JP3580580B2 - 動圧軸受 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は動圧効果を利用した軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のFDD装置等に用いるスピンドルモータの軸受は、玉軸受と含油軸受を積み重ねた構造をとっていた。しかしながら、従来の軸受では、製品の薄型化、高性能化に伴い、種々の問題点が発生してきた。
【0003】
例えば、FDD装置等のスピンドルモータの薄型化をはかる場合は軸受を短くする必要があるが、短くするにつれ軸振れが大きくなってくる。これにより、メディアの偏心が大きくなり、データの書き込み、読み出しの信頼性が著しく低下する問題点が発生した。
【0004】
そこで、このような問題点の解決手段として、軸受面に動圧効果を生み出すスパイラル溝を形成した動圧軸受が開発された。これは、スパイラル溝が潤滑流体に与えるポンピング作用により、スピンドルモータの回転に伴う油圧の上昇を得てシャフトを浮上させ、流体膜を形成して無接触で回転するものである。更には油圧によるセンタリング効果を与えることにより偏心を著しく抑えられるものである。
【0005】
動圧軸受の構成としては、シャフト外周またはスリーブ内面のいずれか一方に溝が形成されラジアル方向の剛性を持つラジアル軸受部と、スパイラル溝によるオイル、気体等の潤滑流体のポンピング作用によりスラスト剛性を持つスラスト軸受部とからなる。
【0006】
ここで、重要な要素は動圧スラスト軸受である。即ち、縦型モータにおけるラジアル方向は、シャフト外径とスリーブ内径がほぼ等しいために接触により傷がついたり、面が剥離することはほとんど無い。これに対し、スラスト方向は回転部の自重や、マグネットとステータの吸引力等のスラスト力が、全てスラスト軸受とシャフト端部との接触部にかかることになり、動圧軸受であってもスタート・ストップ時や、低速回転時には接触回転するため、耐久性に対して重要な影響を持つのである。
【0007】
また、動圧スラスト軸受の表面には前述したとおりスパイラル溝が形成され、その深さは極めて高精度に仕上がっており、この動圧軸受を構成するシャフト及び軸受は、いずれも従来はステンレス等の焼き入れ材を使用していた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、シャフトと軸受を共に金属材で構成した場合、金属同士の接触により摩耗が生じたり、また発生した摩耗粉が軸受の隙間に入り込んだりして、かじりや焼き付きを生じる等の問題があった。そのため、長期の使用において信頼性の面で問題を有していた。
【0009】
また、従来の金属材からなる動圧スラスト軸受は剛性が低いため、大きなスラスト荷重が加わるような場合や、もしくは動圧スラスト軸受をネジ止めで取りつける場合には、たわみを生じるという問題があった。これにより、動圧スラスト軸受のスパイラル溝を高精度に仕上げても、たわみにより溝の深さにばらつきが生じて安定した動圧効果を得ることができない等の問題があった。
【0010】
上記問題に対し、シャフトもしくは動圧軸受のいずれか一方をアルミナ、ジルコニア等のセラミックスで構成することも考えられている(特開昭63−163016号、特開平2−93115号公報等参照)が、この場合、摺動相手の金属材を摩耗させやすく、長期の使用に於て信頼性の低下を引き起こすことがあるという問題点があった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、接触回転時に長期間使用しても摺動する相手部材の摩耗を小さくし、また剛性を高めて、大きなスラスト荷重または組み付け時の荷重に対する変形を小さくすることにより安定した性能を確保できる動圧軸受を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は動圧発生溝を備えたセラミックスの表面に非晶質硬質炭素膜をコーティングした動圧軸受において、前記セラミックスのヤング率が300GPa以上、中心線平均粗さが0.05〜0.6μmであり、その表面にビッカース硬度が30〜50GPa、中心線平均粗さが0.05〜0.6μm、膜厚0.3〜1.5μ m で相手材の金属(SUJ2)に対する摩擦係数が0.14以下となる非晶質硬質炭素膜を備えたことを特徴とする。
【0014】
即ち、セラミックスの表面に非晶質硬質炭素膜を被覆することでシャフトと動圧軸受との摩擦係数を小さくし、摩耗量も最小限に抑え、耐摩耗性を向上させるようにしたものである。また非晶質硬質炭素膜を被覆することで、母材を成すセラミックスの材質に関係なく非晶質硬質炭素膜自体の優れた摺動特性が引き出せるため、摺動相手であるシャフト等の金属材を摩耗させることもない。
【0015】
ここで、母材を成すセラミックスのヤング率を300GPa以上としたのは、300GPa未満であると、負荷荷重に対する変形のために、高精度(溝深さ精度±1μm)に仕上がったスパイラル溝による動圧効果を充分に安定して引き出すことができなくなるためである。
【0016】
また、非晶質硬質炭素膜表面の中心線平均粗さ(Ra)を0.05〜0.6μmとしたのは、0.05μm未満であると、母材であるセラミックスの表面粗さが著しく良好であり非晶質硬質炭素膜が剥離しやすく、0.6μmを越えると相手剤を摩耗させやすくなるためである。さらに非晶質硬質炭素膜の厚みを0.3〜1.5μmとしたのは、0.3μm未満であると剥離しやすく、1.5μmを越えると非晶質硬質炭素膜中にクラックが生じやすくなるためである。さらに非晶質硬質炭素膜のビッカース硬度を30〜50GPaとしたのは、30GPa未満であると耐摩耗性が低下するためであり、50GPaを越えると相手材の摩耗が増加するためである。
【0017】
【実施例】
以下、実施例により本発明の詳細について説明する。
【0018】
図1に示す動圧軸受装置は、スリーブ3と該スリーブ3に取りつけられた動圧スラスト軸受2により軸支されたシャフト1から成り、該動圧スラスト軸受2にはスパイラル形状の溝21を形成してある。また、シャフト1の外周にヘリングボーン形状の溝41が形成されて動圧ラジアル軸受4となっている。なお、溝41はスリーブ3の内周面側に形成しても良い。
【0019】
そして、上記シャフト1を回転させた時、上記溝21及び溝41の動圧作用により、シャフト1は動圧スラスト軸受2から浮上して滑らかに回転することができる。
【0020】
また、図1とは上下を逆にして、シャフト1を固定し、スリーブ3側を回転させるような構造とすることもできる。
【0021】
いずれにしても、シャフト1の先端は、スタート・ストップ時や、低速回転時には動圧スラスト軸受2と摺動するようになっており、このとき回転体の全荷重がシャフト1の先端と動圧スラスト軸受2に負荷として加わることになる。
【0022】
図2に示すように、この動圧スラスト軸受2はヤング率300GPa以上のセラミックス体22の表面24に溝21を有し、この表面24に非晶質硬質炭素膜23を備えたものである。なお、図2では溝21の内部まで非晶質硬質炭素膜23を被着したが、溝21の内部には被着しなくてもよい。
【0023】
また、セラミックス体22表面の中心線平均粗さ(Ra)は0.05〜0.6μmの範囲内とし、非晶質硬質炭素膜23の厚みtは0.3〜1.5μmの範囲内としてある。このとき、最終的な非晶質硬質炭素膜23の表面の中心線平均粗さ(Ra)は母材であるセラミックス体22と同じ0.05〜0.6μmの範囲内となる。
【0024】
ここで非晶質硬質炭素膜23とは、例えばベンゼンを熱電子イオン化し、イオン化した炭素成分をPVD法等で蒸着することによって得られる非晶質状の不定形炭素の膜のことであり、規則的な結晶構造を持つダイヤモンドや立方晶窒化ほう素(cBN)、六方晶窒化ほう素(hBN)とは明確に異なるものである。この非晶質硬質炭素膜23の組成をカーボンやダイヤモンドの同定に用いられるラマン分光装置を使って調べると、本炭素膜は1350cm−1付近にピークを持つダイヤモンドではなく、1550cm−1付近にピークをもつグラファイトのみの組成でもない。また非晶質硬質炭素膜23の断面を電子顕微鏡(SEMやTEM)で観察すると非常に緻密で結晶粒界が見られずガラスを割ったような形態を示していることから非晶質であることがわかる。
【0025】
さらに、非晶質硬質炭素膜23の硬度をマイクロビッカース硬度計で調べると、ビッカース硬度30〜50GPaとダイヤモンド(100GPa)に次ぐ、極めて硬質の膜であることが分かった。このように非晶質硬質炭素膜23はそれ自体が極めて硬質であるため、耐摩耗性に優れるだけでなく、摺動性が良いため相手部材を摩耗させにくい。
【0026】
また、母材となるセラミック体22は、ヤング率300MPa以上のアルミナ、炭化珪素、窒化珪素等のセラミックス、あるいはAl2 O3 −TiC系セラミックスやサーメットを用いる。
【0027】
この軸受装置は、VTRのスピンドルモータに用いる場合は3000rpm程度、LBP(レーザービームプリンター)のスピンドルモータでは20000rpm程度と非常に高速となる。このとき、シャフト1と動圧スラスト軸受2は、スタート・ストップ時に負荷の加わった状態で激しく摺動することになるが、上記のように動圧スラスト軸受2の表面24が耐摩耗性、摺動性に優れた非晶質硬質炭素膜23からなるため、動圧スラスト軸受2自身及び相手材であるシャフト1の摩耗を少なくし、長期間にわたって良好に使用することができる。
【0028】
なお、上記実施例では、動圧スラスト軸受2に非晶質硬質炭素膜23を形成した例を示したが、本発明の動圧軸受はスラスト側のみに限定するものではない。例えば、図1における動圧ラジアル軸受4をなすスリーブ3の内周面に非晶質硬質炭素膜を形成し、かつ動圧発生用の溝を形成することもできる。
【0029】
さらに、本発明はVTRやLBPのスピンドルモータに限らず、異なる構造をもつ各種軸受装置についても適用できることは言うまでもない。
【0030】
実験例1
ここで、本発明の動圧軸受の耐摩耗性および摺動性を調べるため、ボール・オン・ディスク型の摩擦摩耗試験を用いた試験を行った。
【0031】
ヤング率300GPa以上のアルミナ系セラミックスを用いてボール・オン・ディスク摩擦摩耗実験用のテストピースを作成し、表面粗さをいろいろ変化させて、厚みtが0.5μmの非晶質硬質炭素膜を被覆させて摺動実験を行った。各試料を、乾式無潤滑下の状態で、相手材に高炭素クロム軸受け鋼SUJ2のボールを用いて、荷重0.5kg、相対摺動速度0.17m/sで2時間摺動試験を行った後、両部材の摺動面を観察した結果を表1に示す。
【0032】
表1から明らかなように、セラミックスの表面粗さ(Ra)が0.05〜0.6μmの範囲であれば膜の剥がれもなく優れた摺動特性が得られた。また表面粗さ(Ra)が0.6μmを越えると相手材である金属の摩耗量が極端に増加したため不適当であった。
【0033】
【表1】
【0034】
実験例2
次に実験1と同様にボール・オン・ディスクを用い、セラミックスの表面粗さ(Ra)を実験1で剥離のなかった0.3μmにして、非晶質硬質炭素膜の厚みtをそれぞれ変化させたときの表面状態を観察した。結果を表2に示す。
【0035】
表2から明かな通り、非晶質硬質炭素膜の厚みtは0.3〜1.5μmの範囲で剥離がなく摺動性もよく良好である。0.2μm以下では部分的ではあるが膜が剥離した。一方2.0μmになると摺動部にクラックが入った。またそれ以上の厚みにすると膜生成にも時間がかかる上、コストも高くなるという問題点があるため摺動特性、コストからみると0.3〜1.5μmが最適であった。
【0036】
【表2】
【0037】
実験例3
実験例1、2より非結晶質硬質炭素膜の表面粗さ(Ra)を0.3μmに、厚みtを0.7μmに設定した。表3に示すさまざまなセラミックスに非晶質硬質炭素膜を被覆させた場合、及び比較例として非晶質硬質炭素膜を被覆しない場合について、ボール・オン・ディスクにて摺動試験を行った。結果を表3に示す。
【0038】
表3からも明らかな通り、非晶質硬質炭素膜を備えていないものは相手材、即ち金属(SUJ2)を大きく摩耗させてしまった。
【0039】
これに対し、非晶質硬質炭素膜を被覆した本発明実施例は、自材の摩耗は同レベルであるが、相手材(金属)の摩耗量を大幅に減少させられることがわかる。さらに摩擦係数も低く、摺動性が優れていることがわかった。また、母材をなすセラミックスの種類にかかわらず、ほぼ同様の特性を示すこともわかる。
【0040】
【表3】
【0041】
【発明の効果】
このように、本発明によれば、動圧発生溝を備えたセラミックスの表面に非晶質硬質炭素膜をコーティングした動圧軸受において、前記セラミックスのヤング率が300GPa以上、中心線平均粗さが0.05〜0.6μmであり、その表面に、ビッカース硬度が30〜50GPa、中心線平均粗さが0.05〜0.6μm、膜厚0.3〜1.5μ mの非晶質硬質炭素膜を備えたことによって、剛性が高いことから安定した動圧効果が得られるとともに、非晶質硬質炭素膜は高硬度で、自己潤滑性、耐食性などに優れており、さらには相手材の金属(SUJ2)との摩擦係数が0.14以下であるため、相手材の摩耗量を低減し、起動トルクを低下できることから、高い信頼性と長寿命化をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の動圧軸受を用いた動圧軸受装置を示す縦断面図である。
【図2】本発明の動圧軸受を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 :シャフト
2 :動圧スラスト軸受
21:溝
22:セラミック体
23:非晶質硬質炭素膜
24:表面
3 :スリーブ
4 :動圧ラジアル軸受
41:溝
Claims (1)
- 動圧発生溝を備えたセラミックスの表面に非晶質硬質炭素膜をコーティングした動圧軸受において、前記セラミックスのヤング率が300GPa以上、中心線平均粗さが0.05〜0.6μmであり、その表面にビッカース硬度が30〜50GPa、中心線平均粗さが0.05〜0.6μm、膜厚0.3〜1.5μ m で相手材の金属(SUJ2)に対する摩擦係数が0.14以下となる非晶質硬質炭素膜を備えたことを特徴とする動圧軸受。
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JP23544094A JP3580580B2 (ja) | 1994-09-29 | 1994-09-29 | 動圧軸受 |
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JP23544094A Expired - Fee Related JP3580580B2 (ja) | 1994-09-29 | 1994-09-29 | 動圧軸受 |
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