JP3587536B2 - カルシウム補強剤及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、乳酸菌培養物を利用した消化吸収性の良いカルシウム補強剤及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カルシウムは我が国の国民栄養実態調査の中で、唯一その所要摂取量が不足している栄養成分である。カルシウムの補給食品には、牛乳、卵、小魚、緑葉等があるが、中でも牛乳中のカルシウムは、消化吸収性が高いため、最も優れたカルシウム補給食品とされている。
【0003】
一方、上記カルシウム補給食品の嫌いな人達や、あるいは、カルシウムの摂取絶対量が不足している人達を対象にして、栄養剤の成分にしたり、各種食品に添加物したりすることを目的としたカルシウム剤の開発が盛んに行われている。こうしたカルシウム剤には、牛や魚の骨粉、卵や貝の殻等の天然物を利用したものや、乳酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩等の有機酸カルシウムを含むもの、及び炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機塩を用いるもの等がある。
【0004】
また、特開平3−83564号には、ホエー及び該ホエーを限外濾過膜処理して脱タンパクしたホエーパーミエートを加熱濃縮することにより、ホエー中に多量含まれる乳糖を部分的に結晶化・除去し、その含量を低下したもの(ホエー回収ミネラル)を飲料中に配合し、pH4.6以下で可溶化してなるカルシウム補強飲料が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、カルシウムの人体における消化吸収性は一般に良いものではない。最も消化吸収性の良いカルシウムは、牛乳由来のものだとされているが、従来開発されたカルシウム剤は、一般に消化吸収性において牛乳に劣るとされており、カルシウム補強剤としての目的を十分に果たしているとは言えなかった。
【0006】
また、特開平3−83564号で用いているホエー回収ミネラルは、ホエー中に本来含まれるカルシウム分を濃縮したものであるから、カルシウム剤としての収率が低いという問題点があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、消化吸収性に優れ、大量生産が可能なカルシウム補強剤及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のカルシウム補強剤は、乳糖及び/又は乳糖含有物を含む培地に乳酸菌を植菌し、培養して得られる乳酸菌培養物であって、該培養物中の乳酸が水酸化カルシウムで中和されている乳酸菌培養物を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明のカルシウム補強剤の製造方法は、乳酸菌を、乳糖及び/又は乳糖含有物を含む培地に植菌して培養し、該培地中に生じる乳酸を水酸化カルシウムで中和して乳酸菌培養物を得ることを特徴とする。
【0010】
以下、本発明について好ましい態様を挙げて更に詳細に説明する。
本発明において、乳酸菌としては、例えばストレプトコッカス・ラクチス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremolis)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)等の乳酸球菌、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus caseii)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)等の乳酸桿菌などの公知のものが使用される。これらはいずれも容易に入手できる菌である。
【0011】
上記乳酸菌を培養するための培地としては、乳糖又は乳糖含有物を含有するものが用いられ、ここで、乳糖又は乳糖含有物としては、例えば、乳糖、乳清(ホエー)、脱脂粉乳等が用いられる。上記乳糖及び/又は乳糖含有物は、固形分換算で培地中に3〜30重量%含有させることが好ましい。また、他の栄養成分として、酵母エキスを添加することが好ましい。酵母エキスの添加量は、培地中に0.1〜1.0重量%とすることが好ましい。更に、培地中には、上記栄養成分の他、乳酸菌の増殖を促進するような各種の無機塩類、界面活性剤、ビタミン、酵素等を適宜添加することができる。特に、脱脂粉乳等の乳糖含有物を主成分として使用する場合は、その分解を容易にするために、培地を加熱滅菌後、植菌前に、「ニュートラーゼ」(商品名、ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社製)、「プロテアーゼA「アマノ」」、「プロテアーゼN「アマノ」」(商品名、天野製薬株式会社製)、「パンチターゼNP−2」(商品名、ヤクルト薬品工業株式会社製)等の蛋白分解酵素を添加することが好ましい。なお、培地を蛋白分解酵素等で処理する場合には、酵母エキスの代わりに食用酵母粉末等を添加して、酵素作用によりエキス化することもできる。
【0012】
培養方法は、上記培地に、乳酸菌を植菌後、嫌気状態で、30〜50℃、好ましくは35〜45℃で、攪拌培養するのが好ましい。培養時間は、6〜48時間が好ましく、より好ましくは16〜36時間である。
【0013】
上記培養の過程において、乳酸菌の代謝作用により生じる乳酸により、培地のpHが低下して乳酸菌の増殖が阻害されるので、水酸化カルシウムを徐々に添加して、培地のpHを5.0〜7.0に保つことが好ましい。培地中の乳糖が完全に消費されて、pHの低下が認められなくなったら培養を終了する。こうして、乳酸菌培養物中の乳酸を水酸化カルシウムで中和することにより、本発明のカルシウム補強剤を得ることができる。
【0014】
本発明のカルシウム補強剤は、上記培養液をそのまま、あるいは濃縮して製品化することもできるが、乾燥粉末化して製品化することが好ましい。乾燥方法としては、スプレードライ法、ドラムドライ法、凍結乾燥法等、各種の方法が採用できるが、乳酸菌の生菌を含有させて、整腸効果等をもたらすためには、凍結乾燥法が好ましい。
【0015】
【作用】
本発明のカルシウム補強剤は、乳酸菌培養物中の乳酸を水酸化カルシウムで中和した乳酸カルシウムを多量に含有する。また、乳酸カルシウム以外の乳酸菌代謝産物、及び乳酸菌の菌体成分等を含有するものである。本発明のカルシウム補強剤は、乳酸菌培養物中に含有される、乳糖や、牛乳蛋白質の酵素処理によって生ずるCPP(カゼインホスホペプチド)をはじめとする各種成分が、消化管内におけるカルシウムの消化吸収を促進する効果を持つため、優れた消化吸収能を有している。
【0016】
また、本発明の好ましい態様の一つとして、酵母エキスを加えた培地で乳酸菌を培養した場合は、乳酸菌の増殖上好ましいばかりでなく、カルシウムの消化吸収をより高める効果がもたらされる。その理由は、酵母エキス中に含まれるビタミンD前駆体であるエルゴステロールが変化して生成したビタミンDが、カルシウムの消化吸収を促進するためと推測される。
【0017】
更に、本発明において、培地のpHが5.0〜7.0の範囲に維持されるように、水酸化カルシウムを徐々に添加しながら培養を行なうことにより、乳酸菌の増殖性をより高めることができる。すなわち、従来は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどでpH調整しながら培養していたのであるが、これらは溶解度が高いため、培地の浸透圧が上昇して増殖を停止させる要因となっていた。水酸化カルシウムを用いた場合、中和されて生じる乳酸カルシウムは、溶解度が低く沈殿しやすいので、培地の浸透圧の上昇を招くことがない。その結果、乳糖などの培地成分が効率よく消費され、より高密度に乳酸菌の増殖がなされるものと考えられる。実際、水酸化ナトリウムでpH調整した場合は、乳酸菌数にして8.0×109/mlが限度であったが、水酸化カルシウムでpH調整した場合には、2.9×1010/mlまで増殖させることができた。
【0018】
本発明の方法により調製した乳酸菌培養物は、更に凍結乾燥等を行なうことにより、乳酸菌の生菌数が高く、保存安定性の高い粉末を得ることができる。乳酸菌の生菌を摂取することにより、整腸効果が得られるばかりでなく、カルシウムの消化吸収を一層高める効果がもたらされる。その理由は、製品に含まれる乳酸菌が、カルシウムの吸収部位である小腸内で増殖して腸内のpHが下がり、この結果カルシウムの溶解性が高まるためと推測される。
【0019】
【実施例】
実施例1
100L(リットル)当たり、脱脂粉乳(スキムミルク)4kg、粗製乳糖16kg、無機塩溶液2L、乾燥ビール酵母2.6kg、クエン酸ソーダ0.4kg、プロテアーゼ0.04kgを含む培地に、乳酸菌(ラクトバチルス・プランタルム)の前培養液1Lを植菌し、嫌気状態で、40℃の温度下で、攪拌培養した。培養中、生成される乳酸によって培地pHが低下するため、20%水酸化カルシウム水溶液を徐々に添加してpHを6.3に維持した。こうして20時間培養した後、培地pHの低下が認められなくなったので、培養を終了した。この培養液をスプレードライし、粉末状のカルシウム補強剤を得た。このカルシウム補強剤は、乳酸カルシウムを80重量%含むものであった。
【0020】
実施例2
甘性ホエー1000mlに酵母エキス10gを添加した培地に、乳酸菌(ラクトバチルス・カゼイ)の前培養液1mlを植菌し、嫌気状態で、37℃の温度下で、撹拌培養した。培養中、生成される乳酸によって培地pHが低下するため、20%水酸化カルシウム水溶液を徐々に添加してpHを6.3に維持した。こうして24時間培養した後、培地pHの低下が認められなくなったので、培養を終了した。この培養液を凍結乾燥し、粉末状のカルシウム補強剤を得た。このカルシウム補強剤は、乳酸カルシウムを73重量%含むものであった。
【0021】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のカルシウム補強剤は、乳糖及び/又は乳糖含有物を含む培地に乳酸菌を植菌し、培養して得られる乳酸菌培養物であって、該培養物中の乳酸が水酸化カルシウムで中和されている乳酸菌培養物を含むので、多量の乳酸カルシウムの他に、乳糖、CPP、ビタミンDとその前駆物質など、多種類のカルシウム吸収促進物質を含有する。そのため、優れたカルシウム消化吸収性を有し、カルシウム栄養剤、あるいは食品のカルシウム補強剤として幅広く利用することができる。
Claims (9)
- 乳糖及び/又は乳糖含有物を含む培地に乳酸菌を植菌し、培養して得られる乳酸菌培養物であって、該培養物中の乳酸が水酸化カルシウムで中和されている乳酸菌培養物を含むことを特徴とするカルシウム補強剤。
- 前記乳酸菌培養物が、酵母エキスを含有する培地で培養されたものである請求項1記載のカルシウム補強剤。
- 乾燥粉末化された請求項1又は2記載のカルシウム補強剤。
- 前記乳酸菌培養物は、凍結乾燥法によって粉末化されたものである請求項3に記載のカルシウム補強剤。
- 乳酸菌を、乳糖及び/又は乳糖含有物を含む培地に植菌して培養し、該培地中に生じる乳酸を水酸化カルシウムで中和して乳酸菌培養物を得ることを特徴とするカルシウム補強剤の製造方法。
- 酵母エキスを含有する培地で培養する請求項5記載のカルシウム補強剤の製造方法。
- 前記培地のpHが5.0〜7.0の範囲に維持されるように、水酸化カルシウムを徐々に添加しながら培養を行なう請求項5又は6記載のカルシウム補強剤の製造方法。
- 前記水酸化カルシウムで中和された乳酸菌培養物を乾燥粉末化する請求項5〜7のいずれか1つに記載のカルシウム補強剤の製造方法。
- 前記乳酸菌培養物を、凍結乾燥法により乾燥粉末化する請求項8記載のカルシウム補強剤の製造方法。
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