JP3594281B2 - ステレオ拡大装置及び音場拡大装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、2チャンネルのステレオ入力信号に基づいて形成される音場を拡大するステレオ拡大装置及び音場拡大装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、左右2チャンネルのステレオ再生(以下、単に「ステレオ」というときは左右2チャンネルのステレオをいう)をスピーカで行う場合において、一方のチャンネルの音に他方のチャンネルの音の逆相の音を混合することにより、音像を左右のスピーカの外側に定位させる技術が知られている。この種の技術は、例えば、WO94/16538(PCT/US93/12688)号に、「音像操作装置及び音像拡大方法(SOUND IMAGE MANIPULATION APPARATUS AND METHOD FOR SOUND IMAGE ENHANCEMENT)」として開示されている。この技術によれば、音像を左右両スピーカの外側に定位させることができるので、音場を拡大させることができる。しかし、この技術では、スピーカに近接した位置で受聴すると音像が定位する位置が不明確になるという問題がある。
【0003】
また、ダミーヘッドを用いて録音されたソースをヘッドホンで受聴すると、恰も現実の演奏を聞いているような臨場感が得られることが知られている(例えば、株式会社リットーミュージック発行、キーボードマガジン93年3月号特集「立体音響の世界」)。一般に、音が音源から人の両耳(鼓膜)に到達する経路は、壁の反射、回折、散乱等の室の伝達系と、頭部や耳介による反射、回折、共振等の伝達系に分けることができる。上記ダミーヘッドを用いて録音するということは、前者の伝達系のみならず後者の伝達系をも考慮して録音するということに等しい。本明細書では、後者のみならず前者をも含めた伝達系を表す関数を「頭部音響伝達関数」と呼ぶ。
【0004】
そこで、頭部音響伝達関数を予め測定しておき、入力された音信号をこの頭部音響伝達関数を用いて処理することにより臨場感に優れた楽音が得られる装置が開発されている。例えばステレオ再生を行う場合において、右チャンネル入力信号に右方向の頭部音響伝達関数を乗じ、左チャンネル入力信号に左方向の頭部音響伝達関数を乗じ、これらをミキシングしてヘッドホンで受聴すれば、音場が拡大されると共に臨場感に優れた楽音が得られる。しかし、この技術では、スピーカ受聴で臨場感が得られないという問題がある。
【0005】
更に、シュレーダー方式と呼ばれる音像定位技術が広く知られている。このシュレーダー方式では、左スピーカから右耳に到達する音及び右スピーカから左耳に到達する音(これらを「クロストーク音」という)がキャンセルされることにより、恰もヘッドホン受聴のような状況が作り出される。これを以下「クロストークキャンセル」と呼ぶ。これにより、左右両スピーカの間のみならず、例えば受聴者の真横、その他の任意の位置に音像を定位させることができる。しかし、この音像定位装置は、これをハードウェアで実現しようとすると膨大なハードウェア量を必要とし、ソフトウェアで実現しようとすると膨大な処理量が必要となるという問題がある。
【0006】
更に、頭部音響伝達関数の付与とクロストークキャンセル処理を畳み込み演算によって行うことにより音像を任意の位置に定位させる技術が知られている(例えば、「RSSについて」、ローランド(株)、日本音響学会誌48巻9号)。この技術によれば、ヘッドホン受聴のみならずスピーカ受聴においても、ダミーヘッドを用いて録音されたソースをヘッドホンで受聴する場合と同様の臨場感に優れた楽音が得られる。しかし、この技術では、非常に長い畳み込み段数が必要となり、ハードウエアの規模が大きくなるという問題がある。この問題を解消するために畳み込み段数を少なくすると頭部音響伝達関数の低域の精度が低下すると共に、クロストークキャンセルの精度が著しく低下するという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような従来技術の諸問題点を解消するために、本出願人は、シュレーダー方式のクロストークキャンセル理論を簡略化し、この簡略化されたクロストークキャンセル理論に基づいて処理された音信号と、上記一方のチャンネルの音信号に他方のチャンネルの音信号の逆相の信号を混合することにより得られた逆相信号とをミキシングし、以て音像を左右両スピーカの外側に定位させることによりステレオ音場を拡大するステレオ音像拡大装置及び音像制御装置を考えている(例えば特願平8−238591号参照)。
【0008】
これらの装置によれば、スピーカ受聴においては、クロストークキャンセル効果によって音像を任意の位置に定位させることができるのでステレオ音場が拡大される。しかし、ヘッドホン受聴においては、このような効果は得られない。これは、クロストークキャンセルでは、空間でクロストーク音が打ち消されることによってステレオ音場が拡大されるが、ヘッドホン受聴ではクロストーク音を打ち消すための空間が存在しないことに起因する。このヘッドホン受聴の場合、ステレオ音場が拡大されないばかりか、却って音質の変化のみが目立つという問題がある。
【0009】
一方、上述した頭部音響伝達関数を用いる装置では、ヘッドホン受聴の場合はステレオ音場が拡大された臨場感に優れた楽音が得られるが、スピーカ受聴の場合は、クロストーク音が受聴者の耳に入るためにステレオ音場は拡大されない。この問題を解消するためには、更にクロストークキャンセルを行えばよい。しかし、頭部音響伝達関数の付与とクロストークキャンセルとを同時に行うには、該装置をハードウェアで実現する場合は膨大なハードウェア量を必要とし、ソフトウェアで実現する場合は膨大な処理量が必要となるという新たな問題が発生する。上記簡略化されたクロストークキャンセル理論を採用したとしても、ヘッドホン受聴に対応するためには頭部音響伝達関数付与処理を行う必要があるので、この問題は完全には解決されない。
【0010】
ところで、このようなステレオ音場を拡大するための装置は、例えばデジタルシグナルプロセッサ(以下、「DSP」という)で構成することができる。この場合、スピーカ再生時は、クロストークキャンセル処理を主体としたプログラム及び係数のみをDSPへ転送し、ヘッドホン再生時は頭部音響伝達関数付与処理を主体としたプログラム及び係数のみをDSPへ転送するように構成することができる。この構成によれば、頭部音響伝達関数付与処理及びクロストークキャンセル処理を同時に行う必要がなくなるので、膨大な処理量を必要とせず、それぞれスピーカ再生及びヘッドホン再生に適した方法で処理を行うことができる。
【0011】
一般に、DSPはソフトウェアで動作するので、ステレオ音場を拡大する処理をDSPに行わせる場合、他のエフェクト(例えばコーラス、リバーブ等)処理と同時に行うことが考えられる。例えば、このエフェクト処理の後にステレオ音場拡大処理を行うといった具合である。ところが、この場合、エフェクト処理は、スピーカ再生の場合とヘッドホン再生の場合とで同じ処理でよいのにも拘わらず、ステレオ音場拡大処理がヘッドホン再生の場合とスピーカ再生の場合とで異なる処理を必要とするたため、入れ替える必要のないエフェクト処理用のプログラムまで同時に入れ替えざるを得ない。この入れ替えの間は音がミュートされるので、プログラムの入れ替えはなるべくなら行わない方が望ましい。また、プログラムは係数に比べて膨大な量であるため、係数を転送する場合に比べて多くの転送時間を必要とする。
【0012】
このようにステレオ音場拡大処理のためのプログラムをヘッドホン再生の場合とスピーカ再生の場合とで入れ替えることは問題が多い。従って、DSPによってステレオ音場拡大処理を行うために、簡潔な構成で、プログラムを入れ替えることなく、スピーカ再生及びヘッドホン再生の切り換えができる方法が望まれている。
【0013】
また、従来、モノラル音をステレオ化する手法として、パンニングを利用する方法が知られている。この方法によれば、2チャンネルのスピーカ再生の場合、左右両スピーカの間の任意の位置に音像を定位させることができる。しかしながら、この場合、音場が形成される範囲は左右両スピーカの間に限られる。
【0014】
一方、上述した特願平8−238591号に記載のステレオ音像拡大装置及び音像制御装置では、左右端にパンしてある音を横方向へ定位させることで、ステレオ拡大を行っている。これらの装置では、多種の楽音が適当なパンをつけてミキシングされたような入力ソースに対して、非常に大きなステレオ拡大効果が発揮される。
【0015】
また、上記とは別に、直接音に残響音を付加する装置として、リバーブ装置が一般に知られている。このリバーブ装置によれば、直接音に残響音が付加されるので、実音場で発生する反射、残響を模擬することが可能である。
【0016】
例えば、単一の楽器音を出力するソースとして、電子ピアノが知られている。この電子ピアノで発生される音には、一般に音程に応じたパンが付されている。即ち、低い音程の音は左側から、高い音程の音は右側から聴こえるようにパンニングされている。これは、アコースティックピアノを弾いたときの直接音の定位が、横方向では、大まかには鍵盤の押鍵された位置に対応していることを模擬したものである。
【0017】
このようにパンニングされた電子ピアノの音に対し、ステレオ拡大処理を行うと横方向に拡がった音場が形成され、低い音程の音と高い音程の音が横方向から聴こえるようになる。ところが、アコースティックピアノの直接音によれば、横方向にはあまり拡がらず、縦(奥行き)方向に拡がる音場が形成される傾向がある。従って、ステレオ拡大処理によって形成される音場は、アコースティックピアノの直接音によって形成される音場とは異質のものとなる。これに対し、パンニングのみの定位ではアコースティックピアノの持つ音場に遠く及ばない貧弱な音場となってしまう。このように、パンニングのみで形成される音場も、ステレオ拡大により形成される音場も、どちらもアコースティックピアノの音場とは、かけ離れているという欠点がある。
【0018】
一方、アコースティックピアノによって形成される音場を模擬するためにリバーブが利用される。これは、部屋の反射音、残響音等を直接音に混ぜることによって実現されている。残響レベル、残響時間を変えることによって、ルーム、ステージ、ホール等の音場を模擬することが可能である。この方法によれば、直接音だけでは貧弱だった音場感を向上させることができる。しかし、リバーブ音は、ステレオリバーブであっても、2チャンネルのスピーカ間に限られた音場であり、実際のホール等の音場で感じられる横方向からの反射を模擬するまでには至っていない。
【0019】
また、上記特願平8−238591号に記載のステレオ音像拡大装置及び音像制御装置によって音場を拡大することができるが、これらの装置は2チャンネルスピーカ再生のみに対応しており、ヘッドホン再生には対応していない。
【0020】
そこで、本発明の第1の目的は、簡単な構成であるにも拘わらずスピーカ再生及びヘッドホン再生を切り換えることが可能であり、且つ何れの場合もステレオ音場を拡大することのできるステレオ拡大装置を提供することにある。
【0021】
また、本発明の第2の目的は、2チャンネルのスピーカ再生であるとヘッドホン再生であるとに拘わらず、残響音は横方向から聴こえ、直接音は横方向に広がり過ぎないように調整できる音場拡大装置を提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の態様に係るステレオ拡大装置は、上記第1の目的を達成するために、図1に示すように、
スピーカ再生又はヘッドホン再生の何れを行うかを選択する選択手段と、
該選択手段による選択に応じてスピーカ再生用の係数又はヘッドホン再生用の係数の何れかを出力する係数出力手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合にクロストークキャンセルを行うための処理部が形成され、ヘッドホン再生用である場合に頭部音響伝達関数付与を行うための処理部が形成される信号処理手段であって、外部からの2チャンネルのステレオ入力信号を該処理部で処理することにより2チャンネルのステレオ中間信号を生成する信号処理手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合に、一方のチャンネルのステレオ入力信号に他方のチャンネルのステレオ入力信号の位相を反転した信号を加算することにより2チャンネルのステレオ逆相信号を生成し、ヘッドホン再生用である場合に該2チャンネルのステレオ逆相信号の生成を抑止する逆相信号生成手段と、
該信号処理手段からの2チャンネルのステレオ中間信号と該逆相信号生成手段からの2チャンネルのステレオ逆相信号とを各チャンネル毎にミキシングし、以て2チャンネルのステレオ出力信号を生成するミキシング手段、とを備えている。
【0023】
ここで、スピーカとは、電気信号を耳に聞こえる音に変換する装置のうち、外部に広く音を放出するものをいう。一方、ヘッドホンとは、上記装置のうち、耳の近くで鳴り、すぐそばにある鼓膜に向けて音を出す機能を有するものをいう。ヘッドホンには、密閉型及びオープンエア型の他に、インナーイア型(イアホンタイプ)が含まれる。
【0024】
前記選択手段はヘッドホンに接続されたプラグで構成し、前記係数出力手段は、このプラグが挿入されているかどうかに応じて、スピーカ再生用の係数又はヘッドホン再生用の係数の何れかを出力するように構成できる。例えば、上記プラグが本ステレオ拡大装置に設けられたヘッドホン端子(ジャック)に挿入されていない場合は、係数出力手段は、スピーカ再生用の係数を出力し、そうでない場合はヘッドホン再生用の係数を出力するように構成できる。この場合、プラグの挿入の有無は、例えばプラグの挿入によりオンにされるマイクロスイッチ、プラグの挿入により遮光される光検出器等を用いることができる。この構成によれば、ヘッドホン再生又はスピーカ再生の何れかを選択するための操作子、例えば切換スイッチが不要となる。なお、切換スイッチによってヘッドホン再生又はスピーカ再生の何れかを選択するように構成できることは勿論である。
【0025】
上記係数出力手段は、選択手段による選択に応じて、例えばメモリに予め記憶されているスピーカ再生用の係数又はヘッドホン再生用の係数の何れかを選択し、信号処理手段及び逆相信号生成手段に供給する。スピーカ再生用の係数及びヘッドホン再生用の係数には、それぞれ、増幅器の増幅率を規定する増幅係数、遅延器の遅延量を規定する遅延係数及びフィルタの特性を規定するフィルタ係数が含まれる。
【0026】
上記増幅係数、遅延係数及びフィルタ係数にはゼロが含まれる。ここで、係数がゼロであるということは、次のような意味を有する。例えば、増幅係数がゼロであるということは、該増幅係数に係る増幅器の出力信号がゼロにされ、該増幅器の後段の回路は、場合によっては存在しないことと等価であることを意味する。また、遅延係数がゼロであることは、該遅延器の遅延時間はゼロ、つまり該遅延器は存在しないのと等価であることを意味する。更に、フィルタ係数を形成する増幅係数及び遅延係数も上記と同様の意味を有する。従って、信号処理手段を構成する増幅器、遅延器等のうち所定のものにゼロの係数を供給することにより、この信号処理手段の構成、換言すれば信号処理手段の機能を変更することができる。
【0027】
上記信号処理手段は、係数出力手段からスピーカ再生用の係数を受け取ることにより、クロストークキャンセル処理を行う構成に変更される。この変更された構成でクロストークキャンセル処理が行われることにより、スピーカ再生において、音像が耳元に存在するような音場が得られる。一方、該信号処理手段は、係数出力手段からヘッドホン再生用の係数を受け取ることにより、頭部音響伝達関数付与処理を行う構成に変更される。この変更された構成で頭部音響伝達関数付与処理が行われることにより、ヘッドホン再生において、音像がヘッドホンの外まで拡大された音場が得られる。
【0028】
また、上記逆相信号生成手段は、係数出力手段からスピーカ再生用の係数を受け取ることにより、2チャンネルの逆相信号を生成する構成に変更される。この変更された構成により、スピーカ再生時に、スピーカの外側まで広楽音ルート音像が得られる。一方、係数出力手段からヘッドホン再生用の係数を受け取ることにより、2チャンネルの逆相信号の生成を抑止する構成、例えば該逆相信号生成手段からゼロの信号を出力する構成に変更される。この変更により、ヘッドホン再生時は、該逆相信号生成手段が存在しないのと等価な構成となる。
【0029】
上記ミキシング手段は、上記信号処理手段の出力と逆相信号生成手段の出力とをミキシングする。これにより、スピーカ再生時に、音像を受聴者の真横方向から正面方向までの広い方向であって、且つ受聴者から離れた位置に定位させることができる。なお、ヘッドホン再生時は、このミキシング手段には、逆相信号生成手段から逆相信号が供給されない(例えばゼロが供給される)。従って、ミキシング手段は、信号処理手段からの頭部音響伝達関数が付与された信号をそのまま出力する。
【0030】
また、本ステレオ拡大装置は、前記ミキシング手段からのステレオ出力信号を補正する音質補正手段を更に備えて構成できる。この音質補正手段は、例えばローパスフィルタで構成できる。この音質補正手段がない場合は、逆相信号を混入することによるモノラル成分の周波数特性の乱れが生じる。より具体的には、モノラル成分が櫛形フィルタを形成し、これによって低域の減少が目立つ。このため、ステレオ拡大効果を大きくするに連れて(逆相信号の増幅係数が大きくなるに連れて)音質が軽くなるように聞こえる。この音質補正手段は、ステレオ拡大効果を大きくするに連れてローパスフィルタのかかり具合を大きくすることにより上記現象を抑えるように作用する。なお、この音質補正手段の詳細は、上掲した特願平8−238591号に記載されているので参照されたい。
【0031】
上記信号処理手段、逆相信号生成手段、ミキシング手段及び音質補正手段は、DSPによるソフトウェア処理で構成することができる。なお、これら各手段は、中央処理装置(以下、「CPU」という)によるソフトウェア処理で実現してもよいし、ハードウェア回路で実現してもよい。
【0032】
以上のように、このステレオ拡大装置によれば、選択手段によってスピーカ再生が選択された時は、スピーカ再生用の係数が信号処理手段と逆相信号生成手段へ転送される。これにより、信号処理手段ではクロストークキャンセル処理が実行される。このクロストークキャンセル処理された右チャンネルの信号に基づく音は受聴者の右耳のみに入射し、左チャンネルの信号に基づく音は左耳のみに入射する。即ち、恰もヘッドホン受聴のような状態が作り出される。このクロストークキャンセル処理された信号に、逆相信号生成手段によって生成された信号をミキシング手段によってミキシングした信号が最終的なステレオ出力信号となる。このステレオ出力信号に基づきスピーカ再生すれば、ステレオ音場が拡大される。
【0033】
一方、選択手段によってヘッドホン再生が選択された時は、ヘッドホン再生用の係数が信号処理手段と逆相信号生成手段へ転送される。これにより、信号処理手段によって頭部音響伝達関数付与処理が実行され、右チャンネルに入力された信号に右方向の頭部音響伝達関数が付与され、左チャンネルに入力された信号に左方向の頭部音響伝達関数が付与される。この際、逆相信号生成手段の出力は抑止されるので信号処理手段からの信号はミキシング手段を通過し、ステレオ出力信号として外部に出力される。これにより、ヘッドホン再生で、ステレオ音場がヘッドホンの外へ拡大される。
【0034】
本発明の第2の態様に係る音場拡大装置は、上記第2の目的を達成するために、図17に示すように、
外部からの2チャンネルのステレオ入力信号に基づき残響音信号を生成する残響音生成手段と、
該残響音生成手段からの残響音信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第1のミキシング手段と、
該第1のミキシング手段からの出力信号に対してステレオ拡大処理を施すステレオ拡大手段と、
該ステレオ拡大手段からの出力信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第2のミキシング手段、とを備えている。
【0035】
前記残響音生成手段は、前記2チャンネルのステレオ入力信号に基づきステレオの残響音信号を生成するように構成できる。これにより、残響音もステレオで発生されるので、実際の音場に近い音場を形成することができる。
【0036】
また、前記第1のミキシング手段における前記2チャンネルのステレオ入力信号と前記残響音信号とのミキシング比率が、前記第2のミキシング手段における前記2チャンネルのステレオ入力信号と前記ステレオ拡大手段からの出力信号とのミキシング比率に連動して変化するように構成できる。この構成によれば、直接音に対するステレオ拡大効果の深さを調整することができる。
【0037】
また、前記ステレオ拡大手段は、
スピーカ再生又はヘッドホン再生の何れを行うかを選択する選択手段と、
該選択手段による選択に応じてスピーカ再生用の係数又はヘッドホン再生用の係数の何れかを出力する係数出力手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合にクロストークキャンセルを行うための処理部が形成され、ヘッドホン再生用である場合に頭部音響伝達関数付与を行うための処理部が形成される信号処理手段であって、外部からの2チャンネルのステレオ入力信号を該処理部で処理することにより2チャンネルのステレオ中間信号を生成する信号処理手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合に、一方のチャンネルのステレオ入力信号に他方のチャンネルのステレオ入力信号の位相を反転した信号を加算することにより2チャンネルのステレオ逆相信号を生成し、ヘッドホン再生用である場合に該2チャンネルのステレオ逆相信号の生成を抑止する逆相信号生成手段と、
該信号処理手段からの2チャンネルのステレオ中間信号と該逆相信号生成手段からの2チャンネルのステレオ逆相信号とを各チャンネル毎にミキシングし、以て2チャンネルのステレオ出力信号を生成するミキシング手段、とを備えて構成できる。
【0038】
即ち、上記ステレオ拡大手段として、上述した本発明の第1の態様に係るステレオ拡大装置を用いることができる。この構成により、上述した本発明の第1の態様に係るステレオ拡大装置が有する種々の効果を奏する。
【0039】
また、前記残響音生成手段、第1のミキシング手段、ステレオ拡大手段及び第2のミキシング手段はデジタルシグナルプロセッサの処理により構成することができる。なお、これら各手段は、CPUによるソフトウェア処理で実現してもよいし、ハードウェア回路で実現してもよい。
【0040】
本発明の第3の態様に係る音場拡大装置は、上記第2の目的を達成するために、図22に示すように、
外部からの2チャンネルのステレオ入力信号に基づき残響音信号を生成する残響音生成手段と、
該残響音生成手段からの残響音信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第1のミキシング手段と、
該第1のミキシング手段からの出力信号に対して、頭部音響伝達関数を付与する頭部音響伝達関数付与手段と、
該第1のミキシング手段からの出力信号と、該頭部音響伝達関数付与手段からの出力信号をミキシングする第2のミキシング手段と、
該第2のミキシング手段からの出力信号に対してスピーカ再生用のステレオ拡大処理を施すスピーカ再生用ステレオ拡大手段と、
該第2のミキシング手段からの出力信号と、該スピーカ再生用ステレオ拡大手段からの出力信号とをミキシングする第3のミキシング手段と、
該第3のミキシング手段からの出力信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第4のミキシング手段と、
ヘッドホン再生かスピーカ再生かに応じて、該残響音生成手段、該第2のミキシング手段及び該第3のミキシング手段に、それぞれ係数を転送する係数出力手段、とを備えている。
【0041】
この音場拡大装置によれば、スピーカ再生時は、クロストークキャンセル処理によって拡大された音場と、頭部音響伝達関数が付与された信号にクロストークキャンセル処理を行ったことによって拡大された音場が、適度な割合でミキシングされることにより、横方向で音が鳴っている感じを強調させることができる。また、ヘッドホン再生時は、クロストークキャンセル処理を行わないようにミキシングすることにより、頭部音響伝達関数のみが付与された信号が生成されるので、耳元にこびりつかない、自然な音場感が得られる。
【0042】
前記第1のミキシング手段における前記ステレオ入力信号と前記残響音信号とのミキシング比率が、前記第4のミキシング手段における前記ステレオ入力信号と前記第3のミキシング手段からの出力信号とのミキシング比率に連動して変化するように構成できる。この構成によれば、直接音に対するステレオ拡大効果の深さを制御できるので、直接音が横にいき過ぎるのを抑えることができる。
【0043】
また、前記頭部音響伝達関数付与手段は、前記第1のミキシング手段からの出力信号に対し、少なくとも2方向に対応する頭部音響伝達関数を付与する処理を行い、各処理結果をミキシングして出力するように構成できる。
【0044】
また、ヘッドホンを接続するヘッドホン接続機構を更に有し、前記係数出力手段は、該ヘッドホン接続機構にヘッドホンが接続されているかどうかに応じて、ヘッドホン再生用又はスピーカ再生用の係数を前記残響音生成手段、前記第2のミキシング手段及び前記第3のミキシング手段に転送するように構成できる。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のステレオ拡大装置及び音場拡大装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0046】
(実施の形態1)
この実施の形態1はステレオ拡大装置に関する。このステレオ拡大装置の主な機能は、DSPによるソフトウェア処理により実現されている。より具体的には、図1に示されている信号処理手段3、逆相信号生成手段4、ミキシング手段5及び音質補正手段6はDSPによるソフトウェア処理で実現されている。
【0047】
先ず、信号処理手段3の一例について、図2を参照しながら説明する。この信号処理手段3では、ステレオ入力信号(右チャンネル入力信号Rinと左チャンネル入力信号Linとで構成されている。以下においても同じ)に対するクロストークキャンセル処理又は頭部音響伝達関数付与処理の何れかが行われる。いずれの処理が行われるかは、この信号処理手段3に送られてくる増幅係数A、遅延係数n及びフィルタ係数B〜Lによって決定される。
【0048】
この信号処理手段3は、増幅器10及び20、遅延器11及び21、フィルタ12及び22、加算器13及び23並びにフィルタ14及び24により構成されている。増幅器10及び20は、入力信号に係数Aを乗算する乗算器で構成されている。遅延器11及び21は、入力信号を遅延係数nに応じて遅延させる遅延器で構成されている。フィルタ12及び22は、入力信号をフィルタ係数B、C及びDによって決定されるフィルタ特性でフィルタリングする一次フィルタで構成されている。加算器13及び23は、入力信号とフィルタ12及び22からの信号とを演算する演算器で構成されている。更に、フィルタ14及び24は、入力信号をフィルタ係数E、F、G、H、I、J、K及びLによって決定されるフィルタ特性でフィルタリングする高次フィルタで構成されている。
【0049】
これら各構成要素により実現される機能は、スピーカ再生が行われるかヘッドホン再生が行われるか、即ち、この信号処理手段3でクロストークキャンセル処理が行われるか頭部音響伝達関数付与処理が行われるかによって異なる。以下、場合を分けて説明する。
【0050】
先ず、スピーカ再生が行われる場合、つまり信号処理手段3がクロストークキャンセラーとして機能する場合について説明する。この場合に行われるクロストークキャンセル処理については、上述した特願平8−238591号に詳細に説明してあるので、ここでは、簡単な説明にとどまる。
【0051】
図2において、増幅器10、遅延器11及びフィルタ12で成るブロックは、右スピーカから受聴者の左耳に到達するクロストーク音を模擬する。増幅器10は、右チャンネル入力信号Rinに係数Aを乗算することにより、クロストーク音の音量を決定する。この係数Aは、クロストークキャンセルを行うために、負の値となる。遅延器11は、増幅器10からの信号を遅延係数nに対応する時間だけ遅延させることにより、直接音に対するクロストーク音の時間遅れを模擬する。フィルタ12は、遅延器12からの信号をフィルタ係数B、C及びDにより決定されるフィルタ特性でフィルタリングすることにより、右スピーカからのクロストーク音の受聴者の頭による回折を模擬する。
【0052】
更に、フィルタ14は、加算器13からの信号をフィルタ係数E、F、G、H、I、J、K及びLにより決定されるフィルタ特性でフィルタリングする。フィルタ係数E、F、G、H、I、J、K及びLは、シュレーダーのクロストークキャンセル理論に基づき、係数A並びにフィルタ係数B、C及びDにより導かれる値である。今、A=a、B=b、C=c、D=dとすると、フィルタ係数E、F、G、H、I、J、K及びLはそれぞれ、E=1、F=−2d、G=d2、H=2d、I=−d2、J=a2b2、K=2a2bc及びL=a2c2で表すことができる。
【0053】
同様に、増幅器20、遅延器21及びフィルタ22で成るブロックは、左スピーカから受聴者の右耳に到達するクロストーク音を模擬する。増幅器20は、左チャンネル入力信号Linに係数Aを乗算することにより、クロストーク音の音量を決定する。遅延器21は、増幅器20からの信号を遅延係数nに対応する時間だけ遅延させることにより、直接音に対するクロストーク音の時間遅れを模擬する。フィルタ22は、遅延器22からの信号をフィルタ係数B、C及びDにより決定されるフィルタ特性でフィルタリングすることにより、左スピーカからのクロストーク音の受聴者の頭による回折を模擬する。更に、フィルタ24は、加算器23からの信号をフィルタ係数E、F、G、H、I、J、K及びLにより決定されるフィルタ特性でフィルタリングする。これら係数A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K及びLは、上述したものと同じである。
【0054】
次に、ヘッドホン再生が行われる場合、つまり信号処理手段3で頭部音響伝達関数付与処理が行われる場合について説明する。図3は、頭部音響伝達関数を説明するための図である。音源で発生された音は、受聴者(ダミーヘッド)の頭部を含む空間の影響を受けて受聴者の両耳(厳密には鼓膜)に入射される。このことは、音源で発生された音は頭部音響伝達関数によって処理されて受聴者の両耳に入射されると考えることができる。
【0055】
以下においては、図3に示すように、音源から受聴者の左耳に至る伝達系を頭部音響伝達関数Hm、音源から受聴者の右耳に至る伝達系を頭部音響伝達関数Hsで表す。また、この実施の形態1では、図4に示すような、真横方向の頭部音響伝達関数Hm及びHsを用いて説明する。
【0056】
先ず、頭部音響伝達関数を付与するための構成の最も簡単な例として、モノラル入力信号に頭部音響伝達関数を付与する場合について図5を参照しながら説明する。右チャンネル中間信号Rout1は、モノラル入力信号Minを頭部音響伝達関数Hmを用いて処理する、例えばモノラル入力信号Minに頭部音響伝達関数Hmを乗算することにより生成される。同様に、左チャンネル出力信号Lout1は、モノラル入力信号Minを頭部音響伝達関数Hsを用いて処理する、例えばモノラル入力信号Minに頭部音響伝達関数Hsを乗算することにより生成される。従って、頭部音響伝達関数Hm及びHsが、図4に示すような真横方向の頭部音響伝達関数であれば、上記右チャンネル中間信号Rout1及び左チャンネル中間信号Lout1をヘッドホンで受聴することにより、モノラル入力信号Minに基づく音が受聴者の右側真横方向に頭外定位して聞こえる。
【0057】
次に、ステレオ入力信号に頭部音響伝達関数を付与する場合について、図6を参照しながら説明する。右チャンネル中間信号Rout1は、右チャンネル入力信号Rinを頭部音響伝達関数Hmを用いて処理した結果と、左チャンネル入力信号Linを頭部音響伝達関数Hsを用いて処理した結果とを加算することにより生成される。同様に、左チャンネル中間信号Lout1は、右チャンネル入力信号Rinを頭部音響伝達関数Hsを用いて処理した結果と、左チャンネル入力信号Linを頭部音響伝達関数Hmを用いて処理した結果とを加算することにより生成される。
【0058】
ここで、頭部音響伝達関数Hm及びHsは、図4に示すような真横方向の頭部音響伝達関数とする。今、仮に右チャンネル入力信号Rinのみが入力され、左チャンネル入力信号Linは入力されない(左チャンネル入力信号Linがゼロである)とすると、図6に示した構成は図5に示した構成と等価になる。従って、上記右チャンネル中間信号Rout1及び左チャンネル中間信号Lout1をヘッドホンで受聴すれば、右チャンネル入力信号Rinに基づく音が受聴者の右側真横方向に頭外定位して聞こえる。
【0059】
上記とは逆に、仮に左チャンネル入力信号Linのみが入力され、右チャンネル入力信号Rinは入力されない(右チャンネル入力信号Rinがゼロである)とすると、図6に示した構成は、図5において頭部音響伝達関数Hmと頭部音響伝達関数Hsとを入れ替えた構成と等価になる。従って、上記右チャンネル中間信号Rout1及び左チャンネル中間信号Lout1をヘッドホンで受聴すれば、左チャンネル入力信号Linに基づく音が受聴者の左側真横方向に頭外定位して聞こえる。このように、ステレオ入力信号にパン情報(上述した例では真横方向)が含まれていると、ヘッドホン受聴において、このステレオ入力信号に基づく音が左右方向へ頭外定位するので、ステレオ拡大効果が得られる。なお、ステレオ入力信号にパン情報が含まれていない場合は、右チャンネル入力信号Rin及び左チャンネル入力信号Linに基づく音は双方とも受聴者の正面に定位するので、ステレオ拡大効果は得られない。
【0060】
上記図6に示した構成は、図7に示すように変形できる。この図7に示した構成における入出力の関係は、図6に示した構成のそれと全く等価である。ここで、Hmは真横方向の頭部音響伝達関数の音源側の特性で、Hs/Hmは、真横方向の頭部音響伝達関数の音源側の特性を「1」としたときの、音源とは逆側の真横方向の頭部音響伝達関数の特性である。HmとHsとでは、周波数特性、遅延量及びゲインがそれぞれ異なっている。従って、HsとHmの差がわかっていれば、Hs/Hmは、フィルタ、増幅器及び遅延器によって構成できる。また、Hmはフィルタによって構成できる。従って、頭部音響伝達関数を付与するための構成は、図8のように表すことができる。
【0061】
即ち、右チャンネル入力信号Rinは、加算器13に供給されると共に、増幅器10、遅延器11及びフィルタ12で順次処理されて加算器23に供給される。同様に、左チャンネル入力信号Linは、加算器23に供給されると共に、増幅器20、遅延器21及びフィルタ22で順次処理されて加算器13に供給される。加算器13の出力は、フィルタ14でフィルタ処理が行われた後に、右ステレオ中間信号Rout1として外部に出力される。同様に、加算器23の出力は、フィルタ24でフィルタ処理が行われた後に、左ステレオ中間信号Lout1として外部に出力される。
【0062】
この図8の構成を更に詳細に示すと図9のようになる。図9において、増幅器10及び20は、HmとHsとの音量レベル差を模擬する。遅延器11及び21は、HmとHsとの時間差を模擬する。また、フィルタ12及び22は、HmとHsとの周波数特性の差を模擬する。更に、フィルタ14及び24は、Hmの特性を模擬する。
【0063】
ところで、この図9に示した構成を、図2に示した構成と比較すると、両者はフィルタ14及び24の構成を除けば同じである。従って、図2に示したフィルタ14及び24のフィルタ係数J、K及びLをゼロとすれば、両者は全く同じ構成になる。このことは、図2に示した信号処理手段3は、その構成を変更することなく係数だけを入れ替えることにより、クロストークキャンセル処理又は頭部音響伝達関数付与処理の何れかを行わせることができることを意味する。
【0064】
そこで、本発明の実施の形態1のステレオ拡大装置では、信号処理手段3に供給する係数を変更することにより、該信号処理手段3にスピーカ再生のためのクロストークキャンセル処理又はヘッドホン再生のための頭部音響伝達関数付与処理の何れかを行わせるようになっている。
【0065】
次に、逆相信号生成手段4の例について、図10を参照しながら説明する。逆相信号生成手段4は、増幅器30及び40、遅延器31及び41並びに加算器32及び42で構成されている。この逆相信号生成手段4は、スピーカ再生の場合にのみアクティブにされる。この場合の増幅器30及び40のゲインをe、遅延器31及び41の遅延量をmとする。mはアナログ信号を48KHzでサンプリングしてデジタル信号を生成する場合におけるサンプリングポイントの数であり、例えばm=6程度とすることができる。一方、ヘッドホン再生の場合は、上記ゲインeがゼロにされる。従って、この場合は逆相信号生成手段4から出力される右チャンネル逆相信号Rout2及び左チャンネル出力信号Lout2は、何れもゼロになる。なお、この逆相信号生成手段4については、上述した特願平8−238591号に詳細に説明してあるので参照されたい。
【0066】
次に、ミキシング手段5の例について図11を参照しながら説明する。ミキシング手段5は、右チャンネル用の加算器50及び左チャンネル用の加算器51で構成されている。加算器50は、信号処理手段3からの右チャンネル中間信号Rout1と逆相信号生成手段4からの右チャンネル逆相信号Rout2とを加算し、結果を右チャンネル出力信号Routとして出力する。同様に、加算器51は、信号処理手段3からの左チャンネル中間信号Lout1と逆相信号生成手段4からの左チャンネル逆相信号Lout2とを加算し、結果を左チャンネル出力信号Loutとして出力する。
【0067】
このミキシング手段5におけるミキシング比率は、信号処理手段3の増幅器10及び20のゲインa及び逆相信号生成手段4の増幅器30及び40のゲインeの各大きさによって調整される。即ち、ゲインaの大きさによってクロストークキャンセル量が決定され、ゲインeによって逆相信号の混合量が決定される。このミキシング比率によって種々の音場の形成が可能となる。かかる音場の幾つかの例が、上述した特願平8−238591号に詳細に説明してあるので参照されたい。このミキシング手段5から出力されるステレオ出力信号(右チャンネル出力信号Routと左チャンネル出力信号Loutとで構成される。以下においても同じ)をスピーカ又はヘッドホンに供給すれば、ステレオ音場が拡大された楽音が得られる。
【0068】
次に、音質補正手段6の例について図12を参照しながら説明する。この音質補正手段6は、増幅器60及び70、ローパスフィルタ61及び71、増幅器62及び72並びに加算器63及び73で構成されている。ミキシング手段5を構成する加算器50からの出力信号は、増幅器60においてゲイン(1−e)で増幅され、加算器63に供給される。また、上記加算器50からの出力信号は、ローパスフィルタ61でフィルタリングされ、増幅器62に供給される。そして、この増幅器62においてゲインeで増幅され、加算器63に供給される。加算器63においては、増幅器60からの出力信号と増幅器62からの出力信号とが加算され、この加算結果が右チャンネル出力信号Routとして外部に出力される。
【0069】
同様に、ミキシング手段5を構成する加算器51からの出力信号は、増幅器70においてゲイン(1−e)で増幅され、加算器73に供給される。また、上記加算器51からの出力信号は、ローパスフィルタ71でフィルタリングされ、増幅器72に供給される。そして、この増幅器72においてゲインeで増幅され、加算器73に供給される。加算器73においては、増幅器70からの出力信号と増幅器72からの出力信号とが加算され、この加算結果が左チャンネル出力信号Loutとして外部に出力される。
【0070】
この音質補正手段6におけるゲインeは、上述した逆相信号生成手段4におけるゲインeと同じものであり、ステレオ拡大効果の大きさを調整するために使用される。また、h〜jはローパスフィルタ61及び71のフィルタ係数である。このローパスフィルタ61及び71は、逆相信号混入によるモノラル成分の周波数特性の乱れ、より具体的にはモノラル成分が櫛形フィルタを形成し、特に低域の減少が目立つのを補正するために使用される。
【0071】
即ち、ステレオ拡大効果を大きくするに連れて(eの値が大きくなるに連れて)音質が軽くなるように聞こえるので、ステレオ拡大効果を大きくするに連れてローパスフィルタのかかり具合を大きくして音質補正をすることにより上記現象を抑えるようにしている。この音質補正手段6についても、上述した特願平8−238591号に詳細に説明してあるので参照されたい。
【0072】
次に、上述したステレオ拡大装置を利用したステレオ拡大システムの例について、図13〜図16を参照しながら説明する。
【0073】
図14は、ステレオ拡大システムの外観斜視図である。このステレオ拡大システムの操作パネル81には、ライン入力端子82、ライン出力端子83、ヘッドホン端子84並びにボリューム85a及び85bが設けられている。このステレオ拡大システムは、右チャンネル入力信号Rin及び左チャンネル入力信号Linをライン入力端子82から入力し、これにステレオ拡大処理を加えた後に、右チャンネル出力信号Rout及び左チャンネル出力信号Loutとしてライン出力端子83から出力する。
【0074】
操作パネル81に設けられたボリューム85aは、クロストークキャンセル量を指定するために使用される。このボリューム85aからの信号によりゲインaが決定される。また、ボリューム85bは、逆相信号の混合量を指定するために使用される。このボリューム85bからの信号によりゲインeが決定される。
【0075】
図13は、ステレオ拡大システムの電気回路の構成を示すブロック図である。このステレオ拡大システムは、操作パネル81(図示しないボリューム85a及び85bを含む)、ライン入力端子82、ライン出力端子83、ヘッドホン端子84、CPU86、メモリ87、A/D変換器88a、D/A変換器88b及びDSP89により構成されている。
【0076】
CPU86は、メモリ87に記憶されているプログラムに従って、このステレオ拡大システムの全体を制御する。このCPU86が行う具体的な処理については、以下において必要な都度説明する。このCPU86に接続されているメモリ87は、上記プログラムの他に、ヘッドホン再生用の係数、スピーカ再生用の係数及びその他の各種データを記憶している。CPU86は、このメモリ87から係数を読み出して、制御データとしてDSP89に送る。これにより、上述したように、DSP89は、頭部音響伝達関数付与処理又はクロストークキャンセル処理及び逆相信号生成処理の何れかを行うことになる。
【0077】
また、CPU86は、ボリューム85a及びボリューム85bの設定状態を示す信号を受け取り、これらをゲインa及びゲインeを示す値に変換し、制御データとしてDSP89に供給する。DSP89は、上記フィルタ係数及びゲインa及びゲインeを示す値に基づいて、上述したクロストークキャンセル処理及び逆相信号混合処理を行う。
【0078】
また、このCPU86に接続されているヘッドホン端子84には、プラグ挿入の有無を検出する検出機構(図示しない)が備えられている。この検出機構としては、例えばプラグの挿入によりオンにされるマイクロスイッチ、プラグの挿入により遮光される光検出器等を用いることができる。この検出機構で検出されたプラグ挿入の有無を示す検出信号はCPU86に送られる。CPU86は、この検出信号を調べることによりプラグが挿入されていることを判断した場合はヘッドホン再生用の係数をDSP89に送り、プラグが挿入されていないことを判断した場合はスピーカ再生用の係数をDSP89に送る。
【0079】
なお、この実施の形態1では、プラグの挿入の有無により再生モード、つまりヘッドホン再生とスピーカ再生とを切り換えるように構成しているが、再生モードスイッチを設け、この再生モードスイッチにより再生モードを切り換えるように構成してもよい。更に、自動と手動とを切り換える切換スイッチを設け、この切換スイッチにより自動が選択された場合はプラグの挿入の有無により再生モードを切り換え、手動が選択された場合は再生モードスイッチにより再生モードを切り換えるように構成できる。この場合、切換スイッチとして、自動→スピーカ→ヘッドホン→自動→・・・と巡回するスイッチを用いることができる。この構成によれば、本ステレオ拡大システムのヘッドホン端子84を用いることなく、後段に接続される増幅器のヘッドホン端子が使用される場合も本発明によるステレオ拡大効果が得られる。
【0080】
A/D変換器88aは、アナログ信号である右チャンネル入力信号Rin及び左チャンネル入力信号Linをデジタルデータに変換する。このデジタルデータは、DSP89に供給される。DSP89は、CPU86からの制御データに従って、上述したようなクロストークキャンセル処理及び逆相信号混合処理、又は頭部音響伝達関数付与処理を行う。そして、処理済みのデジタルデータをD/A変換器88bに送る。D/A変換器88bは受け取ったデジタルデータをアナログデータに変換し、右チャンネル出力信号Rout及び左チャンネル出力信号Loutとして出力する。なお、図中には示されていないが、D/A変換器88bからの右チャンネル出力信号Rout及び左チャンネル出力信号Loutは、ヘッドホン端子84にプラグが接続されている場合は、このヘッドホン端子84からヘッドホンに供給され、そうでない場合は、ライン出力端子83からスピーカに供給される。
【0081】
なお、本ステレオ拡大システムに入力される右チャンネル入力信号Rin及び左チャンネル入力信号Linはデジタル信号であってもよい。この場合は、A/D変換器88aは不要である。また、本ステレオ拡大システムから出力される右チャンネル出力信号Rout及び左チャンネル出力信号Loutはデジタル信号であってもよい。この場合は、D/A変換器88bは不要である。
【0082】
図15は、本発明のステレオ拡大装置が適用されたスピーカ内蔵型のシングルキーボードの例を示す。同様に、図16は、本発明のステレオ拡大装置が適用された電子ピアノの例を示す。これらの装置の場合は、例えばリバーブやコーラスといったエフェクトを実現するためにDSPを搭載している場合が多い。従って、このDSPでエフェクトの処理とステレオ拡大処理とを行うように構成すれば、コストを増加させることなくステレオ拡大された楽音を得ることができる。なお、上記シングルキーボード及び電子ピアノにおけるスピーカは外付けすることもできる。
【0083】
本発明のステレオ拡大装置は、上記以外に、音源モジュール、デジタルマルチエフェクタ、電子ピアノ、シンセサイザ、ゲーム機、テレビジョン、コンピュータ用のサウンドボード、DSP内蔵スピーカ、ミキサー等といったDSPを搭載したオーディオ関連機器に、簡単且つ低コストで適用することができる。
【0084】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。この実施の形態2は音場拡大装置に関する。この音場拡大装置の主な機能は、DSPによるソフトウェア処理により実現されている。より具体的には、図18に示されている残響音生成手段100、第1のミキシング手段101、ステレオ拡大手段102及び第2のミキシング手段103はDSPによるソフトウェア処理で実現されている。
【0085】
先ず、本実施の形態2の音場拡大装置の全体的な構成を、図18に示したブロック図を参照しながら説明する。この音場拡大装置には、ステレオ入力信号が入力される。そして、これらの信号に対して所定の処理が行われた後に、ステレオ出力信号として出力される。
【0086】
図18において、第1のミキシング手段101は、増幅器110及び111並びに加算器112及び113により構成されている。増幅器110は右ステレオ入力信号Rinをゲインαで増幅する。この増幅器110からの出力信号は加算器112に供給される。加算器112は、増幅器110からの出力信号と残響音生成手段100からの残響音が付与された信号とを加算する。この加算器112からの出力信号は、右チャンネル用の信号として、ステレオ拡大手段102に供給される。
【0087】
同様に、増幅器111は左ステレオ入力信号Linをゲインαで増幅する。この増幅器111からの出力信号は加算器113に供給される。加算器113は、増幅器111からの出力信号と残響音生成手段100からの残響音が付与された信号とを加算する。この加算器113からの出力信号は、左チャンネル用の信号として、ステレオ拡大手段102に供給される。
【0088】
第2のミキシング手段103は、増幅器114及び115並びに加算器116及び117により構成されている。増幅器114は右ステレオ入力信号Rinをゲイン(1−α)で増幅する。この増幅器114からの出力信号は加算器116に供給される。加算器116は、増幅器114からの出力信号とステレオ拡大手段102からのステレオ拡大された信号とを加算する。この加算器116からの出力信号は、右チャンネル出力信号Routとして、外部に出力される。
【0089】
同様に、増幅器115は左ステレオ入力信号Linをゲイン(1−α)で増幅する。この増幅器115からの出力信号は加算器117に供給される。加算器117は、増幅器115からの出力信号とステレオ拡大手段102からのステレオ拡大された信号とを加算する。この加算器117からの出力信号は、左チャンネル出力信号Loutとして、外部に出力される。
【0090】
上記の構成において、外部からのステレオ入力信号と残響音生成手段100からの残響音が付与された信号との各増幅率とが、αの値により連動して変化する。ここで、αは直接音に対するステレオ拡大の深さを制御するために使用される係数である。このαは、「0〜1」の範囲の値をとることができる。αがゼロのときは、ステレオ拡大処理とは無関係に、ステレオ入力信号がそのままステレオ出力信号として外部に出力される。一方、αが「1」のときは、ステレオ入力信号にステレオ拡大処理が行われ信号のみがステレオ出力信号として外部に出力される。更に、αを適当な値にすることで、パンニングのみの貧弱な音場と、ステレオ拡大によって横方向まで拡がった音場の中間的な音場が形成され、アコースティックピアノによって形成される音場に近い音場を形成することができる。また、ステレオ入力信号に対してのみならず残響音生成手段100の出力に対してもステレオ拡大処理が行われるので、横方向まで拡がった残響音が得られる。
【0091】
次に、残響音生成手段100の構成の一例について、図19のブロック図を参照しながら説明する。この残響音生成手段100は、ステレオリバーブ音を生成するように構成されている。但し、この残響音生成手段100からの出力信号Routrev及びLoutrevには、直接音に対応する信号(右ステレオ入力信号Rin及び左ステレオ入力信号Linに対応する信号)は含まれない。
【0092】
残響音生成手段100は、初期遅延手段120及び130、初期反射生成手段121及び131、後部残響生成手段122及び132並びに増幅器123及び133により構成されている。
【0093】
初期遅延手段120は、右ステレオ入力信号Rinを遅延させて出力する。この初期遅延手段120で遅延された信号の1つ(これを「第1右遅延信号」という)は初期反射生成手段121に供給され、他の1つ(これを「第2右遅延信号」という)は増幅器123に供給される。第1右遅延信号の遅延量は、右初期反射音の遅延時間に相当する。ここで「右初期反射音」とは、音源(例えばピアノ)から発生された音が例えば壁、天井、家具等で最初に反射されて受聴者の右耳に到達する音をいう。第2右遅延信号は、上記第1右遅延信号遅延量と異なる遅延量を有する。増幅器123は、第2右遅延信号をゲインβで増幅して後述する初期反射生成手段131に供給する。
【0094】
初期反射生成手段121は、上記初期遅延手段120からの第1右遅延信号及び後述する増幅器133からの出力信号に基づき右初期反射音に対応する信号を生成する。この初期反射生成手段121からの出力信号は後部残響生成手段122に供給される。後部残響生成手段122は、右後部残響音に対応する信号を生成する。ここで右後部残響音とは、上述した右初期反射音と、この右初期反射音が更に例えば壁、天井、家具等で反射されて受聴者の右耳に到達する右後部反射音とが混合された音をいう。この後部残響成手段122からの右後部残響音に対応する信号が、右チャンネルの残響音信号Routrevとして、外部に出力される。
【0095】
同様に、初期遅延手段130は、左ステレオ入力信号Linを遅延させて出力する。この初期遅延手段130で遅延された信号の1つ(これを「第1左遅延信号」という)は初期反射生成手段131に供給され、他の1つ(これを「第2左遅延信号」という)は増幅器133に供給される。第1左遅延信号の遅延量は、左初期反射音の遅延時間に相当する。ここで「左初期反射音」とは、音源(例えばピアノ)から発生された音が例えば壁、天井、家具等で最初に反射されて受聴者の左耳に到達する音をいう。第2左遅延信号は、上記第1左遅延信号遅延量と異なる遅延量を有する。増幅器123は、第2左遅延信号をゲインβで増幅して上述した初期反射生成手段121に供給する。
【0096】
初期反射生成手段131は、上記初期遅延手段130からの第1左遅延信号及び上述した増幅器123からの出力信号に基づき左初期反射音に対応する信号を生成する。この初期反射生成手段131からの出力信号は後部残響生成手段132に供給される。後部残響生成手段132は、左後部残響音に対応する信号を生成する。ここで左後部残響音とは、上述した左初期反射音と、この左初期反射音が更に例えば壁、天井、家具等で反射されて受聴者の左耳に到達する左後部反射音とが混合された音をいう。この後部残響生成手段132からの左後部残響音に対応する信号が、左チャンネルの残響音信号Loutrevとして、外部に出力される。
【0097】
この残響音生成手段100によれば、右チャンネルの残響音信号Routrevには右ステレオ入力信号Rinのみならず左ステレオ入力信号Linが含まれており、また、左チャンネルの残響音信号Loutrevには左ステレオ入力信号Linのみならず右ステレオ入力信号Rinが含まれているので、より広がり感を有する残響音を生成できる。また、広がり感の程度は、ゲインβによって調整できる。
【0098】
また、この残響音生成手段100においては、例えばルーム、ステージ、ホール等といったリバーブの種類を切り換えることができるようになっている。リバーブの種類は、残響レベル、残響時間等によって決定される。これら残響レベル、残響時間等の変更は、残響音生成手段100の係数を入れ替えることにより実現されている。
【0099】
次に、ステレオ拡大手段102としては、上述した実施の形態1のステレオ拡大装置をそのまま用いることができる。このステレオ拡大手段102の構成を図20に再掲する。このステレオ拡大手段102を簡単に説明する。このステレオ拡大手段102は、信号処理手段3、逆相信号生成手段4、ミキシング手段5及び音質補正手段6で構成されている。なお、図20では、実施の形態1で使用した符号と同一の符号が付してある。
【0100】
このステレオ拡大手段102には、第1のミキシング手段101からの出力信号が入力される。信号処理手段3は、スピーカ再生の場合とヘッドホン再生の場合とで、係数が入れ替えられて用いられる。ゲインeは「0〜1」の範囲の値であり、スピーカ再生の場合にステレオ拡大効果の深さを調整する役割をする。ヘッドホン再生の場合はゲインeは「0」にする。スピーカ再生の場合、ゲインeの値を大きくするとステレオ拡大効果は増すが、同時に低域音の減衰が目立つようになる。これを防ぐために、ゲインeの値と連動して音質補正がかかるように、フィルタ61及び71が含まれた音質補正手段6が設けられている。信号処理手段3の詳細は、実施の形態1で図2を参照して説明したとおりであり、ヘッドホン再生とスピーカ再生との切り換えは係数A〜L及びnの入れ替えによって行われる。
【0101】
なお、ステレオ拡大手段102で、ヘッドホン再生とスピーカ再生とを係数変更によって切り換えるとき、残響音生成手段100の係数も、ヘッドホン用とスピーカ用とで切り換えれば、聴きやすい音質の楽音を得ることができる。
【0102】
次に、この音場拡大装置を利用した音場拡大システムの例について説明する。この音場拡大システムは、実施の形態1の図14に示したと同様に構成できる。但し、操作パネル81には、ライン入力端子82、ライン出力端子83、ヘッドホン端子84並びにボリューム85a及び85bの他に、直接音に残響音を混合する割合を制御する、つまりゲインαを決定するための図示しないボリューム、及び残響音の広がり感を制御する、つまりゲインβを決定するための図示しないボリュームが設けられている。音場拡大システムは、右チャンネル入力信号Rin及び左チャンネル入力信号Linをライン入力端子82から入力し、これに所定の処理を加えた後に、右チャンネル出力信号Rout及び左チャンネル出力信号Loutをライン出力端子83から出力する。
【0103】
この音場拡大システムの電気回路は、実施の形態1の図13に示したと同様に構成できる。CPU86は、実施の形態1における処理に加え、直接音に残響音を混合する割合を制御するためのボリューム、及び残響音の広がり感を制御するためのボリュームの設定状態に応じて、ゲインα及びβを決定するための係数をDSP89に供給する処理を行う。これにより、DSP89は、音場拡大装置としての機能を発揮するように動作する。
【0104】
なお、この実施の形態2においても、右チャンネル入力信号Rin及び左チャンネル入力信号Linはデジタル信号であってもよい。この場合は、A/D変換器88aは不要である。同様に、右チャンネル出力信号Rout及び左チャンネル出力信号Loutはデジタル信号であってもよい。この場合は、D/A変換器88bは不要である。
【0105】
図21は、本発明の音場拡大装置が適用されたスピーカ内蔵型のシングルキーボードの例を示す。この例では、音場拡大スイッチ、バーブ選択スイッチ、スライドボリューム、ヘッドホン端子を備えている。
【0106】
音場拡大スイッチは、音場拡大効果を発揮させるかどうかを指定する。常に音場拡大効果を発揮させるようにすればこの音場拡大スイッチは省略できる。リバーブ選択スイッチはバーブの種類を指定するために使用される。このリバーブ選択スイッチは、押す度に例えばオフ→ルーム→ステージ→ホール→オフ・・・と変化し、複数種類のリバーブの中から所望のリバーブを選択できるようになっている。常に1種類のリバーブがかかるように構成すればこのリバーブ選択スイッチは省略できる。
【0107】
スライドボリュームは、直接音に対するステレオ拡大量を与えるために使用される。このスライドボリュームの設定位置に応じて、係数a、e、α及びβが決定される。なお、直接音に対するステレオ拡大量を固定にすればこのスライドボリュームは省略できる。また、上記各係数を各別に設定できるように複数のスライドボリュームを設けてもよい。スライドボリュームの代わりに回転式のボリュームを用いてもよい。
【0108】
また、ヘッドホン端子は、上述した実施の形態1の場合と同様に、ヘッドホンのプラグの挿入の有無を識別可能になっている。なお、ヘッドホン端子としては、通常のヘッドホン端子を用いることもできる。この場合、再生モードスイッチを設け、この再生モードスイッチにより再生モードを切り換えるように構成できる。更に、自動と手動とを切り換えるスイッチを設け、この切換スイッチにより自動が選択された場合はプラグの挿入の有無により再生モードを切り換え、手動が選択された場合は再生モードスイッチにより再生モードを切り換えるように構成してもよい。この場合、切換スイッチとして、自動→スピーカ→ヘッドホン→自動→・・・と巡回するスイッチを用いることができる。
【0109】
本発明の音場拡大装置は、上述した単体、シングルキーボード以外に、音源モジュール、デジタルマルチエフェクタ、電子ピアノ、シンセサイザ、ゲーム機、テレビジョン、コンピュータ用のサウンドボード、DSP内蔵スピーカ、ミキサー等といったDSPを搭載したオーディオ関連機器に、簡単且つ低コストで適用することができる。
【0110】
以上説明したように、この実施の形態2に係る音場拡大装置によれば、ステレオリバーブと、ステレオ拡大処理を、適当に組み合わせることにより、実際の音場に近い、音に包み込まれるような音場感を出すことができる。また、スピーカ再生の場合でも、ヘッドホン再生の場合でも、音場拡大ができるので、再生系によって効果がなくなるといった不都合が解消される。
【0111】
(実施の形態3)
次に本発明の実施の形態3について説明する。この実施の形態3は音場拡大装置に関する。この音場拡大装置は、図22に示すように、残響音生成手段200、第1のミキシング手段201、頭部音響伝達関数付与手段202、第2のミキシング手段203、スピーカ再生用ステレオ拡大手段204,第3のミキシング手段205、第4のミキシング手段206及び係数出力手段207で構成されている。
【0112】
この音場拡大装置は、実施の形態1のステレオ拡大装置で使用した図13に示す構成と同様のハードウェア構成により実現されている。具体的には、係数出力手段207は、ヘッドホン端子84、CPU86及びメモリ87で構成されている。また、残響音生成手段200、第1のミキシング手段201、頭部音響伝達関数付与手段202、第2のミキシング手段203、スピーカ再生用ステレオ拡大手段204,第3のミキシング手段205及び第4のミキシング手段206はDSP89によるソフトウェア処理で実現されている。なお、これら各手段はハードウェアで構成してもよい。
【0113】
先ず、本実施の形態3の音場拡大装置の全体的な構成を、図23に示したブロック図を参照しながら説明する。この音場拡大装置には、ステレオ入力信号が入力される。そして、これらの信号に対して所定の処理が行われた後に、ステレオ出力信号として出力される。なお、図23では、図面の煩雑さを回避するために、信号線は1本の線で示されているが、実際は、例えば図18に示すように、右チャンネル用と左チャンネル用との2本の信号線で構成されている。
【0114】
図23において、残響音生成手段200としては、実施の形態2で説明した残響音生成手段100と同じものが用いられる。この残響音生成手段200からの出力信号は第1のミキシング手段201に供給される。
【0115】
第1のミキシング手段201は、増幅器210及び加算器211により構成されている。増幅器210はステレオ入力信号Rin及びLinをゲインγで増幅する。この増幅器210からの出力信号は加算器211に供給される。加算器211は、増幅器210からの出力信号と残響音生成手段200からの残響音が付与された信号とを加算する。この加算器211の出力信号は、頭部音響伝達関数付与手段及び第2のミキシング手段203に供給される。
【0116】
頭部音響伝達関数付与手段202の概略的な構成を図24に示す。頭部音響伝達関数付与手段202は、複数の頭部音響伝達関数付与部セット220、230及び240で構成されている。なお、本実施の形態3では、3個の頭部音響伝達関数付与部セットを有する構成であるが、少なくとも1個の頭部音響伝達関数付与部セットを有すれば十分である。
【0117】
頭部音響伝達関数付与部セット220は、300度方向頭部音響伝達関数付与部221、60度方向頭部音響伝達関数付与部222、加算器223及び加算器224で構成されている。ここで、方向は頭部音響伝達関数を測定したときの音源の方向である。方向は、正面を0度、左を90度、後ろを180度、右を270度としている。従って、300度方向頭部音響伝達関数付与部221は、正面に音源がある場合の頭部音響伝達関数を入力信号に付与する。同様に、60度方向頭部音響伝達関数付与部222は、正面から左方向60度に音源がある場合の頭部音響伝達関数を入力信号に付与する。
【0118】
従って、各頭部音響伝達関数付与部では、ヘッドホン受聴時に、入力信号に基づく音像が該頭部音響伝達関数に応じた方向に定位するように処理されることになる。例えば、60度方向頭部音響伝達関数付与部222に入力される入力信号Lin0は、ヘッドホン受聴時に、60度方向に音像を定位させるステレオ信号に変換される。この実施の形態3では、入力信号Rin0は300度、270度、240度に音像を定位させる信号に変換され、入力信号Lin0は60度、90度、120度に音像を定位させる信号に変換される。
【0119】
次に、頭部音響伝達関数付与部セット220の詳細な構成を図25に示す。これは、60度方向と300度方向の頭部音響伝達関数を用いた部分で、入力信号Rin0に基づく音像を300度方向に定位させ、入力信号Lin0に基づく音像を60度方向へ定位させるように機能する。なお、他の頭部音響伝達関数付与部セット230及び240は、音像を定位させる方向が異なることを除けば、構成は上記頭部音響伝達関数付与部セット220と同じである。
【0120】
このような構成によって、ヘッドホン受聴時に、所望の方向に音像が定位する理由は、実施の形態1において図3〜図6を参照しながら既に説明した。この場合、上記図6の構成は、図7に示した構成のみならず、図26に示すように変形することもできる。この図26に示した構成における入出力の関係は、図6に示した構成のそれと全く等価である。ここで、ここで、Hsはフィルタで構成することができる。また、Hm/Hsはフィルタで構成できる。但し、図6に示した構成では遅延量がマイナスになり、現実には実現不可能である。そこで、逆チャンネルへ供給される信号を遅延させ、相対的に進んだように構成する。従って、頭部音響伝達関数を付与するための構成は、図27のように表すことができる。
【0121】
この図27に示した構成により、2方向の頭部音響伝達関数を付与することができ、頭部音響伝達関数の方向が左右方向のペアを用いることで、ヘッドホン受聴で、ステレオ拡大された音場が得られる。この図27のフィルタを1次のフィルタで構成したものが、図25に示した頭部音響伝達関数付与部の構成の詳細である。なお、図25ではフィルタとして1次のフィルタを用いているが、フィルタの次数は2次以上であってもよい。この頭部音響伝達関数付与手段202からの出力信号Rout10、Lout10、Rout20、Lout20、Rout30及びLout30は第2のミキシング手段203に供給される。なお、信号名Rout*(*は任意の値)は信号名Rin*に対応しており、信号名lout*は信号名lin*に対応している。以下においても同じである。
【0122】
次に、第2のミキシング手段203について図28を参照しながら説明する。この第2のミキシング手段203は、増幅器250〜257並びに加算器258及び259により構成されている。増幅器250は、第1のミキシング手段201からの信号Rin0をゲインi1で増幅して加算器258に供給する。増幅器251は、第1のミキシング手段201からの信号Lin0をゲインi1で増幅して加算器259に供給する。
【0123】
増幅器252は、頭部音響伝達関数付与手段202からの信号Rin10をゲインj1で増幅して加算器258に供給する。増幅器253は、頭部音響伝達関数付与手段202からの信号Lin10をゲインj1で増幅して加算器259に供給する。増幅器254は、頭部音響伝達関数付与手段202からの信号Rin20をゲインk1で増幅して加算器258に供給する。増幅器255は、頭部音響伝達関数付与手段202からの信号Lin20をゲインk1で増幅して加算器259に供給する。増幅器256は、頭部音響伝達関数付与手段202からの信号Rin20をゲインl1で増幅して加算器258に供給する。増幅器257は、頭部音響伝達関数付与手段202からの信号Lin30をゲインl1で増幅して加算器259に供給する。
【0124】
加算器258は、増幅器250、252、254及び256からの各信号を加算し、出力信号Rout4として出力する。加算器259は、増幅器251、253、255及び257からの各信号を加算し、出力信号Rout4として出力する。上記ゲインi1〜l1は、ヘッドホン再生時と、スピーカ再生時で異なる値となる。このゲインi1〜l1の詳細は後述する。
【0125】
次に、スピーカ再生用ステレオ拡大手段204について説明する。このスピーカ再生用ステレオ拡大手段204は、実施の形態2で使用したステレオ拡大手段(図20参照)をそのまま用いることができる。但し、このスピーカ再生用ステレオ拡大手段204は、スピーカ再生時にのみ使用され、ヘッドホン再生時は使用されない。従って、図20に示した信号処理手段3はクロストークキャンセル処理を行うように係数がセットされ、逆相信号生成手段は常にアクティブになるように係数がセットされる。なお、ヘッドホン再生時は、このスピーカ再生用ステレオ拡大手段204はゼロを出力するように係数がセットされる。
【0126】
第2のミキシング手段203からの信号Rin40及びLin40は、このスピーカ再生用ステレオ拡大手段204で、スピーカ再生用のステレオ拡大処理されて、信号Roout50及びLout50として出力される。
【0127】
次に、第3のミキシング手段205について図29を参照しながら説明する。この第3のミキシング手段205は、増幅器260〜263並びに加算器264及び265により構成されている。増幅器260は、第2のミキシング手段203からの信号Rin40をゲインm1で増幅して加算器264に供給する。増幅器261は、第2のミキシング手段203からの信号Lin40をゲインm1で増幅して加算器265に供給する。増幅器262は、スピーカ再生用ステレオ拡大手段204からの信号Rin50をゲインn1で増幅して加算器264に供給する。増幅器263は、スピーカ再生用ステレオ拡大手段204からの信号Lin50をゲインn1で増幅して加算器265に供給する。
【0128】
加算器264は、増幅器260及び262からの各信号を加算し、出力信号Rout60として出力する。加算器265は、増幅器261及び263からの各信号を加算し、出力信号Rout60として出力する。上記ゲインm1及びn1は、ヘッドホン再生時と、スピーカ再生時で異なる値となる。このゲインm1及びn1の詳細は後述する。
【0129】
次に、係数出力手段207について説明する。係数出力手段207は、上述したように、ヘッドホン端子84、CPU86及びメモリ87で構成されている。そして、スピーカ再生を行うかヘッドホン再生を行うかは、DSP89への係数転送によって決定される。即ち、ヘッドホン端子84に、ヘッドホンのプラグが挿入されているかどうかに応じてヘッドホン用係数又はスピーカ用係数がDSP89へ転送される。なお、スピーカ再生を行うかヘッドホン再生を行うかは、ヘッドホン端子ではなく、スイッチにより決定するように構成できることは上述したとおりである。
【0130】
図30は、係数出力手段207の具体的動作を説明するための図である。係数出力手段207は、係数βを残響音生成手段200へ、係数i1、j1、k1及びl1を第2のミキシング手段203へ、係数m1及びn1を第3のミキシング手段205へそれぞれ転送する。
【0131】
係数βは、一方のチャンネルのリバーブ音に混合される他方のチャンネルのリバーブ音の割合を決定するために使用される。スピーカ再生時に用いられる係数βをそのままヘッドホン再生時に用いると、一方のチャンネルのリバーブ音に対する他方のチャンネルのリバーブ音の割合が大きくなりすぎるので、音質の劣化が生じ、音が汚くなる。逆に、ヘッドホン再生時に用いられる係数βをそのままスピーカ再生時に用いると、拡がり感が弱くなる。従って、係数出力手段207は、ヘッドホン再生時とスピーカ再生時で異なる値の係数βを残響音生成手段200に転送するように構成されている。
【0132】
係数i1、j1、k1及びl1は、第1のミキシング手段201からの出力信号、この出力信号に対して60−300度方向の頭部音響伝達関数を付与した信号、90〜270度方向の頭部音響伝達関数を付与した信号及び120〜240度方向の頭部音響伝達関数を付与した信号の各ミキシング量を制御するために使用される。
【0133】
ヘッドホン再生時は、頭部音響伝達関数が付与されていない信号は、頭外感を薄れさせるように作用する。従って、この場合は、頭部音響伝達関数が付与された信号のみをステレオ出力信号としたほうが好ましい。一方、スピーカ再生時は、頭部音響伝達関数を付与しなくても、次段のスピーカ再生用ステレオ拡大手段204によって、ある程度、音に包み込まれるような音場感が得られる。しかしながら、ステレオ出力信号に頭部音響伝達関数が付与された信号を若干混ぜると、横方向の反射が明瞭になる。
【0134】
そこで、係数出力手段207は、ヘッドホン再生時は、頭部音響伝達関数が付与された信号のみを出力するように設定された係数i1、j1、k1及びl1を第2のミキシング手段203に転送する。一方、スピーカ再生時は、頭部音響伝達関数が付与されていない信号に頭部音響伝達関数が付与された信号が少し混ざるように設定された係数i1、j1、k1及びl1を第2のミキシング手段203に転送する。
【0135】
係数m1、n1は、スピーカ再生用ステレオ拡大処理を行うかどうかを選択するためのスイッチとして使用される。即ち、係数出力手段207は、スピーカ再生時は、スピーカ再生用ステレオ拡大手段204からの信号を選択し、ヘッドホン再生時は、スピーカ再生用ステレオ拡大処理されてない第2のミキシング手段203からの信号を選択するように、係数m1及びn1を第3のミキシング手段205に転送する。
【0136】
ヘッドホン再生時と、スピーカ再生時の各係数β、i1、j1、k1及びl1の一例を図31に示す。この例は、一方向の頭部音響伝達関数に対する例であるが、方向別に各係数β、i1、j1、k1及びl1を設けてもよい。
【0137】
次に、第4のミキシング手段206について図23を参照しながら説明する。第4のミキシング手段206は、増幅器212及び加算器213により構成されている。増幅器212はステレオ入力信号Rin及びLinをゲイン(1−γ)で増幅する。この増幅器212からの出力信号は加算器213に供給される。加算器213は、増幅器212からの出力信号と第3のミキシング手段205からの出力信号とを加算する。この加算器211の出力信号は、ステレオ出力信号Rout及びLoutとして外部に出力される。
【0138】
図23からも明らかなように、第1のミキシング手段201と第4のミキシング手段206とは連動して動作する。即ち、外部からのステレオ入力信号と残響音生成手段200からの残響音が付与された信号との各増幅率とが、γの値により連動して変化する。ここで、γは直接音に対するステレオ拡大の深さを制御するために使用される係数である。このγは、「0〜1」の範囲の値をとることができる。γがゼロのときは、ステレオ拡大処理とは無関係に、ステレオ入力信号がそのままステレオ出力信号として外部に出力される。一方、γが「1」のときは、ステレオ入力信号にステレオ拡大処理が行われた信号のみがステレオ出力信号として外部に出力される。更に、γを適当な値にすることで、パンニングのみの貧弱な音場と、ステレオ拡大によって横方向まで拡がった音場の中間的な音場が形成され、アコースティックピアノによって形成される音場に近い音場を形成することができる。また、ステレオ入力信号に対してのみならず残響音生成手段200の出力に対してもステレオ拡大処理が行われるので、横方向まで拡がった残響音が得られる。
【0139】
次に、第2のミキシング手段203の他の構成例について図32を参照しながら説明する。この第2のミキシング手段203は、音像移動感のある残響を得るための構成である。この第2のミキシング手段203は、図28に示した構成において、各増幅器250〜257の前段に遅延器270〜277が追加されて構成されている。遅延器270及び271の遅延量P、遅延器272及び273の遅延量Q、遅延器274及び275の遅延量R、遅延器276及び277の遅延量Sは、それぞれ異なるように設定する。
【0140】
この構成において、例えば、遅延量Pをゼロ、遅延量Qを10ms、遅延量Rを25ms、遅延量Sを33msというように設定すれば、残響音が、斜め前、真横、斜め後ろの順に移動するように聴こえ、特殊な残響音が得られる。この場合、第1のミキシング手段201で、直接音が混入されていれば、その直接音も移動する。このように、かかる構成の第2のミキシング手段203を用いれば、残響音を移動させることができる。
【0141】
次に、この音場拡大装置を利用した音場拡大システムの例について説明する。この音場拡大システムは、実施の形態1の図14に示したと同様に構成できる。但し、操作パネル81には、ライン入力端子82、ライン出力端子83、ヘッドホン端子84並びにボリューム85a及び85bの他に、直接音に残響音を混合する割合を制御する、つまりゲインγを決定するための図示しないボリューム、及び残響音の広がり感を制御する、つまりゲインβを決定するための図示しないボリュームが設けられている。音場拡大システムは、右チャンネル入力信号Rin及び左チャンネル入力信号Linをライン入力端子82から入力し、これに所定の処理を加えた後に、ライン出力端子83から右チャンネル出力信号Rout及び左チャンネル出力信号Loutとして出力する。
【0142】
この音場拡大システムの電気回路は、実施の形態1の図13に示したと同様に構成できる。CPU86は、実施の形態1における処理に加え、直接音に残響音を混合する割合を制御するためのボリューム、及び残響音の広がり感を制御するためのボリュームの設定状態に応じて、ゲインγ及びβを決定ための係数をDSP89に供給する処理を行う。これにより、DSP89は、音場拡大装置としての機能を発揮するように動作する。
【0143】
この実施の形態3の音場拡大装置は、上述した実施の形態2の場合と同様の種々の変形が可能である。また、上述した実施の形態2で示したと同様の種々の装置に適用できる。
【0144】
以上説明したように、この実施の形態3に係る音場拡大装置によれば、2チャンネルのスピーカ再生で、クロストークキャンセルによって拡大した音場と、頭部音響伝達関数とクロストークキャンセルとの連結によって拡大した音場が、適度な割合でミキシングされることによって、横方向にはっきりと残響を感じさせるように音場を拡大できる。また、ヘッドホン再生でも同様の効果を得ることができる。更に、また、直接音に対して、横方向に行き過ぎないようにミキシングすることで、より現実に近い音場感が得られる。
【0145】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明のステレオ拡大装置によれば、簡単な構成であるにも拘わらずスピーカ再生及びヘッドホン再生を切り換えることが可能であり、且つ何れの場合もステレオ音場を拡大することのできるステレオ拡大装置を提供できる。
【0146】
また、本発明の音場拡大装置によれば、2チャンネルのスピーカ再生であるとヘッドホン再生であるとに拘わらず、残響音は横方向から聴こえ、直接音は横方向に広がり過ぎないように調整できる音場拡大装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の態様に係るステレオ拡大装置を原理的に示す図である。
【図2】図1における信号処理手段の構成を示す図である。
【図3】本発明で使用される頭部音響伝達関数を説明するための図である。
【図4】本発明で使用される真横方向の頭部音響伝達関数を説明するための図である。
【図5】本発明で使用される頭部音響伝達関数をモノラル入力信号に付与する構成を説明するための図である。
【図6】本発明で使用される頭部音響伝達関数をステレオ入力信号に付与する構成を説明するための図である。
【図7】図6の構成を変形して示した図である。
【図8】本発明の実施の形態1で使用される頭部音響伝達関数付与のための概略的な構成を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1で使用される頭部音響伝達関数付与のための詳細な構成を示す図である。
【図10】図1における逆相信号生成手段の構成を示す図である。
【図11】図1におけるミキシング手段の構成を示す図である。
【図12】図1における音質補正手段の構成を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態1のステレオ拡大装置を用いたステレオ拡大システムの構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の実施の形態1のステレオ拡大装置を用いたステレオ拡大システムの外観斜視図である。
【図15】本発明の実施の形態1のステレオ拡大装置が適用されたシングルキーボードの斜視図である。
【図16】本発明の実施の形態1のステレオ拡大装置が適用された電子ピアノの斜視図である。
【図17】本発明の第2の態様に係る音場拡大装置を原理的に示す図である。
【図18】本発明の実施の形態2の音場拡大装置の構成を示すブロック図である。
【図19】図17における残響音生成手段の構成を示すブロック図である。
【図20】図17におけるステレオ拡大手段の構成を示すブロック図である。
【図21】本発明の実施の形態2の音場拡大装置が適用されたシングルキーボードの斜視図である。
【図22】本発明の第3の態様に係る音場拡大装置を原理的に示す図である。
【図23】本発明の実施の形態3の音場拡大装置の構成を示すブロック図である。
【図24】図22における頭部音響伝達関数付与手段の構成を示す図である。
【図25】図22における頭部音響伝達関数付与手段の一部を詳細に示す図である。
【図26】本発明で使用される頭部音響伝達関数をステレオ入力信号に付与する構成を説明するための図である。
【図27】本発明の実施の形態3で使用される頭部音響伝達関数付与のための概略的な構成を示す図である。
【図28】図22における第2のミキシング手段の構成を示す図である。
【図29】図22における第3のミキシング手段の構成を示す図である。
【図30】図22における係数手段手段を説明するための図である。
【図31】図22における係数手段手段で使用される係数の具体例を示す図である。
【図32】図22における第2のミキシング手段の他の構成を示す図である。
【符号の説明】
1 選択手段
2 係数出力手段
3 信号処理手段
4 逆相信号生成手段
5 ミキシング手段
6 音質補正手段
100 残響音生成手段
101 第1のミキシング手段
102 スピーカ拡大手段
103 第2のミキシング手段
200 残響音生成手段
201 第1のミキシング手段
202 頭部音響伝達関数付与手段
203 第2のミキシング手段
204 スピーカ再生王ステレオ拡大手段
205 第3のミキシング手段
206 第4のミキシング手段
207 係数出力手段
Claims (13)
- スピーカ再生又はヘッドホン再生の何れを行うかを選択する選択手段と、
該選択手段による選択に応じてスピーカ再生用の係数又はヘッドホン再生用の係数の何れかを出力する係数出力手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合にクロストークキャンセルを行うための処理部が形成され、ヘッドホン再生用である場合に頭部音響伝達関数付与を行うための処理部が形成される信号処理手段であって、外部からの2チャンネルのステレオ入力信号を該処理部で処理することにより2チャンネルのステレオ中間信号を生成する信号処理手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合に、一方のチャンネルのステレオ入力信号に他方のチャンネルのステレオ入力信号の位相を反転した信号を加算することにより2チャンネルのステレオ逆相信号を生成し、ヘッドホン再生用である場合に該2チャンネルのステレオ逆相信号の生成を抑止する逆相信号生成手段と、
該信号処理手段からの2チャンネルのステレオ中間信号と該逆相信号生成手段からの2チャンネルのステレオ逆相信号とを各チャンネル毎にミキシングし、以て2チャンネルのステレオ出力信号を生成するミキシング手段、
とを備えたステレオ拡大装置。 - 前記選択手段はヘッドホンに接続されたプラグを有し、前記係数出力手段は、該プラグの挿入の有無に応じて、スピーカ再生用の係数又はヘッドホン再生用の係数の何れかを出力する請求項1に記載のステレオ拡大装置。
- 前記ミキシング手段からの2チャンネルのステレオ出力信号を補正する音質補正手段を更に備えた請求項1又は請求項2に記載のステレオ拡大装置。
- 前記信号処理手段、逆相信号生成手段、ミキシング手段及び音質補正手段はデジタルシグナルプロセッサの処理により構成される請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のステレオ拡大装置。
- 外部からの2チャンネルのステレオ入力信号に基づき残響音信号を生成する残響音生成手段と、
該残響音生成手段からの残響音信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第1のミキシング手段と、
該第1のミキシング手段からの出力信号に対してステレオ拡大処理を施すステレオ拡大手段と、
該ステレオ拡大手段からの出力信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第2のミキシング手段、
とを備えた音場拡大装置。 - 前記残響音生成手段は、前記2チャンネルのステレオ入力信号に基づきステレオの残響音信号を生成する請求項5に記載の音場拡大装置。
- 前記第1のミキシング手段における前記2チャンネルのステレオ入力信号と前記残響音信号とのミキシング比率が、前記第2のミキシング手段における前記2チャンネルのステレオ入力信号と前記ステレオ拡大手段からの出力信号とのミキシング比率に連動して変化する請求項5又は請求項6に記載の音場拡大装置。
- 前記ステレオ拡大手段は、
スピーカ再生又はヘッドホン再生の何れを行うかを選択する選択手段と、
該選択手段による選択に応じてスピーカ再生用の係数又はヘッドホン再生用の係数の何れかを出力する係数出力手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合にクロストークキャンセルを行うための処理部が形成され、ヘッドホン再生用である場合に頭部音響伝達関数付与を行うための処理部が形成される信号処理手段であって、外部からの2チャンネルのステレオ入力信号を該処理部で処理することにより2チャンネルのステレオ中間信号を生成する信号処理手段と、
該係数出力手段から送られてきた係数がスピーカ再生用である場合に、一方のチャンネルのステレオ入力信号に他方のチャンネルのステレオ入力信号の位相を反転した信号を加算することにより2チャンネルのステレオ逆相信号を生成し、ヘッドホン再生用である場合に該2チャンネルのステレオ逆相信号の生成を抑止する逆相信号生成手段と、
該信号処理手段からの2チャンネルのステレオ中間信号と該逆相信号生成手段からの2チャンネルのステレオ逆相信号とを各チャンネル毎にミキシングし、以て2チャンネルのステレオ出力信号を生成するミキシング手段、
とを備えた請求項5乃至請求項7の何れか1項に記載の音場拡大装置。 - 前記残響音生成手段、第1のミキシング手段、ステレオ拡大手段及び第2のミキシング手段はデジタルシグナルプロセッサの処理により構成される請求項5乃至請求項8の何れか1項に記載の音場拡大装置。
- 外部からの2チャンネルのステレオ入力信号に基づき残響音信号を生成する残響音生成手段と、
該残響音生成手段からの残響音信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第1のミキシング手段と、
該第1のミキシング手段からの出力信号に対して、頭部音響伝達関数を付与する頭部音響伝達関数付与手段と、
該第1のミキシング手段からの出力信号と、該頭部音響伝達関数付与手段からの出力信号をミキシングする第2のミキシング手段と、
該第2のミキシング手段からの出力信号に対してスピーカ再生用のステレオ拡大処理を施すスピーカ再生用ステレオ拡大手段と、
該第2のミキシング手段からの出力信号と、該スピーカ再生用ステレオ拡大手段からの出力信号とをミキシングする第3のミキシング手段と、
該第3のミキシング手段からの出力信号と該2チャンネルのステレオ入力信号とをミキシングする第4のミキシング手段と、
ヘッドホン再生かスピーカ再生かに応じて、該残響音生成手段、該第2のミキシング手段及び該第3のミキシング手段に、それぞれ係数を転送する係数出力手段、
とを備えた音場拡大装置。 - 前記第1のミキシング手段における前記ステレオ入力信号と前記残響音信号とのミキシング比率が、前記第4のミキシング手段における前記ステレオ入力信号と前記第3のミキシング手段からの出力信号とのミキシング比率に連動して変化する請求項10に記載の音場拡大装置。
- 前記頭部音響伝達関数付与手段は、前記第1のミキシング手段からの出力信号に対し、少なくとも2方向に対応する頭部音響伝達関数を付与する処理を行い、各処理結果をミキシングして出力する請求項10又は請求項11に記載の音場拡大装置。
- ヘッドホンを接続するヘッドホン接続機構を更に有し、前記係数出力手段は、該ヘッドホン接続機構にヘッドホンが接続されているかどうかに応じて、ヘッドホン再生用又はスピーカ再生用の係数を前記残響音生成手段、前記第2のミキシング手段及び前記第3のミキシング手段に転送する請求項10乃至請求項12の何れか1項に記載の音場拡大装置。
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