JP3566253B2 - 電気音響変換器の磁気回路組立方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電気音響変換機の磁気回路部品を接着剤によって組み立てるための、電気音響変換器の磁気回路組立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スピーカなどの電気音響変換器の磁気回路部品を組み立てる際に使用される接着剤には、エポキシ系接着剤、マイクロカプセル型アクリル系接着剤、二液型アクリル系接着剤等が使用されている。
【0003】
常温硬化型エポキシ系接着剤は、二液を計量混合して使用するものである。マイクロカプセル型接着剤は、常温での硬化時間が5分程度であり、かつ一液であり、作業性に優れている。二液型アクリル系接着剤は、常温での硬化時間が5分程度である。
【0004】
シアノアクリレート系接着剤は、加熱、混合等の必要がなく、室温で短時間に硬化させることができ、一定条件下での作業性に優れている。また、α−シアノアクリレート接着剤は、被着体表面に付着した水分や大気中の湿度、その他アルカリ性物質などの種々のアニオン活性物質によって、触媒を用いることなく、常温で数秒から数分間の短時間で重合硬化する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
磁気回路部品を接合する場合に使用される前記の接着剤には、次のような問題点がある。つまり、常温硬化型エポキシ系接着剤は、二液を計量混合しなければならず、また、常温での硬化時間が長いという問題がある。マイクロカプセル型接着剤は、マイクロカプセルを破壊しなければ硬化しないため、接着剤のはみ出し部分が未硬化になるという問題がある。二液型アクリル系接着剤は、二液混合操作を必要とすることや、二液塗布のために接着剤の微量塗布が困難という欠点もある。
【0006】
シアノアクリレート系接着剤は、温度と湿度とが低い冬期で硬化時間のバラツキが大きく、磁気回路部品の高速の自動組み立てでは、重大な問題を引き起こす。また、シアノアクリレート系接着剤は、衝撃強度、耐湿接着力、耐熱老化接着力などが低く、接着性能の信頼性に乏しいという問題がある。さらに、シアノアクリレート系接着剤は、アニオン重合を禁止あるいは遅延する酸性表面をもつ物質上での、シアノアクリレートの硬化しやすさに依然として問題が残されている。この問題を改善するため、市販の塩基性表面活性剤で前処理を行うことは可能であるが、生産性を求める組み立て工程で第二成分を使用することは、望ましいことではない。
【0007】
α−シアノアクリレート接着剤は、先に述べたように、被着体表面に付着した水分や大気中の湿度、その他アルカリ性物質などの種々のアニオン活性物質によって、触媒を用いることなく、常温で数秒から数分間の短時間で重合硬化する。アニオン重合反応は接着剤界面から重合反応が開始するため、反応速度を速くすると、接着剤層に内部応力が発生し、接着力が低下するという問題がある。
【0008】
そこで、衝撃剥離強度、耐熱強度、耐湿強度などを改善した耐久性のある変性シアノアクリレート接着剤が種々提案され使用されている。これらの変性シアノアクリレート接着剤は、セットタイム(固着時間)が180秒以上と長い。かつ、変性シアノアクリレート接着剤は、冬期になると接着速度並びに接着力のバラツキが大きくなるため、磁気回路部品の高速の自動組み立てなどに問題があった。
【0009】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、紫外線照射などの特殊な処理を施さなくとも、短時間で磁気回路部品を固定することができ、しかも一定時間経過後に充分な接着強度が得られる、電気音響変換器の磁気回路組立方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、ウレタンゴム7〜10重量部、ピロガロール0.1〜0.2重量部、ポリエチレングリコールまたはその誘導体0.1〜0.3重量部、およびトリクレシルホスフェート6〜7重量部からなる瞬間接着剤組成物を用い、60秒以内の固着時間で電気音響変換器の磁気回路部品を接着することを特徴とする電気音響変換器の磁気回路組立方法である。
【0011】
また、請求項2の発明は、2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、ウレタンゴム7〜10重量部、ピロガロール0.1〜0.2重量部、ポリエチレングリコールまたはその誘導体0.1〜0.3重量部、トリクレシルホスフェート6〜7重量部、およびカーボンブラック0.05重量部以下からなる瞬間接着剤組成物を用い、60秒以内の固着時間で電気音響変換器の磁気回路部品を接着することを特徴とする電気音響変換器の磁気回路組立方法である。
【0012】
請求項1および請求項2の発明に用いられる接着剤は変性シアノアクリレート接着剤である。この変性シアノアクリレート接着剤は、2−シアノアクリル酸エチル、ピロガロール、ウレタンゴム、ポリエチレングリコールまたはその誘導体、およびトリクレシルホスフェートの相乗作用により、低温度で低湿度下であっても、固着時間が60秒以内であり、速硬化で優れた高接着強度をもつ。特に、衝撃剥離強度、耐熱性、耐熱老化性、耐湿性などを有する。
【0013】
この発明は前記の接着剤を用いるので、電気音響変換機の磁気回路部品を組み立てる際に、高速な組み立てが容易となり、電気音響変換器の磁気回路を安価に提供することが可能となる。
【0014】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の実施の形態について、図面を参照して詳しく説明する。
【0015】
この実施の形態による電気音響変換器の磁気回路組立方法には、α−シアノアクリレート接着剤組成物(特開昭62−81468号公報)に特定のアニオン重合促進剤と金属への接着性の附与並びに接着皮膜調整剤として、トリクレシルホスフェートを添加した変性シアノアクリレート接着剤が用いられる。
【0016】
この実施の形態では、α−シアノアクリレートとして2−シアノアクリル酸エチルを用いている。この実施の形態で使用可能なピロガロールは、次の化学式で示される。
【0017】
そして、2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、ピロガロールの含有量は0.1〜0.2重量部である。同様にして、この実施の形態で使用可能なウレタンゴムは、熱可塑性ウレタンゴム、ウレタンエラストマー、ウレタンプレポリマー、未加硫ウレタンゴムと呼ばれるポリマーで、ゴム弾性を示し、2−シアノアクリル酸エチルに可溶なものであればよい。ウレタンゴムの添加量は、2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して7〜10重量部である。
【0018】
ポリエチレングリコールまたはその誘導体は、アニオン重合促進剤であり、次の化学式で示される。
X・(CH2CH2O)n・Y
【0019】
この化学式中で、Xは、OH基、アルキル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、アルコキシル基である。Yは、H基、アルキル基である。nは、4〜100である。重合促進剤であるポリエチレングリコールまたはその誘導体の添加量は、2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、0.1〜0.3重量部である。
【0020】
トリクレシルホスフェートは、接着特性などを向上させるためのものであり、2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、6〜7重量部である。本発明の変性シアノアクリレート接着剤も被着体に対する接着剤の塗布量で、接着速度と接着強度が変化するので、接着管理を容易にするため、2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、カーボンブラック0.01〜0.05重量部を添加している。
【0021】
この実施の形態で用いられる変性シアノアクリレート接着剤は、2−シアノアクリル酸エチル、ピロガロール、ウレタンゴム、ポリエチレングリコールまたはその誘導体、およびトリクレシルホスフェートの相互の相乗作用により、低温で低湿度下であっても速硬化で優れた高接着強度、特に衝撃剥離強度、耐熱性、耐熱老化性、耐湿性などを有する。
【0022】
この変性シアノアクリレート接着剤を用いて、この実施の形態では、例えば図1に示すようなスピーカの磁気回路を組み立てる。図1のスピーカの磁気回路は、磁束を導くヨーク1、ヨーク1に磁気を加えるマグネット2、およびヨーク1と共に磁束を導くプレート3で構成される。ヨーク1、マグネット2、およびプレート3は磁気回路部品である。なお、図1で、符号4は電気信号によって振動する振動板、符号5は振動板5に取り付けられているボイスコイルである。
【0023】
前記の変性シアノアクリレート接着剤は、ヨーク1とマグネット2との接着や、マグネット2とプレート3との接着に用いられる。
【0024】
この実施の形態によれば、前記の磁気回路の組み立てに際して変性シアノアクリレート接着剤を用いたので、セットタイムが60秒以内で、スピーカの磁気回路部品を接着することができる。つまり、加熱、紫外線照射などの特殊な処理を施さなくとも、短時間で電気音響変換器の部品を固定することができ、しかも、一定時間の経過後には充分な接着強度を得ることができる。この結果、この実施の形態によれば、スピーカの磁気回路の高速組み立てが容易となり、スピーカの磁気回路を安価に提供することが可能となった。
【0025】
【実施例】
つぎに、この発明の実施例1、2について、図面を用いて詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
この実施例では、次のようにして作製した変性シアノアクリレート接着剤を用いた。最初に、シアノンS100重量部にアイアンラバー8重量部を加えた。なお、シアノンSは、高圧ガス工業株式会社の製品であり、2−シアノアクリル酸エチル99.9%以上(重量比)と、重合禁止剤としてのハイドロキノン0.01%(重量比)と、安定剤としてのトリフルオロボロンエチルエーテルコンプレックス0.001%(重量比)とから成るα−シアノアクリレート接着剤の商品名である。また、アイアンラバーは、NOK株式会社の製品であり、ウレタン未加硫ゴムの商品名である。
【0027】
つぎに、シアノンSにアイアンラバーを加えたものを60〜70℃の温度にて加熱溶解し、均一な溶液とした。この溶液にピロガロール0.1重量部、ポリエチレングリコール(分子量約1000)0.25重量部、トリクレシルホスフェート6.0重量部、カーボンブラック0.025重量部を加え、均一溶解し、室温まで冷却して、接着剤を作製した。
【0028】
こうして作製した変性シアノアクリレート接着剤を試験試料とし、その特性試験結果と、シアノンSの特性試験結果とを表1に示す。
表 1
[備考]
▲1▼粘度:Brook field型回転粘度計にて測定(25℃)
▲2▼セットタイム:JIS K6861準拠、被着体は鋼同士
▲3▼T形剥離強度:JIS K6854−3準拠、被着体は鋼同士
▲4▼衝撃剥離強度:JIS K6855準拠、被着体は鋼同士
▲5▼引張り剪断強度:JIS K6861準拠、被着体は鋼同士
【0029】
前記の変性シアノアクリレート接着剤に対する熱老化性試験としては、クロメート処理鋼板同士を、この接着剤で接着した後、120℃の雰囲気中に168時間放置した。評価方法は高圧ガス工業株式会社の製品であるシアノン721(特開昭62−81468号公報で示される接着剤組成分)との比較で求めた。
【0030】
耐湿熱性試験としては、熱老化性試験と同様に作製した試験片を70℃×95%RHの雰囲気中に168時間放置した。評価方法は、熱老化性試験と同様にシアノン721との比較で求めた。
【0031】
接着強度の測定は、接着後1日間養生し、各環境条件に試験片を曝露した。その後、試験片を23℃×50%RHの雰囲気に1時間放置した後、この雰囲気で、引張剪断強度(引張速度2mm/min)を求めた。
【0032】
これらの試験結果を表2に示す。
表 2
【0033】
表2より明らかなように、この実施例による接着剤の熱老化性と耐湿熱性とは、シアノン721よりも良好であった。
【0034】
[実施例2]
この実施例では、次のようにして作製した変性シアノアクリレート接着剤を用いた。実施例1と同様に、シアノンS100重量部にアイアンラバー8重量部を加え、60〜70℃の温度にて加熱溶解させ、均一な溶液にした。この溶液にピロガロール0.2重量部、ポリエチレングリコール(分子量約1000)0.25重量部、トリクレシルホスフェート7重量部、カーボンブラック0.025重量部を加え、均一に溶解し、室温まで冷却して、接着剤を作製した。
【0035】
硬化促進剤としてのポリエチレングリコールまたはその誘導体と、ウレタンゴムとの相互作用による密着付与剤ピロガロール並びにトリクレシルホスフェートの配合比を変えた、この実施例による接着剤の接着特性と接着皮膜の硬さ(ショアー硬度、ヤング率)とを、実施例2として表3に示す。また、表3には、実施例1で用いた接着剤の特性を示してある。
表 3
[備考]
▲1▼引張剪断強度:JIS K6861準拠、被着体は鋼同士
▲2▼T形剥離強度:JIS K6854−3準拠、被着体は鋼同士
▲3▼衝撃剥離強度:JIS K6855準拠、被着体は鋼同士
▲4▼ショアー硬度D:厚さ5mmの接着剤皮膜を作製し、1日養生後にショアー硬度計で測定
▲5▼ヤング率:厚さ1〜2mmの接着剤皮膜を作製し、1日養生後にSDM−5500(セイコーインスツルメンツ株式会社製)で測定、ただし、昇温速度は2℃/minとした
【0036】
表3から明らかなように、シアノン721の皮膜は、実施例1および実施例2と比較して硬いため、接着剤の硬化時に発生する残留応力が大きくなる。接着面積の大きな磁気回路では、問題がないが、接着面積の小さな磁気回路では、シアノン721が高湿熱試験(70℃×95%RH)で接着強度が劣化し、問題が発生する。
【0037】
実施例1および実施例2による接着特性であれば、接着面積の小さな磁気回路であっても、接着剤の硬化時に発生する応力が接着層で緩和し、かつ、70℃×95RH%という高温多湿試験でも強度劣化が少ない。したがって、実施例1および実施例2で用いた接着剤を小さな磁気回路の組み立てに使用しても、性能を発揮することができる。
【0038】
一方、周知のように、シアノアクリレート系接着剤の硬化速度は、接着雰囲気中の温度と湿度とで変化する。そこで、雰囲気温度と湿度とを変えた場合のセットタイムを、実際の磁気回路を想定して求めた。被着体としては、クロメート処理をした鋼板と、小型磁気回路に使用される直径6.5mm口径のクロメート処理をしたマグネットとを用いた。接着法は、クロメート処理をした鋼板上に、上記接着剤を適量(0.4mg)塗布し、直ちに被着体を接着した。そして、引張剪断方向に2kgの荷重を加え、固着するまでの時間をセットタイムとした。測定結果を表4に示す。
表 4
【0039】
表1から明らかなように、接着時の雰囲気が10℃×30%RHから30℃×80%RHであっても、セットタイムが60秒以下であり、速硬化な接着剤となった。かつ、接着剤皮膜のヤング率が2.81GPa(表3)と柔らかいので、接着剤硬化時の接着層の内部応力が緩和され、耐久性のあるものとなった。
【0040】
以上、この発明の実施の形態および実施例を詳述してきたが、具体的な内容はこの実施の形態および実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
【0041】
【発明の効果】
以上、説明したように、この発明によれば、2−シアノアクリル酸エチル、ウレタンゴム、ピロガロール、ポリエチレングリコールまたはその誘導体、トリクレシルホスフェート、およびカーボンブラックより成る変性シアノアクリレート接着剤を用いるので、接着時の雰囲気が10℃×30%RHから30℃×80%RHであっても、セットタイムが60秒以下の速硬化を可能にした。かつ、接着剤皮膜のヤング率が2.81GPaと柔らかいので、接着剤硬化時の接着層の内部応力が緩和され、耐久性のあるものとなった。
【0042】
したがって、従来から問題であった種々の環境下での接着速度のバラツキや接着強度のバラツキを解消することができる。この結果、電気音響変換器の磁気回路を組み立てる際に、特別な装置や操作を必要とせずに、接着組み立てすべき電気音響変換器の磁気回路を、室温で60秒以内に仮止することができ、一定時間経過後には、磁気回路として充分な接着強度(耐衝撃性、耐熱性、耐湿性、耐熱老化性)を発揮できる。つまり、この発明によれば、特別な装置を用いることなく、磁気回路の組み立ての高速化を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態で組み立てられるスピーカを示す断面図である。
【符号の説明】
1 ヨーク
2 マグネット
3 プレート
4 振動板
5 ボイスコイル
Claims (2)
- 2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、ウレタンゴム7〜10重量部、ピロガロール0.1〜0.2重量部、ポリエチレングリコールまたはその誘導体0.1〜0.3重量部、およびトリクレシルホスフェート6〜7重量部からなる瞬間接着剤組成物を用い、60秒以内の固着時間で電気音響変換器の磁気回路部品を接着することを特徴とする電気音響変換器の磁気回路組立方法。
- 2−シアノアクリル酸エチル100重量部に対して、ウレタンゴム7〜10重量部、ピロガロール0.1〜0.2重量部、ポリエチレングリコールまたはその誘導体0.1〜0.3重量部、トリクレシルホスフェート6〜7重量部、およびカーボンブラック0.05重量部以下からなる瞬間接着剤組成物を用い、60秒以内の固着時間で電気音響変換器の磁気回路部品を接着することを特徴とする電気音響変換器の磁気回路組立方法。
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