JP3592396B2 - 粒子加速器のタイミング制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、荷電粒子を高エネルギーに加速し、例えば人体に照射して癌細胞等を破壊する医療用粒子加速器に用いて好適な粒子加速器のタイミング制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図21は、例えば特開平6−168799号公報に開示された一般的な粒子加速器を示す平面図である。図22は、従来の粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。図21において、1は電子銃6により発生した電子を高周波で直線的に加速するライナック、2はさらに高エネルギーに電子を加速するシンクロトロン、7はシンクロトロン2で加速された電子を物理実験等に使用するための、前記加速された電子を蓄積するリングであるSRリングである。
【0003】
シンクロトロン2は電子を入射、加速、出射するために様々なパルス機器から構成されており、インフレクタ27、偏向電磁石40、高周波加速空洞46、デフレクタ電磁石48、キッカ電磁石49などを備えている。41および42はシンクロトロン2内を周回する電子ビームに対し上下方向と左右方向の両方向に集束力を持たすための極性の異なる2種類の四極電磁石であり、偏向電磁石40と共に6周期構造で配置されている。45a,45b,45cはインフレクタ27と共にライナック1からの電子ビームの入射に用いられるパルス機器としてのパータベータ電磁石である。
【0004】
この粒子加速器は電子を加速して取り出し、SRリング7などの別のリングに蓄積する装置であるが、本発明の対象となる医療用イオン照射加速器の場合にはSRリング7が設けられておらず、SRリング7の位置には被照射体を置きシンクロトロン2から取り出されたイオンビームを照射する構成であり、制御方式は両者共に基本的には同一である。
【0005】
また、図22において、62はあらかじめ決められた周期でトリガパルスを発生させる基準信号発生器であり、61は複数の出力チャンネルを備え、前記基準信号発生器62から送られてくるトリガパルスを受けて、前記各出力チャンネルから予め決められた時間間隔で順次パルス信号を出力するタイミングパルス発生器である。12a,12b,12c,12d,12e,12f,12gはタイミングパルス発生器61の各出力チャンネルより出力されるパルス信号のタイミングを微調整するための遅延回路である。20,21,28a,28b,28c,29,31は前記各遅延回路に夫々接続されたキッカ電磁石などの各種パルス機器のためのパルス電源であり、20はインフレクタ27に電力を供給するインフレクタ電源、21はライナック1に電力を供給するライナック電源、28aと28bと28cは各パータベータ電磁石45a,45b,45cの夫々へ電力を供給するパータベータ電源、29はデフレクタ電磁石48へ電力を供給するデフレクタ電源、31はキッカ電磁石49へ電力を供給するキッカ電源である。これらの各パルス電源に接続されている各遅延回路は基本的な役割は同じである。60は前記タイミングパルス発生器61を制御する計算機である。
【0006】
また、63はタイミングパルス発生器61の出力チャンネルの1つから出力されるパルス信号に基づいて出力クロックを生成する交流電源タイミングコントローラである。64は符号22,23,24,26により示される各種交流電源の電源出力パターンがあらかじめ書き込まれているメモリ装置であり、交流電源タイミングコントローラ63から供給される出力クロックに従い前記電源出力パターンが順番に読み出される。22は偏向電磁石40へ電力を供給する偏向電磁石電源、23は四極電磁石41に電力を供給する四極電磁石電源、24は四極電磁石42へ電力を供給する四極電磁石電源である。なお、これらの各交流電源はインパルス的な電力供給動作を行うパルス電源である。26は高周波加速空洞46に高周波電力を供給する高周波電源である。65はメモリ装置64に電源出力パターンを書き込むための計算機である。
【0007】
なお、これら計算機60,65やメモリ装置64における電気信号の伝送は光ケーブル或いは絶縁アンプを使って行われ、信号線にノイズがのらないように工夫されている。
【0008】
次に動作について説明する。ライナック電源21は、ライナック1とシンクロトロン2とを使用して電子を高エネルギーに加速し、SRリング7に蓄積し、高エネルギー電子ビームから得られるシンクロトロン放射光(SR)を供給するものである。ライナック1およびシンクロトロン2は1秒間に2回の繰り返しで運転される。つまり、0.5秒の繰り返し周期で電子ビームを出射する。
【0009】
ライナック1はライナック電源21からマイクロ波(或いは高周波)が供給され、そのマイクロ波で電子を20MeVまで加速するが、シンクロトロン2に入射できる時間は2μsecから3μsecであるので、ビームのパルス幅も同程度になるようにパルス運転される。
【0010】
このライナック1から出射された電子ビームは、インフレクタ27を通してシンクロトロン2に入射される。インフレクタ27は高電圧を必要とするため、放電を避けるためにインフレクタ27へ電力を供給するインフレクタ電源20はパルス運転される。入射されたビームはそのままではインフレクタ27の電極に衝突して失われるため、3台のパータベータ電磁石45a,45b,45cを使用して入射時のみ磁場を発生させてビームを周回軌道に乗せる。
【0011】
前記パータベータ電磁石の磁場波形は正弦半波であり、その立ち下がりを利用してビームを入射するため、前記正弦半波のパルス幅はビームのパルス幅の約2倍である。パータベータ電磁石の数は粒子加速器により異なり、1台から4台位までが使われている。
【0012】
入射したビームは6台の偏向電磁石40で偏向され周回運動するが、ビームを安定に周回させるためには各6台の四極電磁石41、42で集束させなければならない。これら四極電磁石は電気回路的には各々直列に接続されており、従って、電源は3台である。周回ビームを加速するために高周波加速空洞46が使用される。加速されることによりビームのエネルギーが変わると、ビームの軌道が変わるため、ビームエネルギーに応じて偏向電磁石と四極電磁石との磁場強度を変えなければならない。実際の電子シンクロトロンでは磁場強度に対応するように電子ビームは加速される。
【0013】
偏向電磁石40および極性の異なる2つの四極電磁石41,42の偏向電磁石電源22、四極電磁石電源23,24の出力は、電子ビームを損失なく加速するために同期するように精度良く制御されねばならない。また、加速電圧もエネルギーによって変えた方がビーム捕獲効率が良いため、高周波電源26も前記3台の電源と同期がとられる。従って、メモリ装置64を使用して制御する。すなわち、これら交流電源は、任意の参照信号を与えるとそれに比例した電流あるいは高周波電圧を出力する。このため、必要な電源出力パターンが決まれば、それに必要な1周期の参照信号パターンを約65000分割してディジタル化し、計算機65を使ってあらかじめメモリ装置64に書き込んでおく。そして、シンクロトロン運転時には、交流電源タイミングコントローラ63からの出力クロックにより、メモリ装置64に書き込まれている電源出力パターンを順次読み出し、アナログ信号に変換して参照信号として前記各交流電源に入力する。こうすることにより、前記4台の交流電源は同期のとれた出力を行なうことができる。実際には、必要な参照信号は電源あたり1種類ではなく電圧パターンなど数種類あるため、メモリーモジュールの数も前記種類に応じた数となる。
【0014】
加速されたビームは、キッカ電磁石49とデフレクタ電磁石48とを使用して出射される。デフレクタ電磁石48は狭いギャップを持つ偏向電磁石であり、そのギャップはビーム中心軌道より40mm外側にあり、そのギャップにビームが入るようにキッカ電磁石49で蹴り出す。このため、キッカ電磁石49はパルス運転しなければならない。デフレクタ電磁石48はパルス運転する必要はないが、熱的な問題から一般にはパルス運転される。
【0015】
このように、粒子加速器のキッカ電磁石など、パルス機器出力のタイミングは、ビームの入射効率や出射効率に大きく影響するため、正確に調整できなければならない。それらのタイミングの設定は、タイミングパルス発生器61において、予め計算機60を使用して生成したタイミングデータを入力しておくことにより、前記タイミングデータを基に基準信号発生器62からのパルスからトリガパルスを生成し出力することにより成される。
【0016】
さらにタイミングパルス発生器61について説明を付け加えると、タイミングパルス発生器61は基準信号発生器62からパルスを受けると、先ず最初の出力端から設定された時間遅れでトリガパルスが発生し、その後、次の出力端から設定された時間遅れでトリガパルスが出力され、順次最後の出力端まで各々の時間遅れでトリガパルスが出力される。そして、次の基準信号発生器62からのパルスにより、また最初の出力端からパルスが順次出力されて行く。従って、最初のトリガパルスと最後のそれとの時間間隔は、基準信号発生器62からのパルスの周期以内でなければならない。この時間間隔は、計算機60により入力できるようになっている。
【0017】
荷電粒子を高エネルギーに加速するイオン加速装置に関しても、従来、タイミング機構的には上述したような構成になっているため、癌治療装置等に適用できない。癌治療装置とは、高エネルギーイオンビームを人体の癌部位に照射し癌細胞を消滅さす装置である。照射時間は数分であるが、患者が呼吸することにより患部が動くため、イオンビームは患部だけでなく正常細胞にも照射されることになる。これを避けるためには、呼吸に同期してビームを照射する必要がある。つまり、息を吐き終わった時点では、患部は常にほぼ同じ位置にあるからである。このため、従来では例えば、ビーム テスト オン リング プロパティ イン ハイマック シンクロトロン(Beam Test on Ring Property in HIMAC Synchrotron)、ヨーロッパ粒子加速器会議(1994)で報告されたような出射のタイミングを人の呼吸に同期させる方式を用いている。イオンの加速は周期的に行い、出射だけを非周期的に行っている(新しい技術分野であるため論文が少なく、詳細な記述はない)。
【0018】
この場合の出射は上述したような方法ではなく、キッカ電磁石の代わりに六極電磁石、RFKO電極などを用いてビームの共鳴現象を利用し、400ms程度の時間をかけて徐々に周回ビームを取り出す方法である。ビームは加速された後、エネルギーを一定に保ったままシンクロトロン内を周回しつづけ、呼吸に同期したトリガパルスにより出射機器が起動しビームは徐々に取り出される。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
従来の粒子加速器のタイミング制御装置は以上のように構成されているので、加速装置の運転周期は被照射体の呼吸周期と同期していないため、患部以外の場所にも荷電粒子を照射する問題点があった。また、呼吸に同期してビーム出射を行うものにあっては、シンクロトロンで加速した後の蓄積時間を長く取らねばならず、運悪く蓄積時間の後の方で出射する場合、周回ビームは残留ガスとの衝突により減少しているため、十分なビームが取り出せないという問題点があった。また、シンクロトロンの加速周期は呼吸と同期していないために加速しても取り出せない場合もあり、運転効率が良くないなどの問題点もあった。
【0020】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、呼吸に同期させて正確かつ最適なタイミングで荷電粒子の被照射体への照射を効率良く行うと共に、被照射体への照射精度を向上させ、さらに呼吸振動検出に際しての前記被照射体が受ける肉体的な負担を軽減する粒子加速器のタイミング制御装置を得ることを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る粒子加速器のタイミング制御装置は、荷電粒子を発生する荷電粒子発生手段と、発生した荷電粒子を加速する高周波線形加速器とシンクロトロンと、加速した荷電粒子を被照射体に照射する荷電粒子照射手段とを備えた粒子加速器において、被照射体の呼吸振動を呼吸波形として検出する呼吸振動検出器と、検出された呼吸波形または当該呼吸波形の微分値の最大値が所定の範囲内にあるときにのみ当該最大値に基づいてトリガパルスを発生するトリガ発生器と、発生したトリガパルスに、予め相互の時間関係が一定に設定された複数の遅延時間を付与して遅延パルスをそれぞれ生成し、当該遅延パルスを荷電粒子の発生および荷電粒子の加速、入射、出射に必要な種々のパルス電源に対応させて出力する遅延回路手段とを備えることにより、粒子加速器の各部の動作タイミングを制御するようにしたものである。
【0022】
【作用】
の発明における粒子加速器のタイミング制御装置は、被照射体の呼吸波形または当該呼吸波形の微分値の最大値が所定の範囲内にあるときにのみ当該最大値を基にしてトリガパルスを発生するため、呼吸振動の呼吸波形または当該呼吸波形の微分値の最大値が前記所定の範囲内に入らないときには荷電粒子の発生および荷電粒子の加速、入射、出射を停止させ、被照射体への荷電粒子の照射を停止することを可能にする。
【0023】
【実施例】
実施例1.
以下、この発明の一実施例を図について説明する。図1はこの発明の実施例1による粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図、図2はこの実施例のタイミング制御装置が適用される粒子加速器を示す平面図、図3はタイミング制御装置の動作を示すタイムチャートである。また、図4は呼吸に同期した電気信号を得るための概念図および呼吸波形を示した波形図である。
【0024】
なお、図1および図2において図21および図22と同一または相当の部分については同一の符号を付し説明を省略する。この実施例の粒子加速器のタイミング制御装置で前記従来例のそれと基本的に異なる点は、粒子加速器はイオンを加速する装置であり、加速したイオンを照射対象物に照射するという点である。そのため、図21に示した電子銃6の代わりにイオン源が設けられ、またSRリング7の代わりに照射装置が設けられている。
【0025】
図1において、101は被照射体の呼吸振動を電気信号の呼吸波形として検出する呼吸振動検出器、102はその呼吸波形の任意の位相でトリガパルスを発生するトリガ発生器である。103は図2に示すイオン源(荷電粒子発生手段)100で発生した陽子とか炭素イオンを電界をかけて取り出すために必要なパルス電源であるイオン引出し電源である。104はイオン引出し電源103へトリガ発生器102からのトリガパルスに予め設定された遅延時間を付与した遅延パルスを生成し出力する遅延回路(遅延回路手段)、105はRFKO電極の電源であるRFKO電源、106はRFKO電源105への遅延パルスを生成し出力する遅延回路(遅延回路手段)である。すなわち、各遅延回路は、トリガ発生器102のトリガパルスに予め相互の時間関係が一定に設定された遅延時間を付与するためのものである。107はメモリ装置(記憶装置)64へクロック信号を供給するクロック発生器である。
【0026】
図2において、143はクロマティシティ補正とビーム出射時のビームの安定領域を狭め効果的にビーム出射を行うための六極電磁石(SM)である。147は従来例で説明したキッカ電磁石49の代わりに用いられるRFKO電極であり、高周波電界によりビームの振動を大きくし、徐々に前記ビームを前記安定領域の外に移動させるための電極である。安定領域の外に出されたビームは振幅の増加率が大きくなりデフレクタ電磁石48から取り出される。149は照射装置(荷電粒子照射手段)であり、デフレクタ電磁石48から取り出されたビームを被照射体へ照射する装置である。
【0027】
151はタイミング制御装置であり、図1におけるトリガ発生器102、各遅延回路、クロック発生器107、メモリ装置64を含むが、図2で別に記載されている呼吸振動検出器101をも含むものとする。被照射体の呼吸振動を呼吸波形として検出する呼吸振動検出器101は、信号処理回路101aと圧力強度を電気信号に変換する圧電素子101bとを有している。
【0028】
次に動作について説明する。荷電粒子の加速の方法は基本的には従来例に挙げた電子を加速する場合と同じである。異なる点は、イオンは電子に比べて重いので光速よりも遥かに遅い速度領域で加速を行うために、イオンの速度が常に変化することである。即ち、シンクロトロンでの周回時間が加速中に変わるために、それに応じて高周波加速空洞46の運転周波数を変えなければならない。このため、高周波加速空洞46および高周波電源26の制御が複雑になるが、本発明とは無関係であるため説明は省略する。
【0029】
イオンビームの取り出しに関しては、従来例のように高速のパルス機器を用いて瞬間的に取り出す方式ではない。これは、照射系の要求から決まるもので、数100msecの時間をかけて少しずつ取り出す。このため、六極電磁石143とRFKO電極147およびデフレクタ電磁石48が用いられるが、本発明にとってはその原理は無関係であり、先に簡単に述べたので説明は省略する。
【0030】
加速し取り出されたイオンビームは照射装置149に導かれ、必要な断面形状に加工されて人体などの被照射体150に照射される。照射装置149におけるイオンビーム出射点の位置は時間的に一定であり、患部だけを狙って照射される。患部は通常体内にあるため、身体の表面から患部までの正常細胞をビームが通過することは避けられないが、イオンビームの特長として、ある深さにある細胞を特に破壊できるため、途中の正常細胞に与える影響は小さい。
【0031】
しかし、被照射体が呼吸で動くと患部も動くため、患部が常に同じ位置にあるときにビームを照射しなければならない。被照射体の呼吸に同期させてこの粒子加速器の装置全体を運転した場合のタイムチャートを図3に示す。図3では、呼吸波形は周期的な波形として示しているが、実際には周期的ではなく、2秒から5秒程度の間で変化する非周期波形である。この呼吸波形の適当な位相でトリガ発生器102からトリガパルスを出力する。前記位相は、ビームを加速するのに必要な時間と呼吸波形のどの時点で出射するかにより決定される。
【0032】
前記トリガパルスを各パルス電源の立ち上がり時間などを考慮して夫々遅延回路を介して適当な時間遅れを付与し、遅延パルスとして各パルス電源に送る。これによりイオンビームがイオン源100から図3の(e)に示すイオン源ビームとして引き出され、ライナック1により加速され、シンクロトロン2に入射され必要なエネルギーまで加速された後、図3の(f)に示す出射ビームとして出射され、被照射体150に照射される。この出射ビームの位置(期間)は、図3の(a)の呼吸波形と合わせてみると、患部が常にほぼ同じ位置にある息を吐き終わった時点となるようにしていることが分る。
【0033】
シンクロトロンにおける加速の様子は図3の(d)に示す電磁石波形で表している。この電磁石波形は偏向電磁石電源22等の出力電流波形であり、ビームの運動量(エネルギーに関係した量)に相当する。台形波のフラットトップでビームを出射するために立ち下がり時にはビームは存在しない。このパターンは図3の(c)に示す電磁石電源クロックにより出力される。
【0034】
偏向電磁石電源22へ出力されるメモリ装置64に記憶された電源出力パターンは最初と最後は同じ値にしているため、1パターンが出力された後は次のパターンの最初の値で保持されており、このような非周期的運転をしても磁場強度等の再現性は良く、ビームの入射効率に影響は与えない。
【0035】
図4と図5に呼吸波形に対するトリガ発生の仕方の一例を示す。この実施例では、呼吸を電気信号へ変換するセンサとして圧電素子101bを用い、この圧電素子101bを固定具101cにより人体などの被照射体150へ固定する。この圧電素子101bは、圧力に比例した電気信号を発生させる素子であり、信号処理回路101aを介して必要な電気信号が得られ、例えば腹部に固定具101cで固定すると、呼吸に伴う腹部の振動に比例した電気信号、すなわち呼吸波形が得られる。図4の(ロ)には腹部の振動波形と電気信号の呼吸波形の一例が示されている。この呼吸波形の任意の位相で、トリガ発生器102はトリガパルスを発生する。このトリガパルスの具体的な発生方法には様々な公知例があると思われるので説明は省略する。
【0036】
なお、被照射体150が普通に呼吸をしていればこの方法で問題はないが、時々大きく深呼吸をする場合があり、そのときには患部の位置がずれる可能性があり照射を止めねばならない。その一例を図5に示した。呼吸をしたときの腹部の振動波形を表す呼吸波形のピーク値(最大値)が同図(a)に示す範囲L(所定の範囲)内、すなわち普通に呼吸をしている状態であれば、トリガ発生器102がそのピーク値に基づいてトリガパルスを発生する。このときに用いるトリガ発生器の概略構成を図6に示す。図6の(a)はハードウェア的に実現する場合であり、また図6の(b)は計算機を使いソフトウェア的に実現する場合を示している。
【0037】
なお、図3および図5にはトリガ発生器102で発生するトリガを1つしか挙げていないが、実際には従来例で説明したように各パルス電源に対応した複数のトリガが各遅延回路を介して任意の時間遅れで発生するようになっている。
【0038】
実施例2
記実施例1ではトリガ発生器102におけるトリガパルスの発生を、呼吸振動検出器101で検出した呼吸波形のピーク値で決定するようにしたが、前記呼吸波形を微分したときの微分波形のピーク値で判断しても同様の効果が得られる。図7に示すように、同図(a)に示す呼吸振動検出器101で検出した呼吸波形を微分すると、同図(b)に示す微分波形を得る。この微分波形のピーク値が所定の範囲内にある場合にのみ、前記微分波形のゼロクロスポイントで例えばイオン引出し電源103用のトリガパルスを発生する。このときのトリガ発生器102の構成を図8に示す。図6で説明した構成に、呼吸振動検出器101からの信号を微分する微分機能を付加させたものである。
【0039】
実施例3
記実施例ではトリガ発生器102と遅延回路とにより各パルス電源に応じた遅延パルスを所定の時間遅れで得るようにしているが、この実施例では遅延回路手段の機能として、カウンタを用いる。図9は、この実施例の粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。図9において図1と同一の部分については同一の符号を付し説明を省略する。図において、160a〜160hはカウンタであり、予め設定した数のパルスがクロック発生器107から入力されると1つのパルス信号を出力する。161は遅延回路であり、トリガ発生器102で発生したトリガパルスを遅延させ、予め設定された遅延時間が付与された遅延パルスを生成し出力する。
【0040】
トリガ発生器102からは1つのトリガパルスが出力され、このトリガパルスが遅延回路161を介して任意の時間遅れた遅延パルスとなりクロック発生器107へ入力されると、所定のパルス数がクロック発生器から出力される。カウンタはインフレクタ電源20,ライナック電源21,パータベータ電源28a〜28c,デフレクタ電源29,RFKO電源105,イオン引出し電源103の前段に設けられているため、夫々のカウンタへ設定するプリセット値によりトリガ発生器102から出力されるトリガパルスに対して任意の時間遅れで前記各パルス電源へ起動用のパルスを出力できる。
【0041】
実施例4
図10はこの実施例4の粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。図10において図1と同一の部分については同一の符号を付し説明を省略する。この実施例では、クロック発生器107から出力されるクロック周期を偏向電磁石電源22などに要求される周期よりも早くし、前記クロックの繰り返し周波数を上げる。このため、偏向電磁石電源22などに送られるクロックは分周器(周波数変換手段)171によりメモリ装置64に必要とされるクロック信号周波数へ変換し、メモリ装置64へ供給する。メモリ装置64では、前記供給されるクロック信号周波数のクロックにより前記偏向電磁石電源22などの各種電磁石電源へ制御パターンを順次出力する。
【0042】
一方、カウンタ160a〜160hへは、偏向電磁石電源22などに要求される周期よりも早くした周波数のクロックが供給されてカウントされる。この場合のカウンタ160a〜160hは、カウンタ値の桁数が大きい値となるため相応のステージ数を有したプリセット可能なリップルカウンタを使用することが可能であるが、他の種類のカウンタを用いることもできる。
【0043】
この結果、カウンタ値が「1」状態変化するのに要する時間は前記クロックの繰り返し周波数に応じた周期時間となり、プリセット値を調整することで荷電粒子の発生、加速、入射、出射に必要なイオン引出し電源103などの種々のパルス電源を起動するタイミングを細かに調整することができる。
【0044】
実施例5
上説明した実施例では呼吸振動検出器101の呼吸振動を検出するセンサとして圧電素子101bを用いたが、図11に示すような歪ゲージ101dを用いても同様の効果が得られる。歪ゲージは呼吸に伴う皮膚の伸び縮みを電気信号に変換するものであり、呼吸にほぼ比例した電気信号が得られる。
【0045】
実施例6
また、図12に示すようにセンサとして加速度センサ101eを用いても同様の効果が得られる。これは、呼吸に伴う身体の振動の加速度を検出するものであり、同図(ロ)に示すように皮膚の位置変動の時間微分が速度であり、さらにその時間微分が加速度である。従って、加速度センサ101eを用いることで呼吸に伴う身体の例えば腹部あるいは胸部の動きに伴う加速度を検出することで、前記歪ゲージと同様の効果が得られる。
【0046】
実施例7
また、図13に示すようにセンサとして二酸化炭素検出器101fを用いても同様の効果が得られる。これは呼吸に含まれる二酸化炭素濃度を検出するものであり、呼吸に伴って排出される二酸化炭素濃度が吸込んだ空気を吐き出す呼吸動作と密接に関連していることに着目したものであり、前記歪ゲージあるいは加速度センサと同様な効果が得られる。
【0047】
参考例1
次に、この発明の実施例ではないが、この発明に関連する参考例として、異なった運転方式のシンクロトロンにおいて被照射体の呼吸に同期させてビーム出射を行う場合について述べる。図14はコンバインドファンクション電磁石を用いたラピッドサイクリングシンクロトロンおよびそのタイミング制御装置を示す平面図であり、図2と同一の部分については同一の符号を付し説明を省略する。図15はタイミング制御装置の構成を示すブロック図、図16は図15に示したタイミング制御装置による前記ラピッドサイクリングシンクロトロンの運転時のタイムチャート、図17はコンバインドファンクション電磁石の結線方法の概略図、図18は比較のために示す上述したシンクロトロンの電磁石の結線概略図である。
【0048】
図14において、232は共振励磁方式で運転される電磁石電源であり、図17に示すように偏向電磁石40、四極電磁石41,42、六極電磁石143の各電磁石に直列に通電を行うための電源である。直列に通電されるため各電磁石のコイルの巻数は必要な磁場強度が得られるように設計され、また図では省略しているが各電磁石の相対磁場強度が時間的に一定となるようにそれぞれに補助コイルが設けられている。共振励磁方式とは、電磁石のコイルのインダクタンスとそれに直列に接続されたコンデンサ232bとで決まる共振周波数で繰り返し運転するものであり、コンデンサ232bおよび電源232aを含めてここでは電磁石電源232と呼ぶ。この共振励磁方式では、電磁石電源出力波形は正弦波となり、20Hz程度の早い繰り返しが可能となる。正弦波とは言ってもコイルには常に同方向に電流が流れるように電源232aは工夫されており、通常は正弦波のボトム付近でビーム入射を行い、トップ付近で出射を行う。また、高周波電源26は電磁石電源232に同期して運転される。なお、この方式は数十年前から実施されているものであり新規性はない。
【0049】
図15において、234はトリガ発生器から出力されるパルスを受けビーム出射に必要な時間幅を有した遅延パルスを出力する出射ゲート回路、235は電磁石電源232の出力に同期してトリガパルスを発生するマスタートリガ発生器、236は出射に必要な時間帯だけマスタートリガ発生器235から出力されるトリガパルスを通過させるAND回路(論理積演算回路)、遅延回路104,106,12a〜12fはAND回路236から出力されるトリガパルスを任意の時間遅れで各パルス電源に送出する回路である。また、前記実施例1において使用したインフレクタ電源20、パータベータ電源28a〜28c、デフレクタ電源29などはその用途に応じて入射機器電源237、出射機器電源238として示してある。
【0050】
上述したように、このラピッドサイクリングシンクロトロンは早い繰り返しで運転されるため、ビーム出射方式は従来例で示したキッカ電磁石49を使用した高速取り出しにより行われる。ビームの出射時間としては、ここでは実際に科学技術庁放射線医学総合研究所で用いられている400ms程度を考える。呼吸振動においてこの程度の時間であれば患部の位置は一定とみなせるのであろう。ラピッドサイクリングシンクロトロンの繰り返しを20Hzとすると、400msの間に8回の出射が可能となる。
【0051】
図15および図16において、呼吸振動検出器101で呼吸振動を検出したときの電気信号の任意の位相でトリガ発生器102から図16の(b)に示すパルスを発生させる。このパルスにより出射ゲート回路234から同図(c)に示す400ms幅の遅延パルスが出力される。一方、電磁石電源232は連続的に20Hzで運転されており、マスタートリガ発生器235からは前記電磁石電源232に同期した20Hzのトリガパルスが、図16の(e)に示すように電磁石電源232の出力波形のボトムにおいて出力される。但し、視覚的に理解しやすいように、出射ゲート幅に対して図16の(d)に示す電磁石電源232の出力波形は20Hzの繰り返しにはなっていない。AND回路236により、出射ゲート回路234から400msecのパルス幅の遅延パルスが出力されている間だけ、マスタートリガ発生器235から出力されるトリガパルスが遅延回路104,106,12a〜12fに送出される。前記各遅延回路は、前記各電源の立ち上がり時間を考慮して最適なタイミングで入射および出射ができるように遅延時間が設定される。
【0052】
参考例はこのように構成されているため、イオン引き出し電源103、ライナック電源21、入射機器電源237、出射機器電源238が被照射体の呼吸振動に同期して運転され、電磁石電源232は独立して連続的に運転される。また、呼吸振動検出器101とトリガ発生器102については上述した夫々の実施例を適用することが可能である。
【0053】
参考例2
なお、前記参考例1では電磁石電源232は常に運転しているとしたが、出射に必要な時間だけ運転する方式でも同様の効果が得られる。図19は出射に必要な時間だけ電磁石電源232を運転する場合の動作を示すタイムチャート、図20はタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。図20において、240は電磁石電源232の運転時間を決定する電磁石電源運転ゲート回路である。電磁石電源運転ゲート回路240は、トリガ発生器102から出力されるパルスを受け、電磁石電源232の運転に必要な時間幅のパルスを出力する。このパルス幅は、出射ゲート回路234からのパルスが出力されている期間内で電磁石電源232が定常運転できるように、出射ゲート回路234から出力されるパルスのパルス幅よりも広くする。また、マスタートリガ発生器235から出力されるトリガパルスは、電磁石電源232の運転に連動して出力される。
なお、前記参考例1および参考例2で使用した遅延回路の代りに、前記実施例で示したようなカウンタを使用しても同様の効果が得られる。この場合のクロック発生器としては、電磁石電源232の制御とは無関係に任意の周波数のクロック信号を発生するクロック発生器が使用できる。
【0054】
【発明の効果】
の発明によれば、呼吸振動検出器により検出した呼吸振動から得られた呼吸波形の最大値を基に発生するトリガパルスを用いて、荷電粒子発生手段による荷電粒子の発生や高周波線形加速器とシンクロトロンとによる荷電粒子の加速、入射、出射に必要な種々のパルス電源を動作させるように構成したので、荷電粒子の照射を被照射体の呼吸に同期させて正確かつ最適なタイミングで効率良く行うように制御でき、加えて、呼吸波形または当 該呼吸波形の微分値の最大値が所定の範囲内にあるときにのみその最大値に基づいてトリガ発生器がトリガパルスを発生するように構成しているので、呼吸が突然大きくなったときには荷電粒子の発生および荷電粒子の加速、入射、出射を停止させ、荷電粒子の照射を行わないように制御し、誤照射を防止して被照射体への照射精度を向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1の粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施例1のタイミング制御装置が適用される粒子加速器の構成を示す平面図である。
【図3】この発明の実施例1の粒子加速器のタイミング制御装置の動作を示すタイムチャートである。
【図4】この発明の実施例1における粒子加速器のタイミング制御装置の呼吸振動検出器の概念図および呼吸振動を示す波形図である。
【図5】この発明の実施例1の粒子加速器のタイミング制御装置における呼吸振動と出射との関係を示すタイムチャートである。
【図6】この発明の実施例1における粒子加速器のタイミング制御装置のトリガ発生器の構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施例2の粒子加速器のタイミング制御装置における呼吸振動と出射との関係を示すタイムチャートである。
【図8】この発明の実施例2の粒子加速器のタイミング制御装置におけるトリガ発生器の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施例3の粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】この発明の実施例4の粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施例5の粒子加速器のタイミング制御装置における呼吸振動検出器を示す概念図および呼吸振動を示す波形図である。
【図12】この発明の実施例6の粒子加速器のタイミング制御装置における呼吸振動検出器を示す概念図および呼吸振動を示す波形図である。
【図13】この発明の実施例7の粒子加速器のタイミング制御装置における呼吸振動検出器を示す概念図および呼吸振動を示す波形図である。
【図14】参考例1に係る粒子加速器のタイミング制御装置が適用される粒子加速器を示す平面図である。
【図15】参考例1に係る粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。
【図16】参考例1に係る粒子加速器のタイミング制御装置の動作を示すタイムチャートである。
【図17】参考例1係るシンクロトロン電磁石の配線図である。
【図18】参考例1係る各電磁石の配線図である。
【図19】参考例2係る粒子加速器のタイミング制御装置の動作を示すタイムチャートである。
【図20】参考例2係る粒子加速器のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。
【図21】従来のタイミング制御装置が使用される粒子加速器を示す平面図である。
【図22】従来のタイミング制御装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
2 シンクロトロン(荷電粒子加速手段)、12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g,104,106,161 遅延回路、64 メモリ装置(記憶装置)、100 イオン源(荷電粒子発生手段)、101 呼吸振動検出器、102 トリガ発生器、107 クロック発生器、160a,160b,160c,160d,160e,160f,160g,160h カウンタ、171 分周器(周波数変換手段)。

Claims (1)

  1. 荷電粒子を発生する荷電粒子発生手段と、発生した前記荷電粒子を加速する高周波線形加速器とシンクロトロンと、加速した前記荷電粒子を被照射体に照射する荷電粒子照射手段とを備えた粒子加速器において、前記被照射体の呼吸振動を呼吸波形として検出する呼吸振動検出器と、検出された前記呼吸波形または当該呼吸波形の微分値の最大値が所定の範囲内にあるときにのみ当該最大値に基づいてトリガパルスを発生するトリガ発生器と、発生した前記トリガパルスに、予め相互の時間関係が一定に設定された複数の遅延時間を付与して遅延パルスをそれぞれ生成し、当該遅延パルスを前記荷電粒子の発生および前記荷電粒子の加速、入射、出射に必要な種々のパルス電源に対応させて出力する遅延回路手段とを備えることにより、前記粒子加速器の各部の動作タイミングを制御する粒子加速器のタイミング制御装置。
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