JP3591428B2 - 多気筒エンジン用燃料噴射装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多気筒エンジンの各気筒へ燃料を噴射する複数の燃料噴射弁を備えた多気筒エンジン用燃料噴射装置に関するもので、特に燃料噴射ポンプから吐出された高圧燃料を蓄圧するコモンレールを備えた多気筒エンジン用蓄圧式燃料噴射装置に係わる。
【0002】
【従来の技術】
従来より、排気ガスの規制強化、地球環境保護、エンジンの運転性の向上の観点から、燃料タンクから低圧供給ポンプで汲み上げた燃料を高圧供給ポンプで加圧して蓄圧室を形成するコモンレールに蓄圧し、このコモンレールに蓄圧した高圧燃料を、コモンレールより各気筒毎に分岐された燃料配管に接続された複数の電磁式燃料噴射弁への通電または通電停止により、ディーゼルエンジンの各気筒の燃焼室内に噴射供給するようにしたディーゼルエンジン用蓄圧式燃料噴射装置(特開昭59−82534号公報や特開昭62−258160号公報等)が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、ディーゼルエンジンは、各気筒間の爆発力のバラツキによる各気筒の爆発行程毎の回転速度変動によってエンジン振動が発生する。特に、ディーゼルエンジンの無負荷状態、つまり回転速度の低いアイドリング状態においては、そのエンジン振動、騒音が運転者(ドライバー)に不快感を与える場合がある。そして、気筒間の回転速度変動は、気筒毎の燃料噴射弁の個体差による気筒間の燃料噴射量とディーゼルエンジンの燃焼要因のバラツキによって発生することが知られている。
【0004】
そこで、気筒間の回転速度変動を減少させる目的で、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を検出し、気筒間の回転速度変動を平滑化するように、各気筒への最適な燃料噴射量を個々に補償する不均量補償制御(FCCB学習制御)が実施されている。その不均量補償制御は、ディーゼルエンジンの無負荷状態を検出している時に、ディーゼルエンジンの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を検出した後に、全気筒の回転速度変動の平均値と各気筒毎の回転速度変動の検出値とを比較し、気筒間の回転速度変動を平滑化するように、各気筒への燃料噴射量を補正している。
【0005】
ところが、上記の不均量補償制御(FCCB学習制御)によって、ディーゼルエンジン全体のエンジン振動を低減させることは可能であるが、ディーゼルエンジンの各気筒毎に持つ機械的な振動(エンジン固有振動)を低減させることは不可能であった。したがって、ディーゼルエンジンの無負荷状態、つまり回転速度の低いアイドリング状態においても、エンジン固有振動を低減させることは不可能であるため、ドライバーに不快感を与えてしまうという問題が生じている。
【0006】
【発明の目的】
本発明の目的は、多気筒エンジン全体のエンジン振動を抑制することができ、且つ各気筒毎に持つ機械的なエンジン固有振動も抑制することのできる多気筒エンジン用燃料噴射装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明によれば、多気筒エンジンの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を検出し、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を平滑化するように、多気筒エンジンの運転状態に応じて設定される各気筒毎への基本噴射量に第1噴射量補正量を付加して、多気筒エンジンの各気筒への燃料噴射量を個別に補正することにより、燃料噴射弁の個体差を要因とする気筒間の爆発力のバラツキによる気筒間の回転速度変動によって発生する多気筒エンジン全体のエンジン振動を抑えることができる。そして、多気筒エンジンの気筒毎に持つ機械的な固有振動を発生する振動源となる特定気筒を推定し、この推定した振動源となる特定気筒の固有振動を低減化するように、振動源となる特定気筒への基本噴射量および第1噴射量補正量に第2噴射量補正量を付加して、振動源となる特定気筒への燃料噴射量を補正することにより、各気筒毎に持つ機械的なエンジン固有振動を抑えることができる。したがって、ドライバーの不快感を解消することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、振動源となる特定気筒を予めメモリに記憶している。また、特定気筒への基本噴射量および第1噴射量補正量に付加する第2噴射量補正量は、予め実験等によりエンジン固有振動を低減化することが可能な値を求めておき、その値をメモリに記憶しておく。すなわち、特定気筒への基本噴射量および第1噴射量補正量に、振動源となる特定気筒に対して更に第2噴射量補正量(振動源となる特定気筒の固有振動を抑制することが可能な見込み値)を付加する。ここで、この第2噴射量補正量の付加の実施においては、多気筒エンジンの様々な運転条件(例えばエンジン形式、車体構造、エンジンの搭載方法等)を入れることが可能である。
【0009】
請求項3に記載の発明によれば、無負荷状態検出手段により多気筒エンジンの無負荷状態を検出または推定する毎に、第2噴射量補正手段を実施した後は、第1噴射量補正手段を禁止することにより、特定気筒固有の振動を抑制した後に、再度、特定気筒固有の振動を増加させるような不均量補償制御を禁止できるので、多気筒エンジンの無負荷状態の間中、特定気筒の燃料噴射弁への制御出力が過剰に変動することを防止することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明によれば、全気筒の回転速度変動の平均値と各気筒毎の回転速度変動の検出値とを比較する。そして、この比較結果に基づいて、各気筒への燃料噴射量を補償する。例えば多気筒エンジンの運転状態に応じて決定される全気筒均一の基本噴射量を補正(噴射量補正量分だけ増加または減少)する不均量補償制御手段を設けることにより、各気筒毎の燃料噴射弁から各気筒へ噴射される燃料噴射量のバラツキ、つまり各気筒への燃料噴射量の不均量が少なくなり、燃料噴射弁の個体差を要因とする気筒間の回転速度変動を減少させることができるので、多気筒エンジン全体のエンジン振動を抑えることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
〔実施例の構成〕
図1ないし図8は本発明の実施例を示したもので、図1はディーゼルエンジン用の電子制御蓄圧式燃料噴射システムの全体構成を示した図で、図2は基本噴射量算出マップを示した図で、図3はディーゼルエンジンの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の挙動を示した図である。
【0012】
本実施例のディーゼルエンジン用の電子制御蓄圧式燃料噴射システムは、本発明の多気筒エンジン用燃料噴射装置に相当するもので、コモンレール式燃料噴射システム(蓄圧式燃料噴射装置)と呼ばれる。その燃料噴射システムは、自動車等の車両のエンジンルームに搭載されたディーゼルエンジン10の各気筒(シリンダ)#1〜#6に対応して取り付けられた複数個の燃料噴射弁1〜6と、燃料を加圧する可変吐出量型の燃料噴射ポンプ7と、この燃料噴射ポンプ7から吐出された高圧燃料を蓄圧するサージタンクの一種であるコモンレール8と、複数個の燃料噴射弁1〜6および燃料噴射ポンプ7の各アクチュエータを電子制御するエンジン制御用電子制御ユニット(以下ECUと呼ぶ)9とを備えている。
【0013】
本実施例のディーゼルエンジン10は、本発明の多気筒エンジンに相当するもので、各気筒#1〜#6を2つのバンク(シリンダヘッド、シリンダブロック)に分け、それぞれのバンクをクランクシャフトを中心にV字型に配置したV型6気筒の直接噴射式ディーゼルエンジンで、自動車等の車両を走行させるための車両走行用エンジンとして働く。
【0014】
このディーゼルエンジン10の2つのシリンダヘッドには、各気筒#1〜#6の吸気ポートより燃焼室内に空気を吸入するためのインテークマニホールドを含む吸気管(図示せず)、および各気筒#1〜#6の排気ポートより燃焼室内で生成された排気ガスを排出するためのエキゾーストマニホールドを含む排気管(図示せず)がそれぞれ取り付けられている。そして、ディーゼルエンジン10は、各気筒#1〜#6の燃焼室内に噴射される燃料噴射量によってエンジントルク(出力)が制御される。
【0015】
本実施例の複数個の燃料噴射弁(燃料噴射ノズル:以下インジェクタと呼ぶ)1〜6は、コモンレール8にそれぞれ連通する複数の燃料配管21〜26の下流端にそれぞれ接続されている。これらのインジェクタ1〜6からディーゼルエンジン10の各気筒#1〜#6の燃焼室内への燃料の噴射は、各インジェクタ1〜6に対応した各燃料配管21〜26の途中に設けられた複数個の噴射量制御用電磁弁(噴射量制御用アクチュエータに相当する)11〜16への通電および通電停止(ON/OFF)により制御される。
【0016】
そして、各インジェクタ1〜6は、噴射量制御用電磁弁11〜16が開弁している間(開弁期間)、複数本(本例では6本)の燃料配管21〜26を介してコモンレール8から供給された高圧燃料をディーゼルエンジン10の各気筒の燃焼室内に噴射する。なお、ディーゼルエンジン10の各気筒の燃焼室内への燃料噴射量は、各インジェクタ1〜6の開弁期間(弁体が開弁してから閉弁するまでの時間)と噴射圧力(後記するコモンレール圧力)等により決まる。
【0017】
そして、コモンレール8には、連続的に燃料の噴射圧力に相当する比較的に高い所定のコモンレール圧力(例えば20〜30MPa)が蓄圧される必要があり、そのために燃料供給配管31、吐出弁32を経て燃料噴射ポンプ(サプライポンプ:以下高圧供給ポンプと呼ぶ)7が接続されている。
【0018】
本実施例の高圧供給ポンプ7は、ディーゼルエンジン10により回転駆動されて、燃料タンク33から燃料を汲み上げる公知の低圧供給ポンプ34を内蔵している。そして、高圧供給ポンプ7は、その低圧供給ポンプ34を経てポンプ室内に吸入された燃料を高圧に加圧して、燃料供給配管31を経てコモンレール8に吐出する。この高圧供給ポンプ7の吐出量の調整は、噴射圧力制御用電磁弁27への通電および通電停止(ON/OFF)により制御される。
【0019】
本実施例のECU9は、本発明の噴射量制御装置の機能を含んで構成されている。そして、ECU9は、回転速度変動検出手段、特定気筒推定手段の機能を含んで構成されている。そのECU9の内部には、制御処理、演算処理を行うCPU、各種制御プログラムおよび各種データを保存するメモリ(ROM、RAM)、I/Oポート(入出力回路)、電源回路および駆動回路等の機能を含んで構成されるマイクロコンピュータが設けられている。そして、ECU9は、各種センサからのセンサ信号がA/D変換回路によってA/D変換された後にマイクロコンピュータに入力されるように構成されている。
【0020】
ECU9に入力する基本センサとしては、ディーゼルエンジン10のクランクシャフトの回転角度を検出するクランク角度センサ41、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度:AC)を検出する負荷検出手段としてのアクセル開度センサ42、ディーゼルエンジン10の冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段としての冷却水温度センサ43、燃料温度を検出する燃料温度検出手段としての燃料温度センサ44、および自動車等の車両の走行速度(車速)を検出する車速センサ45等がある。
【0021】
なお、アクセル開度センサ42は、本発明の無負荷状態検出手段に相当するものである。また、車速センサ45は、本発明の無負荷状態検出手段に相当するもので、自動車等の車両の走行状態検出手段を構成する。そして、クランク角度センサ41、アクセル開度センサ42、冷却水温度センサ43および燃料温度センサ44は、ディーゼルエンジン10の運転状態を検出する運転状態検出手段である。
【0022】
ここで、クランク角度センサ41は、本発明の回転速度変動検出手段に相当するもので、ディーゼルエンジン10のクランクシャフトに同期して回転する磁性体製のタイミングロータ、このタイミングロータの外面に対向して配置された電磁ピックアップ、および磁束を発生させる永久磁石等で構成された電磁式回転センサである。なお、ECU9は、クランク角度信号(NEパルス信号)の間隔時間を計測することによって、エンジン回転速度(NE)を検出できる。
【0023】
本実施例では、ディーゼルエンジン10の1周期(吸気行程、圧縮行程、爆発行程、排気行程)、つまりディーゼルエンジン10のクランクシャフトが2回転(720°CA)する間に、48個のクランク角信号(1パルス15°CA)が発生するように、タイミングロータの外面に歯状部を24個設けている。なお、特定のNEパルスは、各気筒#1〜#6の上死点(TDC)の位置に対応している。
【0024】
ECU9は、エンジン回転速度が所定値(例えばNE=1000rpm)以下、エンジン負荷(アクセル開度)が所定値(例えばAC=0%)以下、車速が所定値(例えばSPD=0km/h)以下であるか否かを判定することで、ディーゼルエンジン10のエンジン回転速度の低いアイドリング状態(無負荷状態)であるか否かを検出する無負荷状態検出手段の機能を含んで構成されている。
【0025】
なお、パーキングブレーキのON信号を入力した時、あるいはセレクトレバーがNレンジまたはPレンジに操作されている時、クラッチペダルを踏んでいることを検出した時等の入力情報を組み合わせると、より効果的にディーゼルエンジン10の無負荷状態を検出できる。
【0026】
ECU9は、エンジン回転速度とエンジン負荷(アクセル開度)に応じて、高圧供給ポンプ7の噴射圧力が最適値となるように噴射圧力制御用電磁弁27に制御信号を出力する。さらに、より好ましくは、コモンレール8内の圧力(コモンレール圧力)を検出するレール圧力検出手段としてのレール圧力センサ46をコモンレール8に配設し、レール圧力センサ46からのセンサ信号が予めエンジン回転速度(NE)とアクセル開度(AC)に応じて設定した最適な圧力値となるように高圧供給ポンプ7よりコモンレール8に吐出される吐出量を制御する吐出量制御手段を含んで構成されている。
【0027】
また、ECU9は、車両走行時に、エンジン回転速度およびエンジン負荷(アクセル開度)により判断されるエンジン運転状態と、図2に示した車両走行時の基本噴射量算出マップ(噴射量制御特性)とから、最適な燃料噴射量(基本噴射量:インジェクタ1〜6の開弁期間に相当する)Qを演算し、冷却水温度、吸気圧力、吸気温度または燃料温度等の運転条件により基本噴射量Qを補正して目標噴射量QFを演算する。さらに、ECU9は、エンジン回転速度およびエンジン負荷(アクセル開度)により判断されるエンジン運転状態から最適な噴射時期(インジェクタ1〜6の開弁時期に相当する)を演算または決定する。
【0028】
そして、本実施例のECU9は、本発明の第1噴射量補正手段の機能を含んで構成されている。その第1噴射量補正手段とは、図3に示したように、各気筒#1〜#6毎の爆発行程毎の回転速度変動を検出し、各気筒#1〜#6間の回転速度変動を平滑化するように、各気筒#1〜#6毎への基本噴射量Qに、各気筒間の回転速度変動を平滑化する方向への第1噴射量補正量を付加する機能(不均量補償制御、FCCB学習制御:Fuel Control for Cylinder Balancing)である。
【0029】
また、ECU9は、本発明の第2噴射量補正手段の機能を含んで構成されている。その第2噴射量補正手段とは、図4に示したように、気筒毎に持つ機械的なエンジン固有振動を発生する特定気筒#1、#2を予めメモリ(ROM)に記憶し、この記憶した特定気筒#1、#2におけるエンジン固有振動を低減化するように、特定気筒#1、#2への基本噴射量および第1噴射量補正量に、特定気筒#1、#2におけるエンジン固有振動を低減化する方向への噴射量ウェイト(第2噴射量補正量)を付加する機能である。
【0030】
〔実施例の噴射量算出方法〕
次に、本実施例の蓄圧式燃料噴射装置の制御方法を図1ないし図8に基づいて簡単に説明する。ここで、図5はECU9による燃料噴射量算出方法を示したフローチャートである。
【0031】
イグニッションスイッチが投入(IG・ON)されると、図5のルーチンが起動する。先ず、各種センサまたは各種操作スイッチから入力データを読み込む。具体的には、エンジン回転速度NE、エンジン負荷(アクセル開度)AC、冷却水温度THW、燃料温度THO、車速SPD、コモンレール圧力PCおよびセレクトレバーのレバー位置等を読み込む(ステップS1)。
【0032】
次に、FCCB学習制御を実施する制御条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。具体的には、エンジン回転速度NEが所定値(例えば1000rpm)以下、エンジン負荷(アクセル開度)ACが所定値(例えば0%)以下、車速SPDが所定値(例えば0km/h)以下であるか否かを判定することで、制御条件が成立しているか否かを判定する。つまり、ディーゼルエンジン10の振動を要因とする騒音が目立ち、ドライバーがより不快感を覚える、ディーゼルエンジン10のエンジン回転速度の低いアイドリング状態(無負荷状態)であるか否かを判定する。
【0033】
このステップS2の判定結果がNOの場合には、FCCB学習制御禁止フラグをOFF(0)する(ステップS3)。次に、上記のステップS1で読み込んだエンジン回転速度(NE)やアクセル開度(AC=0%〜100%)、および予めROMに記憶されている車両走行時の噴射量制御特性(図2の車両走行時の基本噴射量算出マップ参照)に基づいて、ディーゼルエンジン10の各気筒の燃焼室内に噴射する基本噴射量Qを算出する(基本噴射量決定手段:ステップS4)。
【0034】
次に、上記のステップS1で読み込んだ冷却水温度(THW)、コモンレール圧力(PC)、燃料温度(THO)等の運転条件によって、上記のステップS4で求めた基本噴射量Qを補正する。すなわち、基本噴射量Qと運転条件とから、全気筒均一の燃料噴射量(目標噴射量)QFを求める(燃料噴射量決定手段:ステップS5)。
【0035】
次に、上記のステップS5で求められた燃料噴射量QFとなるようにインジェクタ1〜6の開弁期間を算出し、更に噴射時期、つまりインジェクタ1〜6の開弁時期を算出する。そして、算出されたインジェクタ1〜6の開弁期間および開弁時期となるように噴射量制御用電磁弁11〜16に制御信号を出力する(噴射量制御手段:ステップS6)。その後に、図5のルーチンを抜ける。
【0036】
一方、ステップS2の判定結果がYESの場合には、FCCB学習制御を実施する制御条件が成立していると判断し、FCCB学習制御禁止フラグがOFF(0)であるか否かを判定する(ステップS7)。この判定結果がNOの場合には、ステップS1以下の制御処理を繰り返す。
【0037】
また、ステップS7の判定結果がYESの場合には、エンジン回転速度(NE=1000rpm)やアクセル開度(AC=0%)、および予めROMに記憶されているアイドル運転時の噴射量制御特性に基づいて、ディーゼルエンジン10の各気筒の燃焼室内に噴射するアイドル運転時の基本噴射量Qを算出する(基本噴射量決定手段:ステップS8)。次に、FCCB学習制御を実施する(ステップS9)。
【0038】
具体的には、ある気筒の上死点前(BTDC15°CA)の割り込みがあると、クランク角度信号(BTDC15°CA〜ATDC15°CA)の間隔時間(30°CA時間:μs)を計算することにより、ある気筒の瞬時回転速度を算出し、この瞬時回転速度をこの気筒の最小回転速度Minとして読み込む。
【0039】
そして、その気筒の上死点後(ATDC45°CA)の割り込みがあると、クランク角度信号(ATDC45°CA〜ATDC75°CA)の間隔時間(30°CA時間:μs)を計算することにより、ある気筒の瞬時回転速度を算出し、この瞬時回転速度をこの気筒の最大回転速度Maxとして読み込む。
【0040】
そして、これらの計算を各気筒毎に行った後に、各気筒毎の最大回転速度Maxと最小回転速度Minとの回転速度差を計算することで、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の単独値を算出する。ここで、図3の実線は、全ての気筒#1〜#6の回転速度変動にバラツキのないディーゼルエンジン10の各気筒毎の回転速度変動の挙動を示し、図3の破線は、各気筒#1〜#6毎の回転速度変動にバラツキのあるディーゼルエンジン10の各気筒毎の回転速度変動の挙動を示している。
【0041】
次に、全気筒の回転速度変動を平均化して、全気筒の回転速度変動の平均値を算出する。次に、ディーゼルエンジン10の各気筒#1〜#6の爆発行程毎の回転速度変動の単独値(検出値)と全気筒の回転速度変動の平均値とを比較判定し、この比較判定によって、気筒間の回転速度変動を平滑化する方向へ、各気筒#1〜#6への燃料噴射量を補償する。
【0042】
ここで、上記のステップS8で求められたアイドル運転時の基本噴射量Qに付加する各気筒への噴射量補正量は、図3の破線に示した回転速度変動から図6に示した第1噴射量補正量となる。したがって、下記の数1の式に示したように、アイドル運転時の基本噴射量Qと第1噴射量補正量(図6参照)ΔQ1nとから、各気筒へ噴射する各気筒毎の燃料噴射量(目標噴射量)QFnが算出される。
【数1】
Figure 0003591428
【0043】
次に、全気筒のFCCB学習制御を終了しているか否かを判定する(ステップS10)。この判定結果がNOの場合には、ステップS9のFCCB学習制御をを継続する。また、ステップS10の判定結果がYESの場合には、アイドル運転時の基本噴射量を補正して、各気筒へ噴射する各気筒毎の燃料噴射量(目標噴射量)QFを算出する固有振動抑制制御を行う(ステップS11)。
【0044】
この固有振動抑制制御では、各エンジン形式で異なるディーゼルエンジン10の気筒毎に持つ機械的な固有振動(エンジン固有振動)を発生する振動源となる特定気筒を予め実験で求めておく。本実施例のV型6気筒のディーゼルエンジン10では、図4に示したように、気筒#5、#3、#6、#4毎に持つ機械的な固有振動に比べて、気筒#1が持つ機械的な固有振動が大きく、気筒#2が持つ機械的な固有振動が小さい。
【0045】
したがって、本実施例では、振動源となる特定気筒として、気筒#1および気筒#2を予めメモリ(ROM)に記憶している。また、基本噴射量Qおよび第1噴射量補正量ΔQ1nに付加する噴射量ウェイト(第2噴射量補正量:ΔQ2n)は、予め実験等によりエンジン固有振動を低減化することが可能な値を求めておき、その値を予めメモリ(ROM)に記憶しておく。
【0046】
そして、ステップS9のFCCB学習制御により定められた各気筒への噴射量補正量に、図7の斜線に示したように、振動源となる特定気筒に対して更に噴射量ウェイト(図8に示したように特定気筒#1、#2の固有振動を抑制することが可能な見込み値)を付加する。
【0047】
したがって、下記の数2の式に示したように、アイドル運転時の基本噴射量Qと第1噴射量補正量ΔQ1nと第2噴射量補正量ΔQ2nとから、各気筒へ噴射する各気筒毎の燃料噴射量(目標噴射量)QFnが算出される。
【数2】
Figure 0003591428
【0048】
具体的には、特定気筒#1は、回転速度変動が平均的で、且つエンジン固有振動が他の気筒と比べて大きいので、基本噴射量Qより第1噴射量補正量ΔQ1n分だけ特定気筒#1への燃料噴射量を減らし、更に、任意に定められた第2噴射量補正量ΔQ2n分だけ特定気筒#1への燃料噴射量を減らす。
【0049】
また、特定気筒#2は、回転速度変動が他の気筒と比べて小さく、且つエンジン固有振動が他の気筒と比べて小さいので、基本噴射量Qより第1噴射量補正量ΔQ1n分だけ特定気筒#2への燃料噴射量を増やし、更に、任意に定められた第2噴射量補正量ΔQ2n分だけ特定気筒#2への燃料噴射量を増やす。
【0050】
ここで、この噴射量ウェイトの付加の実施においては、ディーゼルエンジン10の様々な運転条件(例えばエンジン形式、車体構造、エンジンの搭載方法等)を入れることが可能である。また、この固有振動抑制制御の使用の有無の選択も可能である。
【0051】
次に、FCCB学習制御禁止フラグをON(1)する(ステップS12)。次に、上記のステップS9、S11で求められた各気筒毎の燃料噴射量QFnとなるように、各気筒毎に対応して取り付けられたインジェクタ1〜6の開弁期間を算出し、更に噴射開始時期、つまりインジェクタ1〜6の開弁時期を算出する。そして、算出されたインジェクタ1〜6の開弁期間および開弁時期となるように各噴射量制御用電磁弁11〜16に制御信号を出力する(噴射量制御手段:ステップS13)。その後に、図5のルーチンを抜ける。
【0052】
〔実施例の効果〕
以上のように、本実施例のディーゼルエンジン用の電子制御蓄圧式燃料噴射システムにおいては、ディーゼルエンジン10の無負荷状態、つまり回転速度の低いアイドリング状態において、上記のFCCB学習制御を実施することにより、ディーゼルエンジン10全体の振動を低減させることができる。
【0053】
そのFCCB学習制御を実施した後に、上記の固有振動抑制制御を実施することにより、ディーゼルエンジン10の各気筒毎に持つ機械的な固有振動(エンジン固有振動)を低減させることができる。したがって、ディーゼルエンジン10の無負荷状態、つまり回転速度の低いアイドリング状態において、エンジン振動、騒音を低減することができるので、運転者(ドライバー)に不快感を与えることはない。
【0054】
また、ディーゼルエンジン10の無負荷状態、つまり回転速度の低いアイドリング状態を検出する毎に、上記の固有振動抑制制御を実施した後は、上記のFCCB学習制御を禁止することにより、特定気筒固有の振動を抑制した後に、再度、各気筒毎に持つ機械的なエンジン固有振動を増加させるような不均量補償制御を禁止できる。
【0055】
したがって、ディーゼルエンジン10の無負荷状態の間中、特定気筒#1、#2に対応して取り付けられたインジェクタ1、2への制御出力が過剰に変動することを防止することができる。なお、固有振動抑制制御時の特定気筒#1、#2の噴射量ウェイトΔQ2nについては、任意の気筒に任意の噴射量ウェイト(第2噴射量補正量)を付加することで、後述する様々なエンジン型式の多気筒エンジンに適用でき、固有振動抑制効果を発揮することができる。
【0056】
〔変形例〕
本実施例では、本発明を燃料噴射ポンプ(高圧供給ポンプ)7により加圧された高圧燃料を蓄圧するコモンレール8を備えたディーゼルエンジン用の電子制御蓄圧式燃料噴射システムに適用した例を説明したが、本発明をコモンレールを持たず、分配型燃料噴射ポンプまたは列型燃料噴射ポンプとインジェクタ(燃料噴射ノズル)を組み合わせたディーゼルエンジン用の電子制御燃料噴射システムに適用しても良い。
【0057】
なお、クランク角度センサ41、アクセル開度センサ42および冷却水温度センサ43等は、ディーゼルエンジン10の運転状態を検出する運転状態検出手段を構成する。運転状態検出手段を構成として、この他に、噴射時期センサ、吸気圧力センサ、吸気温度センサを使用しても良い。
【0058】
本実施例では、多気筒エンジンの型式としてV型6気筒の直接噴射式ディーゼルエンジンを採用した例を説明したが、多気筒エンジンの型式としてV型4気筒またはV型8気筒またはV型12気筒のディーゼルエンジンを採用しても良く、また、直列6気筒のディーゼルエンジンや直列4気筒のディーゼルエンジンを採用しても良い。
【0059】
また、多気筒エンジンの型式として、その他の水平型、水平対向型、U型、VZ型多気筒のディーゼルエンジン、あるいは直列型、水平型、水平対向型、V型、U型、VZ型多気筒のガソリンエンジンを採用しても良い。また、多気筒エンジンとして渦流式ディーゼルエンジンや副室式ディーゼルエンジン等の多気筒内燃機関を採用しても良い。
【0060】
本実施例では、多気筒エンジンの各気筒毎に持つ機械的な振動(エンジン固有振動)の発生源となる1個以上の特定気筒を予め実験等で定めておき、FCCB学習制御が終了した後に、その予め定められた特定気筒のエンジン固有振動成分を取り除くように第1噴射量補正量ΔQ1nに噴射量ウェイトΔQ2nを付加する固有振動抑制制御を行うようにしている。
【0061】
ところ、FCCB学習制御が終了した後に、加速度センサまたは歪センサまたは圧力センサを多気筒エンジンの各気筒毎に取り付けて、各気筒毎の機械的な振動(エンジン固有振動)を検出した後に、振動源となる1個以上の特定気筒を判定して、各気筒毎に持つ機械的な固有振動成分を取り除くように噴射量ウェイトを付加するようにフィードバック制御を行うようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】電子制御蓄圧式燃料噴射システムの全体構成を示した構成図である(実施例)。
【図2】基本噴射量算出マップを示した図である(実施例)。
【図3】各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の挙動を示した図である(実施例)。
【図4】各気筒毎に持つ機械的なエンジン固有の振動の挙動を示した図である(実施例)。
【図5】ECUによる燃料噴射量算出方法を示したフローチャートである(実施例)。
【図6】FCCB学習制御時の各気筒への噴射量補正量を示した図である(実施例)。
【図7】固有振動抑制制御時の各気筒への噴射量補正量を示した図である(実施例)。
【図8】各気筒毎に持つ機械的なエンジン固有の振動の挙動を示した図である(実施例)。
【符号の説明】
1 インジェクタ(燃料噴射弁)
2 インジェクタ(燃料噴射弁)
3 インジェクタ(燃料噴射弁)
4 インジェクタ(燃料噴射弁)
5 インジェクタ(燃料噴射弁)
6 インジェクタ(燃料噴射弁)
7 高圧供給ポンプ
8 コモンレール
9 ECU(噴射量制御装置、第1、第2噴射量補正手段、回転速度変動検出手段、特定気筒推定手段、無負荷状態検出手段)
10 ディーゼルエンジン(多気筒エンジン)
41 クランク角度センサ(回転速度検出手段、回転速度変動検出手段、無負荷状態検出手段)
42 アクセル開度センサ(無負荷状態検出手段)
43 冷却水温度センサ
45 車速センサ(無負荷状態検出手段、走行状態検出手段)
#1 気筒
#2 気筒
#3 気筒
#4 気筒
#5 気筒
#6 気筒

Claims (4)

  1. 多気筒エンジンの各気筒へ燃料を噴射する複数の燃料噴射弁と、演算された各気筒への燃料噴射量となるように、前記複数の燃料噴射弁を個別に制御する噴射量制御装置とを備えた多気筒エンジン用燃料噴射装置において、
    前記噴射量制御装置は、
    (a)前記多気筒エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、
    (b)前記回転速度検出手段により検出された前記多気筒エンジンの回転速度に応じて、前記多気筒エンジンの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を検出する回転速度変動検出手段と、
    (c)前記多気筒エンジンの気筒毎に持つ機械的な固有振動を発生する振動源となる特定気筒を推定する特定気筒推定手段と、
    (d)前記回転速度変動検出手段により検出された各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を平滑化するように、前記多気筒エンジンの運転状態に応じて設定される各気筒毎への基本噴射量に第1噴射量補正量を付加して、前記多気筒エンジンの各気筒への燃料噴射量を個別に補正する第1噴射量補正手段と、
    (e)前記特定気筒推定手段により推定された前記振動源となる特定気筒の固有振動を低減化するように、前記振動源となる特定気筒への基本噴射量および前記第1噴射量補正量に第2噴射量補正量を付加して、前記特定気筒への燃料噴射量を補正する第2噴射量補正手段と
    を備えたことを特徴とする多気筒エンジン用燃料噴射装置。
  2. 請求項1に記載の多気筒エンジン用燃料噴射装置において、
    前記噴射量制御装置は、前記特定気筒推定手段によって推定した前記振動源となる特定気筒を記憶するメモリを有し、
    前記第2噴射量補正量は、予め前記振動源となる特定気筒の固有振動を抑制することが可能な見込み値を求めておき、その見込み値を前記メモリに記憶しておくことを特徴とする多気筒エンジン用燃料噴射装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載の多気筒エンジン用燃料噴射装置において、
    前記多気筒エンジンの無負荷状態を検出または推定する無負荷状態検出手段を備え、
    前記無負荷状態検出手段により前記多気筒エンジンの無負荷状態を検出または推定する毎に、前記第2噴射量補正手段を実施した後は、前記第1噴射量補正手段を禁止することを特徴とする多気筒エンジン用燃料噴射装置。
  4. 請求項1ないし請求項3のうちいずれか1つに記載の多気筒エンジン用燃料噴射装置において、
    前記第1噴射量補正手段は、全気筒の回転速度変動の平均値と各気筒毎の回転速度変動の検出値とを比較し、この比較結果に基づいて、各気筒への燃料噴射量を補償する不均量補償制御手段であることを特徴とする多気筒エンジン用燃料噴射装置。
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