JP3587240B2 - スライドファスナー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣服や鞄等の様々な物品に用いることのできるスライドファスナーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スライドファスナーは一般にエレメント(務歯部)とテープ(基布)とスライダー(開閉部品)から構成され、2つに分かれた上記テープのそれぞれの分離端に上記エレメントが対向して設けられ、上記スライダーをスライドさせることによって、上記エレメントが噛み合って閉まり、或いは外れて開く様になっている。
【0003】
上記エレメントとしては、個々の歯が分離したもの(以下、単独エレメント型と称することがある)や、太めのモノフィラメントがコイル状となったもの(以下、連続エレメント型と称することがある)に大別される。
【0004】
図1の(a)は単独エレメント型のスライドファスナーを表す正面図であり、図1の(b)はテープ11へのエレメント13の取り付けの様子を説明する為の斜視図である。単独エレメント型のものは、エレメント13の個々の上記歯がY字状をしており、該歯のY字に分かれた脚部分13bをテープ11端部の太糸11aを挟み込んでかしめることによってエレメント13がテープ11に固定される構造となっている。
【0005】
図2は連続エレメント型のスライドファスナーを表す正面図である。エレメント23は螺旋状のモノフィラメントからなり、該モノフィラメントのうち歯となる部分を突出させて残し(歯部分23a)、他の部分(縫付け部23b)を縫付け糸24によりテープ21の端部(分離端)に縫い込むことによって固定される。
【0006】
そして上記単独エレメント型,連続エレメント型のいずれもスライダー22をスライドさせることにより、対向するエレメント13,23の歯部分13a,23aが嵌合解除、或いは嵌合して開閉される様になっている。尚閉鎖終わり部分には上止25が、また開放終わり部分には下止26が設けられており、スライダー22が抜けない様になっている。
【0007】
上記エレメント13,23や上記スライダー22の素材としては、真鍮等の金属や、ナイロン,ポリエステル等の合成樹脂が用いられている。また上記テープ21としては、ポリエステル等の合成繊維や綿繊維からなる織物が用いられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
昨今、合成樹脂製品の廃棄に関して環境問題が大きく取り上げられており、即ち一般的に合成樹脂は地中に埋めても土壌微生物によって分解を受けずに残存し、また焼却する場合においても燃焼温度が高く、有毒ガス発生の懸念があり、問題とされている。そこで上記合成樹脂製品を廃棄するのではなく、再利用することが検討され始めている。
【0009】
再利用方法としては、例えば使用済み合成樹脂製品を一旦溶融し、他の製品形体に再成形する方法が挙げられるが、上記使用済み合成樹脂製品には多くのゴミが付着しており、また塗料等のコーティング材も影響し、上記溶融液は不純物が多く混入したものとなる。この為に再利用製品は強度的に弱いものとなり、従って強度の要求されない用途に限定される。
【0010】
他方、スライドファスナーは頻繁に開閉が行われるものであり、特にエレメントはスライダーの摩擦に耐えることが必要であり、加えて歯部分13a,23aの嵌合を保持して容易に外れないことが要求されるから、高い強度を必要とする。尚連続エレメント型にあっては、ファスナー開閉の際に、エレメントであるモノフィラメントのうちの縫付け部23bが屈曲する様にして歯部分23aの嵌合・分離が行われるから(図3:スライダー内の様子を表す内部正面図)、柔軟性にも優れることが必要である。
【0011】
そこで本発明は上述の状況に鑑みてなされたものであり、十分な強度が確保され、且つ上記環境問題に配慮したスライドファスナーを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るスライドファスナーは、エレメントとテープとスライダーを備えたスライドファスナーであって、前記エレメントとテープとスライダーがそれぞれポリエステルを素材として構成され、且つPETボトルから得られた固相重合されていない再生ポリエステル系樹脂を、前記エレメントでは10質量%以上を、前記テープでは30質量%以上を、前記スライダーでは30質量%以上を、前記スライドファスナーの全体では30質量%以上をそれぞれ含有せしめ、且つ前記エレメントが、新しく合成されたポリエステル系樹脂(以下、バージンポリエステル系樹脂と称することがある)を20質量%以上含有するものであり、該エレメントを構成するポリマー素材の極限粘度(下式 (1) で求められる)が0.67〜0.90であることを要旨とする。
IV 1 =(A×B+C×D)/(A+C) … (1)
IV 1 :極限粘度
A:再生ポリエステル系樹脂の質量
B:再生ポリエステル系樹脂の固有粘度
C:新しく合成されたポリエステル系樹脂の質量
D:新しく合成されたポリエステル系樹脂の固有粘度
【0013】
上述の様にエレメントは特に強度が要求されるのであるが、エレメントにはバージンポリエステル系樹脂が含有されているから、再生ポリエステル系樹脂単独のものとは異なり、強度的に優れている。従ってエレメントの歯部分における嵌合を十分に保持でき、またファスナー開閉時の摩擦にも十分に耐えることができる。
【0014】
また本発明においては、上述の様に前記エレメントが前記新しく合成されたポリエステル系樹脂(バージンポリエステル系樹脂)を20質量%以上含有するものであることが好ましい。
【0015】
バージンポリエステル系樹脂を多く含有する程、強度向上を図ることができ、スライドファスナーのエレメントとしては上述の様に20質量%以上含有させることにより歯部分の嵌合保持性や摩擦に対する抵抗性に優れ、十分に使用に耐え得るものとなる。より好ましくは30質量%以上である。
【0016】
更に本発明においては、前記エレメントを構成するポリマー素材の極限粘度が0.67以上であることが好ましい。
【0017】
極限粘度0.67以上のものは強度的に優れており、従って上記エレメントはスライダーの摩擦に十分に耐え、歯部分の嵌合保持性に優れる。
【0018】
上記エレメントを構成するポリマー素材の極限粘度(IV)を向上させる手法としては、▲1▼バージンポリエステル系樹脂を多く含有させることや、▲2▼含有させるバージンポリエステル系樹脂として極限粘度の高いものを用いることが挙げられる。該▲2▼の手法で用いるバージンポリエステル系樹脂としては、極限粘度(IV)が0.67以上(より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.75以上)のものが挙げられる。尚一般的に現在使用されているバージンポリエステル系樹脂の極限粘度は0.6〜1.0であり、この様な一般的なバージンポリエステル系樹脂のうちから採用すると、経済性の観点から良い。
【0019】
ところで、再生ポリエステル系樹脂(一般的にIV0.6〜0.65)を固相重合して極限粘度を上げる手法も考えられるが、この場合はコスト高となる上、この様に固相重合したものはカラーb値が高くなる(黄色くなる)為、出来上がり製品の色に悪影響を与える。
【0020】
また上記エレメントを構成するポリマー素材の極限粘度は0.90以下であることが好ましい。この理由は上記▲1▼の手法を採用する場合において、ポリマー素材の極限粘度を0.90超とするにはバージンポリエステル系樹脂(極限粘度の比較的高いもの)を多量に含有させる必要があり、すると再生ポリエステル系樹脂の含有量が相対的に低減し、環境問題解消への寄与が乏しくなるからであり、また上記▲2▼の手法を採用する場合において、非常に高極限粘度のバージンポリエステル系樹脂は高価だからである。より好ましくはエレメントを構成するポリマー素材の極限粘度が0.85以下である。
【0021】
加えて本発明においては、前記エレメントがモノフィラメントを使用した連続エレメントであり、このモノフィラメントの強度が4g/d以上であることが好ましい。
【0022】
この様に強度4g/d以上であれば、スライダーの摩擦に十分耐えることができ、また歯部分の嵌合が外れることなく良好に保持し得る。
【0023】
また本発明においては、前述の様に前記テープの30質量%以上が再生ポリエステル系樹脂であり、前記エレメントの10質量%以上が再生ポリエステル系樹脂であり、前記スライダーの30質量%以上が再生ポリエステル系樹脂であって、前記スライドファスナーが全体として前記再生ポリエステル系樹脂を30質量%以上含有するものであることが好ましい。
【0024】
再生ポリエステル系樹脂を多く含有させることによって、該再生ポリエステル系樹脂の消費量が向上し、上述の環境問題の解決或いは低減に寄与する。殊に上記テープや上記スライダーについては、エレメントほど強度が要求されないことから、エレメントに比べてより多くの再生ポリエステル系樹脂を含有させることが可能である。
【0025】
より好ましくは、再生ポリエステル系樹脂が全体として40質量%含有されていることであり、更に好ましくは50質量%以上である。また上記テープに関して再生ポリエステル系樹脂が40質量%以上含有されていることがより好ましく、一層好ましくは50質量%以上である。加えて再生ポリエステル系樹脂が上記エレメントに20質量%以上含有されていることがより好ましく、更に好ましくは50質量%以上である。また上記スライダーに再生ポリエステル系樹脂が40質量%以上含有されていることがより好ましく、更に好ましくは50質量%以上である。
【0026】
【発明の実施の形態】
次に本発明に係るスライドファスナーの一例について説明する。
【0027】
溶融した再生ポリエステル系樹脂(例えば使用済みのPETボトル)とバージンポリエステル系樹脂の混合融液を得、該混合融液からエレメント用の螺旋状モノフィラメント,スライダー,上止及び下止を形成する。また上記混合溶液を用いて紡糸し、これを製織してテープを得る。また紡糸した糸を用いて縫付け用糸を得る。
【0028】
上記テープに上記エレメント用モノフィラメントを縫付け糸によって縫い付け、スライダーを取付けつつ組み立て、上止,下止を取り付けてスライドファスナーが完成する。
【0029】
上記エレメントのモノフィラメントとしては、下式(1)で表される極限粘度(IV1)が0.67〜0.90であるものが好ましい。より好ましくは0.70以上、0.85以下であり、更に好ましくは0.72以上、0.80以下である。
IV1=(A×B+C×D)/(A+C) …(1)
A:再生ポリエステル系樹脂の質量
B:再生ポリエステル系樹脂の固有粘度
C:バージンポリエステル系樹脂の質量
D:バージンポリエステル系樹脂の固有粘度。
【0030】
また上記バージンポリエステル系樹脂として、汎用されるポリエステル系樹脂のうち比較的極限粘度の高いものを用いることが推奨され、この様に高いものであれば少ない含有量で強度向上への貢献が高い。また汎用原料を用いることで、コスト高となることを回避できる。
【0031】
本発明で意図する原料たるポリエステルとは、構成単位の85モル%以上、好ましくは95モル%以上がエチレンテレフタレートからなるものであり、少量混入させることのできる他の構成単位としてはジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、炭素数が1〜10の他のポリエチレングリコール、ヘキサヒドロ−P−キシリレングリコール、イソフタル酸、ジ安息香酸、p−ターフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヒドロキシ酢酸等のヒドロキシ酸等が挙げられる。この様なポリエステル素材は通常の溶融紡糸法によって繊維化される。
【0032】
尚混合する再生ポリエステル系樹脂とバージンポリエステル系樹脂の素材としては、同じ種類の素材を用いること(例えばポリエチレンテレフタレート同士)が好ましく、馴染み良く良好に混合されるからである。
【0033】
またテープ,エレメント,スライダー,縫付け糸,上止,下止を全て同じ種類の素材で構成すると、スライドファスナーを更に再生する際に素材別に分ける手間が省けて有利である。
【0034】
尚上記実施例1ではテープ及びスライダーについてもバージンポリエステル系樹脂を含有したものを用いた例を示したが、これらテープやスライダーは比較的強度が要求されないから、再生ポリエステル系樹脂のみで構成しても良い。またスライダーや上止,下止として金属製のものを用いても良い。
【0035】
【実施例】
次に本発明に係るスライドファスナーの具体的な実施例及び比較例を示す。
【0036】
再生ポリエステル系樹脂の原料としては使用済みのPETボトルを用い、該PETボトルを溶融し、粗ゴミ等を除去した後(再生PET)、これに新しく合成されたポリエチレンテレフタレート(バージンPET)を下記表1の如く混合し、エレメント用のモノフィラメント,スライダー,上止,下止を成形し、また縫付け用糸及びテープを得る。エレメントのモノフィラメントの太さは4500dとし、チェーン幅が6mmのファスナーを作製する。
【0037】
【表1】
【0038】
またこれらスライドファスナーのチェーン横引強度(JIS S 3015:負荷は441Nとする),往復開閉耐久度(JIS S 3015:負荷は横方向15.7N,横方向13.7Nとする),しゅう動抵抗(JIS S 3015),スライダー総合強度(JIS S 3015:負荷は148Nとする),洗濯収縮率(JISL 1042),洗濯堅牢度(JIS S 3015[JIS L 0844に規定するA−2号])について試験を行う。またエレメント(モノフィラメント)の強度を測定した(JIS L 1013)。加えて再生PETの利用性,コストについても評価した。これらの結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表1,2から分かる様に、エレメントにおけるバージンPET含有量の比較的少ない試料No.4のファスナーはややモノフィラメント強度が低いものの、概ね試料No.1〜11のファスナーは良好な強度(モノフィラメント強度,チェーン横引強度,往復開閉耐久度,スライダー総合強度)を示し、またしゅう動抵抗や洗濯堅牢度も良好である。またバージンPET含有量が比較的少ない試料No.1〜5,6〜8にあっては、コスト及び再生PET利用性の観点からも優れている。
【0041】
以上の様に本発明に係るスライドファスナーに関して具体的に説明したが、本発明はもとより上記例に限定される訳ではなく、前記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
【発明の効果】
本発明に係るスライドファスナーは、再生ポリエステル系樹脂を使用して環境問題解決(或いは低減)に寄与しつつ、十分な強度を有し、スライダーの摩擦に耐え、またエレメントの歯部分における嵌合を十分に保持でき、頻繁な開閉を伴うファスナーの使用に耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は単独エレメント型のエレメントを有するスライドファスナーを表す正面図、(b)はテープへのエレメントの取り付けの様子を説明する為の斜視図。
【図2】連続エレメント型のエレメントを有するスライドファスナーを表す正面図。
【図3】連続エレメント型のエレメントを有するスライドファスナーにおいて、スライダー内の様子を表す内部正面図。
【符号の説明】
11,21 テープ
11a 太糸
13,23 エレメント
13a,23a 歯部分
13b 脚部分
22 スライダー
23b 縫付け部
24 縫付け糸
25 上止
26 下止
Claims (2)
- エレメントとテープとスライダーを備えたスライドファスナーにおいて、
前記エレメントとテープとスライダーがそれぞれポリエステルを素材として構成され、
且つPETボトルから得られた固相重合されていない再生ポリエステル系樹脂を、前記エレメントでは10質量%以上を、前記テープでは30質量%以上を、前記スライダーでは30質量%以上を、前記スライドファスナーの全体では30質量%以上をそれぞれ含有せしめ、
且つ前記エレメントが、新しく合成されたポリエステル系樹脂を20質量%以上含有するものであり、
該エレメントを構成するポリマー素材の極限粘度(下式 (1) で求められる)が0.67〜0.90であることを特徴とするスライドファスナー。
IV 1 =(A×B+C×D)/(A+C) … (1)
IV 1 :極限粘度
A:再生ポリエステル系樹脂の質量
B:再生ポリエステル系樹脂の固有粘度
C:新しく合成されたポリエステル系樹脂の質量
D:新しく合成されたポリエステル系樹脂の固有粘度 - 前記エレメントがモノフィラメントを使用した連続エレメントであり、このモノフィラメントの強度が4g/d以上である請求項1に記載のスライドファスナー。
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JP33031299A Expired - Fee Related JP3587240B2 (ja) | 1999-11-19 | 1999-11-19 | スライドファスナー |
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