JP3759759B2 - リポソームおよび薬物運搬体 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、リポソーム表面に(ポリ)オキシアルキレン鎖からなるスペーサーを介して抗原または抗体が結合した標的指向性リポソーム、およびこのリポソームからなる標的指向性薬物運搬体に関する。
【0002】
【従来の技術】
リポソームはリン脂質の二分子膜からなる小胞体であり、多分野での応用が試みられている。特に、医薬運搬体、診断・検出用のセンサーなどへの応用が注目されているが、リポソーム表面上または膜中に機能性物質を固定して各種機能をもたせること、およびリポソームの血中濃度を維持することなどが大きな課題となっている。
【0003】
従来、リポソーム表面上または膜中への機能性物質の固定化に関しては、プルラン誘導体で被覆したリポソームの表面上の多糖上に置換したアミノエチルカルバミルメチル基にγ−マレイミドブチルオキシサクシニミジルを介して抗体フラグメントを結合させる方法(Biochem. Biophys. Acta., 898, 323(1987))、あるいはあらかじめリポソーム膜形成成分中に糖脂質を加えておき、リポソーム形成後過よう素酸酸化を行い、生じたアルデヒド基と抗体とを反応させて固定化する方法(J. Biol. Chem., 255, 10509(1980))などがある。
【0004】
しかし、これらの従来法では、リポソーム調製後にリポソーム膜表面上での多段階の化学反応を行う必要があり、このため目的とする機能性物質の導入量が低く制限され、また反応による副生成物や不純物が混入し、リポソーム膜へのダメージが大きいなどの問題点がある。
【0005】
一方、リポソームを生体内へ投与したとき、その多くは肝臓、脾臓などの網内系器官で捕捉されるため、十分な効果が得られないことが指摘されている(Cancer Res., 43, 5328(1983))。そこで、この網内系器官で捕捉されてしまう問題点や、あるいはリポソーム自身の崩壊性・凝集性など安定性の低さに関する問題点を改善する方法として、リポソームの表面にポリエチレングリコール鎖を導入することが試みられている(例えば、特開平1−249717号公報、FEBS letters, 268, 235(1990))。また、ポリエチレングリコールで修飾されたリポソームは、長期間にわたり血液中濃度を維持できることが明らかになっている(Biochem. Biophys. Acta., 1066, 29-36(1991))。
しかし、このような方法により得られるポリエチレングリコール鎖の導入されたリポソームは機能性物質と反応しないので、リポソーム表面上に機能性物質を固定化することはできない。
【0006】
さらに、特開平4−346918号公報には、マレイミド基を有するリポソームにまずチオール基を付与したタンパク質(チオール化タンパク質)を反応させ、次いで残存マレイミド基にチオール基を付与したポリアルキレングリコール(チオール化ポリアルキレングリコール)部分を含む化合物を反応させることにより、網内系器官での取込の改善された薬剤含有抗体結合リポソームが得られることが記載されている。
しかし、このリポソームでは、抗体がポリアルキレングリコール層の下部に隠蔽され、標的部位の抗原との反応が妨げられるため、期待される効果が十分には得られないという問題点がある。
【0007】
また特表平5−508388号公報には、α−ステアリル−ω−プロピオン酸−ポリオキシエチレンに代表されるようなアニオン基を有するポリエチレングリコール誘導体からなるリポソーム製剤が開示されている。しかし、このポリエチレングリコール誘導体は、疎水部がモノアルキル基であるためリポソーム膜から脱離しやすく、このためこのようなポリエチレングリコール誘導体を膜形成成分として含むリポソームは長期間の安定性に劣るという問題点がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、標的部位に対する標的指向性および長期間の保存安定性に優れ、しかも長期間にわたって血中濃度を維持することが可能なリポソーム、およびこれからなる標的指向性薬物運搬体を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、次のリポソームおよび標的指向性薬物運搬体である。
(1) 下記一般式〔1〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体を膜形成成分として含み、標的指向性を有することを特徴とするリポソーム。
【化2】
Figure 0003759759
〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
Immnoは疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在するエピトープに対して反応性を有する抗体、または疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在する抗体に対して反応性を有する抗原の残基、
Xは2価の有機残基、
ZはNH、OまたはS、
pは0または1、
1 は水素原子またはアルカリ金属原子を表わし、AOで表わされるオキシアルキレン基とImmnoで表わされる抗体または抗原とはウレタン結合、カーボネート結合またはチオカーボネート結合により結合している。〕
(2) 下記一般式〔1a〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体を膜形成成分として含み、標的指向性を有することを特徴とするリポソーム。
【化17】
Figure 0003759759
〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
Immnoは疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在するエピトープに対して反応性を有する抗体、または疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在する抗体に対して反応性を有する抗原の残基、
はNH、OまたはS、
1 は水素原子またはアルカリ金属原子を表わし、AOで表わされるオキシアルキレン基とImmnoで表わされる抗体または抗原とはウレタン結合、カーボネート結合またはチオカーボネート結合により結合している。〕
(3) 下記一般式〔1b〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体を膜形成成分として含み、標的指向性を有することを特徴とするリポソーム。
【化18】
Figure 0003759759
〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
Immnoは疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在するエピトープに対して反応性を有する抗体、または疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在する抗体に対して反応性を有する抗原の残基、
Xは2価の有機残基、
ZはNH、
は0または1、
1は水素原子またはアルカリ金属原子を表わ表わし、AOで表わされるオキシアルキレン基とImmnoで表わされる抗体または抗原とはウレタン結合により結合している。
(4) 内水相に薬物を内包することを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のリポソーム。
(5) 上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のリポソームからなることを特徴とする標的指向性薬物運搬体。
【0010】
本発明において、「(ポリ)オキシアルキレン」はオキシアルキレンまたはポリオキシアルキレンを意味する。また「(ポリ)アルキレン」も上記と同様にアルキレンまたはポリアルキレンを意味する。
【0011】
一般式〔1〕においてR1またはR2で表わされる脂肪酸のアシル残基は、炭素数3〜30、好ましくは8〜20のアシル残基である。このようなアシル残基の具体的なものとしては、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ソロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、2−エチルヘキサン酸等の飽和脂肪酸のアシル残基;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、2,4−オクタデカジエン酸等の不飽和脂肪酸のアシル残基;イソステアリン酸等の分岐脂肪酸のアシル残基;リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等のアルキル基中に水酸基を有する脂肪酸のアシル残基などがあげられる。
【0012】
これらの中では、安定なリポソームが形成できるという理由から、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、2,4−オクタデカジエン酸のアシル残基が好ましく、特にパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸のアシル残基が好ましい。R1とR2とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0013】
一般式〔1〕のAOで表わされるオキシアルキレン基は、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシ−1−エチルエチレン基、オキシ−1,2−ジメチルエチレン基、オキシテトラメチレン基などがあげられる。これらのオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、テトラヒドロフランなどのアルキレンオキシドを付加重合させた基である。
一般式〔1〕のnはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜1000、好ましくは10〜500、さらに好ましくは20〜300の正数である。
【0014】
nが2以上の場合、オキシアルキレン基の種類は同一のものでも、異なるものでもよい。後者の場合、ランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
親水性を付与する場合、AOとしてはエチレンオキシドが単独で付加したものが好ましく、この場合、nが10以上のものが好ましい。また種類の異なるアルキレンオキシドが付加している場合、エチレンオキシドが20モル%以上、好ましくは50モル%以上付加しているのが望ましい。(ポリ)オキシアルキレン鎖に親油性を付与する場合はエチレンオキシド以外の付加モル数を多くする。
【0015】
一般式〔1〕のImmnoは抗体または抗原の残基を表わす。この抗体としては、疾患部位の組織または細胞に特異的に存在するエピトープに対して反応性を有するものであり、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはこれらの一部ユニットなどがあげられる。これらの抗体はヒト、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ニワトリなどいかなる動物種由来のものであっても、またいかなるハイブリドーマに由来するものであっても良い。
【0016】
また抗原としては、疾患部位の組織または細胞に特異的に存在する抗体に対して抗原となりうるものであれば制限されず、例えばタンパク質、オリゴ糖、高分子糖、低分子ハプテン、コレステロールなどがあげられる。ただし、低分子ハプテンの場合には、固定化のために、その分子内にアミノ基、水酸基またはチオール基のいずれかの官能基を有することが必要である。
【0017】
一般式〔1〕においてpは0または1であり、pが1の場合、Xは2価の有機残基である。Xの具体的なものとしては、次のような基などがあげられる。式中、qは1〜4の整数を表わす。
【化3】
Figure 0003759759
【0018】
一般式〔1〕のZはNH、OまたはSを表わす。すなわちAOで表わされるオキシアルキレン基とImmnoで表わされる抗体または抗原とはウレタン結合、カーボネート結合またはチオカーボネート結合により結合している。
一般式〔1〕のM1は水素原子またはナトリウムもしくはカリウム等のアルカリ金属原子である。
【0025】
般式〔1〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体において、リン脂質誘導体は、例えば下記一般式〔2〕で表わされる末端にオキシカルボニルイミダゾール基を有するリン脂質誘導体と、前記抗体または抗原とを反応させることにより、容易に製造することができる。
【0026】
【化6】
Figure 0003759759
〔式中、R1、R2、AO、n、X、pおよびM1は一般式〔1〕と同じである。R3は水素原子またはメチル基を表わす。〕
【0027】
一般式〔2〕で表わされるリン脂質誘導体は、例えば次のような方法により製造することができる。
1)ホスファチジルコリンと両末端に水酸基を有する(ポリ)オキシアルキレンとを、ホスホリパーゼDの存在下でエステル交換反応を行い、得られた化合物にさらにN,N’−カルボニルジイミダゾールを反応させて得る方法。
2)ホスファチジルエタノールアミンと、片末端にカルボキシル基を有する(ポリ)オキシアルキレン誘導体とを、N−シクロヘキシル−N’−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド=メソ−p−トルエンスルホネート、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’−カルボニルジイミダゾールなどの脱水縮合剤の存在下に脱水縮合した後、得られた化合物にさらにN,N’−カルボニルジイミダゾールを反応させて得る方法。
3)ホスファチジルエタノールアミンと、両末端にオキシカルボニルイミダゾール基を有する(ポリ)オキシアルキレン誘導体とを、1:1〜1:1000の仕込みモル比で反応させて得る方法。
【0028】
これらの反応は、無溶媒で、または水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などの水系溶媒中で、あるいはクロロホルム、塩化メチレン、ベンゼン、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどの有機溶媒中で、−100〜+100℃、好ましくは0〜40℃で、10分間〜500時間、好ましくは30分間〜48時間行うのが望ましい。
反応終了後は、蒸留、再結晶、再沈澱、吸着剤処理、カラム処理、イオン交換、ゲル濾過、限外濾過、透析、薄層クロマトグラフィーなどの方法により単離・精製することができる。
【0029】
上記のような方法により得られた一般式〔2〕で表わされる末端にオキシカルボニルイミダゾール基を有するリン脂質誘導体に抗体または抗原を結合させるには、リン脂質誘導体と抗体または抗原とを、水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液または炭酸緩衝液などの水系溶媒中で、0〜100℃、ウレタン結合を形成させる場合は好ましくは0〜60℃、カーボネート結合またはチオカーボネート結合を形成させる場合は好ましくは50〜80℃で、30分間〜200時間、好ましくは1時間〜48時間反応させることにより容易に行うことができる。
【0030】
本発明のリポソームは、このようにして得られた一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体を膜形成成分として含み、標的指向性を有するリポソームである。膜形成成分中に含まれる一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体の含有量は、リン脂質誘導体および他の膜形成成分の合計量に対して0.1〜50モル%、好ましくは0.5〜30モル%であるのが望ましい。0.1モル%未満では期待される効果が小さくなるため、一般的には使用されない。また50モル%を超えるとリポソームの安定性が低下するので、一般的には使用されない。一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体は、一種単独で使用することもできるし、二種以上のものを組合せて使用することもできる。
【0031】
一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体と混合して用いられる他の膜形成成分としては、従来からリポソームの膜形成成分として用いられているものが制限なく使用できる。具体的には、ジホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、大豆レシチン、卵黄レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール等のリン脂質および脂肪酸部に不飽和基を有する重合性リン脂質;スルホキシリボシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ラクトシルジグリセリド等の糖脂質類;コレステロール等の非極性脂質;その他には、非イオン性界面活性剤、ホスファチジルポリエチレングリコール、「Biochem. Biophys. Acta., 1066, 29-36(1991)」に記載されているホスファチジルエタノールアミンとポリエチレングリコールとの反応物、およびこれらの混合物などがあげられる。
【0032】
本発明のリポソームは、一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体およびレシチン、コレステロール、リン脂質等の他の膜形成成分を、有機溶媒等の適当な溶媒に溶解し、エクスツルージョン法、ボルテックスミキサー法、超音波法、界面活性剤除去法、逆層蒸発法、エタノール注入法、プレベシクル法、フレンチプレス法、W/O/Wエマルジョン法、アニーリング法、凍結融解法など、種々の公知の方法によりリポソーム化することにより製造することができる。また、これらの製造法を選択することにより、多重層リポソーム、小さな一枚膜リポソーム、大きな一枚膜リポソームなど、種々の大きさや形態を有するリポソームを製造することができる。
【0033】
本発明のリポソームは、上記のように一般式〔1〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体を膜形成成分として用いて製造するほかに、一般式〔2〕で表わされるリン脂質誘導体を膜形成成分として用いてリポソームを調製した後、抗体または抗原を固定化することにより製造することもできる。
【0035】
また、一般式〔2〕で表わされるリン脂質誘導体を用いた場合のリポソーム上への抗体または抗原の固定化反応は、水系溶媒、例えば生理的食塩水またはpH=3〜10、好ましくは5〜9のリン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液,酢酸緩衝液もしくはホウ酸緩衝液等の緩衝液など、あるいはこれらの水系溶媒とメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、ジメチルスルホキシド、ピロリドン等の有機溶媒との混合溶媒中で、−10〜+100℃、アミノ基との反応の場合は好ましくは0〜60℃、水酸基またはチオール基との反応の場合は好ましくは50〜80℃で、30分間〜200時間、好ましくは1時間〜48時間攪拌下に反応させる方法などにより、容易に行うことができる。
【0036】
リポソーム表面上での抗体または抗原のアミド結合による固定化反応を模式的に示すと次式〔3〕のようになる。式中、AO、n、ImmnoおよびR3は前記と同じものを示す。
【化7】
Figure 0003759759
【0037】
さらに別の方法として、一般式〔1〕または〔2〕で表わされるリン脂質誘導体が膜形成成分として含まれないリポソームを調製した後、リポソームの2分子膜の相転移温度以上に保持し、ここに一般式〔1〕または〔2〕で表わされるリン脂質誘導体を混合し、30分間〜48時間インキュベートし、一般式〔2〕のリン脂質誘導体を用いた場合はさらに上記方法により抗体または抗原を固定化することにより、本発明のリポソームを製造することもできる。
【0038】
またさらに別な方法として、次のような方法によっても本発明のリポソームを製造することができる。すなわち、ホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質を膜形成成分として含むリポソームを調製した後、このリポソームに、両末端にオキシカルボニルイミダゾールを有する(ポリ)オキシアルキレン誘導体、すなわちα−オキシカルボニルイミダゾール−ω−カルボニルイミダゾール=(ポリ)オキシアルキレン誘導体を反応させて、一般式〔2〕のリン脂質誘導体を膜形成成分として含むリポソームを調製する。その後は上記と同様にして、抗体または抗原を固定化する。
【0039】
上記反応において、(ポリ)オキシアルキレン誘導体を反応させる際の全反応液中のリポソームの濃度は、固形分量として0.001mg/ml〜1g/ml、好ましくは0.1mg/ml〜100mg/ml、また(ポリ)オキシアルキレン誘導体の濃度は特に制限されないが、0.001mg/ml〜1g/ml、好ましくは0.01mg/ml〜500mg/mlとするのが望ましい。反応は水系溶媒、例えば蒸留水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液もしくは酢酸緩衝液等の緩衝液など、あるいはこれらの水系溶媒とメタノール、エタノール、1,4−ジオキサン等の有機溶媒との混合溶媒中で、pH3〜11、好ましくは7〜9、温度0〜100℃、好ましくは0〜60℃、反応時間10分間〜200時間、好ましくは30分間〜24時間の条件で、容易に行うことができる。
【0040】
反応終了後は、蒸留、再結晶、再沈澱、吸着剤処理、カラム処理、イオン交換、ゲル濾過、限外濾過、透析、薄層クロマトグラフィーなどの方法により単離・精製することができる。なお、反応条件によっては、2個以上が架橋されたリポソームが生成する場合もあるが、この場合はゲル濾過または適当なポアサイズを有するメンブランフィルターを用いて濾過を行うことにより、目的とするリポソームを容易に分別することができる。
【0041】
本発明のリポソームの内水相には、種々の物質を封入することができるが、薬物が好ましい。薬物としては特に限定されないが、抗ガン剤、抗生物質、抗喘息薬、抗ウイルス薬など、長期間血中濃度が維持されることが望まれる薬物または特定の疾患部位や細胞への標的指向性を意図した投与が必要な薬物などが好ましい。
【0042】
上記抗ガン剤としては、例えば「がん化学療法」(久保明良著、(株)南江堂発刊(1985年))に記載されている抗ガン剤、中でもドクソルビシン、アドリアマイシン、シスプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、5−フルオロウラシル、メソトレキサート、ナイトロジェンマスタード、ブスルファンなどがあげられる。
【0043】
また、その他の薬物として、天然型または遺伝子組み換え型のα、β、γ−インターフェロン、インターロイキン、スーパーオキシドデスムターゼ等のようなペプチド系薬物;スルファゼン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン等の抗生物質;アンチモン酸メグルミン等の抗原虫薬;ヘパリン、低分子量ヘパリン、ウロキナーゼ、トロンボモジュリン等の抗血栓剤;ムラミルペプチド類等の免疫賦活剤;テオフィリン等の抗喘息薬などがあげられる。
【0044】
これら薬物のリポソーム内水相への封入は、リポソーム調製時に予め薬物を溶解させた水溶液を用いることによる方法、またはリポソーム調製後に、pH勾配法、浸透圧勾配法などを用いて封入する方法などの方法により容易に行うことができる。このようにして得られた薬物内包リポソームは、ゲル濾過、透析、限外濾過、遠心分離などの方法により容易に精製することができ、薬物運搬体、リポソーム製剤などとして利用できる。
【0045】
本発明のリポソームは一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体がR1およびR2の2本の脂肪酸アシル残基を有しているため、直鎖状のポリアルキレングリコール誘導体などと比べて、リポソーム膜中から脱離しにくい。このため本発明のリポソームは長期間の保存安定性に優れている。
また本発明のリポソームは(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に抗体または抗原が結合しているので、この抗体または抗原の作用が十分に発揮され、このため特定物質に対する特異的反応性に優れ、また標的部位に対する標的指向性(集積性)に優れている。
【0046】
なお、本発明のリポソームを製造する際、他の膜形成成分として重合性リン脂質を配合することにより、重合性のリポソームとすることができる。重合性のリン脂質としては、公知の重合性リン脂質を使用することができるが、例えば1,2−ジ(2,4−オクタデカジエノイル)−3−ホスファチジルコリンの他、野島庄七、砂本順三、井上圭三編集、1988年南江堂発行の「リポソーム」p313〜315に記載のものなどがあげられる。これらの中では、1,2−ジ(2,4−オクタデカジエノイル)−3−ホスファチジルコリンが好ましい。
【0047】
重合性リポソームは、リポソーム調製後に、光重合開始剤の存在下または非存在下でUV、γ線、電子線などの光照射を行うことにより、あるいはレドックス開始剤系により、あるいはアゾ系開始剤または有機過酸化物などの存在下で加熱を行うことにより、容易に重合を行うことができる。
このようにして得られた重合後のリポソームは、優れた安定性を有しているので、水溶液に分散させたままで、あるいは凍結乾燥等により粉末状に調製し、安定して使用することができる。
【0048】
本発明の標的指向性薬物運搬体は、前記のような標的指向性に優れたリポソームからなるものであり、リポソームの内水相に薬物を内包させることにより、あるいはリポソーム膜に薬物を取り込むことにより、この薬物を運搬するものである。本発明の薬物運搬体を構成する前記リポソームは、(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に結合した抗体または抗原の作用が十分に発揮されるので、本発明の薬物運搬体は、標的部位に対する標的指向性(集積性)に優れたものとなり、このため薬物を標的部位に効率よく運搬することができる。
また本発明の薬物運搬体はリポソームに(ポリ)オキシアルキレン鎖が導入されているので、肝臓や網内系器官で捕捉されにくくなり長期間にわたって血中濃度を維持できるほか、凝集なども防止され、これにより薬物を効率よく運搬することができる。
【0049】
【発明の効果】
本発明のリポソームは、抗体または抗原が結合した特定の構造を有する一般式〔1〕のリン脂質誘導体を膜形成成分として含有しているので、標的指向性および長期間の保存安定性に優れ、しかも長期間にわたって血中濃度を維持することができる。
【0050】
本発明の標的指向性薬物運搬体は、上記リポソームからなっているので、種々の薬物を標的部位に効率よく運搬することができる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例により、さらに詳細な説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
合成例1
ジパルミトイルホスファチジルコリン0.5g(0.68mmol)およびポリエチレングリコール(Mw≒2000、n≒46)5g(2.5mmol)を溶解させたクロロホルム溶液40mlに、ホスホリパーゼD(旭化成(株)製)40単位を溶解させた1M酢酸緩衝液(pH5.6)20mlを加え、40℃で12時間攪拌して反応させた。次に、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、有機層を減圧下で濃縮した。得られた反応混合物をシリカゲルカラム(20%メタノール/クロロホルム)を用いて分画し、濃縮した後、少量のクロロホルムに溶解させ、これをヘキサンに再沈殿することにより、ジパルミトイルホスファチジル=ポリエチレングリコールを得た(収率30%)。
【0052】
次に、乾燥させたクロロホルム10ml中に、上記ジパルミトイルホスファチジル=ポリエチレングリコール100mg(0.37mmol)、無水コハク酸0.4mg(0.4mmol)および触媒量のピリジンを加え、60℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物をヘキサン中に再沈殿させ、さらに限外濾過(分画分子量500)したのち凍結乾燥し、下記反応性リン脂質誘導体を得た(収率89%)。
【0053】
【化8】
Figure 0003759759
【0054】
合成例2
クロロホルム10ml中に、合成例1の1段目の反応で得られたジパルミトイルホスファチジル=ポリエチレングリコール100mg(0.37mmol)およびN,N’−カルボニルジイミダゾール64mg(0.4mmol)を加え、室温で1時間撹拌した後、ヘキサン中に再沈殿し、次に限外濾過(分画分子量500)した後凍結乾燥し、下記反応性リン脂質誘導体を得た。
【0055】
【化9】
Figure 0003759759
【0056】
合成例3
1,4−ジオキサン10ml中に、ポリエチレングリコール(分子量約2000)1g(0.5mmol)およびN,N’−カルボニルジイミダゾール162mg(1mmol)を加え、室温で1時間撹拌し、次に凍結乾燥してα−オキシカルボニルイミダゾール−ω−カルボニルイミダゾール=ポリオキシエチレン(n≒46)を得た(収率94%)。
【0057】
合成例4
合成例3において、ポリエチレングリコールの代わりに、エチレンオキシド約90モル%、プロピレンオキシド10モル%のブロック共重合ポリオキシアルキレン(分子量約2500)を用いた以外は、合成例3と同様にしてα−オキシカルボニルイミダゾール−ω−カルボニルイミダゾール=ポリ(オキシエチレン=オキシプロピレン)ブロックポリマー(エチレンオキシドの平均付加モル数約50、プロピレンオキシドの平均付加モル数約5、分子量約2500)を得た(収率91%)。
【0058】
参考例1
卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)、コレステロール1mg(2.6μmol)および合成例1で得られたリン脂質誘導体840μg(前記二者に対して6mol%)を含むリン脂質組成物をイソプロピルエーテル/クロロホルム(1:1、V/V)600μlに溶解させ、これに150mM塩化ナトリウムを含む10mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸緩衝液(以下MES緩衝液と略す)(pH5.5)300μlを加えた。これを1分間、超音波照射し、W/Oエマルジョンとした後、60℃でゆっくりと有機溶媒を留去した。さらに0.2μmのポリカーボネートメンブランを通過させることにより、大きな一枚膜リポソームを得た。
【0059】
次に、得られたリポソームにpH勾配法を用いて抗ガン剤であるドクソルビシン(以下DXRと略す)を封入した。すなわち、上記のリポソーム分散液に、DXR 1mgを溶解させ、水酸化ナトリウムでpH7.8に調整し、これを60℃で10分間インキュベートした。さらに、Sephadex G−50を用いてゲル濾過を行い、含リポソーム分画を分取し、DXR封入リポソームを得た。
【0060】
得られたリポソーム懸濁液に、0.25Mの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩58μlおよび0.1MのN−ヒドロキシコハク酸イミド58μlを加え、室温で10分間静かに振とうすることによりポリオキシアルキレン鎖末端に活性化エステル基を有するリポソームを得た。
さらに、0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.5)50μlおよび1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH7.5に調整し、ここにマウスの肺内皮細胞表面にあるgp112に対するモノクローナル抗体(以下、34Aまたはモノクローナル抗体34Aと略す場合がある)500μgを加え、4℃で8時間静かに振とうした後、ゲル濾過(Sephadec G−50)により精製し、DXR封入34A担持リポソームを得た。
【0061】
このリポソームの平均粒径をレーザー散乱粒度分布計(NICOMP社製、NICOMP370HPL、商標)を用いて測定したところ、平均粒径192nm(CV値15%)であった。
上記DXR封入34A担持リポソームを5℃で1か月間静置した後平均粒径を測定したところ、平均粒径194nm、CV値17%であった
【0069】
実施例1−
卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)、コレステロール1mg(2.6μmol)および合成例2で得られたリン脂質誘導体840μg(前記二者に対して6mol%)を含むリン脂質組成物を、イソプロピルエーテル/クロロホルム(1:1、V/V)600μlに溶解させ、これに0.05Mホウ酸緩衝液(pH9.0)300μlを加えた。これを1分間、超音波照射し、W/Oエマルジョンとした後、60℃でゆっくりと有機溶媒を留去した。さらに粒径をそろえるために、0.2μmのポリカーボネートメンブランを通過させることにより、大きな一枚膜リポソームを得た。
【0070】
次に参考例1と同様にしてDXRを封入した。得られたリポソーム懸濁液にモノクローナル抗体34Aを500μg加え、4℃で8時間静かに振とうした後、ゲル濾過(Sephadex G−50)により精製し、DXR封入34A担持リポソームを調製した(平均粒径175nm、CV値16%)。
さらに、5℃で一か月間静置した後平均粒径を測定したところ、平均粒径179nm、CV値18%であり、安定性に優れていた。
【0071】
実施例1−
卵黄ホスファチジルコリン20mg(26μmol)、コレステロール3.9mg(10μmol)およびジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン2.8mg(4μmol)をナス型フラスコに入れ、2mlのベンゼンで溶解させた後、凍結乾燥を行った。これに、DXR 0.2mgを溶解させた生理的食塩水1mlを加え、バス型超音波照射およびボルテックスミキサーにより、多重層リポソームを得た。さらにエクスツルーダーにより3.0→1.0→0.2μmのポリカーボネートメンブランを順次通過させることにより、DXRを封入した大きな一枚膜リポソームを得た。
【0072】
次に、得られたリポソーム分散液の500μlに、合成例3で得られたα−オキシカルボニルイミダゾール−ω−カルボニルイミダゾール=ポリオキシエチレンを10wt%の濃度で含む生理的食塩水1mlを加え、室温で24時間反応させた。反応終了後、Sephadex G−50を用いてゲル濾過を行い、含リポソーム分画を分取し、反応性リポソームを得た。
次に、モノクローナル抗体34Aを500μg加え、4℃で8時間静かに振とうした後、ゲル濾過(Sephadex G−50)により精製し、DXR封入34A担持リポソームを得た(平均粒径166nm、CV値16%)。
さらに、5℃で一か月間静置した後平均粒径を測定したところ、平均粒径172nm、CV値18%であり、安定性に優れていた。
【0073】
実施例1−
実施例1−と同様にして、だたしα−オキシカルボニルイミダゾール−ω−カルボニルイミダゾール=ポリオキシエチレンの代わりに合成例4で得られたα−オキシカルボニルイミダゾール−ω−カルボニルイミダゾール=ポリ(オキシエチレン=オキシプロピレン)ブロックポリマーを用いて、DXR封入34A担持リポソームを得た(平均粒径182nm、CV値19%)。
さらに、5℃で一か月間静置した後平均粒径を測定したところ、平均粒径192nm、CV値20%であり、安定性に優れていた。
【0074】
比較例1
卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)、コレステロール1mg(2.6μmol)およびα−ステアリル−ポリエチレングリコールエーテル(平均付加モル数約10)330μg(0.52μmol、前記二者に対して10mol%)をナス型フラスコに入れ、2mlのベンゼンで溶解させた後、凍結乾燥を行った。これに生理的食塩水1mlを加え、バス型超音波照射およびボルテックスミキサーによりリポソーム化して多重層リポソームを得た。さらにエクスツルーダーにより3.0→1.0→0.2μmのポリカーボネートメンブランを順次通過させ、大きな一枚膜リポソームを得た。
【0075】
得られたリポソームの平均粒径を参考例−1と同様にして測定したところ、粒径196nm(CV値11%)であった。さらに、5℃で一週間静置後、再び平均粒径を測定したところ、288nm(CV値65%)と、平均粒径、CV値ともに大きく変化しており、リポソームが安定に存在していないことが分かった。
【0076】
参考例2
1)抗体担持リポソームの調製卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)、コレステロール1mg(2.6μmol)および合成例1で得られたリン脂質誘導体840μg(前記二者に対して6mol%)を含むリン脂質組成物を、67ガリウム−デフェロキサミン約30KBqを含むイソプロピルエーテル/クロロホルム(1:1、V/V)600μlに溶解させ、これに150mM塩化ナトリウムを含む10mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸緩衝液(pH5.5)300μlを加えた。これを1分間、超音波照射し、W/Oエマルジョンとした後、60℃でゆっくりと有機溶媒を留去した。さらに粒径をそろえるために、0.2μmのポリカーボネートメンブランを通過させることにより、大きな一枚膜リポソームを得た(平均粒径186nm、CV値14%)。
【0077】
得られたリポソーム懸濁液に0.25Mの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩58μlおよび0.1MのN−ヒドロキシコハク酸イミド58μlを加え、室温で10分間静かに振とうすることによりポリオキシアルキレン鎖(PEG)末端に活性化エステル基を有するリポソームを得た。
さらに、0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.5)50μlおよび1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH7.5に調整し、ここにマウスの肺内皮細胞表面にあるgp112に対するモノクローナル抗体34Aを500μg加え、4℃で8時間静かに振とうした後、ゲル濾過(Sephadex G−50)により精製し、67Gaでラベルされた34A担持−PEG修飾リポソームを得た。
【0078】
2)34A担持リポソームのマウス静脈注射1時間後の各臓器中における滞留割合の評価
上記1)で得られた67Gaラベル−34A担持リポソームをBalb/cマウス(7週齢、体重20〜23g、雄)の尾静脈に500μg/マウス(n=3)となるよう注射し、1時間後に屠殺した。各臓器中の67Ga量をカウントし、投与時の全カウント数に対する割合を求め、滞留割合とした。結果を表1に示す。
【0079】
比較例2−1
卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)およびコレステロール1mg(2.6μmol)およびN−グルタリル−ジステアリルエタノールアミン230μg(前記二者に対して6mol%)を含むリン脂質組成物を用い、参考例2と同様にしてポリカーボネートメンブランを通過させるまでの操作を行い、67Gaラベル−リポソームを得た。次に参考例1と同様の方法により、34Aを担持させ、67Gaでラベルされた34A担持リポソームを得た(平均粒径188nm、CV値23%)。このリポソームを用いて、参考例2と同様にしてマウス各臓器中の滞留割合を求めた。結果を表1に示す。
【0081】
比較例2−
卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)およびコレステロール1mg(2.6μmol)のみを含むリン脂質組成物を用い、参考例2と同様にしてポリカーボネートメンブランを通過させるまでの操作を行い、67Gaでラベルされたリポソームを得た。このリポソームを用いて、参考例2と同様にしてマウス各臓器中の滞留割合を求めた。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
Figure 0003759759
注1:数値は3頭の平均値±標準誤差を示す。
【0084】
実施例2−
卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)、コレステロール1mg(2.6μmol)および合成例2で得られたリン脂質誘導体840μg(前記二者に対して6mol%)を含むリン脂質組成物を、67Ga−デフェロキサミン約30KBqを含むイソプロピルエーテル/クロロホルム(1:1、V/V)600μlに溶解させ、これに0.05Mホウ酸緩衝液(pH9.0)300μlを加えた。これを1分間、超音波照射し、W/Oエマルジョンとした後、60℃でゆっくりと有機溶媒を留去した。さらに粒径をそろえるために、0.2μmのポリカーボネートメンブランを通過させることにより、大きな一枚膜リポソームを得た。
【0085】
得られたリポソーム懸濁液にモノクローナル抗体34Aを500μg加え、4℃で8時間静かに振とうした後、ゲル濾過(Sephadex G−50)により精製し、67Gaでラベル化された34A担持−PEG修飾リポソームを得た(平均粒径184nm、CV値15%)。
次に参考例2の2)と同様にして、34A担持−PEG修飾リポソームのマウス静脈注射1時間後の各臓器における滞留割合の評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
実施例2−
卵黄ホスファチジルコリン1.8mg(2.3μmol)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン0.13mg(0.23μmol)およびコレステロール1mg(2.6μmol)を含むリン脂質組成物を、67Ga−デフェロキサミン約30KBqを含むイソプロピルエーテル/クロロホルム(1:1、V/V)600μlに溶解させ、これに150mM塩化ナトリウムを含む10mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸緩衝液(pH5.5)300μlを加えた。これを1分間、超音波照射し、W/Oエマルジョンとした後、60℃でゆっくりと有機溶媒を留去した。さらに粒径をそろえるために、0.2μmのポリカーボネートメンブランを通過させることにより、大きな一枚膜リポソームを得た。
【0087】
次に、得られたリポソーム分散液の500μlに、合成例3により得られたα−オキシカルボニルイミダゾール−ω−カルボニルイミダゾール=ポリオキシエチレンを10wt%の濃度で含む生理的食塩水1mlを加え、室温で24時間反応させた。反応終了後、Sephadex G−50を用いてゲル濾過を行い、含リポソーム分画を分取し、反応性リポソームを得た。
次に、モノクローナル抗体34Aを500μg加え、4℃で8時間静かに振とうした後、ゲル濾過(Sephadex G−50)により精製し、67Gaでラベル化された34A担持−PEG修飾リポソームを得た(平均粒径166nm、CV値16%)。
次に参考例2−2)と同様にして、34A担持−PEG修飾リポソームのマウス静脈注射1時間後の各臓器における滞留割合の評価を行った。結果を表2に示す。
【0088】
比較例2−
卵黄ホスファチジルコリン2mg(2.6μmol)、コレステロール1mg(2.6μmol)および合成例2で得られたリン脂質誘導体840μg(前記二者に対して6mol%)を含むリン脂質組成物を用い、実施例2−と同様にしてポリカーボネートメンブランを通過させるまでの操作を行い、67Gaでラベル化されたPEG修飾リポソームを得た(平均粒径188nm、CV値15%)。このリポソームを用いて、参考例2と同様にしてマウス各臓器における滞留割合を求めた。結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
Figure 0003759759
注1:数値は3頭の平均値±標準誤差を示す。
【0090】
表1および表2の結果から、肺の内皮細胞表面に対して特異的反応性を有する抗体34Aを担持した実施例2−および実施例2−のリポソーム製剤は、PEG修飾リポソーム(比較例2−)と比較して、肺に対する優れた集積性(標的指向性)を有していることが明らかとなった。なお、実施例2−および実施例2−のリポソーム製剤は、血液での滞留割合が比較例2−に比べて小さいが、これは肺に集積したことによる結果であり、血液中で長時間にわたって血中濃度が維持されないことを示すものではない。

Claims (5)

  1. 下記一般式〔1〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体を膜形成成分として含み、標的指向性を有することを特徴とするリポソーム。
    Figure 0003759759
    〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。
    AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、
    nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
    Immnoは疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在するエピトープに対して反応性を有する抗体、または疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在する抗体に対して反応性を有する抗原の残基、
    Xは2価の有機残基、
    ZはNH、OまたはS、
    pは0または1、
    1 は水素原子またはアルカリ金属原子を表わし、AOで表わされるオキシアルキレン基とImmnoで表わされる抗体または抗原とはウレタン結合、カーボネート結合またはチオカーボネート結合により結合している。〕
  2. 下記一般式〔1a〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体を膜形成成分として含み、標的指向性を有することを特徴とするリポソーム。
    Figure 0003759759
    〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。
    AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、
    nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
    Immnoは疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在するエピトープに対して反応性を有する抗体、または疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在する抗体に対して反応性を有する抗原の残基、
    はNH、OまたはS、
    1 は水素原子またはアルカリ金属原子を表わし、AOで表わされるオキシアルキレン基とImmnoで表わされる抗体または抗原とはウレタン結合、カーボネート結合またはチオカーボネート結合により結合している。〕
  3. 下記一般式〔1b〕で表わされる抗体または抗原結合リン脂質誘導体を膜形成成分として含み、標的指向性を有することを特徴とするリポソーム。
    Figure 0003759759
    〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。
    AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、
    nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。
    Immnoは疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在するエピトープに対して反応性を有する抗体、または疾患部位の組織もしくは細胞に特異的に存在する抗体に対して反応性を有する抗原の残基、
    Xは2価の有機残基、
    ZはNH、
    は0または1、
    1は水素原子またはアルカリ金属原子を表わ表わし、AOで表わされるオキシアルキレン基とImmnoで表わされる抗体または抗原とはウレタン結合により結合している。
  4. 内水相に薬物を内包することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のリポソーム。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載のリポソームからなることを特徴とする標的指向性薬物運搬体。
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