JP3565746B2 - 流体ポンプ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カム機構によりプランジャが作動する流体ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ディーゼルエンジン等の内燃機関の燃料ポンプ等として、カム機構によってプランジャを作動させる方式の流体ポンプが用いられている。
近年、ディーゼルエンジンの出力向上およびエミッション改善のために極めて有効な手段として、コモンレールシステムに代表されるように燃料を高圧で噴射することが行われている。
【0003】
しかし、高圧噴射に際してはポンプシステムに多大な負担がかかり、あまり高圧にすると、特にカムとプランジャのような燃料昇圧部の摺動部材間で焼付きが発生するため、高圧化に限界があった。
その解決策として、例えば特開平8−109884号公報には、カムとプランジャとの間に窒化珪素(Si)系のセラミックスボールを介在させることで、カム・プランジャ間の焼付き防止と摩耗抑制を行った流体ポンプが提案されている。
【0004】
しかし、本発明者が種々検討した結果、上記提案の構造ではセラミックスボールとカムおよびプランジャとの摺接が点接触で行われ接触面積が極めて小さいため、特にボールとの摺動量が大きいカムの表面が荒れて焼付きの発生する危険性が高いことが分かった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、カム〜プランジャ間の摺動部における異常摩耗や焼付きを防止して、ディーゼルエンジンの燃料高圧噴射ポンプ等に適した流体ポンプを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本願第1発明によれば下記(1)〜(4)の流体ポンプが提供される。
(1)カム機構によりプランジャが作動する流体ポンプにおいて、上記カム機構は、カムと、このカムに摺接するローラと、このローラに摺接すると共に上記プランジャに当接するシューとから成り、上記ローラおよび上記シューの一方が他方とほぼ等しい熱膨張係数を有するセラミックスから成ることを特徴とする流体ポンプ。
【0007】
(2)上記(1)において、上記ローラが鉄系金属から成り、上記シューがジルコニア(ZrO)系セラミックスから成る。
(3)上記(1)において、上記カムが鉄系金属から成り、上記ローラがジルコニア系セラミックスから成ることを特徴とする流体ポンプ。
(4)上記(1)において、上記ローラまたは上記シューの一方が、セリア安定化ジルコニアとランタンβアルミナとの複合材料から成ることを特徴とする流体ポンプ。
【0008】
また、本願第2発明によれば、下記(5)〜(11)の流体ポンプが提供される。
(5)カム機構によりプランジャが作動する流体ポンプにおいて、上記カム機構は、カムと、このカムに摺接するローラと、このローラに摺接すると共に上記プランジャに当接するシューとから成り、上記ローラおよび上記シューの少なくとも一方が窒化珪素(Si)系または炭化珪素(SiC)系のセラミックスから成ることを特徴とする流体ポンプ。
【0009】
(6)上記(5)において、上記ローラが、相対密度99%以上、曲げ強度1000MPa以上、平均粒径0.8μm以下の窒化珪素系セラミックスから成ることを特徴とする流体ポンプ。
(7)上記(5)において、上記ローラおよび上記シューの両方が、窒化珪素系または炭化珪素系のセラミックスから成ることを特徴とする流体ポンプ。
【0010】
(8)上記(5)において、上記ローラと上記カムとの摺接により生ずる面圧の、該ローラの長手方向における変化が所定範囲内になるように、該ローラの両端をクラウニング形状としたことを特徴とする流体ポンプ。
(9)上記(8)において、上記クラウニング形状が、L’=1.0〜3.0mm,h=2.0〜10.0μm〔但し、L’=L−0.5mm、L’=クラウニング形状部分の実効長、L=クラウニング形状部分の全長、h=L’全体での上記ローラの半径減少量〕で規定されることを特徴とする流体ポンプ。
【0011】
(10)上記(8)において、上記クラウニング形状が、L’=3.0〜5.5mm,h=1.5〜3.5μm〔但し、L’=L−0.5mm、L’=クラウニング形状部分の実効長、L=クラウニング形状部分の全長、h=L’全体での上記ローラの半径減少量〕で規定されることを特徴とする流体ポンプ。
(11)上記(8)において、上記ローラが上記シューより長く且つ上記クラウニング形状部分以外の部分で該シューに摺接することを特徴とする流体ポンプ。
【0012】
更に本願第1、第2発明のいずれによっても下記流体ポンプが提供される。
(12)上記(1)〜(11)のいずれかにおいて、上記シューは少なくとも上記プランジャに当接する部分が曲面であり、且つ該プランジャは少なくとも該シューに当接する部分が平面であることを特徴とする流体ポンプ。
(13)上記(1)〜(11)(ただし(7)を除く)のいずれかにおいて、上記ローラおよび上記シューの一方がジルコニア、窒化珪素および炭化珪素から成る群から選択された1種から成り、他方が該一方との摺接部に燐酸マンガン皮膜を有する鉄基金属から成ることを特徴とする流体ポンプ。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、カムとプランジャとの間にローラとシューをこの順で介在させた構造の流体ポンプにおいて、ローラとシューの一方あるいは両方に特定のセラミックスを用いたことにより、カムからプランジャまでの伝達機構の摺接部での異常摩耗や焼付きの発生を防止する。
【0014】
図1は、本発明を適用する流体ポンプのカム機構およびプランジャの配置例を部分的に示す(1)斜視図および(2)正面図である。この流体ポンプは、カム機構(1〜3)によりプランジャ4が作動する流体ポンプであって、このカム機構は、偏心リング状のカム1と、このカム1に摺接するローラ2と、このローラ2に摺接すると共に上記プランジャ4に当接するシュー3とから成る。図示した構造例では、偏心リング状カム1の偏心運動が、カム1の内周面に摺接するローラ2により往復運動に変換され、この往復運動がローラ2に摺接するシュー3を介して、シュー3に当接するプランジャ4に伝達される。プランジャ4は適当な手段によりシュー3へ向けて付勢された状態で当接しており、ローラ2/シュー3/プランジャ4からなる往復運動系全体としてカム1の内周面の前進・後退に追従して往復運動する。
【0015】
上記構造のポンプシステムは典型的にはディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプに用いられ、通常の摺動構造とは異なり潤滑は燃料の軽油のみで行われるため、特にローラ/シュー間は高圧下で境界摩擦状態あるいは無潤滑摩擦状態に曝される。従来、上記構造の典型的な材料の組み合わせは、下記のように金属材料であった。
【0016】
〔従来構造の材料の組み合わせの典型例〕
カム:SCr420等の構造用合金鋼
ローラ:SKH51等の耐摩耗工具鋼
シュー:SUJ2等の軸受鋼
プランジャ:SKH51等の耐摩耗工具鋼
このようにカム機構/プランジャ系を金属材料で構成すると、上記のような極限的な摩擦状態では、カム/ローラ間やローラ/シュー間で摺動部の異常摩耗や焼付きが発生するため、噴射圧力は高々60〜70MPa程度が限界であった。
【0017】
これに対して本発明では、上記構造においてローラおよびシューの一方または両方に特定のセラミックスを用いることにより、カム/ローラ/シュー間での異常摩耗や焼付きを防止して、200MPaに達する高圧噴射を可能にする。
第1発明においては、ローラとシューの熱膨張係数をほぼ等しくしたことにより、温度変化によるローラ/シュー間のクリアランスの変化が少ないので、高温域でも両者間に十分な潤滑油が供給されるためローラ/シュー間の異常摩耗や焼付きが抑制される。
【0018】
このようなローラとシューの典型的な組み合わせとして、ローラがSKH51に代表される耐摩耗性に優れた工具鋼等の鉄系金属から成り、シューがジルコニア(ZrO)系セラミックスから成る。ジルコニア系セラミックスは熱膨張係数が鉄系金属あるいは鋼と同等の10×10−6−1である。
カムの典型的な材料は、SCr420に代表される構造用合金鋼等の鉄系金属である。カムと摺接するローラの材料は、鉄系金属から成るカムに対する攻撃性が低いことが必要である。ローラが上記のような鉄系金属から成る場合にはカムへの攻撃性が一般に低いので特に問題はないが、ローラがセラミックスから成る場合にはカムへの攻撃性が低いセラミックスを用いるように特に考慮する必要がある。第1発明においては、ローラにジルコニア系セラミックスを用いることにより、鉄系金属から成るカムへの攻撃性を低く抑制することができる。
【0019】
ジルコニア系セラミックスはヤング率が鋼と同等であり、ローラにジルコニア系セラミックスを用いると、鋼製のカムとの接触面での面圧の増大が、窒化珪素(Si)等のセラミックスをローラに用いた場合に比べて小さい。また、ジルコニア系セラミックスは硬さがHV900〜1000であり、窒化珪素系セラミックスの硬さHV1300〜1600に対して低い。そのため、ローラにジルコニア系セラミックスを用いると、接触面圧とローラ硬さが窒化珪素系セラミックスに比べて低く抑制できるので、カムへの攻撃性が小さくなり、焼付き発生を防止する上で特に望ましい。ローラに窒化珪素系のように高ヤング率、高硬さのセラミックスを用いた場合は、後に第2発明について詳述するように、ローラを特定の形状にすることで接触面圧を低下させることができる。
【0020】
ジルコニア系セラミックスは更に、無潤滑摩擦状態での摩擦係数(μ)の荷重依存性が小さいという特性がある。これにより、ローラの回転速度に急激な変化があっても、ローラ/カム間で異常摩耗が発生することがない。
第1発明において、ローラまたはシューを構成するジルコニア系セラミックスとして、セリア安定化正方晶ジルコニア多結晶(Ce−TZP。本明細書中では「セリア安定化ジルコニア」とも略称する。)が特に望ましい。CeO(セリア)で安定化したジルコニアは、MgO(マグネシア)、Y(イットリア)、CaO(カルシア)で安定化したジルコニアに比べて、正方晶から単斜晶への変態温度が低いため、変態に伴う体積変化が実質上無視できる程度に小さく、長期使用時の加熱・冷却の繰り返しによる体積膨張・収縮に起因する破壊が発生することがない。
【0021】
更に望ましくは、ローラまたはシューに、セリア安定化ジルコニア(Ce−TZP)とランタンβアルミナ(LBA。La・11Al)との複合材料を用いる。Ce−TZPは、Y−TZP(イットリア安定化ジルコニア)に比べて靱性は高いが、強度が低く500MPa程度である。LBAとの複合により、Ce−TZP本来の靱性を確保しながら、強度はY−TZP並の900〜1000MPaが得られる。この強度増加により、破壊確率はm=10の場合に1/1000に低減し、部材の信頼性が大幅に向上し、それにより一層の高圧化が可能になる。
【0022】
本願第2発明においては、ローラとシューの少なくとも一方が窒化珪素(Si)系または炭化珪素(SiC)系のセラミックスから成る。窒化珪素系および炭化珪素系のセラミックスは、境界摩擦条件下および無潤滑摩擦条件下で鉄系金属よりも耐摩耗性および耐焼付き荷重(焼付きが発生する最小荷重)が高いという固有の特性を持つ。また、いずれも熱膨張係数が鉄系金属の30〜40%程度と小さいので、特にローラに用いた場合、摺動条件の厳しくなる高温域(高回転・高負荷)では、鉄系金属から成るシューとのクリアランスが広がり、潤滑剤として機能する燃料(軽油)の両者間への供給が増加し、耐焼付き荷重が向上する。
【0023】
特に、窒化珪素系または炭化珪素系のセラミックスをローラおよびシューの少なくとも一方に用いると、更に次の利点もある。すなわち、潤滑剤(燃料)中に含有される水分または水酸基とのトライボケミカル反応によりセラミックスの表面に比較的軟質の酸化珪素(SiO)が生成し、摺動部の摩擦を軽減することである。
【0024】
特に、ローラに用いる窒化珪素系セラミックスは、下記の理由により、相対密度99%以上、曲げ強度1000MPa以上、平均粒径0.8μm以下であることが望ましい。
すなわち、ローラを構成する窒化珪素系セラミックスの相対密度が低いと内部の気孔量が多いためヘルツ応力により接触面近傍の内部から剥離様の破壊が発生し易くなる。強度が低くても同様に剥離様の破壊が発生し易い。更に、上記のように軟質の酸化珪素が生成する際に、摺動条件によっては窒化珪素自体の脱落が起きる可能性もある。窒化珪素系セラミックスの粒径が大きいと、脱落部に発生する窪みが大きくなり、シューおよびカムを攻撃し、異常摩耗が発生したり、焼付きに至る可能性が高くなる。
【0025】
また、ローラおよびシューの両方に窒化珪素系または炭化珪素系のセラミックスを用いると、窒化珪素同士あるいは炭化珪素同士の摩擦下で酸化珪素の生成が促進され、両者間の摩擦低減効果が更に向上する。
第2発明において、特にローラに窒化珪素系または炭化珪素系のセラミックスを用いた場合、摺動面に発生する面圧を低減する配慮が重要である。窒化珪素系または炭化珪素系のセラミックスは鉄系金属に比べて剛性(ヤング率)および硬さがかなり大きいため、鉄系金属同士の接触に比べて摺動面の面圧が上昇する。特にローラ端部とカムとの接触部は面圧が急激に立ち上がって最も大きくなる部位であり、そのためカムが転動疲労による損傷を受けて表面の荒れが発生し、最終的には焼付きに至る原因になる。
【0026】
特にローラ端部での面圧の立ち上がりを低減するために、第2発明の望ましい態様においては、ローラとカムとの摺接により生ずる面圧の、ローラの長手方向における変化が所定範囲内になるように、ローラの両端をクラウニング形状(あるいはテーパ形状)とする。これにより、ローラ端部での面圧が低減し、局部的な高面圧部が解消されてローラ長手方向における面圧分布がなだらかになり、特にカムの耐久性が向上する。クラウニング形状は、クラウニング実効長(L’〔mm〕)とクラウニング量(h〔μm〕)とで規定される。L’およびhは、下記のように定義され、下記の各項は図2に示した各部の寸法である。
【0027】
L’=L−0.5〔mm〕、
L’=クラウニング形状部分の実効長、
L=クラウニング形状部分の全長、
h=L’全体での上記ローラの半径減少量(μm)
望ましいクラウニング形状は、L’=1.0〜3.0mm,h=2.0〜10.0μmで規定される範囲、およびL’=3.0〜5.5mm,h=1.5〜3.5μmで規定される範囲である。
【0028】
ローラ端部での面圧の立ち上がりは、カム摺動面のみでなくシュー摺動面についても耐焼付き性に大きな影響を及ぼす。シュー面圧の低減に対して最も有効なローラの寸法および端部形状は、シューと同一長さにして端部をピン角形状にすることである。このようにすると、シューとの接触面積が増大し、それにより面圧を低減できるという利点もある。
【0029】
しかし、ローラ両端によるカムへの攻撃を抑制するためには、ローラ端部形状をピン角形状ではなく前記のようにクラウニング形状にする方が有利である。
そこで、ローラからカムおよびシューへの攻撃を同時に低減する手段として、第2発明の望ましい態様の一つにおいては、ローラ両端にクラウニングを付与し、ローラをシューより長くし、且つローラのクラウニング形状部分以外の部分でシューに摺接するようなローラの寸法および端部形状にする。
【0030】
最後に、シューへのプランジャの片当たりが発生すると、ローラ/シュー間の面圧が局部的に高くなり、その結果、ローラ/シュー間の焼付きが発生する。
第1発明、第2発明に共通する望ましい態様によれば、シューは少なくともプランジャに当接する部分が曲面であり、且つプランジャは少なくともシューに当接する部分が平面である。シューとプランジャの形状をこのような組み合わせにすることにより、シューとプランジャが往復運動する際のプランジャの片当たりを防止できる。
【0031】
第1発明、第2発明に共通する望ましい別の態様によれば、上記ローラおよび上記シューの一方がジルコニア、窒化珪素および炭化珪素から成る群から選択された1種から成り、他方が該一方との摺接部に燐酸マンガン皮膜を有する鉄基金属から成る。燐酸マンガン皮膜は、化成処理により形成される微細な結晶粒から成る多孔質の皮膜であり、潤滑油を吸収・保持する能力が高いため、ローラ/シュー間の面圧が高い場合にも両者間の潤滑を安定して確保でき、両者の耐摩耗性および耐焼付性を高面圧下でも防止できる。その際、上記セラミックスは表面粗さが小さい方が望ましく、上記鉄基金属は硬さが高い方が望ましい。通常、セラミックスの表面粗さを1.2μmRz以下とし、鉄基金属の硬さをHV500以上とすることが望ましい。
【0032】
以下に、具体的な実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0033】
【実施例】
〔実施例1〕
図3に、第1発明の望ましい態様により、ローラにSKH51を用い、シューにジルコニア(ZrO)系セラミックスを用いた例について、温度変化と両者間のクリアランスとの関係を示す。シューを構成するジルコニア系セラミックスは熱膨張係数がローラを構成する工具鋼SKH51と同等の10×10−6−1であるため、−20℃〜100℃の温度範囲において公差内のクリアランスが維持されることが分かる。このようにクリアランスの変化を少なくできることにより、特に高温域において潤滑剤(例えば軽油等の燃料)による油膜の形成が確保され、十分な潤滑状態が維持され、耐焼付き性が向上する。
【0034】
〔実施例2〕
図4に、第2発明の望ましい態様により、シューに軸受鋼SUJ2を用い、ローラに窒化珪素(Si)系セラミックスを用いた例について、温度変化と両者間のクリアランスとの関係を示す。ローラを構成する窒化珪素系セラミックスは熱膨張係数がシューを構成する軸受鋼SUJ2の30〜40%程度と小さいため、特に摺動条件が厳しくなる高温域(高回転・高負荷)で両者間のクリアランスが広がり、潤滑剤(例えば軽油等の燃料)の供給が増加して潤滑状態が向上し、耐焼付き性が向上する。
【0035】
〔実施例3〕
第2発明の望ましい態様により、ローラを構成する窒化珪素系セラミックスの相対密度、曲げ強度、平均粒径を制御した場合の、焼付き荷重を測定した。焼付き試験および材質特性の測定は下記の条件にて行った。
Figure 0003565746
【0036】
材質特性の測定
相対密度:アルキメデス法により測定
曲げ強度:4点曲げ強度(JIS R1601に準ずる)
平均粒径:研磨面の組織写真上にて100〜200点の測定値の平均値
図5に示した結果から、第2発明の望ましい態様により相対密度99%以上、曲げ強度1000MPa以上、平均粒径0.8μm以下としたサンプルBおよびCは、これらの条件から外れたサンプルAに対して焼付き荷重が顕著に向上していることが分かる。
【0037】
〔実施例4〕
図6および図7に、第2発明の望ましい態様により、ローラを窒化珪素系セラミックスとし、カムを構造用合金鋼SCr420とし、シューを軸受鋼SUJ2とした例について、ローラ端部にクラウニングを設けたことによるカム面圧およびシュー面圧への効果をそれぞれ示す。各曲線はローラ長さ方向における面圧の分布を示す。
【0038】
ローラ形状は、全長20mm、端部面取り部長さ0.6mmまたは0.3mm、クラウニング無しおよびクラウニング有り(クラウニング形状:L’=2mm、h=5μm)とした。また、シュー全長は20mmである。
図中、○のプロットはクラウニング無しの場合であり、特にカム面圧は、図6に示すようにローラ両端で急激に立ち上がり最大値となり、鋭いピークを示している。
【0039】
これに対して、図中●□のプロットで示したように、上記形状のクラウニングを設けると、ローラ両端でのカム面圧の大きなピークは解消し、ローラ全長に渡ってカム面圧はほぼ一定のなだらかな分布になっている。
図7に示すように、シュー面圧は、クラウニング無し(○プロット)の場合に、ロール両端でカム面圧のようには大きなピークにはならないが、小さなピークを示しており、摩耗および焼付き防止の観点からは改善が望ましい。
【0040】
上記形状のクラウニングを設けたことにより、●□のプロットで示したようにシュー面圧についてもロール両端でのピークが解消している。
〔実施例5〕
図8および図9に、実施例4と同じ部材材質の組み合わせで、ローラ端部に実施例4と同様のクラウニングを設け(ローラ端部面取り長さ0.3mm)、ただしローラ全長を、シュー全長と同じ20mmおよびシュー全長より長い21mmとしてた例について、ローラ全長をシュー全長より長くすることによるカム面圧およびシュー面圧への効果をそれぞれ示す。
【0041】
ローラ全長20mmとした場合(図中○プロット)に対して、ローラ全長をシュー全長より長くして、ローラのクラウニング形状以外の部分がシューに摺接するようにしたことにより(図中●プロット)、カム面圧およびシュー面圧共にローラ両端部でのピークが解消していることが分かる。
〔実施例6〕
Rig耐久試験および実機耐久試験を行い、第2発明の望ましい態様によるクラウニング形状の有利な範囲を調べた。ローラに窒化珪素系セラミックスを用い、カムにSCr420構造用合金鋼を用いた。各試験は下記条件で行った。
【0042】
Figure 0003565746
【0043】
Figure 0003565746
図10に試験結果をまとめて示す。図中、○●プロットがRig耐久試験結果、□■プロットが実機耐久試験結果であり、いずれも白抜きが合格、黒塗りが不合格を示す。図中の太線で囲んだ2つの領域が耐焼付き性の合格範囲、すなわちL’=1.0〜3.0mm,h=2.0〜10.0μmで規定される領域Aと、L’=3.0〜5.5mm,h=1.5〜3.5μmで規定され領域Bが合格範囲である。
【0044】
〔実施例7〕
第1、第2発明に共通した望ましい態様により、シュー側の当接部を曲面とし、プランジャ側の当接部を平面とした。下記条件にて試験を行い焼付きの発生しない限界噴射圧(ローラ/シュー限界荷重)を測定した。
試験条件
軽油(JTD−5、燃料温度110℃)
2300rpm×200hr
図11に試験結果を示す。比較のために、上記とは逆にシュー側の当接部を平面としプランジャ側の当接部を曲面とした場合(比較1)およびシュー側およびプランジャ側ともに当接部を曲面とした場合(比較2)の結果も併せて示す。
【0045】
本発明の望ましい態様により、シュー側を曲面としプランジャ側を平面とした組み合わせにすることにより、シュー/プランジャ接触面圧が低く、シュー摩耗後の当接形状が当初の一点接触状態が維持されて新たな軸ずれが発生せず、ローラ/シュー間の焼付きが発生しない限界荷重が高い。
これに対して、比較1、2においては、シュー/プランジャ接触面圧が高く、シューの当接部は摩耗により抉れてしまい当初の一点接触状態が崩れて顕著な軸ずれが発生しており、ローラ/シュー間の焼付きが発生しない限界荷重が低い。
【0046】
これは、軸ずれが起きると、シュー側の面圧分布が変化し、オフセットした側に局部的な高面圧部位が生じ、ローラ/シュー間の焼付きが発生しない限界噴射圧(限界荷重)が低下するためである。
〔実施例8〕
第1、第2発明に共通した別の望ましい態様により、ローラとシューの材質として表1に示す組み合わせについて、摩耗試験および焼付試験を行った。
【0047】
【表1】
Figure 0003565746
【0048】
平板試験片は、表1に示した各セラミックスおよび球状黒鉛鋳鉄(FCD70)で作製した。円筒試験片は機械構造用炭素鋼(S45C)で作製し、燐酸マンガン皮膜を形成したものと皮膜なしのものについて比較した。
上記セラミックス製平板試験片はそれぞれ下記のように作製した。
窒化珪素(Si
平均粒径1.0μmのSi粉末に焼結助剤として少量のY 粉末およびMgAl粉末を混合し、得られた混合粉末を常温にて所定寸法(16mm×6mm×10mm)に加圧成形した。この圧粉成形体を非酸化性雰囲気(窒素雰囲気)中にて1750℃で焼結した。得られた焼結体は気孔率1.0%であった。焼結体の表面を研削して、表1に示したように0.5〜1.4μmRzの種々の表面粗さに仕上げた。
【0049】
ジルコニア(ZrO
平均粒径0.5μmのZrO粉末に焼結助剤として少量のY 粉末を混合し、得られた混合粉末を常温にて上記所定寸法に加圧成形した。この圧粉成形体を大気雰囲気中にて1650℃で焼結した。得られた焼結体は気孔率1.0であった。焼結体の表面を研削して、表1に示したように1.0μmRzの表面粗さに仕上げた。
【0050】
炭化珪素(SiC)
平均粒径0.3μmのSiC粉末に焼結助剤として少量のB粉末およびC粉末を混合し、得られた混合粉末を常温にて上記所定寸法に加圧成形した。この圧粉成形体をアルゴン雰囲気中にて2100℃で焼結した。得られた焼結体は気孔率1.1%であった。焼結体の表面を研削して、表1に示したように1.0μmRzの表面粗さに仕上げた。
【0051】
アルミナ(Al
平均粒径0.4μmのAl 粉末を常温にて上記所定寸法にて加圧成形した。この圧粉成形体を大気雰囲気中にて1700℃で焼結した。得られた焼結体は1.0%であった。焼結体の表面を研削して、表1に示したように1.0μmRzの表面粗さに仕上げた。
【0052】
円筒試験片は、S45Cを焼入れ・焼き戻しにより表1に示した各硬さに調質した後、機械加工により外径35mm、内径30mm、長さ10mmの寸法に作製し、端面を研削により1.2μmRzの表面粗さに仕上げた。
作製した円筒試験片に通常のリューブライト処理を施し、厚さ5μmの燐酸マンガン皮膜を形成した。皮膜表面は2〜3μmRzの表面粗さであった。
【0053】
摩耗試験および焼付試験はそれぞれ下記の条件で行った。
摩耗試験条件
平板試験片と円筒試験片を機械試験所型摩耗試験機にセットし、平板試験片の試験面(16mm×6mmの面)と円筒試験片の端面との接触部に常温の潤滑油(キャッスルモーターオイル5W−30(商品名))を供給しつつ、押圧荷重60kg、回転数160rpmで円筒試験片を1時間回転させた。試験後に、平板試験片および円筒試験片の摩耗量をそれぞれ測定した。
【0054】
焼付試験条件
上記と同様に試験片をセットして潤滑油の供給しつつ、円筒試験片を1000rpmで回転させながら、押圧荷重を100Nから7000Nまで増加させ、焼付の発生したときの荷重(焼付限度荷重)を測定した。
図12および図13に各試験結果を示す。窒化珪素、ジルコニア、炭化珪素のいずれかと、燐酸マンガン皮膜付きS45C鋼とを組み合わせたA1、A2、A3は、窒化珪素と皮膜無しS45C鋼とを組み合わせたA12に対して、耐摩耗性および耐焼付性が顕著に向上している。これに対して、アルミナと皮膜付きS45C鋼とを組み合わせたA4は、鋼側の耐摩耗性および耐焼付性が劣り、また、球状黒鉛鋳鉄と皮膜付きS45C鋼とを組み合わせたA5は、鋳鉄側の耐摩耗性および焼付限度が劣る。
【0055】
ここで、窒化珪素側の表面粗さ(μmRz)が0.5、1.0、1.2、1.4と順に増大しているA6、A1、A7、A8の結果を比較すると、表面粗さを1.2μmRz以下とすることにより、ほぼ同等の優れた耐摩耗性および耐焼付性が得られることが分かる。
また、鋼の硬さ(HV)が300、450、500、600と順に増加しているA11、A10、A9、A1の結果を比較すると、硬さをHV500以上とすることにより優れた耐摩耗性および耐焼付性が安定して得られることが分かる。
【0056】
本実施例の態様は、ローラ/シュー以外にも、▲1▼ピストンリング(ZrO)/シリンダライナー(SUJ2,HV810、燐酸マンガン皮膜)、▲2▼バルブ(Si)/バルブガイド(SCM420H、浸炭、燐酸マンガン皮膜)等に適用できる。
〔実施例9〕
ローラの端部クラウニング形状と、シューの燐酸マンガン皮膜とを組み合わせて適用した。
【0057】
実施例4で示したように、ローラが窒化珪素系セラミックス、カムが構造用合金鋼SCr420、およびシューが軸受鋼SUJ2からぞれぞれなる成る場合、ローラ端部をクラウニング形状とすることにより、ローラ端部におけるカム面圧およびシュー面圧のピークを解消して、面圧分布を均一にできる。
しかし、その結果、平均面圧は上昇することになる。特にシューについては、ローラ端部のクラウニングを設けることにより潤滑油が抜け易くなり、焼付が発生し易くなるため、200MPaといった高噴射圧を保証することが困難になる場合がある。
【0058】
このような場合に、ローラの端部にクラウニング形状を付与することに加えて、シューに燐酸マンガン皮膜を付与することにより、皮膜による潤滑油の吸収・保持作用を利用して、高噴射圧まで焼付を防止することができる。
図14に示した寸法・形状のローラおよびシューについて、下記▲1▼〜▲4▼のように組み合わせを種々に変えて、焼付きが発生する限界噴射圧を測定した。すなわち、ポンプをエンジンの最大負荷域に相当するポンプ回転数で実際に回転させ、焼付きが発生した噴射圧を測定して限界噴射圧とした。
【0059】
▲1▼ SKH51ローラ/SUJ2シュー
▲2▼ 窒化珪素ローラ/SUJ2シュー
▲3▼ 窒化珪素ローラ(クラウニング)/SUJ2シュー
▲4▼ 窒化珪素ローラ(クラウニング)/SUJ2シュー(燐酸マンガン皮膜)
▲3▼,▲4▼のクラウニング形状:L=3mm、h=0.007±0.003mm)
試験条件は下記のとおりであった。
【0060】
ポンプ回転数:2500rpm
燃料 :灯油
燃料温度 :110℃
その結果、図15に示したように、窒化珪素ローラに端部クラウニングを付与すると共にシューに燐酸皮膜を付与することにより、焼付が発生する限界噴射圧が大幅に向上した。▲1▼〜▲3▼の組合せにおいては、図15に示す噴射圧で焼付きが発生したが、▲4▼の組合せでは噴射圧205MPaであっても焼付きは発生しておらず、この噴射圧が限界噴射圧ではないことが確認されている。
【0061】
なお、本実施例の態様は、インナーカム式の流体ポンプに限らず、アウタカム式(列型)、偏心カム式、フェイスカム式の流体ポンプに適用できる。
【0062】
【発明の効果】
発明によれば、カム〜プランジャ間の摺動部における異常摩耗や焼付きを防止して、ディーゼルエンジンの燃料高圧噴射ポンプ等に適した流体ポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明を適用する流体ポンプのカム機構およびプランジャの配置例を部分的に示す(1)斜視図および(2)正面図である。
【図2】図2は、クラウニング形状の説明図である。
【図3】図3は、第1発明の望ましい態様により、ローラにSKH51を用い、シューにジルコニア(ZrO)系セラミックスを用いた例について、温度変化と両者間のクリアランスとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、第2発明の望ましい態様により、シューに軸受鋼SUJ2を用い、ローラに窒化珪素(Si)系セラミックスを用いた例について、温度変化と両者間のクリアランスとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、第2発明の望ましい態様による相対密度、曲げ強度、平均粒径の窒化珪素系セラミックスをローラに用いたことによる、焼付き荷重への効果を示すグラフである。
【図6】図6は、第2発明の望ましい態様により、ローラ端部にクラウニングを設けたことによるカム面圧分布への効果を示すグラフである。
【図7】図7は、第2発明の望ましい態様により、ローラ端部にクラウニングを設けたことによるシュー面圧分布への効果を示すグラフである。
【図8】図8は、第2発明の望ましい態様により、ローラ端部にクラウニングを設けた上で、ローラ全長をシュー全長よりも長くしたことによるカム面圧分布への効果を示すグラフである。
【図9】図9は、第2発明の望ましい態様により、ローラ端部にクラウニングを設けた上で、ローラ全長をシュー全長よりも長くしたことによるシューカム面圧分布への効果を示すグラフである。
【図10】図10は、第2発明の望ましい態様によるクラウニング形状の有利な範囲をクラウニング実効長L’とクラウニング量hとの関係で示すグラフである。
【図11】図11は、第2発明の望ましい態様により、シューの当接面を曲面とし、プランジャの当接面を平面としてことによる耐焼付き性への効果を示す図である。
【図12】図12は、燐酸マンガン皮膜の効果に関する摩耗試験結果を示すグラフである。
【図13】図13は、燐酸マンガン皮膜の効果に関する焼付試験結果を示すグラフである。
【図14】図14は、焼付試験に供するローラおよびシューの形状・寸法を示す斜視図である。
【図15】図15は、ローラへの端部クラウニング付与とシューへの燐酸マンガン皮膜付与とを組み合わせた効果に関する噴射圧を示すグラフである。
【符号の説明】
1…カム
2…ローラ
3…シュー
4…プランジャ

Claims (3)

  1. カム機構によりプランジャが作動する流体ポンプであって、上記カム機構は、カムと、このカムに摺接するローラと、このローラに摺接すると共に上記プランジャに当接するシューとから成り、上記ローラおよび上記シューの少なくとも一方が窒化珪素系または炭化珪素系のセラミックスから成り、記ローラと上記カムとの摺接により生ずる面圧の、該ローラの長手方向における変化が所定範囲内になるように、該ローラの両端をクラウニング形状とした流体ポンプにおいて、
    上記ローラが上記シューより長く且つ上記クラウニング形状部分以外の部分で該シューに摺接することを特徴とする流体ポンプ。
  2. 上記シューは少なくとも上記プランジャに当接する部分が曲面であり、且つ該プランジャは少なくとも該シューに当接する部分が平面であることを特徴とする請求項1に記載の流体ポンプ。
  3. 上記ローラおよび上記シューの一方がジルコニア、窒化珪素および炭化珪素から成る群から選択された1種から成り、他方が該一方との摺接部に燐酸マンガン皮膜を有する鉄基金属から成ることを特徴とする請求項1に記載の流体ポンプ。
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