JP3590192B2 - 亜酸化窒素の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は亜酸化窒素の製造方法に関する。詳しくは、アンモニアを水蒸気の存在下に酸素で酸化して亜酸化窒素を製造する方法に関する。亜酸化窒素は麻酔ガスやロケット燃料用支燃剤あるいは半導体洗浄剤として有用な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
従来、亜酸化窒素の製造方法としては、(a) アンモニア酸化法、(b) 硝酸アンモニウム分解法、(c) スルファミン酸と硝酸との反応による方法等が知られている。この内、アンモニア酸化法(a) は原料が安価なアンモニアと酸素であり、また、高収率が得られるために工業的には好ましい方法である。
【0003】
アンモニア酸化法(a) において、水蒸気を共存させてアンモニアを酸化する方法が知られている。この方法によれば、(1) 活性の劣化がないこと、(2) 水蒸気を水に凝縮するだけで80%以上の高濃度の亜酸化窒素を得る事ができること、(3) 酸素あるいは窒素で爆発限界を避ける方法に比べ安全領域が大きくより安全に運転できること、 (4)水蒸気の熱容量が窒素や酸素よりも大きいため反応の温度制御が容易であるという長所がある(特開平5−58607号)。
【0004】
上記の方法で得られる反応生成物は、水蒸気の凝縮温度以下に冷却し大部分の水を除去した後、必要に応じてアルカリ水溶液および過マンガン酸カリウムを溶解したアルカリ水溶液によりNOxを除去し、窒素および酸素が分離される。
【0005】
亜酸化窒素と窒素および酸素との分離方法には、加圧下において反応生成物を水洗して亜酸化窒素を水に吸収させ、亜酸化窒素を吸収した高圧水を減圧することにより、高濃度の亜酸化窒素ガスを分離取得する方法(特公昭36−10958号)がある。この方法は水に対する亜酸化窒素の溶解度が低く、大量の水を使用するために装置が大きくなり、また亜酸化窒素の回収率も低く経済的でない。
【0006】
また、上記方法を改良したものとして、水洗塔とガス放散塔を2器ずつ使用し亜酸化窒素の回収率を向上させる方法(特公昭46−32210号)がある。この方法は亜酸化窒素の回収率は向上しているが、さらに水洗塔とガス放散塔が1器ずつ多くなり設備費が増加する。
【0007】
上記した特公昭36−10958号公報には従来の技術として、亜酸化窒素ガス、酸素および窒素等を含む混合ガスを−89℃以下に冷却して亜酸化窒素を分離濃縮する方法が示されている。しかしながら、亜酸化窒素の凝固点は約−90℃であり、−89℃以下に冷却すると亜酸化窒素が凍結し熱交換器の伝熱部に付着する。このため、気体相の冷却効率が悪くなる。すなわち、固体亜酸化窒素の付着量は増加するが気体相全体を充分に冷却することができなくなり回収率が低下する。したがって、運転中に固体亜酸化窒素を除去する必要が生じ、長時間連続運転を行うことはできない。
【0008】
冷却による亜酸化窒素と窒素、酸素を分離する他の方法としては、亜酸化窒素含有ガスを圧力15〜300バール、温度0〜−88℃とし、気体相と液体相に分離した後、生成した亜酸化窒素の液体相をストリッピングし、さらに気体相を膨張により冷却した後亜酸化窒素含有ガスを冷却する冷媒として使用する方法が示されている(特開昭54−20994号)。この方法は冷却のためのエネルギーを気体相の膨張により得ているためエネルギー消費量は少ないが、亜酸化窒素を凝縮させる冷媒に気体を使用するため熱交換器の伝熱面積を大きくする必要があり、その結果、多くの熱交換器を使用する必要がある等設備費が大きくなる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、亜酸化窒素を加圧下で水に吸収させる方法は大量に水を使用するため装置が大きくなる。また、亜酸化窒素を冷却し液体として回収する方法は、亜酸化窒素が凍結する。さらに、冷媒に気体のみを用いた場合、熱交換器の伝熱面積が大きくなる等の問題がある。
【0010】
本発明の目的は、亜酸化窒素と窒素および酸素等を分離する際に、装置が小型化でき亜酸化窒素の凍結が少ない亜酸化窒素の製造方法を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、冷媒として液化ガスを使用し、該液化ガスを液体と気体の混合状態で亜酸化窒素と熱交換させることにより熱交換器が小型化でき、さらに亜酸化窒素の凍結を防止できることを見いだし本発明を完成した。すなわち、本発明は、
水蒸気の存在下にアンモニアおよび酸素を反応させて得られた反応生成ガスを、亜酸化窒素、窒素および酸素等の非凝縮性ガスと水とに冷却分離し、次いで該非凝縮性ガスから亜酸化窒素を冷却分離するに際し、冷媒として沸点が−40〜−240℃の物質を用い、熱交換器入り口における該冷媒の液体と気体の重量比が1:0.05〜20となるように調製した冷媒を熱交換器へ導入して、冷却し凝縮した亜酸化窒素と、窒素および酸素を分離することを特徴とする亜酸化窒素の製造方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における亜酸化窒素含有ガスとは、水蒸気の存在下にアンモニアおよび酸素を反応させて得られた反応生成ガスを、水の沸点以下に冷却して大部分の水とアンモニアを分離し得られた非凝縮性ガスを、さらに必要に応じNOxを除去した後、水分をも完全に除去して得られる亜酸化窒素、窒素および酸素を主体とする混合ガスである。
【0013】
ここでアンモニアおよび酸素の反応に使用する触媒は、アンモニア酸化用触媒として知られている公知の触媒を使用することができる。驚くべきことに、水を添加すると、今まで触媒の劣化が認められた触媒においても、その劣化は極めて少ない。おそらく触媒上の硝酸痕のような被毒物質の洗浄効果あるいは触媒の酸化状態の保持効果のためと推測される。このような触媒の例としては、CuO−MnO2 系、Bi2O3 系、Fe2O3−Bi2O3−MnO2 系、MnO2−
CoO−NiO系、Ba2O−CuO系、MnO2 系、Pr2O3−Nd2O3
−CeO3 系、Pt系が挙げられる。この中でもMn含有触媒が高活性であり好ましい。さらに調製が容易なCuO−MnO2 系が特に好ましい。これらの触媒は通常管型反応器へ充填され、アンモニア、酸素および水蒸気等の混合ガスが供給され反応が行われる。
【0014】
本発明の水蒸気の存在下にアンモニアを酸素で酸化反応せしめるに際し、反応器入り口での組成は、水蒸気濃度が50vol%以上にすることで特に触媒活性の劣化を抑制する効果があり望ましい。また、このアンモニアの酸化反応においてはアンモニアの濃度いかんでは爆発の危険性があり、そのアンモニアの爆発下限界は約15vol%で、この爆発領域を避けるために酸素あるいは窒素で希釈して反応ガス中のアンモニア濃度を約15vol%以下にする必要があり、安全性の面からは10vol%以下にすることが好ましい。このように酸素あるいは窒素で希釈した場合には、アンモニア濃度が小さいため反応効率が悪く、さらには得られる反応生成ガス中の余分な酸素および窒素を亜酸化窒素と分離する必要がある。
【0015】
しかしながら、水蒸気濃度を約60%以上にすればアンモニア、酸素のモル比によらず爆発領域を回避できる事も見いだしている。このように反応器入り口において水蒸気が60vol%以上であれば前記した希釈用としての余分な酸素や窒素は必要がなく、容易に高濃度の亜酸化窒素を分離することができる。したがって、好ましい水蒸気の使用量は反応器入り口濃度で50vol%以上、さらに好ましくは60vol%以上である。
【0016】
本発明の方法で使用するアンモニアは純粋なアンモニアを使用してもよいが、アンモニア水溶液を用いることもできる。アンモニアの反応器入り口の濃度は上記したように、爆発領域を避けるために10vol%以下が好ましいが、水蒸気の使用量を60vol%以上にすることでその制限はなく、反応器入り口におけるアンモニアの濃度は1〜30vol%の範囲であり、好ましくは1〜20vol%の範囲である。
【0017】
本発明で使用する酸化源としての酸素は純粋な酸素は勿論のこと、窒素等の不活性ガスを含んだ酸素や空気を用いることもできるが、上述したように、これ以上の窒素等で希釈された酸素を用いることは反応生成ガス中の亜酸化窒素濃度が低くなり好ましくない。好ましい酸素の使用量はアンモニア1モルに対し0.3〜1.5モルの範囲である。
【0018】
これらのアンモニア、酸素および水蒸気等の混合ガスの供給速度は、0℃、1気圧の状態に換算して空間速度100〜10,000/hr、好ましくは1,000〜50,000/hrの範囲である。
【0019】
反応温度は200〜500℃が好ましいが、高すぎると窒素酸化物の副生量が増加し好ましくない。従って、さらに好ましくは250〜450℃である。
【0020】
反応圧力は高圧の方が反応速度が早くなるが、反応器が高価になり不経済であり、好ましくは0〜20kg/cm2−G、更に好ましくは0.3〜5kg/cm2−Gである。
【0021】
このようにして得られた反応生成ガスを水蒸気の沸点以下に冷却し、水蒸気と、亜酸化窒素、酸素および窒素等の非凝縮性ガスとに分離される。得られる非凝縮性ガス中には、通常亜酸化窒素が40〜90vol%程度含まれている。
【0022】
さらに必要に応じて、アルカリ水溶液および過マンガン酸を含むアルカリ水溶液に接触させ微量の窒素酸化物を除去し、次いで水分を除去して得た亜酸化窒素含有ガスを加圧下で冷却し、亜酸化窒素を液化することにより、亜酸化窒素と酸素および窒素とに分離する。
【0023】
この亜酸化窒素含有ガスを冷却する冷媒としては、−40〜−240℃、好ましくは−60〜−200℃、さらに好ましくは−90〜−200℃の範囲に沸点を持つ物質を用いる。冷媒の蒸発熱を利用することにより熱交換器の伝熱面積を小さくすることができる。冷媒の沸点が−40℃より高いと冷却温度が高くなり、回収率が低下する。また、この場合回収率を高くするためには、より高い圧力で亜酸化窒素含有ガスを冷却しなければならない。冷媒の沸点が−240℃より低いと局部冷却が起こり亜酸化窒素の凍結が起こり易くなる。
【0024】
このような冷媒としては、例えば塩素、酸素、窒素、アルゴン、キセノン、クリプトン、アンモニア、メタン、エタン、エチレン、プロパン、シクロプロパン、プロピレン、フロン−12、フロン−13、フロン−22、フロン−23、フロン−41、フロン−116等があるが、中でも腐食性が低く亜酸化窒素に混入しても燃焼を起こさず安全な酸素、窒素、アルゴン、キセノン、クリプトン、フロン−13、フロン−22、フロン−23、フロン−41、フロン−116等が好ましく用いられるが、さらに、空気中に放出しても環境問題を引き起こすことがない酸素、窒素、アルゴンは特に好ましいく用いられる。
【0025】
本発明で重要なのは、冷媒には液体と気体の混合物を用いることである。冷媒に液体を使用することにより、液化ガスが気化する際の蒸発熱を利用することができ、熱交換器の伝熱面積を小さくすることができる。また、液体と同時に気体を存在させることにより、亜酸化窒素の局部冷却を防止し亜酸化窒素の凍結を防ぐことができる。
【0026】
このような冷媒は、液体と気体とを混合した混合物の温度が均一な状態となったものを使用してもよいし、液体の一部を蒸発させて得られる液体と気体の混合物を使用してもよい。また、予め凝縮温度まで冷却された気体と液体を熱交換器入り口において混合してから熱交換器に導入してもよい。いずれの場合においても、熱交換器入り口において冷媒の液体と気体の存在比が重量比で1:0.05〜20、好ましくは1:0.1〜10となるようにする。液体と気体の存在比が1:0.05より小さいと亜酸化窒素が凍結し易くなる。一旦、亜酸化窒素の凍結が生じると、熱交換器の伝熱部または凝固した亜酸化窒素と気体相の接触部分で亜酸化窒素の凍結が進行し、ついには熱交換器の閉塞を起こす。
【0027】
また、一方では、熱交換器の伝熱部に固体状の亜酸化窒素が付着することにより総括伝熱係数が低下し、気体相全体を充分に冷却することができなくなり、亜酸化窒素の回収率が低下する。また、液体と気体の存在比が1:20より大きいと熱交換器の伝熱面積を大きくする必要があり設備費が高くなる。
【0028】
冷媒を熱交換器に導入する方法に関しては特に制限はなく、あらかじめ気体と液体が充分混合されている状態で導入してもよいし、別々に熱交換器に導入してもよいが、熱交換器内においては気体と液体が充分に混合されていることが好ましい。冷却に使用した冷媒は回収し再利用することができる。
【0029】
亜酸化窒素含有ガスの冷却は加圧下で行う。加圧することにより亜酸化窒素の凝縮温度が高くなり、亜酸化窒素を液体として分離しやすくなり回収率が高くなる。通常、圧力は5〜100kg/cm2−G、好ましくは10〜50kg/cm2−Gである。圧力が5kg/cm2−Gに満たないと気体相に残存する亜酸化窒素の割合が多くなり回収率が低下する。また、100kg/cm2−Gを越えると加圧のためのエネルギーが大きくなり運転コストが高くなる上、設備費も高くなる。
【0030】
このような条件下に冷媒と亜酸化窒素含有ガスの熱交換は、並流でも向流でもよいが、並流の方が亜酸化窒素の局部冷却が起こりにくく、亜酸化窒素の凍結を防ぎ易い。
【0031】
上記のような条件で亜酸化窒素含有ガスを−40〜−90℃に冷却し、凝縮した亜酸化窒素を、窒素および酸素と分離する。液化した亜酸化窒素を蒸留し再び冷却凝縮させてもよい。このようにして得られる亜酸化窒素は純度99%以上であり、回収率は90%以上に達する。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0033】
実施例1
水蒸気の存在下アンモニアを酸素で酸化し、得られた反応生成ガスを30℃に冷却し、さらに残留する水分を完全に除去した。このようにして、亜酸化窒素73vol%、窒素16vol%、酸素11vol%の亜酸化窒素含有ガスを連続的に合成した。この亜酸化窒素含有ガスを圧縮器で20kg/cm2−Gまで圧縮し、亜酸化窒素を凝縮するための熱交換器に送入した。この熱交換器に冷媒として液体の窒素とあらかじめ凝縮温度まで冷却した気体の窒素を1:2となるように、また、亜酸化窒素含有ガスに並流で熱交換器へ供給し、徐々に冷却を行った。窒素を液体と気体の合計で120g/hr流したとき、亜酸化窒素含有ガスを−60℃の温度で冷却した結果、亜酸化窒素の凍結は観察されず、この状態で30日間の連続運転ができたことから、それ以上の長期に渡る連続運転も可能であり、このときの亜酸化窒素の回収率は92%だった。結果を表1に示す。
【0034】
実施例2〜9
熱交換器入り口において、冷媒として窒素の液体と気体の重量比、および亜酸化窒素含有ガスの熱交換器への装入圧力、冷却温度を変化させた他は実施例1と同様にした。このときの結果を表1に示す。なお、いずれの実施例においても、亜酸化窒素の凍結は観察されなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
比較例1
冷媒として、熱交換器入り口における窒素の液体と気体の重量比を1:30とした他は実施例1と同様にした。窒素の流量が実施例1と同じ量になったときの亜酸化窒素含有ガスの温度は−15℃であり、このときの亜酸化窒素回収率は13%だった。さらに液体と気体の割合を一定にしたまま窒素の流量を増やしたが、−30℃付近までしか冷却できなかった。また、−30℃のときの亜酸化窒素の回収率は69%だった。この条件では結果的に伝熱面積不足であった。
【0037】
比較例2
熱交換器入り口における窒素の液体と気体の重量比を1:0.02とした他は実施例1と同様にした。徐々に窒素の流量を増加させながら、冷却する亜酸化窒素含有ガスの温度が−40℃付近を過ぎたとき以降は、窒素流量の変化に対する温度変化が緩やかになり、熱交換器の総括伝熱係数が低下した。熱交換器を解体して内部を観察したところ、固体亜酸化窒素が伝熱部に付着していた。
【0038】
比較例3
冷媒として液体窒素のみを使用した他は実施例1と同様にした。液体窒素の量を徐々に増加させたところ、冷却する亜酸化窒素含有ガスの温度が約−25℃になったとき比較例2と同様に窒素流量の変化に対する温度変化の緩やかな現象が生じ、固体亜酸化窒素が熱交換器内部に付着していた。
【0039】
実施例10
窒素の代わりに酸素を使用し、熱交換器入り口での液体と気体の重量比を1:4とした他は実施例1と同様にした。亜酸化窒素含有ガスの冷却温度が−60℃のとき、亜酸化窒素の回収率は実施例1と同じ値を示し、亜酸化窒素の凍結は観察されなかった。この状態で30日間の連続運転ができたことから、それ以上の長期に渡る連続運転も可能である。
【0040】
【発明の効果】
アンモニア酸化法により得られた亜酸化窒素含有ガスから亜酸化窒素を冷却分離するに際し、冷媒として気液混合状態の液化ガスを用いることにより、亜酸化窒素の凍結が防止でき、効率良く回収率の高い工業的に優位な亜酸化窒素の製造方法を提供できる。
Claims (2)
- 水蒸気の存在下にアンモニアおよび酸素を反応させて得られた反応生成ガスを、亜酸化窒素、窒素および酸素等の非凝縮性ガスと水とに冷却分離し、次いで該非凝縮性ガスから亜酸化窒素を冷却分離するに際し、冷媒として沸点が−40〜−240℃の物質を用い、熱交換器入り口における該冷媒の液体と気体の重量比が1:0.05〜20となるように調整した冷媒を熱交換器へ導入して、冷却し凝縮した亜酸化窒素と、窒素および酸素を分離することを特徴とする亜酸化窒素の製造方法。
- 冷媒が、酸素、窒素およびアルゴンからなる群より選ばれる一種類以上の物質である請求項1記載の方法。
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