JP6320441B2 - ライソゾーム病2疾患責任酵素の迅速マススクリーニング検査法 - Google Patents

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Description

本発明は、ライソゾーム病2疾患(ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型)の責任酵素の迅速マススクリーニング検査法に関する。
細胞内小器官の一つであるライソゾーム(lysosome;「リソゾーム」、「リソソーム」とも呼ばれる。)は、細胞の中で糖質や糖脂質の分解を行っている。これには約60種類の加水分解酵素が関与しており、それらの責任酵素の欠損・異常によって、ライソゾームの分解機能が発揮されなくなると、本来分解されるべき物質が老廃物として体内に蓄積してしまう。このようにして生じる先天性代謝異常症の総称がライソゾーム病である。欠損している酵素によって症状が異なり、ムコ多糖症、ファブリー病、ポンぺ病など、約30種類の病名で知られる。
ライソゾーム病は、別の先天性代謝異常症であるフェニルケトン尿症のように、摂取制限で治療できるような必須アミノ酸代謝異常とは異なり、それらの責任酵素は生体内で合成されることから、根治には遺伝子治療が必要である。現在は、酵素補充療法のための薬剤が市販され、多くの場合、酵素補充療法の早期治療開始により、患者のQOL向上や発症の予防など臨床的改善がもたらされる。このため、これらの疾患が新生児マススクリーニング検査によって早期に発見されることが望まれている。
新生児マススクリーニング検査では、血液をしみ込ませて乾燥させたろ紙(以下、「乾燥血液ろ紙」という。)を用い、合成基質法による酵素活性を測定する方法が用いられる。他には、タンデム分析装置を用いた酵素活性測定法、専用装置を必要とするものの迅速に測定できるマイクロ流路測定キットなどを用いたパイロットスタディが米国や台湾などで実施されており、新生児マススクリーニング検査の有用性が示されている。
ライソゾーム病の一種であるムコ多糖症(MPS;Mucopolysaccharidosis)は、グルコサミノグルカンであるヘパラン硫酸、デルタマン硫酸などを分解するライソゾーム酵素の一種が欠損して引き起こされる代謝疾患群であり、欠損する酵素によりI型〜VII型が存在する。
ムコ多糖症I型(以下、「MPS I」と略す。)は、責任酵素であるα-L-Iduronidase(以下、「IDU」と略す。)の欠損により引き起こされるライソゾーム蓄積障害であり、臨床表現型により、重症型のハーラー症候群、軽症型のシャイエ症候群、中間型のハーラー・シャエイ症候群に大別される。
IDUは、ライソゾーム内でのグリコサミノグリオカン類、デルマタン及びヘパラン硫酸の分解に必須である。これらの多糖類の分解不全が、関節硬直、骨格異常、及び角膜混濁等の身体的変化を引き起こす。ハーラー症候群は、幼児期の弁膜性心疾患、精神機能低下及び死を特徴とする。幼い頃に症状に気付かないことがあるため、MPS Iの診断は難しい。酵素補充療法及び骨髄移植が、この疾患のために開発されており、いずれも早期に実行されると有益である。
IDUの酵素活性の高感度な測定法として、蛍光基質を用いた酵素活性法が一般的に利用され、合成基質である「イズロン酸4-methylumbelliferone」を基質として用いる方法が考案されているが、この合成酵素は非常に高価であり、かつ酵素反応に24時間を要するため、新生児マススクリーニング検査で使用するためには、より安価で、簡便迅速な測定が求められている。
ムコ多糖症II型(以下、「MPS II」と略す)は、責任酵素であるIduronate-2-sulfatase(以下、「IDS」と略す)の欠損により引き起こされるライソゾーム蓄積障害であり、重症型のハンター症候群が知られている。
IDSは、ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸のようなグリコサミノグリカン分子内に存在する硫酸エステル結合を加水分解する活性を有するライソゾーム酵素の1つである。ハンター症候群の患者では、IDS活性が遺伝的に欠損している。この酵素活性の欠損は、ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の代謝異常を引き起こし、それは次いで肝臓や腎臓のような組織中にそれらの分子の断片の蓄積や、更には尿中へのヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の排泄をも引き起こす。その結果、これらの異常により、骨格の変形及び重症の精神遅滞を含む、ハンター症候群の患者における種々の症状が引き起こされる。
ハンター症候群の治療では、体内で不足しているIDS活性を補充するために、遺伝子組換え技術で製造したヒトIDSを有効成分として含有する製剤を静注して投与する酵素補充療法が行われているが、早期に治療を開始することが有効な治療法となっている。
特許文献1には、乾燥体液及び細胞組織試料中に存在するライソゾーム酵素の活性をアッセイするための方法及びキットが記載されている。特許文献1に記載の方法及びキットは、各種ライソゾーム蓄積障害を各疾患ごとに個別にアッセイするものである。
非特許文献1には、MPS Iの責任酵素であるIDU酵素のアッセイが新生児のMPS Iスクリーニングに有効であったことが記載されている。非特許文献1ではIDU酵素のみが単独でアッセイの対象となっている。
非特許文献2には、MPS IIの責任酵素であるIDS酵素活性を白血球中で測定したことが記載されている。非特許文献2ではIDS酵素のみが単独でアッセイの対象となっている。
特許文献2には、MPS I及びMPS IIを含むリソソーム蓄積症(LDS)の多重スクリーニングが記載されている。特許文献2は、複数の標的酵素およびタンパク質を同定および定量するための化合物、試薬及び方法に関するものであるが、標的抗原への結合能のある捕捉抗体及びその捕捉抗体が結合されている微粒子を含む多重化ビーズ技術に基づくものである。
特許文献3には、IDU酵素活性を検定する方法及びMPS Iにつき新生児をスクリーニングするための方法が記載されている。特許文献3に記載の方法は、IDU産物とIDU内部標準とを含む有機相を提供するために、IDU、IDU産物及びIDU内部標準を含む水性酵素反応混合物を有機溶媒により抽出するステップと、IDU産物の量を決定するステップとを含む。特許文献3ではIDU酵素のみが単独でアッセイの対象となっている。
特許文献4には、ムコ多糖症I型、II型、III型又はVII型に罹患している可能性のある動物由来の血液検体中におけるヘパラン硫酸を測定し、その測定結果とムコ多糖症I型、II型、III型又はVII型とを関連づけるステップを少なくとも含む、ムコ多糖症I型、II型、III型又はVII型の検出方法が記載されている。特許文献4に記載の方法は、検体中の単一種類のグリコサミノグリカン(GAG)を測定し、その測定結果とリソソーム病とを関連づけるステップを少なくとも含む、リソソーム病の検出方法である。
IDS酵素活性の高感度な測定法として、蛍光基質を用いた酵素活性法が一般的に利用されており、合成基質である「4-Methylumbelliferyl-a-L-Idopyranosiduronic Acid-2-Sulfate, Sodium Salt」を基質として用い、Iduronidaseを添加した2段階酵素反応で測定する方法が知られているが、この合成酵素は非常に高価であり、かつ測定時間が48時間以上必要であるため、新生児マススクリーニング検査で使用するためには、より安価で、簡便迅速な測定が求められている。
米国特許第7563591号 特表2006−523300 特表2010−536347 特開2013−11621
Orphanet Journal of Rare Disease, 8, 147, 2013 Clinical Biochemistry, 47, 1297-1299, 2014
本発明は、新生児マススクリーニング検査におけるライソゾーム病2疾患(MPS I, MPS II)の責任酵素活性測定を、大規模な測定機器や専用装置を必要とせず、簡便、迅速かつ安価に実施する方法を提供することを目的とする。
新生児マススクリーニング検査は、乾燥血液ろ紙から抽出した試料を測定検体として用いる。従来のライソゾーム病2疾患の責任酵素活性の測定では、検査対象となる責任酵素毎に抽出液組成が異なり、1枚の乾燥血液ろ紙からは1種類の酵素活性しか測定できず、複数の酵素を測定するには、複数枚の乾燥血液ろ紙が必要であった。また、乾燥血液ろ紙から抽出した試料の酵素活性を測定するためには、酵素反応に24時間以上が必要であり、測定期間として2〜3日を要していた。
さらに、測定対象の責任酵素により、測定波長、操作手順、反応時間、抽出液組成、及び反応停止液組成が異なるため、多数の検体を同時に測定するためには、責任酵素毎に分析者が必要であった。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、MPS I及びMPS IIの責任酵素である、IDU及びIDSの抽出時の酵素活性の低下や酵素活性測定時のpHに影響を及ぼさず、共通で使用できる抽出液(以下、「共通抽出液」という。)の組成を見出した。さらに、当該抽出試料が高感度に測定でき、かつ各基質液組成と共通で使用できる反応停止液(以下、「共通反応停止液」という。)の組成を見出した。
また、酵素活性の測定波長をシフトさせることで、乾燥血液ろ紙の共通抽出液中の蛍光物質や蛍光阻害物質の影響が少なくなることを見出した。
さらに、各酵素の単位時間当たりの酵素活性は、酵素反応時間が長いほど低下する事実を見出した。そして、これに基づいて酵素反応時間を従来より短時間にしても十分測定可能な共通な測定条件(基質濃度、試料液量、基質液量、反応停止液量、酵素反応時間)を見出したことで、安価な基質液組成とすることができ、測定操作の作業性を向上させ、1人の分析者でも複数項目の測定を可能とした。
これらの知見に基づいて、1枚の乾燥血液ろ紙から抽出した試料より、IDU及びIDSを同時、高感度、簡便、迅速、効率的かつ安価に検出する方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、1枚の乾燥血液ろ紙から抽出した試料を2種類の基質液を用いて酵素活性を測定することで、同時に2種のライソゾーム病を検出する方法、及び当該検査方法に使用するためのキットを提供する。ここで、本発明におけるライソゾーム病とは、MPS I及びMPS IIの2疾患である。
したがって、本発明は以下を含む。
[1]1枚の乾燥血液ろ紙から複数のライソゾーム病責任酵素活性を迅速に測定する、ライソゾーム病責任酵素の迅速マススクリーニング検査方法であって、該責任酵素がα-L-Iduronidase(IDU)及びIduronate-2-sulfatase(IDS)であり、以下の工程を含む方法:
(1)乾燥血液ろ紙から共通抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、
(2)抽出した血液試料に合成基質を含む基質液を添加して酵素反応を行わせる工程、
(3)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する工程。
[2]前記共通抽出液が、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液である、[1]に記載の方法。
[3]前記共通抽出液に界面活性剤が含まれる、[1又は[2]に記載の方法。
[4]前記界面活性剤がTritonX-100であり、0.05%〜0.5%で含まれる、[3]に記載の方法。
[5]前記共通抽出液に、0.02%〜0.1%のアジ化ナトリウム及び0.05%〜0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)が含まれる、[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記基質液が、(i)塩化カリウム及び4-Methylumbelliferyl合成基質を含む緩衝液並びに(ii)Iduronidase及び4-Methylumbelliferyl合成基質を含む緩衝液の組み合わせである、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]前記(i)における4-Methyumbelliferyl合成基質が、4-Methylumbelliferyl α-L-Idopyranosiduronic Acid, Sodium Saltであり、0.1mM〜3mMで含まれる、[6]に記載の方法。
[8]前記(i)における基質液のpHが3〜4である、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]前記(i)における基質液の緩衝液が還元作用を有する、[6]から[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]前記緩衝液が、ギ酸ナトリウム緩衝液である、[9]に記載の方法。
[11]前記(i)における基質液に、0.1mM〜1mMのDithiothreitol(DTT)が含まれる、[6]から[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]前記(i)における基質液に、0.01%〜0.1%のPolyoxyethyleneglycol Dodecyl Ether(Brij-35)が含まれる、[6]から[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13]前記(i)における基質液に、1μg/mL〜20μg/mLのD-Saccharic acid 1,4-lactoneが類似酵素阻害剤として含まれる、[6]から[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14]前記(ii)におけるIduronidaseが、遺伝子組換え技術により作製したIduronidaseであり、0.1μg/mL〜2μg/mLで含まれる、[6]に記載の方法。
[15]前記(ii)における4-methylumbelliferyl合成基質が、4-Methylumbelliferyl-a-L-Idopyranosiduronic Acid-2-Sulfate, Sodium Saltであり、0.1mM〜3mMで含まれる、[6]又は[14]に記載の方法。
[16]前記(ii)における基質液のpHが4〜5である、[6]、[14]又は[15]に記載の方法。
[17]前記(ii)における基質液の緩衝液が、酢酸ナトリウム緩衝液である[6]又は[14]から[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18]前記(ii)における基質液に10mM〜30mMの酢酸鉛又は2〜20mMの酢酸セリウムが含まれる、[6]又は[14]から[17]のいずれか一項に記載の方法。
[19]工程(2)において、酵素反応の停止を、酵素反応溶液にグリシンを含む共通反応停止液を添加することにより行う、[1]から[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20]前記共通反応停止液のpHが10〜11である、[19]に記載の方法。
[21]前記酵素反応を、25〜45℃の温度で行った後、前記共通反応停止液を添加する、[19]又は[20]に記載の方法。
[22]前記酵素反応を2〜4時間で行う、[1]から[21]のいずれか一項に記載の方法。
[23]前記蛍光測定の測定波長が、励起波長365〜375nm、検出波長460〜470nmである、[1]から[22]のいずれか一項に記載の方法。
[24]1枚の乾燥血液ろ紙から複数のライソゾーム病責任酵素を同時に抽出する方法であって、共通抽出液を用いることを含み、該責任酵素がalpha-L-Iduronidase(IDU)及びIduronate-2-sulfatase(IDS)である、方法。
[25]前記共通抽出液が、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液である、[24]に記載の方法。
[26]前記共通抽出液に界面活性剤が含まれる、[24]又は[25]に記載の方法。
[27]前記界面活性剤がTronX-100であり、0.05%〜0.5%で含まれる、[26]に記載の方法。
[28]前記共通抽出液に、0.02%〜0.1%のアジ化ナトリウム及び0.05%〜0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)が含まれる、[24]から[27]のいずれか一項に記載の方法。
[29]下記を含む、[1]に記載の検査方法に使用するためのキット:
(1)乾燥血液ろ紙、
(2)共通抽出液、
(3)合成基質を含む基質液、
(4)共通反応停止液、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
[30]前記共通抽出液が、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水である、[29]に記載のキット。
[31]前記合成基質を含む基質液が、MPS I基質液とMPS II基質液との組み合わせであり、MPS I基質液が、0.6mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid,sodium salt、5μg/mL D-Saccharic acid 1,4-lactone、0.05%Birij-35、50mM KCl及び0.25mM DTTを含むpH3〜4の100mMギ酸ナトリウム緩衝液、MPS II基質液が、0.25mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic Acid -2-sulfate, Sodium Salt (4MU-IDS)、1μg/mL遺伝子組換えIduronidase及び20mM酢酸鉛又は2〜20mMの酢酸セリウムを含むpH4.5の50mM酢酸ナトリウム緩衝液である、[29]又は[30]に記載のキット。
[32]前記共通反応停止液が、300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)である、[29]から[31]のいずれか一項に記載のキット。
本発明は、乾燥血液ろ紙の枚数が制限される新生児マススクリーニング検査において、1枚の乾燥血液ろ紙から、ライソゾーム病2疾患(MPS I、MPS II)の酵素活性測定を可能とした。
本発明は、測定時間を共通化させたことで、多数の検体を一度に測定可能とし、検査に要する時間を大幅に短縮させ、これまでMPS Iでは2日間、MPS IIでは3日間要していた検査期間を2疾患同時に1日で完了させることが可能となった。さらに、測定者の負担の軽減(省力化)を成し遂げた。
本発明により、検体としての血液が採取しにくい新生児について、既存の新生児代謝異常で使用した乾燥血液ろ紙をそのまま使用することができるようになった。すべての新生児について、2種のライソゾーム病の可能性が検出できれば、未だ臨床症状が現れていない出生後の早期の段階で、酵素補充療法、遺伝子治療、骨髄移植等が実施でき、精神発達の遅れ等をくい止めることができる可能性が高くなる。
さらに本発明は、マススクリーニング検査でのライソゾーム病の検出のみならず、病状の把握、治療方針の決定、治療効果の確認、経過観察、モニタリング、医薬品開発の評価等へも応用することができる。
本発明での酵素活性測定法を例示したフローチャートである。 従来の酵素活性測定法を例示したフローチャートである。 本発明で使用する標準品(4-methylumbelliferone;4MU)の濃度(μM)と蛍光強度(RFU)の関係を示す。本発明測定では検量線として使用した。 MPS I型病責任酵素(IDU)の酵素活性と反応温度との関係を示す。 MPS II型病責任酵素(IDS)の酵素活性と反応温度との関係を示す。 MPS I型病責任酵素(IDU)の酵素活性と酵素反応時間との関係を示す。 MPS II型病責任酵素(IDS)の酵素活性と酵素反応時間との関係を示す。 MPS II型用基質液に添加する金属塩の種類(バリウム塩、鉛塩、セリウム塩)と蛍光強度(RFU)の関係を示す。 新生児5000例の乾燥血液ろ紙中のIDU酵素活性分布図を示す。矢印は、MPS I病患者の乾燥血液ろ紙中のIDU酵素活性を示す。平均=30.3、SD=11.3、95%範囲=8.0〜52.5。 新生児5000例の乾燥血液ろ紙中のIDS酵素活性分布図を示す。矢印は、MPS II患者の乾燥血液ろ紙中のIDS酵素活性を示す。平均=82.9、SD=24.6、95%範囲=34.7〜131.1。
(発明の詳細な説明)
乾燥血液ろ紙を検体としたライソゾーム病責任酵素活性測定は、乾燥血液ろ紙と基質液を直接混合して酵素反応を行わせる方法や、乾燥血液ろ紙に少量のbufferを添加した後、基質液を添加して反応させる方法、乾燥血液ろ紙から血液を抽出して、抽出した血液試料に基質液を添加して酵素反応を行わせる方法などがある。
本発明は、1枚の乾燥血液ろ紙から、IDU及びIDSを含む血液を抽出し、抽出した血液試料を利用して、乾燥血液ろ紙中の2種の酵素活性を測定する方法である。
本発明方法による測定は、(1)乾燥血液ろ紙から共通抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、(2)抽出した血液試料に合成基質を添加して酵素反応を行わせる工程、(3)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する工程、の3ステップにより完了する。
血液試料の酵素活性測定では、抽出した血液試料と合成基質を混合した場合に酵素活性測定に適するpHになるように抽出液と基質液のどちらか一方で、又は両方で最適pHの緩衝能を持つ組成にする必要があり、既知の測定方法では、測定する酵素毎に抽出液が異なっていた。このため、測定する酵素毎に別々の乾燥血液ろ紙が必要であった。
本発明では、IDU及びIDSの酵素活性測定を妨害せず、かつ乾燥血液ろ紙から効果的に各酵素を同時に抽出することができる共通抽出液組成を見出し、1枚の乾燥血液ろ紙から複数の酵素を同時に測定することを可能とした。
本発明方法による共通抽出液は、各基質液と混合したときに酵素反応の最適pHを阻害しない低緩衝能の緩衝液が好ましく、より好ましくは、スルファターゼ酵素の反応を妨害するリン酸イオンやクエン酸イオンを含まない緩衝液である。
本発明方法による共通抽出液は、IDU及びIDSの両方の酵素反応を妨害するイオンを含まず、抽出した酵素の安定化を図るために、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」という。)などの希薄な蛋白質を共存させpH緩衝能を持たせることが好ましい。また、測定する酵素は、白血球などの血液細胞中のライソゾーム中に存在するため、細胞を破砕し、抽出液中に酵素を遊離させる作用を持つ界面活性剤(TritonX-100など)を共存させることがより好ましい。
本発明による共通抽出液は、測定対象の酵素活性の抑制には働かず、酵素を抽出する過程で目的以外の酵素活性による非特異反応を抑制する作用を持つ添加物を共存させ、かつ乾燥血液ろ紙からの抽出を促進させる界面活性剤を共存させることが好ましい。界面活性剤は、一般的に作用させる濃度では酵素反応を抑制したり、増強させたりすることがあるため、酵素活性を阻害しない濃度で添加する必要がある。
本発明の共通抽出液は、0.05%〜0.5%のBSA、0.05%〜0.5%のTrtionX-100及び0.02%〜0.1%のアジ化ナトリウムを含む。本発明の一実施形態の共通抽出液の組成は、「0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水」である。共通抽出液中のBSAは、共通抽出液に弱いpH緩衝能を持たせると共に、IDU酵素活性の増強に作用する。界面活性剤であるTritonX-100は、乾燥血液ろ紙からの血液成分の溶出と血球破砕による酵素の溶出を促進し、抽出時間の短縮のために添加する。アジ化ナトリウムは、血液中に存在するペルオキシダーゼ類による非特異反応を防止すると共に、共通抽出液の防腐抑制のために添加する。各添加剤の濃度は、互いの酵素活性を抑制しない濃度として設定することが好ましい。
本発明による基質液は、それぞれの酵素活性測定に適したpH域で緩衝能を持つ緩衝液を使用することにより、共通抽出液で抽出した血液試料を用いて各酵素の測定が可能となる。
基質液に使用する合成基質は、測定対象酵素の特異基質となる構造を有する基質であることが必要である。そのような合成基質を使用することにより、測定対象酵素との反応特異性を向上させることができる。しかしながら、抽出された血液試料中には、類似反応をする酵素が無数に存在するため、さらに特異性を高める目的で、類似酵素阻害剤を共存させることが好ましい。
MPS Iを検出するためのIDU酵素活性測定に使用する基質液(以下、「MPS I基質液」という。)は、0.1mM〜3mMの4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid,sodium salt(以下、「4MU-IDUA」と略す。)、1μg/mL〜20μg/mLのD-Saccharic acid 1,4-lactone、0.01%〜0.1%のBirij-35(Polyoxyethyleneglycol Dodecyl Ether)、10mM〜100mMのKCl及び0.1mM〜1.0mMのDTT(Dithiothreitol)を含む。MPS I基質液の一実施形態における組成は、「0.6mM 4MU-IDUA、5μg/mL D-Saccharic acid 1,4-lactone、0.05%Birij-35、50mM KCl及び0.25mM DTTを含むpH3〜4の100mMギ酸ナトリウム緩衝液」である。
上記組成におけるMPS I基質液は、IDU酵素活性の増強効果のためにKCl、界面活性剤としてBrij-35、さらに、DTTの添加剤が最適濃度で添加されている。また、合成基質である4MU-IDUAは、ナトリウム塩(sodium salt)を用いることでIDUとの反応性が向上し、高感度の測定が可能となっている。
MPS I基質液に添加される類似酵素阻害剤の一例はD-Saccharic acid 1,4-lactoneである。類似酵素阻害剤は、IDU以外の類似作用を持つ各種酵素類を阻害し、IDU酵素活性測定の特異性の強化に作用する。その濃度は1μg/mL以上であれば良く、5μg/mL〜10μg/mLであれば類似酵素による非特異的酵素反応を完全に阻害することができる。
MPS I基質液のBase緩衝液は、pH3〜4の酸性側で酵素反応を起こさせるため、還元作用のあるギ酸緩衝液が好ましく、より好ましくは、pH3.5のギ酸ナトリウム緩衝液である。
一方、MPS IIを検出するためのIDS酵素活性測定に使用する基質液(以下、「MPS II基質液」という。)は、0.1mM〜3mMの4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic Acid -2-sulfate, Sodium Salt(以下、「4MU-IDS」と略す。)、0.1μg/mL〜2μg/mLの遺伝子組換えIduronidase及び10mM〜30mMの酢酸鉛又は2〜20mMの酢酸セリウムを含む。MPS II基質液の一実施形態における組成は、「0.25mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic Acid -2-sulfate, Sodium Salt (以下、「4MU-IDS」と略す。)、1μg/mL遺伝子組換えIduronidase及び20mM酢酸鉛を含むpH4.5の50mM酢酸ナトリウム緩衝液」である。緩衝液のpHは、4〜5であっても良い。
上記組成におけるMPS II基質液は、これまで2段階を要していた酵素反応を1段階で可能にする組成として考案した。既知の4MU-IDS基質を用いたIDS酵素反応では、第一酵素反応として、IDSと4MU-IDSを反応させて、Iduronidaseの基質となる4MU-IDUAを生成する。その後、リン酸緩衝食塩液などを添加してIDS酵素反応を停止させた後、Iduronidaseを添加して4MU-IDUAの分解を行い蛍光物質である4-methylumbelliferone(以下、「4MU」と略す。)を遊離させるための2段目の酵素反応を行わせる必要がある。本発明におけるMPS II基質液は、2回の酵素反応を行わせることなく、1回の酵素反応で4MUの遊離が可能な組成となっている。
上記組成におけるMPS II基質液中の酢酸鉛又は酢酸セリウムは、鉛イオン又はセリウムイオンが血液試料中の硫酸イオン、リン酸イオン、クエン酸イオンなどのIDS酵素反応阻害物質をマスクして、血液試料のIDS酵素活性の検出を可能にする目的で添加されている。しかしながら、鉛イオン又はセリウムイオンはIduronidaseの妨害金属イオンでもあるため、IDS酵素活性を適切に測定するためには、その添加濃度は多すぎても少なすぎても良くなく、適切な濃度設定が求められる。本発明では、1段階の酵素反応に適する濃度として酢酸鉛濃度又は酢酸セリウム濃度を設定しており、酢酸鉛を用いる場合は、好ましくは、10〜30mMであり、より好ましくは20mMである。一方、酢酸セリウムを用いる場合は、好ましくは、2〜20mMであり、より好ましくは5mMである。
上記組成におけるMPS II基質液のpHは、IDS及びIDUの両方が反応できるpHを設定した。IDSの最適pHは5〜6であり、一般に使用される動物由来(ウサギ)IDUの最適pHは2〜3である。このため、IDS酵素反応とIDU酵素反応を同時に行わせることは難しい。そこで、添加するIduronidaseを、IDS酵素活性の至適pHに近いpH4〜5でも反応させることが可能な、遺伝子組換えIduronidaseとすることで、同一pH条件での酵素反応を可能とし、1段階酵素反応でのIDS活性測定を実現した。
各酵素反応により生成する共通の反応生成物は、アルカリ域に強い蛍光を発する4MUであり、この4MUの蛍光強度を測定する。4MUは、pH9〜11のアルカリ域で最も強い蛍光を発するため、共通反応停止液を添加した後の反応液のpHをアルカリ側にシフトさせることが望ましい。しかしながら、各酵素反応においてpHが異なること、及び基質液はアルカリ域に強い緩衝能を持つことから、共通反応停止液は、それらの影響を受けないよう、高濃度のアルカリ緩衝液とすることがより好ましい。
本発明における共通反応停止液は、100mM〜500mMのグリシン-NaOH緩衝液(pH9〜11)である。この組成の共通反応停止液組成を使用することにより、酵素反応を停止させると共に反応生成物(4MU)の蛍光を増強させて測定することができる。4MUは、pH8を超えるアルカリ域では、360nm付近の紫外線を吸収して、450nm付近に最大蛍光強度を持つ蛍光を発する。よって、共通反応停止液のpHは、8以上が好ましく、より好ましくは9以上であり、10〜11がさらに好ましい。本発明の一実施形態で使用可能な共通反応停止液の組成は、最も好ましくは「300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)」である。
乾燥血液ろ紙抽出物には、ヘモグロビンなどの4MU蛍光測定を妨害する色素蛋白や紫外線を吸収して4MU励起効率を阻害する核酸成分などが含まれる。本発明では、血液成分を含む反応液での測定で、血液成分の阻害を少なくして4MUを測定するために、測定の波長を4MUの最大励起と最大蛍光波長を意図的にシフトさせて測定する。
この励起波長と測定波長のシフトにより、これまで、血液成分の影響で測定ができなかた低濃度の酵素活性を効率よく測定することができるようになり、高感度な測定が可能となった。
本発明での一実施形態での蛍光測定の波長は、励起波長365〜375nmと検出波長460〜470nmの組合せであり、より好ましくは、励起波長370nmと検出波長465nmの組み合わせである。この測定波長の組み合わせを各酵素測定共通で使用することにより、1台の蛍光リーダーで各酵素活性を同一マイクロプレート上に配置した場合でも測定可能となった。
酵素活性は、乾燥血液ろ紙1枚当たりの単位時間に得られる4MU産生量として計算する。4MU産生量は、4MU標準品の蛍光強度と抽出試料の蛍光強度を比較して算出する。また、酵素活性の計算式は、以下の式により算出する。
酵素活性(pmol/hr/disk)=抽出試料の4MU量(μM)×抽出試料量(μL)÷酵素反応時間(hr)×(乾燥血液ろ紙1枚当たりの抽出液量(μL)÷抽出試料量(μL))
本発明での一実施形態での測定操作は、乾燥血液ろ紙1枚をマイクロプレートのwell内に入れ、200μLの共通抽出液を添加して、1時間の抽出反応を行わせる。抽出された血液試料は、20μLずつ別のマイクロプレートにwell to wellで移注し、そこに各基質液を20μL添加して、25〜45℃で2〜24時間反応させる。
酵素反応温度は、2種の責任酵素で挙動が異なる。IDSは37℃付近、IDUは45℃付近が最も活性が高い。よって、共通で使用する温度条件としては、35〜45℃が好ましく、より好ましくは37℃付近である。
酵素反応時間は、一般的に24〜48時間であるが、測定条件により挙動が異なるため、本測定系の場合2〜4時間での酵素活性が、24時間反応させた場合より高活性を示す。よって、共通で使用する条件としては2〜4時間が好ましい。酵素反応終了後、各反応液には、共通反応停止液を200μL添加して酵素反応を停止させる。蛍光マイクロプレートリーダーを用いて、励起波長370nm、検出波長465nmで蛍光を測定し、4MU標準品の蛍光強度と比較して酵素活性を算出する。
本発明はまた、本発明の検査方法に使用するためのキットを提供する。本発明のキットは、以下の構成を含む:
(1)乾燥血液ろ紙、
(2)共通抽出液、
(3)合成基質を含む基質液、
(4)共通反応停止液、及び
(5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
本発明のキットに含まれる前記共通抽出液は、最も好ましくは、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む。
本発明のキットに含まれる前記合成基質を含む基質液は、MPS I基質液とMPS II基質液との組み合わせであり、最も好ましくは、MPS I基質液が、0.6mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid,sodium salt、5μg/mL D-Saccharic acid 1,4-lactone、0.05%Birij-35、50mM KCl及び0.25mM DTTを含むpH3〜4の100mMギ酸ナトリウム緩衝液であり、MPS II基質液が、0.25mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic Acid -2-sulfate, Sodium Salt (4MU-IDS)、1μg/mL遺伝子組換えIduronidase及び20mM酢酸鉛又は5mM酢酸セリウムを含むpH4.5の50mM酢酸ナトリウム緩衝液である。
本発明のキットに含まれる前記共通反応停止液は、最も好ましくは、300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
乾燥血液ろ紙を検体として、IDU及びIDSの酵素活性を酵素反応温度を変えて検出を試みた。
(1)検体、試薬等
本実施例において用いた検体、試薬等は以下のとおりである。
[検体及び標準品]
・検体:正常人ヒト乾燥血液ろ紙(新生児72名の各乾燥血液ろ紙)、及びcontrol乾燥血液ろ紙(2種)
・4MU標準品:4-methylumbelliferone(SIGMA-ALDRICH社製、Product No.M1381)
[合成基質]
・4-methyumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid sodium salt(トロントリサーチケミカル(TRC)社製、Product No. M334701)
・4-methyumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid -2-sulfate disodium salt(トロントリサーチケミカル(TRC)社製、Product No. M334715)
[類似酵素阻害剤]
・D-Saccharic acid 1,4-lactone monohydrate(SIGMA-ALDRICH社製、Product No. S0375)
[添加酵素]
・遺伝子組換えIduronidase(R&D systems社製、試薬カタログコード番号4119-GH-01)
共通抽出液は、以下の組成で調製した。
・共通抽出液:0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水
基質液は、以下の組成で調製した。
・MPS I基質液:0.6mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid sodium salt、5μg/mL D-Saccharic acid 1,4-lactone、0.05%Birij-35、50mM KCL及び0.25mM DTTを含むpH3.5の100mMギ酸ナトリウム緩衝液
・MPS II基質液:0.25mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid -2-sulfate,sodium salt (4MU-IDS)、1μg/mL遺伝子組換えIduronidase及び20mM酢酸鉛を含むpH4.5の50mM酢酸ナトリウム緩衝液
共通反応停止液は、以下の組成で調製した。
・共通反応停止液:300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)
(2)測定操作
本実施例における測定操作は以下のとおりである。
各乾燥血液ろ紙より、φ3.0mmの乾燥血液ろ紙検体を96wellマイクロプレートプレートの各wellに切り出し、各wellに200μLの共通抽出液を添加して、室温で振とうしながら1時間の抽出操作を行った。抽出された血液試料を20μLずつ2枚の蛍光測定用96well Blackマイクロプレート(NUNC社製)にwell to wellで移注した。4MU標準品は、2.5μMより2倍段階希釈した希釈標準液を血液試料と同様に20μLずつ蛍光測定用96well Blackマイクロプレートに移注した。検体及び4MU標準液の入ったwellにそれぞれの合成基質を20μL添加し、25℃、37℃、45℃の恒温槽内に4時間静置して酵素反応を行わせた。酵素反応終了後、共通反応停止液を各well200μL添加して、軽く混合した後、蛍光オートリーダー(TECASN社製、infinite M200pro)を用いて、励起波長370nm、検出波長465nmで蛍光強度を測定し、4MU標準液の蛍光強度と比較して各乾燥血液ろ紙1枚当たりの酵素活性を求めた。
4MU標準品の蛍光強度の測定結果を図3に示した。また、この検量線より計算される酵素活性の結果と酵素反応の温度の関係を図4及び図5に示した。IDSの酵素活性は、37℃付近が最適反応温度を示す一方で、IDUは37℃より45℃と、より高温で反応を行わせた方が酵素活性が高くなるという知見は驚くべきものであった。しかしながら、IDU酵素活性を37℃付近で反応させることにより、IDUとIDSの酵素活性を同じ温度で測定するための反応温度共通化は可能であることが示された。
乾燥血液ろ紙を検体として、IDU及びIDSの酵素活性を酵素反応時間を変えて検出を試みた。その方法は、酵素反応温度を37℃とした以外は、実施例1に示した方法と同様である。
酵素反応時間と活性の関係を図6及び図7に示した。IDU及びIDSの酵素活性は反応時間の経過と共に低下し、2時間で酵素反応を終了させた場合が最も高い活性を示した。この結果より、本発明法では、従来の24時間の酵素反応を行わなくても、2〜4時間の反応で測定可能であることが示された。
IDSの酵素反応を、MPS II基質液に添加する金属塩の種類を変えて検討した。MPS II基質液に添加する酢酸金属塩を酢酸バリウム、酢酸鉛、酢酸セリウムの3種とし、検体を新生児5名の各乾燥血液ろ紙とした以外は、実施例1に示した方法と同様にして行った。
各乾燥血液ろ紙検体の蛍光強度(RFU)と添加した酢酸金属塩の関係を図8に示した。酢酸金属塩を添加しない場合は、Blankとほぼ同じ低い蛍光強度を示す一方、酢酸鉛又は酢酸セリウムを添加した基質を用いた場合は、酵素活性を示す高い蛍光強度が認められた。同様の効果が期待された酢酸バリウムでは、酢酸鉛や酢酸セリウムのような高い蛍光強度は認められなかった。この結果より、検体中のスルファターゼ酵素反応を妨害する硫酸イオン、リン酸イオン及びクエン酸イオンをマスクするための金属塩として、鉛塩又はセリウム塩が適しており、溶液中の鉛イオン又はセリウムイオンがIDS酵素反応阻害物質に対して有効に機能していることが示された。
乾燥血液ろ紙を検体としてIDU及びIDSの酵素活性をMPS I病患者、MPS II病患者と正常人とで比較した。その方法は、酵素反応37℃、酵素反応時間を4時間とした以外は、実施例1に示した方法と同様である。
本実施例で使用した検体は、正常人(新生児乾燥血液ろ紙)5000例、MPS I患者1例、MPS II患者2例である。
正常人の各酵素活性の分布と各疾患患者の酵素活性を図9及び図10に示した。MPS I責任酵素であるIDUの酵素活性の正常新生児の平均酵素活性は、30.3pmol/hr/disk、MPS II責任酵素であるIDSの酵素活性の正常新生児の平均酵素活性は、82.9pmol/hr/diskであり、各疾患患者の酵素活性は、明らかに正常人の酵素活性分布より低い結果となった。従って、本発明の測定により、1枚の乾燥血液ろ紙を用いて、2種類の酵素の活性を同時に測定することにより、迅速な2疾患のマススクリーニング検査が可能となることが示された。
本発明による測定方法は、新生児マススクリーニング検査等において利用可能である。

Claims (25)

  1. 1枚の乾燥血液ろ紙から複数のライソゾーム病責任酵素活性を迅速に測定する、ライソゾーム病責任酵素の迅速マススクリーニング検査方法であって、該責任酵素がα-L-Iduronidase(IDU)及びIduronate-2-sulfatase(IDS)であり、以下の工程を含む方法:
    (1)乾燥血液ろ紙から共通抽出液を用いて血液試料を抽出する工程、ここで、共通抽出液は、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液であり、界面活性剤と0.02%〜0.1%のアジ化ナトリウムを含む、
    (2)抽出した血液試料に合成基質を含む基質液を添加して酵素反応を行わせ、酵素反応の停止を、酵素反応溶液にグリシンを含むpH10〜11の共通反応停止液を添加することにより行う工程、
    (3)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する工程、ここで蛍光測定の測定波長が、励起波長365〜375nm、検出波長460〜470nmである。
  2. 前記界面活性剤がTritonX-100であり、0.05%〜0.5%で含まれる、請求項に記載の方法。
  3. 前記共通抽出液に0.05%〜0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)が含まれる、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記基質液が、(i)塩化カリウム及び4-Methylumbelliferyl合成基質を含む緩衝液並びに(ii)Iduronidase及び4-Methylumbelliferyl合成基質を含む緩衝液の組み合わせである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記(i)における4-Methyumbelliferyl合成基質が、4-Methylumbelliferyl α-L-Idopyranosiduronic Acid, Sodium Saltであり、0.1mM〜3mMで含まれる、請求項に記載の方法。
  6. 前記(i)における基質液のpHが3〜4である、請求項又はに記載の方法。
  7. 前記(i)における基質液の緩衝液が還元作用を有する、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記緩衝液が、ギ酸ナトリウム緩衝液である、請求項に記載の方法。
  9. 前記(i)における基質液に、0.1mM〜1mMのDithiothreitol(DTT)が含まれる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記(i)における基質液に、0.01%〜0.1%のPolyoxyethyleneglycol Dodecyl Ether(Brij-35)が含まれる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記(i)における基質液に、1μg/mL〜20μg/mLのD-Saccharic acid 1,4-lactoneが類似酵素阻害剤として含まれる、請求項から10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 前記(ii)におけるIduronidaseが、遺伝子組換え技術により作製したIduronidaseであり、0.1μg/mL〜2μg/mLで含まれる、請求項に記載の方法。
  13. 前記(ii)における4-methylumbelliferyl合成基質が、4-Methylumbelliferyl-a-L-Idopyranosiduronic Acid-2-Sulfate, Sodium Saltであり、0.1mM〜3mMで含まれる、請求項又は12に記載の方法。
  14. 前記(ii)における基質液のpHが4〜5である、請求項12又は13に記載の方法。
  15. 前記(ii)における基質液の緩衝液が、酢酸ナトリウム緩衝液である請求項又は12から14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 前記(ii)における基質液に10mM〜30mMの酢酸鉛又は2〜20mMの酢酸セリウムが含まれる、請求項又は12から15のいずれか一項に記載の方法
  17. 前記酵素反応を、25〜45℃の温度で行った後、前記共通反応停止液を添加する、請求項に記載の方法。
  18. 前記酵素反応を2〜4時間で行う、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法
  19. 1枚の乾燥血液ろ紙から複数のライソゾーム病責任酵素を同時に抽出する方法であって、共通抽出液を用いることを含み、該責任酵素がalpha-L-Iduronidase(IDU)及びIduronate-2-sulfatase(IDS)であり、共通抽出液が、リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液であり、界面活性剤と0.02%〜0.1%のアジ化ナトリウムを含む、方法
  20. 前記界面活性剤がTronX-100であり、0.05%〜0.5%で含まれる、請求項19に記載の方法。
  21. 前記共通抽出液に0.05%〜0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)が含まれる、請求項19又は20に記載の方法。
  22. 下記を含む、請求項1に記載の検査方法に使用するためのキット:
    (1)乾燥血液ろ紙、
    (2)リン酸イオン及びクエン酸イオンを含まない緩衝液であって、界面活性剤と0.02%〜0.1%のアジ化ナトリウムを含む、共通抽出液、
    (3)合成基質を含む基質液、
    (4)酵素反応溶液にグリシンを含むpH10〜11の共通反応停止液、及び
    (5)酵素反応により得られた生成物を蛍光測定する手段。
  23. 前記共通抽出液が、0.1%BSA、0.1%TrtionX-100及び0.05%アジ化ナトリウムを含む精製水である、請求項22に記載のキット。
  24. 前記合成基質を含む基質液が、MPS I基質液とMPS II基質液との組み合わせであり、MPS I基質液が、0.6mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic acid,sodium salt、5μg/mL D-Saccharic acid 1,4-lactone、0.05%Birij-35、50mM KCl及び0.25mM DTTを含むpH3〜4の100mMギ酸ナトリウム緩衝液、MPS II基質液が、0.25mM 4-methylumbelliferyl-α-L-Idopyranosiduronic Acid -2-sulfate, Sodium Salt (4MU-IDS)、1μg/mL遺伝子組換えIduronidase及び20mM酢酸鉛又は2〜20mMの酢酸セリウムを含むpH4.5の50mM酢酸ナトリウム緩衝液である、請求項22又は23に記載のキット。
  25. 前記共通反応停止液が、300mMグリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)である、請求項22から24のいずれか一項に記載のキット。
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