JP3575268B2 - 熱硬化性オキセタン組成物およびその硬化方法ならびにその方法により得られる硬化物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な硬化物製造用の、オキセタン環を側鎖に有する重合体とポリカルボン酸とを含む熱硬化性オキセタン組成物、該組成物の硬化方法、およびその方法により得られる新規な硬化物に関する。さらに詳しくは、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体と分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸とを含み、好ましくはこれら重合体および化合物に加えてさらに第四オニウム塩を含み、加熱することによって新規な硬化物を製造し得る熱硬化性オキセタン組成物;触媒としての第四オニウム塩の存在下または不存在下、前記熱硬化性オキセタン組成物を、無溶媒状態下では前記重合体の融点もしくは前記ポリカルボン酸の融点のいずれか低い方の温度以上、かつ300℃以下の温度に、また、反応溶媒中では50〜300℃の温度に加熱して前記重合体とポリカルボン酸とを付加反応せしめ、続いて、該付加反応により側鎖中に生成したヒドロキシメチル基と前記ポリカルボン酸とを縮合反応せしめることからなる前記熱硬化性オキセタン組成物の硬化方法;および該硬化方法によって製造される新規な硬化物に関する。
【0002】
本発明の熱硬化性オキセタン組成物は、熱または熱および第四オニウム塩触媒の作用を受けて分子間架橋による硬化反応(前記反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体とポリカルボン酸との付加反応、および、該付加反応により側鎖に生成したヒドロキシメチル基と前記ポリカルボン酸との縮合反応)を起こし、不溶不融の三次元網目構造の新規な硬化物を形成することにより、優れた機械的性質(引張強さ、硬さなど)、電気的性質(電気絶縁性など)、接着性、耐熱性、耐湿性、耐薬品性などを示すものであり、エポキシ樹脂の代替品として、塗料やコーティング剤、接着剤、電気絶縁材料、ICや超LSI封止材料、積層板およびその他の電気・電子部品、コンクリート構造物の補修、新旧コンクリートの打継、補強鋼板の接着、各種ライニングなどの土木建築用途、複合材料用途などの分野への使用が大いに期待できる。
【0003】
【従来の技術】
4員環の環状エーテル化合物であるオキセタンは、炭素−酸素間の結合が分極していることから高い反応性を示し、ルイス酸などを反応開始剤に用いたオキセタンの開環重合(S.Inoue and T.Aida,Ring Opening Polymerization,K.J.Ivin and T.Saegusa,Eds.,Elsevier,London,1984,Vol.1,pp.185〜298 など参照)や、トリアルキルアルミニウム−水反応生成物を触媒として用いたオキシメチルオキセタンのトリメチルシリルエーテルの開環重合(特開平2−29429号公報参照)などが報告されている。
【0004】
また最近では、カチオン重合におけるオキセタンの高い反応性を利用し、カチオン性光重合開始剤の存在下での光カチオン重合も報告されている。例えば、特開平6−16804号公報には、下記式(II)
【0005】
【化4】
(式中、R3 は、水素原子、フッ素原子、1価の炭化水素基、1価のフッ素置換炭化水素基などであり、R4 は、線状または分岐状アルキレン基、線状または分岐状ポリ(アルキレンオキシ)基、ケイ素含有基、芳香族環含有炭化水素基などの2〜4価の多価基であり、Zは、酸素原子または硫黄原子であり、mは、2、3または4である)で示される3−置換オキセタンモノマーと、トリアリールスルホニウム塩などのカチオン性光重合開始剤との混合物を紫外線に暴露することを特徴とする、前記3−置換オキセタンモノマーを含む光硬化性オキセタン組成物、これらのオキセタンモノマーの硬化方法、および該硬化方法によって得られる架橋プロピルオキシポリマーが開示されている。
【0006】
しかしながら、有機化学反応のなかでオキセタン化合物の付加反応を応用した報告例をみると、オキセタン化合物とアシルクロライドとの付加反応(K.Sato,A.Kameyama and T.Nishikubo,Macromolecules,25,1198(1992)を参照)や、オキセタン化合物と活性エステルとの付加反応(T.Nishikubo and S.Kazuya,Chem. Lett.,697(1991)を参照)が報告されているにすぎない。
【0007】
そして、オキセタン化合物を用いた高分子の合成を幅広く展開することを目的として、触媒に第四オニウム塩やクラウンエーテル錯体を用いてビスオキセタン化合物とビスアシルハライドとの重付加反応について検討を行った報告も幾つかなされている(文献A「A.Kameyama,Y.Yamamoto and T.Nishikubo,J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.,31, 1639〜 1641(1993)」および文献B「A.Kameyama,Y.Yamamoto and T.Nishikubo,Macromol.Chem.Phys., 197,1147 〜1157(1996)」などを参照)。これらの報告例によれば、この重付加反応は、前記の触媒を用いると穏和な条件下で速やかに進行し、側鎖に反応性クロロメチル基を有するポリエステルが高収率で合成できることが明らかにされている。
例えば、前記文献Aには、下記式(III)
【0008】
【化5】
で示されるビス〔(3−メチル−3−オキセタニル)メチル〕テレフタレートと下記式(IV)
【0009】
【化6】
【0010】
で示されるテレフタル酸ジクロリドとを、トルエン溶媒中、触媒としてテトラn−ブチルアンモニウムブロマイドを5モル%の濃度で存在せしめ、90℃で6時間重付加反応させることによって、下記式(V)
【0011】
【化7】
【0012】
で表わされる、側鎖に反応性クロロメチル基を有するポリエステルが80%の収率で得られることが開示されている。
【0013】
一方、四員環化合物であるオキセタンとカルボン酸との付加反応、特にこれを用いた高分子の合成に関して、本出願人は、分子中に1〜4個のオキセタン環を有するオキセタン化合物と分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸と場合によりさらに触媒としての第四オニウム塩との混合物からなる熱硬化性オキセタン組成物を、無溶媒状態下では前記オキセタン化合物の融点もしくは前記ポリカルボン酸の融点のいずれか低い方の温度以上、かつ300℃以下の温度に加熱して、また、反応溶媒中では50〜300℃の温度に加熱して、前記オキセタン化合物の開環と該開環部分への前記ポリカルボン酸の付加反応、ならびに、前記オキセタン化合物中にもともと存在するかまたは前記付加反応によって生成したヒドロキシメチル基と前記ポリカルボン酸との縮合反応を同時、かつ、繰り返し進行せしめることによる硬化物の製造方法、および、該製造方法により得られる分子間架橋された三次元網目構造を有する不溶不融の新規な熱硬化物が得られることを先に報告した(特願平9−203411号明細書を参照)。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、オキセタン化合物とカルボン酸との付加反応を応用した高分子合成の更なる展開として、例えば、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体と分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸との付加反応および縮合反応の繰り返しによる三次元網目構造の熱硬化物を製造することに関する研究報告は未だ皆無であった。
本発明の目的は、優れた機械的性質、電気的性質、接着性、耐熱性、耐湿性、耐薬品性などを示すことによってエポキシ樹脂の代替品としての利用が大いに期待できる新規な硬化物製造用の、オキセタン環を側鎖に有する重合体とポリカルボン酸と場合によってはさらに第四オニウム塩とを含む熱硬化性オキセタン組成物、該組成物の硬化方法、およびその方法によって得られる新規な硬化物を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、オキセタン環の新しい反応の開発とその高分子合成への展開を目的として、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体と分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸との付加反応について鋭意検討を重ねた結果、触媒としての第四オニウム塩の存在下または不存在下に、前記重合体と前記ポリカルボン酸との混合物からなる熱硬化性オキセタン組成物を、無溶媒状態下では前記重合体の融点もしくは前記ポリカルボン酸の融点のいずれか低い方の温度以上、かつ300℃以下の温度に、また、反応溶媒中では50〜300℃の温度に加熱して、前記重合体の側鎖中に存在するオキセタン環の開環と該開環部分への前記ポリカルボン酸の付加反応、ならびに、該付加反応によって生成したヒドロキシメチル基と前記ポリカルボン酸との縮合反応を同時、かつ、繰り返して進行せしめることにより、分子間架橋された三次元網目構造を有する不溶不融の新規な熱硬化物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、請求項1に記載の第1の発明は、下記一般式(I)
【化8】
(式中、R1 は、水素原子またはメチル基を示し、R2 は、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す)で表わされる反復構造単位からなる重合体(A)の少なくとも1種と分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物(B)の少なくとも1種とからなる熱硬化性オキセタン組成物を提供することで達成できる。
請求項2に記載の第2の発明は、前記一般式(I)(式中、R1 は、水素原子またはメチル基を示し、R2 は、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す)で表わされる反復構造単位からなる重合体(A)の少なくとも1種と分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物(B)の少なくとも1種との混合物を加熱することを特徴とする硬化物の製造方法を、また請求項3に記載の第3の発明は、前記一般式(I)(式中、R1 は、水素原子またはメチル基を示し、R2 は、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す)で表わされる反復構造単位からなる重合体(A)の少なくとも1種と分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物(B)の少なくとも1種との混合物を加熱して得られる硬化物を、それぞれ、提供することで達成できる。
【0017】
請求項4に記載の第4の発明は、前記第1の発明に係わる重合体(A)の少なくとも1種および化合物(B)の少なくとも1種と、第四オニウム塩とを含んでなる熱硬化性オキセタン組成物を提供することで達成できる。
そして、請求項5に記載の第5の発明は、重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を第四オニウム塩の存在下に加熱することを特徴とする前記第2の発明に係わる硬化物の製造方法を、請求項6に記載の第6の発明は、前記第3の発明に係わる重合体(A)の少なくとも1種および化合物(B)の少なくとも1種と、第四オニウム塩との混合物を加熱して得られる硬化物を、それぞれ、提供することで達成できる。
【0018】
また、請求項7に記載の第7の発明は、重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を、無溶媒状態下、該重合体(A)の融点または該化合物(B)の融点のいずれか低い方の温度以上、かつ300℃以下の温度に加熱することを特徴とする前記第2の発明に係わる硬化物の製造方法を、請求項8に記載の第8の発明は、重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を、反応溶媒中、50〜300℃の温度に加熱することを特徴とする前記第2の発明に係わる硬化物の製造方法を、請求項9に記載の第9の発明は、重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を第四オニウム塩の存在下に加熱することを特徴とする前記第7または第8の発明に係わる硬化物の製造方法を、それぞれ、提供することで達成できる。
【0019】
さらにまた、請求項10に記載の第10の発明、請求項11に記載の第11の発明および請求項12に記載の第12の発明は、それぞれ、第四オニウム塩がテトラn−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイドおよびテトラフェニルホスホニウムアイオダイドからなる群から選ばれる第四ホスホニウム塩であることを特徴とする、前記第4の発明に係わる熱硬化性オキセタン組成物、前記第5または第9の発明に係わる硬化物の製造方法および前記第6の発明に係わる硬化物を提供することで達成できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳しく説明する。
本発明の熱硬化性オキセタン組成物は、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体(A)の少なくとも1種と、分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であるポリカルボン酸(B)の少なくとも1種との混合物、または、前記重合体(A)の少なくとも1種と前記ポリカルボン酸(B)の少なくとも1種と第四オニウム塩との混合物であり、後述する硬化方法によって本発明の新規な硬化物を製造し得るものである。
【0021】
そこでまず、本発明の熱硬化性オキセタン組成物の一成分である前記重合体(A)について述べる。
本発明に用いられる前記重合体(A)は、前述したように、前記一般式(I)(式中、R1 は、水素原子またはメチル基を示し、R2 は、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す)で表わされる反復構造単位からなる重合体、すなわち、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体である。従って、前記重合体(A)は、下記一般式(VI)
【0022】
【化9】
【0023】
(ただし式中、R1 は、前記一般式(I)におけるR1 と同じく、水素原子またはメチル基を示し、R2 は、前記一般式(I)におけるR2 と同じく、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示し、nは2〜3000、好ましくは10〜2000の整数である)で表わされる高分子化合物である。1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基およびイソヘキシル基などの直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられる。
上記の反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体(A)としては、前記一般式(VI)において、R1 およびR2 が共に水素原子であるポリ(3−オキセタニル)メチルアクリレート、R1 が水素原子で、R2 がメチル基であるポリ(3−メチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート、R1 が水素原子で、R2 がエチル基であるポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート、R1 がメチル基で、R2 が水素原子であるポリ(3−オキセタニル)メチルメタクリレート、R1 およびR2 が共にメチル基であるポリ(3−メチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートおよびR1 がメチル基で、R2 がエチル基であるポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートの使用が好ましく、これらの中でもポリ(3−メチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート、ポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート、ポリ(3−メチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートおよびポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートの使用が特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられる上述したような前記一般式(VI)で示される、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体(A)は、次のようにして製造され得る。
例えば、まず、下記一般式(VII)
【0025】
【化10】
【0026】
(ただし、式中、R5 は、前記一般式(I)におけるR2 と同じく、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す)で表わされる3−アルキル−3−ヒドロキシメチルオキセタンを、下記反応式(1)のように、パティソン(Pattison)(J.Am.Chem.Soc.,1957,79を参照)の方法により、1,3−ジオールから合成する。
【0027】
【化11】
【0028】
具体的には、前記一般式(VII)においてR5 がエチル基である3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンは、トリメチロールプロパンと炭酸ジエチルから上記パティソンの方法により得られる。
【0029】
次に、上記得られた3−アルキル−3−ヒドロキシメチルオキセタンとメチル(メタ)アクリレートとから、下記反応式(2)に示す方法で、オキセタン環を側鎖に有する重合体(A)の前駆体である単量体(VIII)を合成する。
【0030】
【化12】
【0031】
ただし、上記反応式(2)において、R5 は、前記一般式(VII)におけるR5 と同じく、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示し、R6 は、前記一般式(I)におけるR1 と同じく、水素原子またはメチル基を示す。
【0032】
続いて、ラジカル重合開始剤を使用して、上記単量体(VIII)をラジカル重合することによって、前記一般式(VI)で表わされる反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体(A)が得られる。
重合条件は、通常用いられるラジカル重合条件で良く、40〜120℃、好ましくは50〜90℃の温度で、1〜20時間、好ましくは3〜8時間重合させればよい。
また、ラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物類、あるいは例えば、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−〔(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ〕ホルムアミド、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチル−バレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−アセトキシプロパン)、2,2’−アゾビス(2−アセトキシブタン)などのアゾ系化合物が挙げられ、これらは単独または2種以上組み合わせて用いられる。なお、これらラジカル重合開始剤は、重合条件に応じ所望のものを適宜選択できる。
【0033】
本発明では、前記熱硬化性オキセタン組成物を構成する、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体(A)として、前述したような前記一般式(I)で表わされる反復構造単位からなる重合体(A)の具体例から選ばれる1種類が単独使用されてもよく、また、これらの2種類以上が併用されたものであってもよい。
【0034】
一方、本発明の熱硬化性オキセタン組成物のもう一つの構成成分である前記ポリカルボン酸(B)は、前述したように、分子中に2個以上、好ましくは2〜4個のカルボキシル基を有する化合物である。
分子中に2個のカルボキシル基を有する化合物であるジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸およびエイコサン二酸などの2〜20個の炭素原子を有する直鎖脂肪族飽和ジカルボン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、n−プロピルマロン酸、n−ブチルマロン酸、メチルコハク酸、エチルコハク酸および1,1,3,5−テトラメチルオクチルコハク酸などの3〜20個の炭素原子を有する分岐鎖脂肪族飽和ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、γ−メチルシトラコン酸、メサコン酸、γ−メチルメサコン酸、イタコン酸およびグルタコン酸などの直鎖または分岐鎖脂肪族不飽和ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、下記式
【0035】
【化13】
【0036】
でそれぞれ示されるメチルヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロイソフタル酸およびメチルヘキサヒドロテレフタル酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,6−ジカルボン酸、シクロヘキセン−3,4−ジカルボン酸およびシクロヘキセン−4,5−ジカルボン酸などのテトラヒドロフタル酸、シクロヘキセン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,5−ジカルボン酸およびシクロヘキセン−3,5−ジカルボン酸などのテトラヒドロイソフタル酸、シクロヘキセン−1,4−ジカルボン酸およびシクロヘキセン−3,6−ジカルボン酸などのテトラヒドロテレフタル酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,2−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,6−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−2,3−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−5,6−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサジエン−1,2−ジカルボン酸および1,4−シクロヘキサジエン−1,6−ジカルボン酸などのジヒドロフタル酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,3−ジカルボン酸および1,3−シクロヘキサジエン−3,5−ジカルボン酸などのジヒドロイソフタル酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,4−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−2,5−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサジエン−1,4−ジカルボン酸および1,4−シクロヘキサジエン−3,6−ジカルボン酸などのジヒドロテレフタル酸、下記式
【0037】
【化14】
【0038】
で示されるメチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、エンドシス−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(商品名:ナジック酸)およびメチル−エンドシス−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(商品名:メチルナジック酸)などの飽和または不飽和脂環式ジカルボン酸、下記式
【0039】
【化15】
【0040】
で表わされるクロレンディック酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、3−メチルフタル酸、3−エチルフタル酸、3−n−プロピルフタル酸、3−イソプロピルフタル酸、3−n−ブチルフタル酸、3−イソブチルフタル酸、3−sec−ブチルフタル酸および3−tert−ブチルフタル酸などの3−アルキルフタル酸、4−メチルフタル酸、4−エチルフタル酸、4−n−プロピルフタル酸、4−イソプロピルフタル酸、4−n−ブチルフタル酸、4−イソブチルフタル酸、4−sec−ブチルフタル酸および4−tert−ブチルフタル酸などの4−アルキルフタル酸、2−メチルイソフタル酸、2−エチルイソフタル酸、2−n−プロピルイソフタル酸、2−イソプロピルイソフタル酸、2−n−ブチルイソフタル酸、2−イソブチルイソフタル酸、2−sec−ブチルイソフタル酸および2−tert−ブチルイソフタル酸などの2−アルキルイソフタル酸、4−メチルイソフタル酸、4−エチルイソフタル酸、4−n−プロピルイソフタル酸、4−イソプロピルイソフタル酸、4−n−ブチルイソフタル酸、4−イソブチルイソフタル酸、4−sec−ブチルイソフタル酸および4−tert−ブチルイソフタル酸などの4−アルキルイソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−エチルイソフタル酸、5−n−プロピルイソフタル酸、5−イソプロピルイソフタル酸、5−n−ブチルイソフタル酸、5−イソブチルイソフタル酸、5−sec−ブチルイソフタル酸および5−tert−ブチルイソフタル酸などの5−アルキルイソフタル酸、メチルテレフタル酸、エチルテレフタル酸、n−プロピルテレフタル酸、イソプロピルテレフタル酸、n−ブチルテレフタル酸、イソブチルテレフタル酸、sec−ブチルテレフタル酸およびtert−ブチルテレフタル酸などのアルキルテレフタル酸、ナフタリン−1,2−ジカルボン酸、ナフタリン−1,3−ジカルボン酸、ナフタリン−1,4−ジカルボン酸、ナフタリン−1,5−ジカルボン酸、ナフタリン−1,6−ジカルボン酸、ナフタリン−1,7−ジカルボン酸、ナフタリン−1,8−ジカルボン酸、ナフタリン−2,3−ジカルボン酸、ナフタリン−2,6−ジカルボン酸、ナフタリン−2,7−ジカルボン酸、アントラセン−1,3−ジカルボン酸、アントラセン−1,4−ジカルボン酸、アントラセン−1,5−ジカルボン酸、アントラセン−1,9−ジカルボン酸、アントラセン−2,3−ジカルボン酸およびアントラセン−9,10−ジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、および、2,2’−ビス(カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどを具体的に挙げることができる。
また本発明では、ジカルボン酸として上記の他に、下記一般式(IX)
【0041】
【化16】
【0042】
(ただし、式中、R7 は、O、S、SO、SO2 、CH2 、C(CH3)2 あるいはC(CF3)2 である)で示されるジカルボン酸を挙げることができ、具体的には、前記一般式(IX)においてR7 がSO2 である4,4’−スルホニルジ安息香酸を挙げることができる。
【0043】
分子中に3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸としては、トリカルバリル酸、クエン酸、イソクエン酸およびアコニット酸などの脂肪族トリカルボン酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸およびトリメシン酸などの芳香族トリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの4〜13個の炭素原子を有する脂肪族テトラカルボン酸、下記式
【0044】
【化17】
【0045】
で示されるマレイン化メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸などの脂環式テトラカルボン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸およびベンゾフェノンテトラカルボン酸などの芳香族テトラカルボン酸、ヘキサヒドロメリト酸、ベンゼンペンタカルボン酸、および、メリト酸などを挙げることができる。
本発明においては、これらポリカルボン酸(B)の中でも、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4−メチルフタル酸、4−エチルフタル酸、ナフタリン−2,6−ジカルボン酸、トリメリト酸およびピロメリト酸などの分子中に2〜4個のカルボキシル基を有する化合物の使用が好ましい。
【0046】
ところで、本発明では、前述の反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体(A)の少なくとも1種と、前述の分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物、すなわち、ポリカルボン酸(B)の少なくとも1種との混合物を少なくとも含んでなる熱硬化性オキセタン組成物を、後述する方法で加熱することによって硬化反応を行わしめ、硬化物を製造するのである。この硬化反応は、前述したように、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応、および、該付加反応により生成したヒドロキシメチル基と前記化合物(B)との縮合反応が同時、かつ、繰り返し進行することによって達成され得る。
前記付加反応は、下記反応式(3)に示したように、前記重合体(A)の側鎖中に含まれるオキセタン環の開環と該開環部分への前記化合物(B)の付加反応によって進行するが、該反応は、前記重合体(A)中に含まれるオキセタン環1個に対して、前記化合物(B)中に含まれるカルボキシル基1個が反応する形で行われる。そして、該重合体(A)中に含まれるオキセタン環1個に対して1個の割合で側鎖にヒドロキシメチル基が生成する。
【0047】
【化18】
【0048】
一方、前記縮合反応は、下記反応式(4)に示したように、前記付加反応によって前記重合体(A)の側鎖に新たに生成したヒドロキシメチル基1個に対し、前記化合物(B)中に含まれるカルボキシル基1個が反応する形で行われる。
【0049】
【化19】
【0050】
なお、前記反応式(3)および(4)において、R1 は、前記一般式(VI)におけるR1 と同様、水素原子またはメチル基であり、R2 は、前記一般式(VI)におけるR2 と同様、水素原子または1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であり、また、nは前記一般式(VI)におけるnと同じ意味を表わす。
【0051】
以上述べたように、前記重合体(A)の側鎖中に含まれるオキセタン環1個に対し、前記付加反応および縮合反応において、それぞれ、1個のカルボキシル基が反応することになるから、前記付加反応と縮合反応が同時、かつ、繰り返し進行で行われる熱硬化性オキセタン組成物の硬化反応全体からみると、前記重合体(A)の側鎖中に含まれるオキセタン環の1個、すなわち、1当量当たり前記化合物(B)中に含まれるカルボキシル基2個、すなわち、2当量が反応することになる。
【0052】
したがって、本発明における前記重合体(A)に対する前記化合物(B)の化学量論量、すなわち、前記重合体(A)の1モル当たりに必要とされる前記化合物(B)のモル数としては、前記重合体(A)中に含まれるオキセタン環1当量に対して前記化合物(B)中に含まれるカルボキシル基が2当量となるような量である。
具体的には、前記化合物(B)が分子中に2個のカルボキシル基を有するジカルボン酸であるとき、前記重合体(A)中に含まれるオキセタン環1当量に対して前記化合物(B)1モルを使用すればよく、また、前記化合物(B)が分子中に3個のカルボキシル基を有するトリカルボン酸であるとき、前記重合体(A)中に含まれるオキセタン環1当量に対して前記化合物(B)2/3モルを、そして、前記化合物(B)が分子中に4個のカルボキシル基を有するテトラカルボン酸であるとき、前記重合体(A)中に含まれるオキセタン環1当量に対して前記化合物(B)1/2モルを使用すればよいことになるが、本発明では、前記重合体(A)に対し、上記化学量論量の0.5〜2倍量、好ましくは0.7〜1.5倍量の前記化合物(B)を使用することが望ましい。
前記化合物(B)の使用量が前記化学量論量の0.5倍より少ないと、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応が十分進行せず、その結果架橋度が低いため、優れた機械的性質、電気的性質、接着性、耐熱性、耐湿性、耐薬品性などを示す本発明の目的硬化物が得られない。また、前記化合物(B)の使用量が前記化学量論量の2倍を越えると、得られた硬化物中に前記化合物(B)が未反応のまま大量に残存することになるので好ましくない。
【0053】
すなわち、本発明の一つの態様である熱硬化性オキセタン組成物は、前述したように、前記反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体であるポリオキセタン化合物(A)の少なくとも1種と、前記分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(B)の少なくとも1種とを上述したような割合で配合してなる混合物である。
【0054】
次に、本発明のもう一つの態様である硬化方法は、上記熱硬化性オキセタン組成物を加熱し、熱硬化させることを特徴とするものであり、詳細は、以下に述べる通りである。
本発明において、前記重合体(A)中に含まれるオキセタン環の開環と該開環部分への前記ポリカルボン酸(B)の付加反応(以下単に「前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応」という)、および、前記付加反応によって側鎖に生成したヒドロキシメチル基と前記ポリカルボン酸(B)との縮合反応(以下単に「前記重合体(A)と前記化合物(B)との縮合反応」という)は、無溶媒状態下または反応溶媒中で行われる。
反応溶媒を用いる場合、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応が後述するように高温下で行われるため、本発明の反応溶媒は、高沸点であることが望ましく、さらに前記重合体(A)および/または前記化合物(B)を溶解もしくは膨潤する作用を有し、かつ、これら重合体(A)および化合物(B)と反応性を有しないものが用いられ得る。
【0055】
上記反応溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)およびヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)などのアミド化合物、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、アニソールおよびフェネトールなどのエーテル化合物、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼンおよび3,4−ジクロロトルエンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、テトラメチル尿素およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、あるいはこれらの溶媒の2種以上の混合物など、無極性もしくは極性の低い溶媒から極性の高い溶媒まで種々の溶媒を好適に用いることができるが、これらの中でもDMF、DMAC、HMPA、DMSOおよびNMPなどの使用が好ましい。
【0056】
反応溶媒の使用量は、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)を溶解もしくは膨潤するに足る量以上であればよく、使用される反応溶媒の種類はもちろんのこと、前記重合体(A)や前記化合物(B)の仕込み量、後述する触媒の種類と使用量、反応温度および反応時間などの付加反応および縮合反応の条件、さらには、これらの反応に際して、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)を反応溶媒中に溶解するのか、それとも反応溶媒で膨潤するのかにより異なるので、一概に規定することは困難である。
したがって、例えば、前記反応溶媒としてHMPA、DMSO、DMACおよびNMPなどの極性溶媒を使用する場合、反応溶媒の使用量は、前記重合体(A)の1〜10倍量(容量/重量比)が好ましい。該使用量が1倍量未満では、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)の上記極性反応溶媒への溶解が十分ではなく、反応が不均一系で進行するようになるので、均一な付加反応や縮合反応が行われず、得られる硬化物の品質にばらつきが生じることがある。一方、10倍量を越える上記極性反応溶媒を使用しても、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)を溶解もしくは膨潤して付加反応や縮合反応を均一系で進行せしめるという反応溶媒の効果はすでに達成されてしまっているので、それ以上の効果は期待できないばかりか、所望により硬化物から反応溶媒を除去・回収することが必要となる場合は、反応溶媒の反応系からの回収に必要以上のエネルギーを消費するなど、採算上好ましくない。
【0057】
また、本発明の硬化方法において、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応は、触媒としての第四オニウム塩の存在下または不存在下に行われ得る。
該触媒は、前記反応式(3)および(4)に示したような前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応による三次元網目構造を有する不溶不融の新規な硬化物の生成を促進する作用を有するものである。
【0058】
本発明の硬化方法における触媒の第四オニウム塩は、下記一般式(X)
【0059】
【化20】
【0060】
(式中、R8 〜R14は、互いに同一でも異なっていてもよい水素原子、ヒドロキシアルキル基、アルキル基、アリール基またはアルアルキル基を表わし、これらがアルキル基もしくはアルアルキル基である場合は、炭素数1〜30の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基である。M1 は、窒素原子、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表わし、M2 は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子または錫原子を表わし、そしてM3 は、ヨウ素原子を表わす。またX2 は、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシド、炭酸基、重炭酸基、リン酸二水素基および重硫酸基からなる群より選ばれる1価の陰イオンを表わす)で示される化合物である。
【0061】
具体的には、前記一般式(X)において、M1 が窒素原子である場合のアンモニウム化合物、M1 がリン原子である場合のホスホニウム化合物、M1 が砒素原子である場合のアルソニウム化合物、M1 がアンチモン原子である場合のスチボニウム化合物、M2 が酸素原子である場合のオキソニウム化合物、M2 が硫黄原子である場合のスルホニウム化合物、M2 がセレン原子である場合のセレノニウム化合物、M2 が錫原子である場合のスタンノニウム化合物、そして、M3 がヨウ素原子である場合のヨードニウム化合物などが挙げられる。
そして、上記のアンモニウム化合物の具体例として、テトラn−ブチルアンモニウムクロライド(TBAC)、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)およびテトラn−ブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)などのテトラn−ブチルアンモニウムハライド(TBAX)が挙げられる。また、上記のホスホニウム化合物の具体例としては、テトラn−ブチルホスホニウムクロライド(TBPC)、テトラn−ブチルホスホニウムブロマイド(TBPB)およびテトラn−ブチルホスホニウムアイオダイド(TBPI)などのテトラn−ブチルホスホニウムハライド(TBPX)およびテトラフェニルホスホニウムクロライド(TPPC)、テトラフェニルホスホニウムブロマイド(TPPB)およびテトラフェニルホスホニウムアイオダイド(TPPI)などのテトラフェニルホスホニウムハライド(TPPX)などが挙げられる。
【0062】
本発明の硬化方法では、上述した第四オニウム塩触媒の中でも、TBAC、TBABおよひTBAIなどのTBAX、TBPC、TBPBおよびTBPIなどのTBPX、および、TPPC、TPPBおよびTPPIなどのTPPXなどのアンモニウム化合物やホスホニウム化合物の使用が好ましく、耐熱性に優れたTBPXやTPPXなどのホスホニウム化合物の使用が特に好ましい。
なお、本発明の硬化方法においては、触媒として上記第四オニウム塩の中から選ばれる2種以上を混合して用いてもかまわない。
【0063】
前記付加反応および縮合反応に必要とされる上述の第四オニウム塩触媒の量は、前記重合体(A)や前記化合物(B)の仕込み量、無溶媒状態下で前記付加反応および縮合反応を行うか否か、反応溶媒を使用した場合は反応溶媒の種類および使用量、反応温度、反応圧力および反応時間などの付加反応および縮合反応の条件などによって異なり、一概に限定できないが、本発明の硬化方法における触媒の使用量は、前記重合体(A)に対して30モル%以下、好ましくは0.1〜20モル%が好適である。
触媒の使用量を前記重合体(A)に対して30モル%より多くしても、該触媒を多量に用いることによる好ましい反応促進効果の向上はほとんど認められないので、経済性の面からは好ましくない。なお、触媒の使用量が前記重合体(A)に対して0.1モル%未満では、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応が十分進行せずに、架橋度の高い硬化物を高収率で得ることができなくなることがある。
【0064】
したがって、本発明の一つの態様である前記熱硬化性オキセタン組成物は、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応を触媒の存在下に行う場合、前記一般式(VI)で示される、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体であるポリオキセタン化合物、すなわち、前記重合体(A)の少なくとも1種と、前記分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸、すなわち、前記化合物(B)の少なくとも1種と、触媒としての上記第四オニウム塩とを前述したような割合で配合してなる混合物でもある。
【0065】
本発明の硬化方法においては、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応の繰り返し、すなわち、硬化反応を反応溶媒中均一系で行う場合、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)を、前記反応溶媒中に溶解した状態で、あるいは、前記反応溶媒で膨潤させた状態で前記硬化反応を行う必要があり、そのためには、前記硬化反応の進行中、前記反応溶媒を液体状態に維持すべきである。一方、前記硬化反応を無溶媒状態下で行う場合は、前記硬化反応の進行中、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)を溶融状態に維持すべきである。
したがって、反応温度は、前記硬化反応を無溶媒状態下に行う場合、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)が溶融状態であるような温度範囲にあるべきであり、少なくとも、前記重合体(A)の融点または前記化合物(B)の融点のいずれか低い方の温度以上であるべきである。一方、前記硬化反応を前記反応溶媒中で行う場合には、前記重合体(A)および/または前記化合物(B)が前記反応溶媒中に溶解した状態、あるいは、前記反応溶媒で膨潤された状態となるように、少なくとも50℃以上である必要がある。
しかしながら、これらの場合、反応温度が300℃を越えると、本発明の硬化方法によって得られる硬化物の望ましくない熱分解反応を併発するようになるので、本発明の硬化反応における反応温度は、該硬化反応を無溶媒状態下で行う場合、前記重合体(A)の融点または前記化合物(B)の融点のいずれか低い方の温度以上、かつ、300℃以下の範囲であること、そして、該硬化反応を前記反応溶媒中で行う場合は、50〜300℃の範囲であることが好ましい。
【0066】
本発明の硬化方法における前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応において、反応圧力は特に制限されるものではなく、減圧、常圧および加圧のいずれの状態下においても実施可能である。しかし、加圧下で実施する場合は、製造設備に耐圧性能が要求されるし、また、減圧下で実施する場合には、減圧設備が必要になるなど、経済性の面からは常圧下で実施するのが好ましい。
しかし、前記反応溶媒中で前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応の繰り返し、すなわち、硬化反応を行う場合は、前述したように、該硬化反応の進行中、前記反応溶媒が液体状態を維持し得るような圧力条件が保持されなければならない(したがって、前記硬化反応が加圧条件下で行われる場合もあり得る)ことは言うまでもない。また、前記硬化反応は、高温である程反応速度が速いので、得られる硬化物の架橋度を高める必要がある場合、反応温度は、前述の範囲内でできるだけ高温にした方がよい。しかしながら、前記硬化反応の反応時の温度が高すぎると、反応が不均一になり、得られる硬化物の熱的性質や機械的性質などの品質に悪影響が生じたり、使用する反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体(A)、ポリカルボン酸(B)および反応溶媒などが熱的に不安定となったりする恐れがある。したがって、このような場合、反応系を減圧にして、前記反応温度を低めに維持することが好ましい。
【0067】
本発明の硬化方法における反応時間についても、前記重合体(A)および前記化合物(B)の仕込み量、無溶媒状態下で付加反応および縮合反応を行うか否か、反応溶媒を使用した場合は前記反応溶媒の種類および使用量、前記触媒の種類および使用量、ならびに、反応温度などの付加反応および縮合反応の条件によって異なるが、1〜70時間程度、好ましくは2〜50時間程度が好適である。反応時間が約1時間より短いと、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応がほとんど進行しないし、また、約70時間より長くなると、得られる硬化物が長時間の熱履歴を受けて、熱劣化による品質の低下を招く恐れがあり、いずれの場合も好ましくない。
【0068】
また、本発明の硬化方法における付加反応および縮合反応は、得られる硬化物の望ましくない酸化などによる劣化を防止するために、不活性ガス雰囲気下に行われることが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガスの他、アルゴンガスやヘリウムガスなどの希ガスが好適に使用され得る。
【0069】
そして、本発明では、前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応による硬化物の製造方法、すなわち、硬化方法は、特に限定されるものではなく、常法に従って行えばよい。例えば、所望により所定量の前記重合体(A)および前記化合物(B)の少なくとも一方を所定量の前記反応溶媒に溶解もしくは膨潤した後、これら重合体(A)および化合物(B)を必要に応じて適当な加熱装置を備えた反応容器に供給し、さらに、所望により触媒として所定量の前記第四オニウム塩を添加し、常圧、あるいは、所定の減圧または加圧下に所定温度に加熱し、所定時間反応を行えばよい。この場合、前記化合物(B)は、所定量を一度に加えることなく、適宜量に分割して加えることも可能である。また、前記第四オニウム塩触媒も、反応系に所定量を一度に添加してもよく、または、適当な回数に分割して添加してもよい。
【0070】
本発明の硬化方法では、以上のようにして、前記重合体(A)の少なくとも1種と前記化合物(B)の少なくとも1種との混合物、または、前記重合体(A)の少なくとも1種、前記化合物(B)の少なくとも1種および前記第四オニウム塩の混合物である前記熱硬化性オキセタン組成物を適切な形状の離型性のある反応容器に充填し、無溶媒状態下、あるいは前記反応溶媒中、前述した反応温度で前述した反応時間加熱することにより、例えば前記反応式(3)および(4)に示したような前記重合体(A)と前記化合物(B)との付加反応および縮合反応の繰り返し、すなわち、硬化反応を行わしめた後、空冷、水冷などの常法により常温まで冷却して得られた反応混合物を前記反応容器から取り出し、場合によっては続いて、熱風乾燥、真空乾燥および凍結乾燥などの公知の方法により100℃以下の温度で2〜16時間乾燥すればよい。これにより、本発明のもう一つの態様である三次元網目構造を有する不溶不融の新規な硬化物が成形品として得られるのである。
なお、前記重合体(A)と前記化合物(B)との硬化反応を前記反応溶媒中で行う場合は、該硬化反応の終了後、得られた反応混合物から前記反応溶媒を蒸発せしめ、次いで常温まで冷却し、場合によっては続けて前記乾燥を行うことにより、上記硬化物を得てもよいし、また、前記硬化反応の終了後、得られた反応混合物を常温まで冷却し、前記反応溶媒を含んだままの柔軟性のある硬化物として使用してもかまわない。
【0071】
本発明の熱硬化性オキセタン組成物は、使用に際し、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、公知の各種添加剤、例えば、無機充填剤、強化材、着色剤、安定剤(熱安定剤、耐候性改良剤など)、増量剤、粘度調節剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤、離型剤などを添加・混合することができる。
上記着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料などの染料、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、マイカなどの無機顔料およびカップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、フタロシアニン系などの有機顔料などが挙げられる。また、上記安定剤としては、ヒンダードフェノール系、ヒドラジン系、リン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、オキザリックアシッドアニリド系などの化合物が挙げられる。
さらにまた、上記無機充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化珪素繊維、塩基性硫酸マグネシウム繊維、ホウ素繊維、ステンレス鋼繊維、アルミニウム、チタン、銅、真鍮、マグネシウムなどの無機質および金属繊維、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、鉛、ステンレス鋼、アルミニウム、金および銀などの金属粉末、木粉、マグネシア、カルシアなどの酸化物、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、石英粉末、タルク、クレイ、各種金属の水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ホウ珪酸塩、アルミノ珪酸塩、チタン酸塩、塩基性硫酸塩、塩基性炭酸塩およびその他の塩基性塩、ガラス中空球、ガラスフレークなどのガラス材料、炭化珪素、窒化アルミ、ムライト、コージェライトなどのセラミック、およびフライアッシュやミクロシリカなどの廃棄物などが挙げられる。
【0072】
【実施例】
次に、実施例を述べて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定を受けるものではない。なお、以下の合成例および実施例において、原料の、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体であるポリオキセタン化合物(以下単に「ポリオキセタン化合物」という)、該ポリオキセタン化合物と所定のポリカルボン酸と所定の触媒とを所定の割合で混合した熱硬化性オキセタン組成物(以下単に「原料混合物」という)、および、生成物の三次元網目構造を有する硬化物(以下単に「硬化物」という)の特性は、それぞれ、下記の方法によって求めた。
【0073】
(1)ポリオキセタン化合物の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)
下記条件により、ゲルパーミエーション(GPC)法によって測定した。
GPC測定装置:東ソー(株)製HLC−8020
カラム:Shodex KF−80M,2本
溶離液:THF
濃度:0.3重量/容量%
流量:1.0ml/min
標準試料:ポリメチルメタクリレート
【0074】
(2)ポリオキセタン化合物の分子量分布(Mw/Mn)
前記第(1)項で求められた重量平均分子量(Mw)を同じく前記第(1)項で求められた数平均分子量(Mn)で除すことにより求めた。
【0075】
(3)原料混合物および硬化物の赤外線吸収スペクトル(IR)
原料混合物および硬化物について、それぞれ、(株)パーキン−エルマー製1750型フーリエ赤外分光光度計を用い、予め60℃で10時間以上減圧乾燥して水分を除いた試料1mgをKBr(Merck社製)150mgに混合し、60℃で10時間以上減圧乾燥して水分を除去した後、加圧錠剤を形成して測定した。
【0076】
(4)硬化物の溶媒溶解性
予め60℃で10時間以上減圧乾燥して水分を除いた硬化物の試料0.5gを各種溶媒20ml中に添加し、激しく攪拌した後静置し、各種溶媒への硬化物の溶解性を目視により観察した。
【0077】
また、以下の実施例において用いた試薬は、それぞれ、下記の通りである。
(a)ポリカルボン酸
アジピン酸(以下「AA」と略記)、ドデカン二酸(以下「DDA」と略記)、ヘキサヒドロフタル酸(以下「HPA」と略記)およびフタル酸(以下「PA」と略記)は、それぞれ、和光純薬工業(株)製試薬特級品を使用した。4−メチルフタル酸(以下「MPA」と略記)は、和光純薬工業(株)製試薬一級品を使用した。また、トリメリト酸(以下「TMA」と略記)は、Aldrich Chemical Company,Inc製の市販品を使用した。
【0078】
(b)触媒
テトラフェニルホスホニウムブロマイド(以下「TPPB」と略記)は、和光純薬工業(株)製試薬一級品を使用した。
【0079】
(c)溶媒
N,N−ジメチルホルムアミド(以下「DMF」と略記)、ジメチルスルホキシド(以下「DMSO」と略記)、テトラヒドロフラン(以下「THF」と略記)、クロロホルムおよびアセトンは、それぞれ、市販品を使用した。
【0080】
また、以下の実施例において用いたポリオキセタン化合物は、それぞれ、下記の方法により製造した。
合成例1
〔ポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートの合成〕
冷却管を備えた容量300mlの丸底フラスコに、窒素ガス気流下、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレート(以下「EHO−MMA」と略記);10g(54.3ミリモル)とDMF;50gとを加えて攪拌し、EHO−MMAをDMFに溶解した。
次に、上記EHO−MMAのDMF溶液にラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下「AIBN」と略記);22.7mg(0.14ミリモル、したがって、EHO−MMAに対して0.25モル%)を加えて80℃に昇温した。
続いて、この温度に保持して4時間後、得られた反応混合物を前記丸底フラスコから取り出し、メタノール中に投入したところ、沈澱物が析出した。そこで、この沈澱物をジオキサン−メタノールでの再沈澱により精製後、濾過・回収し、50℃で減圧乾燥することによって、ポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレート(以下「polyEHO−MMA」と略記)が収率50%で得られた。
上記得られたpolyEHO−MMAは、Mn=3.3×104 、Mw=7.0×104 およびMw/Mn=2.1の重合体であった。
なお、EHO−MMAは、前記化学反応式(2)に示した如く、適当なエステル化触媒の存在下に、メチルメタクリレート(MMA)を3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(以下「EHO」と略記)でエステル交換することによって得ることができる。
【0081】
合成例2
〔ポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレートの合成〕
ポリ(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート(以下「polyEHO−MA」と略記)は、基本的には、前記polyEHO−MMAと同様の方法で合成することができる。すなわち、冷却管を備えた容量300mlの丸底フラスコに、窒素ガス気流下、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート(以下「EHO−MA」と略記);10g(58.7ミリモル)とDMF;50gとを加えて攪拌し、EHO−MAをDMFに溶解した。
次に、上記EHO−MAのDMF溶液にラジカル重合開始剤としてのAIBN;24.1mg(0.15ミリモル、したがって、EHO−MAに対して0.25モル%)を加えて80℃に昇温した。
続いて、この温度に保持して4時間後、得られた反応混合物を前記丸底フラスコから取り出し、メタノール中に投入したところ、沈澱物が析出した。そこで、この沈澱物をジオキサン−メタノールでの再沈澱により精製後、濾過・回収し、50℃で減圧乾燥することによって、polyEHO−MAが収率57%で得られた。
上記得られたpolyEHO−MAは、Mn=2.8×104 、Mw=6.4×104 およびMw/Mn=2.3の重合体であった。
なお、EHO−MAは、前記化学反応式(2)に示した如く、適当なエステル化触媒の存在下に、メチルアクリレート(MA)をEHOでエステル交換することによって得ることができる。
【0082】
実施例1
表1に示したように、合成例1で得られたpolyEHO−MMA;1.0g(Mn=3.3×104 、オキセタン環の当量数:5.4)とAA;0.80g(5.4ミリモル)を予め粉末化して、内容積30mlのキャップ付ガラス容器(スクリュー管瓶)に仕込み、窒素ガスで置換後密栓した。したがって、ポリカルボン酸のモル数に対するポリオキセタン化合物中のオキセタン環の当量数の比として表わされる原料の仕込み比(以下単に「原料の仕込み比(A)」という)は、polyEHO−MMA/AA=1/1であった。そこで、170℃の恒温槽中に前記ガラス容器を浸漬してこれら原料を加熱溶融させた。
続いて、前記ガラス容器を170℃の恒温槽中で10時間保持した。所定時間経過後、前記ガラス容器を恒温槽から取り出し、次いで反応物を常温まで冷却後、前記ガラス容器から取り出して硬化状態を観察した。反応物は、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MMAとAAとの付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0083】
実施例2
触媒としてのTPPB;0.23g(0.54ミリモル、原料のpolyEHO−MMA中のオキセタン環1当量当たり0.1モル)を添加したこと以外は、実施例1と全く同様の操作を行った。したがって、ポリオキセタン化合物中のオキセタン環の当量数/ポリカルボン酸のモル数/第四オニウム塩触媒のモル数の比として表わされる原料の仕込み比(以下単に「原料の仕込み比(B)」という)は、polyEHO−MMA/AA/TPPB=1/1/0.1であった。
得られた反応物は、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MMAとAAとの付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0084】
さらに、上記硬化反応を確認するために、上記硬化物の赤外線吸収スペクトル(IRスペクトル)測定を行った。そして比較のために、原料の仕込み比(B)を本実施例と同様polyEHO−MMA/AA/TPPB=1/1/0.1とし、これらの原料を十分に混合することによって別に得た原料混合物をIRスペクトル測定に供した。そこで、該原料混合物のIRスペクトルを図1に、そして、上記硬化物のIRスペクトルを図2にそれぞれ示す。
この結果、図1と図2とを比較すると、上記硬化物(硬化前の熱硬化性オキセタン組成物の組成:polyEHO−MMA中のオキセタン環/AA/TPPB=1当量/1モル/0.1モル)のIRスペクトルにおいて、980cm−1のオキセタン基に基づく吸収が、硬化前の原料混合物(組成:polyEHO−MMA中のオキセタン環/AA/TPPB=1当量/1モル/0.1モル)のそれと比べてかなり減少していることから、原料のpolyEHO−MMA中のオキセタン環へのAA中のカルボキシル基の攻撃による該オキセタン環の開環に始まる前記硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0085】
実施例3
原料として、AA;0.80g(5.4ミリモル)に代えて、DDA;1.26g(5.4ミリモル)を用いたこと、触媒としてのTPPBの使用量を0.23g(0.54ミリモル、原料のpolyEHO−MMA中のオキセタン環1当量当たり0.1モル)に変えて0.023g(0.054ミリモル、原料のpolyEHO−MMA中のオキセタン環1当量当たり0.01モル)にしたこと、および、キャップ付ガラス容器を170℃の恒温槽に浸漬した後の保持時間を10時間に変えて5時間にしたこと以外は、実施例2と全く同様の操作を行った。したがって、原料の仕込み比(B)は、各実施例ともpolyEHO−MMA/DDA/TPPB=1/1/0.01であった。
得られた反応物は、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MMAとDDAとの付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0086】
実施例4および5
原料として、DDA;1.26g(5.4ミリモル)に代えて、実施例4ではHPA;0.94g(5.4ミリモル)、そして実施例5ではMPA;0.98g(5.4ミリモル)をそれぞれ用いたこと、さらに、キャップ付ガラス容器を170℃の恒温槽に浸漬した後の保持時間を、実施例5では5時間に変えて8時間にしたこと以外は、実施例3と全く同様の操作を行った。したがって、原料の仕込み比(B)は、実施例4ではpolyEHO−MMA/HPA/TPPB=1/1/0.01、そして実施例5ではpolyEHO−MMA/MPA/TPPB=1/1/0.01であった。
実施例4および5において、得られた反応物は、それぞれ、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MMAと各ポリカルボン酸との付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0087】
実施例6および7
原料として、AA;0.80g(5.4ミリモル)に代えて、実施例6ではPA;0.90g(5.4ミリモル)、そして実施例7ではTMA;0.76g(3.6ミリモル)をそれぞれ用いたこと、および、キャップ付ガラス容器を170℃の恒温槽に浸漬した後の保持時間を10時間に変えて、両実施例とも8時間にしたこと以外は、実施例1と全く同様の操作を行った。したがって、原料の仕込み比(A)は、実施例6ではpolyEHO−MMA/PA=1/1であり、実施例7ではpolyEHO−MMA/TMA=1/0.67であった。
実施例6および7において、得られた反応物は、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MMAと各ポリカルボン酸との付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0088】
実施例8
原料として、合成例1で得られたpolyEHO−MMA;1.0g(Mn=3.3×104 、オキセタン環の当量数:5.4)に代えて、合成例2で得られたpolyEHO−MA;1.0g(Mn=2.8×104 、オキセタン環の当量数:5.9)を使用したこと、原料としてのAAの使用量を0.80g(5.4ミリモル)に変えて0.86g(5.9ミリモル)にしたこと、および、触媒としてのTPPBの使用量を0.023gに変えて0.025g(0.059ミリモル、原料のpolyEHO−MA中のオキセタン環1当量当たり0.01モル)にしたこと以外は、実施例2と全く同様の操作を行った。したがって、原料の仕込み比(B)は、polyEHO−MA/AA/TPPB=1/1/0.01であった。
得られた反応物は、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MAとAAとの付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0089】
実施例9
原料として、AA;0.86g(5.9ミリモル)に代えて、DDA;1.36g(5.9ミリモル)を用いたことこと以外は、実施例8と全く同様の操作を行った。したがって、原料の仕込み比(B)は、polyEHO−MA/DDA/TPPB=1/1/0.01であった。
得られた反応物は、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MAとDDAとの付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0090】
実施例10
原料として、合成例1で得られたpolyEHO−MMA;1.0g(Mn=3.3×104 、オキセタン環の当量数:5.4)およびAA;0.80g(5.4ミリモル)に代えて、それぞれ、合成例2で得られたpolyEHO−MA;1.0g(Mn=2.8×104 、オキセタン環の当量数:5.9)およびPA;0.98g(5.9ミリモル)を使用したことこと以外は、実施例1と全く同様の操作を行った。したがって、原料の仕込み比(A)は、polyEHO−MA/PA=1/1であった。
得られた反応物は、表2に示す通り、極性の高い有機溶媒であるDMF、DMSO、THF、クロロホルムおよびアセトンのいずれにも不溶であった。このことから、原料のpolyEHO−MAとPAとの付加反応および縮合反応の繰り返しによる硬化反応が進行し、本発明の目的とする硬化物が得られたことが分かった。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する特定の重合体と、特定のポリカルボン酸と、場合によってはさらに触媒としての第四オニウム塩とを特定の割合で含む新規な硬化物製造用の熱硬化性オキセタン組成物、および、該熱硬化性オキセタン組成物を加熱することにより製造され、優れた機械的性質、電気的性質、接着性、耐熱性、耐湿性、耐薬品性などを示し、かつ、三次元網目構造を有する新規な硬化物が得られる。
また、本発明によれば、上記熱硬化性オキセタン組成物を加熱することによって反復構造単位の側鎖に1個のオキセタン環を有する重合体とポリカルボン酸との付加反応および縮合反応を同時、かつ、繰り返して行わしめ、上記新規な硬化物を効率よく高収率で製造し得る硬化方法を提供することができる。
したがって、本発明の新規な硬化物は、上述の特性を利用して塗料やコーティング剤、接着剤、電気絶縁材料、ICや超LSI封止材料、積層板およびその他の電気・電子部品、コンクリート構造物の補修、新旧コンクリートの打継、補強鋼板の接着、各種ライニングなどの土木建築用途、注型用化合物、印刷インキ、シーラント、フォトレジスト、織物被覆剤、含浸テープおよび印刷プレートなどのエポキシ樹脂の代替品としての用途が大いに期待され得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】polyEHO−MMA中のオキセタン環/AA/TPPB=1当量/1モル/0.1モルの組成からなる実施例2で用いた原料混合物のIRスペクトルを示した図である。
【図2】実施例2で得られた硬化物のIRスペクトルを示した図である。
Claims (12)
- 請求項1に記載の重合体(A)の少なくとも1種および化合物(B)の少なくとも1種と、第四オニウム塩とを含んでなる熱硬化性オキセタン組成物。
- 重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を第四オニウム塩の存在下に加熱することを特徴とする請求項2に記載の硬化物の製造方法。
- 請求項3に記載の重合体(A)の少なくとも1種および化合物(B)の少なくとも1種と、第四オニウム塩との混合物を加熱して得られる硬化物。
- 重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を、無溶媒状態下、該重合体(A)の融点または該化合物(B)の融点のいずれか低い方の温度以上、かつ300℃以下の温度に加熱することを特徴とする請求項2に記載の硬化物の製造方法。
- 重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を、反応溶媒中、50〜300℃の温度に加熱することを特徴とする請求項2に記載の硬化物の製造方法。
- 重合体(A)の少なくとも1種と化合物(B)の少なくとも1種との混合物を第四オニウム塩の存在下に加熱することを特徴とする請求項7または8に記載の硬化物の製造方法。
- 第四オニウム塩がテトラn−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイドおよびテトラフェニルホスホニウムアイオダイドからなる群から選ばれる第四ホスホニウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の熱硬化性オキセタン組成物。
- 第四オニウム塩がテトラn−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイドおよびテトラフェニルホスホニウムアイオダイドからなる群から選ばれる第四ホスホニウム塩であることを特徴とする請求項5または9に記載の硬化物の製造方法。
- 第四オニウム塩がテトラn−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイドおよびテトラフェニルホスホニウムアイオダイドからなる群から選ばれる第四ホスホニウム塩であることを特徴とする請求項6に記載の硬化物。
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