JP6989871B2 - 乾燥血液ろ紙を用いた低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査法 - Google Patents
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Description
[1]1枚の乾燥血液ろ紙からアルカリホスファターゼ(ALP)酵素活性を簡易に測定する、低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)乾燥血液ろ紙から抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、
(2)抽出した血液試料に合成基質を含む基質液を添加して酵素反応を行わせる工程、
(3)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する工程。
[2]上記抽出液が、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液である、[1]に記載の方法。
[3]上記抽出液に界面活性剤が含まれる、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]上記界面活性剤がTritonX-100であり、0.05%~0.5%で含まれる、[3]に記載の方法。
[5]上記抽出液に、0.02%~0.1%のアジ化ナトリウム及び0.05%~0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)が含まれる、[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]上記基質液が、4-Methylumbelliferyl(4MU)合成基質を含む緩衝液である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]上記基質液における4MU合成基質が、4MU-Phosであり、0.1mM~1.0mMで含まれる、[6]に記載の方法。
[8]上記基質液のpHが9~11である、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]上記基質液の緩衝液が、トリス緩衝液である、[8]に記載の方法。
[10]上記基質液に、1mM~30mMのL-フェニルアラニン(以下、「L-Phe」と略す。)が、組織非特異型アルカリホスファターゼ以外のアルカリホスファターゼを阻害する選択的阻害剤として含まれる、[6]から[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]上記基質液に、0.5~2.0mMのMgCl2が活性増強剤として含まれる、[6]から[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]上記基質液に、1mM~30mMのコハク酸ナトリウムが、基質自己分解抑制剤として含まれる、[6]から[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13]上記基質液に、0.01~0.1%のTritonX-100が含まれる、[6]から[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14]工程(2)において、酵素反応の停止を、酵素反応溶液にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む反応停止液を添加することにより行う、[1]から[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15]上記反応停止液が、グリシン緩衝液である、[14]に記載の方法。
[16]上記反応停止液のpHが10~11である、[15]に記載の方法。
[17]上記酵素反応を、25~45℃の温度で行った後、上記反応停止液を添加する、[14]から[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18]上記酵素反応を1~4時間で行う、[1]から[17]のいずれか一項に記載の方法。
[19]上記蛍光測定の測定波長が、励起波長365~375nm、検出波長460~470nmである、[1]から[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20]下記を含む、[1]に記載の検査方法に使用するためのキット:
(1)乾燥血液ろ紙
(2)抽出液、
(3)合成基質を含む基質液、
(4)反応停止液、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
[21]上記抽出液が、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水である、[20]に記載のキット。
[22]上記合成基質を含む基質液が、0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸ナトリウム、10mM L-Phe及び1mM MgCl2を含むpH9~11の100mMトリス緩衝である、[20]又は[21]に記載のキット。
[23]上記反応停止液が、10mM EDTAナトリウムを含む300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)である、[20]から[22]のいずれか一項に記載のキット。
本発明は、1枚の乾燥血液ろ紙から、TNSALPを含む血液を抽出し、抽出した血液試料を利用して、乾燥血液ろ紙中の酵素活性を測定する方法である。
酵素活性(pmol/hr/disk)=抽出試料の4MU量(μM)×抽出試料量(μL)÷酵素反応時間(hr)×(乾燥血液ろ紙1枚当たりの抽出液量(μL)÷抽出試料量(μL))
(1)乾燥血液ろ紙
(2)抽出液、
(3)合成基質を含む基質液、
(4)反応停止液、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
[検体及び標準品]
・検体:乾燥血液ろ紙(φ3mmに切り出して使用)
・4MU標準品:SIGMA-ALDRICH社製、Product No.M1381
・4MU-Phos:SIGMA-ALDRICH社製、Product No.M8883
・L-Phe:和光純薬社製、試薬特級
・コハク酸Na(和光純薬社製 試薬特級)
・反応停止液:10mM EDTA、300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)
・マイクロプレート:96well透明マイクロプレート(GREINER社製)
・Blackマイクロプレート:蛍光測定用96well Blackマイクロプレート(NUNC社製)
・蛍光オートリーダー:Infinite M200PRO(TECAN製)
ALP活性で広く使用されている2-エチルアミノエタノール緩衝液(EAE緩衝液)、イミノジエタノール緩衝液(DEA緩衝液)、及びトリス緩衝液を用いて、基質液の緩衝液を検討した。
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)sample1、2、3
・基質液:0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl2、10mMコハク酸Naを含むpH10.0の下記(i)~(iii)の緩衝液
(i)100mMトリス緩衝液
(ii)10%EAE緩衝液
(iii)10%DEA緩衝液
乾燥血液ろ紙より、φ3.0mmの乾燥血液ろ紙検体をマイクロプレートの各ウェルに切り出し、各ウェルに200μLの抽出液を添加して、室温で振とうしながら1時間の抽出操作を行った。抽出された血液試料を20μLずつBlackマイクロプレートに移注した。検体の入ったウェルに基質液を20μL添加し、37℃の恒温槽内に4時間静置して酵素反応を行わせた。酵素反応終了後、反応停止液を各ウェル200μL添加して、軽く混合した後、蛍光オートリーダーを用いて、励起波長370nm、検出波長465nmで蛍光強度を測定した。
結果を図2に示す。4MU-Phosを用いて乾燥血液ろ紙より抽出した検体を測定する本発明の測定では、一般的に用いられるALP測定用緩衝液(EAE緩衝液やDEA緩衝液)を用いても十分な酵素反応が起きず、トリス緩衝液でのみ測定に必要な酵素反応が起きた。このため、本発明におけるTNSALP基質液はトリス緩衝液とした。
基質液中の4MU-Phosの濃度を0.0625mMから0.5mMまでの4段階で変えて酵素反応後の蛍光強度を測定した。
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)sample1、2、3
・基質液:0.0625mM~0.5mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl2、10mMコハク酸Naを含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
結果を図3に示す。4MU-Phos濃度を0.0625mM~0.5mMまで変えても、乾燥血液ろ紙をサンプルとして測定するのに十分な蛍光強度が得られることが分かった。
ALPの酵素活性発現にはMg2+の共存が必須であるが、ヘモグロビン由来のFe2+などMg2+以外の2価金属イオンが多量に存在すると合成基質の自己分解が促進されてしまう。このため、Mg2+の効果を阻害しない金属キレート剤3種(EDTA・4Na(キレート定数16.5)、クエン酸Na(キレート定数11)、及びコハク酸Na(キレート定数13))について、基質液への添加効果を調べた。
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)
・基質液:
(i)0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl2、を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
(ii)(i)に4mM EDTA・4Naを加えたもの
(iii)(i)に4mMクエン酸Naを加えたもの
(iv)(i)に4mMコハク酸Naを加えたもの
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
結果を図4に示す。3種の金属キレート剤の中でキレート定数が一番高いEDTA・4Naを添加した場合はALP測定が阻害されることが分かった。一方、キレート定数がEDTA・4Naよりも低いクエン酸Naやコハク酸Naであれば、本測定法でのALP測定を阻害せず、添加しなかった場合と同等の蛍光強度が得られることが分かった。
基質液のクエン酸Na又はコハク酸Naの添加濃度を変えてTNSALP活性を測定した。
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)
・基質液:0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mM L-Phe、1.0mM MgCl2、及び下記(i)又は(ii)を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
(i)0~8mMクエン酸Na
(ii)0~8mMコハク酸Na
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
結果を図5に示す。クエン酸Naを加えた場合は、4mM以上の濃度で活性低下が認められたが、コハク酸Naを加えた場合は活性測定には影響を及ぼさなかった。このことから、基質安定剤としてはコハク酸Naが最も適していることが示された。
TNSALP阻害剤として知られるレバミソール(Levamisole)と小腸型、胎盤型、生殖細胞型などのALP阻害剤として知られるL-Pheについて、基質液への添加効果を検討した。
・検体:乾燥血液ろ紙(正常新生児乾燥血液ろ紙 n=74)
・基質液:
(i)0.2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸Na、1.0mM MgCl2、を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
(ii)(i)に0.3mMレバミソールを加えたもの
(iii)(i)に10mM L-Pheを加えたもの
37℃の恒温槽内での酵素反応時間を1時間とした以外は、実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
結果を図6に示す。TNSALPを50%阻害するのに必要なレバミゾール濃度は0.03mMであることが知られており、0.3mMの使用ではTNSALPが十分阻害されていると考えられる。これにより、新生児血液中の大部分は、レバミゾールにより阻害されるTNSALPの活性であることが分かった。一方、L-PheのTNSALP50%阻害濃度は31mMであることが知られており、小腸型は0.8mM、胎盤型は1.1mM、生殖細胞型は0.8mMとの報告があることから、10mM L-Pheの添加は、小腸型、胎盤型、生殖細胞型のALPを完全に阻害していると考えられる。したがって、本測定系に10mM L-Pheを添加しておことでTNSALP活性が測定できることが明らかとなった。
基質液のL-Phe濃度を変えて、酵素反応後の蛍光強度を測定した。
・検体:乾燥血液ろ紙(正常ヒト)sample1、2、3
・基質液:2mM 4MU-Phos、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸Na、0~8mM L-Phe、1.0mM MgCl2、を含むpH10.0の100mMトリス緩衝液
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
結果を図7に示す。前述の通り、ALP阻害剤であるL-Pheの50%阻害濃度は、TNSALPで31mM、小腸型で0.8mM、胎盤型で1.1mM、生殖細胞型で0.8mMである。本測定により、TNSALPの50%阻害濃度(31mM)より低く、かつTNSALP以外のALPの50%阻害濃度の2倍より高い濃度の範囲内で設定することが望ましいことが分かった。
乾燥血液ろ紙を検体としてTNSALP酵素活性を酵素反応の時間を変えて検出を試みた。
(1)検体、試薬等
・検体:正常人ヒト乾燥血液ろ紙(新生児の乾燥血液ろ紙65例)
・基質液:TNSALP基質液(pH10.0)
37℃の恒温槽内での酵素反応時間を1~24時間と段階的に変えたこと以外は、実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
乾燥血液ろ紙を検体としてTNSALP酵素活性を低ホスファターゼ症患者と正常人とで比較した。
・検体:
正常人(新生児乾燥血液ろ紙)2,659例
低ホスファターゼ症患者(乾燥血液ろ紙)1例
・基質液:TNSALP基質液(pH10.0)
実施例1「(2)測定方法」と同様の方法で測定を行った。
正常人の酵素活性の分布と低ホスファターゼ症患者の酵素活性を図10に示した。正常新生児のTNSALP平均酵素活性は914.0pmol/hr/disk、標準偏差は329.0pmol/hr/diskであり、低ホスファターゼ症患者の酵素活性は、103.7pmol/hr/diskとなり、明確に正常人TNSALP酵素活性より、低い活性を有していた。したがって、本発明の測定により、乾燥血液ろ紙を用いて、低ホスファターゼ症のスクリーニング検査は可能であることが示された。
Claims (18)
- 1枚の乾燥血液ろ紙からアルカリホスファターゼ(ALP)酵素活性を簡易に測定する、低ホスファターゼ症のマススクリーニング検査方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)乾燥血液ろ紙から、ウシ血清アルブミン(BSA)、アジ化ナトリウム及び界面活性剤を含む抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、
(2)抽出した血液試料に合成基質である4-Methylumbelliferyl phosphateを含む基質液を添加して酵素反応を行わせる工程、ここで、前記基質液はクエン酸ナトリウムまたはコハク酸ナトリウム、L-フェニルアラニン及びMgCl 2 を含むトリス緩衝液である、
(3)1~4時間の酵素反応を行わせ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むアルカリ緩衝液で反応を停止した後に生成物を蛍光測定する工程、
(4)得られた蛍光値からALP酵素活性を測定する工程、
(5)検体と正常人検体を(1)~(4)の工程により測定し、ALP酵素活性価が正常人の値より低い場合に低ホスファターゼ症患者と判定する工程。 - 前記抽出液が、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液である、請求項1に記載の方法。
- 前記界面活性剤がTritonX-100であり、0.05%~0.5%で含まれる、請求項1または2に記載の方法。
- 前記抽出液に、0.02%~0.1%のアジ化ナトリウム及び0.05%~0.5%のBSAが含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記基質液における4-Methylumbelliferyl phosphateが0.1mM~1.0mMで含まれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
- 前記基質液のpHが9~11である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
- 前記基質液に、L-フェニルアラニンが1mM~30mM含まれる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
- 前記基質液に、MgCl 2 が0.5~2.0mM含まれる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
- 前記基質液に、コハク酸ナトリウムが1mM~30mM含まれる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
- 前記基質液に、0.01~0.1%のTritonX-100が含まれる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
- 前記反応停止液が、グリシン緩衝液である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
- 前記反応停止液のpHが10~11である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
- 前記酵素反応を、25~45℃の温度で行った後、前記反応停止液を添加する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
- 前記蛍光測定の測定波長が、励起波長365~375nm、検出波長460~470nmである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
- 下記を含む、請求項1に記載の検査方法に使用するためのキット:
(1)乾燥血液ろ紙
(2)ウシ血清アルブミン(BSA)、アジ化ナトリウム及び界面活性剤を含む抽出液、
(3)合成基質である4-Methylumbelliferyl phosphateを含む基質液、ここで、前記基質液はクエン酸ナトリウムまたはコハク酸ナトリウム、L-フェニルアラニン及びMgCl 2 を含むトリス緩衝液である、
(4)反応停止液、ここで、反応停止液はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むアルカリ緩衝液である、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。 - 前記抽出液が、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水である、請求項15に記載のキット。
- 前記合成基質を含む基質液が、0.2mM 4-methylumbelliferyl-phosphate、0.05%TritonX-100、10mMコハク酸ナトリウム、10mM L-フェニルアラニン及び1mM MgCl2を含むpH9~11の100mMトリス緩衝である、請求項15又は16に記載のキット。
- 前記反応停止液が、10mM EDTAナトリウムを含む300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)である、請求項15から17のいずれか一項に記載のキット。
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