JP3591671B2 - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、触媒下流側の空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量をフィードバック制御する内燃機関の空燃比制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、内燃機関の燃料噴射量は、触媒の浄化能力を最大限に発揮させるべく、実際の排出ガスの空燃比が理論空燃比付近に収束するようにフィードバック制御される。そして、このフィードバック制御は、触媒の吸着状態が最も反映される触媒の下流側の空燃比に基づいて実行するのが望ましいとされている。
【0003】
そこで、近年、特開平6−129283号公報に示すように、触媒下流側に排出ガスの空燃比をリニアに検出する空燃比センサを設置し、燃料噴射弁から空燃比センサまでの制御対象を近似する現代制御のモデルを設定し、そのモデルに対する現在及び過去の入出力(例えば燃料噴射弁の噴射量、空燃比センサにより検出された触媒下流側の空燃比等)を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して燃料噴射弁の噴射量を制御することが考えられている。この空燃比制御に用いるモデルは、触媒モデルを単純な二次遅れ系のモデルで近似したものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、触媒に流入する排出ガス中のCO,HC,NOx,H2 等のガス成分に対して触媒は次のように作用する。
【0005】
▲1▼触媒内における流入ガス成分の吸着反応
触媒内に流入したガス成分の一部は、触媒内部に吸着される。
【0006】
▲2▼流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応
例えば、吸着物質がリーン成分(NOx,O2 等の酸化性成分)の場合には、このリーン成分と流入ガス中のリッチ成分(HC,CO,H2 等の還元性成分)とが酸化還元反応して無害の中性ガス成分(CO2 ,H2 O,N2 等)が生成され、触媒から排出される。
【0007】
▲3▼触媒内吸着物質の離脱反応
触媒内吸着物質の一部は、酸化還元反応を起こさずに触媒から離脱して触媒下流に排出される。
【0008】
▲4▼流入ガス成分の未反応部分の存在(以下「すり抜け」という)
流入ガス成分の一部は、触媒内で吸着反応も酸化還元反応も起こさずにそのまま触媒下流に排出される。
【0009】
従って、触媒による排出ガスの浄化効率を高めるには、▲1▼の吸着反応と▲2▼の酸化還元反応を増加させ、▲3▼の離脱反応を少なくすると共に、▲4▼のすり抜けを低減することが必要となる。これら▲1▼〜▲4▼の条件は、触媒内の吸着状態によって大きく変動し、排出ガスの浄化効率を変動させる。例えば、リーン成分の吸着量が増加するに従って、リーン成分の吸着反応が低下し、リーン成分のすり抜けが多くなるが、この状態でも、流入ガス中のリッチ成分の割合が増えれば、酸化還元反応が増加して吸着物質量が減少する。
【0010】
このような触媒の特性から、本来的には触媒内の吸着状態に応じて空燃比を制御することが理想的であるが、前述したように、従来は、触媒モデルを単純な二次遅れ系のモデルで近似しているため、触媒内の吸着状態が適正に反映されず、これが空燃比制御の精度を低下させる原因となっている。
【0011】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、従ってその目的は、触媒内の吸着状態を適正に反映させた精度の良い空燃比制御を行うことができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の内燃機関の空燃比制御装置は燃料噴射手段から前記下流側空燃比検出手段までの制御対象に近似して設定された制御モデルに対する現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して燃料噴射手段の噴射量を噴射量演算手段により演算する。この際、制御モデルのうちの触媒モデルとして、触媒内における流入ガス成分の吸着反応、流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応、触媒内吸着物質の離脱反応及び流入ガス成分の未反応部分の存在を全て考慮に入れて設定されたモデルを使用する。これにより、触媒内で起こる全ての反応が考慮され、触媒内の吸着状態を適正に反映させた精度の良い空燃比制御を行うことができる。
【0013】
更に、請求項2では、触媒の上流側において排出ガスの空燃比を検出する上流側空燃比検出手段を設け、検出した触媒上流側の空燃比を含む現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して、燃料噴射手段の噴射量を演算する。これにより、触媒の下流側と上流側の双方で空燃比を検出しながら、状態フィードバックを実行でき、高精度な状態フィードバックが可能となる。
【0014】
また、請求項3では、前記触媒モデルは、前記触媒に流入・流出する量、離脱量と未反応成分量について、それぞれリーン成分とリッチ成分とを正負反対の符号で表す。このようにすれば、符号によってリーン成分かリッチ成分かを簡単に判別でき、演算処理が容易となる。
【0015】
また、請求項4では、触媒流入ガス成分及び触媒内吸着物質がリーン成分かリッチ成分かによって触媒内での反応形態を推定し、反応形態毎に触媒モデルのパラメータをパラメータ切替手段によって切り替える。これにより、反応形態に応じた最適の触媒モデルで演算でき、触媒流出ガス成分を精度良く算出することができる。
【0016】
更に、請求項5では、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインをフィードバックゲイン切替手段によって切り替える。これにより、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインを最適なゲインに設定でき、フィードバック特性を向上できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。内燃機関であるエンジン11の吸気管12(吸気通路)の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に吸気温度Tamを検出する吸気温センサ14が設けられ、この吸気温センサ14の下流側にスロットルバルブ15とスロットル開度THを検出するスロットル開度センサ16とが設けられている。更に、スロットルバルブ15の下流側には、吸気管圧力PMを検出する吸気管圧力センサ17が設けられ、この吸気管圧力センサ17の下流側にサージタンク18が設けられている。このサージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド19が接続され、この吸気マニホールド19の各気筒の分岐管部にそれぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁20が取り付けられている。
【0018】
また、エンジン11には各気筒毎に点火プラグ21が取り付けられ、各点火プラグ21には、点火回路22で発生した高圧電流がディストリビュータ23を介して供給される。このディストリビュータ23には、720℃A(クランク軸2回転)毎に例えば24個のパルス信号を出力するクランク角センサ24が設けられ、このクランク角センサ24の出力パルス間隔によってエンジン回転数Neを検出するようになっている。また、エンジン11のシリンダブロックには、エンジン冷却水温Thwを検出する水温センサ38が取り付けられている。
【0019】
一方、エンジン11の排気ポート(図示せず)には、排気マニホールド25を介して排気管26(排気通路)が接続され、この排気管26の途中に、排出ガス中の有害成分(CO,HC,NOx等)を低減させる三元触媒等の触媒27が設けられている。この触媒27の上流側と下流側には、それぞれ排出ガスの空燃比λF ,λR に応じたリニアな空燃比信号(限界電流)を出力する上流側空燃比センサ28(上流側空燃比検出手段)と下流側空燃比センサ29(下流側空燃比検出手段)が設けられている。
【0020】
上述した各種のセンサの出力は電子制御回路30内に入力ポート31を介して読み込まれる。電子制御回路30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、CPU32、ROM33、RAM34、バックアップRAM35を備え、各種センサ出力から得られたエンジン運転状態パラメータを用いて燃料噴射量TAUや点火時期Ig等を演算し、その演算結果に応じた信号を出力ポート36から燃料噴射弁20や点火回路22に出力してエンジン11の運転を制御する。
【0021】
以下、これらの制御のうち空燃比制御(燃料噴射量TAUの制御)について説明する。本実施形態の空燃比制御では、空燃比制御に現代制御理論が適用されており、制御対象全体をモデル化して、下流側空燃比λR を理論空燃比λ=1に収束させるように状態フィードバックを実行する。この現代制御における各要素の設定手順は次の通りである。
【0022】
[A]制御対象のモデリング
燃料噴射弁20から下流側空燃比センサ29までの制御対象全体をモデル化している。但し、制御対象全体を一括してモデル化すると、系全体が大きくなり過ぎて精度が低下するため、制御対象の中間位置における信頼性の高いセンサ情報として上流側空燃比センサ28により検出された触媒上流側の空燃比λF を利用し、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系と、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系とに分割してモデル化している。
【0023】
(1)燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系のモデル
燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までのモデルに、むだ時間P=3を持つ次数1の自己回帰移動平均モデルを用い、更に外乱dを考慮して近似している。即ち、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系の伝達関数Gは、図3に示すように設定される。図3においてa1 ,b1 はモデルの応答性を決定するための定数である。尚、モデルのむだ時間Pとしては、エンジン11及び周辺機器の仕様等に応じてP=3以外の種々の値に設定しても良い。
【0024】
自己回帰移動平均モデルを用いた燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系のモデルは、次式で近似できる。
λF(i+1)=a1 ・λF(i)+b1 ・FAF(i−2)
ここで、λF は触媒上流側の排出ガスの空燃比、FAFは燃料噴射弁20の噴射量を補正するための空燃比補正係数、i は最初のサンプリング開始からの回数を示す変数である。
【0025】
上式において、外乱d1 を考慮すると、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系のモデルは、次式で近似できる。
λF(i+1)=a1 ・λF(i)+b1 ・FAF(i−2) +d1(i) ……(1)
以上のようにして近似したモデルに対し、ステップ応答を用いて回転周期(360℃A)のサンプリングで離散化して定数a1 、b1 を定めること、即ち、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系の伝達関数Gを求めることは容易である。
【0026】
(2)触媒27のモデル(触媒モデル)
この触媒モデルは、▲1▼触媒27内における流入ガス成分の吸着反応(リーン成分の吸着とリッチ成分の吸着)、▲2▼流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応(触媒内リッチ成分が流入ガスのリーン成分により酸化され、触媒内リーン成分が流入ガスのリッチ成分により還元される)、▲3▼触媒内吸着物質の離脱反応、▲4▼流入ガス成分の未反応部分の存在(すり抜け)が全て考慮されている。
【0027】
上記▲1▼,▲2▼による触媒内反応量hannouは次の(2)式で表される。
hannou=αo ・kkh・Δ・InG ……(2)
ここで、αo =1−JYOUKAであり、JYOUKAは燃焼空燃比に対する浄化率である(図4参照)。また、kkhは触媒27の浄化特性から求まる浄化されない割合のうち、触媒27への吸着又は酸化還元反応に寄与する割合である。また、Δは反応形態毎に切り替えられる定数であり、InGは触媒27に流入するガス量(触媒流入ガス量)である。触媒27内で起こる反応形態は、下記の表1に示すように4つの反応形態LK,LH,RH,RKに分類される。
【0028】
【表1】
【0029】
これら各反応形態LK,LH,RH,RK毎に、上述した触媒モデルのパラメータJYOUKA,kkh,Δが下記の表2のように切り替えられる。
【0030】
【表2】
【0031】
また、前記▲3▼による離脱反応量dropは次の(3)式で表される。
drop=k’’・OSIO ……(3)
ここで、k’’は離脱時定数であり、OSIOは前回演算時の触媒内吸着物質量である。
【0032】
また、前記▲4▼による未反応成分量(すり抜け量)surinukeは次の(4)式で表される。
surinuke=αo ・(1−kkh)・InG ……(4)
そして、触媒内吸着物質量OSIは次の(5)式で表される。
OSI=OSIO+hannou−drop ……(5)
また、触媒27から流出するガス量(触媒流出ガス量)OutGは次の(6)式で表される。
OutG=surinuke+drop ……(6)
【0033】
以上説明した(2)〜(6)式で表される触媒モデルをブロック線図で表すと図2のようになる。この触媒モデルの入力を触媒流入ガス量InG、出力を触媒流出ガス量OutGとすると、伝達関数は次の(7)式で表される。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、α´=αo ・kkh・Δ
α=αo ・(1−kkh)
上記(2)〜(7)においては、リーン成分をプラス値で表し、リッチ成分をマイナス値で表す。
【0036】
次に、触媒流入ガスInGの各成分のモル数を演算する流入ガスモル数演算ルーチンを図5のフローチャートに従って説明する。本ルーチンは、所定クランク角毎又は所定時間毎に繰り返し処理される。処理が開始されると、まずステップ101で、上流側空燃比センサ28の出力信号を読み込んで、流入ガスの空燃比A/Fを検出する。次のステップ102で、流入ガス中のO2 モル濃度O2INMC,H2 モル濃度H2INMC,COモル濃度COINMC,CO2 モル濃度CO2INMCを空燃比A/Fに応じてテーブル検索又は理論式で算出し(図6参照)、これらの算出値を用いて、次のステップ103にて、H2 Oモル濃度H2OINMCを算出する。次のステップ104では、後述するステップ107で用いる分数式の分母KKKBUNBOを算出し、続くステップ105で、基本噴射量Tpg(g換算)を基本噴射時間Tp,インジェクタサイズINJSIZE,燃料比重ρを用いて次式により算出する。
Tpg=Tp×INJSIZE×ρ
【0037】
更に、ステップ106では、次のステップ107で用いる変数OFIN,OMOLを算出する。この後、ステップ107で、上述したステップ102〜106の処理で求めた数値を用いて流入ガス中のO2 モル数O2INM,H2 モル数H2INM,COモル数COINM,CO2 モル数CO2INM,H2 Oモル数H2OINMを算出する。
【0038】
この算出結果を基に、触媒流入ガス成分がリーン成分かリッチ成分かを判定すると共に、前記(5)式で算出される触媒内吸着物質量OSIがプラス値かマイナス値かによって触媒内吸着物質量OSIがリーン成分(L)かリッチ成分(R)かを判定し、前掲した表2に従って触媒27内での反応形態が、リーン成分の吸着反応LK、触媒内リーン成分が流入ガスのリッチ成分により還元される反応LH、触媒内リッチ成分が流入ガスのリーン成分により酸化される反応RH、リッチ成分の吸着反応RKのいずれに該当するかを判定し、その判定結果に基づいて反応形態LK,LH,RH,RK毎に、触媒モデルのパラメータJYOUKA,kkh,Δを表2に従って切り替える。
【0039】
(3)触媒27から下流側空燃比センサ29までの系のモデル
下流側空燃比センサ29を1次遅れ系で近似している。これにより、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系の伝達関数Gは図7に示すように設定される。図7において、a2 =1−k’’、b2 =k’’・α´であり、a3 ,b3 は定数である。図7のモデルにおいて触媒上流側空燃比λF と触媒下流側空燃比λR との関係は次のようになる。
【0040】
【数2】
【0041】
従って、図7のモデルは図8のように表すことができる。この図8のモデルから次のような関係が求められる。
λR (i+3) −A1 λR (i+2) +A2 λR (i+1) =B1 λF (i+1) +B2 λF (i) この関係から、λR (i+1) は次式で算出される。
【0042】
以上のようにして近似したモデルに対し、ステップ応答を用いて回転周期(360℃A)のサンプリングで離散化して定数A1 ,A2 ,B1 ,B2 を定めること、即ち、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系の伝達関数Gを求めることは容易である。
【0043】
[B]状態変数量Xの表示方法(但しXはベクトル量である)
(1)燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系
前記(1)式を状態変数量X(i) =[X1(i),X2(i),X3(i),X4(i)]T を用いて書き直すと、次のようになる。
【0044】
【数3】
【0045】
これらの式から次式の関係が求められる。
X1(i+1)=a1 X1(i)+b1 X4(i)+d1=λF(i+1)
X2(i+1)=FAF(i)
X3(i+1)=X2(i)=FAF(i−1)
X4(i+1)=X3(i)=FAF(i−2)
【0046】
(2)触媒27から下流側空燃比センサ29までの系
前記(8)式を状態変数量Z(i) =[Z1(i),Z2(i),Z3(i),Z4(i)]T を用いて書き直すと、次のようになる。
【0047】
【数4】
【0048】
これらの式から次式の関係が求められる。
【0049】
(3)制御対象全体
上記した各式から制御対象全体の状態数量は次の様になる。
【0050】
【数5】
【0051】
[C]レギュレータの設計
まず、レギュレータの設計にあたり、偏差e(i)を次式のように定義する。
e(i) =λTG−λR(i)
ここで、λTGは触媒下流側空燃比λR の目標空燃比であり、本実施形態では、λTG=1(理論空燃比)に設定されている。そして、この偏差e(i) を0にする状態フィードバックを設計すべく、上記した[数5]に基づいて次の拡大系を設定する。
【0052】
【数6】
【0053】
ここで、q−1は時間遅れ要素である。
そして、X(i+1) =AX(i) +bFAF(i) とおくと、このときの状態フィードバックは、次式で表される。
【0054】
ここで、積分項ZI(i) は、目標空燃比ATG(=1,0)と実際の下流側空燃比λR との偏差e(i) と、積分定数KIとから決定される値であって、次式により求められる。
ZI(i) =ZI(i−1) +KI・(1.0一λR(i)) ……(10)
ここで、フィードバックゲインK1 〜K8 及び積分定数KIは最適レギュレータ手法により算出できるが、触媒モデルは、反応形態毎に4種類の定数を持つので、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインK1 〜K8 を切り替える。
【0055】
図9は上述のようにモデルを設計した空燃比制御システムにおける現代制御の状態フィードバックを示すブロック線図である。この図9において、空燃比補正係数FAF(i) を前回のFAF(i−1) から導くためにZ−1変換を用いて表示したが、これは前回処理で求められたFAF(i) を前回の値FAF(i−1) としてRAM34に記憶しておき、次の制御タイミングで読み出して用いている。ちなみに、FAF(i−1) は前回の空燃比補正係数を表し、FAF(i−2) は前々回の空燃比補正係数を表し、FAF(i−3) は前々々回の空燃比補正係数を表す。
【0056】
また、図9の二点鎖線で囲まれたブロックP1は、触媒下流側空燃比λR(i)を目標空燃比λTGにフィードバック制御している状態において、状態変数量X(i) 及び状態変数量Z(i) を定める部分であり、ブロックP2は、積分項ZI(i) を求める部分(累積部)であり、ブロックP3は、ブロックP1で定められた状態変数量X(i) 及び状態変数量Z(i) とブロックP2で求められた積分項ZI(i) とから今回の空燃比補正係数FAF(i) を演算する部分である。
【0057】
[D]最適フィードバックゲインK及び積分定数KIの決定
最適フィードバックゲインK及び積分定数KIは、例えば、次式で示される評価関数Jを量小とすることで設定できる。
【0058】
【数7】
【0059】
上式で示される評価関数Jとは、空燃比補正係数FAF(i) の動きを制約しつつ、目標空燃比λTGと実際の触媒下流側空燃比λR(i)との偏差e(i) を量小にすることを意図したものである。また、空燃比補正係数FAF(i) に対する制約の重み付けは、重みのパラメータQ、Rの値によって変更することができる。従って、重みパラメータQ、Rの値を種々換えて最適な制御特性が得られるまでシュミレーションを繰り返し、最適フィードバックゲインK及び積分定数KIを定めれば良い。
【0060】
更に、最適フィードバックゲインK及び積分定数KIはモデル定数a1 ,b1 ,A1 ,A2 ,B1 ,B2 に依存している。従って実際の触媒下流側空燃比λR を制御する系の変動(パラメータ変動)に対するシステムの安定性(ロバスト性)を保証するためには、モデル定数a1 ,b1 ,A1 ,A2 ,B1 ,B2 の変動分を見込んで最適フィードバックゲインK及び積分定数KIを設計する必要がある。従って、シュミレーションはモデル定数a1 ,b1 ,A1 ,A2 ,B1 ,B2 の現実に生じ得る変動を加味して行い、安定性を満足する最適フィードバックゲインK及び積分定数KIを定める。
【0061】
以上、[A]制御対象のモデリング、[B]状態変数の表示方法、[C]レギュレータの設計、[D]最適フィードバックゲインK及び積分定数KIの決定について説明したが、本実施形態の空燃比制御システムでは、これらはいずれも予め設定されているものとし、電子制御回路30では、前記(9)式及び(10)式のみを用いて空燃比制御を実行するものとする。
【0062】
次に、上記のように設定された現代制御に基づき電子制御回路30内のCPU32が実行する空燃比制御を説明する。
【0063】
《燃料噴射量TAUの算出処理》
図10は燃料噴射量TAUを演算する燃料噴射量演算ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、エンジン11の回転に同期して360℃A毎に実行され、特許請求の範囲でいう噴射量演算手段として機能する。本ルーチンの処理が開始されると、まずステップ111で、吸気圧PM、エンジン回転数Ne等に基づいて基本燃料噴射量Tpを算出し、続くステップ112で、空燃比のフィードバック条件が成立しているか否かを判定する。このフィードバック条件は、例えばエンジン冷却水温Thwが所定水温以上で、且つ高回転・高負荷ではないときに成立する。
【0064】
もし、フィードバック条件が成立しているときには、ステップ113に進み、予めR0M33に格納されている目標空燃比λTG(本実施形態では理論空燃比λ=1)を読み出し、続くステップ114で後述するように触媒下流側空燃比λR を目標空燃比λTG(=1,0)に一致させるように空燃比補正係数FAFを設定してステップ115に移行する。即ち、ステップ114では目標空燃比λTGと下流側空燃比センサ29で検出された触媒下流側空燃比λR とに応じて前記した(9)式及び(10)式により空燃比補正係数FAFを算出する。
【0065】
一方、前記ステップ112で、空燃比のフィードバック条件が成立していない場合には、ステップ116に進み、空燃比補正係数FAFを1.0に設定し、続くステップ117で、空燃比のフィードバック実行中を示すフィードバック実行フラグXFをクリアした後、ステップ115に移行する。
【0066】
そして、ステップ115では、基本燃料噴射量Tp、空燃比補正係数FAF及びその他の補正係数FALLから燃料噴射量TAUを次式により算出する。
TAU=Tp×FAF×FALL
【0067】
このようにして設定された燃料噴射量TAUに基づく制御信号が燃料噴射弁20に出力されて噴射時間(開弁時間)、つまり燃料噴射量が制御され、実際の空燃比が目標空燃比λTG(=1,0)に収束するように制御される。
【0068】
《空燃比補正係数FAFの設定処理》
図11は空燃比補正係数FAFの設定ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、前述した図10のステップ114で実行される。本ルーチンの処理が開始されると、まずステップ201で、フィードバック実行フラグXFがフィードバック実行中を示す「1」にセットされているか否かを判定する。このフィードバック実行フラグXFがセットされていない場合には、図10のステップl16の処理の実行中に、フィードバック条件が成立して初めて本ルーチンに移行したとして、ステップ202で初期化処理を実行する。この初期化処理は、例えばサンプリング回数を示す変数i を0にセットすると共に、初期値FAF(−1)、FAF(−2)及びFAF(−3)を共に定数FAF0 にセットし、目標空燃比λTGと触媒下流側空燃比λR(i)との偏差の累積ZI(−1)を定数ZI0 にセットし、初期値λF(−1) を定数λF0にセットし、初期値λR(−1) 及びλR(−2) を定数λR0にセットする。
【0069】
そして、次のステップ203で、フィードバック実行フラグXFを「1」にセットしてステップ204に移行する。従って、次回以降に本ルーチンを実行するときには、フィードバック条件が成立している限り、ステップ201から直接ステップ204に移行し、ステップ202の初期化処理が行なわれることはない。その後、フィードバック条件が不成立になって、図10のステップ106の処理(FAF=1.0)が実行された後に、再びフィードバック条件が成立して図10のステップ104に移行すると、再びステップ202の初期化処理が1回のみ実行される。
【0070】
図11のステップ204では、上流側空燃比センサ28と下流側空燃比センサ29により検出した実際の空燃比λF(i),λR(i)を読み込み、続くステップ205にて、前記(4)式を用いて目標空燃比λTG(=1.0)と触媒下流側空燃比λR(i)との偏差e(i) を算出し、この偏差e(i) を累積して積分項ZI(i) を演算する。この後、ステップ206で、前記(3)式を用いて前記積分項ZI(i) 、最適フィードバックゲインK、状態変数量X及び状態変数量Z等から空燃比補正係数FAF(i) を演算する。そして、次のステップ207で、次回の処理に備えて、今回の空燃比λF(i)、λR(i)及び空燃比補正係数FAF(i) を、前回の空燃比λF(i−1)、λR(i−1)及び空燃比補正係数FAF(i−1) としてRAM34の所定エリアに更新記憶する。その後、変数i を「1」インクリメントして、本ルーチンを終了する。
【0071】
以上説明した実施形態によれば、燃料噴射弁20から下流側空燃比センサ29までの制御対象に近似して設定された制御モデルのうちの触媒モデルとして、触媒27内における流入ガス成分の吸着反応、流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応、触媒内吸着物質の離脱反応及び流入ガス成分の未反応部分の存在を全て考慮に入れて設定されたモデルを使用し、この触媒モデルを含む制御モデルに対する現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比λR を目標空燃比λTGに制御すべく状態フィードバックを実行して燃料噴射弁20の噴射量ひいては空燃比を制御する。これにより、触媒27内の吸着状態を適正に反映させた精度の良い空燃比制御を行うことができる。
【0072】
ところで、燃料噴射弁20から下流側空燃比センサ29までの制御対象全体を一括してモデル化すると、系全体が大きくなり過ぎて、却って制御精度が低下してしまう。
【0073】
そこで、上記実施形態では、触媒27の上流側に上流側空燃比センサ28を設け、制御対象の中間位置における信頼性の高いセンサ情報として上流側空燃比センサ28により検出された触媒上流側空燃比λF を利用し、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系と、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系とに分割してモデル化している。これにより、モデルが適度な大きさとなり、高精度な状態フィードバックが可能となる。
【0074】
また、上記実施形態の触媒モデルでは、触媒27に流入・流出する量、離脱量と未反応成分量について、それぞれリーン成分とリッチ成分とを正負反対の符号で表すようにしたので、符号によってリーン成分かリッチ成分かを簡単に判別でき、演算処理を簡単にすることができる。
【0075】
更に、上記実施形態では、触媒流入ガス成分及び触媒内吸着物質がリーン成分かリッチ成分かによって触媒27内での反応形態を推定し、反応形態毎に触媒モデルのパラメータを切り替えるので、反応形態に応じた最適の触媒モデルで演算でき、触媒流出ガス成分を精度良く算出することができる。
【0076】
しかも、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインを切り替えるので、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインを最適なゲインに設定でき、フィードバック特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示すエンジン制御システム全体の概略構成図
【図2】触媒モデルを示すブロック線図
【図3】燃料噴射弁から上流側空燃比センサまでをモデル化したブロック線図
【図4】流入ガスの空燃比と浄化率との関係を示す図
【図5】流入ガスモル数演算ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図6】流入ガスの空燃比と各成分の濃度との関係を示す図
【図7】触媒から下流側空燃比センサまでをモデル化したブロック線図
【図8】触媒から下流側空燃比センサまでの伝達関数を示す図
【図9】現代制御の状態フィードバックを示すブロック線図
【図10】燃料噴射量演算ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図11】FAF設定ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【符号の説明】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管(吸気通路)、17…吸気管圧力センサ、20…燃料噴射弁(燃料噴射手段)、26…排気管(排気通路)、27…触媒、28…上流側空燃比センサ(上流側空燃比検出手段)、29…下流側空燃比センサ(下流側空燃比検出手段)、30…電子制御回路(噴射量演算手段,反応形態推定手段,パラメータ切替手段,フィードバックゲイン切替手段)。
【発明の属する技術分野】
本発明は、触媒下流側の空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量をフィードバック制御する内燃機関の空燃比制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、内燃機関の燃料噴射量は、触媒の浄化能力を最大限に発揮させるべく、実際の排出ガスの空燃比が理論空燃比付近に収束するようにフィードバック制御される。そして、このフィードバック制御は、触媒の吸着状態が最も反映される触媒の下流側の空燃比に基づいて実行するのが望ましいとされている。
【0003】
そこで、近年、特開平6−129283号公報に示すように、触媒下流側に排出ガスの空燃比をリニアに検出する空燃比センサを設置し、燃料噴射弁から空燃比センサまでの制御対象を近似する現代制御のモデルを設定し、そのモデルに対する現在及び過去の入出力(例えば燃料噴射弁の噴射量、空燃比センサにより検出された触媒下流側の空燃比等)を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して燃料噴射弁の噴射量を制御することが考えられている。この空燃比制御に用いるモデルは、触媒モデルを単純な二次遅れ系のモデルで近似したものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、触媒に流入する排出ガス中のCO,HC,NOx,H2 等のガス成分に対して触媒は次のように作用する。
【0005】
▲1▼触媒内における流入ガス成分の吸着反応
触媒内に流入したガス成分の一部は、触媒内部に吸着される。
【0006】
▲2▼流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応
例えば、吸着物質がリーン成分(NOx,O2 等の酸化性成分)の場合には、このリーン成分と流入ガス中のリッチ成分(HC,CO,H2 等の還元性成分)とが酸化還元反応して無害の中性ガス成分(CO2 ,H2 O,N2 等)が生成され、触媒から排出される。
【0007】
▲3▼触媒内吸着物質の離脱反応
触媒内吸着物質の一部は、酸化還元反応を起こさずに触媒から離脱して触媒下流に排出される。
【0008】
▲4▼流入ガス成分の未反応部分の存在(以下「すり抜け」という)
流入ガス成分の一部は、触媒内で吸着反応も酸化還元反応も起こさずにそのまま触媒下流に排出される。
【0009】
従って、触媒による排出ガスの浄化効率を高めるには、▲1▼の吸着反応と▲2▼の酸化還元反応を増加させ、▲3▼の離脱反応を少なくすると共に、▲4▼のすり抜けを低減することが必要となる。これら▲1▼〜▲4▼の条件は、触媒内の吸着状態によって大きく変動し、排出ガスの浄化効率を変動させる。例えば、リーン成分の吸着量が増加するに従って、リーン成分の吸着反応が低下し、リーン成分のすり抜けが多くなるが、この状態でも、流入ガス中のリッチ成分の割合が増えれば、酸化還元反応が増加して吸着物質量が減少する。
【0010】
このような触媒の特性から、本来的には触媒内の吸着状態に応じて空燃比を制御することが理想的であるが、前述したように、従来は、触媒モデルを単純な二次遅れ系のモデルで近似しているため、触媒内の吸着状態が適正に反映されず、これが空燃比制御の精度を低下させる原因となっている。
【0011】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、従ってその目的は、触媒内の吸着状態を適正に反映させた精度の良い空燃比制御を行うことができる内燃機関の空燃比制御装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の内燃機関の空燃比制御装置は燃料噴射手段から前記下流側空燃比検出手段までの制御対象に近似して設定された制御モデルに対する現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して燃料噴射手段の噴射量を噴射量演算手段により演算する。この際、制御モデルのうちの触媒モデルとして、触媒内における流入ガス成分の吸着反応、流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応、触媒内吸着物質の離脱反応及び流入ガス成分の未反応部分の存在を全て考慮に入れて設定されたモデルを使用する。これにより、触媒内で起こる全ての反応が考慮され、触媒内の吸着状態を適正に反映させた精度の良い空燃比制御を行うことができる。
【0013】
更に、請求項2では、触媒の上流側において排出ガスの空燃比を検出する上流側空燃比検出手段を設け、検出した触媒上流側の空燃比を含む現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して、燃料噴射手段の噴射量を演算する。これにより、触媒の下流側と上流側の双方で空燃比を検出しながら、状態フィードバックを実行でき、高精度な状態フィードバックが可能となる。
【0014】
また、請求項3では、前記触媒モデルは、前記触媒に流入・流出する量、離脱量と未反応成分量について、それぞれリーン成分とリッチ成分とを正負反対の符号で表す。このようにすれば、符号によってリーン成分かリッチ成分かを簡単に判別でき、演算処理が容易となる。
【0015】
また、請求項4では、触媒流入ガス成分及び触媒内吸着物質がリーン成分かリッチ成分かによって触媒内での反応形態を推定し、反応形態毎に触媒モデルのパラメータをパラメータ切替手段によって切り替える。これにより、反応形態に応じた最適の触媒モデルで演算でき、触媒流出ガス成分を精度良く算出することができる。
【0016】
更に、請求項5では、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインをフィードバックゲイン切替手段によって切り替える。これにより、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインを最適なゲインに設定でき、フィードバック特性を向上できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。内燃機関であるエンジン11の吸気管12(吸気通路)の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に吸気温度Tamを検出する吸気温センサ14が設けられ、この吸気温センサ14の下流側にスロットルバルブ15とスロットル開度THを検出するスロットル開度センサ16とが設けられている。更に、スロットルバルブ15の下流側には、吸気管圧力PMを検出する吸気管圧力センサ17が設けられ、この吸気管圧力センサ17の下流側にサージタンク18が設けられている。このサージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド19が接続され、この吸気マニホールド19の各気筒の分岐管部にそれぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁20が取り付けられている。
【0018】
また、エンジン11には各気筒毎に点火プラグ21が取り付けられ、各点火プラグ21には、点火回路22で発生した高圧電流がディストリビュータ23を介して供給される。このディストリビュータ23には、720℃A(クランク軸2回転)毎に例えば24個のパルス信号を出力するクランク角センサ24が設けられ、このクランク角センサ24の出力パルス間隔によってエンジン回転数Neを検出するようになっている。また、エンジン11のシリンダブロックには、エンジン冷却水温Thwを検出する水温センサ38が取り付けられている。
【0019】
一方、エンジン11の排気ポート(図示せず)には、排気マニホールド25を介して排気管26(排気通路)が接続され、この排気管26の途中に、排出ガス中の有害成分(CO,HC,NOx等)を低減させる三元触媒等の触媒27が設けられている。この触媒27の上流側と下流側には、それぞれ排出ガスの空燃比λF ,λR に応じたリニアな空燃比信号(限界電流)を出力する上流側空燃比センサ28(上流側空燃比検出手段)と下流側空燃比センサ29(下流側空燃比検出手段)が設けられている。
【0020】
上述した各種のセンサの出力は電子制御回路30内に入力ポート31を介して読み込まれる。電子制御回路30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、CPU32、ROM33、RAM34、バックアップRAM35を備え、各種センサ出力から得られたエンジン運転状態パラメータを用いて燃料噴射量TAUや点火時期Ig等を演算し、その演算結果に応じた信号を出力ポート36から燃料噴射弁20や点火回路22に出力してエンジン11の運転を制御する。
【0021】
以下、これらの制御のうち空燃比制御(燃料噴射量TAUの制御)について説明する。本実施形態の空燃比制御では、空燃比制御に現代制御理論が適用されており、制御対象全体をモデル化して、下流側空燃比λR を理論空燃比λ=1に収束させるように状態フィードバックを実行する。この現代制御における各要素の設定手順は次の通りである。
【0022】
[A]制御対象のモデリング
燃料噴射弁20から下流側空燃比センサ29までの制御対象全体をモデル化している。但し、制御対象全体を一括してモデル化すると、系全体が大きくなり過ぎて精度が低下するため、制御対象の中間位置における信頼性の高いセンサ情報として上流側空燃比センサ28により検出された触媒上流側の空燃比λF を利用し、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系と、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系とに分割してモデル化している。
【0023】
(1)燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系のモデル
燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までのモデルに、むだ時間P=3を持つ次数1の自己回帰移動平均モデルを用い、更に外乱dを考慮して近似している。即ち、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系の伝達関数Gは、図3に示すように設定される。図3においてa1 ,b1 はモデルの応答性を決定するための定数である。尚、モデルのむだ時間Pとしては、エンジン11及び周辺機器の仕様等に応じてP=3以外の種々の値に設定しても良い。
【0024】
自己回帰移動平均モデルを用いた燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系のモデルは、次式で近似できる。
λF(i+1)=a1 ・λF(i)+b1 ・FAF(i−2)
ここで、λF は触媒上流側の排出ガスの空燃比、FAFは燃料噴射弁20の噴射量を補正するための空燃比補正係数、i は最初のサンプリング開始からの回数を示す変数である。
【0025】
上式において、外乱d1 を考慮すると、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系のモデルは、次式で近似できる。
λF(i+1)=a1 ・λF(i)+b1 ・FAF(i−2) +d1(i) ……(1)
以上のようにして近似したモデルに対し、ステップ応答を用いて回転周期(360℃A)のサンプリングで離散化して定数a1 、b1 を定めること、即ち、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系の伝達関数Gを求めることは容易である。
【0026】
(2)触媒27のモデル(触媒モデル)
この触媒モデルは、▲1▼触媒27内における流入ガス成分の吸着反応(リーン成分の吸着とリッチ成分の吸着)、▲2▼流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応(触媒内リッチ成分が流入ガスのリーン成分により酸化され、触媒内リーン成分が流入ガスのリッチ成分により還元される)、▲3▼触媒内吸着物質の離脱反応、▲4▼流入ガス成分の未反応部分の存在(すり抜け)が全て考慮されている。
【0027】
上記▲1▼,▲2▼による触媒内反応量hannouは次の(2)式で表される。
hannou=αo ・kkh・Δ・InG ……(2)
ここで、αo =1−JYOUKAであり、JYOUKAは燃焼空燃比に対する浄化率である(図4参照)。また、kkhは触媒27の浄化特性から求まる浄化されない割合のうち、触媒27への吸着又は酸化還元反応に寄与する割合である。また、Δは反応形態毎に切り替えられる定数であり、InGは触媒27に流入するガス量(触媒流入ガス量)である。触媒27内で起こる反応形態は、下記の表1に示すように4つの反応形態LK,LH,RH,RKに分類される。
【0028】
【表1】
【0029】
これら各反応形態LK,LH,RH,RK毎に、上述した触媒モデルのパラメータJYOUKA,kkh,Δが下記の表2のように切り替えられる。
【0030】
【表2】
【0031】
また、前記▲3▼による離脱反応量dropは次の(3)式で表される。
drop=k’’・OSIO ……(3)
ここで、k’’は離脱時定数であり、OSIOは前回演算時の触媒内吸着物質量である。
【0032】
また、前記▲4▼による未反応成分量(すり抜け量)surinukeは次の(4)式で表される。
surinuke=αo ・(1−kkh)・InG ……(4)
そして、触媒内吸着物質量OSIは次の(5)式で表される。
OSI=OSIO+hannou−drop ……(5)
また、触媒27から流出するガス量(触媒流出ガス量)OutGは次の(6)式で表される。
OutG=surinuke+drop ……(6)
【0033】
以上説明した(2)〜(6)式で表される触媒モデルをブロック線図で表すと図2のようになる。この触媒モデルの入力を触媒流入ガス量InG、出力を触媒流出ガス量OutGとすると、伝達関数は次の(7)式で表される。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、α´=αo ・kkh・Δ
α=αo ・(1−kkh)
上記(2)〜(7)においては、リーン成分をプラス値で表し、リッチ成分をマイナス値で表す。
【0036】
次に、触媒流入ガスInGの各成分のモル数を演算する流入ガスモル数演算ルーチンを図5のフローチャートに従って説明する。本ルーチンは、所定クランク角毎又は所定時間毎に繰り返し処理される。処理が開始されると、まずステップ101で、上流側空燃比センサ28の出力信号を読み込んで、流入ガスの空燃比A/Fを検出する。次のステップ102で、流入ガス中のO2 モル濃度O2INMC,H2 モル濃度H2INMC,COモル濃度COINMC,CO2 モル濃度CO2INMCを空燃比A/Fに応じてテーブル検索又は理論式で算出し(図6参照)、これらの算出値を用いて、次のステップ103にて、H2 Oモル濃度H2OINMCを算出する。次のステップ104では、後述するステップ107で用いる分数式の分母KKKBUNBOを算出し、続くステップ105で、基本噴射量Tpg(g換算)を基本噴射時間Tp,インジェクタサイズINJSIZE,燃料比重ρを用いて次式により算出する。
Tpg=Tp×INJSIZE×ρ
【0037】
更に、ステップ106では、次のステップ107で用いる変数OFIN,OMOLを算出する。この後、ステップ107で、上述したステップ102〜106の処理で求めた数値を用いて流入ガス中のO2 モル数O2INM,H2 モル数H2INM,COモル数COINM,CO2 モル数CO2INM,H2 Oモル数H2OINMを算出する。
【0038】
この算出結果を基に、触媒流入ガス成分がリーン成分かリッチ成分かを判定すると共に、前記(5)式で算出される触媒内吸着物質量OSIがプラス値かマイナス値かによって触媒内吸着物質量OSIがリーン成分(L)かリッチ成分(R)かを判定し、前掲した表2に従って触媒27内での反応形態が、リーン成分の吸着反応LK、触媒内リーン成分が流入ガスのリッチ成分により還元される反応LH、触媒内リッチ成分が流入ガスのリーン成分により酸化される反応RH、リッチ成分の吸着反応RKのいずれに該当するかを判定し、その判定結果に基づいて反応形態LK,LH,RH,RK毎に、触媒モデルのパラメータJYOUKA,kkh,Δを表2に従って切り替える。
【0039】
(3)触媒27から下流側空燃比センサ29までの系のモデル
下流側空燃比センサ29を1次遅れ系で近似している。これにより、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系の伝達関数Gは図7に示すように設定される。図7において、a2 =1−k’’、b2 =k’’・α´であり、a3 ,b3 は定数である。図7のモデルにおいて触媒上流側空燃比λF と触媒下流側空燃比λR との関係は次のようになる。
【0040】
【数2】
【0041】
従って、図7のモデルは図8のように表すことができる。この図8のモデルから次のような関係が求められる。
λR (i+3) −A1 λR (i+2) +A2 λR (i+1) =B1 λF (i+1) +B2 λF (i) この関係から、λR (i+1) は次式で算出される。
【0042】
以上のようにして近似したモデルに対し、ステップ応答を用いて回転周期(360℃A)のサンプリングで離散化して定数A1 ,A2 ,B1 ,B2 を定めること、即ち、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系の伝達関数Gを求めることは容易である。
【0043】
[B]状態変数量Xの表示方法(但しXはベクトル量である)
(1)燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系
前記(1)式を状態変数量X(i) =[X1(i),X2(i),X3(i),X4(i)]T を用いて書き直すと、次のようになる。
【0044】
【数3】
【0045】
これらの式から次式の関係が求められる。
X1(i+1)=a1 X1(i)+b1 X4(i)+d1=λF(i+1)
X2(i+1)=FAF(i)
X3(i+1)=X2(i)=FAF(i−1)
X4(i+1)=X3(i)=FAF(i−2)
【0046】
(2)触媒27から下流側空燃比センサ29までの系
前記(8)式を状態変数量Z(i) =[Z1(i),Z2(i),Z3(i),Z4(i)]T を用いて書き直すと、次のようになる。
【0047】
【数4】
【0048】
これらの式から次式の関係が求められる。
【0049】
(3)制御対象全体
上記した各式から制御対象全体の状態数量は次の様になる。
【0050】
【数5】
【0051】
[C]レギュレータの設計
まず、レギュレータの設計にあたり、偏差e(i)を次式のように定義する。
e(i) =λTG−λR(i)
ここで、λTGは触媒下流側空燃比λR の目標空燃比であり、本実施形態では、λTG=1(理論空燃比)に設定されている。そして、この偏差e(i) を0にする状態フィードバックを設計すべく、上記した[数5]に基づいて次の拡大系を設定する。
【0052】
【数6】
【0053】
ここで、q−1は時間遅れ要素である。
そして、X(i+1) =AX(i) +bFAF(i) とおくと、このときの状態フィードバックは、次式で表される。
【0054】
ここで、積分項ZI(i) は、目標空燃比ATG(=1,0)と実際の下流側空燃比λR との偏差e(i) と、積分定数KIとから決定される値であって、次式により求められる。
ZI(i) =ZI(i−1) +KI・(1.0一λR(i)) ……(10)
ここで、フィードバックゲインK1 〜K8 及び積分定数KIは最適レギュレータ手法により算出できるが、触媒モデルは、反応形態毎に4種類の定数を持つので、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインK1 〜K8 を切り替える。
【0055】
図9は上述のようにモデルを設計した空燃比制御システムにおける現代制御の状態フィードバックを示すブロック線図である。この図9において、空燃比補正係数FAF(i) を前回のFAF(i−1) から導くためにZ−1変換を用いて表示したが、これは前回処理で求められたFAF(i) を前回の値FAF(i−1) としてRAM34に記憶しておき、次の制御タイミングで読み出して用いている。ちなみに、FAF(i−1) は前回の空燃比補正係数を表し、FAF(i−2) は前々回の空燃比補正係数を表し、FAF(i−3) は前々々回の空燃比補正係数を表す。
【0056】
また、図9の二点鎖線で囲まれたブロックP1は、触媒下流側空燃比λR(i)を目標空燃比λTGにフィードバック制御している状態において、状態変数量X(i) 及び状態変数量Z(i) を定める部分であり、ブロックP2は、積分項ZI(i) を求める部分(累積部)であり、ブロックP3は、ブロックP1で定められた状態変数量X(i) 及び状態変数量Z(i) とブロックP2で求められた積分項ZI(i) とから今回の空燃比補正係数FAF(i) を演算する部分である。
【0057】
[D]最適フィードバックゲインK及び積分定数KIの決定
最適フィードバックゲインK及び積分定数KIは、例えば、次式で示される評価関数Jを量小とすることで設定できる。
【0058】
【数7】
【0059】
上式で示される評価関数Jとは、空燃比補正係数FAF(i) の動きを制約しつつ、目標空燃比λTGと実際の触媒下流側空燃比λR(i)との偏差e(i) を量小にすることを意図したものである。また、空燃比補正係数FAF(i) に対する制約の重み付けは、重みのパラメータQ、Rの値によって変更することができる。従って、重みパラメータQ、Rの値を種々換えて最適な制御特性が得られるまでシュミレーションを繰り返し、最適フィードバックゲインK及び積分定数KIを定めれば良い。
【0060】
更に、最適フィードバックゲインK及び積分定数KIはモデル定数a1 ,b1 ,A1 ,A2 ,B1 ,B2 に依存している。従って実際の触媒下流側空燃比λR を制御する系の変動(パラメータ変動)に対するシステムの安定性(ロバスト性)を保証するためには、モデル定数a1 ,b1 ,A1 ,A2 ,B1 ,B2 の変動分を見込んで最適フィードバックゲインK及び積分定数KIを設計する必要がある。従って、シュミレーションはモデル定数a1 ,b1 ,A1 ,A2 ,B1 ,B2 の現実に生じ得る変動を加味して行い、安定性を満足する最適フィードバックゲインK及び積分定数KIを定める。
【0061】
以上、[A]制御対象のモデリング、[B]状態変数の表示方法、[C]レギュレータの設計、[D]最適フィードバックゲインK及び積分定数KIの決定について説明したが、本実施形態の空燃比制御システムでは、これらはいずれも予め設定されているものとし、電子制御回路30では、前記(9)式及び(10)式のみを用いて空燃比制御を実行するものとする。
【0062】
次に、上記のように設定された現代制御に基づき電子制御回路30内のCPU32が実行する空燃比制御を説明する。
【0063】
《燃料噴射量TAUの算出処理》
図10は燃料噴射量TAUを演算する燃料噴射量演算ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、エンジン11の回転に同期して360℃A毎に実行され、特許請求の範囲でいう噴射量演算手段として機能する。本ルーチンの処理が開始されると、まずステップ111で、吸気圧PM、エンジン回転数Ne等に基づいて基本燃料噴射量Tpを算出し、続くステップ112で、空燃比のフィードバック条件が成立しているか否かを判定する。このフィードバック条件は、例えばエンジン冷却水温Thwが所定水温以上で、且つ高回転・高負荷ではないときに成立する。
【0064】
もし、フィードバック条件が成立しているときには、ステップ113に進み、予めR0M33に格納されている目標空燃比λTG(本実施形態では理論空燃比λ=1)を読み出し、続くステップ114で後述するように触媒下流側空燃比λR を目標空燃比λTG(=1,0)に一致させるように空燃比補正係数FAFを設定してステップ115に移行する。即ち、ステップ114では目標空燃比λTGと下流側空燃比センサ29で検出された触媒下流側空燃比λR とに応じて前記した(9)式及び(10)式により空燃比補正係数FAFを算出する。
【0065】
一方、前記ステップ112で、空燃比のフィードバック条件が成立していない場合には、ステップ116に進み、空燃比補正係数FAFを1.0に設定し、続くステップ117で、空燃比のフィードバック実行中を示すフィードバック実行フラグXFをクリアした後、ステップ115に移行する。
【0066】
そして、ステップ115では、基本燃料噴射量Tp、空燃比補正係数FAF及びその他の補正係数FALLから燃料噴射量TAUを次式により算出する。
TAU=Tp×FAF×FALL
【0067】
このようにして設定された燃料噴射量TAUに基づく制御信号が燃料噴射弁20に出力されて噴射時間(開弁時間)、つまり燃料噴射量が制御され、実際の空燃比が目標空燃比λTG(=1,0)に収束するように制御される。
【0068】
《空燃比補正係数FAFの設定処理》
図11は空燃比補正係数FAFの設定ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、前述した図10のステップ114で実行される。本ルーチンの処理が開始されると、まずステップ201で、フィードバック実行フラグXFがフィードバック実行中を示す「1」にセットされているか否かを判定する。このフィードバック実行フラグXFがセットされていない場合には、図10のステップl16の処理の実行中に、フィードバック条件が成立して初めて本ルーチンに移行したとして、ステップ202で初期化処理を実行する。この初期化処理は、例えばサンプリング回数を示す変数i を0にセットすると共に、初期値FAF(−1)、FAF(−2)及びFAF(−3)を共に定数FAF0 にセットし、目標空燃比λTGと触媒下流側空燃比λR(i)との偏差の累積ZI(−1)を定数ZI0 にセットし、初期値λF(−1) を定数λF0にセットし、初期値λR(−1) 及びλR(−2) を定数λR0にセットする。
【0069】
そして、次のステップ203で、フィードバック実行フラグXFを「1」にセットしてステップ204に移行する。従って、次回以降に本ルーチンを実行するときには、フィードバック条件が成立している限り、ステップ201から直接ステップ204に移行し、ステップ202の初期化処理が行なわれることはない。その後、フィードバック条件が不成立になって、図10のステップ106の処理(FAF=1.0)が実行された後に、再びフィードバック条件が成立して図10のステップ104に移行すると、再びステップ202の初期化処理が1回のみ実行される。
【0070】
図11のステップ204では、上流側空燃比センサ28と下流側空燃比センサ29により検出した実際の空燃比λF(i),λR(i)を読み込み、続くステップ205にて、前記(4)式を用いて目標空燃比λTG(=1.0)と触媒下流側空燃比λR(i)との偏差e(i) を算出し、この偏差e(i) を累積して積分項ZI(i) を演算する。この後、ステップ206で、前記(3)式を用いて前記積分項ZI(i) 、最適フィードバックゲインK、状態変数量X及び状態変数量Z等から空燃比補正係数FAF(i) を演算する。そして、次のステップ207で、次回の処理に備えて、今回の空燃比λF(i)、λR(i)及び空燃比補正係数FAF(i) を、前回の空燃比λF(i−1)、λR(i−1)及び空燃比補正係数FAF(i−1) としてRAM34の所定エリアに更新記憶する。その後、変数i を「1」インクリメントして、本ルーチンを終了する。
【0071】
以上説明した実施形態によれば、燃料噴射弁20から下流側空燃比センサ29までの制御対象に近似して設定された制御モデルのうちの触媒モデルとして、触媒27内における流入ガス成分の吸着反応、流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応、触媒内吸着物質の離脱反応及び流入ガス成分の未反応部分の存在を全て考慮に入れて設定されたモデルを使用し、この触媒モデルを含む制御モデルに対する現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比λR を目標空燃比λTGに制御すべく状態フィードバックを実行して燃料噴射弁20の噴射量ひいては空燃比を制御する。これにより、触媒27内の吸着状態を適正に反映させた精度の良い空燃比制御を行うことができる。
【0072】
ところで、燃料噴射弁20から下流側空燃比センサ29までの制御対象全体を一括してモデル化すると、系全体が大きくなり過ぎて、却って制御精度が低下してしまう。
【0073】
そこで、上記実施形態では、触媒27の上流側に上流側空燃比センサ28を設け、制御対象の中間位置における信頼性の高いセンサ情報として上流側空燃比センサ28により検出された触媒上流側空燃比λF を利用し、燃料噴射弁20から上流側空燃比センサ28までの系と、触媒27から下流側空燃比センサ29までの系とに分割してモデル化している。これにより、モデルが適度な大きさとなり、高精度な状態フィードバックが可能となる。
【0074】
また、上記実施形態の触媒モデルでは、触媒27に流入・流出する量、離脱量と未反応成分量について、それぞれリーン成分とリッチ成分とを正負反対の符号で表すようにしたので、符号によってリーン成分かリッチ成分かを簡単に判別でき、演算処理を簡単にすることができる。
【0075】
更に、上記実施形態では、触媒流入ガス成分及び触媒内吸着物質がリーン成分かリッチ成分かによって触媒27内での反応形態を推定し、反応形態毎に触媒モデルのパラメータを切り替えるので、反応形態に応じた最適の触媒モデルで演算でき、触媒流出ガス成分を精度良く算出することができる。
【0076】
しかも、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインを切り替えるので、反応形態毎又は触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインを最適なゲインに設定でき、フィードバック特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示すエンジン制御システム全体の概略構成図
【図2】触媒モデルを示すブロック線図
【図3】燃料噴射弁から上流側空燃比センサまでをモデル化したブロック線図
【図4】流入ガスの空燃比と浄化率との関係を示す図
【図5】流入ガスモル数演算ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図6】流入ガスの空燃比と各成分の濃度との関係を示す図
【図7】触媒から下流側空燃比センサまでをモデル化したブロック線図
【図8】触媒から下流側空燃比センサまでの伝達関数を示す図
【図9】現代制御の状態フィードバックを示すブロック線図
【図10】燃料噴射量演算ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図11】FAF設定ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【符号の説明】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管(吸気通路)、17…吸気管圧力センサ、20…燃料噴射弁(燃料噴射手段)、26…排気管(排気通路)、27…触媒、28…上流側空燃比センサ(上流側空燃比検出手段)、29…下流側空燃比センサ(下流側空燃比検出手段)、30…電子制御回路(噴射量演算手段,反応形態推定手段,パラメータ切替手段,フィードバックゲイン切替手段)。
Claims (5)
- 内燃機関の吸気通路に配設され、燃料を噴射する燃料噴射手段と、
内燃機関の排気通路に配設され、排出ガスを浄化する触媒と、
前記触媒の下流側において排出ガスの空燃比を検出する下流側空燃比検出手段と、
前記燃料噴射手段から前記下流側空燃比検出手段までの制御対象に近似して設定された制御モデルに対する現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して前記燃料噴射手段の噴射量を演算する噴射量演算手段とを備え、
前記噴射量演算手段は、前記制御モデルのうちの触媒モデルとして、前記触媒内における流入ガス成分の吸着反応、流入ガス成分と触媒内吸着物質との酸化還元反応、触媒内吸着物質の離脱反応及び流入ガス成分の未反応部分の存在を考慮に入れて設定されたモデルを使用することを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。 - 前記触媒の上流側において排出ガスの空燃比を検出する上流側空燃比検出手段を備え、
前記噴射量演算手段は、前記上流側空燃比検出手段により検出された触媒上流側の空燃比を含む現在及び過去の入出力を状態量とし、触媒下流側の空燃比を目標空燃比に制御すべく状態フィードバックを実行して、前記燃料噴射手段の噴射量を演算することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。 - 前記触媒モデルは、前記触媒に流入・流出する量、離脱量と未反応成分量について、それぞれリーン成分とリッチ成分とを正負反対の符号で表すことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 触媒流入ガス成分及び触媒内吸着物質がリーン成分かリッチ成分かで触媒内での反応形態を推定する反応形態推定手段と、
前記反応形態毎に前記触媒モデルのパラメータを切り替えるパラメータ切替手段と
を備えていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の空燃比制御装置。 - 前記反応形態毎又は前記触媒モデルのパラメータ切替毎にフィードバックゲインを切り替えるフィードバックゲイン切替手段を備えていることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
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