JP3594650B2 - デキストランの製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、澱粉部分加水分解物またはその還元物を炭素源として用い、さらに炭酸カルシウムを培地に添加して微生物を培養させることによりデキストランを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
デキストラン(α−1,6−グルカン)は、ロイコノストック属やストレプトコッカス属などに属する細菌を、蔗糖を炭素源として培養することにより合成される。具体的には前記の細菌がデキストランスクラーゼを生産し、この酵素の作用により蔗糖からデキストランが合成される。デキストランの化学構造は、D−グルコースのみから成る高分子多糖類であり、α−1,6−グルコシド結合を主体として、さらにα−1,2−、α−1,3−、α−1,4−グルコシド結合の分岐を有している。但し、これら分岐の含有比はデキストランの起源により異なる。デキストランは血液増量剤や代用血漿として用いられる他、優れたゲル濾過剤として医薬・生化学分野で利用されている。
【0003】
これに対してグルコノバクター属に属する細菌は、澱粉部分加水分解物を炭素源として培養することにより、デキストリンデキストラナーゼを生成し、この酵素が澱粉部分加水分解物を基質としてデキストランを合成することが報告されている(E.J.Hehre and D.M.Hemilton : Proo. Soo. Exp. Biol. and Med.,71, 336−339(1949)) 。しかし、グルコノバクター属のデキストラン生産量は、ロイコノストック属などのデキストラン生産量と比較して収量が低い。そのためグルコノバクター属に属する細菌は、デキストランの生産には実用されていない。
【0004】
澱粉部分加水分解物を炭素源とし、酵母抽出物を窒素源とした培地では、グルコノバクター属の生産するデキストランの収率は約22%である(E.J.Hehre : J. Biol. Chem., 192, 161−174(1951))。また、グルコノバクター属の生産するグルコースデヒドロゲナーゼ阻害剤として重亜硫酸ナトリウム、シアン化ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、ベンゼン、アルキルベンゼン、ヒドロキシアルキルベンゼンを培地中に添加してグルコン酸の生成を抑制することによりデキストランの収量が上昇するという報告(米国特許 2,801,204及び2,801,205)がある。しかし、それでも約26〜28%程度の収率であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
デキストランの安全性は広く認められているにもかかわらず、非常に高価なために食品用途への利用はほとんどなされていないのが現状である。デキストランを安価に製造するためには、安価な原料から、高収率でデキストランを製造する方法の確立が必要である。澱粉部分加水分解物は、工業的に多量に生産されていることから、蔗糖に比べて安価である。従って、デキストランの原料として澱粉部分加水分解物を用い、かつ高い収率でデキストランを得ることができれば、デキストランを従来より安価に提供することが可能である。さらに、理論的には、澱粉部分加水分解物を用いたデキストランの収率は、蔗糖を原料とする場合より高い。
【0006】
ところが、前記のように、グルコノバクター属に属するデキストラン生産細菌を培養することにより得られるデキストランの収率は低く、本発明者の追試によれば、ベンゼン等を添加した培地でもその収率は20〜25%程度の収率でしかなかった。
そこで本発明の目的は、澱粉部分加水分解物を炭素源として用い、グルコノバクター属に属する細菌を用いて、高い収率でデキストランを製造できる方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで発明者は、炭酸カルシウムを培地に添加することにより、澱粉部分加水分解物またはその還元物を炭素源として、グルコノバクター属に属するデキストラン生産細菌を用いて、高収率でデキストランを製造することができることを見出して、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、澱粉部分加水分解物またはその還元物を炭素源として含有し、かつ炭酸カルシウムを含有する培地中で、グルコノバクター属に属するデキストラン生産菌を培養し、培地中からデキストランを採取することを特徴とするデキストランの製造方法に関する。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0008】
澱粉部分加水分解物を炭素源として培養することによりデキストランを生産するグルコノバクター属に属するデキストラン生産菌としては、例えば、グルコノバクターオキシダンスATCC11894株(Gluconobacter oxydans American Type Culture Collection Strain No.11894)またはグルコノバクターオキシダンスATCC11895株(Gluconobacter oxydans American Type Culture Collection Strain No.11895)などを挙げることができる。但し、これらに限定されるものではなく、これら以外のグルコノバクター属に属するデキストラン生産菌も本発明の方法に使用することができる。
尚、これらの菌株は酢酸菌に属し、糸引きビールの原因菌である。しかし、酢酸菌に病原性などは知られていないことから、これらの酢酸菌の培養物は安全であり、食品用途であるデキストランの生産菌として適している。
【0009】
澱粉部分加水分解物の原料となる澱粉としては、例えば、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、クズ澱粉、リョクトウ澱粉などを挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。さらに、澱粉部分加水分解物を製造するための酸としてはシュウ酸、塩酸、硫酸などを挙げることができる。また、加水分解酵素としては、例えばα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼ、α−グルコシダーゼなどを挙げることができる。
【0010】
本発明に用いる澱粉部分加水分解物とは、澱粉を酸または酵素により加水分解したもので、DE5〜65程度、好ましくは10〜45程度のものであることが適当である。また、その還元物とは、これら澱粉部分加水分解物に水素添加することにより還元したものである。還元は、還元性末端を部分還元であっても、全部還元であってもよく、還元の程度には特に制限はない。
【0011】
グルコノバクター属に属するデキストラン生産菌の培養は、炭素源として澱粉部分加水分解物または還元物を例えば2〜25重量%、好ましくは5〜15重量%、及び炭酸カルシウムを例えば0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜5%含有する培地を用いることが適当である。培養温度は、デキストラン生産菌の最適温度付近に設定すれば良く、例えば25℃とし、例えば約10〜200時間通気培養することで、デキストランが培地中に蓄積する。
さらに培地には、必要により、窒素源を添加することもできる。窒素源は添加しなくても培養はできるが、菌の増殖やデキストランの生成量を考慮すると添加することが好ましい。使用できる窒素源は、通常微生物の培養に用いられている窒素源であれば特に限定されない。例えば、酵母エキス、肉エキス、魚エキス、CSL(コーンスティープリカー)、ペプトン、大豆粉、カゼイン、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素などを挙げることができる。また、窒素源の添加量は、例えば0〜5%の範囲であることが適当であり、好ましくは0.01〜1.5%の範囲である。
【0012】
グルコノバクター属の培養液中のデキストラン含量の測定は、除菌した液1mlにグルコアミラーゼ9ml(50単位)を添加して37℃にて30分間反応させ、未反応の澱粉部分加水分解物またはその還元物を分解させた後、煮沸によりグルコアミラーゼを失活せしめた後、この反応液の全糖量をフェノール硫酸法にて、また糖組成をHPLCにより分析し、その高分子画分の重量%に全糖量を乗ずることにより求められる。この際のHPLCは3糖程度までの低分子と、それ以上の高分子とを分離できるカラムを用いればよく、例えばAminex HPX−42A (Bio−Rad Laboratry)などを用いることができる。
【0013】
グルコノバクター属の培養液からデキストランを得るためには、菌体を除き、糖質以外のものを除去する操作を加えればよい。培養液からの菌体の除去は、通常の微生物の除菌操作、例えば遠心分離などを用いればよく、糖質以外のものの除去には活性炭処理、イオン交換樹脂による処理、膜分離などを用いることができる。培養液からの菌体の除去は、具体的には、例えば120,000rpm程度の遠心分離操作や連続遠心操作などを用いることができる。糖質以外のものの除去には、例えば0.01〜0.5%程度活性炭を加えて行う脱色処理や陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いた脱塩処理や膜分離操作による目的物であるデキストランの分画などを用いることができる。
このようにして得られるデキストランをさらに精製することもできる。精製法としては、例えば、エタノールなどを用いた有機溶媒による沈殿法、クロマト分画法や限外濾過膜による処理などを用いることができる。これらの方法は、単独またはいくつかの操作を組み合わせることにより、より効率的に高純度のデキストランを得ることができる。
【0014】
【実施例】
実施例1
5%パインデックス♯3(松谷化学製、澱粉部分加水分解物、DE25、±1)、0.5%酵母エキスを含む培地に200mlに、重亜硫酸ナトリウム0.025%、次亜塩素酸カルシウム0.025%、炭酸カルシウム1%をそれぞれ単独に添加したもの及びこれらを添加しないものを調製し、滅菌後、グルコノバクターオキシダンスATCC11894株(シード培養したものを10ml)を接種し、25℃で4日振盪培養した。これらの培養液中のデキストラン含量は、表1に示したとおりであり、炭酸カルシウム添加した系では対糖収率38%であった。
【0015】
【表1】
【0016】
上記例で炭酸カルシウムを添加して得られた培養液を、遠心分離機(120,000rpm)を用いて菌体を除いた後、上澄に0.1%活性炭を添加して50℃にて30分放置し脱色処理を行った。再度遠心分離機(120,000rpm)により活性炭を除去した後、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を詰めたカラムに通液し(SV 2)、脱イオン処理を行った。脱イオン処理した液に30%(v/v)となるようにエタノールを添加し、遠心分離機(120,000rpm)により沈殿を集め、脱イオン水に溶解後、凍結乾燥し、デキストランを得た。最終的なデキストランの対糖収率は33%であった。
【0017】
実施例2
5%パインデックス♯3(松谷化学製)、0.5%酵母エキスを含む培地に200mlに、重亜硫酸ナトリウム0.025%、次亜塩素酸カルシウム0.025%、炭酸カルシウム1%をそれぞれ単独に添加したもの及びこれらを添加しないものを調製し、滅菌後、グルコノバクターオキシダンスATCC11895株を接種し、25℃で4日振盪培養した。これらの培養液中のデキストラン含量は、表2に示したとおりであり、炭酸カルシウムを添加した系では対糖収率40%であった。
【0018】
【表2】
【0019】
上記例で炭酸カルシウムを添加して得られた培養液を、実施例1と同様に処理してデキストランを得た。最終的なデキストランの対糖収率は38%であった。
【0020】
実施例3
5%パインデックス♯3(松谷化学製)、0.5%酵母エキスを含む培地に200mlに、炭酸カルシウム0.1〜10%添加したもの及びこれらを添加しないものを調製し、滅菌後、グルコノバクターオキシダンスATCC11894株を接種し、25℃で4日振盪培養した。これらの培養液中のデキストラン含量は、表3に示したとおりであり、炭酸カルシウム添加した系では対糖収率30%台であった。これらの添加量のうち、もっともデキストランの対糖収率の高いものは1%炭酸カルシウムを添加した系で、その対糖収率は38%であった。
【0021】
【表3】
【0022】
【発明の効果】
これまでデキストランは非常に高価なもので、医薬・生化学用途の極限られた分野でしか利用されていなかった。しかし、本発明の製造方法により、安価な澱粉部分加水分解物またはその還元物を原料として、従来よりも効率よくデキストランを製造することができるようになった。その結果、より安価にデキストランを提供することが可能となり、食品用途など、より広い分野で利用が可能となる。
Claims (3)
- 澱粉部分加水分解物またはその還元物を炭素源として含有し、かつ炭酸カルシウムを含有する培地中で、グルコノバクター属に属するデキストラン生産菌を培養し、培地中からデキストランを採取することを特徴とするデキストランの製造方法。
- 炭酸カルシウムの含有量が0.01〜10重量%の範囲である請求項1記載の製造方法。
- グルコノバクター属に属するデキストラン生産菌が、グルコノバクターオキシダンスATCC11894株またはグルコノバクターオキシダンスATCC11895株である請求項1又は2記載の製造方法。
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JP8876794A JP3594650B2 (ja) | 1994-04-26 | 1994-04-26 | デキストランの製造方法 |
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JPH07289277A JPH07289277A (ja) | 1995-11-07 |
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JP8876794A Expired - Lifetime JP3594650B2 (ja) | 1994-04-26 | 1994-04-26 | デキストランの製造方法 |
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Country | Link |
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JP (1) | JP3594650B2 (ja) |
-
1994
- 1994-04-26 JP JP8876794A patent/JP3594650B2/ja not_active Expired - Lifetime
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