JP3579744B2 - ジアステレオマー構造配位子を有する錯体及びそれを用いた光学機能材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、円偏光性を用いた光センサ、光フィルタあるいは光多重通信等に用いられる光学機能材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
光通信の分野においては、単位時間に伝送できる情報量を増加させるために、様々な多重通信方法が検討されている。現在実用化されているものの一つに、波長分割多重方式がある。これは、1本の伝送路において多種の波長の光を同時に伝播させ、それぞれに別個の信号を乗せる通信方式である。この方式において同時に伝送できる情報量は、利用できる波長帯幅と波長分解能に依存する。しかし、波長帯幅資源は限られており、波長分解能の向上にも限界があるため、今後同時に伝送できる情報量を更に向上させるために、波長と併用して他のパラメータを導入することが考えられる。
【0003】
波長と併用して用いることのできるパラメータを導入する方法として、円偏光を用いることが考えられる。円偏光には右巻きと左巻きの2種類があり、同じ波長でも右巻きの円偏光と左巻きの円偏光に別個の信号を乗せることができると考えられる。この方法は波長分割多重方式と併用して用いることができる。
【0004】
一方、近年、光学的に有用な物質の特性自体を利用した光学機能材料が盛んに開発されている。例えば、本願発明者らは1995年に、有機媒体中で発光可能なネオジム等の希土類金属の一群の錯体の設計に成功した(非特許文献1、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
【非特許文献1】
長谷川靖哉, 「有機媒体中で光らないネオジウムをどのように光らせるか?」, 「化学と工業」, 2000年, 第53巻, 第2号, pp.126−130
【特許文献1】
国際公開第98/40388号パンフレット
【特許文献2】
特開2000−63682号公報
【特許文献3】
特開2000−256251号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
円偏光を取り出すために、これまでは主に偏光板が用いられてきた。上記波長分割多重方式に円偏光を用いる場合は、各波長を合波する前及び分波した後の光の経路に、その波長毎に屈折率や厚さの異なる偏光板がそれぞれ設置される。この場合、多数の偏光板が存在することによって、装置の大型化が避けられない。また、厚みなどの偏光板の製造精度による誤差も生じうる。
【0007】
上記のような光学機能材料として、例えば右巻きまたは左巻きの円偏光を選択的に吸収または発光する物質があれば、上記装置の小型化及び分解能や効率の向上が期待できる。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、特定の円偏光を選択的に吸収する性質を持つ光学機能材料を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明に係る光学機能材料に用いる希土類錯体は、中心イオンが希土類イオンであり、ジアステレオマー構造配位子が希土類イオンに配位することを特徴とする。
【0010】
上記希土類イオンはCe(3価イオン)、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb(3価イオンのみ)のいずれかのイオンであることが好ましい。
【0011】
上記希土類錯体は、化学式(23)
【化8】
(式中、Phはフェニル基を表す)で表される希土類錯体を用いることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
希土類錯体とは、希土類元素の2価、3価又は4価のイオンを中心イオンとして、複数の各種配位子が配位した有機錯体である。このような錯体としては、希土類イオンが他の化学種に取り囲まれてホスト−ゲスト構造をとった包接化合物や、単に中心の希土類イオンに配位子が配位したのみ(希土類イオンが他の化学種に包接されていない)のものがある。本発明においてはいずれのものも用いることができる。しかし、包接化合物構造の場合、一般的に不斉部位が希土類イオンから離れているため、希土類イオンへのキラリティーの影響は少ない。また、錯体がデルタ体およびラムダ体の光学異性体混合物になる可能性が高くキラリティーの低下が考えられる。これらのことから、本発明に係る希土類錯体は、他の化学種に包接されていない錯体構造とするのが好ましい。
【0013】
本発明に係る希土類錯体においては、上記配位子の少なくとも1つがジアステレオマー構造を持つ。ジアステレオマーとは、立体異性体のうち、鏡像異性体(エナンチオマー)を除く異性体である。ここで、本明細書において、ジアステレオマー構造を持つ配位子とは、複数の立体異性体が存在し得る構造を有する配位子を意味し、ジアステレオマー構造を持つ配位子が配位した希土類錯体とは、このような配位子が配位した希土類錯体のことを意味する。
【0014】
ジアステレオマー構造を持つ配位子が希土類錯体に組み込まれることによって、次の2つの円偏光性が生じる。第1の円偏光性は、ジアステレオマー構造を持つ配位子自体によるものである。第2の円偏光性は、中心イオンである希土類イオンの4f軌道内での遷移により吸収される光による円偏光である。このうち第2の円偏光は、一部の包接化合物においては知られていたものの、通常の希土類錯体、特にEu錯体においてはこれまで知られていなかった現象であり、Eu錯体はその取り扱いの容易性から実用上も有益である。以下、主に第2の円偏光性について詳しく述べる。
【0015】
希土類イオンの4f軌道は7つあり、1つの軌道に最大2個電子が入るため、4f軌道全体で最大14個の電子が入る。入る電子の個数は希土類イオンの種類によって異なる。例えば、Eu3+イオンの場合、4f軌道全体で6個の電子が存在する。上記4f軌道の準位は、通常、結晶場の存在などにより縮退しない。その準位間のエネルギー差に対応した光を照射すれば、4f軌道の準位間における電子の遷移により光の吸収が生じ、尖鋭な吸収スペクトルが得られる。上記のような4f軌道の準位間における電子の遷移を、以後f−f遷移と呼ぶ。
【0016】
不斉配位子を持たない希土類錯体においては、f−f遷移に限らず、電子軌道の準位間の遷移によって吸収される光は、これまで知られている範囲では円偏光性を持たない。一方、本発明に係るジアステレオマー構造配位子を持つ希土類錯体は、電子軌道の準位間の遷移(f−f遷移)によって一方の円偏光を吸収する。
【0017】
上記第2の円偏光性を持つためには、すなわちf−f遷移が起こるためには、希土類イオンの4f軌道全体で電子を少なくとも1個持ち、かつ閉殻になっていないことが必要である。また、4f軌道全体で電子を7個持つ場合は、基底状態では7つの4f軌道の全てに1つずつ電子が入り、励起状態では必ずある軌道に電子が2つ入り互いの電子がクーロン反発力を受ける。これにより励起エネルギーが大きくなるため、可視光領域の光のエネルギーに対応したf−f遷移は起こらない。
【0018】
第2の円偏光性を持つためには、具体的には、上記希土類イオンは、Ce(3価イオンのみ)、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb(3価イオンのみ)のいずれかのイオンであればよい。なお、第1の円偏光性のみを用いればよい場合は、4f軌道に電子を持たないSc3+、Y3+、La3+、Ce4+、Lu3+のイオン、4f軌道全体で電子を7個持つGa3+、4f軌道が閉殻であるYb2+であってもよい。
【0019】
本発明に係る光学機能材料に使用し得る錯体には、種々のものが考えられる。前段落に記したように、中心となる希土類イオンだけでも十数種類存在し、それらとジアステレオマー構造配位子及びその他の配位子との組み合わせは多数存在する。上記の希土類イオンにおける4f軌道の準位間のエネルギー差が周囲の配位子の種類にも依存するため、上記希土類イオンの変化のみならず、配位子の組み合わせを変化させることによっても、様々な波長域の(第2の円偏光性による)円偏光を得ることができる。
【0020】
ジアステレオマー構造配位子には様々なものがあるが、例えば一般式(1)
【化9】
(式中、Phはフェニル基を表す。Xは同一または異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基を表す。)で表した、2,2’−Bis(diphenylphosphinyl)−1,1’−binaphthyl (以下、BINAPOとする)及びBINAPOの誘導体がある。
【0021】
ここで、C1〜C20の基としては:
* 直鎖又は分枝を有するアルキル基(CnH2n+1:n=1〜20)、およびパーフルオロアルキル基(CnF2n+1:n=1〜20)、パークロロアルキル基(CnCl2n+1:n=1〜20)などの直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;
【0022】
* 直鎖又は分枝を有するアルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基)、およびパーフルオロアルケニル基(パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基、パーフルオロブテニル基)、パークロロアルケニル基などの直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルケニル基;シクロアルキル基(CnH2n−1:n=3〜20)、およびパーフルオロシクロアルキル基(CnF2n−1:n=3〜20)、パークロロアルキル基(CnCl2n−1:n=3〜20)などの直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;シクロアルケニル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、およびパーフルオロシクロアルケニル基、パークロロアルケニル基などのパーハロゲン化アルキル基;
【0023】
* フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の芳香族基、およびパーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、パークロロビフェニル基などのパーハロゲン化芳香族基;
【0024】
* ピリジル基等のヘテロ芳香族基、およびパーフルオロピリジル基等のパーハロゲン化ヘテロ芳香族基;
【0025】
* ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、およびパーフルオロベンジル基などのパーハロゲン化アラルキル基;
【0026】
等を挙げることができる。
【0027】
このほかにも、例えば化学式(2)〜(20)
【化10】
【化11】
【化12】
で表される配位子またはその誘導体がある。また、不斉部位を有するメタロセン骨格を含む、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体及びその誘導体も用いることができる。
【0028】
具体的には、上記ジアステレオマー構造配位子が配位した希土類錯体として、化学式(23)で表したEu(hfa−D)3BINAPO錯体を用いることができる。これは、希土類イオンがEu3+、ジアステレオマー構造配位子がBINAPOである錯体である。
【0029】
化学式(23)で表した錯体のEuの代わりに他の希土類元素の1つが入る錯体も使用し得る(一般式(22))。また、BINAPOのフェニル基やビナフチル基上の水素原子の1つまたは複数を、同一または異なる、重水素原子、ハロゲン原子、C1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基などの種々の基に置換した錯体も使用し得る。さらに、化学式(23)中のCF3のうちの1つまたは2つを、同一または異なるC1〜C20の基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基などの種々の基に置換した錯体も使用し得る。
【0030】
ジアステレオマー構造配位子が配位した希土類錯体を光学機能材料として用いる際は、その錯体の結晶を直接用いてもよいし、その錯体を透明ポリマーや透明ガラスなどの透明固体担体に含有させてもよい。また、その錯体を有機溶媒に溶解させて塗料とすることもできる。
【0031】
【発明の効果】
本発明に係るジアステレオマー構造配位子が配位した希土類錯体及びそれを含む光学機能材料によれば、電子軌道の準位間の遷移に起因する、円偏光性を持つ光の吸収機能を得ることができる。上記機能によって吸収される光の波長は希土類錯体の種類によって決まるため、このような材料を用いることにより、製造精度による誤差の無い円偏光フィルタなどを作製することができる。本発明に係る材料を用いた場合、円偏光フィルタやその他の円偏光を用いる機器において、偏光板などを用いる必要が無くなり、装置の小型化に寄与する。
【0032】
【実施例】
本発明の第1の実施例として、上記化学式(23)で示したEu(hfa−D)3BINAPO錯体の合成方法を述べ、その性質について述べる。まず、母物質であるBINAPOとEu(hfa)3(H2O)2の合成方法について述べる。
【0033】
BINAPOは、以下のようにして合成した。S体の2,2’−Bis(diphenylphosphino)−1,1’−binaphthyl((S)−BINAP、本実施例では3g)を脱水THF(THF:テトラヒドロフラン)に溶解し、冷却しながらH2O2(1.8ml)を滴下した後、12時間攪拌した。反応溶液からTHFを減圧留去した後、これにアンモニア水(6ml)とメタノール(30ml)の混合溶媒を加え、不溶物を濾過で取り除いた。その後、この溶液にHCl(15ml)を加え、それにより生じた固体状物質を濾過した。この固体状物質を脱イオン水で数回洗浄し、更にヘキサンで洗浄後、乾燥することにより、(S)−BINAPOを得た。
【0034】
Eu(hfa)3(H2O)2は、以下のようにして合成した。Eu(CH3COO)3・4H2O(酢酸ユーロピウム、5g)とhfa(ヘキサフルオロアセチルアセトン、7g)を脱イオン水(100ml)に溶解し、常温で3日間攪拌した。この反応溶液を濾過して得られた固体状物質に、メタノールと脱イオン水の混合溶媒を加えて再結晶化を行い、白色の結晶(本実施例では7.64g)を得た。
【0035】
得られた母物質BINAPO(3g)とEu(hfa)3(H2O)2錯体(4.4g)をメタノールに溶解し、80℃で12時間還流させた。反応溶液からメタノールを減圧留去後、未反応のEu(hfa)3(H2O)2錯体を除去するため、これにトルエンを加え不溶物を濾過で取り除いた。この溶液からトルエンを減圧留去後、ヘキサンで洗浄し、黄白色の粉末を得た。この粉末に熱メタノールを加えて再結晶化を行い、白色の結晶(本実施例では0.95g)を得た。
【0036】
得られた結晶を1H−NMR、19F−NMR、FT−IR(フーリエ変換赤外分光法)及び元素分析で同定を行った。これらの結果を以下に示すとともに、1H−NMRのチャートを図1に示す。
1H−NMR(Acetone−d6,TMS):δ(ppm)=6.23(s,3H),6.68−6.71(d,2H),6.78−6.88(m,8H),7.00−7.06(q,2H),7.15−7.18(d,2H),7.20−7.28(m,8H),7.38−7.43(q,2H),7.65−7.71(q,2H),7.97−8.07(q,2H),8.30−8.33(d,2H),8.81−8.84(d,2H)
19F−NMR(Acetone−d6,C6F6):δ(ppm)=−76.10(s,F)
FT−IR(KBr):(cm−1) 3064(w),1651(s),1553(s),1524(s),1507(s),1440(m),1253(s),1204(s),1144(s),1028(w),996(w),947(w),872(w),817(m),792(m),726(m),703(m),693(m),658(m),583(m),573(m),538(m),523(m)
元素分析:C 49.36,H 2.51 計算値(EuC59H35O8H18P2)C 49.61,H 2.45
以上のように1H−NMRでは全てのHが帰属でき、さらにhfaとBINAPOの比が3:1であった。元素分析では、測定値と計算値の値がほぼ一致した。これらの結果から、得られた結晶はEu(hfa)3BINAPO錯体であると言える。
【0037】
上記合成方法で得られた錯体においては、上記化学式(23)におけるDの位置に水素Hが配位している。そこで、以下の方法によりZの位置のHを重水素Dに置換したEu(hfa−D)3BINAPO錯体を得た。Eu(hfa)3BINAPO錯体に0.04mol/lの濃度となるようにメタノール−d4を加えて完全に溶解し、12時間放置した。この溶液を真空用容器に入れ、数回脱気を行った後、メタノール−d4を完全に除去した。このような方法により、重水素化された錯体Eu(hfa−D)3BINAPOを得た。
【0038】
上記錯体Eu(hfa−D)3BINAPOの円偏光性を調べるために、円二色性スペクトルを測定した結果を図2、図3に示す。図2には参考として、母物質であるBINAPOのスペクトルを、図3には参考としてジアステレオマー構造配位子を持たないEu(hfa−D)3(TPPO)2錯体のスペクトルを併せて示した。なお、図2と図3では、横軸の測定波長領域が異なる。また、図3では試料濃度が2.0×102Mのときの左巻きの円偏光と右巻きの円偏光の吸収量の差ΔAbsを縦軸にとっているが、図2では、ΔAbsを試料濃度で除した値Δεを縦軸にとっている。ここで、ΔAbsは円偏光の向きによる吸収量の差が無ければ0になり、左右どちらかの円偏光を多く吸収した場合は0からずれる。
【0039】
図2から、上記錯体Eu(hfa−D)3BINAPOは広い波長領域で円偏光性を持つことが分かる。特に、波長域200nm〜350nmにおいて、波長が長くなるに従いΔAbsが正−負−正と符号の逆転を伴う急激な変化を示した。図2の全波長領域における上記錯体Eu(hfa−D)3BINAPOのΔAbsの振舞は、母物質であるBINAPOのそれとは全く異なる。
【0040】
注目すべきことは、図3の矢印で示した部分である。この部分において、明らかにΔAbsの0からのずれが見られる。ジアステレオマー構造配位子を持たないEu(hfa−D)3(TPPO)2錯体のスペクトルにはそのようなずれは見られない。このずれは波長410nm、465nm、535nm付近に存在するが、これらの波長はいずれも順に7F0から5D3、7F0から5D2、7F0から5D1のf−f遷移に対応する。このことは、f−f遷移によって吸収された光が円偏光性を持つことを意味している。
【0041】
図2及び図3に示した結果は、BINAPOの2種類の異性体のうち、(S)−BINAPOを配位子とした錯体Eu(hfa−D)3((S)−BINAPO)の測定結果を示している。BINAPOの他方の異性体である(R)−BINAPOを配位子とした錯体Eu(hfa−D)3((R)−BINAPO)を用いれば、図2及び図3は縦軸の正負が逆転する。すなわち、ある波長(特にf−f遷移が生じる波長)において(S)−BINAPOを配位子とした錯体が一方の方向の円偏光性を示せば、(R)−BINAPOを配位子とした錯体はその反対の方向の円偏光性を示す。
【0042】
上記実施例において、ジアステレオマー構造配位子が配位した希土類錯体によって、電子軌道の準位間の遷移に起因する円偏光性を持つ光の吸収機能が得られることが確認された。
【0043】
次に、本発明に係るジアステレオマー構造配位子が配位した希土類錯体を用いた光学機能材料の実施例をいくつか述べる。
本発明に係る希土類錯体に一方の円偏光を吸収させれば、他方の円偏光を得ることができる。円偏光板などの円偏光フィルタと同じ役割を果たすことから、本発明に係る希土類錯体を円偏光フィルターへ適用することが可能である。該円偏光フィルタは上記光多重通信など、広範な用途への適用が可能であると考えられる。
【0044】
また、本発明に係る希土類錯体を用いて、円偏光センサを作製することができる。例えば、タンパク質や生体試料等に光を照射し、透過した光を該円偏光センサで検出することにより、光学異性体を選別することが可能である。すなわち、当該タンパク質等が光学異性体のうちの所望のものである場合と所望のものでない場合では、偏光方向によって上記円偏光センサが吸収する光の強度が異なるため、この強度の違いを検出することによって、当該物質が光学異性体のうちの所望のものであるか否かを識別することができる。上記円偏光センサのΔAbsの値が大きい波長領域を用いることにより、光学異性体を透過した光の偏光を直接観測するよりも容易に識別が可能になる。
【0045】
また、本発明に係る錯体を有機溶媒に溶解させて作製した塗料を対象物に塗布しておけば、上記円偏光センサで検知することによって上記対象物を抽出することができる。
【0046】
本発明に係る希土類錯体では、旋光性の違いのみを有する配位子をそれぞれ(別個に)使用した錯体を合成することにより、同じ組成であっても、左巻きの円偏光を強く吸収するものと右巻きの円偏光を強く吸収するものの両方が得られる。また、一の希土類錯体においても、波長に応じて左巻きの円偏光を強く吸収する場合と右巻きの円偏光を強く吸収する場合がある。そこで、一方の性質を示すものを0、他方を1と定義すれば、この錯体あるいはこの錯体を含む光学機能材料を並べて、2進数で表されたデータを記録することができる。そこへ円偏光を当てることにより、データを読み出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例において得られた、Eu(hfa)3BINAPO錯体の1H−NMRスペクトル図。
【図2】Eu(hfa−D)3((S)−BINAPO)錯体及び(S)−BINAPOの円二色性スペクトル図。
【図3】Eu(hfa−D)3((S)−BINAPO)錯体及びEu(hfa−D)3(TPPO)2錯体の円二色性スペクトル図。
Claims (9)
- 中心イオンが希土類イオンであり、ジアステレオマー構造配位子が配位することを特徴とする、光学機能材料に用いる希土類錯体。
- 希土類イオンがCe(3価イオンのみ)、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb(3価イオンのみ)のいずれかのイオンであることを特徴とする請求項1に記載の希土類錯体。
- 希土類イオンがEu3+であることを特徴とする請求項1または2に記載の希土類錯体。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の希土類錯体を含むことを特徴とする光学機能材料。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の希土類錯体を含むことを特徴とする円偏光フィルタ。
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