振幅変調信号を全搬送波の単側波帯信号に変換する変換手段と、変換された単側波帯信号の位相項から情報信号を復調する復調手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明では、AM変調信号から全搬送波の単側波帯信号を抽出し、その位相項から情報信号を復調する。その理由は、変調信号の位相項に存在する情報信号成分は相乗性あるいは相加性の外来雑音の影響を受けにくく、その結果として、伝送品質が優れているからである。FM放送の受信特性がAM放送波の受信特性に比べて良いのも、FM変調信号では情報信号成分が位相項にのみ存在し、その位相項から情報信号を復調するからである。
【0013】
復調手段は、全搬送波単側波帯信号の位相項、すなわち、実数零点から情報信号を復調する処理手段を含むことが望ましい。このような復調処理技術はRZ
SSB(Real Zero Single Sideband)変復調技術として知られ、外来雑音による振幅歪を復調過程で除去できる。以下では、RZ
SSB変復調技術により全搬送波下側波帯信号を処理するものとし、そのような信号を「RZ SSB信号」という。RZ SSB変復調技術については、特公平06-018333(特許第1888866号)に詳しい。
【0014】
単側波帯信号に変換する変換手段は、受信した振幅変調信号を二つに分岐し、その一方を振幅制限するとともに他方の信号を周波数変換して互いに掛け合わせることで、伝搬路で受けた位相項への影響や受信機の局部発振器の周波数変動などの不要な位相成分の除去を行う周波数変換手段を含むことが望ましい。このような手段を中間周波段に設けると、高周波段の局部発振器の周波数安定度に依存せず、高い品質の復調信号が得られる。これにより本発明では、復調特性が周波数変動に依存しないという従来の包絡線復調方法の特徴が損なわれることはなく、送信された情報信号帯域特性を忠実に確保できる。
【0015】
AM変調波は上側波帯と下側波帯から構成されるので、単側波帯信号に変換する変換手段は、受信した振幅変調信号とこれを周波数領域で信号配置を反転させた信号とを重ね合わせてひとつの単側波帯信号に変換する周波数ダイバーシチ手段を含むことが望ましい。
【0016】
この周波数ダイバーシチ手段は、受信した搬送波送出振幅変調信号を二つに分岐する手段と、分岐された一方の搬送波送出振幅変調信号を振幅制限する振幅制限器(ハードリミタ)と、分岐された他方の搬送波送出振幅変調信号を局部発振信号により周波数変換して差周波数成分と和周波数成分を抽出する第一の周波数変換手段と、この第一の周波数変換手段により抽出された差周波数成分を上記振幅制限器(ハードリミタ)の出力により周波数変換して和周波数成分を抽出する第二の周波数変換手段と、上記第一の周波数変換手段により抽出された和周波数成分を上記振幅制限器(ハードリミタ)の出力により周波数変換して差周波数成分を抽出する第三の周波数変換手段と、上記第二の周波数変換手段の出力と上記第三の周波数変換手段の出力とを加算する手段とを含むことができる。
【0017】
本発明のAM信号受信回路は、高度な受信信号処理を行うにもかかわらず安価に構成できるように、デジタル信号処理(DSP、Digital Signal Processing)技術を用いて実施するが望ましい。この技術を用いると、回路の調整が不要になると共に、量産効果が期待できるDSPプロセッサデバイスを用いるので、経済性が確保できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態について、AMラジオ信号を受信する受信回路を例に説明する。以下の実施形態は本発明の主旨を理解するためのものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態について、図1および図2を参照して説明する。図1は本発明の第一の実施形態を示すブロック構成図であり、図2はAM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を示す。図1に示す第一の実施形態において、100はAM送信機、101は送信アンテナ、102はAM受信機の受信アンテナ、103はフロントエンド増幅器、104は周波数変換器、105は局部発振器、106はIF(中間周波数)フィルタ、107は振幅制限器(ハードリミタ)、108は周波数変換器、109は局部発振器、110はIFフィルタ、111は周波数変換器、112はIFフィルタ、113はRZ SSB復調処理回路、114はAM復調信号出力端子である。
【0020】
図1に示した第一の実施形態について、信号の流れと共にそれぞれの回路の機能について簡単に説明する。
【0021】
AM送信機100の出力は、送信アンテナ101によってAM変調波として送出される。このAM変調波は、AM受信機のアンテナ102で受信され、フロントエンド増幅器103にて増幅された後、周波数変換器104で、局部発振器105からの局部発振信号を用いて、たとえば差周波数となるようなIF信号に変換され、IFフィルタ106によってその必要なIF信号が抽出される。
【0022】
この信号は2分割され、その一部は振幅制限器(ハードリミタ)107に導かれ振幅が一定な信号に変換される。分割された他方の信号は、周波数変換器108に導かれ、局部発振器109の出力によって、和周波数信号に変換され、IFフィルタ110によってその必要なIF信号が抽出される。IFフィルタ110の出力信号と振幅制限器(ハードリミタ)107の出力は周波数変換器111によって差周波数信号が生成できるように変換され、IFフィルタ112によって不要な雑音成分が除去されて、搬送波を伴った下側波帯成分が抽出される。IFフィルタ112の出力はRZ SSB復調処理回路113に導かれ復調され、その信号は端子114から出力される。
【0023】
各々の回路の動作を、数式を用いて説明する。送信アンテナ101から送出されるAM変調波は、情報信号をg(t)とおくと、
St1(t) = (1 + g(t))cos(ωct) ...(1)
と記述できる。上式で(ωc)は送信波の角周波数である。AM変調波が過変調にならないためには、
|g(t)|< 1 ...(2)
でなければならない。次に、(1)式を以下のように変形できる。
【0024】
ここで、H(g(t))はg(t)のヒルベルト変換を表す。また、g+(t)とg−(t)は、それぞれ送信波の上側波帯領域と下側波帯領域に存在する情報信号を表す。そして、
g+(t) = g−(t)
H(g+(t)) = H(g−(t))
である。(3)式の第一項は搬送波成分、第二項は上側波帯成分、第三項は下側波帯成分を数学的に表している。(3)式から、過変調を起こさないAM信号、すなわち、(2)式の条件を満たすAM信号においては、搬送波成分は側波帯成分より常に6dB大きいことが分かる。図1および図2では、上側波帯成分と下側波帯成分が区別できるように図示した。(1)式と(3)式は全く同じであるが、単側波帯成分を考える場合であって、上側波帯成分あるいは下側波帯成分のどちらの単側波帯成分を抽出しているか考慮する必要がある場合には、(3)式を用いる。
【0025】
送信アンテナ101から放射された信号は、伝搬中に、振幅と位相項にそれぞれρ(t)とθ(t)で表示できるレーレ分布則に従うランダムな振幅変動とランダムFM雑音と呼ばれる位相変動を受ける。これらの振幅変動と位相変動は、信号に対して相乗的な外乱として影響を与える。このため、AM受信機アンテナ102に到達する信号は、
Sr1(t) =ρ(t)(1+g(t))cos(ωct+θ(t)) ...(4)
となる。
【0026】
受信信号をフロントエンド増幅器103(増幅度が受信電力(RSSI、Received Signal Strength Indication)で変化するものを用いてもよい)にて増幅した後、この信号と局部発振器105からの中心角周波数が(ωc−ω1)でその角周波数変動が(δω)なる局部発振信号とを用い、周波数変換器104で差周波数を得る。これにより受信信号は中心角周波数が(ω1)なるIF信号に変換され、この信号からIFフィルタ106によってその必要なIF信号成分のみを抽出する。抽出される信号は、フロントエンド増幅器103で相加される熱雑音を無視すると、(4)式から容易に求められ、
S11(t) =ρ(t)(1+g(t))cos((ω1±δω)t+θ(t)) ...(5)
で表される。
【0027】
ここで、AM受信機(中波AM放送用受信機や短波帯のAM受信機)における通常の周波数変換について考察する。中波や短波帯の受信信号はその性質から周波数が低いので、局部発振周波数(ωL1)として受信信号周波数(ωc)より高い周波数を用い、IF周波数(ωIF1)に変換する場合が多い。このようにすることによって、IF周波数領域へのスプリアス(不要波)信号の混入を防いでいる。この場合、受信信号の側波帯について観測すると、上下の側波帯が反転している。得られたIF周波数(ωL1)をさらに低周波なIF周波数(ωIF2)領域に変換する場合、同じようにIF周波数(ω IF1 )より高い周波数を用いて周波数変換すると、側波帯は、再度、反転して、もとに戻る。本実施形態では、このようなことを想定しながら、簡単のために上記のような周波数変換を用いたが、本発明はこのような例に限定されるものではない。以下の実施形態においても、このようなことを考え、模式的に周波数変換を表した。
【0028】
(5)式で表される信号を二分し、まず、振幅制限器(ハードリミタ)107に導き、振幅が一定な信号に変換する。それは、
S1lim = cos((ω 1 ±δω)t+θ(t)) ...(6)
となり、ランダムな振幅変動成分ρ(t)が除去される。二分された他方の信号については、角周波数が(ω2)なる局部発振器109を用い、周波数変換器108で和周波数を生成し、中心角周波数が(ω1+ω2)なるIF信号に変換し、IFフィルタ110によってその必要なIF信号成分のみを抽出する。その信号は、
S12(t) =ρ(t)(1+g(t))cos(((ω1±δω)+ω2)t+θ(t)) ...(7)
となる。(6)式で表される振幅制限器(ハードリミタ)107の出力と(7)式で表されるIFフィルタ110の出力とを周波数変換器111に入力して、その差周波数成分を抽出すると、
S13(t) =ρ(t)(1+g(t))cos(ω2t) ...(8)
となり、位相項に存在した角周波数変動(δω)やランダムな外乱成分θ(t)が完全に除去できると共に、搬送波の角周波数は(ω2)となる。そこで、これ以後の復調処理においては、周波数の安定度は局部発振器109にのみ依存することになる。この結果、角周波数(ω2)が低周波であれば、周波数安定度はほとんど考慮する必要はなく、急峻なIFフィルタ112を用いて、不要な雑音成分を除去して搬送波が付加した下側波帯信号を抽出することができる。その信号は、雑音成分の数式上の記述を省略して、(3)式を援用すると、
S14(t) =ρ(t){(1+g-(t)/2)cos(ω2t)+(H(g-(t))/2)sin(ω2t)} ...(9)
と送信波の下側波帯に相当する成分が抽出される。この式はまた、
S14(t) = ρ (t)A(t)cos( ω 2 t- Θ (t))
A(t) = {(1+g-(t)/2) 2 +(H(g-(t))/2) 2 } 1/2
tan Θ (t) = H(g-(t))/(2+g-(t))
と、情報信号により変化する位相項を含む形式に変形することができる。(9)式で表される搬送波を伴った下側波帯信号は、既に述べたように搬送波成分が情報信号の最大値に対して6dB大きいので、RZ
SSB信号となる。そこで、RZ SSB復調処理回路を用いると、ランダムな振幅成分ρ(t)が除去できて高い品質の情報信号が復調できる。
【0029】
IFフィルタ106以後の信号処理はデジタル信号処理(DSP、Digital Signal Processing)回路で実行することができる。搬送波が付加された下側波帯信号を抽出するには、上記で説明したように周波数安定度が局部発振器109でのみ決定されるので、IFフィルタ112として急峻な遮断特性を持つものを用いればよい。また、DSP回路によるフィルタでは温度特性等を考慮しなくても良いなどの利点がある。
【0030】
図1に示した回路をDSPデバイスを用いて実現する場合に、DSPの消費電力を低下させるために、RZ SSB復調処理回路のサンプリング周波数を低くする必要がある。その場合には、周波数変換器111の出力に周波数変換器を挿入して、処理すべき周波数領域を下げることができる。そのような処理の例を以下に説明する。
【0031】
図3は図1に示した受信回路の信号処理周波数をさらに下げた例を示すブロック構成図であり、図4はAM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を示す。図3において、120はIFフィルタ、121は周波数変換器、122は局部発振器、123はIFフィルタである。
【0032】
この回路の動作を簡単に説明する。周波数変換器111の出力からIFフィルタ120を用いて、角周波数が(ω2)なるAM信号を抽出する。そして、角周波数が(ω2−ω3)なる局部発振器122の出力と周波数変換器121によって、周波数を低域に変換して、IFフィルタ123によって角周波数が(ω3)なる搬送波が付加した下側波帯信号を抽出する。このように、処理すべき周波数領域を下げると無駄な処理を行う周波数領域が少なくなり低消費電力化に大きく寄与する。
【0033】
〔第二の実施形態〕
本発明の第二の実施形態について、図5および図6を参照して説明する。図5は本発明の第二の実施形態を示すブロック構成図であり、図6はAM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を示す。図5に示す第二の実施形態において、200はAM送信機、201は送信アンテナ、202はAM受信機の受信アンテナ、203はフロントエンド増幅器、204は周波数変換器、205は局部発振器、206はIFフィルタ、207は振幅制限器(ハードリミタ)、208は周波数変換器、209は局部発振器、210はIFフィルタ、211は周波数変換器、212はIFフィルタ、213はRZ SSB復調処理回路、214はAM復調信号出力端子である。
【0034】
図5に示した第二の実施形態について、信号の流れと共にそれぞれの回路の機能について簡単に説明する。
【0035】
AM送信機200の出力は、送信アンテナ201によってAM変調波として送出される。このAM変調波は、AM受信機のアンテナ202で受信され、フロントエンド増幅器203にて増幅された後、周波数変換器204と局部発振器205によって、差周波数信号に変換され、IFフィルタ206によってその必要なIF信号が抽出される。この信号は2分割され、一方の信号は振幅制限器(ハードリミタ)207に導かれ振幅が一定な信号に変換される。分割された他方の信号は、周波数変換器208に導かれ、局部発振器209の信号との差周波数となる信号がIFフィルタ210によって抽出される。IFフィルタ210の出力信号は、振幅制限器(ハードリミタ)207の出力を用いて周波数変換器211によって和周波成分が生成され、IFフィルタ212によって、不要な雑音成分が除去されて搬送波を伴った下側波帯成分が抽出される。IFフィルタ212の出力はRZ SSB復調処理回路213に導かれて復調され、その信号は端子214から出力される。
【0036】
各々の回路の動作を、数式を用いて説明する。送信アンテナ201から送出されるAM放送波は、情報信号をg(t)とおくと、
St2(t) = (1+g(t))cos(ωct) ...(10)
上式で(ωc)は送信波の角周波数である。AM波が過変調にならないためには、
|g(t)|< 1 ...(11)
でなければならない。送信アンテナ201から放射された信号は、伝搬中に振幅と位相項にそれぞれρ(t)とθ(t)で表示できる相乗的な外乱を受けるので、AM受信機アンテナ202に到達する信号は、
Sr2(t) =ρ(t)(1+g(t))cos(ωct+θ(t)) ...(12)
となる。
【0037】
受信信号をフロントエンド増幅器203にて増幅した後、この信号と局部発振器205からの中心角周波数が(ωc−ω1)でその角周波数変動が(δω)なる局部発振信号とにより、周波数変換器204で差周波数を得る。これにより受信信号は中心角周波数が(ω1)なるIF信号に変換され、この信号からIFフィルタ206によって必要なIF信号成分のみを抽出する。抽出される信号は、(12)式から、
S21(t) =ρ(t)(1+g(t))cos((ω1±δω)t+θ(t)) ...(13)
と求まる。ただし、フロントエンド増幅器203で相加される熱雑音は無視した。
【0038】
(13)式で記述できる信号を二分し、まず、振幅制限器(ハードリミタ)207に導き、振幅が一定な信号に変換する。それは、
S2lim = cos((ω1±δω)t+θ(t)) ...(14)
となる。二分された他方の信号については、角周波数が(ω2)なる局部発振器209を用い、周波数変換器208で差周波数を得て、その中心角周波数が(ω2−ω1)なるIF(中間周波数#2)に変換、IFフィルタ210によって必要なIF信号成分のみを抽出する。その信号は、
S22(t) =ρ(t)(1+g(t))cos((ω2−(ω1±δω))t−θ(t)) ...(15)
となる。ここで、ω2>ω1とした。(14)式で表される振幅制限器(ハードリミタ)207の出力と(15)式で表されるIFフィルタ210の出力とを周波数変換器211に入力して、その和周波数成分を抽出すると、
S23(t) =ρ(t)(1+g(t))cos(ω2t) ...(16)
となり、位相項に存在した角周波数変動(δω)や外乱成分θ(t)が完全に除去できると共に、搬送波の角周波数は(ω2)となる。そこで、これ以後の復調処理においては、周波数の安定度は局部発振器209にのみ依存することになる。この結果、角周波数(ω2)が低周波であれば、周波数安定度については考慮する必要はなく、急峻なIFフィルタ212を用いて、不要な雑音成分を除去して搬送波が付加した下側波帯信号を抽出することができる。その信号は、雑音成分の数式上の記述を省略して、(3)式を援用すると、
S24(t) =ρ(t){(1+g+(t)/2)cos(ω2t) +(H(g+(t))/2)sin(ω2t)} ...(17)
と送信波の上側波帯に相当する成分が抽出される。ここで、(17)式と(9)式の側波帯成分の関係は、(3)式に示したAM受信信号の表記を参照すると、それぞれ上側波帯と下側波帯成分に相当する。
【0039】
(17)式のように抽出した下側波帯信号は、第一の実施形態で述べたように、RZ SSB信号となることが分かる。そこで、RZ SSB復調処理回路を用いると、外乱成分ρ(t)が除去できて高い品質の情報信号が復調できる。
【0040】
図5に示した回路を、DSPデバイスを用いて実現する場合に、DSPの消費電力を低下させるために、RZ SSB復調処理回路のサンプリング周波数を低くする必要がある。その場合には、周波数変換器211の出力に周波数変換器を挿入して、処理すべき周波数領域を下げることができる。そのような処理の例を以下に説明する。
【0041】
図7は図5に示した受信回路の修正例を示すブロック構成図であり、図8はAM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を示す。図7において、220はIFフィルタ、221は周波数変換器、222は局部発振器、223はIFフィルタである。
【0042】
この回路の動作を簡単に説明する。周波数変換器211の出力からIFフィルタ220を用いて、角周波数が(ω2)なるAM信号を抽出する。そして、角周波数が(ω2−ω3)なる局部発振器222の出力を用いて、周波数変換器221により周波数を低域に変換して、IFフィルタ223によって搬送波が付加された下側波帯信号を抽出する。このように処理すべき周波数領域を下げると、無駄な処理を行う周波数領域が少なくなり、デバイスの低消費電力化に大きく寄与する。
【0043】
〔第三の実施形態〕
本発明の第三の実施形態について、図9および図10を参照して説明する。図9は本発明の第三の実施形態を示すブロック構成図であり、図10はAM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を示す。図9において、300はAM送信機、301は送信アンテナ、302はAM受信機の受信アンテナ、303はフロントエンド増幅器、304は周波数変換器、305は局部発振器、306はIFフィルタ、307は振幅制限器(ハードリミタ)、308は周波数変換器、309は局部発振器、310はIFフィルタ、311はIFフィルタ、312は周波数変換器、313は周波数変換器、314は加算回路、315はIFフィルタ、316はRZ SSB復調処理回路、317はAM復調信号出力端子である。
【0044】
図9に示した第三の実施形態について、信号の流れと共にそれぞれの回路の機能について簡単に説明する。
【0045】
AM送信機300の出力は、送信アンテナ301によってAM変調波として送出される。このAM変調波は、AM受信機のアンテナ302で受信され、フロントエンド増幅器303にて増幅された後、周波数変換器304と局部発振器305によって、差周波数信号に変換され、IFフィルタ306によって所要のIF信号が抽出される。この信号は2分割され、一方の信号は振幅制限器(ハードリミタ)307に導かれ、振幅が一定な信号に変換される。分割された他方の信号は、周波数変換器308に導かれ、局部発振器309の信号との和と差周波数が生成される。和周波数となる信号をIFフィルタ310で、また、差周波数となる信号をIFフィルタ311によって抽出する。IFフィルタ310の信号からは、振幅制限器(ハードリミタ)307の出力を用いて、周波数変換器312によって差周波成分が生成され、また、IFフィルタ311の信号からは、振幅制限器(ハードリミタ)307の出力を用いて、周波数変換器313によって和周波成分が生成される。周波数変換器312と周波数変換器313の出力は加算回路314で加算され、IFフィルタ315によって、不要な雑音成分が除去されて搬送波を伴った下側波帯成分が抽出される。IFフィルタ315の出力はRZ SSB復調処理回路316に導かれて復調され、復調信号は端子317から出力される。
【0046】
各々の回路の動作を、数式を用いて説明する。送信アンテナ301から送出されるAM放送波は、情報信号をg(t)とすると、
St3(t) = (1+g(t))cos(ωct) ...(18)
上式で(ωc)は送信波の角周波数、また、AM波が過変調にならないためには、
|g(t)|< 1 ...(19)
でなければならない。送信アンテナ301から放射された信号は、伝搬中に振幅と位相項にそれぞれρ(t)とθ(t)で表示できる相乗的な外乱を受けるので、AM受信機アンテナ302に到達する信号は、
Sr3(t) =ρ(t)(1+g(t))cos(ωct+θ(t)) ...(20)
となる。
【0047】
受信信号をフロントエンド増幅器303にて増幅した後、この信号と、局部発振器305からの中心角周波数が(ωc−ω1)でその角周波数変動が(δω)なる局部発振信号とを用い、周波数変換器304で差周波数を得て、その中心角周波数が(ω1)なるIF信号に変換、IFフィルタ306によって所要のIF信号成分のみを抽出すると、それは、(20)式を用いて、
S31(t) =ρ(t)(1+g(t))cos((ω1±δω)t+θ(t)) ...(21)
と求まる。ここで、フロントエンド増幅器303で相加される熱雑音は無視した。
【0048】
(21)式で記述できる信号を二分し、まず、振幅制限器(ハードリミタ)307に導いて振幅が一定な信号に変換する。それは、
S3lim = cos((ω1±δω)t+θ(t)) ...(22)
となる。
【0049】
二分された他方の信号については、角周波数が(ω2)なる局部発振器309を用い、周波数変換器308の和周波数生成動作によって、その中心角周波数が(ω2+ω1)なるIF信号に変換、IFフィルタ310によって、その所要IF信号成分のみを抽出すると、
S32(t) =ρ(t)(1+g(t))cos((ω2+(ω1±δω))t+θ(t)) ...(23)
となる。ここで、ω2>ω1なる周波数関係を用いた。また、角周波数が(ω2)なる局部発振器309を用い、周波数変換器308の差周波数生成動作によって、その中心角周波数が(ω2−ω1)なるIF信号に変換、IFフィルタ311によって、その所要IF信号成分のみを抽出すると、
S33(t) =ρ(t)(1+g(t))cos((ω2−(ω1±δω))t−θ(t)) ...(24)
となる。
【0050】
(22)式で表される振幅制限器(ハードリミタ)307の出力と(23)式で表されるIFフィルタ310の出力とを周波数変換器312に入力して、その差周波数成分を抽出すると、
となり、位相項に存在した角周波数変動(δω)や外乱成分θ(t)が完全に除去できると共に、搬送波の角周波数は(ω2)となる。(25) 式の第一項は搬送波成分、第二項は上側波帯成分、第三項は下側波帯成分であり、ρ+(t)とρ-(t)はそれぞれ上、下側波帯領域に存在するランダムな振幅変動である。
【0051】
また、(22)式で表される振幅制限器(ハードリミタ)307の出力と(24)式で表されるIFフィルタ311の出力とを周波数変換器313に入力して、その和周波数成分を抽出すると、
となり、同様に、位相項に存在した角周波数変動(δω)や外乱成分θ(t)が完全に除去できると共に、搬送波の角周波数は(ω2)となる。なお、 (26) 式の第一項は搬送波成分、第二項は下側波帯成分、第三項は上側波帯成分であり、アンテナ 102 に到達した時点で上、下側波帯領域にそれぞれ存在した振幅変動ρ +(t) 、ρ -(t) 、情報信号 g+(t) 、 g-(t) 、ヒルベルト変換 H(g+(t) 、 H(g-(t) が、周波数変換によりそれぞれ下、上側波帯領域の信号となっている。
【0052】
周波数変換器312と周波数変換器313の出力を加算回路314で加算し、IFフィルタ315で角周波数が(ω2)なる搬送波を含む下側波帯成分を抽出する。
【0053】
これ以後の復調処理においては、周波数の安定度は局部発振器309にのみ依存することになる。この結果、角周波数(ω2)が低周波であれば、周波数安定度については考慮する必要はなく、急峻なIFフィルタ315を用いて、不要な雑音成分を除去して搬送波が付加した下側波帯信号を抽出することができる。
【0054】
IFフィルタ315により抽出された信号は、雑音成分の数式上の記述を省略して、(25)と(26)式を援用して、
と求まる。すなわち、 (25) 式の第一項および第三項と (26) 式の第一項および第二項の加算となる。(27)式の第2項と第3項は、それぞれ送信波における上、下側波帯の信号成分を含んでおり、伝搬中の劣化度合いが違うのでダイバーシチ効果が期待できる。(27)式で示した下側波帯信号は、第一の実施例で述べたように、RZ
SSB信号となることが分かる。そこで、RZ SSB復調処理回路を用いると、外乱成分ρ(t)が除去でき、かつ、先のダイバーシチ効果と相まって高い品質の情報信号が復調できる。
【0055】
図9に示した回路をDSPデバイスを用いて実現する場合に、DSPの消費電力を低下させるために、RZ SSB復調処理回路のサンプリング周波数を低くする必要がある。その場合には、加算回路314の出力に周波数変換器を挿入して、処理すべき周波数領域を下げることができる。そのような処理の例を以下に説明する。
【0056】
図11は図9に示した受信回路の信号処理周波数をさらに下げた例を示すブロック構成図であり、図12はAM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を示す。図11において、320はIFフィルタ、321は周波数変換器、322は局部発振器、323はIFフィルタである。
【0057】
この回路の動作を簡単に説明する。加算回路314の出力からIFフィルタ320を用いて、角周波数が(ω2)なるAM信号を抽出する。そして、角周波数が(ω2−ω3)なる局部発振器322の出力と周波数変換器321によって、周波数を低域に変換して、IFフィルタ323によって搬送波が付加した下側波帯信号を抽出する。このように、処理すべき周波数領域を下げると、無駄な処理を行う周波数領域が少なくなり、デバイスの低消費電力化に大きく寄与する。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、
▲1▼ 送信波の周波数特性に忠実な周波数特性を持つ復調信号が得られ、従来の受信回路に比べて、復調品質が改善、向上する。
▲2▼ フェージングなどの外来の相乗性雑音に強い受信特性が得られ、復調品質が改善、向上する。
▲3▼ 従来のAM受信機の特長を踏襲して、復調信号が受信機の周波数変動に依存しないで得られるような受信回路構成としたので、安価に受信機が製造できる。
▲4▼ AM変調時に得られる上側波帯と下側波帯を用いて周波数ダイバーシチ効果が得られる受信回路構成とすることで、復調品質の向上が図れる。
と言う効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施形態を示すブロック構成図。
【図2】AM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を説明する図。
【図3】本発明の第一の実施形態の変形例であり、RZ SSB復調処理を低周波領域で実施する構成例を示すブロック構成図。
【図4】AM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を説明する図。
【図5】本発明の第二の実施形態を示すブロック構成図。
【図6】AM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を説明する図。
【図7】本発明の第二の実施形態の変形例であり、RZ SSB復調処理を低周波領域で実施する構成例を示すブロック構成図。
【図8】AM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を説明する図。
【図9】本発明の第三の実施形態を示すブロック構成図。
【図10】AM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を説明する図。
【図11】本発明の第三の実施形態の変形例であり、RZ SSB復調処理を低周波領域で実施する構成例を示すブロック構成図。
【図12】AM信号に対する受信回路内での周波数変換処理時の信号配置例を説明する図。
【符号の説明】
100、200、300 AM送信機
101、201、301 送信アンテナ
102、202、302 受信アンテナ
103、203、303 フロントエンド増幅器
104、108、111、121、204、208、211、221、304、308、312、313、321 周波数変換器
105、109、122、205、209、222、305、309、322 局部発振器
106、110、112、120、123、206、210、212、220、223、306、310、311、315、320、323 IFフィルタ
107、207、307 振幅制限器(ハードリミタ)
113、213、316 RZ SSB復調処理回路
314 加算回路
114、214、317 AM復調信号出力端子
Claims (4)
- 振幅変調信号を受信して復調する受信回路において、
受信した振幅変調信号からその搬送波を含んだ全搬送波の単側波帯信号を抽出する手段と、
抽出された全搬送波の単側波帯信号の位相項から情報信号を復調する手段と
を備えたことを特徴とする振幅変調信号受信回路。 - 上記抽出する手段は、受信した振幅変調信号を二つに分岐し、その一方を振幅制限するとともに他方の信号を周波数変換して互いに掛け合わせることで、伝搬路で受けた位相項への影響や受信機の局部発振器の周波数変動などの不要な位相成分の除去を行う周波数変換手段を含む請求項1記載の振幅変調信号受信回路。
- 上記抽出する手段は、受信した振幅変調信号とこれを周波数領域で信号配置を反転させた信号とを重ね合わせてひとつの単側波帯信号に変換する周波数ダイバーシチ手段を含む請求項1記載の振幅変調信号受信回路。
- 上記周波数ダイバーシチ手段は、
受信した振幅変調信号を二つに分岐する手段と、
分岐された一方の振幅変調信号を振幅制限する振幅制限器と、
分岐された他方の振幅変調信号を局部発振信号により周波数変換して差周波数成分と和周波数成分を抽出する第一の周波数変換手段と、
この第一の周波数変換手段により抽出された差周波数成分を上記振幅制限器の出力により周波数変換して和周波数成分を抽出する第二の周波数変換手段と、
上記第一の周波数変換手段により抽出された和周波数成分を上記振幅制限器の出力により周波数変換して差周波数成分を抽出する第三の周波数変換手段と、
上記第二の周波数変換手段の出力と上記第三の周波数変換手段の出力とを加算する手段と
を含む
請求項3記載の振幅変調信号受信回路。
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