JP3568155B2 - 脱蛋白天然ゴムラテックス - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩凝固性が良好で、かつ機械的安定性に優れた、高度に脱蛋白された脱蛋白天然ゴムラテックスに関する。
【0002】
【従来の技術】
天然ゴムは伸びが大きい、弾性が高い、皮膜の強さが良好である等の特徴を有しており、自動車用タイヤ、ベルト、粘着剤等の工業用品から、手袋等の家庭用品、カテーテル等の医療用具、授乳用具、避妊具等に至る幅広い分野で利用されている。また、天然ゴムラテックス製のフォームラバーも、マットレス、枕、敷布団、椅子用クッション等の家庭用品から、座席用クッション等の車両用品、あるいは絨毯の裏打ち、ドアのパッキング等の幅広い分野で用いられている。
【0003】
これらの天然ゴム製品は、天然ゴムラテックス中から凝固により取り出したゴム分に対して素練り、各種配合剤の配合、成形、加硫等の操作を施したり、天然ゴムラテックスに各種配合剤を加え、これを塗布または浸漬した後、乾燥、加硫等の操作を施したりすることで製造されたり、あるいはフォームラバーの場合には、天然ゴムラテックスに各種配合剤を加えて起泡させ、さらにラテックスの凝固(ゲル化)と成形、加硫、乾燥等の各工程を経ることによって製造されるものであって、いずれも天然ゴムラテックスに含まれる蛋白質等の非ゴム成分を含有している。
【0004】
しかし、前記蛋白質は、その種類や含有量がラテックスの産地や産出時期等によって異なることから、天然ゴムの品質や加硫特性等にばらつきを生じさせる原因となったり、天然ゴムのクリープ特性、耐老化性等の機械特性、絶縁性等の電気特性を低下させる原因となる。
さらに近年、天然ゴムからなる手術用手袋、各種カテーテル、麻酔用マスク等の医療用具を使用した場合に、天然ゴム中の蛋白質が原因とみられる呼吸困難やアナフィラキシー様症状(血管性浮腫、じんましん、虚脱、チアノーゼ等)が生じるという事例が報告されている。
【0005】
従って、近年、天然ゴムラテックスに含まれる蛋白質を高度に除去することが求められており、特開平6−56902号〜同56906号公報には、天然ゴムラテックス中の蛋白質を分解し、除去した脱蛋白天然ゴム(ラテックス)を製造する方法が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
天然ゴムラテックス中の蛋白質は一般にゴム粒子に吸着され、天然ゴムラテックスに配合されるアンモニア等によって強い負電荷を帯びていることから、ラテックス中でのゴム粒子の安定化に寄与していると考えられる。
従って、かかる蛋白質を高度に除去した脱蛋白天然ゴムラテックスは不安定となり、それゆえ、従来の脱蛋白天然ゴムラテックスでは種々の界面活性剤を配合することで、強い撹拌や摩擦等の機械的刺激に対して凝固することがなく、安定して存在し得る程度の安定性が付与されていた。
【0007】
しかしながら、界面活性剤の配合によりラテックスの安定性が極めて高いものとなり、例えば天然ゴム製のフォームラバーや、導尿カテーテル等の比較的厚手の製品を塩凝固法で成形する場合には、ラテックスの凝固が極めて進行しにくくなったり、全く起こらなくなってしまう問題があった。
そこで、蛋白質が高度に除去され、蛋白質に起因するアレルギーの発生するおそれが十分に抑制されているだけでなく、適度な塩凝固性と優れた機械的安定度とを併せ持つ天然ゴムラテックスが望まれている。
【0008】
本発明の目的は、高度に脱蛋白され、かつ塩凝固性および機械的安定性に優れた脱蛋白天然ゴムラテックスを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、蛋白分解酵素と脂肪酸塩系のアニオン界面活性剤とを用いて脱蛋白処理を施すことにより、窒素含有率が所定量以下となるように調整し、かつケイフッ化ソーダと亜鉛華とを所定量配合したときのゲル化時間が一定の範囲内となるように調整したときは、高度に脱蛋白がなされていることに加えて、良好な塩凝固性と機械的安定性とを併せ持ったラテックスを得ることができるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る脱蛋白天然ゴムラテックスは、ラテックス中の蛋白質がゴム固形分に対する窒素含有率で0.1重量%以下まで除去されており、かつ当該ラテックスのゴム固形分100重量部に対してケイフッ化ソーダ1.5重量部と亜鉛華3重量部とを配合した条件でのゲル化時間が5〜25分であることを特徴とする。
上記本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスによれば、即時性アレルギーの原因となる蛋白質を一定の程度にまで除去することにより、高い安全性を保つことができ、さらに塩凝固法によってラテックスから天然ゴム製品を直接成形する場合において、優れた凝固性と成形工程中の安定性とを両立させることができる。
【0011】
上記本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスは、例えば、天然ゴムラテックスに蛋白分解酵素と、炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤とを配合して、脱蛋白処理を施したものである。
また、上記本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスは、ラテックス中の全アルカリ分がアンモニア換算値で0.2〜0.4重量%であることを特徴とする。
なお、本発明において「ゲル化時間」とは、天然ゴムラテックス中のゴム固形分100重量部に対して、ケイフッ化ソーダ1.5重量部および亜鉛華3重量部を配合し、配合直後から、ラテックスがゲル化して流動性を失うまでの時間を測定したものである。
【0012】
また、窒素含有率は(N%)ケルダール(Kjeldahl)法により求めた値であって、ゴム固形分またはラテックス中に残存する蛋白質の量を示す指標である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスから、非ゴム分としての蛋白質を洗浄、除去したものであって、前述のように、
(i) ラテックス中の蛋白質が、ゴム固形分に対する窒素含有率で0.1重量%以下にまで除去されており、かつ
(ii)当該ラテックスのゴム固形分100重量部に対してケイフッ化ソーダ1.5重量部と亜鉛華3重量部とを配合した条件でのゲル化時間が5〜25分であることを特徴とする。
【0014】
上記(i) に記載の窒素含有量(N%)は、脱蛋白処理によって達成される脱蛋白の程度を示すものであって、この値がゴム固形分に対して0.1重量%を超えるときは、蛋白質に起因するアレルギーの発生するおそれを除去することができず、蛋白質の腐敗等によってラテックスの安定性が低下するという問題もある。本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスでは、上記(i) に示すように、ゴム固形分に対する窒素含有率で0.1重量%以下にまで高度に除去されていることから、蛋白質に起因する即時型アレルギーの発生するおそれが十分に抑制されて、人体に対する安全性が高いものになるとともに、ラテックスの安定性も高いものとなっている。
【0015】
上記窒素含有量(N%)は、上記範囲の中でも特に0.05重量%以下であるのが好ましく、0.02重量%以下であるのがより好ましい。なお、脱蛋白処理が施された天然ゴムラテックスであっても、そのゴム中には、低分子量のゴム成分の分子間結合に介在する短鎖のペプチド分子が除去されずに残存する。この短鎖のペプチド分子はアレルギーの原因となるものではないものの、これに起因して不可避的に0.02%程度の窒素含量は残存してしまう。従って、窒素含有率が0.02%以下にまで除去されていれば、完全に蛋白質が除去されたと判断することができる。
【0016】
一方、上記(ii)に記載のゲル化時間とは、ラテックスのゴム固形分100重量部に対してケイフッ化ソーダ1.5重量部および亜鉛華3重量部を配合した場合に、配合直後から、ゲル化によってラテックスが流動性を失ってしまうまでの時間であって、この時間が5〜25分の範囲にあれば、ラテックスの塩凝固製品の製造上必要とされる凝固性が確保される。
さらに、ゲル化時間が上記範囲に調整されることにより、ラテックスの安定性をも高める効果を得られる。
【0017】
従って、本発明のラテックスによれば、窒素含有量(N%)が上記範囲を満足することによってラテックスの安定性の低下が防止されるだけでなく、ゲル化時間を上記範囲に調整することとの相乗効果によってラテックスの安定性をさらに高めることができ、ラテックスからの塩による凝固製品の製造に際して、十分な安定性と凝固性とを同時に満足させることができる。
前述のゲル化時間が上記範囲を下回ると、凝固に至るまでの時間が速くなりすぎるために、型にあらかじめ凝固剤を付着させてラテックスにディップして皮膜を形成させるディッピング法では、エアーを抱き込んでしまい、ピンホールが発生し易くなったり、膜厚が均一な皮膜を形成できなくなる。また、フォームラバーを製造する際のように、ラテックスを泡立てて緩凝固剤を配合し、成形型に充填した上で凝固させる方法では、十分な工程時間が得られないために、型に充填する前にラテックスが凝固してしまう。さらに、ゲル化時間が上記範囲を下回るときには、ラテックスが極めて短時間で不安定になって、凝固物を生じ易くなるという問題も生じる。
【0018】
一方、ゲル化時間が上記範囲を超えるときは、凝固の進行が遅すぎるかあるいは凝固が進行しなくなってしまうために、ディッピング法では皮膜厚みが薄くなり、かつゲル強度が弱くなる。また、緩凝固剤を配合して成形する方法では、生成させた泡を維持することができず、凝固させるまでに潰れてしまうために、所望の微細なスポンジ構造を得ることができないか、あるいは製品そのものを成形することができなくなる。
【0019】
上記ゲル化時間は、上記範囲の中でも特に10〜20分であるのが好ましく、12〜18分であるのがより好ましい。
本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスにおいて、ゴム固形分の含有割合は特に限定されるものではないが、通常55〜65重量%の範囲で設定される。
また、本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスを塩凝固製品用に用いる場合には、pHがアルカリ領域で保存されていることが望ましい。この場合におけるpHの好ましい範囲は9〜12、より好ましくは10.3〜10.8である。
【0020】
〔脱蛋白天然ゴムラテックスの製造方法〕
本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスは、例えば次のようにして製造される。
まず、フィールドラテックスまたはハイアンモニアラテックスに、蛋白分解酵素と、炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤とを配合して、これを20〜60℃、好ましくは室温付近で2時間〜1週間程度放置し、熟成させることにより、蛋白質の分解処理を行う。次いで、ラテックスを適宜希釈し、ラテックスのゴム粒子を分離、回収すべく、遠心分離を行う。
【0021】
上記脱蛋白天然ゴムラテックスの製造方法において、蛋白分解酵素の配合量はラテックスのゴム固形分100重量部に対して0.0001〜20重量部程度となるように、炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤の配合量はラテックスのゴム固形分100重量部に対して0.1〜20重量部程度となるように調整するのが好ましい。
上記脱蛋白天然ゴムラテックスの製造方法において、蛋白質分解処理後の濃縮は、遠心分離に代えて限外濾過を用いる方法であってもよい。
【0022】
また、蛋白質の分解は、蛋白分解酵素を用いる方法に代えて、以下の方法を採用することができる。
まず、天然ゴムラテックスに、20〜30%のKOHまたはNaOH水溶液を9:1の体積比で混合し、さらに炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤を配合し、これを室温付近で2〜10日間熟成させる。次いで、希釈し、遠心分離等の濃縮処理によって精製する。
【0023】
〔原材料等〕
(天然ゴムラテックス)
本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスを製造するのに用いられる天然ゴムラテックスは、ゴム樹液として得られるフィールドラテックスまたはアンモニア保存濃縮ラテックスのいずれであってもよい。
(蛋白分解酵素)
天然ゴムラテックスの脱蛋白処理に用いられる脱蛋白酵素には、従来公知の種々の酵素を用いることができ、中でもアルカリプロテアーゼ等が好適に用いられる。プロテアーゼの由来としては、細菌由来のもの、糸状菌由来のもの、酵母由来のものが挙げられるが、特に細菌由来のものが好ましい。さらに、界面活性剤に対する耐性をも兼ね備えた「花王プロテアーゼKAP〔花王(株)製〕」を用いるのが、より一層好ましい。
【0024】
(蛋白分解酵素の配合量)
天然ゴムラテックスに脱蛋白処理を施す際の蛋白分解酵素の配合量は、蛋白分解酵素の活性によって決定されるものであるが、通常、ラテックス中のゴム分100重量部に対して、0.0001〜20重量部、好ましくは0.001〜10重量部の範囲に設定される。
蛋白分解酵素の配合量が上記範囲を下回ると、脱蛋白の効果が不十分になり、蛋白質に起因する即時型アレルギーの発生するおそれを十分に除去できなくなるおそれがある。
【0025】
逆に、蛋白分解酵素を、上記範囲を超えて配合しても、期待される効果を発揮することができなかったり、コストに見合った効果を得ることができなくなるおそれがある。
(脂肪酸塩系アニオン界面活性剤)
本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスを製造するのに用いられる界面活性剤には、炭素数が14〜22である脂肪酸塩系のアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0026】
上記アニオン界面活性の脂肪酸塩を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、また、直鎖状、分岐状またはゲルベ状のもののいずれであってもよい。さらに、脂肪酸の種類は1種に限定されず、2種以上の脂肪酸を混合したものであってもよい。
脂肪酸の炭素数は前述のように14〜22であって、具体的には、ミリスチン酸(C=14)、パルミチン酸(C=16)、ステアリン酸(C=18)、アラキン酸(C=20)、ベヘン酸(C=22)等が、不飽和脂肪酸の具体例としてはオレイン酸(C=18)、エライジン酸(C=18)、リシノール酸(C=18)、リノール酸(C=18)、リノレン酸(C=18)、アラキドン酸(C=20)、セトレイン酸(C=22)、エルカ酸(C=22)、ブラシジン酸(C=22)等が挙げられる。
【0027】
これらの脂肪酸塩のうちで、オレイン酸塩およびリシノール酸塩を用いるのが特に好ましい。これは、オレイン酸塩またはリシノール酸塩はフォームラバーの起泡剤としても作用するため、起泡剤の使用量を減少させることができるからである。
なお、上記炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤に加えて、さらに炭素数が13以下の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤を併用してもよい。特に、炭素数が12のラウリン酸塩はラテックスの安定性を向上させる効果が特に優れているため、炭素数が14〜22のものと併用することで、ラテックスの機械的安定性とゲル化性とのバランスをより一層向上させることができる。
【0028】
(脂肪酸塩系アニオン界面活性剤の配合量)
天然ゴムラテックスに添加される、炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤の配合量は、ラテックス中のゴム固形分100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは5〜10重量部である。
炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤の配合量が上記範囲を下回るときは、ラテックスの機械的安定性が得られず、例えば注型によりゴム製品を製造する場合には型に注入する前にラテックスのゲル化が進行してしまうおそれがある。また、炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤以外の界面活性剤を用いた場合には、例えばラテックスが極めて安定になりすぎてしまう結果、ゲル化時間が長くなりすぎるという問題が生じるおそれが生じる。
【0029】
逆に、炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤を、上記範囲を超えて配合したとしても、期待される効果を発揮することができなかったり、コストに見合った効果を得ることができなくなるおそれがある。
〔その他の添加剤〕
本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスには、脱蛋白処理を施した後において、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、充填剤、可塑剤、軟化剤、補強剤等の、従来公知の種々の添加剤を配合することができる。
【0030】
また、脱蛋白処理を施した後のラテックスには、さらにアンモニア等を配合して、ラテックスの全アルカリ分を適宜調整することができる。
特に、ラテックス中の全アルカリ分がアンモニア換算値で0.2〜0.4重量%となるように調整することによって、ゲル化時間の調整をさらに容易にすることができる。
〔本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスの用途〕
本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスは、例えば手袋、避妊具、医療用具、ゴム糸等の分野に用いることができるだけでなく、比較的厚手のゴム製品の原材料として、すなわち、フォームラバーやカテーテル等の原材料として使用することができる。
【0031】
【実施例】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔使用した成分〕
実施例および比較例で使用した各種成分は次のとおりである。
(天然ゴムラテックス)
天然ゴムラテックスには、
・H&C社製のハイアンモニア天然ゴムラテックス〔商品名「Soctex」、ゴム固形分濃度60重量%〕(以下、「HAラテックス」という。)、または
・マレーシアFelda社製の天然ゴムフィールドラテックス〔ゴム固形分濃度30重量%〕(以下、「フィールドラテックス」という。)
のいずれかを用いた。
【0032】
(蛋白分解酵素)
蛋白分解酵素には、界面活性剤に対する耐性を有する、花王(株)製のアルカリプロテアーゼ〔商品名「花王プロテアーゼKAP」〕を用いた。
(脂肪酸塩系アニオン界面活性剤)
脂肪酸塩系アニオン界面活性剤には、
・オレイン酸カリウム水溶液〔脂肪酸の炭素数18、有効成分21%、花王(株)製の商品名「FR−14」〕
・ヒマシ油(主成分:リシノール酸)カリウム水溶液〔主成分の脂肪酸の炭素数18、有効成分33%、花王(株)製の商品名「FR−25」〕、または
・ラウリン酸アンモニウム水溶液(脂肪酸の炭素数12、有効成分20%)
のいずれか、もしくはこれらの2種以上の混合物を用いた。
【0033】
なお、上記ラウリン酸アンモニウム水溶液は、ラウリン酸18.4重量%、28%−アンモニア水8.4重量%およびイオン交換水73.2重量%を混合して調製したものである。
(その他の界面活性剤)
比較例1〜7において、界面活性剤としては、
・硫酸エステル系アニオン界面活性剤であるポリオキシエチレン(2) ラウリルエーテル硫酸ナトリウム〔有効成分70%、花王(株)製の商品名「エマールE70C」〕をイオン交換水で希釈して、最終的に有効成分を10%に調整した水溶液、
・ノニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル〔有効成分100%、HLB15.5、花王(株)製の商品名「エマルゲン920」〕をイオン交換水で希釈して、最終的に有効成分を10%に調製した水溶液、または
・硫酸エステル系アニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン〔有効成分40%、花王(株)製の商品名「エマール20T」〕
のいずれかを用いた。
【0034】
〔脱蛋白天然ゴムラテックスの製造〕
実施例1
HAラテックス166.7重量部(ゴム固形分100重量部)に対して、蛋白分解酵素0.07重量部と、FR−14(炭素数が18である脂肪酸塩系アニオン界面活性剤)9.5重量部(有効成分2.0重量部)とを配合し、さらにイオン交換水を加えて全量を333.3重量部となるように調整した。
【0035】
こうして調整されたラテックスを30℃で24時間放置し、熟成させることによって、蛋白質の分解処理を行った。
次いで、蛋白質の分解処理が施されたラテックス333.3重量部にイオン交換水を加え、全量を1000.0重量部に(ゴム固形分濃度を10重量%に)調整した後、これを小型のディスク式連続遠心分離機に投入して、約10000rpm(重力加速度約9000G)で10〜30分間遠心分離処理を行った。
【0036】
遠心分離処理後、得られたクリーム分を回収してイオン交換水で希釈するとともに、アンモニアを添加することによって、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
実施例2および3
前出の「FR−14」とともに、炭素数が12である脂肪酸塩系アニオン界面活性剤(ラウリン酸アンモニウム)を、その配合量が表1に示す割合となるように併用したほかは実施例1と同様にして、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0037】
実施例4
脂肪酸塩系アニオン界面活性剤として、前出の「FR−14」に代えて、主成分の脂肪酸の炭素数が18である「FR−25」を用いたほかは実施例1と同様にして、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
実施例5および6
前出の「FR−25」とともに、炭素数が12である脂肪酸塩系アニオン界面活性剤(ラウリン酸アンモニウム)を、その配合量が表1に示す割合となるように併用したほかは実施例1と同様にして、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0038】
実施例7
クリーム分回収後のアンモニアの添加時に、全アルカリ分濃度が0.1重量%となるように調整したほかは、実施例1と同様にしてゴム固形分濃度が60.0重量%の脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
実施例8
クリーム分回収後のアンモニアの添加時に、全アルカリ分濃度が0.5重量%となるように調整したほかは、実施例1と同様にしてゴム固形分濃度が60.0重量%の脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0039】
実施例9
天然ゴムラテックス333.3重量部(ゴム固形分100重量部)に対して、蛋白分解酵素0.07重量部と、前出の「FR−25」9.5重量部(有効成分2.0重量部)と、ラウリン酸アンモニウム2.5重量部(有効成分2.0重量部)とを配合した。
こうして調整されたラテックス30℃で24時間放置し、熟成させることによって、蛋白質の分解処理を行った。
【0040】
次いで、蛋白質の分解処理が施されたラテックス345.4重量部にイオン交換水を加え、全量を1000.0重量部に(ゴム固形分濃度を10重量%に)調整した後、実施例1と同様にして遠心分離処理を行った。
遠心分離処理後、実施例1と同様にして、クリーム分の希釈とアンモニアの添加とを行い、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0041】
実施例10
ラウリン酸アンモニウムの配合量を5.0重量部(有効成分1.0重量部)としたほかは、実施例7と同様にして、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
実施例11
実施例7と同様にして蛋白質の分解処理を施したラテックス345.4重量部にイオン交換水を加え、全量が500重量部となるように(ゴム固形分濃度が20%となるように)希釈した後、実施例1と同様にして、遠心分離処理、クリーム分の希釈およびアンモニアの添加を行い、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0042】
上記実施例1〜11について、ラテックスのゴム固形分100重量部に対する各種界面活性剤の配合量と、遠心分離処理時におけるラテックスのゴム固形分濃度とを表1および2に示す。
【0043】
【表1】
Figure 0003568155
【0044】
【表2】
Figure 0003568155
【0045】
比較例1
界面活性剤を配合しなかったほかは実施例1と同様にして、蛋白質の分解処理と遠心分離処理とを行った。さらに、遠心分離処理後、実施例1と同様にして、クリーム分の希釈とアンモニアの添加とを行い、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0046】
比較例2
実施例1で使用したのと同じHAラテックスについて、蛋白質の分解処理を経ずに、すなわち蛋白分解酵素や界面活性剤を添加せず、かつ熟成操作を施さずに、そのまま遠心分離処理に供した。
遠心分離処理は、ラテックスのゴム固形分濃度が30重量%となるように希釈してから、実施例1と同様に小型のディスク式連続遠心分離機にて、約10000rpmで30分間行った。
【0047】
遠心分離処理後、得られたクリーム分を回収してイオン交換水で希釈するとともに、アンモニアを添加することによって、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
比較例3
HAラテックスに代えてフィールドラテックスを用いたほかは比較例1と同様にして、蛋白質の分解処理と遠心分離処理とを行った。
【0048】
さらに、遠心分離処理後、実施例1と同様にして、クリーム分の希釈とアンモニアの添加とを行い、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
比較例4〜7
脂肪酸塩系アニオン界面活性剤(前記FR−14、FR−25またはラウリン酸アンモニウム)に代えて、前記エマールE−70C、エマルゲン920またはエマール20Tを表3に示す配合量で配合したほかは実施例1と同様にして、蛋白質の分解処理と遠心分離処理とを行った。さらに、遠心分離処理後、実施例1と同様にして、クリーム分の希釈とアンモニアの添加とを行い、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0049】
比較例8および9
脂肪酸塩系アニオン界面活性剤として、炭素数が14であるラウリン酸アンモニウムのみを、表3に示す配合量で配合したほかは実施例1と同様にして、蛋白質の分解処理と遠心分離処理とを行った。さらに、遠心分離処理後、実施例1と同様にして、クリーム分の希釈とアンモニアの添加とを行い、ゴム固形分濃度が60.0重量%、全アルカリ分濃度が0.3重量%(アンモニア換算値)である脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0050】
上記比較例1〜9について、ラテックスのゴム固形分100重量部に対する各種界面活性剤の配合量と、遠心分離処理時におけるラテックスのゴム固形分濃度とを表3に示す。
【0051】
【表3】
Figure 0003568155
【0052】
〔脱蛋白天然ゴムラテックスの物性評価〕
上記実施例および比較例で得られた脱蛋白天然ゴムラテックスについて、ケイフッ化ソーダおよび亜鉛華を配合したときのゲル化時間の測定と、ケルダール法による窒素含有率の測定とを行った。
さらに、上記実施例および比較例で得られた脱蛋白天然ゴムラテックスについて、下記の方法により、その安定性およびゲル化性の評価を行った。
【0053】
(安定性)
(a) クラクソン試験機による機械的安定度をISO 35の規定に準じて測定した。
(b) 表4に示すダンロップ法フォームラバー配合処方に従って配合し、起泡、ゲル化剤の添加を行い、ケイフッ化ソーダおよび亜鉛華の添加、型への注入、ゲル化までの工程を観察して、次の基準で安定性をチェックした。
5:凝固物が全く生成せず、問題なし。
4:ゲル化後、少量の微小凝固物が観察された。
3:ゲル化剤注入時点で凝固物が生成した。
2:起泡(泡立て)、撹拌時に凝固物が生成した。
1:配合、攪拌の段階で既に多量の凝固物が生成し、使用することができなかった。
【0054】
【表4】
Figure 0003568155
【0055】
(ゲル化性)
(a) 試験管に入れておいた10%の硝酸カルシウム水溶液にディップして、乾燥後、ラテックスを30秒間ディップした。さらに100℃で1時間乾燥させた後、生成したゴム膜(フィルム)の厚みを測定した。
(b) 「安定性試験」の(b) と同じ方法でフォームラバーを成形し、ゲル化の状態をチェックした。
【0056】
以上の結果を表5〜7に示す。
【0057】
【表5】
Figure 0003568155
【0058】
【表6】
Figure 0003568155
【0059】
【表7】
Figure 0003568155
【0060】
表5〜7より明らかなように、実施例1〜11のラテックスでは、いずれもその窒素含有率が0.1重量%以下と低いことから、かかるラテックスを用いて得られたゴム製品については、蛋白質に起因するアレルギーが生じるおそれを十分に抑制することができた。
また、実施例1〜11のラテックスは、そのゲル化時間がいずれも5〜25分の範囲に収まっており、とりわけ実施例1〜6および9〜11のラテックスでは10〜20分の範囲に収まり、塩凝固法によるゴム製品を製造する上で十分な凝固性を示していた。
【0061】
さらに、クラクソン安定度の結果は十分に長い時間を示しており、フォームラバー製造工程で凝固物が発生するという問題が全く生じなかった。ゲル化性についてもいずれも良好で、十分な膜厚のゴム製品を製造することができた。
なお、実施例7では、クリーム分調整後の全アルカリ分が0.1%と若干低いため、ゲル化時間が多少早くなる傾向があった。この場合、実用上の問題は生じないものの、例えばフォームラバーの製造時においてゲル化剤を添加した後の工程時間(具体的には、型への注入までの時間)を短めに設定しなければならないという若干の制限が加わる。
【0062】
また、実施例8では、クリーム分調整後の全アルカリ分が0.5%と若干高いため、ゲル化時間が多少遅くなる傾向があった。この場合、実用上の問題は生じないものの、例えばフォームラバーの気泡構造が若干粗くなる傾向が見られた。これに対し、比較例1および3では蛋白質の分解処理時に脂肪酸塩系のアニオン界面活性剤を配合していないために、比較例2ではさらに蛋白質分解処理自体を行っていないために、ゲル化時間が極めて短くなった。その結果、ラテックスの機械的安定性もゲル化性も、いずれも実用上不十分であった。
【0063】
比較例4〜6では、脂肪酸塩系のアニオン界面活性剤以外の界面活性剤を用いていることから、ラテックスが極めて安定になり過ぎてしまい、その結果、ゲル化時間が長くなりすぎるという問題が生じた。比較例7は界面活性剤の配合量が少ないため、ラテックスが安定になりすぎる問題は生じなかったものの、機械的安定性に欠けるという問題を改善することができなかった。
なお、脂肪酸塩系のアニオン界面活性剤ではあるものの、その炭素数が13以下であるもののみを配合した比較例8および9では、脱蛋白の効果が十分ではあったものの、ゲル化時間を適切な時間に調節することができなかった。

Claims (3)

  1. ラテックス中の蛋白質がゴム固形分に対する窒素含有率で0.1重量%以下まで除去されており、かつ当該ラテックスのゴム固形分100重量部に対してケイフッ化ソーダ1.5重量部と亜鉛華3重量部とを配合した条件でのゲル化時間が5〜25分であることを特徴とする脱蛋白天然ゴムラテックス。
  2. 天然ゴムラテックスに蛋白分解酵素と、炭素数が14〜22の脂肪酸塩系アニオン界面活性剤とを配合して、脱蛋白処理を施したものである請求項1記載の脱蛋白天然ゴムラテックス。
  3. ラテックス中の全アルカリ分がアンモニア換算値で0.2〜0.4重量%である請求項1記載の脱蛋白天然ゴムラテックス。
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