JP3591948B2 - 透明性と離型性に優れたプロピレン樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は透明性、離型性に優れたプロピレン樹脂組成物に関し、詳しくは透明性、離型性に優れ射出成形用途に好適なシンジオタクチックプロピレン樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、アイソタクチックプロピレン樹脂は剛性と耐衝撃性のバランスに長じているのみならず、耐薬品性においても優れているため雑貨、医療関係等の成形品の原料とされているが、中でも、プロピレン−エチレンランダム共重合体は透明性の利点から各種食品容器、注射器、化粧品容器等に使用されている。
【0003】
一方で近年成形品の透明性に対する要求はますます高まっているため、従来のアイソタクチックポリプロピレンを改良する試みが多数なされている。例えば、プロピレン−エチレンランダム共重合体にソルビトール系の透明核剤を添加する等の方法が知られているが、現状では2mmの射出シート等の比較的厚い成形品に関して、ヘイズ値改良の限界が15%程度であり、更に良好な組成物の開発が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は透明性に優れ、実用成形上の問題点を克服したシンジオタクチックプロピレン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは比較的透明性の優れているポリプロピレンをベースとして、通常の成形条件で成形可能で、かつ優れた透明性を有する組成物について鋭意研究を重ねた結果、特定のシンジオタクチックポリプロピレンとアイソタクチックポリプロピレンを適当な比率でブレンドすることで非常に透明な成形物が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、シンジオタクチックポリプロピレン70〜90重量%とアイソタクチックポリプロピレン10〜30重量%とからなる混合物であって、アイソタクチックポリプロピレンの極限粘度数〔ηi 〕と、シンジオタクチックポリプロピレンの極限粘度数〔ηs 〕の関係が下記一般式〔1〕(数2)である透明性と離型性に優れたプロピレン樹脂組成物である。
【0007】
【数2】
−1.0≦〔ηi 〕−〔ηs 〕≦0.5 〔1〕
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に使用されるシンジオタクチックポリプロピレンとは、シンジオタクチック構造のプロピレン単独重合体が好ましく用いられ、その分子量も成形物に適した極限粘度数〔ηs 〕が0.2〜3.0dl/g、好ましくは0.5〜2.0dl/gにおいて使用可能であり、またラセミペンタッド分率については0.7以上、好ましくは0.8以上が好適範囲である。
【0009】
このようなシンジオタクチックポリプロピレンの製造方法としては、例えば、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル−1−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド等のメタロセン触媒とメチルアルミノキサン助触媒とからなる触媒系にて重合することが可能であり、その重合方法としては溶媒重合法や実質的に溶媒の存在しない塊状重合法、気相重合法のいずれについても利用可能である。
【0010】
本発明に使用されるアイソタクチックポリプロピレンとは、アイソタクチック構造のプロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体などが例示できるが、透明性の改良効果を見た場合は、プロピレン単独重合体に較べてプロピレン−エチレンランダム共重合体の方が好ましく用いられる。
【0011】
これらアイソタクチックポリプロピレンは、通常の市販品がそのまま利用できるが、製造する場合においては、例えば塩化マグネシウム担体型チタン触媒とトリエチルアルミニウム助触媒および各種外部ドナー(電子供与性化合物)とからなる触媒系にて重合することが可能であり、その重合方法も上記シンジオタクチックポリプロピレンの製造方法と同様に、溶媒重合法や実質的に溶媒の存在しない塊状重合法、気相重合法のいずれについても利用可能である。
【0012】
アイソタクチックポリプロピレンとしてプロピレン−エチレンランダム共重合体を用いる場合においては、そのエチレン含量が1.0重量%以上、好ましくは3.0重量%以上であることがより望ましい。エチレン含量が1.0重量%に満たないと、プロピレン単独重合体の場合と同様に透明性の改良効果が不充分となる。しかも、その共重合体の分子量として極限粘度数〔ηi 〕が、上述の一般式〔1〕を満たすように設定する必要がある。
【0013】
本発明で重要なのは、上述のシンジオタクチックポリプロピレンとアイソタクチックポリプロピレンとの組成比率が、シンジオタクチックポリプロピレン70〜90重量%とアイソタクチックポリプロピレン10〜30重量%であり、しかもそのアイソタクチックポリプロピレンの極限粘度数〔ηi 〕とシンジオタクチックポリプロピレンの極限粘度数〔ηs 〕の差〔ηi 〕−〔ηs 〕が−1.0〜0.5、好ましくは−0.5〜0.2の範囲にあることである。
【0014】
ここで〔ηi 〕−〔ηs 〕の値が0.5を越えると、シンジオタクチックポリプロピレンの特長である透明性が著しく損なわれるため好ましくない。また、該値が−1.0に満たないものについては、ブレンドするアイソタクチックポリプロピレンとの相容バランスがくずれ、結果として混合系の固化速度が遅くなるため好ましくない。
【0015】
本発明においては、成形時の離型性改良の目的で滑剤、造核剤等を添加することは好ましい態様である。
【0016】
本発明において好ましく用いられる滑剤としてはオレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアミド系の滑剤が使用可能であるが、中でも離型効果の点でエチレンビスステアリン酸アミドが有効である。エチレンビスステアリン酸アミドの添加量は、プロピレン樹脂組成物100重量部に対して0.05〜0.20重量部である。この添加量が0.20重量部を越えての添加では成形品の透明性が悪化し、また0.05重量部に満たないと離型性改良効果が半減する。
【0017】
本発明において好ましく用いられる造核剤としては通常アイソタクチックポリプロピレンに用いられている公知の造核剤をそのまま用いることができ、その中でも1,3,2,4−ジベンジリデン−ソルビトール、1,3,2,4−ジ−p−メチルベンジリデン−ソルビトール、1,3,2,4−ジ−p−メトキシベンジリデン−ソルビトール等のソルビトール系の造核剤が好ましく、その添加範囲はプロピレン樹脂組成物100重量部に対して0.05〜0.20重量部である。この添加量が0.20重量部を越えての添加では成形品の透明性が悪化し、また0.05重量部に満たないと離型性改良効果が半減する。
【0018】
本発明においては、上述の滑剤と造核剤とを併用して用いることも好ましい態様ではあるが、合計の添加量はプロピレン樹脂組成物100重量部に対して0.05〜0.20重量部である。ここで滑剤と造核剤との組成比率は、目的に応じて任意に決めればよい。添加量が0.20重量部を越えての添加では成形品の透明性が悪化し、また0.05重量部に満たないと離型性改良効果が半減する。
【0019】
本発明における樹脂組成物には必要に応じて酸化防止剤、中和剤等の添加剤を通常使用している範囲内で添加することができる。
【0020】
本発明のプロピレン樹脂組成物は、上述のシンジオタクチックポリプロピレンとアイソタクチックポリプロピレン、必要に応じて滑剤と造核剤、さらにはその他添加剤を、例えばヘンシェルミキサーで混合した配合粉として、あるいはこの配合粉を、例えば単軸、二軸押出機やロール混練機等により溶融造粒したペレットとして得ることができる。
【0021】
このようにして得られたプロピレン樹脂組成物は、射出シート(180mm×90mm/厚み2mm)とした時の透明性が市場に普及しているプロピレン−エチレンランダム共重合体よりも優れており、また透明性と離型性との均衡がとれた、実用成形するに良好な樹脂組成物である。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0023】
実施例1
〔シンジオタクチックポリプロピレンの製造〕
乾燥および窒素置換が充分なされた内容積1000リットルのオートクレーブにプロピレン150kgを装入し、槽内を60℃に保ちながら定法に従って調製されたシリカ担持型メチルアルミノオキサン、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピル(シクロペンタジエニル−2,7−ジ−ターシャルブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライドとからなる触媒成分(構成重量比は50:1:1)1.01g/h、トリイソブチルアルミニウム6.7g/hの連続装入条件下で、気相部の水素濃度を0.5モル%に保ちながらプロピレンを112.5kg/hで連続供給した。重合槽の平均滞留時間は1.65hで、反応速度は61kg/hであった。重合後のスラリーは500リットルの脱活槽に移液され、130ml/hの速度で装入されたメタノールにより失活させた。得られたスラリーは洗浄、乾燥工程を経た後、210kgのシンジオタクチックポリプロピレンが得られた。このポリマーの極限粘度〔ηs 〕は0.90dl/g、ラセミペンタッド分率rrrrは0.846、重量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnは3.7であった。
【0024】
〔アイソタクチックポリプロピレンの製造〕
乾燥および窒素置換が充分なされた内容積100リットルのオートクレーブにプロピレン25kgを装入した。更にトリエチルアルミニウム1.5ml、プロピルトリエトキシシラン2.2ml、塩化マグネシウム担持型チタン触媒0.30gを500mlのn−ヘプタンに希釈混合した触媒成分を圧入したのち、槽内温度を70℃で気相部の水素およびエチレンの濃度をそれぞれ20.0モル%、3.0モル%に保ちながら、プロピレンを5kg/hで連続装入し、3時間重合した後、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル6mlを圧入して60℃で30分間攪拌し重合を終了した。得られたスラリーは洗浄、乾燥工程を経た後、16.5kgのアイソタクチックポリプロピレン(プロピレン−エチレンランダム共重合体)が得られた。このポリマーの極限粘度〔ηi 〕は0.65dl/g、エチレン含量は5.1重量%であった。
【0025】
〔プロピレン樹脂組成物の製造〕
上記で得たシンジオタクチックポリプロピレン80重量%とアイソタクチックポリプロピレン20重量%からなる混合物100重量部に、添加剤としてステアリン酸カルシウム0.02重量部、イルガノックス1010(チバガイギー(株)社製)0.05重量部、イルガフォス168(チバガイギー(株)社製)0.1重量部、滑剤としてアーモワックスEBS(ライオン(株)社製)0.1重量部をヘンシェルで混合し、次いで、250℃温度条件にて50mm単軸押出機により混練造粒した。
【0026】
こうして得られたペレットを用いて、日本製鋼所J100E−C5射出成形機(成形温度190℃、金型温度40℃)によりシート(80mm×160mm/厚み2mm)を成形し、透明性(ヘイズ)測定用のサンプルとした。また、離型性評価に関しては、上述射出シート成形時に四隅のエジェクターピンの作動により外観上問題のない成形品が取りだせる冷却時間を測定し離型時間とした。
〔ηi 〕−〔ηs 〕が−0.25と小さいこの系では、滑剤添加時の透明性の低下を抑制しながら、離型性を改良することができた。結果を表1に示す。
【0027】
実施例2
滑剤としてのアーモワックスEBS(ライオン(株)社製)に代えて造核剤としてゲルオール−MD(新日本理化(株)社製)を用いた他は実施例1と同様に配合、成形、物性評価を行った。〔ηi 〕−〔ηs 〕が−0.25と小さいこの系では造核剤を添加した場合においても透明性低下を抑制しながら、離型性を改良することができた。結果を表1に示す。
【0028】
実施例3
外部ドナーをプロピルトリエトキシシランに代えてシクロヘキシルメチルジメトキシシランを用いた他は実施例1と同様にしてアイソタクチックポリプロピレンを製造したところ〔ηi 〕=0.90dl/g、エチレン含量5.1重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体18.0kgを得た。この共重合体を用いて射出成形温度を200℃とした他は実施例1と同様に配合、成形、物性評価を行った。〔ηi 〕−〔ηs 〕が0と小さいこの系では、滑剤添加時の透明性低下を抑制しながら、離型性を改良することができた。結果を表1に示す。
【0029】
実施例4
滑剤としてのアーモワックスEBS(ライオン(株)社製)に代えて造核剤としてゲルオール−MD(新日本理化(株)社製)を用いた他は実施例3と同様に配合、成形、物性評価を行ったところ、造核剤添加時の透明性低下を抑制しながら、離型性を改良することができた。結果を表1に示す。
【0030】
比較例1
水素濃度を0.4モル%にした他は実施例3と同様にしてアイソタクチックポリプロピレンを製造したところ〔ηi 〕=2.69dl/g、エチレン含量4.7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体10.2kgを得た。この共重合体を用いて射出成形温度を210℃とした他は実施例1と同様に配合、成形、物性評価を行った。〔ηi 〕−〔ηs 〕が1.79と大きいこの系では滑剤添加時の透明性低下が著しい結果となった。結果を表1に示す。
【0031】
比較例2
滑剤のかわりに、造核剤としてゲルオール−MD(新日本理化(株)社製)を用いたことを除いて比較例1と同様に配合、成形、物性評価を行った。比較例1同様、造核剤添加時の透明性低下が著しい結果となった。結果を表1に示す。
【0032】
実施例5
シンジオタクチックポリプロピレンを75重量%、アイソタクチックポリプロピレンを25重量%となるように混合し、滑剤および造核剤を用いなかった他は実施例1と同様に配合、成形、物性評価を行った。成形物の透明性は良好であったが、離型性はやや低下した。結果を表1に示す。
【0033】
比較例3
アイソタクチックポリプロピレンを比較例1で用いた〔ηi 〕=2.69dl/g、エチレン含量4.7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体に代えた他は実施例5と同様に配合、成形、物性評価を行った。成形物の透明性が低下した。結果を表1に示す。
【0034】
実施例6
〔シンジオタクチックポリプロピレンの製造〕
乾燥および窒素置換が充分なされた内容積1000リットルのオートクレーブにプロピレン150kgを装入し、槽内を60℃に保ちながら定法に従って調製されたシリカ担持型メチルアルミノオキサン、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピル(シクロペンタジエニル−2,7−ジ−ターシャルブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライドとからなる触媒成分(構成重量比は50:3:1)3.73g/h、トリイソブチルアルミニウム11.8g/hの連続装入条件下で、気相部の水素濃度を2.3モル%に保ちながらプロピレンを124.4kg/hで連続供給した。重合槽の平均滞留時間は1.52hで、反応速度は57kg/hであった。重合後のスラリーは500リットルの脱活槽に移液され、130ml/hの速度で装入されたメタノールにより失活させた。得られたスラリーは洗浄、乾燥工程を経た後、196kgのシンジオタクチックポリプロピレンが得られた。このポリマーの極限粘度〔ηs 〕は1.40dl/g、ラセミペンタッド分率rrrrは0.833、重量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnは4.1であった。
【0035】
〔アイソタクチックポリプロピレンの製造〕
外部ドナーをプロピルトリエトキシシランに代えてシクロヘキシルメチルジメトキシシランを用い、また水素濃度を4.0モル%とした他は実施例1と同様にしてアイソタクチックポリプロピレンを製造したところ〔ηi 〕=1.46dl/g、エチレン含量4.9重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体16.2kgを得た。
【0036】
〔プロピレン樹脂組成物の製造〕
上記で得たシンジオタクチックポリプロピレン80重量%とアイソタクチックポリプロピレン20重量%からなる混合物100重量部を、添加剤としてステアリン酸カルシウム0.02重量部、イルガノックス1010(チバガイギー(株)社製)0.05重量部、イルガフォス168(チバガイギー(株)社製)0.1重量部、滑剤としてアーモワックスEBS(ライオン(株)社製)0.05重量部、造核剤としてゲルオール−MD(新日本理化(株)社製)0.05重量部をヘンシェルで混合し、次いで、250℃温度条件にて50mm単軸押出機により混練造粒した。
【0037】
こうして得られたペレットを用いて、射出成形温度を260℃にした他は実施例1と同用に成形、物性評価を行った。シンジオタクチックポリプロピレンの極限粘度の大きなこの系でも、滑剤/造核剤の添加時の透明性低下を抑制しながら、離型性を改良することができた。結果を表1に示す。
【0038】
比較例4
アイソタクチックポリプロピレンを比較例1で用いた〔ηi 〕=2.69dl/g、エチレン含量4.7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体に代えた他は実施例6と同様に配合、成形、物性評価を行ったところ、成形物の透明性が低下した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【発明の効果】
本発明により、シンジオタクチックポリプロピレンとアイソタクチックポリプロピレンのブレンド条件として両者の固有粘度の差が−1.0≦〔ηi 〕−〔ηs 〕≦0.5を満たすことにより、成形性改良を目的とした滑剤、造核剤等の添加によっても、成形品の透明性を損なわずに離型時間の短縮が可能となり、とりわけ実用成形にシンジオタクチックポリプロピレンを適用する場合において極めて有効である。
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