JP3572724B2 - 反応性小胞体形成剤および反応性小胞体 - Google Patents

反応性小胞体形成剤および反応性小胞体 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、反応性小胞体形成剤およびこれを小胞体形成成分として含む反応性小胞体に関する。さらに詳しくは医薬等の薬物運搬体、検査薬、診断薬、センサー、固定化触媒、バイオリアクター、バイオエレクトロニクス素子、マイクロカプセル代替品、化粧品原料など、種々の機能性リポソームまたは脂肪乳剤等の小胞体の製造に用いられる反応性小胞体形成剤およびこれを小胞体形成成分として含む反応性小胞体に関する。
【0002】
【従来の技術】
リポソームはリン脂質の二分子膜からなる小胞体であり、多分野での応用が試みられている。特に、医薬運搬体、診断・検出用のセンサーなどへの応用が注目されているが、リポソーム表面上または膜中に機能性物質を固定して各種機能をもたせること、およびリポソームの血中濃度を維持することなどが大きな課題となっている。
【0003】
従来、リポソーム表面上または膜中への機能性物質の固定化に関しては、プルラン誘導体で被覆したリポソームの表面上の多糖上に置換したアミノエチルカルバミルメチル基に、γ−マレイミドブチルオキシサクシニミジルを介して抗体フラグメントを結合させる方法(Biochem. Biophys. Acta., 898, 323(1987))、あるいはあらかじめリポソーム膜形成成分中に糖脂質を加えておき、リポソーム形成後過よう素酸酸化を行い、生じたアルデヒド基と抗体とを反応させて固定化する方法(J. Biol. Chem., 255, 10509(1980))などがある。
【0004】
しかし、これらの従来法では、リポソーム調製後にリポソーム膜表面上での多段階の化学反応を行う必要があり、このため目的とする機能性物質の導入量が低く制限され、また反応による副生成物や不純物が混入し、リポソーム膜へのダメージが大きいなどの問題点がある。
【0005】
一方、リポソームを生体内へ投与したとき、その多くは肝臓、脾臓などの網内系器官で捕捉されるため、十分な効果が得られないことが指摘されている(Cancer Res., 43, 5328(1983))。そこで、この網内系器官で捕捉されてしまう問題点や、あるいはリポソーム自身の崩壊性・凝集性など安定性の低さに関する問題点を改善する方法として、リポソームの表面にポリエチレングリコール鎖を導入することが試みられている(例えば、WO90/3484、特開平1−249717号、FEBS letters, 268, 235(1990))。また、ポリエチレングリコールで修飾されたリポソームは、長期間にわたり血液中濃度を維持できることが明らかになっている(Biochem. Biophys. Acta., 1066, 29〜36(1991))。
しかし、このような方法により得られるポリエチレングリコール鎖の導入されたリポソームは機能性物質と反応しないので、リポソーム表面上に機能性物質を固定化することはできない。
【0006】
さらに、特開平4−346918号には、マレイミド基を有するリポソームにまずチオール基を付与したタンパク質(チオール化タンパク質)を反応させ、次いで残存マレイミド基にチオール基を付与したポリアルキレングリコール(チオール化ポリアルキレングリコール)部分を含む化合物を反応させることにより、網内系器官での取込の改善された薬剤含有抗体結合リポソームが得られることが記載されている。
しかし、このリポソームでは、抗体がポリアルキレングリコール層の下部に隠蔽され、標的部位の抗原との反応が妨げられるため、期待される効果が十分には得られないという問題点がある。
【0007】
また特開平5−508388号には、α−ステアリル−ω−プロピオン酸−ポリオキシエチレンに代表されるようなアニオン基を有するポリオキシエチレン誘導体からなるリポソーム製剤が開示されている。しかし、このポリオキシエチレン誘導体は、疎水部がモノアルキル基であるためリポソーム膜から脱離しやすく、このためこのようなポリオキシエチレン誘導体を膜形成成分として含むリポソームは長期間の安定性に劣るという問題点がある。
【0008】
また、特開平1−249798号には、コレステロールにポリエチレングリコール鎖を導入した2,4−ビス(o−メトキシポリエチレングリコール)−6−コレステリル−s−トリアジン誘導体をリポソームの膜形成成分として使用することにより、リポソームの安定性が向上することが記載されている。しかし、この誘導体では、機能性物質などを固定化することは考慮されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題点を解決するため、リポソームその他の小胞体に(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入できるとともに、脱離することなく長期間にわたって安定して保持され、しかも(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に、簡単にかつ効率よく種々の機能性物質を共有結合により固定化することができる反応性小胞体形成剤、およびこの形成剤を小胞体形成成分として含む反応性小胞体を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、次の反応性小胞体形成剤および反応性小胞体である。
(1)下記一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を含むことを特徴とする反応性小胞体形成剤。
【化2】
Figure 0003572724
〔式中、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。Rは水素原子またはメチル基、Xは2価の有機残基、pは0または1を表わす。〕
(2)上記(1)記載の反応性小胞体形成剤の一種以上を小胞体形成成分として含むことを特徴とする反応性小胞体。
【0011】
本発明において、「(ポリ)オキシアルキレン」は「オキシアルキレンおよび/またはポリオキシアルキレン」、「(ポリ)アルキレン」は「アルキレンおよび/またはポリアルキレン」を意味する。
本発明において小胞体とは、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体またはこの反応性コレステロール誘導体と他の小胞体形成成分の親水基が界面の水相に向って配向した構造を有する粒子を意味する。具体的なものとしては、二分子膜からなる閉鎖小胞であるリポソーム;植物油およびリン脂質などの混合物が乳化された脂肪乳剤;またはミセルなどがあげられる。
【0012】
一般式(1)のOAで表わされるオキシアルキレン基は、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシ−1−エチルエチレン基、オキシ−1,2−ジメチルエチレン基、オキシテトラメチレン基などがあげられる。これらのオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、テトラヒドロフランなどのアルキレンオキシドを付加重合させた基である。
【0013】
一般式(1)のnは1〜1000、好ましくは10〜300、さらに好ましくは20〜120の正数である。
nが2以上の場合、オキシアルキレン基の種類は同一のものでも、異なるものでもよい。後者の場合、ランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
【0014】
親水性を付与する場合、OAとしてはエチレンオキシドが単独で付加したものが好ましく、この場合、nが10以上のものが好ましい。また種類の異なるアルキレンオキシドが付加している場合、エチレンオキシドが20モル%以上、好ましくは50モル%以上付加しているのが望ましい。(ポリ)オキシアルキレン鎖に親油性を付与する場合はエチレンオキシド以外の付加モル数を多くする。
【0015】
一般式(1)において、pが1の場合にXで表わされる2価の有機残基としては特に限定されないが、例えば下記の有機残基などがあげられる。
【化3】
Figure 0003572724
【0016】
一般式(1)においてpが0の反応性コレステロール誘導体は、例えば次のような2段階の反応により、容易に製造することができる。
まず第1段階目の反応では、コレステロール中の水酸基にアルキレンオキシドを付加重合させ、コレステロールの(ポリ)オキシアルキレン付加物(以下、Chol−OAと略す)を製造する。この際、コレステロールとアルキレンオキシドとの仕込みモル比は、目的とする(ポリ)オキシアルキレンの繰り返し数に応じて選択し、例えば1:1〜1:10000、好ましくは1:10〜1:300とするのが望ましい。反応は、触媒として金属ナトリウム、金属カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用い、溶媒としてトルエン、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素などの有機溶媒を用い、0〜150℃で、30分間〜200時間攪拌することにより行うことができる。
【0017】
次に第2段階目の反応では、第1段階目の反応で得られたChol−OAの末端の水酸基を、N,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を用いてN−オキシカルボニルイミダゾール化する。この際、Chol−OAとN,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体の仕込みモル比は、1:0.5〜1:10、好ましくは1:0.9〜1:2とするのが望ましい。反応は、無溶媒で、あるいはベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を用いて、−100〜+150℃、好ましくは−50〜+80℃、さらに好ましくは0〜40℃で、1分間〜200時間、好ましくは30分間〜6時間攪拌することにより行うことができる。
【0018】
アルキレンオキシドとしてエチレンオキシドを用いた場合の反応式を下式(2)に示す。なお、式中、nおよびRは前記と同じものを示す。
【化4】
Figure 0003572724
【0019】
一般式(1)においてpが1の反応性コレステロール誘導体は、例えば次のような方法により製造することができる。
1)コレステロールにN,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を反応させた後、(ポリ)アルキレングリコールまたは片末端にアミノ基を有する(ポリ)アルキレングリコール誘導体などを反応させ、さらにN,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を反応させる方法。
2)コレステロールに無水コハク酸、無水グルタル酸などを反応させた後、(ポリ)アルキレングリコールまたは片末端にアミノ基を有する(ポリ)アルキレングリコール誘導体などを反応させ、さらにN,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を反応させる方法。
3)片末端にカルボキシル基を有する(ポリ)アルキレングリコール誘導体と、コレステロールとを脱水縮合した後、N,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を反応させる方法。
4)コレステロールにN,N′−カルボニルジイミダゾールを反応させた後、グリシン、アラニン、バリンなどのアミノ酸、または4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などを反応させ、さらに(ポリ)アルキレングリコールまたは片末端にアミノ基を有する(ポリ)アルキレングリコール誘導体などを反応させ、次にN,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を反応させる方法。
5)コレステロールにヘキサメチレンジイソシアナート、フェニレンジイソシアナート、キシレンジイソシアナートなどを反応させた後、(ポリ)エチレングリコールまたは片末端にアミノ基を有する(ポリ)アルキレングリコール誘導体を反応させ、次にN,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を反応させる方法。
6)コレステロールにN,N′−カルボニルジイミダゾールを反応させた後、過剰量の1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタンなどのジアミノアルキレンを反応させ、さらに片末端にカルボキシル基、もう片末端に水酸基を有する(ポリ)アルキレンオキシド誘導体または片末端がオキシカルボニルイミダゾール基などで活性化された(ポリ)アルキレングリコール誘導体を反応させ、次にN,N′−カルボニルジイミダゾールまたはその置換体を反応させる方法。
7)コレステロールにN,N′−カルボニルジイミダゾールを反応させた後、過剰量の1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタンなどのジアミノアルキレンを反応させ、さらに両末端がオキシカルボニルイミダゾール基またはその置換体で活性化された(ポリ)アルキレングリコール誘導体を反応させる方法。
【0020】
上記のようにして一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を製造した後は、得られた反応混合物はそのまま、あるいは蒸留、再結晶、再沈澱、吸着剤処理、カラム処理、ゲル濾過、限外濾過、透析、イオン交換、薄層クロマトグラフィーなどにより精製・単離した後、本発明の反応性小胞体形成剤として使用することができる。
【0021】
本発明の反応性小胞体形成剤は、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を含むものであり、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体の一種単独からなっていても、または二種以上からなっていても、あるいは一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体の一種もしくは二種以上と、小胞体を形成し得る他の小胞体形成成分、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、その他のリン脂質類、コレステロール、イントラリピッド(大塚製薬(株)、商標)、大豆油、サフラワー油等との混合物などからなっていてもよい。
【0022】
一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体は、アミノ基、水酸基またはチオール基などの官能基、特に第1級アミノ基に対して高い反応性のあるオキシカルボニルイミダゾール基またはその置換体を有しているので、このような官能基を有する機能性物質と容易に反応し、共有結合が形成される。従って、本発明の反応性小胞体形成剤を小胞体形成成分として使用することにより、形成される小胞体に(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入できるとともに、前記官能基に対する反応性を付与することができる。
【0023】
本発明の反応性小胞体は、前記反応性小胞体形成剤を小胞体形成成分として含有する小胞体である。小胞体形成成分としては前記反応性小胞体形成剤の他に、小胞体を形成し得る他の小胞体形成成分が含まれていてもよい。小胞体を形成し得る他の小胞体形成成分としては、前記反応性小胞体形成剤において一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体と混合することができる他の小胞体形成成分と同様のものがあげられる。本発明の反応性小胞体は、これらの成分を用いて公知の方法により製造することができる。
本発明の反応性小胞体は、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体中のオキシカルボニルイミダゾール基またはその置換体を官能基として利用して、種々の機能性物質を共有結合により導入することができる。
【0024】
次に本発明の反応性小胞体について、反応性リポソーム、反応性脂肪乳剤および反応性ミセルに分けて詳しく説明する。
代表的な反応性小胞体である反応性リポソームは、本発明の反応性小胞体形成剤、すなわち一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を膜形成成分(小胞体形成成分)として含有するものである。一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体の含有量は、反応性コレステロール誘導体および他の膜形成成分の合計量に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.5〜30モル%であるのが望ましい。0.001モル%未満では期待される効果が小さくなるため、一般的には使用されない。一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体は、一種類のものが含有されていても、二種以上のものが含有されていてもよい。
【0025】
一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体と混合して用いられる他の膜形成成分としては、従来からリポソームの膜形成成分として用いられているものが制限なく使用できる。具体的には、ジホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、大豆レシチン、卵黄レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール等のリン脂質および脂肪酸部に不飽和基を有する重合性リン脂質;スルホキシリボシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ラクトシルジグリセリド等の糖脂質類;コレステロール等の非極性脂質;その他には、非イオン性界面活性剤、ホスファチジルポリエチレングリコール、「Biochem. Biophys. Acta., 1066, 29−36(1991)」に記載されているホスファチジルエタノールアミンとα−ヒドロ−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンとの反応物、およびこれらの混合物などがあげられる。
【0026】
本発明の反応性リポソームは、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体および必要により使用されるレシチン、その他のリン脂質、コレステロール等の他の膜形成成分を、有機溶媒等の適当な溶媒に溶解し、エクスツルージョン法、ボルテックスミキサー法、超音波法、界面活性剤除去法、逆層蒸発法、エタノール注入法、プレベシクル法、フレンチプレス法、W/O/Wエマルジョン法、アニーリング法、凍結融解法など、種々の公知の方法によりリポソーム化することにより製造することができる。また、これらの製造法を選択することにより、多重層リポソーム、小さな一枚膜リポソーム、大きな一枚膜リポソームなど、種々の大きさや形態を有する反応性リポソームを製造することができる。
【0027】
このようにして得られた反応性リポソームは、リポソーム膜の内外表面に(ポリ)オキシアルキレンからなるスペーサーを介してオキシカルボニルイミダゾール基またはその置換体が結合しているので、アミノ基、水酸基、チオール基などの官能基、特に第1級アミノ基を有する機能性物質を効率よくかつ簡単にリポソームの二分子膜上に(ポリ)オキシアルキレンからなるスペーサーを介して、ウレタン結合、カーボネート結合またはチオカーボネート結合などにより化学的に固定化することができる。
【0028】
反応性リポソームに固定化できる機能性物質としては、アミノ基、水酸基、チオール基などの官能基を有する機能性物質またはこれらの官能基が導入された機能性物質があげられる。これらの中では、第1級アミノ基を有するまたは導入された機能性物質が好ましい。具体的には、例えば色素、染料、放射線ラベル化合物、蛍光化合物、化学発光化合物、電極感応性化合物等の標識物質;光応答性化合物、pH応答性化合物、熱応答性化合物等の外部刺激応答性化合物;酵素、抗体、その他のタンパク質、糖、脂質、糖タンパク質、糖脂質、ホルモン等の生理活性物質;医薬、農薬等の薬物などがあげられる。
【0029】
反応性リポソーム上への機能性物質の固定化反応は、水系溶媒、例えば生理的食塩水またはリン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液もしくはホウ酸緩衝液等の緩衝液など、あるいはこれらの水系溶媒とメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、ジメチルスルホキシド、ピロリドン等の有機溶媒との混合溶媒中で、反応性リポソームと機能性物質とを−10〜+120℃、アミノ基との反応の場合は好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは0〜40℃、水酸基またはチオール基との反応の場合は好ましくは40〜120℃で、5分間〜1000時間、好ましくは30分間〜72時間攪拌下に反応させる方法などにより、一段階で容易に行うことができる。抗体または抗原等のタンパク質を固定化する場合は、pH=4〜12、好ましくは6〜10の水系溶媒中で、−10〜+100℃、アミノ基との反応の場合は好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは0〜40℃、水酸基またはチオール基との反応の場合は好ましくは50〜80℃で、30分間〜200時間、好ましくは1分間〜48時間攪拌下に反応させるのが望ましい。上記の条件外では、リポソームの安定性が悪くなるため好ましくない。
【0030】
反応性リポソーム表面上でのアミノ基、水酸基またはチオール基を有する機能性物質の固定化反応を模式的に示すと次式(3a)〜(3c)のようになる。式中、R、nは前記と同じものを示す。
【化5】
Figure 0003572724
【0031】
固定化反応終了後は、必要によりゲル濾過、限外濾過、透析、遠心分離、静置沈降分離等の方法により精製を行うことができる。
【0032】
本発明の反応性リポソームは、リポソームの内部、すなわちリポソームの内水相または膜内に、一般のリポソームと同様に種々の物質を公知の方法により封入することが可能である。被封入物質としては、例えば色素、染料、放射線ラベル化合物、蛍光化合物、化学発光化合物、電極感応性化合物等の標識物質;光応答性化合物、pH応答性化合物、熱応答性化合物等の外部刺激応答性化合物;酵素、抗体、その他のタンパク質、糖、脂質、糖タンパク質、糖脂質、ホルモン等の生理活性物質;医薬、農薬等の薬物;ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、α−ヒドロ−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン、ヒアルロン酸等の水溶性高分子類などがあげられる。
【0033】
被封入物質のリポソーム内水相への封入は、反応性リポソーム調製時に予め薬物を溶解させた水溶液を用いることによる方法、あるいは反応性リポソームまたは機能性物質固定化リポソーム調製後に、pH勾配法、浸透圧勾配法などを用いて封入する方法などの方法により容易に行うことができる。封入すべき物質が膜形成能を有する場合は、リポソーム形成時にその物質を膜形成成分とともに使用してリポソームを形成すると、封入すべき物質がリポソームの膜内に取り込まれて封入される。封入操作の終了後は、必要によりゲル濾過、限外濾過、透析、遠心分離、静置沈降分離等の方法により精製を行うことができる。
【0034】
本発明の反応性リポソームにおいては、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体がステロール骨格を有しているため、この反応性コレステロール誘導体は直鎖状のポリオキシアルキレン誘導体などと比べて、リポソーム膜中から脱離しにくい。このため本発明の反応性リポソームは長期間の保存安定性に優れている。また本発明の反応性リポソームは、(ポリ)オキシアルキレン鎖が導入されているので、従来からの(ポリ)オキシアルキレン鎖導入の効果、例えば長期間にわたる血液中濃度の維持、非免疫原性、リポソーム内部に封入した物質の漏れ防止などの効果も期待できる。また本発明の反応性リポソームに機能性物質を固定化した機能性物質固定化リポソームは、(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に機能性物質が固定化されているので、(ポリ)オキシアルキレン鎖に邪魔されることなく機能性物質の作用が十分に発揮される。
【0035】
本発明の反応性リポソームは、薬物運搬体、リポソーム製剤、検査薬、診断薬、センサー、固定化触媒、バイオリアクター、バイオエレクトロニクス素子、マイクロカプセル代替品、化粧品原料など、種々の機能性リポソームまたはその担体として利用できる。
【0036】
なお、本発明の反応性リポソームを製造する際、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体とともに、他の膜形成成分として重合性リン脂質を配合することにより、重合性の反応性リポソームとすることができる。重合性のリン脂質としては、公知の重合性リン脂質を使用することができるが、例えば1,2−ジ(2,4−オクタデカジエノイル)−3−ホスファチジルコリンの他、野島庄七、砂本順三、井上圭三編集、1988年南江堂発行の「リポソーム」p313〜315に記載のものなどがあげられる。これらの中では、1,2−ジ(2,4−オクタデカジエノイル)−3−ホスファチジルコリンが好ましい。
【0037】
重合性リポソームは、リポソーム調製後に、光重合開始剤の存在下または非存在下でUV、γ線、電子線などの光照射を行うことにより、あるいはレドックス開始剤系により、あるいはアゾ系開始剤または有機過酸化物などの存在下で加熱を行うことにより、容易に重合を行うことができる。このようにして得られた重合後のリポソームは、優れた安定性を有しているので、水溶液に分散させたままで、あるいは凍結乾燥等により粉末状に調製し、安定して使用することができる。
【0038】
次に反応性リポソーム以外の反応性小胞体について説明する。反応性小胞体としての反応性脂肪乳剤は、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体と、大豆油、サフラワー油等の植物油と、大豆レシチン、卵黄レシチン等のリン脂質と、必要により添加される他の添加剤、例えばイントラリピッド(大塚製薬(株)製、商標)、乳化補助剤、安定化剤、等張化剤、脂溶性医薬等の脂溶性薬物、脂溶性生理活性物質などとを含む油脂混合物が、水相に乳化されたエマルションである。この反応性脂肪乳剤では、乳化分散した油滴と水相の界面に一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体およびその他の小胞体形成成分が集まって反応性脂肪乳剤を形成している。油脂混合物中に占める一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体の含有量は、0.01〜50モル%、好ましくは0.5〜30モル%であるのが望ましい。
【0039】
本発明の反応性脂肪乳剤は、公知の方法により製造することができる。例えば、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体、植物油、リン脂質および必要により配合する添加剤を混合、加熱し、水を加えてホモミキサー等で粗乳化し、次にマントン−ガウリン型の加圧噴射式ホモジナイザー等で均質化する方法などにより製造することができる。このとき製造原料となる油脂混合物中に脂溶性薬物を混合することにより、脂肪乳剤中に薬物を含む反応性脂肪乳剤が得られる。
【0040】
このようにして得られた反応性脂肪乳剤には、前記反応性リポソームの場合と同様にして、同様の機能性物質を容易に固定化することができる。
本発明の反応性脂肪乳剤は、反応性リポソームの場合と同様に、医薬等の薬物運搬体、検査薬、診断薬、センサー、固定化触媒、化粧品原料などとして利用できる。
【0041】
上記以外の反応性小胞体である反応性ミセルは、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を含むミセルであり、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体だけからなるミセルであっても、レシチン、その他のリン脂質、コレステロール、脂溶性医薬等の脂溶性薬物、脂溶性生理活性物質等の他のミセル成分が含有されているミセルであってもよい。反応性ミセルは一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を単独に、またはこれと他のミセル形成成分との混合物をミセル形成濃度以上の濃度で水相に添加することにより形成することができる。製造原料中に脂溶性薬物を混合することにより、ミセル中に薬物を含む反応性ミセルが得られる。本発明の反応性ミセルも反応性リポソームと同様にして機能性物質を固定化することができる。本発明の反応性ミセルも、反応性リポソームの場合と同様に、医薬等の薬物運搬体、検査薬、診断薬、センサー、固定化触媒、化粧品原料などとして利用できる。
【0042】
【発明の効果】
本発明の反応性小胞体形成剤は、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を含有しているので、これを含む反応性小胞体に(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入できるとともに、この(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に、簡単にかつ効率よく種々の機能性物質を共有結合により固定化することができ、しかも機能性物質の導入量を多くすることができる。この場合、反応性小胞体は長期間の保存安定性に優れている。
【0043】
本発明の反応性小胞体は、一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を小胞体形成成分として含有しているので、(ポリ)オキシアルキレン鎖が導入されるとともに、小胞体に(ポリ)オキシアルキレンからなるスペーサーを介して、簡単にかつ効率よく種々の機能性物質を共有結合により固定化することができ、しかも機能性物質の導入量を多くすることができる。また本発明の反応性小胞体は、長期間の保存安定性に優れている。
【0044】
【実施例】
以下、実施例によりさらに詳細な説明を行うが、本発明はこれらに限定されない。
合成例1
オートクレーブ中にトルエン500ml、コレステロール10g(26mmol)および金属ナトリウム0.6g(26mmol)を加え、30分間攪拌した後、エチレンオキシド52g(1.2mol)を加え、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、5%塩酸および蒸留水で洗浄し、さらにトルエンを減圧下に留去することにより、コレステロールの水酸基にエチレンオキシドが付加した中間体(以下、Chol−PEGという、分子量約2400、エチレンオキシドの付加モル数約46)を得た(収率100%)。さらに、クロロホルム10ml中に、上記Chol−PEG5g(2mmol)およびN,N′−カルボニルジイミダゾール0.32g(2mmol)を加え、室温で6時間攪拌した。反応終了後、ジエチルエーテル中に再沈殿精製し、白色粉末状の下式(4)で表わされる反応性コレステロール誘導体を得た。反応の進行は、IRスペクトル(KBr法)においてChol−PEG中の水酸基(OH伸縮、3430cm−1)の消失および−OC(=O)N=結合の生成(C=O伸縮、1760cm−1)により確認した。
【0045】
【化6】
Figure 0003572724
【0046】
実施例1−1
卵黄ホスファチジルコリン20mg(26μmol)、コレステロール3.9mg(10μmol)および合成例1で得られた反応性コレステロール誘導体2.4mg(前記二者に対して10wt%)をナス型フラスコに入れ、2mlのベンゼンで溶解させた後、凍結乾燥を行った。これに生理的食塩水1mlを加え、バス型超音波照射およびボルテックスミキサーにより多重層リポソームを得た。さらにエクスツルーダーにより3.0、1.0、0.2μmのポリカーボネートメンブランを順次通過させ、大きな一枚膜の反応性リポソームを得た。得られた反応性リポソームの粒径をレーザー散乱粒度分布計(NICOMP社製、NICOMP370HPL、商標)を用いて測定したところ、粒径181nm(CV値15%)であった。上記リポソームを5℃で3週間静置したのち、粒径を測定したところ195nm(CV値23%)であり、安定性に優れていた。
【0047】
実施例1−2
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(5)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して5wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径185nm、CV値16%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は199nm、CV値は25%であり、安定性に優れていた。
【化7】
Figure 0003572724
【0048】
実施例1−3
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(6)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して20wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径189nm、CV値18%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は194nm、CV値は20%であり、安定性に優れていた。
【化8】
Figure 0003572724
【0049】
実施例1−4
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(7)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径185nm、CV値15%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は189nm、CV値は17%であり、安定性に優れていた。
【化9】
Figure 0003572724
【0050】
実施例1−5
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(8)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径188nm、CV値14%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は191nm、CV値は19%であり、安定性に優れていた。
【化10】
Figure 0003572724
【0051】
実施例1−6
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(9)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径182nm、CV値16%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は190nm、CV値は18%であり、安定性に優れていた。
【化11】
Figure 0003572724
【0052】
実施例1−7
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(10)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径181nm、CV値14%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は189nm、CV値は16%であり、安定性に優れていた。
【化12】
Figure 0003572724
【0053】
実施例1−8
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(11)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径183nm、CV値15%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は190nm、CV値は18%であり、安定性に優れていた。
【化13】
Figure 0003572724
【0054】
実施例1−9
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(12)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径182nm、CV値15%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は191nm、CV値は18%であり、安定性に優れていた。
【化14】
Figure 0003572724
【0055】
実施例1−10
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(13)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径180nm、CV値15%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は189nm、CV値は17%であり、安定性に優れていた。
【化15】
Figure 0003572724
【0056】
実施例1−11
実施例1−1と同様にして、ただし反応性小胞体形成剤として下式(14)の反応性コレステロール誘導体を他の成分二者に対して10wt%の量で用いて反応性リポソームを得た(粒径182nm、CV値16%)。また5℃で3週間静置した後の粒径は192nm、CV値は19%であり、安定性に優れていた。
【化16】
Figure 0003572724
【0057】
実施例1−12
実施例1−1と同様にして、ただし卵黄ホスファチジルコリンの代わりに1,2−ジ(2,4−オクタデカジエノイル)−3−ホスファチジルコリン(DODP)を用いて、粒径254nm(CV値23%)の小さな単層リポソームを得た。これに0.75Mradのγ線照射を行い、DODPを重合させた。得られた重合リポソームは、Sephadex G−50を用いてゲル濾過後、凍結乾燥により、粉末状サンプルとした。このリポソーム粉末は、生理的食塩水で膨潤させ、再生することができた。
【0058】
実施例2−1
実施例1−1で得られたリポソーム溶液(固形分量約0.25%)の500μlに、1mg/mlの西洋山葵ペルオキシダーゼ(以下、HRPと略す)/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)100μlを加え、5℃で24時間攪拌してHRPをリポソームに固定化した。これをSephadex G−50を用いてゲル濾過を行い、含リポソーム分画を分取し、HRP固定化リポソームを得た。
【0059】
実施例2−2ないし2−12
実施例2−1と同様にして、ただし実施例1−2ないし1−12で得られた反応性リポソームを用いてHRP固定化リポソームを得た。
【0060】
参考例
実施例2−1ないし2−12で得られたHRP固定化リポソーム溶液500μlにHRPの基質である1,2−フェニレンジアミン溶液(10mmol/l)100μlを加え、30℃で10分間インキュベートし、さらに0.1N硫酸10μlを加えたところ、すべてに褐色の呈色が見られた。
【0061】
比較例
卵黄ホスファチジルコリン20mg(26μmol)、およびコレステロール3.9mg(10μmol)のみを用いて、実施例1−1と同様の操作により、固形分量2.5%の多重層リポソームを得た。これに実施例2−1と全く同様にしてHRPを作用させ、ゲル濾過により精製した。得られたリポソーム溶液の500μlに、1,2−フェニレンジアミン溶液(10mmol/l)100μlを加え、30℃で10分間インキュベートし、さらに0.1N硫酸10μlを加えたが、発色は見られなかった。
【0062】
参考例および比較例の結果より、反応性コレステロール誘導体を膜形成成分として含む反応性リポソームは、HRPの活性を保持したまま、HRPを簡単に固定化できることが確認できた。

Claims (2)

  1. 下記一般式(1)で表わされる反応性コレステロール誘導体を含むことを特徴とする反応性小胞体形成剤。
    Figure 0003572724
    〔式中、OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。Rは水素原子またはメチル基、Xは2価の有機残基、pは0または1を表わす。〕
  2. 請求項1記載の反応性小胞体形成剤の一種以上を小胞体形成成分として含むことを特徴とする反応性小胞体。
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