JP2021143753A - 転がり軸受用保持器および転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受用保持器および転がり軸受 Download PDF

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雅樹 中西
智久 大矢
Tomohisa Oya
智久 大矢
英信 三上
Hidenobu Mikami
英信 三上
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Abstract

【課題】硬質膜の耐剥離性を向上させ、膜本来の特性を発揮するとともに、相手材に対する攻撃性が抑制された転がり軸受用保持器およびこれを備えた転がり軸受を提供する。【解決手段】保持器2は、針状ころ軸受1における針状ころ3を保持し、硬質膜8は、保持器2の外表面のうち、少なくとも針状ころ3との摺接面および他部材との摺接面の上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層と、この上に成膜されるWCとDLCとを主体とする傾斜組成の混合層と、この上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、下地層が成膜される面における粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下である。【選択図】図2

Description

本発明は転がり軸受用保持器およびこれを備えた転がり軸受に関し、特にダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜を表面に形成した転がり軸受用保持器に関する。
硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素、無定形炭素、硬質無定形型炭素、i−カーボン、ダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。
このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドとグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学安定性、耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型・工具類、耐摩耗性機械部品、研磨材、摺動部材、磁気・光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。
従来、転がり軸受の軌道輪の軌道面、転動体の転動面、保持器の摺接面などに対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。DLC膜が剥離すると、軸受部材間で金属接触が起こり、該部材が摩耗することで転動面に摩耗粉が介入し軌道面損傷などに繋がる。このため、転がり軸受における上記各面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。
例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成の下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。
また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。
特許第4178826号公報 特許第3961739号公報
しかしながら、転がり滑り運動において発生する高い接触面圧下では被膜の耐剥離性の確保(フレーキングの防止)は容易でなく、特に滑り摩擦により被膜に対して強いせん断力が発生し得るような潤滑・運転条件においては被膜の耐剥離性の確保はより困難となる。DLC膜の適用が検討される摺動面は、潤滑状態が悪く、滑りを伴うといった状況であることが多く、一般的な転がり軸受における運転状況より厳しい場合が多い。
例えば、針状ころ軸受では、軸受内部が密閉されておらず、グリースをその軸受内部に充填することができないため、軸受回転時に、ポンプなどで潤滑油を摺動部に常に供給する必要がある。このポンプなどは、軸受回転と同時に稼動を開始するので、回転開始直後は軸受全体に潤滑油がまだ行きわたっておらず、十分な潤滑がなされないまま滑り摩擦が生じることになる。そのため、保持器と針状ころとの間に大きな摩擦が生じ、保持器や針状ころの表面が摩耗したり、保持器外径面と実機ハウジング内径面とが摩耗し、最悪の場合、両者が焼き付いたりするおそれがある。
上記のような摩耗や焼き付きを防止すべく、保持器の表面にDLC膜を適応するにしても、DLC膜は硬質な被膜であるため、接触する相手材(例えば、針状ころや実機ハウジング内径面など)に対してアブレシブ摩耗などの摩耗を発生させるおそれがある。特に、潤滑状態が悪く、滑り摩擦が生じる条件下で使用される場合、DLC膜による相手材への攻撃性が増大するおそれがある。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、DLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮するとともに、相手材に対する攻撃性が抑制された転がり軸受用保持器およびこれを備えた転がり軸受の提供を目的とする。
本発明の転がり軸受用保持器は、転がり軸受における転動体を保持する転がり軸受用保持器であって、上記転がり軸受用保持器は鉄系材料からなり、硬質膜は、上記保持器の外表面のうち、少なくとも上記転動体との摺接面および他部材との摺接面の上に直接成膜されるCrとタングステンカーバイト(以下、WCと記す)とを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、上記混合層は、上記下地層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の上記WCの含有率が小さくなり、該混合層中の上記DLCの含有率が高くなる層であり、上記下地層が成膜される面における粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下であることを特徴とする。
上記下地層が成膜される面における粗さ曲線から求められるスキューネスRskが−0.2以下であることを特徴とする。
上記下地層が成膜される面における粗さ曲線から求められる最大山高さRpが0.4μm以下であることを特徴とする。
上記表面層は、上記混合層との隣接側に、上記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする。
上記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、上記保持器が本発明の転がり軸受用保持器であることを特徴とする。
上記転がり軸受が、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの端部に設けられた係合穴に取り付けられることを特徴とする。
本発明の等速ジョイントは、外側継手部材と、内側継手部材と、上記外側継手部材と上記内側継手部材との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材とを備える等速ジョイントであって、硬質膜は、等速ジョイント部材の表面のうち、他部材との摺接面の上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、上記混合層は、上記下地層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の上記WCの含有率が小さくなり、該混合層中の上記DLCの含有率が高くなる層であり、上記下地層が成膜される面における粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受用保持器は、鉄系材料からなり、少なくとも転動体との摺接面および他部材との摺接面に、DLCを含む所定の膜構造を有する硬質膜が成膜されてなる。混合層に用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。さらに、WCとDLCとの混合層を傾斜組成とすることで、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっている。
また、少なくとも転動体との摺接面および他部材との摺接面の上に直接成膜される下地層は、Crを含むので鉄系材料と相性がよく、WやSiと比較して密着性に優れる。これに加えて、該下地層が成膜される面(基材表面)の表面粗さを示す粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下であるので、粗さが十分に小さく、また粗さ突起が先鋭にならず、突起接触による応力集中が軽減される。結果として、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でも硬質膜自体の耐剥離性に優れ、相手材に対する攻撃性を抑制できる。
上記構造により、該硬質膜は、例えば、保持器の摺接面に形成されながら耐剥離性に優れ、DLC本来の特性を発揮できる。この結果、本発明の転がり軸受用保持器は、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる。
本発明の転がり軸受は、複数の転動体と、この転動体を保持する本発明の保持器とを備えるので、苛酷な潤滑状態でも、転動体や保持器の摩耗、焼き付きを防止でき、長寿命となる。
また、この転がり軸受は、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの端部に設けられた係合穴に取り付けられるので、保持器外径面や係合穴内径面での摩耗が摺動初期から長期間にわたり防止され、装置全体の長寿命化を図ることができる。
本発明の転がり軸受の一例として針状ころ軸受を使用した4サイクルエンジンの縦断面図である。 本発明の転がり軸受用保持器を用いた針状ころ軸受を示す斜視図である。 硬質膜の構造を示す模式断面図である。 ダブルオフセット型等速ジョイントの一部切欠け縦断面図である。 トリポート型等速ジョイントの一部切欠け断面図である。 UBMS法の成膜原理を示す模式図である。 UBMS装置の模式図である。 2円筒試験機の模試図である。
DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件の影響を受け大きく異なり、その結果、耐剥離性にも大きな影響を及ぼす。また、耐剥離性は硬質膜が成膜される基材表面の粗さによっても変化する。また、DLC膜は硬質な被膜であり、相手材に対してアブレシブ摩耗などの形態で摩耗を発生させやすい。摩耗のメカニズムには微小な粗さ突起における局所応力集中が関与しており、鋼同士では問題にならないような接触状態でも硬質なDLCが介在する場合には、より繊細な粗さ管理が必要とされる。本発明者らは、粗さパラメータが異なる基材を用いて、2円筒試験などにより、潤滑状態が悪い場合(境界潤滑条件)において転がり滑り摩擦が生じる条件下で検証を重ねた結果、保持器や等速ジョイント部材の表面に形成する硬質膜について、その膜構造を限定するとともに、基材表面の粗さ曲線の算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔq(および歪度Rsk)を所定範囲内とすることで、相手攻撃性の抑制および耐剥離性の向上が図れることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
本発明の転がり軸受用保持器は、転がり軸受における転動体を保持するものである。また、本発明の転がり軸受は、この保持器を用いて複数の転動体を保持するものである。
本発明の転がり軸受を図面に基づいて説明する。図1は本発明の転がり軸受の一例として針状ころ軸受を使用した4サイクルエンジンの縦断面図である。4サイクルエンジンは、吸気バルブ7aを開き、排気バルブ8aを閉じてガソリンと空気を混合した混合気を吸気管7を介して燃焼室9に吸入する吸入行程と、吸気バルブ7aを閉じてピストン6を押し上げて混合気を圧縮する圧縮行程と、圧縮された混合気を爆発させる爆発行程と、爆発した燃焼ガスを排気バルブ8aを開き排気管8を介して排気する排気行程とを有する。そして、これらの行程で燃焼により直線往復運動を行なうピストン6と、回転運動を出力するクランク軸4と、ピストン6とクランク軸4とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド5とを有する。クランク軸4は、回転中心軸10を中心に回転し、バランスウェイト11によって回転のバランスをとっている。
コンロッド5は、直線状棒体の下方に大端部13を、上方に小端部14を設けたものからなる。クランク軸4は、コンロッド5の大端部13の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受1aを介して回転自在に支持されている。また、ピストン6とコンロッド5を連結するピストンピン12は、コンロッド5の小端部14の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受1bを介して回転自在に支持されている。
図2は、本発明の転がり軸受用保持器を用いた針状ころ軸受を示す斜視図である。図2に示すように、針状ころ軸受1は、複数の針状ころ3と、この針状ころ3を一定間隔、もしくは不等間隔で保持する保持器2とで構成される。この保持器2が本発明の転がり軸受用保持器である。内輪および外輪は設けられず、直接に、保持器2の内径側にクランク軸4やピストンピン12などの軸が挿入され、保持器2の外径側がハウジングであるコンロッド5の係合穴に嵌め込まれる(図1参照)。内外輪を有さず、長さに比べて直径が小さい針状ころ3を転動体として用いるので、この針状ころ軸受1は、内外輪を有する一般の転がり軸受に比べて、コンパクトなものとなる。
保持器2には、針状ころ3を保持するためのポケット2aが設けられ、各ポケットの間に位置する柱部2bで、各針状ころ3の間隔を保持する。保持器2の表面部位には後述する硬質膜が形成されている。硬質膜を形成する保持器の表面部位は、保持器の外表面全体のうち、少なくとも転動体との摺接面および他部材との摺接面である。外表面とは、保持器の最外表面であり、実際に転動体や他部材と摺接する表面である。これらの外表面は、潤滑油等と接触する部位でもある。また、他部材とは、内・外輪や、コンロッドの端部などである。
製造が容易であることから、硬質膜は、針状ころ3と接触するポケット2aの表面を含めた保持器2の全外表面に形成することが好ましい。また、保持器2の表面部位に加えて、転動体である針状ころ3の表面やコンロッド5の係合穴内径面にも同様の硬質膜を形成することができる。
針状ころ軸受1において、硬質膜の成膜対象となる保持器2の本体は、鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。
保持器の本体において、硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。
硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、硬質膜(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。
本発明において、硬質膜が形成される面、つまり下地層が成膜される面は、算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、かつ、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下である。Raは、好ましくは0.2μm以下である。また、硬質膜が形成される面は鏡面加工された面であってもよい。Raの下限は、特に限定されず、例えば0.005μm以上である。なお、鏡面加工は生産性や製造コストにおいて不利となるため、製造上の観点からは、Raが0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。RΔqは、好ましくは0.03以下であり、より好ましくは0.02以下である。算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔqは、JIS B 0601に準拠して算出される数値であり、接触式または非接触式の表面粗さ計などを用いて測定される。具体的な測定条件としては、測定長さ4mm、カットオフ0.8mmである。基材表面の二乗平均平方根傾斜RΔqを0.06以下とすることで、粗さ曲線におけるピークが緩やかになり、突起の曲率半径が大きくなり局所面圧が低減できる。また、成膜時においては粗さによるミクロなレベルの電界集中も抑制でき、局所的な膜厚および硬度の変化を防ぐことができ、ひいては硬質膜の耐剥離性を向上できる。
下地層が成膜される面の粗さ曲線から求められる最大山高さRpは0.4μm以下であることが好ましい。最大山高さRpは、JIS B 0601に準拠して算出される。粗さ曲線から求められる最大山高さRpと算術平均粗さRaの関係は、1≦Rp/Ra≦2となることが好ましく、1.2≦Rp/Ra≦2となることがより好ましい。
また、下地層が成膜される面の粗さ曲線から求められるスキューネスRskは負であることが好ましい。Rskは、歪み度の指標であり、−0.2以下であることがより好ましい。スキューネスRskは、平均線を中心にして振幅分布曲線の上下対称性を定量的に表したもの、つまり表面粗さの平均線に対する偏りを示す指標である。スキューネスRskは、JIS B 0601に準拠して算出される。スキューネスRskが負であることは、粗さ形状が下に凸(谷)ということを意味し、表面に平坦部が多くある状態となる。結果として凸部が少なく突起部による応力集中を起こしにくい表面であると言える。また粗さを軽減する手法にバレル研磨など研磨メディアとの衝突により表面突起を除去する方法があるが、加工条件によっては新たに突起を形成してしまいRskが正に転じる可能性があり注意が必要である。
本発明における硬質膜の構造を図3に基づいて説明する。図3に示すように、硬質膜15は、(1)保持器2の転動体との摺接面2c上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層15aと、(2)下地層15aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層15bと、(3)混合層15bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層15cとからなる3層構造を有する。ここで、混合層15bは、下地層15a側から表面層15c側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層である。本発明では、硬質膜の膜構造を上記のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。
下地層15aは、Crを含むので超硬合金材料や鉄系材料からなる基材との相性がよく、W、Ti、Si、Alなどを用いる場合と比較して基材との密着性に優れる。また、下地層15aに用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。また、下地層15aは、保持器2側から混合層15b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることが好ましい。これにより、保持器2と混合層15bとの両面での密着性に優れる。
混合層15bは、下地層と表面層との間に介在する中間層となる。混合層15bに用いるWCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。混合層15bが、下地層15a側から表面層15c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、下地層15aと表面層15cとの両面での密着性に優れる。また、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、該混合層内での破損などを防止できる。さらに、表面層15c側ではDLC含有率が高められているので、表面層15cと混合層15bとの密着性に優れる。混合層15bは、非粘着性の高いDLCをWCによって下地層15a側にアンカー効果で結合させる層である。
表面層15cは、DLCを主体とする膜である。表面層15cにおいて、混合層15bとの隣接側に、混合層15b側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分15dを有することが好ましい。これは、混合層15bと表面層15cとでバイアス電圧が異なる場合、バイアス電圧の急激な変化を避けるためにバイアス電圧を連続的または段階的に変化させる(上げる)ことで得られる部分である。傾斜層部分15dは、このようにバイアス電圧を変化させることで、結果として上記のように硬度が傾斜する。硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(sp)とダイヤモンド構造(sp)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。これにより、混合層と表面層との急激な硬度差がなくなり、混合層15bと表面層15cとの密着性がさらに優れる。
硬質膜15の膜厚(3層の合計)は0.5〜5.0μmとすることが好ましい。膜厚が厚くなると残留圧縮応力の増大により剥離が発生し易くなる傾向があるが、転がり滑り条件などの表層でのせん断応力が大きい場合においては、膜厚が薄くなるほど剥離が発生し易くなる傾向が確認されており、実際の損傷モードに合わせた膜厚設定が必要である。さらに、該硬質膜15の膜厚に占める表面層15cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層15bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。
硬質膜15を以上のような組成の下地層15a、混合層15b、表面層15cとの3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。
本発明の転がり軸受用保持器において、以上のような構造・物性の硬質膜を形成することで、軸受使用時に転がり滑り接触などの負荷を受けた場合でも、該膜の摩耗や剥離を防止でき、苛酷な潤滑状態でも摺接面などの損傷が少なく長寿命となる。また、図2に示すような針状ころ軸受では、軸受回転と同時に潤滑油の供給が開始されるため、特に摺動初期において、保持器と転動体などとの間で潤滑状態が悪く滑りを伴う条件となるが、本発明の転がり軸受用保持器では、硬質膜により保持器自体や転動体の摩耗を防止できるので、軸受の長寿命化を図ることができる。
ここで、本発明の等速ジョイントについて説明する。等速ジョイントは、近年の高性能自動車において発生する厳しい作用条件の下では、必ずしも満足なものとはいえない。プランジング型等速ジョイントとして用いられているダブルオフセット型等速ジョイントやクロスグルーブ型等速ジョイントなど、また固定型等速ボールジョイントとして用いられるバーフィールドジョイントなどは、いずれも数個のボールでトルクを伝達する構造を持つ。これらの等速ジョイントでは、回転時高面圧下で複雑な転がり滑りの往復運動により、ボールおよびボールと接触する金属表面に繰り返し応力が加わり、金属疲労によるフレーキング現象が発生しやすい。近年のエンジンの高出力化、また燃費向上のための自動車の軽量化により、ジョイントのサイズも小さくなるため、相対的に高面圧となり、従来のグリースではフレーキング現象を充分に防止することはできない。また、グリースの耐熱性向上も必要になってきている。
従来、等速ジョイントの潤滑グリースの潤滑膜の破断を防止するため、極圧剤(EP剤)含有グリースが使用されている。例えば、ウレア系グリースに有機モリブデン化合物を配合したグリースや、ウレア系グリースに二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメイトおよび硫黄含有有機スズ化合物を配合したグリースなどが知られている。しかしながら、等速ジョイントが、高荷重下などで潤滑面に過酷な使用条件が付加されるにつれて、従来のグリースでは、フレーキング現象を充分に防止することは難しくなっている。
これの対処として、本発明の等速ジョイントは、その等速ジョイント部材の表面のうち、他部材との摺接面の上に上述した硬質膜が形成されている。本発明の等速ジョイントは、等速ジョイント用グリースが封入されたものであり、例えば、プランジング型等速ジョイントには、代表的なものとして、トルク伝達部材として転動体にボールを用いたボールタイプのダブルオフセット型等速ジョイントや、トルク伝達部材として転動体にローラを用いたローラタイプのトリポート型等速ジョイントがある。
ダブルオフセット型等速ジョイントは、図4に示すように、外輪21の内面および球形内輪22の外面に軸方向の六本のトラック溝23、24を等角度に形成し、そのトラック溝23、24間に組み込んだボール25をポケットを有するケージ26で支持し、このケージ26の外周を球面27とし、かつ内周を内輸22の外周に適合する球面28とし、各球面27、28の中心(イ)、(ロ)を外輪21の軸心上において軸方向に位置をずらしてある。また、外輪21の外周とシャフト29の外周とをブーツ30で覆い、その内部に等速ジョイント用グリース31が密封充填されている。プランジング型等速ジョイントは、上記のように転がりに比べて滑りの要素がきわめて多い。
一方、トリポート型等速ジョイントは、図5に示すように、外輪32の内面に軸方向の三本の円筒形トラック溝33を等角度に形成し、外輪32の内側に組み込んだトリポート部材34には三本の脚軸35を設け、各脚軸35の外側に球面ローラ36を嵌合し、その球面ローラ36と脚軸35との間にニ一ドル37を組み込んで球面ローラ36を回転可能に、かつ軸方向にスライド可能に支持し、その球面ローラ36を上記トラック溝33に嵌合してある。また、外輪32の外周とシャフト29の外周とをブーツ30で覆い、その内部に等速ジョイント用グリース31が密封充填されている。
上記の構成からなるプランジング型等速ジョイントにおいては、トラック溝23、24とボール25の係り合い、およびトラック溝33と球面ローラ36の係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれ、プランジングに対しては、ボール25がトラック溝23に沿って、球面ローラ36がトラック溝33に沿ってそれぞれ転動してこれを吸収する。
ところで、ジョイントが作動角をとる状態で回転トルクを伝達する場合、ダブルオフセット型等速ジョイントにおいては、トラック溝23、24とボール25との嵌合において転がりと滑りが発生し、また、ケージ26と外輪21およびケージ26と内輪22との間において滑りが発生する。一方、トリポート型等速ジョイントにおいては、トラック溝33と球面ローラ36との間において転がりと滑りが発生する。
本発明の等速ジョイントは、上記等速ジョイント部材の表面のうち、他部材との摺接面の上に上述した硬質膜が形成されている。具体的には、ダブルオフセット型等速ジョイントにおいては、トラック溝23のボール転動面、トラック溝24のボール転動面、ボール25の転動面、外輪21の内面、球形内輪22の外面、ケージ26の内周面、ケージ26の外周面、およびケージ26のポケット内面から選ばれる少なくとも一つの面の上に硬質膜が形成される。1つの形態として、例えば、ケージ26の全外表面に硬質膜が形成される。また、トリポート型等速ジョイントにおいては、トラック溝33のローラ転動面、および球面ローラ36の転動面から選ばれる少なくとも一つの面の上に硬質膜が形成される。
硬質膜の成膜対象となる等速ジョイント部材(例えば、外輪21、内輪22、ボール25、ケージ26、外輪32、球面ローラ36など)は、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などの鉄系材料からなる。硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。また、硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。
また、等速ジョイント部材において、硬質膜が形成される面、つまり下地層が成膜される面は、上述した転がり軸受用保持器と同様、算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、かつ、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下である。部材表面の二乗平均平方根傾斜RΔqを0.06以下とすることで、粗さ曲線におけるピークが緩やかになり、突起の曲率半径が大きくなり局所面圧が低減できる。また、成膜時においては粗さによるミクロなレベルの電界集中も抑制でき、局所的な膜厚および硬度の変化を防ぐことができ、ひいては硬質膜の耐剥離性を向上できる。なお、Ra、RΔq、Rp、Rskの好ましい範囲については、転がり軸受用保持器の場合と同様である。
本発明の等速ジョイントは、所定のRaおよびRΔqに規定された等速ジョイント部材の表面に、上記硬質膜を有するので、硬質膜の相手攻撃性の抑制や耐剥離性の向上が図れる。その結果、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でも、硬質膜の耐剥離性に優れ、硬質膜本来の特性を発揮でき、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、等速ジョイント部材間の金属接触に起因する損傷などを防止できる。また、グリースを封入した等速ジョイントにおいて、摺動面の損傷により金属新生面が露出すると、触媒作用によりグリース劣化を促進させるが、本発明の等速ジョイントでは、硬質膜により金属接触による摺動面の損傷を防止できるので、このグリース劣化も防止できる。
以下、本発明に係る硬質膜の成膜工程について説明する。この成膜工程は、下地層15aが成膜される面に対して、表面仕上げ加工をする工程と、下地層15aと混合層15bとを成膜する工程と、表面層15cを、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用して成膜する工程とを含む。硬質膜は、表面仕上げ加工した軸受部材の成膜面に対して、下地層15a、混合層15b、表面層15cをこの順に成膜して得られる。
下地層15aと混合層15bを成膜する工程は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用することが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図6に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材42は、成膜対象の保持器や等速ジョイント部材であるが、模式的に平板で示してある。図6に示すように、丸形ターゲット45の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石44a、外側磁石44bが配置され、ターゲット45付近で高密度プラズマ49を形成しつつ、磁石44a、44bにより発生する磁力線46の一部46aがバイアス電源41に接続された基材42近傍まで達するようにしたものである。この磁力線46aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材42付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材42付近まで達する磁力線46aに沿って、Arイオン47および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット48をより多く基材42に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)43を成膜できる。
下地層15aを成膜する工程では、ターゲット45としてCrターゲットおよびWCターゲットを併用し、混合層15bを成膜する工程では、ターゲット45としてWCターゲットおよび黒鉛ターゲットを併用する。下地層15aを成膜する工程では、連続的または段階的に、WCターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、Crターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより混合層15b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる構造の層とできる。
混合層15bを成膜する工程では、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層15c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。
表面層15cを成膜する工程は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用することが好ましい。より詳細には、該工程は、この装置を利用して、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合を1〜10とし、上記装置内の真空度を0.2〜0.8Paとし、炭素供給源から生じる炭素原子を、混合層15b上に堆積させて成膜する工程であることが好ましい。
本発明の転がり軸受用保持器や等速ジョイントに形成する硬質膜として、所定の基材(試験片)に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関して評価した。また2円筒試験機を用いた転がり滑り試験にて相手材摩耗の評価を行った。これらを実施例、比較例として以下に説明する。
硬質膜の評価用に用いた試験片、UBMS装置、スパッタリングガスなどは以下のとおりである。
(1)試験片物性:SUJ2 焼き入れ焼き戻し品 750Hv
(2)試験片:研磨された(算術平均粗さRa、二乗平均平方根傾斜RΔq、最大山高さRp、スキューネスRskは表1記載)SUJ2リング(φ40×L12副曲率60)の摺動表面に対して各条件にて硬質膜を成膜したもの
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202
(4)スパッタリングガス:Arガス
下地層の形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットとWCターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、CrとWCの組成比を傾斜させ、基材側でCrが多く表面側でWCが多いCr/WC傾斜層を形成した。
混合層の形成条件を以下に説明する。下地層と同様にUBMS法にて成膜した。ここで、該混合層については、炭化水素系ガスであるメタンガスを供給しながら、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させ、基材側でWCが多く表面側でDLCが多いWC/DLC傾斜層を形成した。
各試験片では、表面仕上げ加工の条件を変更する等して、算術平均粗さRaや二乗平均平方根傾斜RΔqを変えている。なお、試験片の表面の各種粗さパラメータは表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)で測定した。JIS B 0601に従い、基準長さ0.8mm、区間数5で5回測定した値の平均値を表1に示す。
図7はUBMS装置の模式図である。図7に示すように、円盤50上に配置された基材51に対し、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)52を非平衡な磁場により、基材51近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図6参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材とするリングに、下地層、混合層、表面層をUBMS被膜として成膜している。
実施例1〜7、比較例1〜3
表1に示す基材をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS装置に取り付け、上述の形成条件にて下地層および混合層を形成した。その上に、表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。表面層の形成条件は、上記装置における成膜チャンバー内の真空度が0.8Pa、基材に対するバイアス電圧が50V、上記装置内へのメタンガス導入量の割合がArガスの導入量100(体積部)に対して1(体積部)である。結果を表1に併記する。表中の膜厚は、3層(下地層、混合層、表面層)の合計膜厚である。
<2円筒試験機による転がり滑り試験>
得られた試験片について図8に示す2円筒試験機を用いて転がり滑りによる相手材摩耗の試験を行った。この2円筒試験機は、駆動側試験片53と転がり滑り接触する従動側試験片54とを備え、それぞれの試験片(リング)は支持軸受56で支持されており、負荷用バネ57により荷重が負荷されている。また、図中の55は駆動用プーリ、58は非接触回転計である。回転差をつけて滑りを発生させ、相手材側円筒の摩耗深さから相手攻撃性を評価した。具体的な試験条件は以下のとおりである。なお、相手材側円筒の摩耗深さは、表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)を用い、基準面に対する摩耗深さを求めた。
(試験条件)
相手材:研削仕上げ(0.02μmRa)SUJ2リング(φ40×L12副曲率60)
潤滑油:VG320相当油(添加剤含有) フェルトパット給油
最大接触面圧:1.5GPa
回転数:(試験片側)127min−1
(相手材側)126min−1
相対滑り率:0.8%
打ち切り時間:72h
Figure 2021143753
表1に2円筒転がり滑り試験の結果を示す。使用する基材および表面層の成膜条件は同一であり、表面層の硬度は平均値で約23GPaである。硬質膜を成膜する表面の表面粗さを示す粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下である場合(実施例1〜7)は、2円筒転がり滑り試験における相手材摩耗が小さい傾向があり、相手攻撃性が低下している。特に、実施例3は、比較例3と、Ra、Rsk、Rpが同程度であるにもかかわらず、RΔqの違いにより、相手攻撃性が顕著に異なる結果となった。これは、突起の先端半径が鈍化し応力集中が緩和されたためと考えられる。
実施例6は実施例3とRa、RΔqは同程度だが、相手攻撃性が異なる。これはRskが正の値となり上向きの突起が増えたことによると考えられる。また実施例5の結果からRskが小さいほど相手材摩耗が大きいわけではなく、Rskが0以上とならないことが相手攻撃性の抑制に重要であると考えられる。
以上より、本発明では、硬質膜と相手材の接触時における突起部の応力集中を緩和し、相手材摩耗を抑制するため、粗さ曲線の算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔqを用いて基材表面の状態を規定している。
本発明の転がり軸受用保持器は、少なくとも転動体との摺接面および他部材との摺接面にDLC膜が形成され、苛酷な条件で運転した場合においてもこのDLC膜の耐剥離性に優れ、DLC本体の特性を発揮できるので、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる。また、相手材に対する攻撃性が抑制されている。このため、本発明の転がり軸受は、苛酷な潤滑状態での用途を含め、各種用途に適用可能である。
1 針状ころ軸受
2 保持器
3 針状ころ
4 クランク軸
5 コンロッド
6 ピストン
7 吸気管
8 排気管
9 燃焼室
10 回転中心軸
11 バランスウェイト
12 ピストンピン
13 大端部
14 小端部
15 硬質膜
21 外輪(外側継手部材)
22 内輪(内側継手部材)
23、24 トラック溝
25 ボール(トルク伝達部材)
26 ケージ
27、28 球面
29 シャフト
30 ブーツ
31 等速ジョイント用グリース
32 外輪(外側継手部材)
33 トラック溝
34 トリポート部材(内側継手部材)
35 脚軸
36 球面ローラ(トルク伝達部材)
37 ニードル
41 バイアス電源
42 基材
43 膜(層)
45 ターゲット
46 磁力線
47 Arイオン
48 イオン化されたターゲット
49 高密度プラズマ
50 円盤
51 基材
52 スパッタ蒸発源材料(ターゲット)
53 駆動側試験片
54 従動側試験片
55 駆動用プーリ
56 支持軸受
57 負荷用バネ
58 非接触回転計

Claims (8)

  1. 転がり軸受における転動体を保持する転がり軸受用保持器であって、
    前記転がり軸受用保持器は鉄系材料からなり、硬質膜は、前記保持器の外表面のうち、少なくとも前記転動体との摺接面および他部材との摺接面の上に直接成膜されるクロムとタングステンカーバイトとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、
    前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であり、
    前記下地層が成膜される面における粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下であることを特徴とする転がり軸受用保持器。
  2. 前記下地層が成膜される面における粗さ曲線から求められるスキューネスRskが−0.2以下であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。
  3. 前記下地層が成膜される面における粗さ曲線から求められる最大山高さRpが0.4μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受用保持器。
  4. 前記表面層は、前記混合層との隣接側に、前記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
  5. 前記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
  6. 複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、
    前記保持器が請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の転がり軸受用保持器であることを特徴とする転がり軸受。
  7. 前記転がり軸受が、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの端部に設けられた係合穴に取り付けられることを特徴とする請求項6記載の転がり軸受。
  8. 外側継手部材と、内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材とを備える等速ジョイントであって、
    硬質膜は、等速ジョイント部材の表面のうち、他部材との摺接面の上に直接成膜されるクロムとタングステンカーバイトとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、
    前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であり、
    前記下地層が成膜される面における粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.06以下であることを特徴とする等速ジョイント。
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