JP3568466B2 - 無線基地システムおよびパス多重判定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は無線基地システムおよびパス多重判定方法に関し、特に、複数のユーザが同一周波数および同一タイムスロットのチャネルを使用してデータを送受信することができるPDMA(Path Division Multiple Access)方式の通信システムにおいて、パス多重接続を要求するユーザに対しそのパス多重接続の可否を判定する無線基地システムおよびパス多重判定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、急速に発達しつつある携帯型電話機のような移動通信システムにおいて、周波数の有効利用を図るべく種々の伝送チャネル割当制御方法が提案されており、その一部のものは実用化されている。
【0003】
特に、最近では、携帯型電話機の普及により、電波の周波数利用効率を高めるために、PDMA方式が提案されている。このPDMA方式は、同じ周波数における1つのタイムスロットを空間的に分割して複数のユーザのデータを伝送するものである。
【0004】
より特定的に、このPDMA方式では、アダプティブアレイなどの相互干渉除去装置を用いて1つのタイムスロットを空間的に複数のチャネルに分割して、互いに干渉の小さい複数のユーザの当該タイムスロットへのパス多重接続を許容している。
【0005】
そこで、PDMA方式では、同一タイムスロットのチャネルに既に接続された既知のユーザの端末装置からの信号電波の受信応答ベクトルと、当該タイムスロットへのパス多重接続を要求している新規ユーザの端末装置からの信号電波の受信応答ベクトルとの相関値を算出し、相関値が低い場合には、パス多重可能と判断して新規のユーザにチャネル割当を認め、相関値が高い場合にはパス多重不可と判断して新規のユーザにチャネル割当を認めない。これにより、電波の到来方向が接近したユーザ同士が同一タイムスロットにパス多重接続することによってユーザ間に干渉が生じることによる通信品質の劣化を防止している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来のPDMA方式では、上述のように、受信応答ベクトルの相関値を算出する場合、既に当該タイムスロットに接続を確立している既知のユーザの受信応答ベクトルは、連続するフレームの受信信号中の通信チャネル信号に基づいて算出されるため、十分な精度を有している。
【0007】
これに対し、パス多重接続を要求している新規ユーザの端末装置からの信号の場合、基地局は通信チャネルを起動するための制御チャネルの信号をまず受信するので、この最初の1フレームにおける制御チャネル信号からとりあえず当該新規ユーザの受信応答ベクトルを算出せざるを得ない。
【0008】
しかしながら、周波数オフセットの存在により1フレームの制御チャネル信号のみから抽出した受信応答ベクトルは十分な精度を有していない。このため、既に接続している既知の端末装置の受信応答ベクトルとの相互相関値の算出精度も低くなり、したがってパス多重接続を要求している新規ユーザの接続の可否を正確に判定することができないという問題があった。
【0009】
それゆえに、この発明の目的は、パス多重接続を要求している新規ユーザの受信応答ベクトルを高精度に求め、ひいてはパス多重接続の可否を高精度に判定することができる無線基地システムおよびパス多重判定方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この発明によれば、複数の移動端末装置がパス多重接続することができる無線基地システムは、オフセット算出手段と、記憶手段と、受信応答ベクトル算出手段と、相関値算出手段と、判定手段とを備える。オフセット算出手段は、無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した1フレームの受信信号中における周波数オフセットを算出する。記憶手段は、オフセット算出手段によって算出された周波数オフセットを記憶する。オフセット算出手段は、さらに、記憶手段に記憶されている周波数オフセットに基づいて、移動端末装置から受信した後続の1フレームの受信信号中における周波数オフセットを補正する。受信応答ベクトル算出手段は、オフセット算出手段によって補正された後続の1フレームの受信信号中における周波数オフセットに基づいて、無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した信号の受信応答ベクトルを算出する。相関値算出手段は、パス多重接続を要求している移動端末装置の算出された受信応答ベクトルと、無線基地システムに既に接続している他の移動端末装置の受信応答ベクトルとの相関値を算出する。判定手段は、算出された相関値に基づいて無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置のパス多重接続の可否を判定する。
【0011】
このように構成したことにより、パス多重接続を要求している新規ユーザからの1フレーム目の受信信号に基づいては接続の可否を判断することなく、その周波数オフセットのみを算出して記憶し、後続のフレームにおいて前記記憶された周波数オフセットを用いた補正により、より精度の高い周波数オフセットを求めて受信応答ベクトルを算出するようにしているので、周波数オフセットの影響を軽減しつつ新規ユーザの接続の可否について高精度の判断を行なうことができる。
【0012】
好ましくは、オフセット算出手段は、受信信号中における周波数オフセットを推定する手段と、受信信号を推定された周波数オフセットで補正する手段と、補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出する手段と、所定の参照信号と抽出された所望信号との誤差信号を算出する手段と、参照信号と誤差信号とに基づいて推定された周波数オフセットを更新する手段と、受信信号が後続の1フレームの受信信号のときに、推定された周波数オフセットを記憶手段に記憶されている周波数オフセットで置換える手段とを含む。
【0013】
このように構成したことにより、先行するフレームで算出され記憶されている周波数オフセットを用いて、後続のフレームにおける周波数オフセットを更新することにより、周波数オフセットの影響が軽減された受信応答ベクトルの算出が可能となる。
【0014】
より好ましくは、オフセット算出手段は、受信信号中における周波数オフセットを推定する手段と、受信信号を推定された周波数オフセットで補正する手段と、補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出する手段と、所定の参照信号と抽出された所望信号との誤差信号を算出する手段と、参照信号と誤差信号とに基づいて推定された周波数オフセットを更新する手段と、受信信号が後続の1フレームの受信信号のときに、更新された周波数オフセットと記憶手段に記憶されている周波数オフセットとの平均をとる手段とを含む。
【0015】
このように構成したことにより、先行するフレームで算出され記憶されている周波数オフセットと、後続のフレームにおける更新された周波数オフセットとの平均をとることにより、周波数オフセットの影響が軽減された受信応答ベクトルの算出が可能となる。
【0016】
より好ましくは、記憶手段は、複数の移動端末装置のそれぞれに対応して算出された周波数オフセットを記憶するテーブルを含む。
【0017】
このように構成したことにより、接続を要求している移動端末装置に対応する算出された周波数オフセットを容易に検索することができる。
【0018】
より好ましくは、オフセット算出手段は、受信した1フレームの受信信号中の制御チャネル信号の周波数オフセットを算出する。
【0019】
このように構成したことにより、新規にパス多重接続を要求しているユーザの通信チャネルが確立されていなくても、通信チャネルを起動するための制御チャネル信号に基づいて接続の可否を判断することができる。
【0026】
この発明のさらに他の局面によれば、複数の移動端末装置がパス多重接続することができる無線基地システムにおけるパス多重判定方法は、無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した1フレームの受信信号中における周波数オフセットを算出するステップと、算出された周波数オフセットを記憶するステップと、記憶されている周波数オフセットに基づいて、移動端末装置から受信した後続の1フレームの受信信号中における周波数オフセットを補正するステップと、補正された後続の1フレームの受信信号中における周波数オフセットに基づいて、無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した信号の受信応答ベクトルを算出するステップと、パス多重接続を要求している移動端末装置の算出された受信応答ベクトルと、無線基地システムに既に接続している他の移動端末装置の受信応答ベクトルとの相関値を算出するステップと、算出された相関値に基づいて無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置のパス多重接続の可否を判定するステップとを備える。
【0027】
このように構成したことにより、パス多重接続を要求している新規ユーザからの1フレーム目の受信信号に基づいては接続の可否を判断することなくその周波数オフセットのみを算出して記憶し、後続のフレームにおいて、前記記憶された周波数オフセット値を用いた補正により、より精度の高い周波数オフセットを求めて受信応答ベクトルを算出するようにしているので、周波数オフセットの影響を軽減しつつ新規ユーザの接続の可否について高精度の判断を行なうことができる。
【0028】
好ましくは、周波数オフセットを算出するステップは、受信信号中における周波数オフセットを推定するステップと、受信信号を推定された周波数オフセットで補正するステップと、補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出するステップと、所定の参照信号と抽出された参照信号との誤差信号を算出するステップと、参照信号と誤差信号とに基づいて推定された周波数オフセットを更新するステップと、受信信号が後続の1フレームの受信信号のときに、推定された周波数オフセットを記憶されている周波数オフセットで置換えるステップとを含む。
【0029】
このように構成したことにより、先行するフレームで算出され記憶されている周波数オフセットを用いて後続のフレームにおける周波数オフセットを更新することにより、周波数オフセットの影響が軽減された受信応答ベクトルの算出が可能となる。
【0030】
より好ましくは、周波数オフセットを算出するステップは、受信信号中における周波数オフセットを推定するステップと、受信信号を推定された周波数オフセットで補正するステップと、補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出するステップと、所定の参照信号と抽出された参照信号との誤差信号を算出するステップと、参照信号と誤差信号とに基づいて推定された周波数オフセットを更新するステップと、受信信号が後続の1フレームの受信信号のときに、更新された周波数オフセットと記憶されている周波数オフセットとの平均をとるステップとを含む。
【0031】
このように構成したことにより、先行するフレームで算出され記憶されている周波数オフセットと後続のフレームにおいて更新された周波数オフセットとの平均をとることにより、周波数オフセットの影響が軽減された受信応答ベクトルの算出が可能となる。
【0032】
より好ましくは、周波数オフセットを記憶するステップは、複数の移動端末装置のそれぞれに対応して算出された周波数オフセットをテーブルに記憶するステップを含む。
【0033】
このように構成したことにより、接続を要求している移動端末装置に対応する算出された周波数オフセットを容易に検索することができる。
【0034】
より好ましくは、周波数オフセットを算出するステップは、受信した1フレームの受信信号中の制御チャネル信号の周波数オフセットを算出する。
【0035】
このように構成したことにより、新規にパス多重接続を要求しているユーザの通信チャネルが確立されていなくても、通信チャネルを起動するための制御チャネル信号に基づいて接続の可否を判断することができる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0043】
図1および図2は、この発明の背景となるPDMA方式の通信システムの基本原理を模式的に説明する図である。
【0044】
まず、図1は、各基地局ごとに複数の移動端末装置がパス多重接続している形態を模式的に示す図である。図1において、基地局(Cell Station:以下、CS)10の電波が届く範囲を円11で示している。そして円11内に、第1および第4のユーザの移動端末装置(Personal Station:以下、PS)1および4が位置しており、CS10の周波数f1の1つのタイムスロットに空間的にパス多重接続されている。
【0045】
一方、円11内に、第2および第5のユーザのPS2および5が位置しており、CS10の周波数f2の1つのタイムスロットに空間的にパス多重接続されている。
【0046】
さらに、円11内に、第3および第6のユーザのPS3および6が位置しており、CS10の周波数f3の1つのタイムスロットに空間的にパス多重接続されている。
【0047】
なお、隣接する他のCS20の電波が届く範囲を円21で示し、円21内に位置する他のユーザのPS7および8がCS20の同一周波数の1つのタイムスロットに空間的にパス多重接続されている。
【0048】
次に、図2は、PDMA方式の通信システムにおける上り(PS→CS)回線および下り(CS→PS)回線の送信スロットの構成を模式的に示す図である。
【0049】
図2において、上り回線および下り回線はそれぞれ時系列的に交互に4スロット単位でデータを送信しており、上り回線および下り回線のいずれも同じフォーマットを有している。すなわち、先頭のスロット1には、制御チャネル(Control Channel:以下、CCH)信号が割当てられている。次の周波数f1のスロット2には、図1に関連して説明したようにユーザ1およびユーザ4がパス多重接続されており、周波数f2のスロット3にはユーザ2および5がパス多重接続されており、最後の周波数f3のスロット4にはユーザ3および6がパス多重接続されている。
【0050】
図2のCSの各タイムスロットに接続される各ユーザのPSと、当該CSとの間で伝送されるユーザごとの信号のフォーマットは、たとえばPHS(Personal Handyphone System)の規格では、図3に示すとおりである。
【0051】
すなわち、CSと、そこに接続される各PSとの間の通信チャネルが、上り/下りの各回線とも、図3(A)に示す物理スロット構成を有する共通双方向制御チャネル(Signaling Control Channel:以下、SCCH)と、図3(B)に示す物理スロット構成を有する情報チャネル(Traffic Channel:以下、TCH)とから構成される。
【0052】
より特定的に、SCCHは、4ビットのR(過渡応答用ランプタイム)と、2ビットのSS(スタートシンボル)と、62ビットのPR(プリアンブル)と、32ビットのUW(同期ワード)と、4ビットのCI(チャネル種別)と、42ビットのCSID(CS識別符号)と、28ビットのPSID(PS識別符号)と、34ビットのI(データ)と、16ビットのCRC(冗長巡回検査)と、16ビットのG(ガードビット)とから構成される。
【0053】
一方、TCHは、4ビットのRと、2ビットのSSと、6ビットのPRと、16ビットのUWと、4ビットのCIと、16ビットのSAと、160ビットのIと、16ビットのCRCと、16ビットのGとから構成される。
【0054】
図3(A)に示すSCCHは、図3(B)に示すTCHを起動して情報チャネルを確立するために用いられる。
【0055】
次に、図4は、この発明の実施の形態によるPDMA方式のCSの構成を示す機能ブロック図である。
【0056】
図3に関連して説明したように、CSとPSとの間で送受信される信号電波は、呼接続に必要な情報を伝送する制御チャネルSCCHと、通信に使用する情報チャネルTCHとから構成される。
【0057】
図4を参照して、アレイアンテナ31で受信されたPSからの信号電波は、無線モジュール32において、増幅、周波数変換などの所定の処理が施された後、A/DおよびD/Aコンバータ33によってデジタル信号に変換される。以後の処理は、図示しないデジタルシグナルプロセッサ(DSP)によってソフトウェア的に実行されるものであり、図4は、DSPによってソフトウェア的に実行される処理を機能ブロック図で示したものである。
【0058】
デジタル信号に変換された受信信号は、オフセット値修正処理部34に与えられる。オフセット値修正処理部34は、後述するように周波数オフセット推定部36で推定された周波数オフセットに基づいて周波数オフセット値を修正し、アダプティブアレイ処理部35に与える。
【0059】
アダプティブアレイ処理部35は、PSから受信した制御チャネルSCCHの信号から、チャネル割当装置41で指定されたユーザの信号を、内蔵するウエイトベクトル計算機(図示せず)で計算されたウエイトベクトル計算基準に基づいて抽出し、変復調器38および受信応答ベクトル計算機39に与える。
【0060】
変復調器38は、制御チャネルSCCHの信号を復調して制御情報をチャネル割当装置41に与え、受信応答ベクトル計算機39は、周波数オフセット推定部36で推定された周波数オフセット値に応じて、それぞれのPSから受信した制御チャネルSCCHの信号の受信応答ベクトルを計算し、その結果をメモリ40に記憶させる。
【0061】
一方、アダプティブアレイ35は、PSから受信した情報チャネルTCHの信号から、チャネル割当装置41で指定されたユーザの信号を、内蔵するウエイトベクトル計算機(図示せず)で計算されたウエイトベクトル計算基準に基づいて抽出し、受信応答ベクトル計算機45および変復調器46に与える。
【0062】
受信応答ベクトル計算機45は、周波数オフセット推定部36で推定された周波数オフセット値に応じて、それぞれのPSから受信した情報チャネルTCHの信号の受信応答ベクトルを計算し、その結果をメモリ44に記憶させる。また、変復調器46は、アダプティブアレイ処理部36で抽出された信号を復調してユーザデータを出力する。
【0063】
相関値計算機42は、メモリ40および44に記憶されているそれぞれのPSの受信応答ベクトルに基づいて、チャネル割当(チャネルへの接続)を要求しているPSと、既に各チャネルに割当てられている(接続されている)PSとの間の受信応答ベクトルの相関値を計算し、チャネル割当装置41に与える。
【0064】
チャネル割当装置41は後述するように、相関値計算機42からの相関値に基づいて、ユーザに対するチャネルの割当制御、すなわち接続を要求している新規ユーザの接続の可否を判断する。
【0065】
アダプティブアレイ処理部35で抽出された信号は周波数オフセット推定部36に与えられ、周波数オフセット推定部36はアダプティブアレイ処理部35から与えられた受信信号の周波数オフセットを推定して、前述のようにオフセット値修正処理部34と、受信応答ベクトル計算機39,45とに与える。
【0066】
これらのオフセット値修正処理部34と、アダプティブアレイ処理部35と、周波数オフセット推定部36とは、この発明の特徴的構成部分であるので、その機能については後で説明する。
【0067】
一方、送信時には、ユーザデータは変復調器46で変調され、アダプティブアレイ処理部35に与えられる。アダプティブアレイ処理部35は、受信時におけるウエイトベクトル計算基準をコピーして当該ユーザの送信信号のアンテナ指向性を制御する。アダプティブアレイ処理原理については、当該技術分野において周知であるので、ここでは説明を省略する。
【0068】
アダプティブアレイ35で送信指向性が制御された情報チャネルTCHの信号は、A/DおよびD/Aコンバータ13でアナログ信号に変換される。
【0069】
チャネル割当装置41からは各ユーザの制御チャネル情報が出力され、変復調器38に与えられて変調される。変復調器38の出力は、アダプティブアレイ処理部35に与えられ、アダプティブアレイ処理部35は、受信時におけるウエイトベクトル計算基準をコピーして当該ユーザの送信信号のアンテナ指向性を制御する。
【0070】
アダプティブアレイ処理部35で送信指向性が制御された制御チャネルSCCHの信号は、A/DおよびD/Aコンバータ33でアナログ信号に変換される。
【0071】
アナログ信号に変換された情報チャネルTCHの信号および制御チャネルSCCHの信号は、無線モジュール32およびアレイアンテナ31を介して対応するユーザのPSに送信される。
【0072】
なお、上述の変復調器38と、受信応答ベクトル計算機39と、チャネル割当装置41とは、制御チャネル処理系システム37を構成し、メモリ44と、受信応答ベクトル計算機45と、変復調器46とは、通信用チャネル処理系システム43を構成する。
【0073】
次に、この発明の実施の形態によるパス多重判定制御について説明する前に、CSのPSに対する従来のパス多重判定制御について説明する。
【0074】
図5は、このような従来のCSのPSに対するパス多重判定制御動作を示すフロー図である。このフロー図に示すパス多重判定制御動作は、図4に示す機能ブロックの処理をDSPでソフトウェア的に実現するものである。
【0075】
図5のフロー図を参照すると、当該CSへの接続を希望しているユーザのPSからの伝送チャネル割当要求(上りSCCH信号の1回目の受信)があれば、チャネル割当イベントが発生し(ステップS1)、周波数オフセットの計算処理(ステップS2)および受信応答ベクトルの計算処理(ステップS3)を実行する。これらのステップS2およびS3については後で詳細に説明する。
【0076】
その後、当該CSのチャネル割当装置41(図4)は、自局における未使用の空きタイムスロットの有無を判定する(ステップS4)。
【0077】
その結果、自局に未使用の空きタイムスロットが存在することが判明すれば、当該CSのチャネル割当装置41は、従来どおり接続を要求しているPSに対しその空きタイムスロット内の伝送チャネルを選択する(ステップS5)。通常は、空きのタイムスロットには他のユーザのPSが接続していないため、基本的には電波の干渉がなく、伝送チャネルが有効に選択され(ステップS6)、伝送チャネルのPSへの割当が確立する(ステップS9)。
【0078】
ところが、未使用のタイムスロットであっても、他のCSやPSからの強力な電波の干渉により実質的にタイムスロットが使用不能状態となり、空いている伝送チャネルであってもPSに対し割当てることができないという事態が起こり得る。
【0079】
そのような事態のため伝送チャネルの選択に失敗した場合(ステップS6)、またはそもそも自局に空きタイムスロットが存在しないことが判明した場合(ステップS4)、接続を要求されているCSのチャネル割当装置41は、自局のあるタイムスロットの空き伝送チャネルを当該PSに割当てる動作に入る(ステップS7)。
【0080】
すなわち、あるタイムスロットの空き伝送チャネルに当該PSを割当てようとする場合、既に同じタイムスロットの別の伝送チャネルに割当てられている他のユーザのPSからの電波との間で干渉が生じないこと、すなわち2つのPSからの電波の到来方向が大きく異なることを確認しなければならない。
【0081】
このため、図4の受信信号ベクトルの相関値計算機42により、接続を要求しているPSから受信した信号と、既に同一タイムスロットに接続されている他のユーザのPSから受信した信号との相関値が計算される(ステップS7)。そして、相関値が所定の値以下であれば、チャネル割当装置41は、2つのPSの間の干渉による影響は小さいと判定して空き伝送チャネルが有効に選択され(ステップS8)、自局の伝送チャネルへのPSの割当が確立する(ステップS9)。
【0082】
一方、相関値が所定の値を超えれば、チャネル割当装置は2つのPSの間の干渉による影響は大きいと判定して空き伝送チャネルが有効に選択されず(ステップS8)、自局の伝送チャネルへのPSの割当が拒否される(ステップS10)。
【0083】
なお、ステップS9で自局の伝送チャネルへのPSの割当が認められれば、またはステップS10で自局の伝送チャネルへのPSの割当てが認められなければ、プログラムはステップS1に戻り、次のPSによるチャネル割当イベントの発生を待つ。
【0084】
以上が、従来のCSによるパス多重判定の手順であるが、従来技術の説明において述べたように、新規に接続を要求しているユーザについては、情報チャネルTCHが起動する前に制御チャネルSCCHの1回の受信のみに基づいて接続の可否を判断しており、1回のSCCH信号の受信に基づく周波数オフセットの計算(ステップS2)は精度が低く、この周波数オフセットに基づく受信応答ベクトルの計算(ステップS3)の精度も低くなる。
【0085】
この結果、相互相関によるパス多重許可の判断(ステップS7およびS8)の精度も低くなり、正確なチャネル割当ができくなる。
【0086】
このように1回のSCCHの受信では周波数オフセット、ひいては受信応答ベクトルの計算精度が低くなる理由について、以下に詳細に説明する。
【0087】
まず、図6および図7は、図5の周波数オフセット計算処理(ステップS2)を詳細に示すフロー図である。この図6および図7の周波数オフセット計算処理は、図4のDSPの機能ブロック図では、オフセット値修正処理部34、アダプティブアレイ処理部35および周波数オフセット推定部36によって実行される。
【0088】
なお、以下に示す処理は、図3に示す信号フォーマットを有するPHSを例にとったものであり、このシステムでは、後述する受信信号の周波数オフセット値による修正処理、アダプティブアレイ処理、周波数オフセット値の更新処理は、各シンボルごとに逐次実行される(逐次学習法)。
【0089】
図4のA/DおよびD/Aコンバータ33でデジタル信号に変換された受信信号X(t)に対し、図5のステップS2において周波数オフセット計算(更新)処理が実行される。
【0090】
まず、図6のフロー図のステップS11において、シンボルiをi=1にセットし、シンボルi=1における周波数オフセット値θ(i)をθ(i)=0にセットする。
【0091】
そして、ステップS12において、シンボルiが既知のシンボル区間(各ユーザ共通の参照信号の区間)である1〜48シンボルの間にあるか否かが判定される。
【0092】
より具体的には、図3(A)のSCCH信号のSS〜UWの合計96ビット=48シンボルの区間が参照信号区間として取り扱われる。なお、図3(A)の先頭の4ビットのRは、信号が定義されていない区間であるため、参照信号区間からは除外される。
【0093】
そして、参照信号区間内にあると判定されれば、ステップS16においてシンボルiを1ずつインクリメントしながら、図6のステップS13〜S15の処理が繰返し実行され、ステップS12において、1〜48シンボルの間にない、すなわち参照信号のない区間であると判定されると、図7のフロー図の処理が実行される。
【0094】
まず、ステップS12において、シンボルiが参照信号区間内(1〜48シンボル)にあると判断されると、ステップS13に進み、次式のように、受信信号X(i)は、周波数オフセット値θ(i)と複素乗算されることにより、X′((i)に補正される。
【0095】
X′(i)=X(i)×(cos(i×θ(i))+jsin(i×θ(i)))* … (1)
次に、ステップS14に進み、当該CS内のメモリに保持されている各ユーザ共通の参照信号d(i)と、ステップS13において補正された受信信号X′(i)とに基づいて、周知のアダプティブアレイ処理が行なわれ、所望ユーザの出力信号を抽出するためのアンテナごとのウエイトW(i)が計算される。
【0096】
アダプティブアレイ処理では、参照信号d(i)と、抽出された出力信号y(i)との誤差e(i)=d(i)−y(i)を求め、この誤差が最小となるようにアダプティブアレイ学習を実行して各シンボルごとにウエイトW(i)を更新する。
【0097】
次に、ステップS15に進み、周波数オフセット値θ(i)の更新処理が実行される。すなわち、周波数オフセット値θ(i)は、アダプティブアレイ処理によって抽出された信号y(t)と参照信号d(t)とに基づいて抽出された、IQ平面上でのキャリア周波数成分の円周方向の誤差である。
【0098】
より具体的には、ステップS15に示すように、メモリに保持されている参照信号d(i)と、上述のように求められた誤差e(i)とに基づいて、周波数オフセット値θ(i)の更新を行なう。
【0099】
周波数オフセット値θ(i)に対するオフセット修正値Δθは次式で求められる。
【0100】
Δθ=Im[(d(i)−e(i))×d*(i)] … (2)
そして、ステップ係数をμとして、更新された周波数オフセット値θ(i+1)は次式で表わされる。
【0101】
θ(i+1)=θ(i)+μ×Δθ … (3)
なお、このステップ係数μは、適用環境下で予め実験的に決定されるものとする。
【0102】
次に、ステップS16においてシンボルiをインクリメントしながら、シンボルiが48を超えて参照区間外となるまでステップS14におけるウエイトW(i)の更新と、ステップS15における周波数オフセット値θ(i)の更新とを行なう。
【0103】
ステップS12において、シンボルiが参照信号区間内(1〜48シンボル)にないことが判断されると、図7のステップS17に進み、受信信号X(i)は周波数オフセット値θ(i)によりX′(i)に補正される。ステップS17の処理は、前述の図6のステップS13の処理と同じなので、ここでは説明を繰返さない。
【0104】
次に、ステップS18に進み、アダプティブアレイ処理が行なわれるが、このステップS18のアダプティブアレイ処理は、以下の点で、前述の図6のステップS14のアダプティブアレイ処理とは異なっている。
【0105】
すなわち、当該シンボルiは参照信号なしの区間にあるため、アダプティブアレイ処理による出力信号y(i)をπ/4・QPSKの基準位相点に強制位相同期した信号を参照信号のレプリカ信号d′(i)とし、このレプリカ信号d′(i)と、ステップS17において補正された受信信号X′(i)とに基づいて、アダプティブアレイ学習が実行され、アンテナごとのウエイトW(i)が計算(更新)される。
【0106】
参照信号d(i)に代えてレプリカ信号d′(i)を用いる点を除いて、ステップS18の処理は、前述の図6のステップS14の処理と同じなので、ここでは説明を繰返さない。
【0107】
次に、ステップS19に進み、周波数オフセット値θ(i)の更新処理が行なわれるが、このステップS19の処理も、参照信号d(i)に代えてレプリカ信号d′(i)を用い、さらにこのレプリカ信号d′(i)と出力信号y(i)との誤差e′(i)を用いる点を除いて、前述の図6のステップS19と同じなので、ここでは説明を繰返さない。
【0108】
次に、ステップS21においてシンボルiをインクリメントしながらステップS20において全シンボルについてウエイトW(i)および周波数オフセット値θ(i)の更新が終了したことが判断されると、ステップS22に進み、最終の周波数オフセット値θ(i)を、受信応答ベクトル計算用のメモリに保持し、1フレームの受信信号に対する処理を終了する。
【0109】
次に、図5のステップS3における受信応答ベクトルの計算手法について詳細に説明する。なお、説明を簡略化するために、以下にアンテナ素子数を2本とした場合の処理について説明する。
【0110】
この場合、受信信号ベクトルX(t)は次式で表わされる。
【0111】
【数1】
【0112】
ここで、Xi(t)はi番目のアンテナの受信信号を表わし、hiは伝搬路による振幅および位相の変動量を表わし、ωは送信側において発生する位相差である周波数オフセットを表わし、ω′は受信側において推定された位相差である周波数オフセットを表わし、S(t)はユーザからの送信信号を示し、ni(t)はi番目のアンテナのノイズ成分を表わし、[・]Tは行列[・]の転置を表わしている。
【0113】
ここで、アダプティブアレイ処理が良好に行なわれているものとすると、ユーザ信号が分離されて取出されるため、ユーザ信号S(t)は既知となる。そこで、受信信号X(t)を既知となったユーザ信号S(t)で除算し、その結果のアンサンブル平均(時間平均)を計算する。たとえばi番目のアンテナの受信信号に関しては、アンサンブル平均は次式で計算される。
【0114】
【数2】
【0115】
この(7)式は、さらに次式のように表わされる。
【0116】
【数3】
【0117】
ここで、平均時間を十分長くとると、ノイズ成分のランダム性により、上記(8)式の右辺の第2項は0となる。したがって次式が得られる。
【0118】
【数4】
【0119】
ここで、受信側で推定した周波数オフセット値ω′が、送信側で発生した周波数オフセット値ωと等しければ、上述の(9)式は次式で表わされることになる。
【0120】
【数5】
【0121】
この(10)式により、1番目のアンテナで受信された信号の受信応答ベクトル値を求めることができる。
【0122】
以下アンテナを変えていくと、同様に2番目のアンテナについて次式が得られる。
【0123】
【数6】
【0124】
したがって上述の(10)式および(11)式より、ユーザの受信応答ベクトルR(t)は次式のように表わすことができる。
【0125】
【数7】
【0126】
以上の受信応答ベクトルの計算過程から、受信側で推定した周波数オフセット値ω′が送信側で生じた周波数オフセット値ωと等しくなることが、受信応答ベクトルの計算において重要な要素となっていることが理解される。すなわち、周波数オフセット値を精度よく求めることが、受信応答ベクトルの算出において非常に重要である。
【0127】
しかしながら、前述のように図5の従来のパス多重判定方法の手順では、制御チャネル信号SCCHの1回だけの受信に基づいて周波数オフセット値を推定しているため、図5のステップS2の周波数オフセット値計算過程、すなわち図6および図7のフロー図の処理により最終的に算出され保持される周波数オフセット値(受信側で推定される周波数オフセット値)は精度が低く、このような周波数オフセット値に基づいて上述の計算過程で求められる受信応答ベクトルの精度も低くなっていた。
【0128】
この発明は、1回目に受信した制御チャネル信号SCCHに基づいて算出した周波数オフセット値を記憶し、この記憶した周波数オフセット値を用いて2回目に受信した制御チャネル信号SCCHの周波数オフセット値を求めることにより、算出される周波数オフセット値の精度を向上させた上で、受信応答ベクトルを算出するように構成したものである。
【0129】
図8は、この発明の実施の形態によるCSのパス多重判定制御動作を示すフロー図である。このフロー図に示すパス多重判定制御動作は、図4に示す機能ブロックの処理をDSPを用いてソフトウェア的に実行するものである。
【0130】
図8のフロー図を参照すると、当該CSへの接続を希望しているユーザPSからの伝送チャネル割当要求(上りSCCHの1回目の受信)があれば、チャネル割当イベントが発生し(ステップS1)、周波数オフセット値の計算処理を実行し(ステップS30)、その結果を該当するPSの識別符号PSIDと対応付けてCSのメモリに一時的に保持する(ステップS31)。
【0131】
次に、ステップS3において、上述のステップS30で算出された周波数オフセット値に基づいて受信応答ベクトルが計算される。その後、当該CSのチャネル割当装置41(図4)は、自局における未使用の空きタイムスロットの有無を判定する(ステップS4)。
【0132】
その結果、自局に未使用の空きタイムスロットが存在することが判明すれば、当該CSのチャネル割当装置41は、従来どおり接続を要求しているPSに対しその空きタイムスロット内の伝送チャネルを選択する(ステップS5)。通常は、空きのタイムスロットには他のユーザのPSが接続していないため、基本的には電波の干渉がなく、伝送チャネルが有効に選択され(ステップS6)、伝送チャネルのPSへの割当が確立する(ステップS9)。
【0133】
ところが、未使用のタイムスロットであっても、他のCSやPSからの強力な電波の干渉により実質的にタイムスロットが使用不能状態となり、空いている伝送チャネルであってもPSに対し割当てることができないという事態が起こり得る。
【0134】
そのような事態のため伝送チャネルの選択に失敗した場合(ステップS6)、またはそもそも自局に空きタイムスロットが存在しないことが判明した場合(ステップS4)において、当該割当要求が、既知のPS、すなわち後述するステップS33において初めてテーブルにPSIDが登録されるPSではなく、既に当該テーブルにPSIDが登録されていたPSからの伝送チャネルの割当要求であることが判定されれば(ステップS32)、当該CSのチャネル割当装置41は、自局のあるタイムスロットの空き伝送チャネルを当該PSに割当てる動作に入る(ステップS7)。
【0135】
すなわち、あるタイムスロットの空き伝送チャネルに当該PSを割当てようとする場合、既に同じタイムスロットの別の伝送チャネルに割当てられている他のユーザのPSからの電波との間で干渉が生じないこと、すなわち2つのPSからの電波の到来方向が大きく異なることを確認しなければならない。
【0136】
このため、図4の受信信号ベクトルの相関値計算機42により、接続を要求しているPSから受信した信号の受信応答ベクトルと、既に同一タイムスロットに接続されている他のユーザのPSから受信した信号の受信応答ベクトルとの相関値が計算される(ステップS7)。そして、相関値が所定の値以下であれば、チャネル割当装置41は、2つのPSの間の干渉による影響は小さいと判定して空き伝送チャネルが有効に選択され(ステップS8)、自局の伝送チャネルへのPSの割当が確立する(ステップS9)。
【0137】
一方、相関値が所定の値を超えれば、チャネル割当装置は2つのPSの間の干渉による影響は大きいと判定して空き伝送チャネルが有効に選択されず(ステップS8)、自局の伝送チャネルへのPSの割当が拒否される(ステップS10)。
【0138】
ステップS9で自局の伝送チャネルへのPSの割当が認められれば、またはステップS10で自局の伝送チャネルへのPSの割当が認められなければ、プログラムはステップS1に戻り、次のPSによるチャネル割当イベントの発生を待つ。
【0139】
一方、ステップS32において、既知のPSからの伝送チャネルの割当要求でないと判断されると、ステップS31で一時的に保持された当該PSの識別符号PSIDと推定された周波数オフセット値とが、図9に示すような構成のメモリテーブルに、PSIDに周波数オフセット値が対応付けられた形で保持される(ステップS33)。その後、プログラムはステップS1に戻り、PSによる次のチャネル割当イベントの発生を待つ。
【0140】
次に、当該CSへの接続を希望している同じPSからの上りSCCH信号の2回目の受信があれば、チャネル割当イベントが発生し(ステップS1)、ステップS30においてこの発明の特徴的な処理である周波数オフセット値の計算を行なう。
【0141】
すなわち、後で詳細に説明するが、先のPSからのチャネル割当イベント発生時において算出され、メモリテーブルに保持されていた当該PSに対応する周波数オフセット値がメモリテーブルから読出され、ステップS30における周波数オフセット値の計算に用いられる。
【0142】
この結果、ステップS30において周波数オフセット値が高精度に計算され、したがって、ステップS3において受信応答ベクトルも高精度に計算される。
【0143】
ステップS4〜S6の処理については説明を省略し、ステップS32において当該接続を要求しているPSが既にテーブルに登録されている既知のPSであることが判断されるので、ステップS7に進み、受信応答ベクトルの相互相関値に基づくチャネル割当の判定がなされる。ステップS7〜S10の処理については既に説明したのでここでは繰返さない。
【0144】
以上のように、図8に示した実施の形態の処理手順によれば、接続を要求しているPSから1回目に受けたSCCH信号に基づいて求められた周波数オフセット値をテーブルに保持し、次のチャネル割当イベント発生時に同一PSから割当て要求があった場合に、メモリテーブルに保持されている周波数オフセット値を用いて2回目の受信時の周波数オフセット値を高精度に算出しているので、受信応答ベクトル自体も高精度に算出することができ、ひいては相互相関値に基づくパス多重の可否についてもより正確に判断することが可能となる。
【0145】
次に、図10および図11は、図8の実施の形態による周波数オフセット計算処理(ステップS30)を詳細に示すフロー図である。図10および図11に示すフロー図は、以下の点において、図6および図7に示した従来例の周波数オフセット計算処理(ステップS2)と異なっている。
【0146】
すなわち、図10のステップS12において、シンボルiが参照信号区間内(1〜48シンボル)にないことが判断されると、図11のステップS40に進み、シンボルiが86シンボル目であるか否かが判定される。
【0147】
図3(A)のPHSの信号フォーマットから、i=85シンボル(170ビット)目で、PSID区間を終了するので(先頭のRは除外)、86シンボル目で処理中のユーザ信号のPS識別符号PSIDが判明する。i=86シンボルの場合にはその場合にはステップS41に進み、当該PSが、図8のステップS33において周波数オフセット値がメモリテーブルに保持されている既知のPSであるか否かが判断される。
【0148】
そしてステップS41において、当該PSが既知のPSであることが判定されると、当該シンボルiにおける算出された周波数オフセット値θ(i)を、図9に示すメモリテーブルから読出した当該PSに対応する、SCCH信号の1回目の受信時に算出された周波数オフセット値θ(i)で置換える。
【0149】
図11の以後のステップS17〜S19の処理は、このステップS42によって置換えられたメモリテーブルから読出された周波数オフセット値θ(i)に基づいて実行される。各ステップの処理内容については、先に図6および図7を参照して説明したとおりなので、ここではその説明を省略する。
【0150】
一般にPHSでは、周波数オフセットは基準周波数をもとに規格で決められた範囲内のものであるが、SCCH信号の1回の受信だけではどれだけ周波数がずれているのか正確に求めることは困難であるが、上述の実施の形態のように1回目に推定された周波数オフセット値をもとに2回目のSCCH信号の受信による周波数オフセット値を推定することにより、より精度の高い周波数オフセット値の推定が可能となる。したがってこのような精度が上げられた周波数オフセット値に基づいて受信応答ベクトルの計算をすることにより、より良好な相関値の判定、すなわち当該PSのパス多重接続の可否を判定することが可能となる。
【0151】
次に、図12は、図8の実施の形態における周波数オフセット計算処理(ステップS30)の他の計算手順の一例を示すフロー図である。
【0152】
図12に示したフロー図は、以下の点を除いて、図6および図7に示した従来例の周波数オフセット計算処理のフロー図と同じである。
【0153】
すなわち、図12において、ステップS20において全シンボルについてウエイトW(i)および周波数オフセット値θ(i)の更新が終了したことが判定された後、ステップS50において、当該PSが既知のPSであるか否かの判定がなされ、既知のPSであると判定されると、ステップS51に進み、今回の処理で求めた周波数オフセット値θと、メモリテーブルから読出した当該PSに対応する周波数オフセット値θとの平均とを算出する。そしてこの周波数オフセット値の平均値を、ステップS22において、最終的な周波数オフセット値とし、受信応答ベクトルの計算用に当該CSのメモリに保存する。
【0154】
以上のように、この図12に示した周波数オフセット値計算処理の変形例では、1回目のSCCH信号の受信時に算出された周波数オフセットと、2回目のSCCH信号受信時に算出された周波数オフセット値との平均化を図ることにより、周波数オフセット値の算出精度の向上を図るものである。
【0155】
図13は、この発明の他の実施の形態によるCSのパス多重判定制御動作を示すフロー図である。
【0156】
図13のフロー図を参照すると、当該CSへの接続を希望しているユーザPSからの伝送チャネル割当要求(上りSCCHの1回目の受信)があれば、チャネル割当イベントが発生し(ステップS1)、受信応答ベクトルの計算処理を実行し(ステップS60)、その結果を該当するPSの識別符号PSIDと対応付けてCSのメモリに一時的に保持する(ステップS61)。
【0157】
次に、当該CSのチャネル割当装置41(図4)は、自局における未使用の空きタイムスロットの有無を判定する(ステップS4)。
【0158】
その結果、自局に未使用の空きタイムスロットが存在することが判明すれば、当該CSのチャネル割当装置41は、従来どおり接続を要求しているPSに対しその空きタイムスロット内の伝送チャネルを選択する(ステップS5)。通常は、空きのタイムスロットには他のユーザのPSが接続していないため、基本的には電波の干渉がなく、伝送チャネルが有効に選択され(ステップS6)、伝送チャネルのPSへの割当が確立する(ステップS9)。
【0159】
ところが、未使用のタイムスロットであっても、他のCSやPSからの強力な電波の干渉により実質的にタイムスロットが使用不能状態となり、空いている伝送チャネルであってもPSに対し割当てることができないという事態が起こり得る。
【0160】
そのような事態のため伝送チャネルの選択に失敗した場合(ステップS6)、またはそもそも自局に空きタイムスロットが存在しないことが判明した場合(ステップS4)において、当該割当要求が、既知のPS、すなわち後述するステップS62において初めてテーブルにPSIDが登録されるPSではなく、既に当該テーブルにPSIDが登録されていたPSからの伝送チャネルの割当要求であることが判定されれば(ステップS32)、当該CSのチャネル割当装置41は、自局のあるタイムスロットの空き伝送チャネルを当該PSに割当てる動作に入る。
【0161】
まず、今回算出された受信応答ベクトルと、後述するステップS62においてテーブルに保持されている受信応答ベクトルとの平均値が算出される(ステップS63)。
【0162】
ここで、あるタイムスロットの空き伝送チャネルに当該PSを割当てようとする場合、既に同じタイムスロットの別の伝送チャネルに割当てられている他のユーザのPSからの電波との間で干渉が生じないこと、すなわち2つのPSからの電波の到来方向が大きく異なることを確認しなければならない。
【0163】
このため、図4の受信信号ベクトルの相関値計算機42により、接続を要求しているPSから受信した信号のステップS63で平均化された受信応答ベクトルと、既に同一タイムスロットに接続されている他のユーザのPSから受信した信号の受信応答ベクトルとの相関値が計算される(ステップS7)。そして、相関値が所定の値以下であれば、チャネル割当装置41は、2つのPSの間の干渉による影響は小さいと判定して空き伝送チャネルが有効に選択され(ステップS8)、自局の伝送チャネルへのPSの割当が確立する(ステップS9)。
【0164】
一方、相関値が所定の値を超えれば、チャネル割当装置は2つのPSの間の干渉による影響は大きいと判定して空き伝送チャネルが有効に選択されず(ステップS8)、自局の伝送チャネルへのPSの割当が拒否される(ステップS10)。
【0165】
ステップS9で自局の伝送チャネルへのPSの割当が認められれば、またはステップS10で自局の伝送チャネルへのPSの割当が認められなければ、プログラムはステップS1に戻り、次のPSによるチャネル割当イベントの発生を待つ。
【0166】
一方、ステップS32において、既知のPSからの伝送チャネルの割当要求でないと判断されると、ステップS61で一時的に保持された当該PSの識別符号PSIDと算出された受信応答ベクトルとが、図14に示すような構成のメモリテーブルに、PSIDに受信応答ベクトルが対応付けられた形で保持される(ステップS62)。その後、プログラムはステップS1に戻り、PSによる次のチャネル割当イベントの発生を待つ。
【0167】
次に、当該CSへの接続を希望している同じPSからの上りSCCH信号の2回目の受信があれば、チャネル割当イベントが発生し(ステップS1)、ステップS60において受信応答ベクトルの計算を行ない、ステップS61において一時的にメモリに保持する。
【0168】
ステップS4〜S6の処理については説明を省略し、ステップS32において当該接続を要求しているPSが既にテーブルに登録されている既知のPSであることが判断されるので、ステップS63に進み、受信応答ベクトルの平均値が求められる。さらに、ステップS7〜S10において受信応答ベクトルの相互相関値に基づくチャネル割当の判定がなされる。
【0169】
以上のように、図13に示した実施の形態の処理手順によれば、接続を要求しているPSから1回目に受けたSCCH信号に基づいて求められた受信応答ベクトルをテーブルに保持し、次のチャネル割当イベント発生時に同一PSから割当て要求があった場合に、算出された受信応答ベクトルと、メモリテーブルに保持されている受信応答ベクトルとを平均化しているので、受信応答ベクトル自体を高精度に算出することができ、ひいては相互相関値に基づくパス多重の可否についてもより正確に判断することが可能となる。
【0170】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0171】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、パス多重接続を要求している新規ユーザからの1フレーム目の受信信号に基づいてはその周波数オフセット値を算出して記憶し、後続のフレームにおいて前記記憶された周波数オフセット値を用いた補正により、精度の高い周波数オフセット値を求めて受信応答ベクトルを算出するようにしているので、周波数オフセットの影響を排除しつつ新規ユーザの接続の可否について高精度の判断を行なうことが可能となる。
【0172】
さらに、この発明によれば、パス多重接続を要求している新規ユーザからの1フレーム目の受信信号に基づいてはその受信応答ベクトルを算出して記憶し、後続のフレームにおいて算出された受信応答ベクトルと、前記記憶された受信応答ベクトルとを平均化することにより、精度の高い受信応答ベクトルを算出するようにしているので、新規ユーザの接続の可否について高精度の判断を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】PDMA方式によるパス多重接続の態様を模式的に説明する図である。
【図2】PDMA方式における送信スロットの構成を模式的に示す図である。
【図3】PHSの信号フォーマットを模式的に示す図である。
【図4】PDMA方式の基地局の全体構成を示す機能ブロック図である。
【図5】従来のパス多重判定方法を示すフロー図である。
【図6】従来の周波数オフセット更新方法の前半の処理を示すフロー図である。
【図7】従来の周波数オフセット更新方法の後半の処理を示すフロー図である。
【図8】この発明の実施の形態によるパス多重判定方法を示すフロー図である。
【図9】この発明の実施の形態においてPSIDと周波数オフセットを記憶するテーブルの形式を模式的に示す図である。
【図10】この発明の実施の形態による周波数オフセット更新方法の前半の処理を示すフロー図である。
【図11】この発明の実施の形態による周波数オフセット更新方法の後半の処理を示すフロー図である。
【図12】この発明の他の実施の形態による周波数オフセット更新方法を示すフロー図である。
【図13】この発明の他の実施の形態によるパス多重判定方法を示すフロー図である。
【図14】この発明の実施の形態においてPSIDと受信応答ベクトルを記憶するテーブルの形式を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1,2,3,4,5,6,7,8 PS、10,20 CS、11,21 通信可能範囲、31 アンテナ素子、32 無線モジュール、33 A/DおよびD/Aコンバータ、34 オフセット値修正処理部、35 アダプティブアレイ処理部、36 周波数オフセット推定部、37 制御チャネル処理系システム、38 変復調器、39 受信応答ベクトル計算機、40 メモリ、41 チャネル割当装置、42 相関値計算機、43 通信チャネル処理系システム、44 メモリ、45 受信応答ベクトル計算機、46 変復調器。
Claims (10)
- 複数の移動端末装置がパス多重接続することができる無線基地システムであって、
前記無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した1フレ−ムの受信信号中における周波数オフセットを算出するオフセット算出手段と、
前記オフセット算出手段によって算出された周波数オフセットを記憶する記憶手段とを備え、
前記オフセット算出手段は、前記記憶手段に記憶されている前記周波数オフセットに基づいて、前記移動端末装置から受信した後続の1フレ−ムの受信信号中における周波数オフセットを補正し、
前記オフセット算出手段によって補正された後続の1フレ−ムの受信信号中における周波数オフセットに基づいて、前記無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した信号の受信応答ベクトルを算出する受信応答ベクトル算出手段と、
前記パス多重接続を要求している移動端末装置の算出された受信応答ベクトルと、 前記無線基地システムに既に接続している他の移動端末装置の受信応答ベクトルとの相関値を算出する相関値算出手段と、
前記算出された相関値に基づいて前記無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置のパス多重接続の可否を判定する判定手段とをさらに備えた、無線基地システム。 - 前記オフセット算出手段は、
前記受信信号中における周波数オフセットを推定する手段と、
前記受信信号を前記推定された周波数オフセットで補正する手段と、
前記補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出する手段と、所定の参照信号と前記抽出された所望信号との誤差信号を算出する手段と、
前記参照信号と前記誤差信号とに基づいて前記推定された周波数オフセットを更新する手段と、
前記受信信号が後続の1フレ−ムの受信信号のときに、前記推定された周波数オフセットを前記記憶手段に記憶されている周波数オフセットで置換える手段とを含む、請求項1に記載の無線基地システム。 - 前記オフセット算出手段は、
前記受信信号中における周波数オフセットを推定する手段と、
前記受信信号を前記推定された周波数オフセットで補正する手段と、
前記補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出する手段と、所定の参照信号と前記抽出された所望信号との誤差信号を算出する手段と、
前記参照信号と前記誤差信号とに基づいて前記推定された周波数オフセットを更新する手段と、
前記受信信号が後続の1フレ−ムの受信信号のときに、前記更新された周波数オフセットと前記記憶手段に記憶されている周波数オフセットとの平均をとる手段とを含む、請求項1に記載の無線基地システム。 - 前記記憶手段は、前記複数の移動端末装置のそれぞれに対応して算出された周波数オフセットを記憶するテ−ブルを含む、請求項1から3のいずれかに記載の無線基地システム。
- 前記オフセット算出手段は、前記受信した1フレ−ムの受信信号中の制御チヤネル信号の周波数オフセットを算出する、請求項1から4のいずれかに記載の無線基地システム。
- 複数の移動端末装置がパス多重接続することができる無線基地システムにおけるパス多重判定方法であって、
前記無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した1フレ−ムの受信信号中における周波数オフセットを算出するステップと、
前記算出された周波数オフセットを記憶するステップと、
前記記憶されている前記周波数オフセットに基づいて、前記移動端末装置から受信した後続の1フレ−ムの受信信号中における周波数オフセットを補正するステップと、
前記補正された後続の1フレ−ムの受信信号中における周波数オフセットに基づいて、前記無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置から受信した信号の受信応答ベクトルを算出するステップと、
前記パス多重接続を要求している移動端末装置の算出された受信応答ベクトルと、
前記無線基地システムに既に接続している他の移動端末装置の受信応答ベクトルとの相関値を算出するステップと、
前記算出された相関値に基づいて前記無線基地システムへのパス多重接続を要求している移動端末装置のパス多重接続の可否を判定するステップとを備えた、パス多重判定方法。 - 前記周波数オフセットを算出するステップは、
前記受信信号中における周波数オフセットを推定するステップと、
前記受信信号を前記推定された周波数オフセットで補正するステップと、
前記補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出するステップと、所定の参照信号と前記抽出された参照信号との誤差信号を算出するステップと、
前記参照信号と前記誤差信号とに基づいて前記推定された周波数オフセットを更新するステップと、
前記受信信号が後続の1フレ−ムの受信信号のときに、前記推定された周波数オフセットを前記記憶されている周波数オフセットで置換えるステップとを含む、請求項6に記載のパス多重判定方法。 - 前記周波数オフセットを算出するステップは、
前記受信信号中における周波数オフセットを推定するステップと、
前記受信信号を前記推定された周波数オフセットで補正するステップと、
前記補正された受信信号をアダプティブアレイ処理して所望信号を抽出するステップと、所定の参照信号と前記抽出された参照信号との誤差信号を算出するステップと、
前記参照信号と前記誤差信号とに基づいて前記推定された周波数オフセットを更新するステップと、
前記受信信号が後続の1フレ−ムの受信信号のときに、前記更新された周波数オフセットと前記記憶されている周波数オフセットとの平均をとるステップとを含む、請求項6に記載のパス多重判定方法。 - 前記周波数オフセットを記憶するステップは、
前記複数の移動端末装置のそれぞれに対応して算出された周波数オフセットをテ−ブルに記憶するステップを含む、請求項6から8のいずれかに記載のパス多重判定方法。 - 前記周波数オフセットを算出するステップは、
前記受信した1フレ−ムの受信信号中の制御チヤネル信号の周波数オフセットを算出する、請求項6から9のいずれかに記載のパス多重判定方法。
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