JP3569404B2 - 酵母エキスの製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵母エキスの製造法に関し、詳しくは自己消化法により酵母エキスを製造するにあたり、酵素反応を温度条件の異なる複数段階に分けて行うことにより、アミノ酸の収率を高めると共に雑菌の増殖を抑える酵母エキスの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酵母エキスは、天然素材からなる調味料として広く用いられている他、各種微生物の培養に際しての窒素源等としても利用されている。この酵母エキスは、自己消化法、酵素添加法、酸やアルカリによる加水分解法など種々の方法により製造されている。自己消化法は、酵母自体が有する蛋白質分解酵素により酵母内容物を分解し、可溶化する方法であり、酵素添加法は、外部から酵素を加えて酵母内容物あるいは細胞壁成分を分解し、抽出する方法である。また、酸やアルカリによる加水分解法は、酸やアルカリを用いて酵母内容物を分解し、抽出する方法である。これらの方法は、単独で用いられる他、適宜組み合わせて用いられている。
【0003】
酵母エキスを調味料として用いる場合、酵母の蛋白質を分解させて旨味成分であるアミノ酸を効率的に得ることが求められており、とりわけ強い旨味を呈するグルタミン酸の含量を増加させることが、商品価値を高める上で必要である。
この目的のためには、酸、アルカリなどによる化学的な分解法が優れているが、一方では製造条件が過激であるため、予期されない化学反応等によって不純物が生成することがある。さらに、この方法は、反応後の中和によって多量の食塩の生成が避けられず、脱塩等の工程が必要となる。
また、酵素添加法は、反応は穏やかで食塩の生成もなく、脱塩工程を設ける必要がないため、製造工程が煩雑にならないというメリットはあるが、高価な酵素を添加することが必要であり、コストアップが避けられない。
これに対して、自己消化法は、酵素添加法と同様に反応が穏やかで、食塩の生成もなく、脱塩工程を設ける必要がないというメリットがあり、しかも外部から酵素を添加する必要もなく、作業が簡便で、比較的安価に製造できるという利点を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の自己消化法による酵母エキスの製造法では、酵母を水あるいは緩衝液に懸濁し、pH4.5〜8に調整した後、35〜55℃の温度範囲内の特定の温度で10時間以上の長時間酵素反応を行わせる方法が一般的であったため、反応温度を35〜42℃程度に設定すると、アミノ酸含量(アミノ態窒素の生成量)は多くなるものの、雑菌の繁殖(特に乳酸菌)による汚染を引き起こす可能性があり、品質管理、工程管理上問題がある。また、逆に反応温度を45〜55℃に設定すると、雑菌の繁殖可能性はないものの、酵母に含まれる主要酵素の最適反応温度範囲でないため、アミノ酸含量が少なくなる。
本発明の目的は、かかる課題を解決して、自己消化法によって効率よくアミノ酸含量の多い酵母エキスを製造する方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、自己消化法により酵母エキスを製造するにあたり、酵母に含まれる蛋白質分解酵素による第1段階の酵素反応を35〜42℃の温度範囲内で行い、第2段階の酵素反応を45〜60℃の温度範囲内で行うことを特徴とする酵母エキスの製造法に関する。
【0006】
【発明の実施の形態】
酵母に含まれる蛋白質分解酵素は、それぞれ反応温度、pH等の最適反応条件が異なる。例えば、酵母の主要な蛋白質分解酵素である、ペプチダーゼ、プロテイナーゼに属する酵素は、最適反応温度が35〜42℃前後である。そのため、自己消化法で酵母エキスを効率よく製造する場合、これら種々の酵素の特性を考慮して反応条件を設定することが望ましい。
一方、雑菌の繁殖を抑制できる温度については、発明者の研究の結果、45℃以上の温度条件下に保てば、雑菌の繁殖を抑制ないし死滅できることが確認された。
したがって、先ず、第1段階で酵母に含まれる蛋白質分解酵素の中で比較的低温で効率的に反応する酵素を機能させて短時間で、効率よく反応させ、第2段階の雑菌の繁殖を抑制できる高温で反応させることにより、アミノ酸含量の多い、しかも品質の良い酵母エキスを製造することができる。
また、前記第2段階の反応温度を、雑菌の繁殖を抑制ないし死滅させ、かつ蛋白質分解酵素の活性が残存するような高温度領域を分解反応温度として設定することにより、第2段階でもアミノ酸の生成が可能となる。なお、蛋白質分解酵素ではないが、酵母エキスを微生物増殖用の培地として用いる場合に有用なヌクレオチドを生成するために必要なヌクレアーゼ(核酸分解酵素)は、最適反応温度領域が50〜60℃と高い。したがって、微生物培地用の酵母エキスを製造する場合、上記第2段階の反応温度を50〜60℃の間で設定することにより、雑菌の繁殖を抑制ないし死滅させるとともに、ヌクレオチドの含量の多い酵母エキスを製造することが可能となる。
【0007】
本発明に用いる酵母としては特に制限はなく、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomycecerevisiae) に代表される醸造用酵母、パン酵母は勿論のこと、トルラ属酵母など酵母エキスの製造に用いられているどのような酵母も利用することができる。
また、酵母エキスの製造のために新たに培養された酵母ばかりでなく、ビール、清酒等の醸造後の酵母も本発明に用いることができる。なお、ビール醸造に利用された酵母の場合、ホップ由来の苦味などを有しているので、水洗あるいは脱苦味等の処理をした後、酵母エキスの製造に用いることが望ましい。
【0008】
本発明に係る酵母エキスは、処理条件の異なる2段階の工程を経て製造される。まず、酵母を水あるいは緩衝液などに懸濁した後、第1段階では酵素反応を酵母に含まれる蛋白質分解酵素の最適温度条件下に比較的短時間行う。前記したように、酵母に含まれている酵素は、その種類等により最適な反応条件は異なるが、一般的には40℃程度のものが多い。本発明の第1段階の酵素反応は35〜42℃の温度条件下で行う。このときのpH値は4.5〜7.0、好ましくは5.0〜5.5が適当である。反応時間は3〜7時間である。
次に、第2段階の酵素反応は、実質的に雑菌の増殖を抑えられる温度領域以上の温度条件のもとに行えばよく、通常は45〜60℃が適当である。また、反応時間は、3〜20時間である。なお、第1段階の酵素反応と同様に、pH値は4.5〜7.0、好ましくは5.0〜5.5に調整する。
【0009】
さらに、本発明では上記2段階の反応工程を3段階以上の段階に設定することもできる。すなわち、上述したように、酵母に含まれる蛋白質分解酵素は、ペプチダーゼ、プロテイナーゼに属するものだけでも多数種あり、それらの最適反応条件も個々に異なり、最適反応温度は35〜42℃の温度領域に分布する。また、微生物培地用の酵母エキス製造に有用なヌクレアーゼの最適反応温度が50〜60℃程度である。したがって、これら酵母に含まれる酵素を個別にそれぞれ有効活用するために、35〜60℃の温度範囲内で設定温度の異なる複数段階の反応工程を設定する。例えば、第1段階で反応温度を35℃に設定し、第2段階で40℃の反応温度で分解反応を行わせる。そして、第3段階で雑菌の繁殖を抑制する温度(例えば48℃)で反応を行わせる。
これによって、第1,2段階で、設定温度に最適の酵素が最大限に機能し、目的とするアミノ酸あるいはヌクレオチド含量をより高めることができる。また、第3段階でも設定温度によっては(45〜50℃)、ペプチダーゼやプロテイナーゼは最適温度ではないが、ある程度の活性は残されているので、アミノ酸の生成は行われる。また、さらに反応温度の段階を細かく設定しても良く、少なくとも最後の段階で雑菌の繁殖を抑制ないし死滅させることを主目的とした工程が入っていれば良い。
さらに、第1段階で反応温度を50℃に設定し、第2段階で40℃、第3段階で雑菌の繁殖を抑制する反応温度を設定することも考えられる。この場合、第1段階で設定温度50℃は原料となる酵母を殺菌する役割を担うものである。
【0010】
自己消化工程に先立って、2〜15℃の低温で1日乃至数日の間保持して酵母の活性を弱化することにより、さらにアミノ態窒素の含量を多くすることができる。
さらに、製造工程中における微生物汚染を厳密に防ぐために、防腐剤を反応系に加えることができる。このときに用いる防腐剤は、食品添加物として認められているものを使用する。
【0011】
得られた酵母の自己消化物から、遠心分離、膜処理などの既知の方法を単独で、あるいは適宜組み合わせて菌体、その他の固形分を除去した後、必要に応じて濃縮、殺菌、pH調整などの工程を経て酵母エキスを得ることができる。
なお、製品の形態は様々であり、高度に濃縮した液状品、ペースト品の他、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの方法を適用して乾燥品とすることもできる。この際、吸湿を防いだり、造粒を行うことを目的として、糖類や無機塩類などの汎用性のある賦形剤を用いることも有効である。
【0012】
【実施例】
次に、本発明を実施例により詳しく説明する。
実施例1
ビール醸造に使用した後の泥状のビール酵母を遠心分離し、ビール分を除去した後、酵母濃度が40%となるように加水したものを原料とした。
この原料200mlを塩酸によりpHを5.0に調整した後、温度を40℃とし、5時間酵素反応を行った(第1段階)。その後、これに水酸化ナトリウムを加えてpHを5.5に調整した後、温度を48℃に上げ、この温度で15時間酵素反応を行った(第2段階)。
反応終了後、遠心分離により固形分を除去し、次いで濃縮、殺菌処理後、噴霧乾燥を行って粉末酵母エキス11.1gを得た。この酵母エキスの収率、全窒素含量、アミノ態窒素含量などの測定値を第1表に示す。
【0013】
実施例2
実施例1において、原料を予め10℃で1日保持したこと以外は、実施例1と同様にして行い酵母エキス9.1gを得た。この酵母エキスの収率、全窒素含量、アミノ態窒素含量などの測定値を第1表に示す。
【0014】
実施例3
実施例1において、第1段階の酵素反応を37℃で行ったこと以外は、実施例1と同様にして行い酵母エキス9.3gを得た。この酵母エキスの収率、全窒素含量、アミノ態窒素含量などの測定値を第1表に示す。
【0015】
実施例4
実施例1において、第2段階の酵素反応を50℃で8時間行ったこと以外は、実施例1と同様にして行い酵母エキス11.2gを得た。この酵母エキスの収率、全窒素含量、アミノ態窒素含量などの測定値を第1表に示す。
【0016】
比較例1
実施例1において、第1段階の酵素反応を42℃で20時間行い、第2段階の酵素反応を省略した。その後の工程は実施例1と同様に行い酵母エキス6.7gを得た。この酵母エキスの収率、全窒素含量、アミノ態窒素含量などの測定値を第1表に示す。
【0017】
比較例2
実施例1において、第1段階の酵素反応を省略し、酵素反応を48℃で15時間行った後、実施例1と同様に遠心分離、濃縮、殺菌処理、噴霧乾燥を行って粉末酵母エキス10.3gを得た。この酵母エキスの収率、全窒素含量、アミノ態窒素含量などの測定値を第1表に示す。
【0018】
【表1】
Figure 0003569404
【0019】
表から明らかなように、本発明の方法により得られた酵母エキスは、比較例の方法により得られたものに比べて収率が高い上に、アミノ態窒素含量も優れていた。また、雑菌による汚染も認められなかった。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、新たな設備等を要することなく、アミノ態窒素含量が高く、調味料あるいは微生物培養用培地等として用いられる付加価値の高い酵母エキスを簡便な方法で得ることができる。

Claims (4)

  1. 自己消化法により酵母エキスを製造するにあたり、酵母に含まれる蛋白質分解酵素による第1段階の酵素反応を35〜42℃の温度範囲内で行い、続いて第2段階の酵素反応を45〜60℃の温度範囲内で行うことを特徴とする酵母エキスの製造法。
  2. 自己消化法により酵母エキスを製造するにあたり、異なる酵素反応温度を備えた3段階以上の酵素反応を行うようになし、該温度は35〜60℃の温度範囲内より選択するとともに、少なくとも最終段階の酵素反応の設定温度が45〜60℃の温度範囲内であることを特徴とする酵母エキスの製造法。
  3. 第1段階の酵素反応を行うに先立ち、酵母を低温条件下に保存して酵素の活性を弱める予備処理を実施することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酵母エキスの製造法。
  4. 予備処理の温度が2〜15℃の温度範囲であることを特徴とする請求項記載の酵母エキスの製造法。
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