JP7060235B2 - 変異型イズロン酸-2-スルファターゼの機能回復薬剤のスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
本発明は、変異型イズロン酸-2-スルファターゼの機能回復薬のスクリーニング方法に関し、特に変異型イズロン酸-2-スルファターゼの機能回復機序に基づいたスクリーニング方法に関する。
ムコ多糖症は、リソソーム内の加水分解酵素の欠損又は異常によりグリコサミノグリカンが蓄積するリソソーム病の一種であり、日本では特定疾患に指定されている。ムコ多糖症はI型~IX型の病型に分けられているが、このうちII型はハンター病ともいわれ、その患者数は日本におけるムコ多糖症患者の約半数を占めている。ハンター病の大半は、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)遺伝子の変異が原因である。IDSの遺伝子変異によりグリコサミノグリカン分解活性(酵素活性)が低下又は消失することでグリコサミノグリカンが体内に異常に蓄積して疾患が発症する。ハンター病は、1~2歳ごろから特徴的な身体機能低下や異常(特徴的な顔貌、骨変化、関節の可動性低下)が観察されはじめ、精神発達遅滞も伴う。現在のところ、ハンター病の治療は、骨髄移植か酵素補充療法による対症療法のみが選択肢となっている。
上記ハンター病の酵素補充療法をより効果的にするための方法として、特許文献1には酵素活性が向上した組換えIDSタンパク質を製造する方法が開示されている。特許文献1では、上記方法により製造されたIDSタンパク質は、酵素活性が高いためハンター病の治療に特に有用であるとしている。
しかしながら、特許文献1に開示の方法により製造されたIDSタンパク質をハンター病患者に用いるとしても、結局は従来と同様に酵素補充療法であり、根本的な治療とはならない。根本治療を実現するには、患者内における変異型IDSのグリコサミノグリカン加水分解活性を回復させることができる薬物が求められる。
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハンター病の治療薬を開発するために、患者内における変異型IDSのグリコサミノグリカン加水分解活性を回復する薬物をスクリーニングできるようにすることにある。
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、通常の野生型IDSは小胞体内で折り畳まれた後、ゴルジ体で活性化フォームに変換されて、最終的にリソソームに運ばれ、一方、変異型IDSは小胞体内で構造異常な分子として認識され、小胞体関連分解(ERAD)によって速やかに分解を受けていることを見出した。さらに、変異型IDSは、ERADから回避させることによりリソソームにまで移送されるようになり、そのグリコサミノグリカン分解酵素活性が回復することも見出した。これらにより、変異型IDSをERADから回避させて、小胞体からリソソームにまで移送させることができる薬物は、IDSのグリコサミノグリカン分解活性を回復させてムコ多糖症の治療に効果を発揮できると考えられる。以上の知見に基づいて、本発明者らは本発明に係る以下のスクリーニング方法を構築した。
本発明に係るスクリーニング方法は、細胞に変異型イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を発現させるステップと、前記IDSを第1蛍光標識するステップと、前記細胞内のリソソームを第2蛍光標識するステップと、前記細胞に候補薬剤を処理するステップと、前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するステップとを含むことを特徴とする変異型IDSの機能回復薬剤のスクリーニング方法である。
本発明に係るスクリーニング方法によると、変異型IDSが候補薬剤の作用によって、ERADの影響を受けずにリソソームにまで送達されたか否かを、第1蛍光標識と第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するといった簡便な方法で確認することができる。このため、本発明に係るスクリーニング方法は、変異型IDSをリソソームに送達して、グリコサミノグリカンを分解できるように作用する薬剤、すなわち変異型IDSの機能回復薬剤のスクリーニング方法として極めて有用である。その結果、本発明に係るスクリーニング方法は、ハンター病の治療薬剤のスクリーニング方法として有用である。
本発明に係るスクリーニング方法は、前記細胞に前記第1蛍光標識された前記変異型IDSを発現することによって、前記変異型IDSを発現させるステップと前記変異型IDSを第1蛍光標識するステップとを同時に行うことが好ましい。
このようにすると、1つの工程を省略できるため本発明に係るスクリーニング方法をより簡便にすることができる。但し、このような方法の他に、蛍光標識されていないIDSを細胞に発現させた後に、抗IDS抗体を用いてIDSを第1蛍光標識しても構わない。
本発明に係るスクリーニング方法は、前記リソソームを第2蛍光標識するステップにおいて、前記細胞に抗リソソームマーカータンパク質抗体を処理することが好ましい。
このようにすると、リソソームに発現するリソソームマーカータンパク質を標識できるため、簡便に、細胞内のリソソームを第2蛍光標識することができる。
本発明に係るスクリーニング方法は、前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するステップにおいて、細胞イメージング装置を用いて前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価することが好ましい。
このようにすると、簡便に、第1蛍光標識と第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価することができる。
本発明に係るスクリーニング方法は、前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するステップにおいて、細胞当たりの前記オーバーラップする面積を測定することにより評価することが好ましい。
このようにすると、候補薬剤による変異型IDSのリソソームへの移送効果を定量的に評価することが可能となる。
本発明に係るスクリーニング方法によると、変異型IDSがERADの影響を受けずにリソソームにまで移行できるようにする薬剤のスクリーニングに極めて有用である。また、その結果、本発明に係るスクリーニング方法は、ハンター病の治療薬剤のスクリーニングとしても有用である。
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
本発明は、変異型IDSの機能回復薬剤のスクリーニング方法である。具体的には、細胞に変異型イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を発現させるステップと、変異型IDSを第1蛍光標識するステップと、細胞内のリソソームを第2蛍光標識するステップと、細胞に候補薬剤を処理するステップと、第1蛍光標識と第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するステップとを含むスクリーニング方法である。
IDS(野生型)は、グリコサミノグリカンを基質とする酵素であり、図1に示すように、細胞内の小胞体で合成された後にゴルジ体で活性化フォームに変換され、リソソームに移送される。そして、リソソームにおいて、移送されたIDSがグリコサミノグリカンを分解する。グリコサミノグリカンは、硫酸基が付加したアミノ糖とウロン酸との繰り返し構造からなり、IDSは、特にグリコサミノグリカンのうちヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の硫酸基を切断することにより分解する。
一方、変異型IDSは、野生型IDSと比較して特定のアミノ酸位置においてアミノ酸置換(例えばA85T、P86L、S333L、R468Q等)が生じており、上記野生型IDSのようなグリコサミノグリカンを分解する作用が小さい又は示さないことが知られている。その原因について、本明細書の実施例においても説明するが、本発明者らは、変異型IDSは、小胞体においてERADによって速やかに分解を受けていることを見出した(図1を参照)。すなわち、変異型IDSはリソソームにまで移送されないため、結果として、変異型IDSはリソソームにおけるグリコサミノグリカンの分解を行うことができない。その一方で、本発明者らは当該変異型IDSがリソソームにまで移送されれば、変異型IDSがグリコサミノグリカンに作用して、分解できることも見出した。すなわち、変異型IDSのERADによる分解を阻害して、リソソームへ移送させることができる薬剤を発見することが、ハンター病の治療薬の開発につながると言える。
上記知見に基づいて、変異型IDSのリソソームへの移送の可否を基準としたスクリーニング系を構築し、上記本発明を完成した。本発明は、上記の通り、細胞内に発現され、第1蛍光標識された変異型IDSが、当該細胞に対する候補薬剤処理によってリソソームに移送されるか否かを評価するものである。そのために、リソソームを第2蛍光標識して、上記第1蛍光標識と第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量を評価する。
本発明において、用いられる細胞としては種々の細胞を用いることができ、以下のものに限られないが、例えばHeLa細胞等の通常用いられるヒト由来の種々の株化細胞を用いることができる。また、細胞内への変異型IDSの発現は、例えば通常用いられる周知の方法により変異型IDSがコードされた核酸分子を発現プラスミド等に導入し、当該プラスミドを細胞内に導入することにより行うことができる。また、変異型IDSを第1蛍光標識するためには、例えば商業的に入手可能な抗IDS抗体及びGFP等の蛍光標識された二次抗体を用いた免疫染色法を利用することができるが、これに限らず、本分野において通常用いられる他の方法を用いることが可能である。さらに、第1蛍光標識のためのGFP等の蛍光タンパク質が融合された変異型IDSを細胞内に発現させることにより、別途、変異型IDSを第1蛍光標識することを省略してもよい。
また、リソソームを第2蛍光標識する方法としては、LAMP1、LAMP2、CTSD等のリソソームマーカーを認識する抗体等の結合分子を利用してリソソームを第2蛍光標識することができる。具体的には、抗LAMP2抗体を一次抗体として用い、当該一次抗体を認識する蛍光標識二次抗体として用いた免疫染色によりリソソームを第2蛍光標識することができる。但し、この方法に限られず、本分野において通常用いられる他の方法を用いることも可能である。なお、第1蛍光標識と第2蛍光標識とのオーバーラップを検知できるようにするために、第1蛍光標識と第2蛍光標識とは異なる色の蛍光標識が用いられる。
本発明において、第1蛍光標識と第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量は、共焦点レーザ顕微鏡等の細胞内の蛍光標識の局在を検出できる装置を用いることにより評価できる。特に、本発明では短時間で多数の候補薬剤を評価するために、多検体の細胞イメージングを可能とするOpera Phenix(パーキンエルマー社)のようなハイスループット細胞イメージング装置を用いることが好ましい。
以下に、本発明に係る変異型IDSの機能回復薬剤のスクリーニング方法について詳細に説明するための実施例を示す。
まず、野生型IDSと変異型IDSとの細胞内局在及び酵素活性を比較した。そのための試験及び結果を以下に示す。なお、以下に示す試験において、変異型IDSとしては、85番目のアミノ酸がアラニンからトレオニンに置換された変異型IDS(A85T)を用いた。HeLa細胞に野生型IDS及び変異型IDSをそれぞれ発現させるために、具体的に、野生型IDSのオープンリーディングフレーム(配列番号1)あるいは変異型IDSのオープンリーディングフレーム(配列番号2)をpCDNA3.1+ベクター(Thermo Fisher Scientific)にクローニングした。構築できたプラスミドを精製後、ScreenFect A(wako)を用いてHeLa細胞に遺伝子導入した。なお、配列番号1及び2のそれぞれの配列によって得られる野生型IDS及び変異型IDSのアミノ酸配列は、それぞれ配列表の配列番号3及び4に示される。
その後、野生型IDS又は変異型IDSが発現されたHeLa細胞に対して、IDS、小胞体マーカーであるCalnexin、及びリソソームマーカーであるLAMP2について免疫染色を行った。具体的に、HeLa細胞に野生型IDSあるいは変異型IDSを導入した72時間後に4%PFAで10分固定しメタノールでpermeabilize処理を行った。5%BSAで30分間ブロッキングを行った後、goatIgG anti IDS抗体(R & D systems)とオルガネラマーカーであるmouse IgGanti calnexin抗体(小胞体マーカー)(EMD Millipore)、mouse IgG anti Lamp2抗体(リソソームマーカー)(BD Biosciences)で一次抗体反応を行った。二次抗体はgoat IgG Alexa Fluor 488、mouseIgG Alexa Fluor 568(Invitrogen)を用い蛍光シグナルを観察した。
その結果を図2に示す。図2に示すように、野生型IDSでは、IDSの赤色のシグナルとCalnexinの緑色のシグナルとはほとんど重なることはなかったが、IDSの赤色のシグナルとLAMP2の緑色のシグナルとは広い範囲で重なって黄色のシグナルが認められた(図2の野生型IDSのMerge)。これに対して、変異型IDSでは、IDSの赤色のシグナルとCalnexinの緑色のシグナルとは広い範囲でそれらのシグナルが重なって黄色のシグナルが認められたが、IDSの赤色のシグナルとLAMP2の緑色のシグナルとはほとんど重ならなかった(図2の変異型IDSのMerge)。以上の結果から、野生型IDSはリソソームへ移送されるが、変異型IDSはリソソームに移送されず、小胞体に局在することが確認された。
次に、野生型IDS及び変異型IDSの細胞内における分解について以下の通り検討した。まず、上記試験と同様にHeLa細胞に対して野生型IDS及び変異型IDSのいずれかを発現させ、プロテアソームインヒビターであるMG132を前処理せずに又は前処理し、その3時間後にタンパク質翻訳抑制剤であるcycloheximide(CHX)50μg/mlで処理した0時間、6時間、12時間及び24時間後の細胞内における野生型IDS及び変異型IDSの量をウェスタンブロット法により評価した。具体的に、上記プラスミドを用いて、HeLa細胞に野生型IDSあるいは変異型IDSをScreenFectA(wako)を用い発現させた。遺伝子導入から45時間後にMG132を50μMの濃度で処理した。遺伝子導入後48時間後にCHX50μg/mlを加え、0、6、12、24時間でサンプル回収した。その後、10μg量のサンプルを用いSDS-PAGEで電気泳動を行った。mouseIgG anti IDS抗体(R & D systems)で一次抗体反応を行い、二次抗体としてmouseIgG-HRP conjugated抗体(Jackson)を用いIDSを検出した。
その結果を図3に示す。図3に示すように、野生型IDSでは、MG132を処理した細胞の方がMG132を処理していない細胞と比較してIDS量の低下が抑えられているが、いずれの場合も時間の経過と共にIDS量の緩やかな減少が見られた。一方、変異型IDSでは、野生型IDSよりもその量が急速に低下し、MG132処理により、その低下の遅延が認められた。これらの結果から、変異型IDSは、細胞内においてプロテアソームによって、より具体的には、小胞体におけるユビキチン-プロテアソーム分解経路である小胞体関連分解によって急速に分解されていることが示唆された。
次に、野生型IDSと変異型IDSとの酵素活性を比較した。そのために、上記試験と同様にHeLa細胞に対して野生型IDS及び変異型IDSのいずれかを発現させ、グリコサミノグリカンに対する酵素活性を測定した。具体的に、上記プラスミドを用いてHeLa細胞に野生型IDSあるいは変異型IDSをScreenFectA(wako)を用い発現させた。その72時間後に細胞回収し超純水に溶かして超音波処理を行った後に、タンパク質を抽出し、タンパク質量10μg/10μlに調整した。10μgのタンパク質と人工基質である1.25mMの4-methylumbelliferylalpha-iduronide-2-sulfate (MU-αIdu-2S) (Toronto Research Chemicals)を含む20μlのBuffer(0.1 M Na-acetate buffer (pH5.0), containing 10 mM lead-acetate and 0.02%sodium azide)とを混合し37℃で4時間反応した。その後250ng/10μLのpurifiedrecombinant human IDUA (R&D systems)及びMcllvain’s buffer(pH4.5)(0.4 M Na-phosphate containing 0.2 M citrate)40μlを加えさらに24時間、37℃で反応させた。反応停止後、光蛍光光度計を用い355nmで励起し460nmの蛍光波長を検出し酵素活性測定を行った。
その結果を図4に示す。図4に示すように、野生型IDSと比較して変異型IDSの酵素活性は著しく低いことが明らかとなった。
以上の結果から、図1に示したように、野生型IDSは、リソソームに移送されて、グリコサミノグリカンを分解することができるが、変異型IDSは、小胞体においてERADによって速やかに分解を受け、また、その酵素活性自体も野生型IDSと比較して極めて低いことが明らかとなった。
次に、変異型IDSの分解を阻害することで生じる変異型IDSの細胞内局在及びその酵素活性に対する影響について検討した。そのためにまず、ユビキチン-プロテアソーム経路による変異型IDSの分解に対して、種々のERAD関連ユビキチンE3リガーゼ(HRD1、RNF5、RNF145、RNF185、AMFR、MARCH6、TMRM129)に対するsiRNAを用いて、その分解が阻害できるか評価した。具体的に、HeLa細胞に上記野生型IDSあるいは変異型IDS発現ベクターとともにnon-targetingsiRNA(Thermo Fisher Scientific)、又は上記ERAD関連ユビキチンE3リガーゼ(HRD1、RNF5、RNF145、RNF185、AMFR、MARCH6、TMRM129)に対するsiRNAとしてのsiRNAtargeting for HRD1(Dharmcon. Lafayette)、RNF5(Thermo Fisher Scientific)、RNF145 (ThermoFisher Scientific)、RNF185(Thermo Fisher Scientific)、AMFR (Thermo Fisher Scientific)、MARCH6(ThermoFisher Scientific)、TMEM129 (Thermo Fisher Scientific)を、ScreenFectA(wako)を用いトランスフェクションした。遺伝子導入後72時間後にサンプル回収し、10μg量のサンプルを用いSDS-PAGEを行った。mouseIgG anti IDS抗体(R & D systems)で一次抗体反応を行い、二次抗体としてmouseIgG-HRP conjugated抗体(Jackson)を用いてIDSを検出した。
その結果を図5に示す。図5に示すように、ERAD関連ユビキチンE3リガーゼに対するsiRNAを処理していないcontrolと比較して、HRD1に対するsiRNAで処理した場合は、IDSのタンパク質量が顕著に増加した。他のERAD関連ユビキチンE3リガーゼに対するsiRNAを用いた場合では、顕著な増加は認められなかった。従って、変異型IDSのERADの阻害のためにHRD1のsiRNAが有効であることが明らかとなった。
そこで、次に、HRD1のsiRNAを用いて変異型IDSの分解を抑制した際の変異型IDSの細胞内局在について評価した。そのために、上記試験と同様にHeLa細胞に変異型IDSを発現させ、HRD1に対するsiRNAを導入し、その72時間後に上記と同様にIDS及びLAMP2について免疫染色を行った。具体的に、HeLa細胞に上記プラスミドを用いてIDSとともにcontrolsiRNA(Dharmcon. Lafayett)もしくはsiHRD1(Dharmcon.Lafayett)をScreenFect A(wako)を用いトランスフェクションした。遺伝子導入して72時間後に4%PFAで10分固定しメタノールでpermeabilize処理を行った。5%BSAで30分間ブロッキングを行った後、goatIgG anti IDS抗体(R & D systems)とオルガネラマーカーであるmouse IgGanti Lamp2抗体(リソソームマーカー)(BD Biosciences)で一次抗体反応を行った。二次抗体はgoatIgG Alexa Fluor 488、mouse IgG Alexa Fluor 568(Invitrogen)を用い蛍光シグナルを観察した。
その結果を図6に示す。図6に示すように、HRD1に対するsiRNAを導入していないcontrolと比較して、HRD1に対するsiRNAを導入して変異型IDSの分解を抑制した場合、IDSのシグナルとLAMP2のシグナルとが共局在している領域が有意に増大した。すなわち、変異型IDSの分解を抑制することにより、変異型IDSはリソソームに移送されることが示唆された。
次に、上記試験と同様にHRD1のsiRNAを用いて変異型IDSの分解を抑制した場合における変異型IDSの酵素活性について評価した。そのために、上記試験と同様にHeLa細胞に変異型IDSを発現させ、HRD1に対するsiRNAを導入し、その72時間後にその酵素活性を測定した。具体的に、HeLa細胞に上記プラスミドを用いてIDSとともにcontrolsiRNA(Dharmcon. Lafayett)もしくはsiHRD1(Dharmcon.Lafayett)をScreenFect A(wako)を用いトランスフェクションした。72時間後に細胞回収し超純水で細胞をLysisSonication行いタンパク質を抽出し、タンパク質量10μg/10μlに調整した。10μgのタンパク質と人工基質である1.25mMの4-methylumbelliferylalpha-iduronide-2-sulfate (MU-αIdu-2S) (Toronto Research Chemicals)を含む20μlのBuffer(0.1 M Na-acetate buffer (pH5.0), containing 10 mM lead-acetate and0.02% sodium azide)とを混合し37℃で4時間反応した。その後250ng/10μLpurified recombinant human IDUA (R&D systems)及びMcllvain’s buffer pH 4.5 (0.4 M Na-phosphate containing 0.2 M citrate)40μlを加えさらに24時間、37℃で反応させた。反応停止後、光蛍光光度計を用い355nmで励起し460nmの蛍光波長を検出し酵素活性測定を行った。
その結果を図7に示す。図7に示すように、HRD1に対するsiRNAを導入していないcontrolと比較して、HRD1に対するsiRNAを導入して変異型IDSの分解を抑制した場合、変異型IDSの酵素活性が有意に上昇した。すなわち、変異型IDSの低減した酵素活性は、その分解を抑制することにより回復できることが示唆された。
以上の結果から、図8に示すように、細胞に変異型IDSを発現し、その変異型IDS及びリソソームを蛍光標識した上で、所定の候補薬剤を細胞に処理し、リソソームと変異型IDSとが共局在が認められるか否かを評価することによって、変異型IDSの機能回復薬剤をスクリーニングできることが期待される。特に、Opera Phenix(パーキンエルマー社)のようなハイスループット細胞イメージング装置を用いることによってのハイスループットスクリーニングも可能と考えられる。
そこで、次に、図8に示すようなスクリーニング系についての可能性を検証した。まず、コントロール試験として、上記図2や図6の試験と同様に、HeLa細胞に上記プラスミドを用いて野生型IDS又は変異型IDSを発現させてIDS及びLAMP2について免疫染色を行った。当該細胞について、Opera Phenixを用いて細胞全体の面積のうち、LAMP2シグナルとIDSシグナルとが共局在する領域(二重陽性領域の面積)の割合を算出した。その結果、図9に示すように、野生型IDSと比較して変異型IDSは、LAMP2とのオーバーラップ領域は顕著に小さかった。
次に、候補薬剤の代わりに、上述の通り変異型IDSをリソソームにまで移送して酵素活性を回復できるHRD1に対するsiRNAである上記siRNAtargeting for HRD1(Dharmcon. Lafayette)を用いて本発明に係るスクリーニング方法を行った。そのために、上記図2や図6の試験と同様に、HeLa細胞に上記プラスミドを用いて変異型IDSを発現させて、細胞にHRD1に対する上記siRNAを処理し、IDS及びLAMP2について免疫染色を行った。そして、当該細胞について、Opera Phenixを用いて細胞全体の面積のうち、LAMP2シグナルとIDSシグナルとが共局在する領域(二重陽性領域の面積)の割合を算出した。その結果、図10に示すように、HRD1に対するsiRNAを処理していないコントロールと比較して、HRD1に対するsiRNAを処理した場合は、変異型IDSは、LAMP2とのオーバーラップ領域が有意に増大した。すなわち、変異型IDSのリソソームへの移送が促進された。
以上の結果から、本発明に係るスクリーニング方法によると、変異型IDSをリソソームへ移送させて酵素活性を回復させることができる候補薬剤を簡便にスクリーニングすることが可能となる。従って、本発明に係るスクリーニング方法を用いることにより、ハンター病の治療薬の開発に極めて有用となる。
Claims (5)
- 細胞に変異型イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を発現させるステップと、
前記変異型IDSを第1蛍光標識するステップと、
前記細胞内のリソソームを第2蛍光標識するステップと、
前記細胞に候補薬剤を処理するステップと、
前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するステップとを含むことを特徴とする変異型IDSの機能回復薬剤のスクリーニング方法。 - 前記細胞に前記第1蛍光標識された前記変異型IDSを発現することによって、前記変異型IDSを発現させるステップと前記変異型IDSを第1蛍光標識するステップとを同時に行うことを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
- 前記リソソームを第2蛍光標識するステップにおいて、前記細胞に抗リソソームマーカータンパク質抗体を処理することを特徴とする請求項1又は2に記載のスクリーニング方法
- 前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するステップにおいて、細胞イメージング装置を用いて前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 前記第1蛍光標識と前記第2蛍光標識とのオーバーラップの有無又はその量について評価するステップにおいて、細胞当たりの前記オーバーラップする面積を測定することにより評価することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
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Non-Patent Citations (2)
Title |
---|
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Also Published As
Publication number | Publication date |
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