JP4009903B2 - スライドファスナー用樹脂組成物およびそれからなる樹脂スライダー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、テープの縁部にエレメントを取り付けたスライドファスナーの成形に用いられる樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、衣類などに取り付けられ、繰り返しの洗濯や加熱乾燥、アイロンなどの熱を受けても問題が生じないスライドファスナーの成形に提供される樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、スライドファスナーは、図1に示すようにエレメント(務歯1)、テープ(基布2)、スライダー(開閉部品:スライダー本体3およびスライダー引手4からなる)および止め5から構成され、スライダーを移動させることによって、エレメントが噛み合ってテープが閉まり、あるいはエレメントが外れてテープが開くようになっている。
従来より、前記務歯には、成形性や耐磨耗性が良いポリオキシメチレンが使用されている。また、スライダーには強度の高い金属やポリオキシメチレンが使用されている。ポリオキシメチレン製の場合、染色性が低くテープと同様に染色できないので顔料により予め着色して使用されていた。ポリオキシメチレン製の場合、アイロンがけ時アイロンが接すると融解するという問題点があった。
【0003】
また、一部ポリブチレンテレフタレートが使用されているが、この場合も生地と材質が異なるので、染色性が大きく異なり、色調が合わないので、成形前に顔料による着色するか、成形後布地とは別に染色しなければならず汎用化しなかった。また、非強化ポリブチレンテレフタレート樹脂製では、曲げ弾性率が2.3GPaと剛性が低く、スライダーや止めとして用いた場合、強度が低い問題やまた開閉時変形するという問題があり、また強化ポリブチレンテレフタレート製の場合、特に繊維状強化材が20重量%より多い場合、反りや変形が大きくなり、寸法精度の関係で開閉抵抗が大きいことや部分的な欠けや磨耗が大きく、用途は極一部に限られていた。摺動性改良剤を配合して開閉抵抗を下げる試みもなされているが、改善は充分でなかった。ポリエチレンテレフタレートの使用も試みられたが、通常の組成物では、成形する複雑な金型では成形が難しく生産性が不可能であった。また高い寸法精度が要求されるファスナー部品の場合、離型時の製品の変形により使用時の開閉に問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記したスライダーファスナーにおいて、アイロンが接しても融解することがなく、スライダーの開閉抵抗が低く、開閉に耐える強度・剛性・耐久性の高いスライダーファスナー用の樹脂組成物を提供することである。
特に、環境保護や省資源の点からボトルやフィルムなどの再生樹脂を使用しても、同浴で染色ができ充分性能を満足するスライダーファスナー用の樹脂組成物を提供することである。
また、ファスナー全体を樹脂化することにより生地とファスナーを分離することなく、成形品としてリサイクル使用できるファスナー材を提供することにある。
【0005】
前記課題を解決するため、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち、本発明は、(1)ポリエチレンテレフタレート繰り返し単位を持つポリエステル樹脂(A)100部に対して、繊維状強化材(B)0.1〜200重量部およびシリコン系、高級脂肪酸エステル系、高級脂肪酸塩系から選ばれた1種以上の離型剤(C)0.1〜10重量部を含有し、23℃における曲げ弾性率が2.6GPa以上であることを特徴とするスライドファスナー用樹脂組成物。(1)ポリエチレンテレフタレート繰り返し単位を持つポリエステル樹脂(A)がボトル・フィルム・繊維等の再生品である前記(1)記載のスライドファスナー用樹脂組成物。(3)前記(1)記載のスライドファスナー樹脂組成物を成形してなる樹脂スライダーである。
【0006】
上記の構成からなる本発明のスライドファスナー用樹脂組成物は、生産性が高く、耐久性能に優れる。またファスナーと布地は同じポリアルキレンテレフタレート系樹脂である場合、分離せずに廃棄後再利用することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のスライドファスナー用樹脂組成物について実施の形態を説明する。
本発明において、80モル%以上のアルキレンテレフタレート繰り返し単位を持つポリエステル樹脂(A)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートやこれらの共重合体が挙げられる。中でもポリエチレンテレフタレートやこの共重合体が、強度や剛性が高く、布地材料と物性が類似し、最も取り扱いやすいので好ましい。
【0008】
前記ポリエステル樹脂(A)のグリコール成分としては、エチレングリコール、1,3プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトン等が挙げられる。また、テレフタル酸以外の酸成分としては、公知の酸成分が共重合できる。例えば、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などが使用される。共重合成分が20モル%を超えると結晶性が低減して、成形性や剛性が低下するので好ましくない。
【0009】
また、ポリエステル樹脂(A)としてボトル・フィルム・繊維等の再生品(回収品ともいう)を使用した場合、後で説明する離型剤(C)が滑剤としても作用し、流動性が改良されるので、本発明の目的の達成が充分可能であり、循環型社会を推進していく社会的要請面からも好ましい。組成物としては、前記回収品を粉砕したフレークや、フレークを押出機にて溶融してペレット化したものなど形状は限定されない。
【0010】
本発明において、使用される繊維状強化材(B)としては、ガラス繊維、炭素繊維、針状ワラストナイト、チタン酸カルシウムや硼酸アルミニウムなどのウイスカー等の無機繊維や、アラミド繊維やポリフェニレンサルファイド繊維など耐熱有機繊維が挙げられる。特にガラス繊維や針状ワラストナイト、アラミド繊維が好ましい。繊維径としては1〜30ミクロンのものが好ましい。成形品の強度や耐衝撃性向上のためのシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などを使用してもよい。特に、ポリエステル樹脂との接着性改良のためエポキシ系、アクリル系、ウレタン系アミン系カップリング剤で処理されたものが好ましい。
【0011】
繊維状強化材(B)は、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して0.1〜200重量部、好ましくは0.5〜150重量部、特に望ましくは1〜100重量部配合される。0.1重量部未満では効果が小さく、200重量部を超えると脆くなり強度低下するので好ましくない。
【0012】
また、本発明には、繊維状強化材(B)のほかにチタン化合物、亜鉛化合物、珪素化合物などの無機化合物が配合されてもよい。具体例を示すと、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、タルク、クレイ、シリカ、ワラストナイト、マイカ、ベントナイトなどが挙げられる。特に隠蔽力の高い酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛が同色染色性から好ましい。
【0013】
本発明に使用される離型剤(C)としては、シリコン系、高級脂肪酸エステル系、高級脂肪酸塩から選ばれる1種以上が挙げられる。離型剤(C)を配合することにより離型時の変形が防止され、寸法精度が上がり、務歯とスライダーのかん合が良いためと推察されるがスムーズな開閉が可能になる。特に、これらの離型剤は、ポリアルキレンテレフタレートに対して適度な非相容性を有し離型効果が高く、また耐熱性が高く、染色後の成形品の外観がよく商品性を損なわないので好ましい。具体的には、ジメチルシロキサン系、メチルフェニルシリコン系、アルコールやエポキシや酸により変性された片末端または両末端反応性シリコンオイル、ステアリン酸エステル、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸エステル、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸エステル部分塩などが例示され、中でもジメチルシロキサン系、アルコール変性シリコンオイル、モンタン酸エステル、モンタン酸カルシウム、モンタン酸エステル部分塩が好ましい。これらの離型剤はポリエステル樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましく0.1〜8重量、特に望ましくは0.2〜5重量が配合される。0.1重量部未満では効果が小さく、10重量を超えると成形品外観が損なわれるので本発明には好ましくない。
【0014】
本発明の課題を達成するには、23℃における曲げ弾性率が2.6GPa以上必要であり、好ましくは3.0GPa以上必要である。曲げ弾性率が2.6GPa未満では、開閉抵抗やすべり止めのオートロックにかかる力で変形し実用できない。またスライダー用材料としては、務歯より硬い3GPa以上が好ましい。特にオートロックスライダーのスプリング部とピンには5GPa以上が好ましい。なお、硬度が高すぎると務歯を磨耗するのでスライダーとしては7GPa以下が好ましく、ガラス繊維強化樹脂の場合、ガラス繊維配合量は20重量%未満が好ましい。本発明による寸法精度が高い繊維補強された樹脂組成物では7GPaで以下でも本発明の目的が達成される。
なお、曲げ弾性率の低いポリブチレンテレフタレート系樹脂の場合は、曲げ弾性率を2.6GPa以上にするには、繊維状強化材を多く配合して強化することが必要となる。従って、本発明では、樹脂の曲げ弾性率が比較的高いポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いることにより、強化材の必要量が少なくてすむので本発明には好ましい。
【0015】
また、本発明の組成物から得られるファスナー成形品は、染色して使用することができる。特に、布地と同浴で染色されて使用された場合、得られたファスナーは布地と色調が近いので好ましい。また縫製後染色できるので、容易に多様な要求に対応できて商品的に好ましい。染料としては、各種染料を用いることは出来るが、分散染料が好ましい。分散染料としては、キノン系分散染料、アゾ系分散染料、アントラキノン系分散染料が例示される。均染剤などの染色助剤を添加できる。また、布地がポリエステルの場合は布地とファスナーを分離することなくマテリアルリサイクルが出来るので循環社会の要求に合っている。
【0016】
さらに、本発明のファスナー用樹脂組成物には、常用の添加剤、例えば耐熱安定剤,耐侯剤、耐加水分解剤、顔料などを添加してもよい。熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系等やこれらの組み合わせを挙げることができる。耐侯剤としてはカーボンブラック、ベンゾフェノン系、トリアゾール系、ヒンダードアミン系などが挙げることができる。また、耐加水分解剤としては、カルボジイミド、ビスオキサゾリン、エポキシ、イソシアネート化合物が挙げることが出来る。また、顔料としては、ポリアルキレンテレフタレート系重合体が常用する耐熱顔料を使用することができる。
【0017】
本発明のファスナー用樹脂組成物は、前記の各構成成分を単軸押出機、2軸押出機やニーダーなどの装置を用いて混練することにより製造することができる。用いる混練機の種類や混練条件についての制限は特にない。
また前記方法などによって得られた本発明のファスナー用組成物を成形品に成形する方法としては、特に制限されるものではないが、射出成形によるのが一般的である。金型温度は、30〜60℃または120〜150℃の範囲が好ましい。なお、ファスナーの形状は特に制限されない。本発明はファスナーの務歯、スライダー、留めなどに使用される。特にスライダーと留めに適している。また、得られたファスナー部品は、成形材料に顔料を配合した原着法や塗装により着色することもできる。
また、本発明より可能になった全樹脂製のファスナーを含む繊維製品を、樹脂成形品としてリサイクル使用するにあたっては、生地とファスナーを分離することなく溶融成形が可能である。
【0018】
【実施例】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお明細書中の物性評価は以下の方法により測定した。
1)同浴染色性:本発明組成物のペレット状材料を140℃で3時間乾燥後、シリンダー温度255−265−265℃に調節された射出成形機のホッパーに供給して、表面温度が40℃に温度調節された金型を使用して図1に示したスライドファスナーを成形した。これを130℃にて20分熱処理をして評価用サンプルを得た。
スライダー付きファスナー20gを、スミカロン染料Navy Blue SE-RPD 200%(住友化学(株)製)濃度2%の染色液1000ccに浸漬し、130℃にて30分処理した。水洗後風乾して染色した。
色差計(東京電色(株)製TC1500MC-88型)を使用してテープ部とスライダーのL、a、b値を測定した。次式により色差(ΔE)を計算した。ΔEにより同浴染色性を評価した。
ΔE=[(L1−L2)2+(a1−a2)2+ (b1−b2) 21/2
【0019】
2)曲げ弾性率:溶融樹脂温度が270℃になるように設定された射出成形機と表面温度が50℃に温度調節された金型を使用して、厚さ6.4mmx幅12.7mmx長さ127mmの短冊をエッジゲートにより、射出時間15秒、冷却15秒にて射出成形後、140℃1時間熱処理をして曲げ試験片とした。
この試験片を23℃RH50%の試験室にて20時間保管後、スパン長100mm、クロスヘッド速度3mm/minに設定した万能引張試験機によりASTM D790に準じて曲げ試験を行い曲げ弾性率を計算により求めた。
【0020】
3)往復開閉耐久性:図1に示したスライダーの構成において、射出成形して得られた図2に示した形状のスライダーと実施例6の樹脂組成物を用いて同様に射出成形し、熱処理して得られた務歯を組合せ、往復耐久試験(JIS S3015 の6.9節)により、1万回開閉後の摺動抵抗と破損の有無により評価した。
○:破損や抵抗の増大がない場合、×:破損または抵抗の増大がある場合
【0021】
4)スライダー強度:3)で得られたスライダーをJIS S3015の6.7節に準じて、テンシロンUTMI型(オリエンテック社製)にスライダー本体を固定して、引き手をスライド方向に対して直角方向に引張り破損する強度を測定した。
【0022】
実施例1〜12、比較例1〜8
表1に示す樹脂、改質材、無機充填材の中から組み合わせを選択し、それらの所定量(重量%)計量後、予備混合した。この予備混合体をそれぞれ、シリンダー温度をホッパー側から265−270−270℃に調節した直径30mmφの同方向2軸押出機のホッパーに投入し、スクリュー回転数100rpmにて溶融混練してペレットを得た。得られた各々のペレットを140℃で3時間乾燥し、評価用サンプルを得た。上述した評価法により性能を評価した。その結果を表1および表2に示す。
【0023】
【表1】
Figure 0004009903
【0024】
【表2】
Figure 0004009903
【0025】
表中の略号は次の通りである。
PET1:回収ペットボトル再ペレタイズ品(YPR よのペットボトルリサイクル(株)製)
PET2:ポリエチレンテレフタレート バイロペットEMC500−01(東洋紡績(株)製)
PBT:ポリブチレンテレフタレート、バイロペットEMC700(東洋紡績(株)製)
POM:ポリオキチメチレン、ポリプラスチック社製ジュラコンM90S
ガラス繊維:旭ファイバーグラス(株)製 03JA429
ウイスカー:6チタン酸カリュム、テイスモーD(大塚化学(株)製)
SIO:シリコンオイル,東芝シリコン(株)製TSF451
WAX:モンタン酸エステル部分カルシウム塩、クラリアント(株)製WAXOP
MW:タルク#5000A(林化成(株)製)
E−MA:無水マレイン酸変性ポリエチレン(ニュクレルN410(三井化学(株)製)
PEL:ポリエステル系エラストマー(GP100 東洋紡績(株)製)
ZnS:硫化亜鉛、サクトリスHD Sachtleben(株)製)
【0026】
【発明の効果】
本発明組成物およびそれから得られるスライダーによれば、布地とファスナーが同浴による後染めで色相が合い、かつ成形性、強度、耐熱性、耐久性に優れ、布地と分離することなく再利用することができるので産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】スライドファスナーの平面図
【図2】スライダーの斜視図およびスライダー強度を測定するための取付具の斜視図
【符号の説明】
1:務歯(エレメント)
2:基布(テープ)
3:スライダー本体
4:スライダー引手
5:止め
6:スライダー(スライダー本体3とスライダー引手4からなる)
7:取付具

Claims (3)

  1. ポリエチレンテレフタレート繰り返し単位を持つポリエステル樹脂(A)100部に対して、繊維状強化材(B)0.1〜200重量部およびシリコン系、高級脂肪酸エステル系、高級脂肪酸塩系から選ばれた1種以上の離型剤(C)0.1〜10重量部を含有し、23℃における曲げ弾性率が2.6GPa以上であることを特徴とするスライドファスナー用樹脂組成物。
  2. ポリエチレンテレフタレート繰り返し単位を持つポリエステル樹脂(A)がボトル・フィルム・繊維等の再生品である請求項1記載のスライドファスナー用樹脂組成物。
  3. 請求項1記載のスライドファスナー樹脂組成物を成形してなる樹脂スライダー。
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