JP3584998B2 - 塩害防止用土壌改良材料及び該材料を用いた土壌改良方法 - Google Patents

塩害防止用土壌改良材料及び該材料を用いた土壌改良方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電解質濃度の増減に応じて膨潤体積が変化する、親水性架橋重合体からなる塩害防止用土壌改良材料、及び該材料を用いた土壌改良方法に関する。本発明の親水性架橋重合体は、塩害を防止し、良好な土壌を維持するのに極めて有効に働く。
【0002】
【従来の技術】
近年、世界的規模での、乾燥地あるいは緑地の砂漠化が大きな問題となっている。砂漠化の主な原因の一つとして、塩類を含有する地下水の水位上昇と、土壌表面での水分蒸発の繰り返しによる土壌表面への塩類集積、及び該塩の再溶解による地下水塩濃度の上昇等によって、植物の生育に適さない塩類土壌が形成されることが挙げられる。このような塩類集積によって作物が枯死するといった、いわゆる塩害が生じる。なお、ここで言う電解質とは、広く地下水中に溶存している各種イオン種を指すが、塩害においては、ナトリウムイオン濃度の影響が大きいことが知られている。
【0003】
このような砂漠化、あるいは塩害を防止するための方法が盛んに研究されている。例えば、地下水面と土壌表面との間に遮水層を配置し、地下水の上昇を遮断する方法がある。遮水材としては、砂礫、高吸水性物質等が用いられている。しかしながら、遮水材として砂礫を用いた場合は、砂礫間の空隙が地下水の上昇を抑制するが、塩類集積に対してはほとんど効果は見られない。また、高吸水性物質を地下に埋設した場合は、吸収膨潤した高吸水性物質による不透水層が形成され、地下水の上昇を阻止して塩類の集積を防止しうる。
【0004】
しかし、降雨等による土壌への大量の水の流入時は、不透水層があるために水が地下に浸透することができず、水はけが悪くなってしまい良好な土壌の維持ができない。さらに、通常の高吸水性樹脂は塩濃度の増加と共にその吸水性能が著しく低下する。そのため、地下水の塩濃度が高い場合には樹脂が十分に膨潤せず、良好な不透水層を形成するためには大量の樹脂が必要となりコスト面で不利となる。
【0005】
また、地中に多孔を有するパイプを埋設し、塩類含有地下水を排水溝に排出して塩害を防止する方法がある。しかし、この方法では塩害を防止するためには、随時灌漑水を供給して塩類含有水の土壌表面への集積を防ぐことが必要であり、コスト面で非常に不利である。また、沿岸地域で土壌面が海面より低い場合は、ポンプ等を使用して強制的に排出しない限り、事実上この方法により排水することは不可能となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は上記の様な問題点を克服するために、塩害を防止し、なおかつ良好な土壌を維持しうる方法について鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。塩害を効果的に防止し、なおかつ排水性を損なわず良好な土壌を維持しうる土壌改良材料及び該材料を用いた土壌改良方法を提供することは、灌漑地における作業労力、及びコスト面での大幅な低減をもたらすだけでなく、乾燥地での塩類集積による砂漠化を防止する有効な手段を与えるものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、濃度(0.01〜2重量%の範囲内に存在する臨界塩濃度を境として、高濃度の電解質水溶液に対しては吸収・膨潤し、且つ、低濃度の電解質水溶液及び純水に対しては膨潤しないという特徴を有する親水性架橋重合体からなる塩害防止用土壌改良材料によって達成でき、該土壌改良材料を砂質土壌中に埋設して、地下水あるいは土壌への流入水の電解質濃度に応じて、透水/不透水の自己制御が可能なゲル層を形成せしめる土壌改良方法により塩害を防止し、なおかつ良好な土壌を維持することができる。
【0008】
以下、本発明を詳述する。まず、本発明の親水性架橋重合体とは、高分子間で三次元架橋構造を有する親水性高分子であり、特定濃度範囲の上限以上の電解質水溶液に対しては吸収、膨潤し、且つ特定濃度範囲の下限以下の電解質水溶液及び純水に対しては膨潤しないという性質を有する。本発明において採用される重合体は、この様な性質を有した重合体であれば特に制限は無いが、具体的には、スルホベタインポリマーの架橋体が塩水吸収性ポリマーとして知られており、特願平5−223532にこのスルホベタインポリマーの架橋体を用いた「電解質水溶液吸収性両イオン性重合体」がある。本発明において、スルホベタインポリマーの架橋体は特に好適に使用することができる。ここで、スルホベタインポリマーとは、高分子中の同一側鎖基内に4級アンモニウム基とスルホン酸基の両者を併せ有する両イオン性の高分子電解質であり、スルホン酸基と4級アンモニウム基が分子内塩を形成している。
【0009】
通常の高吸水性樹脂、特にポリアクリル酸塩の架橋体を主体とする高吸水性樹脂は、純水あるいは低濃度の電解質水溶液に対しては高吸収性を示すが、高濃度の電解質水溶液あるいは多価イオンを含有する電解質水溶液に対してはその吸収性が著しく低下する。これは、ポリマー鎖中の荷電基に対する対イオンの凝集による静電遮蔽効果によってポリマー鎖が収縮すること、あるいは、多価イオンによるイオン架橋が原因である。
【0010】
一方、両性高分子電解質の1種であるスルホベタインポリマーは、純水には溶解せず、臨界塩濃度以上の電解質水溶液に溶解するという性質を有している。従って、スルホベタインポリマーの架橋体は純水及び臨界塩濃度未満の電解質水溶液中では膨潤せずに、臨界塩濃度以上の電解質水溶液中で膨潤する。ここで、膨潤、非膨潤の境界となる臨界塩濃度は、分子構造の相違、特に親水性の程度の相違等によって異なる値を示す。従って、分子構造を変化させることによって、使用目的に応じた塩濃度で膨潤、非膨潤させることが可能となり、土壌中を透過させる塩水溶液濃度のコントロールができる。すなわち、作物や植物に対する塩害を防止できるように、地下水の電解質濃度あるいは灌漑水や降雨等による土壌への流入水の電解質濃度を勘案して、臨界塩濃度を設定すればよい。ただし、臨界塩濃度は地下水の電解質濃度より低濃度に設定する必要がある。かかる臨界塩濃度は具体的には、0.01〜2重量%の範囲内、さらに好適には0.05〜1重量%の範囲内に設定される。尚、塩濃度変化に伴う非膨潤状態から膨潤状態、あるいは膨潤状態から非膨潤状態への変化は断続的ではなく、連続的なものである。従って、本発明における臨界塩濃度とは、塩濃度を増加させた場合に重合体が膨潤し始める濃度のことを言い、その濃度の直前、直後での膨潤体積の変化はわずかである。
【0011】
親水性架橋重合体の吸収倍率は、1重量%以上の電解質水溶液に対しては10倍以上、0.01重量%以下の電解質水溶液に対しては5倍以下であることが、地下水の塩濃度変化に対する透水/不透水の制御を実現するために望ましい。尚、ここで言う吸収倍率とは、乾燥した親水性架橋重合体の単位重量当たりの吸収した水性媒体の重量倍数を言う。
【0012】
スルホベタインポリマーの架橋体は、一般的にはスルホベタイン構造を有する両イオン性ビニル系単量体(A)と架橋性単量体(B)とのラジカル共重合により得られる。尚、重合時に架橋構造を形成する場合と、重合後に後架橋する場合の両方があり、特に制限は無い。
【0013】
本発明において、親水性架橋重合体を構成する両イオン性ビニル系単量体(A)としては、以下に示す化5〜化8(但し、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数0から6の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基もしくはヒドロキシアルキレン基、R及びRはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基、Rは炭素数1から6の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基もしくはヒドロキシアルキレン基、Rは炭素数1から6の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基もしくはヒドロキシアルキレン基、Xはエステル基またはアミド基または置換もしくは無置換のフェニレン基、Yは−O−または−NH−を示す。尚、化7及び化8のピリジン環に対する置換基(R及び重合性置換基)の置換位置は何処でも良い)で表される単量体が好適に採用される。
【0014】
【化5】
Figure 0003584998
【0015】
【化6】
Figure 0003584998
【0016】
【化7】
Figure 0003584998
【0017】
【化8】
Figure 0003584998
【0018】
両イオン性ビニル系単量体(A)は、一般にスルホベタイン型単量体として知られており、その重合体の溶液物性に関して多数の報告がある。例えば、POLYMER,1978,Vol.19,1157.、POLYMER,1984,Vol.25,254.等の文献がある。多くの場合、スルホベタイン型単量体は対応する3級アミン型単量体とスルトン類との反応によって合成される。例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレートと1,3−プロパンスルトンをジメチルホルムアミド中、30℃で3日間反応させることによって、N,N−ジメチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニウム内部塩が合成できる。また、3級アミン型単量体にアルデヒドまたはケトン類と酸性亜硫酸ナトリウムとの縮合物を反応せしめる、あるいは3級アミン型単量体とハロアルカンスルホン酸との反応、さらに水酸基を有する4級アンモニウム型単量体の硫酸エステル化反応によっても本発明の両イオン性ビニル系単量体(A)を合成することができる。その他、1−ビニル−3−(3−スルホプロピル)イミダゾリウム内部塩、1−ビニル−2−メチル−3−(3−スルホプロピル)イミダゾリウム内部塩、1−ビニル−2−メチル−3−(4−スルホブチル)イミダゾリウム内部塩、1−ビニル−3−(2−スルホベンジル)イミダゾリウム内部塩、2−ビニル−1−(3−スルホプロピル)ピリジニウム内部塩、4−ビニル−1−(3−スルホプロピル)ピリジニウム内部塩、N,N−ジエチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニム内部塩、3−{3−[2−(メタクリロイルオキシ)エトキシカルボニル]ピリジニオ}プロパンスルホネート内部塩、N,N−ジメチル−N−(2−アクリロイルオキシエチル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニウム内部塩、N,N−ジメチル−N−(3−アクリルアミドプロピル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニウム内部塩、N,N−ジメチル−N−(3−メタクリルアミドプロピル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニウム内部塩、N,N−ジメチル−N−(3−アクリルアミドプロピル)−N−(2−スルホエチル)アンモニウム内部塩、N,N−ジメチル−N−(3−メタクリルアミドプロピル)−N−(2−スルホエチル)アンモニウム内部塩、N,N−ジメチル−N−(3−アクリルアミドプロピル)−N−(4−スルホブチル)アンモニウム内部塩、N,N−ジメチル−N−(3−メタクリルアミドプロピル)−N−(4−スルホブチル)アンモニウム内部塩等のスルホベタイン型単量体が、本発明における両イオン性ビニル系単量体(A)として好適に使用することができる。
【0019】
本発明は重合体に対する高分子反応によって両イオン性官能基を該重合体中に導入した重合体も包含する。すなわち、3級アミノ基を有する重合体とスルトン類との高分子反応によって両イオン性官能基を導入する方法、あるいは重合体と両イオン性官能基を有する化合物との反応によって導入する方法、重合体に両イオン性ビニル系単量体(A)をグラフト重合する方法等の採用によっても、本発明の親水性架橋重合体を得ることができる。
【0020】
両イオン性ビニル系単量体(A)の重合時の仕込み組成は、70〜99.99モル%の範囲内であることが望ましい。両イオン性ビニル系単量体(A)の仕込み組成が70モル%未満では、電解質濃度変化に対する親水性架橋重合体の膨潤体積変化が十分に発現しない場合があるため好ましくない。また、両イオン性ビニル系単量体(A)の仕込み組成が99.99モル%より多いと、架橋性単量体(B)の組成が低くなり、親水性架橋重合体の架橋密度が低下して膨潤時にポリマーが溶液状あるいは半溶液状になるため好ましくない。しかし、両イオン性ビニル系単量体(A)が自己架橋性を有している場合は架橋性単量体(B)は必ずしも必要ではなく、両イオン性ビニル系単量体(A)が100モル%の仕込み組成である場合も本発明の範囲である。また、本発明において、親水性架橋重合体は両イオン性ビニル系単量体(A)及び架橋性単量体(B)以外にその他のビニル系単量体(C)を目的に応じて共重合することができる。すなわち、親水性架橋重合体の強度等の物性を改良する等の理由でラジカル重合性のビニル系単量体の中から適宜選択し使用することができる。
【0021】
吸水樹脂が水性媒体を吸収し、媒体に溶解する事無く膨潤状態を維持するためには、共有結合、静電結合、あるいは水素結合等によって重合体に架橋構造を導入することが必要である。本発明において親水性架橋重合体に架橋構造を導入するために、架橋性単量体(B)としてジビニル化合物の様な多官能ラジカル重合性単量体を用いることができる。多官能ラジカル重合性単量体として、ビスアクリルアミド類、ジ(メタ)アクリル酸エステル類、ジアリル化合物類等が本発明において好適に使用することができる。
【0022】
この様な多官能ラジカル重合性単量体としては、例えばN,N−ジアリルメタクリルアミド、ジアリルアミン、N,N−ビスアクリルアミド酢酸、N,N’−ビスアクリルアミド酢酸メチルエステル、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N−ベンジリデンビスアクリルアミド、ジアリルスクシネート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジアリルアクリルアミド等が挙げられ、本発明において好適に使用することができる。
【0023】
また、親水性架橋重合体に架橋構造を導入する他の方法として、重合後後架橋可能な官能基を有する単量体の架橋化処理がある。本発明において架橋化処理可能な単量体を架橋性単量体(B)として採用するときは、単量体(B)と化学的に結合し架橋構造を形成するような化合物を用いる場合があり、この化合物を架橋助剤と称する。尚、熱等によって自己架橋する様な単量体を用いる場合は架橋助剤は必ずしも必要としない。また、架橋性単量体(B)はその他のビニル系単量体(C)と同一の単量体であってもよく、その場合、架橋性単量体(B)はその他のビニル系単量体(C)中の架橋化処理後の架橋構造に寄与した単量体成分と見なす。かかる架橋化処理可能な単量体としてはカルボキシル基、アミド基、ニトリル基、メチロール基、グリシジル基、水酸基、イミノ基を含有する単量体、酸無水物系単量体が本発明において好適に使用することができる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、N−メチロールアクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、イミノールメタクリレート等が挙げられる。
【0024】
架橋助剤としては例えば、架橋性単量体(B)がカルボキシル基を有する場合には、水酸基、エポキシ基、アミノ基、メチロール基等のカルボキシル基と反応して化学結合を形成しうる官能基を2個以上有する多官能性化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、グリシジルアルコール、ジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エタノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、トリメチロールメラミン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ポリエチレンイミン、尿素等が挙げられる。また、ホルムアルデヒドによる架橋化、多価金属イオンによる架橋もできる。
【0025】
架橋性単量体(B)が水酸基を有する場合には、カルボキシル基、酸無水物、アルデヒド基、イソシアネート基の様な水酸基と反応して化学結合を形成し得る官能基を2個以上有する多官能性化合物、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸及びそれらの酸無水物、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等が架橋助剤として挙げられる。
【0026】
また、水酸基が水酸基同志、あるいはカルボキシル基と水素結合により架橋構造を形成する様な場合は架橋助剤を使用する必要はない。例えば、その他のビニル系単量体(C)として酢酸ビニルあるいは(メタ)アクリル酸エステル等を用い、加水分解により水酸基あるいはカルボキシル基を生成させれば、水素結合による微結晶構造を架橋点として、特に共有結合による架橋構造を導入しなくとも水分を吸収し膨潤状態を維持することができ、この様な架橋構造の導入方法も本発明において採用することができる。
【0027】
また、カルボキシル基同志、カルボキシル基と水酸基、あるいは水酸基同志を脱水触媒を用いて、酸無水物を形成することによる架橋化、エステル結合による架橋化、あるいはエーテル結合による架橋化を行うことによっても架橋構造を導入することができる。
【0028】
架橋性単量体(B)がニトリル基を有する場合には、アミノ基の様なニトリル基と反応して化学結合を形成しうる官能基を2個以上有する多官能性化合物、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、両末端アミノ化ポリエチレングリコール等が架橋助剤として挙げられる。
【0029】
架橋性単量体(B)の重合時の仕込み組成は、電解質水溶液を吸収した親水性架橋重合体が溶解せず、且つ流動性を持たないために、好ましくは0.01モル%以上であることが望ましい。しかし、前述の様に両イオン性ビニル系単量体(A)が自己架橋性を有している場合は架橋性単量体(B)は必ずしも必要ではない。また、架橋性単量体(B)の重合体中の組成が高くなると膨潤体積が低下してしまうため、架橋性単量体(B)は0.5モル%以下であることが望ましい。しかし、その他のビニル系単量体(C)と架橋性単量体(B)が同一の単量体の場合は単量体(C)の仕込み組成の範囲に準ずる。
【0030】
その他のビニル系単量体(C)は親水性架橋重合体の電解質水溶液に対する吸収能力を高めるために、親水性官能基を有する水溶性の単量体の中から選ばれることが好ましい。親水性の官能基としては、カルボキシル基、アミド基、水酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、4級アンモニウム基、ポリエチレングリコール基等がある。また、加水分解等により容易に親水性官能基を導入しうる単量体も同様に使用することができる。この様な親水性官能基を有する、及び導入可能な単量体としては例えば、アクリル酸及びそのアルカリ塩、メタクリル酸及びそのアルカリ塩、イタコン酸、アクリロニトリル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−置換アルキルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸及びそのアルカリ塩、メタアリルスルホン酸及びそのアルカリ塩、スチレンスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのアルカリ塩、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸及びそのアルカリ塩、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、3−メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩、2−メタクリロイルオキシエチルジメチルアミン及びその塩、2−メタクリロイルオキシエチルジエチルアミン及びその塩、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−ビニル−2−ピロリドン、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート等があり、これらの単量体を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、膨潤ゲルの強度を向上させる、あるいは吸収能力を制御する等の目的でその他のビニル系単量体(C)として疎水性のビニル系単量体を用いることもできる。この様な疎水性のビニル系単量体としては、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0032】
その他のビニル系単量体(C)の重合時の仕込み組成は、電解質水溶液の濃度変化に対する親水性架橋重合体の膨潤体積変化を発現させるために、0モル%〜30モル%の範囲内であることが望ましい。特にその他のビニル系単量体(C)が高い親水性を有している場合は、重合時の仕込み組成が5モル%以下であることが望ましく、5モル%を越えると、親水性架橋重合体が純水あるいは低濃度の電解質水溶液に対しても高い膨潤度を示す場合があるため、好ましくない。ただし、親水性架橋重合体の膨潤体積変化が十分に発現されれば、その他のビニル系単量体(C)の仕込み組成は特に制限はない。
【0033】
本発明の親水性架橋重合体は従来より行われているラジカル重合法のいずれの方法を用いて調整してもよい。すなわち、塊状重合、水系沈殿重合、懸濁重合、逆相懸濁重合、乳化重合、溶液重合のいずれの方法を用いてもよく、目的に応じて、得られる重合体の形態を考慮して適宜選択すればよい。しかし、一般には水を媒体とした重合系がコスト、環境面から望ましい。ラジカルの発生方法はラジカル重合触媒を用いる方法、放射線、電子線、紫外線を照射する方法等が挙げられる。ラジカル重合触媒としては例えば、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩等のラジカル発生剤、及びこれらのラジカル発生剤と亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸等の還元剤との組み合わせからなるレドックス系開始剤が挙げられる。重合媒体としては例えば、水、電解質水溶液、メタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド等が挙げられるが、重合方法に応じて適宜選択すればよい。重合後の形態としては、膨潤体、溶液、あるいは分散液等が挙げられ、必要に応じて乾燥操作、あるいは後架橋操作を行えばよい。
【0034】
かかる親水性架橋重合体からなる塩害防止用土壌改良材料は、該親水性架橋重合体の乾燥粉体あるいは水溶液単独で使用する、あるいは不織布や砂質媒体等に混入する、さらにはフィルムや繊維等に加工して使用する等のいかなる形態でも使用することができる。かくして、本発明の塩害防止用土壌改良材料を砂質土壌中に埋設して、地下水あるいは土壌への流入水の電解質濃度に応じて、透水/不透水の自己制御が可能な吸水ゲル層を形成せしめることにより、本発明の土壌改良方法は達成される。可逆的透水/不透水層は、一般的な砂質土壌の表面下、目的に応じて任意の深さに1層または多層に埋設することができる。
【0035】
砂質土壌中に塩害防止用土壌改良材料を埋設する方法としては、土壌表面砂質土を所定の深さまで掘り起こした後、親水性架橋重合体の乾燥粉末、または該粉末の水膨潤体ないし水分散液、あるいは親水性架橋重合体の混入物やフィルム、繊維等への加工物を表面散布し、再び砂質土を埋め直す方法がある。また、該水膨潤体ないし水分散液を砂質土壌中に圧出する方法、例えば、貫注法等により一般的に形成することができる。しかしながら、これらの埋設方法により本発明は何ら限定されるものではなく、例えば、親水性架橋重合体の前駆物質である親水性重合体の水溶液等を砂質土壌中に注入した後、架橋反応を行い架橋構造を導入する方法、あるいはまた、親水性架橋重合体を構成する原料物質である各単量体を砂質土壌中に注入した後、重合及び/または架橋反応を行う方法等によっても、親水性架橋重合体のゲル層を地中に形成することができる。さらにまた、パーライト、バーミキュライト、ピートモス等の各種有機あるいは無機の多孔性ないし嵩高性物質等を共存せしめて埋設することも可能であって、要は砂質土壌中に前記の如き親水性架橋重合体からなる土壌改良材料に基づくゲル層が形成され得るならば如何なる方法をも採用することができる。
【0036】
本発明の親水性架橋重合体からなる土壌改良材料の使用量は、必要な止水能力及び親水性架橋重合体の膨潤度によって異なるが、固形分重量にて少なくとも20g/m程度の使用量が望ましく、これより少ない場合は止水能力が低下してしまうため望ましくない。尚、1000g/mを越える使用量は実用性の点から好ましくない。
【0037】
【作用】
本発明の親水性架橋重合体が、電解質の濃度変化に対して膨潤体積が大きく変化して、純水あるいは低濃度の電解質水溶液に対しては低膨潤性を示し、高濃度の電解質水溶液に対しては高膨潤性を示す理由は十分に解明するに至っていないが、以下の様に考えることができる。すなわち、架橋していない線状のスルホベタイン型モノマーの単独重合体が、純水及び臨界塩濃度未満の電解質水溶液に対しては溶解せず、臨界塩濃度以上の電解質水溶液に溶解することから、架橋構造を有する重合体においても臨界塩濃度付近の電解質水溶液を境にして、塩濃度の変化に対する吸水ゲルの膨潤/収縮の可逆的変化が発現されるものと思われる。また、塩濃度が臨界塩濃度から増加すると共に、吸水ゲルの膨潤体積も連続的に増加する傾向を示し、塩濃度が高い程止水効果が高くなる。尚、前述した様に臨界塩濃度は親水性架橋重合体の分子構造に強く依存しており、使用目的に応じて重合に供する両イオン性ビニル系単量体(A)を適宜選択することができる。
【0038】
【実施例】
以下、実施例に従って本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0039】
実施例1
本実施例において両イオン性ビニル系単量体(A)として、N,N−ジメチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニウム内部塩(以下、DMPSと略す)、N,N−ジメチル−N−(2−アクリロイルオキシエチル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニウム内部塩(DAPS)、N,N−ジメチル−N−(3−アクリルアミドプロピル)−N−(3−スルホプロピル)アンモニウム内部塩(DPPS)、N,N−ジメチル−N−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N−(4−スルホブチル)アンモニウム内部塩(DMBS)をPOLYMER,1977,Vol.18,1058.に記載の方法と同様にして、各単量体の対応する3級アミン型単量体とプロパンスルトンあるいはブタンスルトンをジメチルホルムアミド中、30℃で5日間反応させることにより合成した。架橋性単量体(B)としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)を用いた。また、その他のビニル系単量体(C)としてはアクリル酸(AA)、アクリルアミド(AAm)を用いた。
【0040】
所定量の単量体混合物と開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)をイオン交換水に溶解し(総単量体濃度=30重量%)、70℃で6時間重合して乾燥後粉砕する事により粉体状の親水性架橋重合体を得た。また、両イオン性ビニル系単量体(A)を含まない本願発明の範囲外の重合体も上記と同様の条件で重合し重合体を得た。各重合体の単量体仕込み組成を表1に示す。
【0041】
【表1】
Figure 0003584998
【0042】
得られた各重合体について、以下の方法によってイオン交換水及び電解質水溶液に対する吸収倍率を測定した。乾燥した各重合体0.5gをイオン交換水及び各種電解質水溶液500ml中に2時間浸漬した後、200メッシュ金網で濾過し、10分間水切りした後、水性媒体を吸収した金網上の重合体の重量を測定し、乾燥重合体1g当たりの吸収した水性媒体のグラム数を吸収倍率とした。電解質水溶液として、0.01重量%及び0.5重量%及び1.0重量%そして5.0重量%のNaCl水溶液を使用した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
Figure 0003584998
【0044】
重合体1〜3は架橋性単量体(B)の仕込み組成を変化させたものである。重合体1は架橋性単量体(B)の仕込み組成が少ないもので、電解質水溶液に対して膨潤はするものの、溶解成分が多く吸収倍率は比較的低いものであった。重合体4及び5は、その他のビニル系単量体(C)としてAA及びAAmを共重合したものであり、純水及び電解質水溶液に対してそれぞれ、若干吸収倍率が増加している。重合体6と7はその他のビニル系単量体(C)としてANを共重合したものであり、吸収倍率は若干低下している。しかし、ANを共重合することにより、膨潤後のゲル強度は他の重合体に比べて強いものであった。重合体8〜10は両イオン性ビニル系単量体(A)の種類が異なるものであり、DMPSよりも親水性の高いDAPS(重合体8)及びDPPS(重合体9)を用いた場合、低濃度の電解質水溶液に対しても高い吸収倍率を示しており、また、全体的に吸収倍率が高くなっている。DMBS(重合体10)を用いた場合は、低濃度の電解質水溶液に対しては比較的低い吸収倍率を示し、また、全体的に吸収倍率が低くなっている。重合体11と12は、比較例であるAA及びAAmの架橋重合体であり、重合体11は純水及び低濃度の電解質水溶液に対しては高い吸収倍率を示すが、高濃度の電解質水溶液に対しては吸収倍率が極端に低下している。重合体12は電解質濃度の変化に対して吸収倍率はほとんど変化せず、全体に低い吸収倍率を示した。
【0045】
重合体1〜10は全て、0.01重量%以下の電解質水溶液に対しては5倍以下の吸収倍率を示し、1重量%以上の電解質水溶液に対しては10以上の吸収倍率を示しており、高濃度の塩水には膨潤、低濃度の塩水には膨潤しないという本発明における親水性架橋重合体として適した性質を有している。
【0046】
次に、各重合体の電解質含有地下水に対する止水能力及び純水に対する透水性を評価した。直径10cm、長さ60cmのアクリル樹脂製の円筒カラムに砂を充填し、地表面から25cmの深さに乾燥重合体0.5g(単位面積当たりの重量:約64g/m)を円筒断面に対して均一になるように埋設した。その後、温度25℃、相対湿度50%の恒温恒湿室にカラムを設置し、地表面下35cmの地下水位を設定した。地下水は1.0重量%のNaCl水溶液を用いた。カラム地表面の上方30cmの位置から熱電球を照射してカラム上面からの水分蒸発を促進させ、10日後の地表面下5cmの位置での塩分濃度を測定した。塩分濃度は朝日ライフサイエンス社製塩分濃度計を使用して測定した。尚、地下水位は1.0重量%のNaCl水溶液を補充することにより常に一定に保持した。また、ブランクとして重合体を埋設しない場合も同様にして塩分濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0047】
また、純水に対する透水性は、JIS A1218(土の透水性試験方法)の変水位法に準拠して、透水係数K(cm/sec)から評価した。尚、透水係数Kは−logKとして表した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
Figure 0003584998
【0049】
本発明の重合体1〜10は、いずれも地表面下5cmにおける塩分濃度は極めて低く、塩類集積を効果的に防止していることがわかる。一方、比較例である重合体11と12は、ブランクの塩分濃度とあまり変わらず高い値を示しており、塩類集積の防止には効果が無いことがわかる。また、良好な透水性を発現するためには、透水係数(−logK)は3以下であることが望ましく、本発明の重合体はいずれもこの条件を満たしており、十分な透水性を有していると言える。一方、比較例である重合体11と12は、透水性が悪いため、非常に水はけが悪いものであった。この様に、本発明の親水性架橋重合体からなる土壌改良材料は、優れた塩類集積防止性と良好な水はけ性の両方を高次元に両立させ得ることが認められた。
【0050】
【発明の効果】
以上説明した本発明の親水性架橋重合体は、電解質水溶液の濃度変化に対して吸水ゲルの膨潤体積が変化するという性質を有するため、該重合体からなる本発明の塩害防止用土壌改良材料を砂質土壌中に埋設することによって、塩類含有地下水の土壌表面への集積を防止し、かつ、土壌への流入水は速やかに地下に浸透させることができる。従って、本発明の親水性架橋重合体からなる塩害防止用土壌改良材料は、塩害の発生しやすい土壌での農作物の良好な育成を助けるため、あるいは砂漠化を防止し、緑地を復活させるための有効な方策を与えるものであり、この様な用途に対し優れた効果を発揮する。

Claims (4)

  1. 電解質の濃度が0.01〜2重量%の範囲内に存在する臨界塩濃度を境として、高濃度の電解質水溶液に対しては吸収・膨潤し、且つ、低濃度の電解質水溶液及び純水に対しては膨潤しないという特徴を有する、両イオン性ビニル系単量体(A)を必須成分とした親水性架橋重合体からなる塩害防止用土壌改良材料。
  2. 親水性架橋重合体が、電解質の濃度が1重量%以上の電解質水溶液に対しては10倍以上の吸収倍率を示し、0.01重量%以下の電解質水溶液に対しては5倍以下の吸収倍率を示すものであることを特徴とする、請求項1記載の塩害防止用土壌改良材料。
  3. 親水性架橋重合体の必須成分である両イオン性ビニル系単量体(A)が、化1ないし化4(但し、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1から6の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基もしくはヒドロキシアルキレン基、R3 及びR4 はそれぞれ独立にメチル基またはエチル基、R5 は炭素数1から10の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基もしくはヒドロキシアルキレン基、R6 は炭素数1から6の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基もしくはヒドロキシアルキレン基、Xはエステル基またはアミド基または置換もしくは無置換のフェニレン基、Yは−O−または−NH−を示す。尚、化3及び化4のピリジン環に対する置換基(R1 及び重合性置換基)の置換位置は何処でもよい)で示される、スルホベタイン型官能基を有するビニル系単量体から選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩害防止用土壌改良材料。
    Figure 0003584998
    Figure 0003584998
    Figure 0003584998
    Figure 0003584998
  4. 請求項1から3いずれかに記載の親水性架橋重合体からなる塩害防止用土壌改良材料を砂質土壌中に埋設して、地下水あるいは土壌への流入水の電解質濃度に応じて、透水/不透水の自己制御が可能なゲル層を形成せしめることを特徴とする土壌改良方法。
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