JP2022107481A - 転がり軸受および車輪支持装置 - Google Patents

転がり軸受および車輪支持装置 Download PDF

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Abstract

【課題】異物が混入した条件下での使用であっても、DLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮させるとともに、相手材に対する攻撃性が抑制され、耐摩耗性、および長期耐久性に優れる転がり軸受および車輪支持装置を提供する。【解決手段】転がり軸受1は、内輪2および外輪3と、この内・外輪間に介在する複数の玉4とを備え、内輪2、外輪3、複数の玉4が鉄系材料からなり、異物が混入する条件下で使用される軸受であり、硬質膜8は、少なくとも玉4の表面に直接成膜される下地層と、該下地層の上に成膜される中間層と、該中間層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とを含む構造の膜であり、表面層のビッカース硬さが1200Hv以上2500Hv未満であり、硬質膜の膜厚が0.9μm以上2.1μm以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、少なくとも転動体の表面にダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜を成膜した転がり軸受に関する。また、該転がり軸受を適用した車輪支持装置に関する。
硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素、無定形炭素、硬質無定形型炭素、i-カーボン、ダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。
このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドとグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学安定性、耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型・工具類、耐摩耗性機械部品、研磨材、摺動部材、磁気・光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。
従来、転がり軸受の軌道輪の軌道面や、転動体の転動面に対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。DLC膜が剥離すると、軸受部材間で金属接触が起こり、該部材が摩耗することで転動面に摩耗粉が介入し軌道面の損傷などに繋がるおそれがある。このため、転がり軸受における各面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。
例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成の下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。
また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10~100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。
一方、転がり軸受は、自動車の懸架装置に対して車輪を回転自在に支持するための車輪支持装置などに適用される。後輪駆動型車両における前輪の如き非駆動輪を支持する車輪支持装置においては、ステアリングナックルに設けられたアクスル(ナックルスピンドル)上に2個の転がり軸受を取付け、その転がり軸受によって回転自在に支持されたアクスルハブの外径面にフランジを設け、このフランジに設けられたスタッドボルトと、これにねじ係合されるナットによってブレーキ装置のブレーキドラムおよび車輪のホイールディスクを取付けるようにしている。また、ステアリングナックルに設けられたフランジにバックプレートを取付け、そのバックプレートによってブレーキドラムに制動力を付与する制動機構を支持するようにしている。上記のような車輪支持装置においては、アクスルハブを回転自在に支持する転がり軸受として、負荷容量の大きい剛性の高い円すいころ軸受が用いられる。この円すいころ軸受は、アクスルとアクスルハブ間に充填されたグリースによって潤滑される。
車輪支持装置に用いられる転がり軸受は、高速、高荷重という過酷な使用条件のため、特に、円すいころの大径側の端面と軌道輪の鍔部の端面とが滑り運動するため、グリースの潤滑油膜が破断しやすくなる。潤滑油膜が破断すると金属接触が起こり、発熱、摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。そのため、高速、高荷重下での潤滑性および耐荷重性を向上させ、潤滑油膜破断による金属接触を防止する必要があり、例えば極圧剤含有グリースを使用して、その不具合を軽減している。
特許第4178826号公報 特許第3961739号公報
しかしながら、車輪支持装置において、DLC膜の適用が検討される摺動面は、異物が混入した状態で使用されることがあるため、一般的な転がり軸受における運転状況より厳しい場合が多い。そのため、その状態での焼き付き、摩耗などを抑制する必要があるが、異物が噛み込んだ際の局所的な高面圧および母材の変形に対しての耐剥離性の確保はさらに困難である。
また、建設用や鉱山用の大型車両では減速機が組み合わされており、減速機に取り付けられた歯車のピッチングによって鋼系の異物が発生しやすい。また、鉱山などの使用環境に伴う粉塵などが軸受にとっての外来異物となる。これら異物が軸受に混入されると異物圧痕が形成され、圧痕起点剥離が生じる結果、軸受の短寿命化に繋がるおそれがある。
上記した特許文献1、2の技術は、硬質膜の剥離防止などを図ったものであるが、異物が混入される場合については検討されていない。そのため、このような使用条件に応じた要求特性を満足させるべく、DLC膜を適用する際の膜構造などには更なる改善の余地がある。
また、DLC膜は硬質な被膜であり、接触する相手材に対してアブレシブ摩耗などの摩耗を発生させるおそれがある。特に、異物混入条件下で使用される場合、DLC膜表面の粗面化により相手材への攻撃性が増大するおそれがある。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、異物が混入した条件下での使用であっても、DLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮させるとともに、相手材に対する攻撃性が抑制され、耐摩耗性、および長期耐久性に優れる転がり軸受の提供を目的とする。また、上記転がり軸受を適用した車輪支持装置の提供を目的とする。
内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体とを備え、上記内輪、上記外輪、上記複数の転動体が鉄系材料からなる転がり軸受であって、上記転がり軸受は、異物が混入する条件下で使用される軸受であり、硬質膜は、少なくとも上記転動体の表面に直接成膜される下地層と、該下地層の上に成膜される中間層と、該中間層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とを含む構造の膜であり、上記表面層のビッカース硬さが1200Hv以上2500Hv未満であり、上記硬質膜の膜厚が0.9μm以上2.1μm以下であることを特徴とする。
上記異物のサイズが100μm未満であることを特徴とする。ここで、異物のサイズとは、異物の断面の最も長い部分の長さである。例えば、異物がほぼ球形の場合、サイズは粒径のことを指す。
上記表面層のビッカース硬さが1200Hv以上1900Hv以下であることを特徴とする。
上記表面層のビッカース硬さが1500Hv以上1600Hv以下であることを特徴とする。
上記表面層は、上記中間層との隣接側に、上記中間層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする。
上記中間層は、タングステンカーバイト(以下、WCと記す)とDLCとを主体とする混合層であり、該混合層は、上記下地層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の上記WCの含有率が小さくなり、該混合層中の上記DLCの含有率が高くなる層であることを特徴とする。
上記下地層が、CrとWCとを主体とする層であることを特徴とする。
上記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする。
本発明の車輪支持装置は、アクスルの外径面上に取付けられた転がり軸受を備え、該転がり軸受によって車輪と共に回転する回転部材を回転自在に支持する車輪支持装置であって、上記転がり軸受が、本発明の転がり軸受であることを特徴とする。
上記転がり軸受が、円すいころ軸受であり、該円すいころ軸受は、上記転動体である円すいころの大径側の端面と、上記内輪に形成された大鍔の端面とが転がり接触および滑り接触する軸受であり、上記円すいころの大径側の端面および上記内輪の大鍔の端面の少なくとも一方に上記硬質膜が形成されていることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、少なくとも転動体の表面に、下地層、中間層、DLCを含む表面層を含む膜構造の硬質膜を有するとともに、異物が混入する条件下で使用される軸受である。この転がり軸受は、表面層のビッカース硬さが1200Hv以上2500Hv未満であり、硬質膜の膜厚が0.9μm以上2.1μm以下であるので、異物による圧痕が形成され、応力集中が発生する場合でも硬質膜の耐剥離性に優れる。そのため、上記硬質膜は、DLC本来の特性を発揮できる。その結果、本発明の転がり軸受は、異物が混入した潤滑環境下でも母材の圧痕起点剥離を抑制し、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れ、苛酷な潤滑状態でも摺動面などの損傷が少なく長寿命となる。
例えば建設現場や鉱山で使用される大型車両などの場合、サイズの様々な異物が問題になる。この点、本発明の転がり軸受は上記硬質膜を有するので、100μm未満の小さいサイズから100μm以上の大きいサイズの異物が混入するような条件でも優れた耐剥離性を発揮できる。特に、表面層のビッカース硬さが1200Hv以上1900Hv以下の場合には相手攻撃性を抑制しながら、耐剥離性を一層向上できる。
中間層に用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。さらに、WCとDLCの混合層(WC/DLC)を傾斜組成とすることで、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっている。また、転動体に直接成膜される下地層は、Crを含むので鉄系材料と相性がよく、WやSiと比較して密着性に優れる。
本発明の車輪支持装置は、アクスルの外径面上に取付けられた転がり軸受として本発明の転がり軸受を備えるので、耐異物性に優れ、異物が混入される条件下でも長期耐久性に優れる。
本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。 硬質膜の構造を示す模式断面図である。 本発明の車輪支持装置の一例を示す断面図である。 図3の円すいころ軸受の一例を示す切欠き斜視図である。 UBMS法の成膜原理を示す模式図である。 UBMS装置の模式図である。 2円筒試験機の模式図である。 軸受試験機の模式図である。
DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件の影響により大きく異なり、その結果、耐剥離性にも大きな影響を及ぼす。また、耐剥離性は硬質膜が使用される条件によっても変化する。本発明者らは、特に、建設用や鉱山用の大型車両などで用いられる軸受で問題となる、異物が混入した潤滑条件下に着目して検証を重ねた。その結果、転がり軸受の表面に形成する硬質膜の膜厚および表面層のビッカース硬さを所定範囲内とすることで、耐剥離性に優れるとともに、相手攻撃性も抑制できることを見出した。また、100μm未満の異物のサイズにおいても耐剥離性に優れ、長寿命化が図れることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
本発明の転がり軸受を図1に基づいて説明する。図1は転動体の転動面に後述の硬質膜を形成した深溝玉軸受の断面図を示す。深溝玉軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の玉4とを備える。玉4は保持器5により一定間隔で保持されている。シール部材6により、内・外輪の軸方向両端開口部がシールされ、軸受空間にグリース7が封入されている。グリース7としては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。
図1の転がり軸受では、玉4の球面全体に硬質膜8が形成されている。なお、硬質膜は、後述の図4で示すように、転動体の一部分にのみ形成されていてもよい。また、図1では、硬質膜は、玉4のみに形成されているが、適用用途に応じて、内輪および外輪といった他の軸受部材の表面にも形成されていてもよい。ただし、硬質膜同士が異物を介して接触する場合、一方の硬質膜が剥離しやすくなるおそれがあることから、転動体にのみ硬質膜を形成することが好ましい。
図1に示すように、深溝玉軸受の内輪軌道面2aは、玉4を案内するため、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。同様に、外輪軌道面3aも、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。この円弧溝の曲率半径は、一般的に鋼球径をdwとすると、0.51~0.54dw程度である。また、図に示した態様以外の転がり軸受として、円筒ころ軸受や円錐ころ軸受を用いる場合では、これらの軸受のころを案内するため、内輪軌道面および外輪軌道面は、少なくとも円周方向で曲面となる。その他、自動調心ころ軸受などの場合、転動体としてたる型ころを用いるので、内輪軌道面および外輪軌道面は、円周方向に加えて、軸方向についても曲面となる。本発明の転がり軸受は、内輪軌道面および外輪軌道面が、以上のいずれの形状であってもよい。
本発明の深溝玉軸受1において、硬質膜8の成膜対象となる軸受部材である内輪2、外輪3、玉4は鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。
これらの軸受部材において、硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さで650Hv以上であることが好ましい。650Hv以上とすることで、硬質膜(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。
上記硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さで1000Hv以上であることが、硬質膜(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。
上記硬質膜が形成される面の表面粗さRaは、0.05μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.05μmをこえると、粗さの突起先端に硬質膜が形成され難くなり、局所的に膜厚が小さくなる。
本発明における硬質膜の構造を図2に基づいて説明する。図2は、硬質膜8の構造を示す模式断面図である。図2に示すように、硬質膜8は、(1)玉4の球面4a上に直接成膜される下地層8aと、(2)下地層8aの上に成膜される中間層8bと、(3)中間層8bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層8cとからなる3層構造を有する。なお、これらの層の間に他の層を設けてもよい。本発明では、硬質膜の膜構造を上記のような少なくとも3つの層を含む層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。
下地層8aは、基材となる各軸受部材の表面に直接成膜される下地層である。材質や構造は、基材との密着性を確保できるものであれば特に限定されず、例えば材質としてCr、W、Ti、Siなどが使用できる。これらの中でも、超硬合金材料や鉄系材料からなる基材との相性がよく、密着性に優れることから、下地層8aはCrを含むことが好ましい。
特に、下地層8aは、中間層8bがWCとDLCとを主体とする層である場合、該中間層との密着性も考慮して、CrとWCとを主体とする層であることが好ましい。WCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。この場合、下地層8aは、玉4側から中間層8b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることがより好ましい。これにより、玉4と中間層8bとの両面での密着性に優れる。
中間層8bは下地層8aと表面層8cとの間に介在する層である。中間層8bは、例えば炭素を主体とし、その硬度が下地層8a側から表面層8c側へ連続的または段階的に上昇する傾斜層を用いることができる。図2に示す中間層8bはWCとDLCとを主体とする混合層である。WCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。さらに、図2に示す中間層8bは、下地層8a側から表面層8c側に向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さく、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる傾斜組成になっている。これにより、下地層8aと表面層8cとの両面での密着性に優れる。また、中間層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、該中間層内での破損などを防止できる。さらに、表面層8c側ではDLC含有率が高められているので、表面層8cと中間層8bとの密着性に優れる。この場合、中間層8bは、非粘着性の高いDLCをWCによって下地層8a側にアンカー効果で結合させる層となる。
表面層8cは、DLCを主体とする膜である。表面層8cにおいて、中間層8bとの隣接側に、緩和層部分8dを有することが好ましい。これは、中間層8bと表面層8cとで成膜条件パラメータ(炭化水素系ガス導入量、真空度、バイアス電圧)が異なる場合、これらパラメータの急激な変化を避けるために、該パラメータの少なくとも1つを連続的または段階的に変化させることで得られる部分である。より詳細には、中間層8bの最表層形成時の成膜条件パラメータを始点とし、表面層8cの最終的な成膜条件パラメータを終点として、各パラメータをこの範囲内で連続的または段階的に変化させる。これにより、中間層8bと表面層8cとの急激な物性(硬度・弾性率等)の差がなくなり、中間層8bと表面層8cとの密着性がさらに優れる。なお、バイアス電圧を連続的または段階的に上昇させることで、DLC構造におけるグラファイト構造(sp)とダイヤモンド構造(sp)との構成比率が後者に偏っていき、硬度が傾斜(上昇)する。
後述の実施例に示すように、異物が混入した潤滑状態で他部材と転がり接触する場合において硬質膜の耐剥離性を向上させるには、表面層の硬さおよび硬質膜の膜厚を所定範囲にすることが重要となる。本発明の転がり軸受において、硬質膜の表面層のビッカース硬さは1200Hv以上2500Hv未満であり、好ましくは1200Hv以上1900Hv以下であり、より好ましくは1500Hv以上1600Hv以下である。
硬質膜8の膜厚は0.9μm~2.1μmである。膜厚が0.9μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣るおそれがあり、2.1μmをこえると異物混入条件下で硬質膜が剥離し易くなる。なお、膜厚が厚くなると残留圧縮応力の増大により剥離が発生し易くなる傾向があるが、転がり滑り条件などの表面層でのせん断応力が大きい場合においては、膜厚が薄くなるほど剥離が発生し易くなる傾向が確認されており、実際の損傷モードに合わせた膜厚設定が必要である。さらに、該硬質膜8の膜厚に占める表面層8cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、中間層8bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。
以上のように、硬質膜8を下地層8a、中間層8b、表面層8cを含む層構造とした上で、表面層の硬さおよび硬質膜の膜厚を上記範囲に規定することで、異物混入条件下において優れた耐剥離性を発揮できる。
また、本発明の転がり軸受において、以上のような構造・物性の硬質膜を形成することで、使用時に転がり接触などの負荷を受けた場合でも、該膜の摩耗や剥離を防止でき、苛酷な潤滑状態でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。また、異物が混入した潤滑条件下においても、異物により形成された圧痕による軌道面損傷を抑制できるため長寿命となる。また、グリースを封入した転がり軸受において、軌道輪などの損傷により金属新生面が露出すると、触媒作用によりグリース劣化を促進させるが、本発明の転がり軸受では、硬質膜により金属接触による軌道面や転動面の損傷を防止できるので、このグリース劣化も防止できる。
本発明の車輪支持装置について、図3に基づいて説明する。図3は車輪支持装置の断面図である。図3に示すように、ステアリングナックル11にはフランジ12と、アクスル13とが設けられ、そのアクスル13の外径面上に取付けた一対の円すいころ軸受14a、14bによって回転部材としてのアクスルハブ15が回転自在に支持されている。アクスルハブ15は、外径面にフランジ16を有し、そのフランジ16に設けたスタッドボルト17と、そのスタッドボルト17にねじ係合したナット18によってブレーキ装置のブレーキドラム19、および車輪のホイールディスク20が取付けられている。21はホイールディスク20の外径面に取付けられたリムを示し、そのリム上にタイヤが取付けられる。図4においては、円すいころ軸受14a、14bが車輪支持装置に相当する。
上記ステアリングナックル11のフランジ12にはスタッドボルト17、ナット18の締付けによってブレーキ装置のバックプレート22が取付けられている。バックプレート22にはブレーキドラム19に制動力を付与する制動機構が支持されるが、図では省略してある。
アクスルハブ15を回転自在に支持する上記一対の円すいころ軸受14a、14bは、アクスルハブ15内に封入されたグリースによって潤滑される。その円すいころ軸受14bから外部にグリースが漏洩したり、外部から泥水が浸入するのを防止するため、アクスルハブ15の外側端面に円すいころ軸受14bを覆うようにしてグリースキャップ23が取付けられている。
本発明の車輪支持装置の円すいころ軸受の一例について図4により説明する。図4は円すいころ軸受の一例を示す一部切り欠き斜視図である。円すいころ軸受14は、外周面にテーパ状の内輪軌道面25aを有する内輪25と、内周面にテーパ状の外輪軌道面24aを有する外輪24と、内輪軌道面25aと外輪軌道面24aとの間を転動する複数の円すいころ27と、各円すいころ27をポケット部で転動自在に保持する保持器26とを備えている。保持器26は、大径リング部と小径リング部とを複数の柱部で連結してなり、柱部同士の間のポケット部に円すいころ27を収納している。内輪25において、大径側端部に大鍔25c、小径側端部に小鍔25bがそれぞれ一体形成されている。円すいころ軸受における内輪は、テーパ状の内輪軌道面を有することから軸方向に見て小径側と大径側とがあり、「小鍔」は小径側端部に設けられた鍔であり、「大鍔」は大径側端部に設けられた鍔である。
上記構成において、円すいころ27の転動面(テーパ面)27aは、内輪軌道面25aと外輪軌道面24aとの間で転がり摩擦を受け、円すいころ27の小径側の端面(小端面)27bは、小鍔25bの内側端面との間で滑り摩擦を受け、円すいころ27の大径側の端面(大端面)27cは、大鍔25cの内側端面との間で滑り摩擦を受ける。また、円すいころ27と保持器26との間でも転がり摩擦や滑り摩擦が発生する。例えば、円すいころ27の小端面27bは、ポケット部を形成する小径リングの端面との間で滑り摩擦を受け、円すいころ27の大端面27cは、ポケット部を形成する大径リングの端面との間で滑り摩擦を受ける。これらの摩擦を低減するために上記グリースが封入されている。グリースとしては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。
本発明の車輪支持装置は、少なくとも転動体の表面に上記硬質膜を有している。そのため、異物が混入した条件下で他部材と接触する場合でも、該硬質膜の耐剥離性に優れる。また、相手材に形成された圧痕の盛り上がりが硬質膜による切削効果により除去されるため、圧痕起点剥離耐性に優れる。この結果、膜本来の特性を発揮して、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、車輪支持装置部材間の金属接触に起因する損傷などを防止できる。
上記硬質膜の形成箇所について、図4の円すいころ軸受14では、転動体である円すいころに硬質膜が設けられている。具体的には、円すいころ27の軸方向端面である小端面27bおよび大端面27cに硬質膜28がそれぞれ形成されている。この場合、大鍔における滑り摩擦の方が小鍔における滑り摩擦よりも大きいことを考慮して、少なくとも円すいころの大端面に硬質膜を設けることが好ましい。なお、円すいころ27の転動面27aにも硬質膜28が設けられていてもよく、その場合は円すいころ27の表面全体に硬質膜が設けられることになる。なお、図4において、硬質膜の形成箇所は、少なくとも円すいころに形成されていればよく、特に限定されない。
図3~図4では、車輪支持装置における転がり軸受として円すいころ軸受を示したが、円すいころ軸受以外にも、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などを用いることができる。また、本発明の転がり軸受は、建設用機械(鉱山用ダンプトラックなど)の車軸支持装置(車輪支持装置)に用いることができる。このトラックでは、シャフトの回転が遊星歯車機構などを介して駆動輪に伝達される。シャフトの外側には、固定の車軸を形成するスピンドルが配置されており、スピンドルの外側には、転がり軸受を介してタイヤホイールが配置される。該転がり軸受は、遊星歯車機構の近傍に設けられることから、転がり軸受の内部には歯車のピッチングによる鋼系の異物が混入しやすいが、上記硬質膜を有しているため、該硬質膜の耐剥離性に優れる。
以下、硬質膜の形成方法について説明する。上記硬質膜は、表面仕上げ加工した軸受部材の成膜面に対して、下地層8a、中間層8b、表面層8cをこの順に成膜して得られる。
下地層8aおよび中間層8bの形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図5に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材32は、成膜対象の軸受部材である内輪、外輪、または転動体であるが、模式的に平板で示してある。図5に示すように、丸形ターゲット35の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石34a、外側磁石34bが配置され、ターゲット35付近で高密度プラズマ39を形成しつつ、上記磁石34a、34bにより発生する磁力線36の一部36aがバイアス電源31に接続された基材32近傍まで達するようにしたものである。この磁力線36aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材32付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材32付近まで達する磁力線36aに沿って、Arイオン37および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット38をより多く基材32に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)33を成膜できる。
下地層8aがCrとWCとを主体とする層である場合は、ターゲット35としてCrターゲットおよびWCターゲットを併用する。また、中間層8bを形成する際には、(1)WCターゲット、および、(2)黒鉛ターゲットと必要に応じて炭化水素系ガスを用いる。各層の形成毎に、それぞれに用いるターゲットを逐次取り替える。
下地層8aにおいて、上述のようなCrとWCの傾斜組成とする場合は、連続的または段階的に、WCターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、Crターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより中間層8b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる構造の層とできる。
中間層8bは、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層8c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。
中間層8bの成膜時におけるUBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は0.2~1.2Paであることが好ましい。また、基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧は20~100Vであることが好ましい。このような範囲とすることで、耐剥離性の向上が図れる。
表面層8cの形成も、上記のスパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。より詳細には、表面層8cは、この装置を利用して、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合を1~15とし、炭素供給源から生じる炭素原子を中間層8b上に堆積させて成膜されたものとすることが好ましい。また、併せて、装置内の真空度を0.2~0.9Paとすることが好ましい。この好適条件について以下に説明する。
炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用することで、DLC膜のビッカース硬さなどを調整できる。炭化水素系ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス、ベンゼンなどが使用でき、特に限定されないが、コストおよび取り扱い性の点からメタンガスが好ましい。炭化水素系ガスの導入量の割合を、ArガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100(体積部)に対して1~15(体積部)、好ましくは6~15とすることで、表面層8cの耐摩耗性などを悪化させずに、中間層8bとの密着性の向上が図れる。
UBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は上記のとおり0.2~0.9Paであることが好ましい。より好ましくは0.4~0.9Paであり、さらに好ましくは0.6~0.9Paである。真空度が0.2Pa未満であると、チャンバー内のArガス量が少ないため、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、真空度が0.9Paより高いと、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧は50~150Vであることが好ましい。なお、基材に対するバイアスの電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、例えば、バイアス電圧100Vとは、アース電位に対して基材のバイアス電位が-100Vであることを示す。
本発明の転がり軸受に使用する硬質膜として、所定の基材に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関して評価した。また、2円筒試験機および軸受試験機を用いて以下の評価を行った。これらを実施例、比較例として以下に説明する。
硬質膜の評価用に用いた基材、UBMS装置、およびスパッタリングガスなどは以下のとおりである。
(1)基材物性:SUJ2 焼き入れ焼き戻し品 硬さ750Hv
(2)基材:研磨されたSUJ2リング(φ40×L12副曲率60)の摺動表面に対して各条件にて硬質膜を成膜したもの
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202
(4)スパッタリングガス:Arガス
下地層の形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10-3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットとWCターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、CrとWCの組成比を傾斜させ、基材側でCrが多く表面側でWCが多いCr/WC傾斜層を形成した。
中間層の形成条件を以下に説明する。下地層と同様にUBMS法にて成膜した。ここで、該中間層については、炭化水素系ガスであるメタンガスを供給しながら、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させ、下地層側でWCが多く表面層側でDLCが多いWC/DLC傾斜層を形成した。
図6はUBMS装置の模式図である。図6に示すように、円盤40上に配置された基材41に対し、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)42を非平衡な磁場により、基材41近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図5参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材とするリングに、下地層、中間層、表面層をUBMS被膜として成膜している。
実施例1~9、比較例1~4
表1および表3に示す基材をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、これをUBMS装置に取り付け、上述の形成条件にて下地層および中間層を形成した。表1および表3中の「Cr/WC」はCrとWCとを主体とする層を示し、表1および表3中の「WC/DLC」は、WCとDLCとを主体とする層を示す。その上に、表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、比較例4には、硬質膜を形成していない試験片を用いた。
<硬度試験>
得られた試験片のビッカース硬さをISO14577法により測定した。
<膜厚試験>
得られた試験片の硬質膜の膜厚を表面形状・表面粗さ測定器(ミツトヨ社製:フォームトレーサCS-H5000CNC)を用いて測定した。膜厚は成膜部の一部にマスキングを施し、非成膜部と成膜部の段差から膜厚を求めた。
<2円筒試験機による転がり試験>
得られた試験片について図7に示す2円筒試験機を用いて異物耐性試験を行った。この2円筒試験機は、駆動側試験片51と転がり接触する従動側試験片52とを備え、それぞれの試験片(リング)は支持軸受54で支持されており、負荷用バネ55により荷重が負荷されている。また、図中の53は駆動用プーリ、56は非接触回転計である。潤滑剤に工具鋼粉末異物を添加して、まず駆動側試験片51の硬質膜の表面に圧痕を形成した後、異物を含まない清浄油中で運転して耐圧痕剥離性を評価した。具体的な試験条件は以下のとおりである。評価結果を表1に併記する。
(試験条件)
相手材(従動側試験片52):研削仕上げ(0.02μmRa)SUJ2リング(φ40×L12副曲率60)
潤滑油:無添加タービン油VG56 フェルトパット給油
異物A:粉末ハイス鋼 KHA 100~180μm
異物量:10g/L
最大接触面圧:2.5GPa
回転数:300 min-1
試験時間:異物添加油で1h運転(圧痕付運転)後、異物未添加油(清浄油)中で負荷回数1×10回まで運転
Figure 2022107481000002
表1に示すように、使用する基材、表面層、中間層、および下地層の材質は同一とした。表面層のビッカース硬さが1550Hvで、硬質膜の膜厚が0.9μm~2.1μmである実施例1~3は試験時間内において硬質膜の剥離が見られなかった。一方で、ビッカース硬さが2700Hvで、硬質膜の膜厚が2.8μmである比較例1は剥離が見られた。膜厚が厚くなると、残留圧縮応力の増大により剥離が発生しやすくなる傾向が確認された。
<軸受試験機による転がり試験>
得られた試験片について図8に示す軸受試験機を用いて、相手攻撃性及び異物寿命試験を行った。この軸受試験機は、支持軸受58に支持された軸59に試験軸受である転がり軸受57aおよび試験軸受57bが取り付けられている。試験軸受57bの軸方向から外輪にアキシアル荷重Faが負荷され、支持軸受58を介してラジアル荷重Frが負荷されている。転がり軸受57aの転動体(ころ全体)にのみ上記硬質膜を形成した。潤滑剤に工具鋼粉末異物を添加して、異物寿命試験、および異物混入下における硬質膜の相手攻撃性をそれぞれ評価した。具体的な試験条件は以下のとおりである。
(試験条件)
潤滑油:無添加タービンオイルVG56に以下の異物を混入した潤滑油を油浴により供給
異物A:粉末ハイス鋼 KHA 100~180μm
異物B:粉末ハイス鋼 KHA 27~53μm
異物量:1g/L
油温 :40℃~50℃
最大接触面圧:2.5GPa
回転数:2000rpm
相手攻撃性は、試験時間(1000時間)終了後、内輪または外輪の軌道面の最大摩耗深さを、ミツトヨ社製フォームトレーサCS-H5000CNCによって計測することで評価した。また、異物寿命試験では、試験開始から試験軸受の内外輪、ころの母材剥離による振動を検知し、振動停止するまでの各時間を比較例4の寿命時間に対する比率(寿命比)として算出した。各試験の評価基準は表2に示すとおりである。また、評価結果を表3に併記する。
Figure 2022107481000003
Figure 2022107481000004
表3に示すように、比較例4を除いて、使用する基材、表面層、中間層、および下地層の材質、膜厚は同一とした。実施例4~6および比較例2では、異物A混入下における硬質膜の相手攻撃性を評価し、実施例7~9および比較例3~4では異物B混入下における寿命時間を評価した。異物Aはサイズが100~180μmであり、異物Bはサイズが27~53μmである。実機における大小様々な異物を想定し、サイズが異なる2水準の異物を用いて評価した。
表3より、相手攻撃性については、表面層の硬度が大きくなるほど相手材摩耗が大きくなる傾向が見られた。また、異物寿命試験では、高硬度の試験片(比較例3)では剥離による寿命時間の低下が見られた。また、ビッカース硬さ1200Hv(実施例7)でも寿命時間は低下したが、これは硬度が低下することによって、圧痕除去能力が低下したためと推測される。異物が混入した潤滑環境下では、硬度が相手攻撃性および寿命時間に重要であり、表3の結果よりビッカース硬さは1200Hv以上1900Hv以下が好ましい。特に、相手攻撃性および長寿命化の両立が図れ、実機での効果が一層期待されることから、表面層のビッカース硬さは1500Hv以上1600Hv以下がより好ましい。以上より、本発明の転がり軸受は、異物が混入した潤滑環境下でも耐剥離性に優れることが分かった。
DLCの適用が検討される摺動面・転動面は潤滑が希薄または滑り速度が速いなど苛酷な潤滑状態であることが多い。特に、異物が混入した潤滑油中での摺動および転動はより苛酷である。本発明の転がり軸受は、少なくとも転動体の表面にDLC膜が形成され、苛酷な潤滑状態、特に異物が混入した潤滑条件下で運転した場合においてもこのDLC膜の耐剥離性に優れ、DLC本体の特性を発揮できるので、耐異物性、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる。さらに、相手材に対する攻撃性が抑制されている。このため、本発明の転がり軸受は、苛酷な潤滑状態での用途を含め、各種用途に適用可能である。特に、異物が混入しやすい条件である車輪支持装置(特に、建設現場や鉱山などで使用される建設機械車軸用軸受)への適用に適している。
1 深溝玉軸受(転がり軸受)
2 内輪
3 外輪
4 玉
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8 硬質膜
11 ステアリングナックル
12 フランジ
13 アクスル
14 円すいころ軸受(転がり軸受)
15 アクスルハブ(回転部材)
16 フランジ
17 スタッドボルト
18 ナット
19 ブレーキドラム
20 ホイールディスク
21 リム
22 バックプレート
23 グリースキャップ
24 外輪
25 内輪
26 保持器
27 円すいころ
28 硬質膜
31 バイアス電源
32 基材
33 膜(層)
34 磁石
35 ターゲット
36 磁力線
37 Arイオン
38 イオン化されたターゲット
39 高密度プラズマ
40 円盤
41 基材
42 スパッタ蒸発源材料(ターゲット)
51 駆動側試験片
52 従動側試験片
53 駆動用プーリ
54 支持軸受
55 負荷用バネ
56 非接触回転計
57 試験軸受
58 支持軸受
59 軸

Claims (8)

  1. 内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体とを備え、前記内輪、前記外輪、前記複数の転動体が鉄系材料からなる転がり軸受であって、
    前記転がり軸受は、異物が混入する条件下で使用される軸受であり、硬質膜は、少なくとも前記転動体の表面に直接成膜される下地層と、該下地層の上に成膜される中間層と、該中間層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とを含む構造の膜であり、前記表面層のビッカース硬さが1200Hv以上2500Hv未満であり、前記硬質膜の膜厚が0.9μm以上2.1μm以下であることを特徴とする転がり軸受。
  2. 前記異物のサイズが100μm未満であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
  3. 前記表面層のビッカース硬さが1200Hv以上1900Hv以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。
  4. 前記表面層のビッカース硬さが1500Hv以上1600Hv以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。
  5. 前記表面層は、前記中間層との隣接側に、前記中間層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の転がり軸受。
  6. 前記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の転がり軸受。
  7. アクスルの外径面上に取付けられた転がり軸受を備え、該転がり軸受によって車輪と共に回転する回転部材を回転自在に支持する車輪支持装置であって、
    前記転がり軸受が、請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の転がり軸受であることを特徴とする車輪支持装置。
  8. 前記転がり軸受が、円すいころ軸受であり、該円すいころ軸受は、前記転動体である円すいころの大径側の端面と、前記内輪に形成された大鍔の端面とが転がり接触および滑り接触する軸受であり、前記円すいころの大径側の端面および前記内輪の大鍔の端面の少なくとも一方に前記硬質膜が形成されていることを特徴とする請求項7記載の車輪支持装置。
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