JP2024014629A - 転がり軸受 - Google Patents

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雅樹 中西
Masaki Nakanishi
智久 大矢
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Abstract

Figure 2024014629000001
【課題】過酷な摺動環境下でも耐剥離性に優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受は、内輪11と、外輪12と、内輪11と外輪12との間を転動する複数の転動体13a、13bとを備えてなる転がり軸受であって、内輪11、外輪12、および転動体13a、13bから選ばれる少なくとも一つの軸受部材の表面に硬質膜を有し、該硬質膜が他の軸受部材と境界潤滑で転がり滑り接触する条件で使用される軸受であり、硬質膜は、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を有し、表面層の水素含有量が、5原子%をこえて30原子%以下である。
【選択図】図3

Description

本発明は、転がり軸受に関し、特に、ダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜を表面に形成した転がり軸受に関する。
硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素、無定形炭素、硬質無定形型炭素、i-カーボン、ダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。
このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドとグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学安定性、耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型・工具類、耐摩耗性機械部品、研磨材、摺動部材、磁気・光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。
ここで、大型の風力発電機における主軸用軸受には、図9に示すような大型の自動調心ころ軸受54が用いられることが多い。主軸53は、ブレード52が取付けられた軸であり、風力を受けることによって回転し、その回転を増速機(図示せず)で増速して発電機を回転させ、発電する。風を受けて発電している際に、ブレード52を支える主軸53は、ブレード52にかかる風力による軸方向荷重(軸受スラスト荷重)と、径方向荷重(軸受ラジアル荷重)が負荷される。自動調心ころ軸受54は、ラジアル荷重とスラスト荷重を同時に負荷することができ、かつ調心性を持つため、軸受ハウジング51の精度誤差や、取付誤差による主軸53の傾きを吸収でき、かつ運転中の主軸53の撓みを吸収できる。そのため、風力発電機主軸用軸受に適した軸受であり、利用されている(例えば、非特許文献1)。
一方、転がり軸受の軌道輪の軌道面、転動体の転動面、保持器摺接面などに対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。このため、転がり軸受における上記各面にDLC膜を成膜する場合には、耐剥離性を改善する必要性がある。
例えば、DLC膜の耐剥離性改善を図ったものとして、クロム(以下、Crと記す。)を主体とする下地層と、該層の上に成膜されるタングステンカーバイト(以下、WCと記す。)とDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜を有する硬質膜を備えた転がり軸受が提案されている(特許文献1参照)。
また、DLC膜の耐剥離性改善を図ったものとして、下地層と、この上に成膜される混合層と、この上に成膜される表面層とからなる硬質膜を有し、混合層における水素含有量が10原子%未満である転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。
特開2011-226638号公報 特開2018-135966号公報
NTN社カタログ「新世代風車用軸受」A65.CAT.No.8404/04/JE、2003年5月1日発行
ところで、例えば、図9に示すように、風力発電用の主軸を支持する自動調心ころ軸受においては、ラジアル荷重に比べてスラスト荷重が大きく、複列のころ57、58のうち、スラスト荷重を受ける列のころ58が、もっぱらラジアル荷重とスラスト荷重を同時に負荷することになる。そのため、転がり疲労寿命が短くなる。また、スラスト荷重が負荷されることから、鍔で滑り運動が起こり摩耗を生じると言う問題があった。加えて、反対側の列では軽負荷となり、ころ57が内外輪55、56の軌道面55a、56aで滑りを生じ、表面損傷や摩耗を生じるという問題がある。そのため、軸受サイズが大きなものを用いることで対処されるが、軽負荷側では余裕が大きくなり過ぎて、不経済である。また、無人で運転されたり、ブレード52が大型となるために高所に設置されたりする風力発電機主軸用軸受では、メンテナンスフリー化が望まれる。
また、転がり滑り運動において発生する高い接触面圧下ではフレーキングの防止は容易でなく、特に滑り摩擦により強いせん断力が発生し得るような潤滑・運転条件においてはより困難となる。特に風力発電機や建設機械などの高い接触面圧下で用いられる転がり軸受においてDLC膜の適用が検討される摺動面は、潤滑状態が悪く、滑りを伴うといった状況であることが多く、一般的な転がり軸受における運転状況より厳しい場合が多い。
上述したように特許文献1および2には、軸受部材上の硬質膜の層構成や、下地層と表面層の間の混合層中の水素含有量の規定による、硬質膜の剥離防止効果が記載されている。硬質膜が他の部材と境界潤滑で転がり滑り接触するような環境における高い接触面圧下で使用される軸受については、使用条件に応じた要求特性を満足させるべく、剥離防止効果のさらなる向上が求められている。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、過酷な摺動環境下でも耐剥離性に優れる転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、上記内輪と上記外輪との間を転動する複数の転動体とを備えてなる転がり軸受であって、上記転がり軸受は、上記内輪、上記外輪、および上記転動体から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の表面に硬質膜を有し、該硬質膜が他の部材と境界潤滑で転がり滑り接触する条件で使用される軸受であり、上記硬質膜は、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を有し、上記表面層の水素含有量が、5原子%をこえて30原子%以下であることを特徴とする。
上記表面層の水素含有量が、15原子%以上30原子%以下であることを特徴とする。
上記硬質膜は、上記軸受部材の表面と上記表面層との間に、少なくとも1種類以上の介在層を有し、上記介在層は、連続的または段階的に上記軸受部材の表面の側から上記表面層の側に向けて組成傾斜させた構造であることを特徴とする。
上記硬質膜は、上記介在層として、上記軸受部材の表面の上に直接成膜されたクロムとタングステンカーバイトとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されたタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする中間層とを有し、上記中間層の上に上記表面層が成膜された構造の膜であることを特徴とする。
上記内輪と上記外輪との間に、軸方向に並んで2列にころを上記転動体として介在させ、上記外輪の軌道面を球面状とし、上記ころの外周面を上記外輪の軌道面に沿う形状とした自動調心ころ軸受であることを特徴とする。
風力発電機のブレードが取付けられた主軸を支持することを特徴とする。
建設機械に用いられることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、軸受部材の表面に硬質膜を有し、該硬質膜が他の部材と境界潤滑で転がり滑り接触する条件で使用される軸受であり、硬質膜は、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を有し、表面層の水素含有量が、5原子%をこえて30原子%以下であるので、硬質膜の耐剥離性に優れ、苛酷な摺動環境下でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。
表面層の水素含有量が、15原子%以上30原子%以下であるので、硬質膜の耐剥離性により優れる。
硬質膜は、軸受部材の表面と表面層との間に、少なくとも1種類以上の介在層を有し、介在層は、連続的または段階的に軸受部材の表面の側から表面層の側に向けて組成傾斜させた構造であるので、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。
硬質膜は、介在層として、軸受部材の表面の上に直接成膜されたクロムとタングステンカーバイトとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されたタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする中間層とを有し、中間層の上に表面層が成膜された構造の膜であるので、各層間での密着性に優れ、硬質膜の耐剥離性にさらに優れる。
本発明の転がり軸受は、硬質膜が他の軸受部材と境界潤滑で転がり滑り接触する条件で使用される軸受であるので、内輪と外輪との間に、軸方向に並んで2列にころを転動体として介在させ、外輪の軌道面を球面状とし、ころの外周面を外輪の軌道面に沿う形状とした自動調心ころ軸受に好適である。
風力発電用の主軸を支持する軸受は、低速回転により潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で、頻繁なメンテナンスを受けることなく長期間にわたって使用される。本発明の転がり軸受は、風力発電機のブレードが取付けられた主軸を支持する自動調心ころ軸受であるので、上記条件であっても硬質膜の耐剥離性に優れることで長寿命となり、メンテナンスフリー化にも寄与する。
建設機械に用いられる軸受は、大荷重が掛かりやすいため、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で使用されやすい。本発明の転がり軸受は、建設機械に用いられる自動調心ころ軸受であるので、上記条件であっても硬質膜の耐剥離性に優れ、長寿命となる。
本発明の転がり軸受を含む風力発電機全体の模式図である。 本発明の転がり軸受を含む風力発電用主軸支持装置を示す図である。 本発明の転がり軸受の一例の自動調心ころ軸受を示す模式断面図である。 本発明の転がり軸受の一例の円すいころ軸受を示す切欠き斜視図である。 硬質膜の構造を示す模式断面図である。 UBMS法の成膜原理を示す模式図である。 UBMS装置の模式図である。 2円筒試験機の模式図である。 従来の風力発電機における主軸支持用の軸受を示す図である。
DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件によって大きく異なり、その結果、耐剥離性にも大きな影響を及ぼす。また、耐剥離性は硬質膜が使用される条件によっても変化する。本発明者らは、2円筒試験などにより、潤滑状態が悪い場合(境界潤滑で転がり滑り接触するような条件下)での検証を重ねた結果、該条件下で使用される転がり軸受の軸受部材の表面に形成する硬質膜について、表面層の水素含有量を所定範囲内とすることで、該条件での耐剥離性の向上が図れることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
本発明の転がり軸受を含む風力発電用主軸支持装置を図1および図2に基づいて説明する。図1は風力発電用主軸支持装置を含む風力発電機全体の模式図であり、図2は図1の風力発電用主軸支持装置を示す図である。図1に示すように、風力発電機1は、風車となるブレード2が取付けられた主軸3を、ナセル4内に設置された自動調心ころ軸受5(以下、単に軸受5とも言う。)により回転自在に支持し、さらにナセル4内に増速機6および発電機7を設置したものである。増速機6は、主軸3の回転を増速して発電機7の入力軸に伝達するものである。ナセル4は、支持台8上に旋回座軸受17を介して旋回自在に設置され、旋回用のモータ9(図2参照)の駆動により、減速機10(図2参照)を介して旋回させられる。ナセル4の旋回は、風向きにブレード2の方向を対向させるために行われる。主軸支持用の軸受5は、図2の例では2個設けられているが、1個であってもよい。
図3に、本発明の転がり軸受の一例として、風力発電機の主軸を支持する自動調心ころ軸受5を示す。この軸受5は、一対の軌道輪となる内輪11および外輪12と、これら内外輪11 、12間に介在した複数のころ13とを有する。複数のころは、軸受の軸方向に2列に並んで介在し、図3では、ブレードに近い方の列(左列)のころが13a、ブレードから遠い方の列(右列)のころが13bとなっている。軸受5は、スラスト負荷が可能なラジアル軸受である。軸受5の外輪12は軌道面12aが球面状とされ、各ころは外周面が外輪軌道面12aに沿う球面形状のころとされている。内輪11は、左右各列のころ13a、13bの外周面に沿う断面形状の複列の軌道面11aが形成されている。内輪11の外周面の両端には、小鍔11b、11cがそれぞれ設けられている。内輪11の外周面の中央部、すなわち左列のころ13aと右列のころ13b間には、中鍔11dが設けられている。ころ13a、13bは、各列毎に保持器14で保持されている。
上記構成において、各ころ13a、13bの外周面は、内輪軌道面11aと外輪軌道面12aとの間で転がり接触する。また、ころ13aの軸方向内側の端面は、中鍔11dの軸方向一方の端面との間で滑り接触し、ころ13aの軸方向外側の端面は、小鍔11bの内側端面との間で滑り接触する。また、ころ13bの軸方向内側の端面は、中鍔11dの軸方向他方の端面との間で滑り接触し、ころ13bの軸方向外側の端面は、小鍔11cの内側端面との間で滑り接触する。これらの摩擦を低減するためにグリースが封入されている。グリースとしては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。
図3において、外輪12は軸受ハウジング15の内径面に嵌合して設置され、内輪11は主軸3の外周に嵌合して主軸3を支持している。軸受ハウジング15は、軸受5の両端を覆う側壁部15aを有し、各側壁部15aと主軸3との間にラビリンスシール等のシール16が構成されている。軸受ハウジング15で密封性が得られるため、軸受5にはシール無しのものが用いられている。軸受5は、本発明の実施形態にかかる風力発電機主軸用軸受となるものである。
上記自動調心ころ軸受は、ころと他部材間で接触する表面(摺接面)に所定の硬質膜が形成されていることを特徴とする。特に、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でも該硬質膜の耐剥離性に優れる。その結果、硬質膜本来の特性を発揮でき、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、自動調心ころ軸受の金属接触に起因する損傷などを防止できる。
硬質膜の形成箇所について以下に説明する。図3の形態の軸受5では、軸受部材である内輪11の外周面に硬質膜18が形成されている。内輪11の外周面は、軌道面11a、中鍔11dの軸方向両端面、小鍔11bの内側端面、小鍔11cの内側端面を含む。図3の形態では、内輪11の外周面全体に硬質膜18が形成されており、ころ13a、13bと転がり滑り接触しない面にも硬質膜18が形成されている。硬質膜18を形成する内輪11の箇所は、境界潤滑条件下でころと転がり滑り接触する表面に形成されていれば、図3の形態に限らない。例えば、各ころ13a、13bと滑り接触する、中鍔11dの軸方向両端面や、小鍔11bの内側端面、小鍔11cの内側端面のうち、少なくともいずれかの端面に硬質膜を形成してもよい。
また、上述したように、風力発電機主軸用軸受としての自動調心ころ軸受では、ブレードから遠い方の列のころ(ころ13b)の方がブレードに近い方の列のころ(ころ13a)に比べて、大きなスラスト荷重を受ける。この場合、ころ13bと滑り接触する箇所では、特に境界潤滑となりやすい。そのため、軸方向に並ぶ2列のころに互いに大きさが異なる荷重が作用することを考慮して、小鍔11b、11cのうち小鍔11cの内側端面にのみ硬質膜を形成してもよい。
上記自動調心ころ軸受では、他の軸受部材と境界潤滑(低ラムダ条件)で転がり滑り接触する条件となる表面に硬質膜を形成している。ころは 内外輪との間で転がりつつ滑りも生じている。図3に示す硬質膜は、このような条件下で使用されるものである。なお、該硬質膜は、図3に示す箇所に限定されず、上記条件となるような、内輪、外輪、および転動体であるころから選ばれる少なくとも一つの軸受部材の任意の表面に形成することができる。これにより、転がり軸受、特に自動調心ころ軸受で発生し易い接触楕円内での差動滑りに起因した偏摩耗が抑制され、長寿命化に寄与する。
図3の形態では、内輪11の外周面に硬質膜18を形成したが、これに代えてまたは加えて、外輪12や、各ころ13a、13bの表面に硬質膜18を形成してもよい。外輪12に硬質膜を形成する構成では、外輪12の内周面(外輪軌道面12aを含む)に硬質膜を形成するとよい。また、各ころ13a、13bの表面に硬質膜を形成する構成では、各ころ13a、13bの両端面に硬質膜を形成するとよい。また、ころにかかる荷重の違いを考慮して、ころ13bの両端面にのみ硬質膜を形成する構成としてもよい。また、各ころ13a、13bの外周面に硬質膜を形成する構成としてもよい。例えば、各列のころのうち、少なくとも一方の列のころの外周面に硬質膜を形成する構成としてもよい。
本発明の転がり軸受の一例である円すいころ軸受について図4を用いて説明する。図4は円すいころ軸受の一例を示す一部切り欠き斜視図である。円すいころ軸受20は、外周面にテーパ状の内輪軌道面25aを有する内輪25と、内周面にテーパ状の外輪軌道面24aを有する外輪24と、内輪軌道面25aと外輪軌道面24aとの間を転動する複数の円すいころ27と、各円すいころ27をポケット部で転動自在に保持する保持器26とを備えている。保持器26は、大径リング部と小径リング部とを複数の柱部で連結してなり、柱部同士の間のポケット部に円すいころ27を収納している。内輪25において、大径側端部に大鍔25c、小径側端部に小鍔25bがそれぞれ一体形成されている。円すいころ軸受における内輪は、テーパ状の内輪軌道面を有することから軸方向に見て小径側と大径側とがあり、「小鍔」は小径側端部に設けられた鍔であり、「大鍔」は大径側端部に設けられた鍔である。
上記構成において、円すいころ27の転動面(テーパ面)27aは、内輪軌道面25aと外輪軌道面24aとの間で転がり摩擦を受け、円すいころ27の小径側の端面(小端面)27bは、小鍔25bの内側端面との間で滑り摩擦を受け、円すいころ27の大径側の端面(大端面)27cは、大鍔25cの内側端面との間で滑り摩擦を受ける。また、円すいころ27と保持器26との間でも転がり摩擦や滑り摩擦が発生する。例えば、円すいころ27の小端面27bは、ポケット部を形成する小径リングの端面との間で滑り摩擦を受け、円すいころ27の大端面27cは、ポケット部を形成する大径リングの端面との間で滑り摩擦を受ける。これらの摩擦を低減するためにグリースが封入されている。グリースとしては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。
図4に示した円すいころ軸受は、転動体の表面に硬質膜を有している。この場合、異物が混入した条件下で他部材と接触する場合でも、該硬質膜の耐剥離性に優れる。また、相手材に形成された圧痕の盛り上がりが硬質膜による切削効果により除去されるため、圧痕起点剥離耐性に優れる。この結果、膜本来の特性を発揮して、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、軸受部材間の金属接触に起因する損傷などを防止できる。
上記硬質膜の形成箇所について、図4の円すいころ軸受20では、上述の通り転動体である円すいころ27に硬質膜28が設けられている。具体的には、円すいころ27の軸方向端面である小端面27bおよび大端面27cに硬質膜28がそれぞれ形成されている。この場合、大鍔における滑り摩擦の方が小鍔における滑り摩擦よりも大きいことを考慮して、少なくとも円すいころの大端面に硬質膜を設けることが好ましい。なお、円すいころ27の転動面27aにも硬質膜28が設けられていてもよく、その場合は円すいころ27の表面全体に硬質膜が設けられることになる。なお、硬質膜は、図4に示す箇所に限定されず、軸受部材の任意の表面に形成することができる。
上述した円すいころ軸受は、建設用機械(鉱山用ダンプトラックなど)の車軸支持装置(車輪支持装置)に用いることができる。このトラックでは、シャフトの回転が遊星歯車機構などを介して駆動輪に伝達される。シャフトの外側には、固定の車軸を形成するスピンドルが配置されており、スピンドルの外側には、転がり軸受を介してタイヤホイールが配置される。該転がり軸受は、遊星歯車機構の近傍に設けられることから、転がり軸受の内部には歯車のピッチングによる鋼系の異物が混入しやすいが、上記硬質膜を有しているため、該硬質膜の耐剥離性に優れる。なお、本発明の転がり軸受は、自動調心ころ軸受として建設機械に用いてもよい。
図1~4では自動調心ころ軸受や、円すいころ軸受を例示したが、本発明の転がり軸受の形態はこれらに限定されない。本発明の転がり軸受は、例えば、深溝玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受などであってもよい。
自動調心ころ軸受において、硬質膜の成膜対象となる軸受部材である内輪、外輪、ころは、例えば、鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。
これらの軸受部材において、硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカーズ硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。
硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカーズ硬さでHv1000以上であることが、硬質膜(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。
硬質膜が形成される面の表面粗さRaは、0.05μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.05μmをこえると、粗さの突起先端に硬質膜が形成され難くなり、局所的に膜厚が小さくなる。
硬質膜の構造の一例を図5に基づいて説明する。図5は、内輪軌道面上に形成された硬質膜の構造を示す模式断面図である。図5に示すように、硬質膜18は、硬質膜18が形成された軸受部材の表面である内輪11の内輪軌道面11a上に成膜される介在層18aと、介在層18aの上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンからなる表面層18bとを有する。さらに、介在層18aは、内輪軌道面11a上に直接成膜される下地層18cと、下地層18cの上に成膜される中間層18dとを有し、連続的または段階的に軸受部材の表面の側から表面層の側に向けて組成傾斜している。硬質膜が上記のような介在層18aを有することで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けられ、成膜後の残留応力の集中が発生し難くなるため、好ましい。なお、硬質膜18は、軸受部材の表面と表面層との間に介在層18aを有しなくてもよい。また、硬質膜18が介在層18aを有する場合、連続的または段階的に軸受部材の表面の側から表面層の側に向けて組成傾斜させた構造でなくてもよい。
下地層18cは、基材となる各軸受部材の表面に直接成膜される。材質や構造は、基材との密着性を確保できるものであれば特に限定されず、例えば材質としてCr、W、Ti、Siなどが使用できる。これらの中でも、基材となる軸受部材(例えば高炭素クロム軸受鋼)との密着性に優れることから、Crを含むことが好ましい。
また、下地層18cは、中間層18dとの密着性も考慮して、CrとWCとを主体とする層であることが好ましい。WCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。特に、内輪11側から中間層18d側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることが好ましい。これにより、内輪11と中間層18dとの両面での密着性に優れる。
硬質膜18は、少なくとも1種類以上の中間層18dを有することが好ましい。また、硬質膜18は、中間層18dを連続的または段階的に表面のダイヤモンドライクカーボン層18cまで組成傾斜させた膜構造を有することが好ましい。中間層18dは、下地層18c、表面層18bとの密着性も考慮して、WCとDLCとを主体とする層であることが好ましい。中間層18dにWCを用いる場合、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。中間層18dが、下地層18c側から表面層18b側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成である場合、下地層18cと表面層18bとの両面での密着性に優れる。また、該中間層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっている場合、該中間層内での破損などを防止できる。さらに、表面層18b側ではDLC含有率が高められている場合、表面層18bと中間層18dとの密着性に優れる。なお、中間層18dがWCとDLCとを主体とする層である場合、非粘着性のDLCをWCによって下地層18c側にアンカー効果で結合させやすい。
表面層18bは、DLCからなる膜である。表面層18bにおいて、中間層18dとの隣接側に、緩和層部分18eを有することが好ましい。これは、中間層18dと表面層18bとで成膜条件パラメータ(炭化水素系ガス導入量、真空度、バイアス電圧)が異なる場合、これらパラメータの急激な変化を避けるために、該パラメータの少なくとも1つを連続的または段階的に変化させることで得られる緩和層部分である。より詳細には、中間層18dの最表層形成時の成膜条件パラメータを始点とし、表面層18bの最終的な成膜条件パラメータを終点として、各パラメータをこの範囲内で連続的または段階的に変化させる。これにより、中間層18dと表面層18bとの急激な物性(硬度・弾性率等)の差がなくなり、中間層18dと表面層18bとの密着性がさらに優れる。なお、バイアス電圧を連続的または段階的に上昇させることで、DLC構造におけるグラファイト構造(sp)とダイヤモンド構造(sp)との構成比率が後者に偏っていき、硬度が傾斜(上昇)する。
表面層の水素含有量は、5原子%をこえて30原子%以下である。表面層の水素含有量は、耐剥離性の観点から、10原子%以上30原子%以下であることが好ましく、15原子%以上30原子%以下であることがより好ましく、20原子%以上30原子%以下であることがさらに好ましい。表面層の水素含有量を上記範囲とすることで、硬質膜が他の部材と境界潤滑で転がり滑り接触する条件下でも硬質膜の剥離を防止できる。なお、転がり接触時の疲労特性を向上させるため、DLC用の炭素供給源として炭化水素系ガスを併用して水素を僅かに含有させつつ上記範囲内とすることが好ましい。
ここで、本発明における「水素含有量(原子%)」は、公知の分析法により算出できる。例えば、GDS分析(グロー放電発光分光分析)で求めることができる。GDS分析は深さ方向と元素量の関係を調べることができる分析であり、各元素の検量線を用意すれば定量が可能である。水素量検量線は、水素の絶対量測定が可能なERDA分析(弾性反跳粒子検出法)を用いて作成できる。GDS分析における水素量出力値は、試験片材質の違いによって異なるため、表面層のDLCについて水素量検量線を作成する必要がある。DLC単層膜試験片について、炭化水素系ガス導入量を調整することで水素含有量の異なる試験片を作製し、ERDA分析とGDS分析を行ない、GDS分析における水素量出力値とERDA分析で測定した水素量(原子%)の関係(検量線)を調べる。上記DLC水素量検量線で求めた水素含有量から、任意の水素量出力値に対応する水素含有量(原子%)が算出できる。
軸受部材の摺動面への上記硬質膜の形成により、鋼同士の接触時に発生する凝着摩耗が抑制される。差動滑りが発生した際の偏摩耗はこの凝着摩耗に起因するため、偏摩耗抑制の結果、長寿命化すると考えられる。また、実際の摺動面では相手材粗さに起因したアブレシブ摩耗も混在する。アブレシブ摩耗の抑制には一般的に摺動部の硬度の影響が大きいため、摺動部の硬度を所定の値よりも大きくすることでアブレシブ摩耗の抑制が図られてきた。これに対し、本発明では、表面層の水素含有量を上記範囲とすることで、摺動部の硬度(特に、表面層の硬度)が比較的低硬度であっても、硬質膜の耐剥離性に優れる。
硬質膜18の膜厚(3層の合計)は0.5~3.0μmとすることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、3.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、硬質膜18の膜厚に占める表面層18bの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、硬質膜18が介在層18aを有する場合、介在層18aにおいて表面層18bと物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。
表面層18bの押し込み硬さ(硬度)は、13GPa以上33GPa以下であることが好ましく、17GPa以上33GPa以下であることがより好ましく、21GPa以上33GPa以下であることがさらに好ましい。表面層18bの押し込み硬さが上記範囲である場合、転がり滑り条件でも表面層がより破断しにくく、耐剥離性に優れる。なお、押し込み硬さの測定は、例えばアジレント社製ナノインデンタ(G200)などの微小硬度計を用いて測定できる。
硬質膜18を以上のような組成の下地層18c、中間層18d、表面層18bからなる3層構造とすることで、耐剥離性により優れる。
本発明の転がり軸受において、以上のような構造・物性の硬質膜を形成することで、軸受使用時に転がり滑り接触などの負荷を受けた場合でも、該膜の摩耗や剥離を防止でき、過酷な摺動環境下でも、軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。また、グリースを封入した転がり軸受において、軌道輪などの損傷により金属新生面が露出すると、触媒作用によりグリース劣化を促進させるが、本発明の転がり軸受では、硬質膜により金属接触による軌道面や転動面の損傷を防止できるので、このグリース劣化も防止できる。
3層構造の硬質膜において、表面層の硬度と、表面層の水素含有量と、硬質膜の破断面の深さ(剥離箇所の深さ)との関係について、以下の傾向が見られる。転がり滑り試験の結果、表面層の硬度が比較的高い場合、剥離形態の多くは硬質膜と下地金属層の接合面または組成傾斜層(介在層)の内部で破断し剥離しやすい。一方、表面層の水素含有量が大きく、硬度が低い場合、表面層内の浅い領域で破断(剥離)しやすく、下地層の軸受部材との接合面や、介在層に起因する剥離は起こりにくい。表面層内で破断する場合、介在層の構造からでは剥離を抑制しにくい。表面層の水素含有量が大きい場合に剥離しやすい原因としては、膜中に未乖離のC-H結合が残存することにより、単位体積あたりのC-C結合(炭素間の単結合)およびC=C結合(炭素間の二重結合)の数が減少して表面層の強度が低下することが考えられる。また、剥離箇所の深さが浅い理由は、剥離の駆動力である滑りにより、接触表面で最大応力を示すせん断力成分が発生するためと考えられる。なお、中間層で水素含有量が多い場合、表面層の水素含有量の有無にかかわらず剥離が発生しやすい。
本発明の転がり軸受における以上のような知見は、転がり軸受が有する内輪、外輪、および転動体から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の表面に形成された硬質膜の剥離を防止する方法であって、硬質膜の表面側にダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を設け、この表面層の水素含有量を5原子%をこえて30原子%以下となるようにすることで、硬質膜が他の部材と境界潤滑で転がり滑り接触する条件においても、硬質膜の表面層の剥離を防止できるという硬質膜剥離防止方法ともいえる。
以下、硬質膜を形成する方法の一例について説明する。上記硬質膜は、軸受部材の成膜面に対して、下地層18c、中間層18d、表面層18bをこの順に成膜して得られる。
表面層18bの形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図6に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材32は、成膜対象の軸受部材である内輪、外輪、またはころであるが、模式的に平板で示してある。図6に示すように、丸形ターゲット35の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石34a、外側磁石34bが配置され、ターゲット35付近で高密度プラズマ39を形成しつつ、磁石34a、34bにより発生する磁力線36の一部36aがバイアス電源31に接続された基材32近傍まで達するようにしたものである。この磁力線36aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材32付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材32付近まで達する磁力線36aに沿って、Arイオン37および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット38をより多く基材32に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)33を成膜できる。
表面層18b中の水素含有量を上記範囲とするため、表面層18bは、この装置を利用して、Arガスに対する炭化水素系ガスの導入量を所定の割合に調整することが好ましい。具体的には、炭化水素系ガスがメタンガスである場合、導入量の割合を、ArガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100(体積部)に対し、好ましくは3~20(体積部)であり、より好ましくは5~15(体積部)である。
炭素供給源としてカーボンターゲットと炭化水素系ガスとを併用することで、DLC膜の硬度および弾性率を調整できる。炭化水素系ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス、ベンゼンなどが使用でき、特に限定されないが、コストおよび取り扱い性の点からメタンガスが好ましい。
UBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は0.2~0.8Paであることが好ましい。より好ましくは、0.25~0.8Paである。真空度が0.2Pa未満であると、チャンバー内のArガス量が少ないため、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、真空度が0.8Paより高いと、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧は50~150Vであることが好ましい。なお、基材に対するバイアスの電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、例えば、バイアス電圧100Vとは、アース電位に対して基材のバイアス電位が-100Vであることを示す。
下地層18cおよび中間層18dの形成も、上記のスパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。下地層18cがCrとWCとを主体とする層である場合は、ターゲット25としてCrターゲットおよびWCターゲットを併用する。また、中間層18dがWCとDLCとを主体とする層である場合は、(1)WCターゲットおよび、(2)カーボンターゲットと必要に応じて炭化水素系ガスを用いる。
下地層18cにおいて、上述のようなCrとWCの傾斜組成とする場合は、連続的または段階的に、WCターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、Crターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより中間層18d側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる構造の層とできる。
中間層18dは、連続的または段階的に、炭素供給源となるカーボンターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜することができる。これにより表面層18b側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。
中間層18d中の水素含有量を調整する場合、炭素供給源としてカーボンターゲットを単独か、カーボンターゲットと炭化水素系ガスとを併用して該炭化水素系ガスの導入量の割合を少なくすることができる。
本発明の転がり軸受に形成する硬質膜として、所定の基材に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関する評価を行った。また、2円筒試験機を用いた転がり滑り試験および転がり試験にて硬質膜の耐剥離性の評価を行なった。
硬質膜の評価に用いた試験片、UBMS装置、およびスパッタリングガスなどは以下のとおりである。
(1)試験片材質:SUJ2 硬さ750Hv
(2)試験片形状:
DLC側 φ40×L12 副曲率R60 0.1umRa
相手材側 φ40×L12 副曲率R60 0.3umRa
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202
(4)スパッタリングガス:Arガス
DLC側試験片における硬質膜の下地層の形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10-3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材となる試験片をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットとWCターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、CrとWCの組成比を傾斜させ、基材側でCrが多く表面側でWCが多いCr/WC傾斜層を形成した。
中間層の形成条件を以下に説明する。下地層と同様にUBMS法にて成膜した。ここで、中間層については、炭化水素系ガスであるメタンガスを供給しながら、WCターゲットとカーボンターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させ、下地層側でWCが多く表面層側でDLCが多いWC/DLC傾斜層を形成した。
表面層の形成条件を以下に説明する。下地層、中間層と同様にUBMS法にて成膜した。ここで、表面層については、炭素供給源として、カーボンターゲットと炭化水素系ガスであるメタンガスとを併用し、メタンガスのUBMS装置内への導入量を変動させてDLC層を形成した。なお、表面層における水素含有量(原子%)は、GDS分析(グロー放電発光分光分析)により上述の方法で求めた。結果を表1に併記する。
図7はUBMS装置の模式図である。図7に示すように、円盤40上に配置された基材41に対し、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)42を非平衡な磁場により、基材41近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図6参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材とするリングに、下地層、中間層、表面層をUBMS被膜として成膜した。
実施例1~6、比較例1~3
表1に示す基材をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、これをUBMS装置に取り付け、上述の形成条件にて下地層、中間層を成膜した。さらに、表面層であるDLC膜を、試験片ごとにArガスに対するメタンガス導入比を変えて成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。得られた試験片を、下記に示す2円筒試験機を用いた転がり滑り試験および転がり試験に供した。結果を表1に併記する。
<2円筒試験機による転がり滑り試験>
得られた試験片について図8に示す2円筒試験機を用いて転がり滑りによる耐剥離性の試験を行なった。この2円筒試験機は、駆動側試験片43と転がり滑り接触する従動側試験片44とを備え、それぞれの試験片(リング)は支持軸受46で支持されており、負荷用バネ47により荷重が負荷されている。また、図中の45は駆動用プーリ、48は非接触回転計である。硬質膜の剥離を助長するために相手材粗さを大きくし、潤滑油粘度を下げ境界潤滑とし、回転差をつけて滑りを発生させた。打ち切り負荷回数の回転後のDLC側試験片の剥離発生状況を顕微鏡観察して耐剥離性を評価した。耐剥離性は、大面積(1mm以上)の剥離が発生した場合を「×」、微小(0.01mm程度)な剥離が発生した場合を「△」、剥離発生なしの場合を「○」と判断した。具体的な試験条件は以下のとおりである。
(試験条件)
最大接触面圧:3.0GPa
回転数:(DLC側)300 min-1
(相手材側)288 min-1
相対滑り率:4%
潤滑油:PAO 6.4cst フェルトパット給油
打ち切り負荷回数:1×10
<2円筒試験機による転がり試験>
得られた試験片について図8に示す2円筒試験機を用いて転がりによる耐剥離性の試験を行なった。本試験では、上述の転がり滑り試験と比べ、DLC側試験片および相手材側試験片の回転数を大きくした。また、DLC側試験片および相手材側試験片の回転数を同じとすることで相対滑り率を0%とした。さらに、打ち切り負荷回数を大幅に大きくした。打ち切り負荷回数の回転後の剥離発生状況を顕微鏡観察して耐剥離性を評価した。耐剥離性の判断基準は、転がり滑り試験と同じである。具体的な試験条件は以下のとおりである。
(試験条件)
最大接触面圧:3.0GPa
回転数:(DLC側)2000 min-1
(相手材側)2000 min-1
相対滑り率:0%
潤滑油:PAO 6.4cst フェルトパット給油
打ち切り負荷回数:1×10
<膜厚試験>
得られた試験片の硬質膜の膜厚を表面形状・表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)を用いて測定した。膜厚は成膜部の一部にマスキングを施し、非成膜部と成膜部の段差から膜厚を求めた。
<硬度試験>
DLC側試験片の硬化膜の表面層の押し込み硬さをアジレントテクノロジー社製:ナノインデンタ(G200)を用いて測定した。なお、測定値は表面粗さの影響を受けない深さ(硬さが安定している箇所)の平均値を示しており、各試験片10箇所ずつ測定した。
Figure 2024014629000002
各実施例と各比較例は、使用する基材、ならびに下地層および中間層の成膜条件が同一であり、硬質膜の総膜厚は約3μmであった。一方、各実施例と各比較例は、表面層の水素含有率および硬度に差異があった。表1に示すように、水素含有量が5原子%をこえて30原子%以下の範囲内である実施例1~6は、押し込み硬度にかかわらず、転がり滑り試験、転がり試験のいずれの条件であっても耐剥離性に優れる結果であった。一方、水素含有量が30原子%よりも大きい比較例1~3は、転がり試験では耐剥離性に優れる結果であったものの、転がり滑り試験においては剥離が発生した。
本結果より、表面層が水素原子を含有し、その水素含有量が5原子%をこえて30原子%以下であることにより硬質膜の耐剥離性に優れ、特に、転がり滑り環境における耐剥離性に優れると考えられる。
本発明の転がり軸受は、例えば、内・外輪軌道面や転動体の転動面にDLC膜が形成され、過酷な摺動環境下でも、このDLC膜の耐剥離性に優れるため、DLC本来の特性を発揮できる。特に、本発明の転がり軸受は、風力発電機の主軸を支持する軸受や、建設機械用の軸受として好適に使用される。
1 風力発電機
2 ブレード
3 主軸
4 ナセル
5 自動調心ころ軸受(軸受)
6 増速機
7 発電機
8 支持台
9 モータ
10 減速機
11 内輪
12 外輪
13 ころ(転動体)
14 保持器
15 軸受ハウジング
16 シール
17 旋回座軸受
18 硬質膜
20 円すいころ軸受
24 外輪
25 内輪
26 保持器
27 円すいころ
28 硬質膜
31 バイアス電源
32 基材
33 膜(層)
35 ターゲット
36 磁力線
37 Arイオン
38 イオン化されたターゲット
39 高密度プラズマ
40 円盤
41 基材
42 スパッタ蒸発源材料(ターゲット)
43 駆動側試験片
44 従動側試験片
45 駆動用プーリ
46 支持軸受
47 負荷用バネ
48 非接触回転計

Claims (7)

  1. 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間を転動する複数の転動体とを備えてなる転がり軸受であって、
    前記転がり軸受は、前記内輪、前記外輪、および前記転動体から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の表面に硬質膜を有し、該硬質膜が他の部材と境界潤滑で転がり滑り接触する条件で使用される軸受であり、
    前記硬質膜は、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を有し、
    前記表面層の水素含有量が、5原子%をこえて30原子%以下であることを特徴とする転がり軸受。
  2. 前記表面層の水素含有量が、15原子%以上30原子%以下であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
  3. 前記硬質膜は、前記軸受部材の表面と前記表面層との間に、少なくとも1種類以上の介在層を有し、
    前記介在層は、連続的または段階的に前記軸受部材の表面の側から前記表面層の側に向けて組成傾斜させた構造であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。
  4. 前記硬質膜は、前記介在層として、前記軸受部材の表面の上に直接成膜されたクロムとタングステンカーバイトとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されたタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする中間層とを有し、
    前記中間層の上に前記表面層が成膜された構造の膜であることを特徴とする請求項3記載の転がり軸受。
  5. 前記内輪と前記外輪との間に、軸方向に並んで2列にころを前記転動体として介在させ、前記外輪の軌道面を球面状とし、前記ころの外周面を前記外輪の軌道面に沿う形状とした自動調心ころ軸受であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。
  6. 風力発電機のブレードが取付けられた主軸を支持することを特徴とする請求項5記載の転がり軸受。
  7. 建設機械に用いられることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受。
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