JP3579032B2 - 血液中の腫瘍マーカー定量方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血液中の腫瘍マーカー定量方法に関する。さらに詳しくは、消化器系癌及び肝癌の診断に用いられる血液中の腫瘍マーカー定量方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、消化器系癌及び肝癌の腫瘍マーカーの定量方法として、採血用注射器を用いて、主に患者の肘正中静脈より全血2mL以上採取し、室温で1時間以上静置した後、冷却遠心機にて1500G、10分間冷却遠心して血清部分と血餅部分を分け、上清(血清)部分を別の試験管に分取し、これを測定検体として定量する方法等が知られている(例えば、臨床検査マニュアル、1988年、文光堂、311〜316頁)。さらに通常は測定を効率的に実施するため、測定検体を凍結又は冷蔵保存して一定量の測定検体をまとめて定量する方法等が知られている(例えば、イムノアッセイ、1984年、ジェイエムシー、173〜174頁)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の方法においては、健康診断等多数の被検者から採血し血液中の腫瘍マーカーを測定する場合、多数の血液から上清を分離する操作が必要であり、分離した血清を試験管で冷蔵又は冷凍で輸送・保存する必要がある等コストが高くなる問題があった。
すなわち、本発明の目的は、消化器系癌の腫瘍マーカー及び肝癌の腫瘍マーカーを簡易に定量する方法を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成すべき鋭意検討した結果、特定の方法を用いることにより、消化器系癌の腫瘍マーカー及び肝癌の腫瘍マーカーを簡易に定量できることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明は、血液担持担体から血液成分を抽出し、抽出液中の腫瘍マーカー濃度と、血液成分の抽出率とから、消化器系癌の腫瘍マーカー及び/又は肝癌の腫瘍マーカーを定量することを特徴とする血液中の腫瘍マーカー定量方法である。
抽出率は、既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液を用いて血液担持担体を作成しこれから抽出された抽出液中の腫瘍マーカーの含有量を定量して抽出液の腫瘍マーカーの濃度を求め、次式から求められる。
(抽出率)=(抽出液の腫瘍マーカーの濃度)/(血液の腫瘍マーカーの濃度)
【0005】
【発明実施の形態】
本発明における腫瘍マーカー(抗原)は、消化器系癌及び/又は肝癌を診断するための腫瘍マーカーである。
消化器系癌としては、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌、膵臓癌及び胆のう癌等が挙げられる。これらのうち、好ましくは十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌、膵臓癌及び胆のう癌であり、さらに好ましくは大腸癌、直腸癌、膵臓癌及び胆のう癌であり、特に好ましくは大腸癌、膵臓癌及び胆のう癌である。
【0006】
消化器系癌の腫瘍マーカーとしては、例えば、次のものが挙げられる。
食道癌の場合、癌胎児性抗原(CEA)、IAP、フェリチン、ポリアミン、β2−ミクログロブリン、POA及びトリプシンインヒビター等である。
胃癌の場合、α−フェトプロテイン(AFP)、CEA、CA19−9、KMO−1、DuPAN−2、SPan−1、CA50、SLX、CA72−4、IAP、TPA、ポリアミン、β2−ミクログロブリン、フェリチン、POA及びトリプシンインヒビター等である。
十二指腸癌、小腸癌、大腸癌及び直腸癌の場合、CEA、CA19−9、KMO−1、SPan−1、CA50、SLX、CA72−4、IAP、TPA、β2−ミクログロブリン、フェリチン、POA及びトリプシンインヒビター等である。
【0007】
胆のう癌の場合、AFP、CEA、CA19−9、KMO−1、DuPAN−2、SPan−1、CA50、CA72−4、塩基性フェトプロテイン(BFP)、NCC−ST−439、IAP、TPA、β2−ミクログロブリン、フェリチン、PIVKA−II、POA及びトリプシンインヒビター等である。
膵臓癌の場合、CEA、CA19−9、KMO−1、DuPAN−2、SPan−1、CA50、CA72−4、BFP、IAP、TPA、β2−ミクログロブリン、フェリチン、POA、トリプシンインヒビター及びエラスターゼ1等である。
【0008】
肝癌の腫瘍マーカーとしては、例えば、AFP、CEA、CA19−9、KMO−1、DuPAN−2、SPan−1、CA50、SLX、塩基性フェトプロテイン(BFP)、NCC−ST−439、アルカリフォスファターゼアイソザイム、γ−GTPアイソザイム、IAP、TPA、β2−ミクログロブリン、フェリチン、PIVKA−II、POA及びトリプシンインヒビター等が挙げられる。
これらの腫瘍マーカーのうち、好ましくはAFP、CEA、CA19−9、KMO−1、DuPAN−2、SPan−1、SLX、CA50、CA72−4、BFP、IAP、TPA、β2−ミクログロブリン、フェリチン、POA、トリプシンインヒビター、エラスターゼ1及びPIVKA−IIであり、さらに好ましくはAFP、CEA、CA19−9、KMO−1、DuPAN−2、SPan−1、SLX、CA72−4、BFP、IAP、TPA、POA及びPIVKA−IIであり、特に好ましくはAFP、CEA及びCA19−9である。
【0009】
本発明の血液中の腫瘍マーカーの定量方法においては、腫瘍マーカー1種のみを定量してもよく、2種以上の腫瘍マーカーを定量してもよいが、癌診断の感度及び特異性の観点から2種以上の腫瘍マーカーを定量することが好ましく、さらに好ましくは2〜3種の腫瘍マーカーを定量することである。
2種以上の腫瘍マーカーを定量するには、上記の腫瘍マーカーから適宜選択することができるが、肝癌の場合、例えば、AFP、PIVKA−II及びCEAからなる腫瘍マーカーより、大腸癌の場合、例えば、CEA及びCA19−9からなる腫瘍マーカーより、膵臓癌の場合、例えば、CA19−9及びCEAからなる腫瘍マーカーより、食道癌の場合、例えば、癌胎児性抗原(CEA)及びPOAからなる腫瘍マーカーより、胃癌の場合、例えば、α−フェトプロテイン(AFP)、CEA、CA19−9からなる腫瘍マーカーより、十二指腸癌、小腸癌及び直腸癌の場合、例えば、CEA、CA19−9からなる腫瘍マーカーより、胆のう癌の場合、例えば、AFP、CEA、CA19−9からなる腫瘍マーカーより選択することが好ましく、消化器系癌及び/又は肝癌のいずれの場合も、AFP、CEA及びCA19−9からなる腫瘍マーカーから選択することがさらに好ましい。
【0010】
血液担持担体中の血液は、その採取部位及び採取方法等に制限はなく、従来の採取部位及び採取方法(例えば、採血用注射器を用いて、主に肘正中静脈より全血2mL以上採取等)で得た血液の一部を本発明に用いることも当然可能であるが、該血液は、被検者への侵襲性の低減の観点から、抹消血管からの採取が好ましく、抹消血管からの採取の中でも、被検者の侵襲性低減の観点から耳朶又は指先を穿刺して採取した血液がより好ましく、被検者が自分で血液を採取できる点、穿刺時の痛感が少ない点及び血液が液滴として採取(滴下)し易い点等の観点から指先を穿刺して採取した血液が特に好ましい。
【0011】
末梢血液を採取する方法としては、血液を採取できれば特に制限はないが、被検者自身で実施可能であるという観点から、例えば、被検者の当該部位(例えば、耳朶及び指先等)を穿刺前によくマッサージ及び/又は暖めて充血させておき、消毒ガーゼで穿刺部位を拭いて乾燥させ、ディスポーザブル・ランセット等で当該部位を穿刺して血液を得る方法等が好ましい。
【0012】
血液担持担体中の担体としては、血液を保持することが可能である限り、担体の材質、形状等は特に制限されないが、吸着による血液の保持が容易であり、抽出により血液成分が溶出し易い材質・形状であることが好ましく、吸着による保持が容易という観点から、吸収体であることがさらに好ましい。
担体の材質としては、公知の天然高分子及び合成高分子等が使用でき、例えば、綿、羊毛、セルロース、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、絹、フィブロイン、リグニン、ヘミセルロース、キチン、エボナイト、ゴム、ガラス、石英及びセラミックス等が挙げられる。
これらの中で、天然高分子が好ましく、さらに好ましくはセルロース及び綿であり、特に好ましくはセルロースである。
【0013】
担体としては、公知のものが使用でき、例えば、上記の材質等からなる濾紙、不織布、織布又はシート状発泡体等からなる吸収体が挙げられる。
吸収体の孔径は、自由に設定選択できるが、平均孔径の範囲が1〜100μmが好ましく、より好ましくは2〜80μmであり、特に好ましくは5〜50μmの範囲である。
濾紙としては、例えば、JIS P3801(1995年)又はTAPPI(Technical Association of the Pulp and Paper Industry)T205に規定される濾紙等が挙げられる。
不織布としては、例えば、ポリオレフィン不織布、ニトロセルロース不織布、セルソールアセテート不織布、ポリエステル不織布、エポキシ不織布、ガラス不織布及びセラミックス不織布等が挙げられる。
織布としては、例えば、綿布、羊毛布、セルロース布、ポリオレフィン布、ニトロセルロース布、セルロールアセテート布、エポキシ布、ガラス布及びセラミックス布等が挙げられる。
【0014】
シート状発泡体としては、例えば、発泡ポリスチレン、発泡ポリオレフィン、発泡ポリウレタン、発泡ポリエステル、発泡エポキシ樹脂、発泡ガラス及び発泡セラミックス等が挙げられる。
これらの中で、単位体積又は単位面積当たりに吸収する血液の量が一定になりやすいという(定量精度向上)観点から、濾紙、不織布及びシート状発泡体が好ましく、さらに好ましくは濾紙及び不織布、特に好ましくは濾紙、ポリオレフィン不織布、ニトロセルロース不織布、セルソールアセテート不織布、ポリエステル不織布、エポキシ不織布、ガラス不織布及びセラミックス不織布であり、最も好ましくは濾紙である。
【0015】
濾紙、不織布、織布又はシート状発泡体等の厚さは、適宜選択することができるが、0.1〜3.0mmが好ましく、さらに好ましくは0.2〜1.0mm、特に好ましくは0.3〜0.6mmである。
濾紙、不織布、織布又はシート状発泡体等の大きさ(面積)は、採血、保管及び輸送時などの操作性を考慮して自由に設定できるが、1〜200cmが好ましく、さらに好ましくは10〜150cm、特に好ましく25〜100cmである。
【0016】
血液の担体への担持は、血液が保持できれば特に制限されず、担体と血液とを接触させることにより担体に血液を担持させることができる。
担体と血液とを接触させる方法としては、例えば、血液に担体を浸漬する方法、担体に血液を滴下する方法及び穿刺部に担体を押し付ける方法等が挙げられる。これらのうち、簡便性の観点から、担体に血液を滴下する方法及び穿刺部に担体を押しつける方法が好ましく、さらに好ましくは担体に血液を滴下する方法である。
【0017】
血液に担体を浸漬する場合、血液の使用量は担体が浸漬できる量であり、担体の大きさに決定されるが、0.05〜2mlが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1ml、特に好ましくは0.15〜0.5mlである。
担体に血液を滴下する場合、血液の使用量は担体の大きさに決定されるが、0.02〜0.5mlが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.3ml、特に好ましくは0.1〜0.2mlである。
穿刺部に担体を押し付ける場合、血液の使用量は担体の大きさに決定されるが、0.02〜0.5mlが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.3ml、特に好ましくは0.1〜0.2mlである。
【0018】
血液担持担体の血液担持部分を一定の大きさに切り取る場合(後述)、切取られる担体が保持できる量以上の血液を滴下すればよく、滴下する血液量を正確に制御する必要はない。例えば、ろ紙がワットマン社製BFC180(厚さ0.49mm)の場合、滴下した血液量が50μLであれば血液を保持した部分の大きさは直径約12mmである。1滴の液量は約40〜60μLであるので、血液担持部分を直径6mmの円形に打ちぬく場合、必要な血液の量は1〜2滴となる。
【0019】
さらに、血液の安定性及び定量の再現性の観点から、血液を担体に保持させた後、乾燥させることが好ましく、担体に保持された血液の重量が50重量%以下(好ましくは30重量%以下)になるまで乾燥することがさらに好ましい。
乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、冷凍減圧乾燥、微加熱乾燥及び単純乾燥(風乾)等が適用でき、これらのうち、減圧乾燥、冷凍減圧乾燥及び単純乾燥が好ましく、さらに好ましくは減圧乾燥及び単純乾燥であり、特に好ましくは単純乾燥である。
【0020】
乾燥は、腫瘍マーカーの抗原性が変化しない条件で行うことが好ましく、40℃以下の温度で行うのがさらに好ましく、特に好ましくは10〜30℃で行う。減圧する場合は、0.02〜10Paが好ましく、さらに好ましくは0.05〜2Pa、特に好ましくは0.1〜1Paである。
単純乾燥する場合の湿度は、特に制限はないが、10〜90%RHが好ましく、さらに好ましくは40〜80%RHである。
乾燥時間は、担体の形状、保持した血液量により適宜設定できるが、担体が濾紙の場合、20分〜1時間程度である。
【0021】
血液保持担体を保存する場合、湿度は、80%RH以下が好ましく、さらに好ましくは10〜60%RH、特に好ましくは20〜40%RHであり、温度は、0〜40℃が好ましく、さらに好ましくは2〜30℃、特に好ましくは2〜10℃である。
なお、湿度80%RH以下を保てる状態(密閉下、乾燥剤存在の密閉下等)であれば郵便又は宅配便等により輸送することができる。
【0022】
血液成分の抽出の前に、血液担持担体の血液担持部分を一定の大きさに切り取ってから行うことが好ましい。例えば、均一な吸収体に血液を滴下し、過剰な血液は周囲に拡散吸収させて乾燥した後、中心部を一定の形状に切り取ったものを抽出に用いる方法が好ましい。
切り取る方法としては、一定直径のパンチで打ちぬく方法及び予め入れた切取線(ミシン目等)に沿って切り出す方法等が適用できる。
【0023】
血液担持担体から血液成分の抽出は、血液中の腫瘍マーカー(抗原)の抗原性が変化しない限り特に制限なく行うことができ、例えば、抽出用溶液に血液担持担体を浸漬し、その上清を抽出液として用いることができる。
抽出用溶液として、pHが中性領域の緩衝液が使用でき、例えば、pH6〜8のグッド緩衝液及びpH6〜8のリン酸緩衝液等が好ましく使用される。
【0024】
また、抽出用溶液に、塩、界面活性剤、蛋白質及び抗原安定化剤等を添加することもできる。
塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び臭化リチウム等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、ソルビタンラウリン酸モノエステルエチレンオキシド付加物(例えば、ツイーン20及びツイーン40(ICIアメリカ社))等のノニオン界面活性剤等が挙げられる。
蛋白質としては、例えば、牛血清アルブミン及びカゼイン等が挙げられる。
抗原安定化剤としては、例えば、EDTA等のキレート剤及びプロテアーゼインヒビター等が挙げられる。
【0025】
定量再現性の観点から、担体に対する抽出用溶液の使用量及び抽出時間等の抽出条件を一定にする必要がある。
抽出用溶液の使用量としては、0.05〜5mlが好ましく、さらに好ましくは0.1〜1ml、特に好ましくは0.2〜0.5mlである。
抽出時間としては、0.5〜480分が好ましく、さらに好ましくは1〜180分、特に好ましくは5〜60分である。
撹拌は、ボルテックスミキサーのような装置を用いて、容器を震動して行うことが好ましく、震動回数は100〜2000rpmが好ましい。
【0026】
例えば、血液担持担体から切り取った直径6mm(厚さ0.49mm)の濾紙(ワットマン社製BFC180)の場合、以下の条件等で抽出できる。
抽出用溶液組成:塩化ナトリウム含有0.05モル/Lリン酸緩衝液(pH7.2)(塩化ナトリウムの含有量:緩衝液100mL当たり0.85g、以下同じ。)
抽出用溶液の使用量:200〜300μL
抽出温度:室温(15〜25℃)
抽出時間:20分〜1時間(攪拌後の放置時間)
抽出操作:担体に抽出用溶液を加えボルテックスミキサーで攪拌後(500rpm、1分)、上記温度で上記時間放置する。再度攪拌(ボルテックスミキサーで500rpm、5秒)し、1分間静置し分散したろ紙繊維を沈降させた後、上清液を採取し、腫瘍マーカー測定のための検体(抽出液)として用いる。
【0027】
上記抽出液中の腫瘍マーカーの定量方法は特に制限されないが、定量値の再現性及び測定感度の観点から、免疫学的測定法が好ましい。
免疫学的測定法としては従来公知の方法が使用できるが、抽出液中の腫瘍マーカー濃度が血液中の濃度より低いためより定量感度の高い測定法が望ましく、例えば、放射免疫測定(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定(FIA)及び化学発光免疫測定法(CLIA)が好ましい。
【0028】
放射免疫測定(RIA)としては、固相抗体とI125標識抗体を用いた2部位サンドイッチ測定法等が挙げられ、多数の測定試薬キットが市販されている。酵素免疫測定法(EIA)としては、固相抗体と酵素標識抗体を用いた2部位サンドイッチ測定法等が挙げられ、酵素としてペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ等を用いた種々の測定試薬キットが市販されている。
蛍光免疫測定(FIA)としては、固相抗体とユーロピウム標識抗体を用いた2部位サンドイッチ測定法等が挙げられる。
化学発光免疫測定法(CLIA)としては、固相抗体とアクリジニウムエステル標識抗体を用いた2部位サンドイッチ測定法等が挙げられ、種々の測定試薬キットが市販されている。
これらの免疫学的測定法の中で、好ましいのは酵素免疫測定法(EIA)であり、さらに好ましくは化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)である。
【0029】
抽出液中の腫瘍マーカー濃度から、血液中の腫瘍マーカーの濃度を求める方法は、種々の方法が適用でき、例えば、(1)腫瘍マーカーの濃度が既知の血液を担持した血液担持担体を用いて作成した検量線を用いる方法、及び(2)腫瘍マーカーの濃度が既知の抽出液を用いて作成した検量線と腫瘍マーカーの抽出率とを用いる方法等が挙げられる。
【0030】
(2)の方法において、抽出率は、既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液を用いて血液担持担体を作成し、これから抽出された抽出液中の腫瘍マーカーの含有量を定量して抽出液の腫瘍マーカーの濃度を求め、次式から求められる。抽出率は、以上の操作を少なくとも2回(好ましくは少なくとも3回)行い、それらの平均値を用いることが好ましい。
抽出率=(抽出液の腫瘍マーカーの濃度)/(血液の腫瘍マーカーの濃度)
検体の血液中の腫瘍マーカー濃度は、検体から調製される抽出液中の腫瘍マーカー濃度を抽出率で除すことで求めることが出来るが、その際、血液担持担体の作成及び抽出の条件は抽出率を求めた時と同じ条件である必要がある。
【0031】
なお、本発明で定量される腫瘍マーカーは、血液中に極低濃度で存在しているため、濃度の変動による抽出率の変動は極わずかであり、例えば、AFPの場合、0.5〜1,000ng/mLの範囲で同一の抽出率が使用できる。1,000ng/mLを越える高濃度の検体の場合、求めた抽出率と実際の抽出率とが異なる可能性はあるが、臨床的な判断に影響することはない(すなわち、AFPの場合、癌判断の境界濃度が10ng/mLであり、1,000ng/mLを越えていれば癌判断において陽性である。)。
【0032】
また、CEAの場合、0.5〜200ng/mLの範囲で同一の抽出率が使用できる。200ng/mLを越える高濃度の検体の場合、求めた抽出率と実際の抽出率とが異なる可能性はあるが、臨床的な判断に影響することはない(すなわち、CEAの場合、癌判断の境界濃度が5ng/mLであり、200ng/mLを越えていれば癌判断において陽性である。)。AFP及びCEA以外の腫瘍マーカーについても同様であり、腫瘍マーカーの濃度よって臨床的な判断に影響することはない。
【0033】
(1)及び(2)の方法の何れの場合も、既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液又は抽出液は、濃度の異なる2種以上を用いることが好ましい。
既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液又は抽出液の濃度は、測定する腫瘍マーカーの種類により自由に設定できるが、通常は健常人の範囲(正常域)と癌である可能性が高い範囲との境界濃度(カットオフ)を明確に測定できる濃度で設定することが好ましく、例えば、AFPの場合、カットオフは通常10ng/mL前後であるため、(1)の方法の場合、既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液は、少なくとも10ng/mLを挟んで2濃度(例えば、5ng/mL以上10ng/mL未満の濃度と10ng/mL以上50ng/mL未満の濃度)設定することが好ましい。また、(2)の方法の場合は、抽出液中の腫瘍マーカーの濃度であるので、10ng/mLを元に抽出率を考慮した2濃度(例えば、抽出率が0.02の場合、血液中濃度10ng/mLは抽出液中濃度0.2ng/mLに相当するので0.1ng/mL以上0.2ng/mL未満の濃度と0.2ng/mL以上1ng/mL未満の濃度)に設定することが好ましい。
【0034】
また、CEAの場合、カットオフは通常5ng/mL前後であるため、(1)の方法の場合、既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液は、少なくとも5ng/mLを挟んで2濃度(例えば、2ng/mL以上5ng/mL未満の濃度と5ng/mL以上25ng/mL未満の濃度)設定することが好ましい。また、(2)の方法の場合は、抽出液中の腫瘍マーカーの濃度であるので、5ng/mLを元に抽出率を考慮した2濃度(例えば、抽出率が0.02の場合、血液中濃度5ng/mLは抽出液中濃度0.1ng/mLに相当するので0.05ng/mL以上0.1ng/mL未満の濃度と0.1ng/mL以上0.5ng/mL未満の濃度)に設定することが好ましい。
【0035】
また、CA19−9の場合、カットオフは通常37U/mL前後であるため、(1)の方法の場合、既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液は、少なくとも37U/mLを挟んで2濃度(例えば、5U/mL以上37U/mL未満の濃度と37U/mL以上100U/mL未満の濃度)設定することが好ましい。また、(2)の方法の場合は、抽出液中の腫瘍マーカーの濃度であるので、37U/mLを元に抽出率を考慮した2濃度(例えば、抽出率が0.02の場合、血液中濃度37U/mLは抽出液中濃度0.74U/mLに相当するので0.1U/mL以上0.74U/mL未満の濃度と0.74U/mL以上2.0U/mL未満の濃度)に設定することが好ましい。
【0036】
AFP、CEA、CA19−9以外の腫瘍マーカーのカットオフを列挙すると、例えばIAP:501μg/mL、フェリチン:200ng/mL、ポリアミン:45μmol/gクレアチニン、POA:20U/mL、KMO−1:600U/mL、DuPAN−2:400U/mL、CA50:36U/mL、CA72−4:4U/mL、TPA:130U/L、PIVKA−II:0.1AU/mLである。
【0037】
(1)の方法では、検量線の作成に抽出操作から行う必要がある点及び検量線作成用の血液は長期間保存できないので測定の際に作成する煩わしさがあるが、抽出条件が変動しても正確な測定ができるという長所がある。一方、(2)の方法は、あらかじめ抽出率を求め、抽出操作等の条件を一定にすれば多量の検体を正確かつ簡便に測定することができる。(1)及び(2)の方法のうち、簡便さの観点から、(2)の方法が好ましい。
【0038】
本発明の定量方法は、被検者自身で採血、担体に保持・乾燥、輸送(例えば、持参、郵便及び宅配便等)することができ、消化器系癌及び肝癌の健康診断等のように多数の検体を広い地域から集めて定量する場合に最適である。又、癌検診のほか、遠隔地の患者に対する癌治療の経過観察等においても、適用できる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
本実施例は、血液担持担体を長期間保存しても正確に腫瘍マーカー(AFP)を定量できることを示したものである。
1.採血及び血液担持担体(血液乾燥濾紙)の作成
ボランティア6名(被検者A〜F)の指先をよくマッサージ及び暖めて充血させておき消毒用ガーゼで穿刺部位を拭いて乾燥させてから、ディスポーザブル・ランセット(商品名「ヘモレット」、ミドリ十字株式会社製)で穿刺し、最初の血滴を拭い去り、次の血滴2滴を被検者1人当たり10枚の採血用濾紙(品番BFC180、ワットマン株式会社製)ぞれぞれに指先から直接滴下し吸収させた。次いで、室内(25±1℃、65±5%RH)で風乾し(風乾時間5,20,40,60又は120分)、血液担持担体(血乾燥濾紙)を得た。
風燥時間毎に血液担持担体(血液乾燥濾紙)の重量を計測し、初期血液重量(濾紙重量を除いた値)に対する比を乾燥度を求めた(血液担持担体2枚の平均値)。この乾燥度を表1中に示した。
次いで、血液担持担体(血液乾燥濾紙)を表1記載の保存条件で保存した(保存日数0,3,7,14,28日)。
【0041】
【表1】
Figure 0003579032
【0042】
2.抽出操作
以下の操作は温度20〜25℃の室内で実施した。
表1の条件で保存した各血液担持担体(血乾燥濾紙)の血液担持部分の中心部を、直径6mmの1穴パンチ(事務用として市販されている物)で打ち抜いて濾紙片を得た。
試験管に打ち抜いた濾紙片及び塩化ナトリウム含有0.05モル/Lリン酸緩衝液(pH7.2)(抽出用溶液)250μLを加え、30秒間攪拌(ボルテックスミキサーで500rpm)した後、30分間放置した。その後、30秒間同様に攪拌した後1分間静置し、上清を分取して抽出液を調製し、これを腫瘍マーカーの定量に供した。
【0043】
3.抽出液中の腫瘍マーカー(AFP)の定量
定量用試薬としては、臨床検査薬として和光純薬工業株式会社より発売されている「スフィアライト AFP」を用いた。
抽出液中の腫瘍マーカー量を決定するための標準溶液は、和光純薬工業株式会社より発売されている「スフィアライト AFPコントロールセット」を用いた。
定量装置としては、オリンパス光学工業株式会社製のSphereLight180を用いた。
本試薬と装置を用いることで化学発光酵素免疫測定法により、AFPの定量ができる。
使用する定量用試薬が血清中の腫瘍マーカー濃度を測定するための臨床検査薬であり、通常測定に使用する検体量は10μLに設定されおり、反応時間はトータル約15分である。抽出液中の腫瘍マーカーの定量の場合、血清中より低濃度であるため、抽出液は100μL使用した。
【0044】
4.定量結果
定量結果及び次式で求めた安定度を表2〜11に示した。
(安定度)=(所定保存期間後の定量値)×100/(初期定量値)
なお、初期定量値は、血液担持担体を作成後、直ちに抽出用溶液に血液担持担体を投入し、抽出操作を開始して定量したものであり、保存期間0日として示した。
各条件で作成、保存した血液担持担体(血液乾燥濾紙)から得た抽出液中の腫瘍マーカー(抗原:AFP)は、乾燥時間が5分の場合を除き、保存温度4℃では28日、25℃では7日間、安定度90%以上の値を示した。
従って、乾燥時間が20分以上であれば、血液担持担体(血液乾燥濾紙)中の腫瘍マーカー(抗原:AFP)は安定であることが判った。
【0045】
【表2】
Figure 0003579032
【0046】
【表3】
Figure 0003579032
【0047】
【表4】
Figure 0003579032
【0048】
【表5】
Figure 0003579032
【0049】
【表6】
Figure 0003579032
【0050】
【表7】
Figure 0003579032
【0051】
【表8】
Figure 0003579032
【0052】
【表9】
Figure 0003579032
【0053】
【表10】
Figure 0003579032
【0054】
【表11】
Figure 0003579032
【0055】
<実施例2>
本実施例は、血液担持担体を長期間保存しても正確に腫瘍マーカー(CEA)を定量できることを場合で示したものである。
1.採血及び血液担持担体(血液乾燥濾紙)の作成
実施例1と同様にして、ボランティア6名(被検者A〜F)から血液担持担体(血乾燥濾紙)を調製し、表1記載の保存条件で保存した(保存日数0,3,7,14,28日)。
2.抽出操作
実施例1と同様にして、抽出液を調製し、これを腫瘍マーカーの定量に供した。
【0056】
3.抽出液中の腫瘍マーカー(CEA)の定量
測定試薬は臨床検査薬としては、和光純薬工業株式会社より発売されている「スフィアライト CEA」を用いた。
抽出液中の腫瘍マーカー量を決定するための標準溶液は、和光純薬工業株式会社より発売されている「スフィアライト CEAコントロールセット」を用いた。
定量装置としては、オリンパス光学工業株式会社製のSphereLight180を用いた。
本試薬と装置を用いることで化学発光酵素免疫測定法により、CEAの定量ができる。
使用する定量用試薬が血清中の腫瘍マーカー濃度を測定するための臨床検査薬であり、通常測定に使用する検体量は40μLに設定されおり、反応時間はトータル約15分である。抽出液中の腫瘍マーカーの定量の場合、血清中より低濃度であるため、抽出液は100μL使用した。また、反応時間を29分に延長した。
【0057】
4.定量結果
定量結果及び実施例1と同様にして求めた安定度を表12〜21に示した。
なお、初期定量値は、血液担持担体を作成後、直ちに抽出用溶液に血液担持担体を投入し、抽出操作を開始して定量したものであり、保存期間0日として示した。
各条件で作成、保存した血液担持担体(血液乾燥濾紙)から得た抽出液中の腫瘍マーカー(抗原:CEA)は、乾燥時間が5分の場合を除き、保存温度4℃では28日、25℃では7日間、安定度90%以上の値を示した。
従って、乾燥時間が20分以上であれば、血液担持担体(血液乾燥濾紙)中の腫瘍マーカー(抗原:CEA)は安定であることが判った。
【0058】
【表12】
Figure 0003579032
【0059】
【表13】
Figure 0003579032
【0060】
【表14】
Figure 0003579032
【0061】
【表15】
Figure 0003579032
【0062】
【表16】
Figure 0003579032
【0063】
【表17】
Figure 0003579032
【0064】
【表18】
Figure 0003579032
【0065】
【表19】
Figure 0003579032
【0066】
【表20】
Figure 0003579032
【0067】
【表21】
Figure 0003579032
【0068】
<実施例3>
本実施例は、血液担持担体を長期間保存しても正確に腫瘍マーカー(CA19−9)を定量できることを場合で示したものである。
1.採血及び血液担持担体(血液乾燥濾紙)の作成
実施例1と同様にして、ボランティア6名(被検者A〜F)から血液担持担体(血乾燥濾紙)を調製し、表1記載の保存条件で保存した(保存日数0,3,7,14,28日)。
2.抽出操作
実施例1と同様にして、抽出液を調製し、これを腫瘍マーカーの定量に供した。
【0069】
3.抽出液中の腫瘍マーカー(CA19−9)の定量
測定試薬は臨床検査薬としては、和光純薬工業株式会社より発売されている「スフィアライト CA19−9」を用いた。
抽出液中の腫瘍マーカー量を決定するための標準溶液は、和光純薬工業株式会社より発売されている「スフィアライト C19−9Aコントロールセット」を用いた。
定量装置としては、オリンパス光学工業株式会社製のSphereLight180を用いた。
本試薬と装置を用いることで化学発光酵素免疫測定法により、CA19−9の定量ができる。
【0070】
使用する定量用試薬が血清中の腫瘍マーカー濃度を測定するための臨床検査薬であり、通常測定に使用する検体量は10μLに設定されおり、反応時間はトータル約15分である。抽出液中の腫瘍マーカーの定量の場合、血清中より低濃度であるため、抽出液は100μL使用した。また、反応時間を29分に延長した。
【0071】
4.定量結果
定量結果及び実施例1と同様にして求めた安定度を表22〜31に示した。
なお、初期定量値は、血液担持担体を作成後、直ちに抽出用溶液に血液担持担体を投入し、抽出操作を開始して定量したものであり、保存期間0日として示した。
各条件で作成、保存した血液担持担体(血液乾燥濾紙)から得た抽出液中の腫瘍マーカー(抗原:CA19−9)は、乾燥時間が5分の場合を除き、保存温度4℃では28日、25℃では7日間、安定度90%以上の値を示した。
従って、乾燥時間が20分以上であれば、血液担持担体(血液乾燥濾紙)中の腫瘍マーカー(抗原:CA19−9)は安定であることが判った。
【0072】
【表22】
Figure 0003579032
【0073】
【表23】
Figure 0003579032
【0074】
【表24】
Figure 0003579032
【0075】
【表25】
Figure 0003579032
【0076】
【表26】
Figure 0003579032
【0077】
【表27】
Figure 0003579032
【0078】
【表28】
Figure 0003579032
【0079】
【表29】
Figure 0003579032
【0080】
【表30】
Figure 0003579032
【0081】
【表31】
Figure 0003579032
【0082】
<実施例4>
本実施例は、本発明の方法によって求めたAFP濃度と従来の方法によるAFP濃度とが良好な相関関係にあることを示すものである。
1.標準AFP添加血液担持担体の作成
ボランティア5名(被検者G〜K)より血液1.8mLを採取し、0.9mL×2本に分割して、その一方に「スフィアライト AFPコントロールセット」の標準AFP溶液(400ng/mL)を100μL加えて、標準AFP添加血液を調製した。
濾紙(BFC180、ワットマン株式会社製)に標準AFP添加血液を100μL滴下し、室温(25±2℃)で1時間乾燥し、標準AFP添加血液担持担体▲2▼を作成した。
同様にして、他一方の血液0.9mlを濾紙に滴下・乾燥し、血液担持担体▲1▼を作成した。
【0083】
2.抽出及び測定
実施例1記載の抽出方法と同様にして、標準AFP添加血液担持担体▲1▼及び血液担持担体▲2▼からそれぞれ抽出液を調製して、抽出液中のAFP濃度を測定した。それらの結果を表32に示した。
【0084】
【表32】
Figure 0003579032
【0085】
3.抽出率の設定
表32に示した測定値から次式から抽出率を算出した。それらの結果を表32に示した。5名の血液での抽出率の平均値を、本条件で作成及び抽出した場合の抽出率(0.0199)として設定した。
抽出率=(B−A)/C
A:血液担持担体▲1▼から調製した抽出液中のAFP濃度
B:標準AFP(400ng/mL)添加血液担持担体から調製した抽出液中のAFP濃度
C:40ng/mL(添加したAFP量)
【0086】
4.採血
肝癌患者を含め20名より採血を実施した。採血は実施例1記載方法(指先から採血)及び肘正中静脈から従来方法(採血用注射器を用いて、肘正中静脈より全血2mL以上採取)で実施した。肘正中静脈より採取した全血は室温で1時間以上静置した後、冷却遠心機にて1500G、10分間冷却遠心し、更に上清(血清)部分を分取した。
【0087】
5.血液担持担体(血液乾燥濾紙)の作成
実施例1記載の方法と同様にして、血液担持担体(血液乾燥濾紙)を作成した。乾燥時間は、抽出率設定の場合と同じ1時間とした。
【0088】
6.抽出及び定量
血液担持担体について、抽出率設定の場合と同じ方法で抽出及びAFP濃度測定を実施した。
一方、従来の方法で採取、分離した血清については、実施例1記載の「スフィアライト AFP」で、測定試薬に添付された説明書通りの条件で測定を実施した(検体量 10μL)。
【0089】
7.血液中のAFP濃度の決定
血液担持担体から調製した抽出液中のAFP濃度を抽出率(0.0199)で除し、血液中のAFP濃度を求めた。
従来の方法で求めた血清中のAFPの濃度と本発明の方法で求めた血液中のAFP濃度を表33に示した。また、これらの値を用いて本発明の方法によるAFP濃度と従来法によるAFP濃度との相関図を図1に示した。図1から判るように、従来法での血清中のAFP濃度と本発明の方法による血液中AFP濃度は、良好な相関性を示した。図1中、式は相関式(X:従来法でのAFP濃度、Y:本発明の方法でのAFP濃度)、Rは相関係数を示すものである。
【0090】
【表33】
Figure 0003579032
【0091】
<実施例5>
本実施例は、本発明の方法によって求めたCEA濃度と従来の方法によるCEA濃度とが良好な相関関係にあることを示すものである。
1.標準CEA添加血液担持担体の作成
ボランティア5名(被検者G〜K)より血液1.8mLを採取し、0.9mL×2本に分割して、その一方に「スフィアライト CEAコントロールセット」の標準CEA溶液(0又は150ng/mL)をそれぞれ100μL加えて、標準CEA添加血液(0ng/mL、150ng/mL)を調製した。
濾紙(BFC180、ワットマン株式会社製)に標準CEA添加血液(150ng/mL)を100μL滴下し、室温(25±2℃)で1時間乾燥し、標準CEA添加血液担持担体▲2▼を作成した。
同様にして、他一方の血液(0ng/mL)100μLを濾紙に滴下・乾燥し、血液担持担体▲1▼を作成した。
【0092】
2.抽出及び測定
実施例2記載の抽出方法と同様にして、標準CEA添加血液担持担体▲1▼及び血液担持担体▲2▼からそれぞれ抽出液を調製して、抽出液中のCEA濃度を測定した。それらの結果を表34に示した。
【0093】
【表34】
Figure 0003579032
【0094】
3.抽出率の設定
表34に示した測定値から次式から抽出率を算出した。それらの結果を表34に示した。5名の血液での抽出率の平均値を、本条件で作成及び抽出した場合の抽出率(0.0199)として設定した。
抽出率=(B−A)/C
A:血液担持担体▲1▼から調製した抽出液中のCEA濃度
B:標準CEA(150ng/mL)添加血液担持担体から調製した抽出液中のCEA濃度
C:15ng/mL(添加したCEA量)
【0095】
4.採血
大腸癌患者を含め20名より採血を実施した。採血は実施例1記載方法(指先から採血)及び肘正中静脈から従来方法(採血用注射器を用いて、肘正中静脈より全血2mL以上採取)で実施した。肘正中静脈より採取した全血は室温で1時間以上静置した後、冷却遠心機にて1500G、10分間冷却遠心し、更に上清(血清)部分を分取した。
【0096】
5.血液担持担体(血液乾燥濾紙)の作成
実施例1記載の方法と同様にして、血液担持担体(血液乾燥濾紙)を作成した。乾燥時間は、抽出率設定の場合と同じ1時間とした。
【0097】
6.抽出及び定量
血液担持担体について、抽出率設定の場合と同じ方法で抽出及びCEA濃度測定を実施した。
一方、従来の方法で採取、分離した血清については、実施例2記載の「スフィアライト CEA」で、測定試薬に添付された説明書通りの条件で測定を実施した(検体量 40μL)。
【0098】
7.血液中のCEA濃度の決定
血液担持担体から調製した抽出液中のCEA濃度を抽出率(0.0199)で除し、血液中のCEA濃度を求めた。
従来の方法で求めた血清中のCEAの濃度と本発明の方法で求めた血液中のCEA濃度を表35に示した。また、これらの値を用いて本発明の方法によるCEA濃度と従来法によるCEA濃度との相関図を図2に示した。図2から判るように、従来法での血清中のCEA濃度と本発明の方法による血液中CEA濃度は、良好な相関性を示した。図2中、式は相関式(X:従来法でのCEA濃度、Y:本発明の方法でのCEA濃度)、Rは相関係数を示すものである。
【0099】
【表35】
Figure 0003579032
【0100】
<実施例6>
本実施例は、本発明の方法によって求めたCA19−9濃度と従来の方法によるCA19−9濃度とが良好な相関関係にあることを示すものである。
1.標準CA19−9添加血液担持担体の作成
ボランティア5名(被検者G〜K)より血液1.8mLを採取し、0.9mL×2本に分割して、その一方に「スフィアライト CA19−9コントロールセット」の標準CA19−9溶液(0又は200U/mL)をそれぞれ100μL加えて、標準CA19−9添加血液を調製した。
濾紙(BFC180、ワットマン株式会社製)に標準CA19−9添加血液(200U/mL)を100μL滴下し、室温(25±2℃)で1時間乾燥し、標準CA19−9添加血液担持担体▲2▼を作成した。
同様にして、他一方の血液(0U/mL)100μLを濾紙に滴下・乾燥し、血液担持担体▲1▼を作成した。
【0101】
2.抽出及び測定
実施例3記載の抽出方法と同様にして、標準CA19−9添加血液担持担体▲1▼及び血液担持担体▲2▼からそれぞれ抽出液を調製して、抽出液中のCA19−9濃度を測定した。それらの結果を表36に示した。
【0102】
【表36】
Figure 0003579032
【0103】
3.抽出率の設定
表36に示した測定値から次式から抽出率を算出した。それらの結果を表36に示した。5名の血液での抽出率の平均値を、本条件で作成及び抽出した場合の抽出率(0.0204)として設定した。
抽出率=(B−A)/C
A:血液担持担体▲1▼から調製した抽出液中のCA19−9濃度
B:標準CA19−9(200U/mL)添加血液担持担体から調製した抽出液中のCA19−9濃度
C:20U/mL(添加したCA19−9量)
【0104】
4.採血
膵臓癌患者を含め20名より採血を実施した。採血は実施例1記載方法(指先から採血)及び肘正中静脈から従来方法(採血用注射器を用いて、肘正中静脈より全血2mL以上採取)で実施した。肘正中静脈より採取した全血は室温で1時間以上静置した後、冷却遠心機にて1500G、10分間冷却遠心し、更に上清(血清)部分を分取した。
【0105】
5.血液担持担体(血液乾燥濾紙)の作成
実施例1記載の方法と同様にして、血液担持担体(血液乾燥濾紙)を作成した。乾燥時間は、抽出率設定の場合と同じ1時間とした。
【0106】
6.抽出及び定量
血液担持担体について、抽出率設定の場合と同じ方法で抽出及びCA19−9濃度測定を実施した。
一方、従来の方法で採取、分離した血清については、実施例3記載の「スフィアライト CA19−9」で、測定試薬に添付された説明書通りの条件で測定を実施した(検体量 10μL)。
【0107】
7.血液中のCA19−9濃度の決定
血液担持担体から調製した抽出液中のCA19−9濃度を抽出率(0.0199)で除し、血液中のCA19−9濃度を求めた。
従来の方法で求めた血清中のCA19−9の濃度と本発明の方法で求めた血液中のCA19−9濃度を表37に示した。また、これらの値を用いて本発明の方法によるCA19−9濃度と従来法によるCA19−9濃度との相関図を図3に示した。図3から判るように、従来法での血清中のCA19−9濃度と本発明の方法による血液中CA19−9濃度は、良好な相関性を示した。図2中、式は相関式(X:従来法でのCA19−9濃度、Y:本発明の方法でのCA19−9濃度)、Rは相関係数を示すものである。
【0108】
【表37】
Figure 0003579032
【0109】
【発明の効果】
本発明の血液中の腫瘍マーカーの定量方法によると、消化器系癌の腫瘍マーカー及び肝癌の腫瘍マーカーを極めて簡易に定量することができる。
さらに、被検者自身で採血することができるので採血のための熟練者等が不要であり、被検者が採血のため病院等に出向く必要もないという簡便性も併せもつものである。
また、血液担持担体は、簡単に輸送することができるので、多数の検体を一ヶ所に集めて測定することができ輸送及び測定のコストを低減させることができる等の効果がある。
従って、本発明の定量方法は、消化器系癌及び肝癌の健康診断等の多数の検体を広い地域から集めて測定する場合に最適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の方法による血清中のAFP濃度と本発明の方法による血液中のAFP濃度との相関を表すグラフである。
【図2】従来の方法による血清中のCEA濃度と本発明の方法による血液中のCEA濃度との相関を表すグラフである。
【図3】従来の方法による血清中のCA19−9濃度と本発明の方法による血液中のCA19−9濃度との相関を表すグラフである。

Claims (5)

  1. 血液担持担体から血液成分を抽出し、抽出液中の腫瘍マーカー濃度と、血液成分の抽出率とから、消化器系癌の腫瘍マーカー及び/又は肝癌の腫瘍マーカーを定量することを特徴とする血液中の腫瘍マーカー定量方法。
    抽出率は、既知濃度の腫瘍マーカーを含む血液を用いて血液担持担体を作成しこれから抽出された抽出液中の腫瘍マーカーの含有量を定量して抽出液の腫瘍マーカーの濃度を求め、次式から求められる。
    (抽出率)=(抽出液の腫瘍マーカーの濃度)/(血液の腫瘍マーカーの濃度)
  2. 腫瘍マーカーが、大腸癌、胆のう癌、膵臓癌及び/又は肝癌の腫瘍マーカーである請求項1記載の血液中の腫瘍マーカー定量方法。
  3. 腫瘍マーカーが、癌胎児性抗原(CEA)、α−フェトプロテイン(AFP)及び/又はCA19−9である請求項1又は2記載の血液中の腫瘍マーカー定量方法。
  4. 血液担持担体が、濾紙を使用してなる吸収体に血液を担持してなる請求項1〜3の何れかに記載の血液中の腫瘍マーカー定量方法。
  5. 血液担持担体が、指先から採取した血液を担持してなる請求項1〜4の何れかに記載の血液中の腫瘍マーカー定量方法。
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