JP3584218B2 - クロロシラン精製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多結晶シリコンの製造に伴って反応炉から排出される排ガスから高純度のクロロシラン類を回収するクロロシラン精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体デバイスの素材であるシリコン単結晶は、シーメンス法と呼ばれる気相成長法により製造された高純度の多結晶シリコンを素材として製造される。シーメンス法による多結晶シリコンの製造では、通常、トリクロロシランと水素の混合ガスからなる原料ガスが反応炉に導入される。これにより、反応炉内で通電加熱されたシリコン棒の表面に多結晶シリコンが気相成長により析出される。
【0003】
このシーメンス法においては、原料トリクロロシランの反応率が10%程度と低く、原料トリクロロシランの大半が未反応のまま反応炉から排ガスとして排出される。反応炉への供給ガスは金属不純物及びボロン、リンなどの非金属不純物が極めて少ない高純度ガスであるため、反応炉からの排ガスも副生成物は含むものの同様に高純度である。この高純度の排ガスから未反応トリクロロシランを回収し、再度、反応炉へ投入することにより、多結晶シリコンの製造コストが低減されることは、良く知られている。
【0004】
また、反応炉内で反応したトリクロロシランの一部が四塩化珪素に変成され、反応炉から排出される。この排出される四塩化珪素は、排出される未反応のトリクロロシランと同様に高純度であり、回収できれば、光ファイバー用原料などの付加価値の高い商品となる。よって、多結晶シリコンメーカは、高純度の多結晶シリコンと共に、反応炉から回収された四塩化珪素も商品として取り扱っているのが通例である。
【0005】
反応炉から排出される排ガスは、未反応のトリクロロシラン、副生成物である四塩化珪素の他、ポリマーと呼ばれるSi2 HCl5 等の四塩化珪素よりも高沸点の成分、ジクロロシラン等のトリクロロシランよりも低沸点の成分を含む。ジクロロシランは、トリクロロシランと同様に還元反応の原料として用いることができるので、回収対象として有効成分である。このような排ガスから、目的成分であるトリクロロシラン、ジクロロシラン、四塩化珪素を分離回収する場合、その純度が重要となる。
【0006】
一般的に行なわれている分離回収方法は、反応炉から排出された排ガスを冷却し、凝縮された液体のみを蒸留塔に送る方法である。排ガスの冷却温度を調節することにより、凝縮液中からジクロロシランより沸点の低い成分を排除することができる。このようにして、ジクロロシランより沸点の低い成分が排除された原料液が生成される。この原料液を蒸留塔に通して、目的成分であるジクロロシランとトリクロロシランの混合物及び四塩化珪素を回収するが、その回収方法には次の2つがある。
【0007】
第1の方法は、凝縮液を蒸留塔に通して、ジクロロシランとトリクロロシランの混合物と、その他の成分(四塩化珪素・高沸点物)とに分離するもの、より具体的には、塔頂からジクロロシランとトリクロロシランの混合物を取り出し、塔底からその他の成分を取り出す方法である。
【0008】
第2の方法は、凝縮液を蒸留塔に通して、ジクロロシランとトリクロロシランの混合物と、その他の成分(四塩化珪素・高沸点物)とに分離することは、第1の方法と同じである。第1の方法と異なるのは、塔頂部と塔底部の間からサイドカットによって四塩化珪素を取り出す点である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
第1の方法の場合、塔頂から取り出されたジクロロシランとトリクロロシランの混合物は、四塩化珪素より高沸点の成分を含んでいないため、そのまま反応炉に投入することができる。しかし、塔底から取り出された成分は、四塩化珪素と四塩化珪素より高沸点の成分の混合物であるため、四塩化珪素を回収するためには、塔底から取り出された所謂缶出液を再度蒸留塔に通して分離しなければならない。つまり、反応炉から排出された排ガスを冷却して得た凝縮液からジクロロシランとトリクロロシランの混合物及び四塩化珪素を回収するためには2本の蒸留塔が必要となる。その結果、1本の蒸留塔による操業と比較して設備コスト、ランニングコストの面でコスト高となるのを避け得ない。
【0010】
これに対し、第2の方法の場合は、サイドカットにより、理想的には四塩化珪素のみを、塔底から排出される四塩化珪素よりも高沸点の成分と分離して、高純度の状態で取り出すことができる。ところが、実際の操業では、サイドカットにより取り出される四塩化珪素の純度が変動し、品質が安定しない。従って、第2の方法の場合も、四塩化珪素の純度を常に一定範囲内に維持するためには、第1の方法の場合と同様に2本の蒸留塔が必要となり、コスト高を免れない。
【0011】
本発明の目的は、反応炉から排出される排ガスから、1本の蒸留塔で高純度のジクロロシランとトリクロロシランの混合物及び四塩化珪素を安定的に回収できるクロロシラン精製方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者らは、サイドカットにより四塩化珪素を取り出す第2の方法で、四塩化珪素の純度が低下する原因及びその対策について調査検討した。その結果、以下の事実が判明した。
【0013】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造では、複数のバッチ式反応炉が使用され、その複数の反応炉間で蒸留塔が共用される。ここで、同時に反応が進行するバッチ数、各バッチでの反応の進行状況は常時一定になるとは限らない。このため、複数の反応炉から送られてくる排ガスの成分、蒸留塔へ送られるフィード液(凝縮液)の成分が変動する。具体的には、フィード液(凝縮液)中のトリクロロシラン濃度が変動する。そして、フィード液(凝縮液)中のトリクロロシラン濃度が高くなると、サイドカットにより取り出される四塩化珪素へのトリクロロシラン混入量が多くなり、その純度が低下する。
【0014】
前記蒸留塔では、フィード液としてジクロロシラン、トリクロロシラン、四塩化珪素及び四塩化珪素より高沸点の成分からなる凝縮液が中段部に供給される。その凝縮液は塔底部で加熱され、沸点の低いジクロロシラン及びトリクロロシランは蒸気となって塔頂部から排出され、凝縮器により液化される。このクロロシラン液は塔頂液と呼ばれ、塔内の温度制御のために一部が塔頂部に還流され、残りが製品クロロシランとして取り出される。塔頂液の取り出し量Dに対する還流量Rの比(R/D)は還流比と呼ばれている。
【0015】
一方、四塩化珪素より高沸点の成分は塔底部から缶出液として抜き取られる。中間の沸点をもつ四塩化珪素は、塔頂部と塔底部の間からのサイドカットにより、また一部が塔底部から缶出液として抜き取られる。ちなみに、大気圧下におけるジクロロシランの沸点は約8℃、トリクロロシランの沸点は約32℃、四塩化珪素の沸点は約58℃、ポリマーと呼ばれる四塩化珪素より高沸点の成分の沸点は60℃以上である。
【0016】
ここで、蒸留塔は、塔頂部の温度を一定に維持するため、塔頂部の圧力が一定の条件で運転される。しかし、塔中段部では、温度変動が生じる。この温度変動には、フィード液中のジクロロシラン、トリクロロシラン及び四塩化珪素の組成比が影響している。
【0017】
具体的に説明すると、フィード液中の四塩化珪素濃度が低くなった場合、その影響で中段温度Tが下がり、サイドカットによって取り出される四塩化珪素中のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度が高くなるため、四塩化珪素の純度が低下してしまう。逆に、フィード液中の四塩化珪素濃度が高くなると、その影響で中段温度Tが上昇する。この場合、サイドカットによって取り出される四塩化珪素中のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度が低くなることは問題ないが、塔頂部から取り出されるジクロロシランとトリクロロシランの混合物中の四塩化珪素濃度が高くなることが問題になる。その理由は、反応炉内でのシリコンへの反応率がジクロロシランやトリクロロシランと比較して四塩化珪素の方が低いためである。
【0018】
これから分かるように、蒸留塔の中段温度Tから、サイドカットにより取り出される四塩化珪素中のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度を推定でき、その中段温度Tを操作することにより、四塩化珪素中のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度を制御できる。そして、蒸留塔の中段温度Tは、前述した塔頂液の還流量Rの増減により操作できる。なぜなら、塔頂液は低沸点のジクロロシラン及びトリクロロシランが液化したものであるため、この塔頂液の還流量Rを増加させることにより、塔内のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度が上昇し、中段温度Tが低下する。逆に、塔頂液の還流量Rを減少させることにより、塔内のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度が低下し、中段温度Tは上昇する。
【0019】
本発明のクロロシラン精製方法は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、気相成長法による多結晶シリコンの製造に伴って反応炉から排出される排ガスから得たトリクロロシラン及び四塩化珪素を主成分とする液体を蒸留塔に通し、塔頂部よりトリクロロシランを、またサイドカットにより四塩化珪素をそれぞれ取り出すクロロシラン精製方法において、前記蒸留塔の塔頂部より下の任意の中段温度Tを測定し、測定された中段温度Tが一定範囲内に維持されるように、前記塔頂部における還流量Rを制御することにより、複数の蒸留塔を使用することなく前記四塩化珪素の純度を一定範囲内で安定的に維持することができる。
【0020】
具体的には、前記中段温度Tが上昇した場合は前記還流量Rを増加させ、前記中段温度Tが低下した場合は前記還流量Rを減少させることにより、中段温度Tを一定範囲内に維持することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の1実施形態を説明するための蒸留塔の構成図である。
【0022】
本実施形態では、気相成長法による多結晶シリコンの製造に使用される複数の反応炉から排出された排ガスを冷却して得た凝集液が、フィード液として蒸留塔10の中段部に供給される。排ガスの冷却温度を調整することにより、凝縮液中からジクロロシランより沸点の低い成分は排除され、その凝縮液は、回収対象成分であるジクロロシラン、トリクロロシラン及び四塩化珪素と、ポリマーと呼ばれるSi2 HCl5 等の四塩化珪素よりも高沸点の成分とからなる。
【0023】
塔内に供給されたフィード液は、塔底部の蒸発缶11により加熱される。沸点の低いジクロロシラン及びトリクロロシランは、蒸気となって塔頂部から排出され、凝縮器12により液化されて高純度のジクロロシランとトリクロロシランの混合液(塔頂液)となる。この塔頂液は、一部が塔頂部に還流され、残りが製品として多結晶シリコンの製造に使用される。塔頂液の取り出し量Dに対する還流量Rの比(R/D)が還流比と呼ばれることは前述したとおりである。
【0024】
一方、塔底部からは、四塩化珪素よりも高沸点の成分(ポリマー)と一部の四塩化珪素が缶出液として抜き取られる。また、中間沸点の四塩化珪素は、塔頂部と塔底部の間からサイドカットにより製品として抜き出される。
【0025】
本実施形態のクロロシラン精製方法では、塔頂部における塔内温度(塔頂温度To)が第1の温度計13により測定される。また、塔頂部と塔底部の間の任意位置おける塔内温度(中段温度T)が第2の温度計14により測定される。塔頂温度Toは一定である。その理由は、凝縮器12の冷却水量を調整し、蒸留塔10の塔頂圧力を一定に維持しているからである。中段温度Tは塔頂温度Toより高く、フィード液の組成による影響を受けて変動する。すなわち、フィード液の組成が変わると、塔中段における組成が変化し、中段温度Tが変化すると共に、塔頂部と塔底部の間からサイドカットにより抜き取られる四塩化珪素の純度が変わる。
【0026】
そこで本実施形態では、中段温度Tと塔頂温度Toの差ΔT(=T−To)を求め、この差ΔTが所定範囲内に維持されるように、塔頂液の還流量Rを制御する。塔頂温度Toは一定であるから、中段温度Tの変動がこの差ΔTに現れることになり、この差ΔTを所定範囲内に維持することにより、フィード液の組成変動の影響を受けることなく、塔頂部と塔底部の間からサイドカットにより抜き取られる四塩化珪素の純度が一定範囲内に維持される。その理由は前述したとおである。
【0027】
中段温度Tの測定位置は塔頂部と塔底部との間であればよく、特にそのレベルを問うものではないが、あまりに塔底部に近いと、還流量Rの変化による温度変化が遅くなり、制御が困難となる。このため、中段温度Tの測定位置はサイドカットの段以上が望ましく、ここではフィード段の位置とした。
【0028】
図2は、中段温度Tと塔頂温度Toの差ΔTの経時的な変動を示している。ここにおける塔頂温度Toは約60℃である。本実施形態のクロロシラン精製方法では、例えばこの差ΔTが図中に破線で示す3℃以内に維持されるように、還流量Rが操作される。この温度差制御を行なった場合と行なわなかった場合について、フィード液、塔頂回収液及びサイドカット回収液の各組成を調査した結果を表1に示す。
【0029】
表中、TCSはトリクロロシランであり、ジクロロシランを含む。即ち、TCSはジクロロシランとトリツロロシランの混合物である。STCは四塩化珪素である。ポリマーは四塩化珪素より高沸点の成分である。塔頂回収液はTCSであり、その組成はTCS中のSTC濃度である。サイドカット回収液はSTCであり、その組成はSTC中のTCS濃度及びポリマー濃度である。塔頂回収液(TCS)の評価基準はSTC濃度で0.5モル%以下、サイドカット回収液(STC)の評価基準はTCS濃度で2.0モル%以下、ポリマー濃度で0.5モル%以下とした。濃度測定にはガスクロマトグラフィを用いた。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から分かるように、フィード液の組成変動は顕著である。温度差制御を行なわない場合、塔頂部から回収されるジクロロシランとトリクロロシランの混合物中の不純物濃度は基準値以下に維持されるが、塔頂部と塔底部の間からサイドカットにより取り出される四塩化珪素中の不純物濃度は、フィード液中のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度が高くなった場合に基準値を超える。しかしながら、温度差制御を行なった場合は、塔頂部から回収されるジクロロシランとトリクロロシランの混合物中の不純物濃度が基準値以下に維持されるのは勿論のこと、塔頂部と塔底部の間からサイドカットにより取り出される四塩化珪素中の不純物濃度も、フィード液中のジクロロシラン及びトリクロロシランの濃度に関係なく基準値以下に維持される。
【0032】
【発明の効果】
以上に説明したとおり、本発明のクロロシラン精製方法は、反応炉から排出される排ガスから、1本の蒸留塔で高純度のジクロロシランとトリクロロシランの混合物、及び高純度の四塩化珪素を安定的に回収できる。2本の蒸留塔を必要とした従来に比べて、設備コスト及びランニングコストを半減でき、トラブル発生の可能性も半減することから、製品コストに及ぼす効果は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施形態を説明するための蒸留塔の構成図である。
【図2】中段温度Tと塔頂温度Toの差ΔTの経時的な変動を示すグラフである。
【符号の説明】
10 蒸留塔
11 蒸発缶
12 凝縮器
13,14 温度計
Claims (2)
- 気相成長法による多結晶シリコンの製造に伴って反応炉から排出される排ガスから得たトリクロロシラン、ジクロロシラン及び四塩化珪素を含む液体を蒸留塔に通し、塔頂部よりトリクロロシランとジクロロシランの混合物を、またサイドカットにより四塩化珪素をそれぞれ取り出すクロロシラン精製方法において、前記蒸留塔の塔頂部より下の任意の中段温度Tを測定し、測定された中段温度Tが一定範囲内に維持されるように、前記塔頂部における還流量Rを制御することを特徴とするクロロシラン精製方法。
- 前記中段温度Tが上昇した場合は前記還流量Rを増加させ、前記中段温度Tが低下した場合は前記還流量Rを減少させることを特徴とする請求項1に記載のクロロシラン精製方法。
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