JP3563559B2 - 徐放性農園芸植物用活性剤及びその使用方法 - Google Patents

徐放性農園芸植物用活性剤及びその使用方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な包接化合物およびその用途に関するものであり、より詳しくはリグニン分解物質の農業又は園芸用植物等に対する生理活性作用を活かし、その欠点である不快臭を解決し、農業分野、園芸分野、更には化粧品分野などへの利用性を高めた新規なリグニン分解物質−シクロデキストリン包接化合物ならびにその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からリグニン分解物質は、植物に対する防黴作用、抗菌作用、開花促進作用、エチレン生成抑制作用、クロロフィル分解抑制作用、紫外線吸収作用、チロシナーゼ活性抑制作用等の効果が認められており(特開平8−259408号公報、特願平7−337664号)、その特性を生かした多くの用途が期待されているが、利用開発上の問題点も存在する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一番の問題点は、リグニン分解物質の主成分が芳香性物質であることから、特有臭が発生することであり、そのかすかな臭いが園芸愛好家等の嗜好を害し、閾値以下の量での使用に制限されている。このことが当該物質のより広範な利用可能性を制限しており、リグニン分解物質を抗菌剤、防黴剤、紫外線吸収剤、鮮度保持剤、開花促進剤や鑑賞用植物の緑色保存剤等の植物活性剤などに使用する際の障害になっている。
又、リグニン分解物質はセントポーリア等の鑑賞用植物の開花を促進し、食用根菜類の成長を促進するが、これらの根の生育を阻害するために、根が充分発達する前のあまり早い時期からの苗に対する使用は控えなければならなかった。
【0004】
本発明者は上記の問題点を解消すべく鋭意研究を重ねた結果、リグニン分解物をシクロデキストリンに包接させることによってリグニン分解物の持つ諸種の効果を発揮させつつ、特有な臭気のみを軽減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の目的は、不快臭がなく、植物活性剤として農業分野及び園芸分野へ、更には化粧品分野への利用性を高めた新規なリグニン分解物を提供することである。
【0005】
尚、効果的な植物活性剤には以下の要件が要求される。
(エチレンガスの抑制)
エチレンは植物における老化ホルモンと言われており、老化をひきおこす種々の酵素活性を増加させる作用を有すると考えられている。このエチレンは植物自らが発生するガスで、自分自身とさらには同じ雰囲気に存在する別の植物体の老化を促進することが知られている。活力ある健康的な植物体を長期間維持するには、このエチレンの作用を抑制する方策を講じなければならない。
【0006】
(緑色の保持)
高等植物の葉や茎の緑色度は植物体の健康度を示す指標であり、緑色の保持は植物活性剤の重要な要件である。緑色の保持とは、高等植物にとって生命維持になくてはならない基本的な物質であるクロロフィルの保持を意味し、具体的にはクロロフィルの生合成を促進し、その分解を抑制することである。
【0007】
(花芽の形成)
観賞の対象として花を楽しむ場合は勿論、高等植物におけるライフサイクルの1プロセスとしても花芽の形成は重要であり、安定的に花芽を形成させる機能を有するものが植物活性剤として望ましい。
【0008】
(病原菌の抑制)
青々とした健康な植物体を得るためには、栽培又は観賞期間中の病原菌の発生を抑止することが重要であり、防黴・抗菌性は植物活性剤として具備すべき要件の一つである。
【0009】
(効果の持続性)
エチレンの作用を持続的に抑える方法としては、キャパシティーが限られているエチレンを吸着する方法より、エチレンの発生自体を抑制する方法のほうが効果的である。このためには、ケイヒ酸等のエチレン生成に関わる酵素の活性阻害剤を用いる方法が考えられる。しかし、さらに長期間の安定した効果を期待するにはこの酵素活性阻害剤の作用量を調節し、その適量を適時エチレン生合成関連酵素に作用させる工夫が必要である。
【0010】
(多機能性)
植物活性剤の効果としては、発育の促進、開花数の増加、病原菌の抑制、老化抑制、光合成機能の向上などが挙げられるが、経済的で効率的な植物活性剤としては一つで幾つもの効果を持つものが望ましい。
【0011】
(安全性)
効果的な植物活性剤の多くは強い生理活性を示し、使用のしかたが不適切な場合は思わぬ失敗を招きやすい。また、野菜や果実は生鮮食料品であるため、安全性には特に注意しなければならず、安全性の極めて高い植物活性剤の出現が期待されている。
【0012】
(特有臭)
植物体からのエチレンの発生を抑制するために、エチレン生合成関連酵素の阻害剤として、ケイヒ酸などのリグニン分解物質を用いる方法が検討されるが、これらの物質の多くは芳香族化合物であり、物質によってはその特有な臭いが使用環境に適しない場合も考えられるので、特有臭を低減する措置が望まれる。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明はケイヒ酸、p−クマル酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のシクロデキストリン包接化合物であって、上記化合物の含有量が1〜15重量%である包接化合物を有効成分とすることを特徴とする徐放性農園芸植物用活性剤及びその使用方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるシクロデキストリン(以下ではCDと称する)は、特に制限されないが、製造コストの点や製造効率を考えれば、微生物が生産するCD生成酵素を使用した製造法により得られるα、β及びγ−CD、並びにこれらをマルトシル化したα及びβ−マルトシルCD等が好ましい。また、リグニン分解物質を高濃度において使用する場合には、水溶性の大きいヒドロキシプロピル−β−CDが適している。
【0015】
一方、リグニンは木材や草本類における細胞壁の主要構成成分の一つであり、フェニルプロパン単位がラジカル重合してでき上がった三次元網状構造を有するフェノール性(芳香族性)天然高分子化合物である。
本発明でいうリグニン分解物質とは化学的、あるいは生物化学的にリグニンより分解されて生ずる物質をいい、ケイヒ酸;p−クマル酸、コーヒー酸(カフェ酸)、フェルラ酸、シナピン酸、コニフェリールアルコール、シナピルアルコール、p−クマリルアルコール、フェニルアラニン等のケイヒ酸から誘導可能な化学構造が類似の物質であるケイヒ酸誘導体、バニリン、バニリン酸、没食子酸、グアヤコール、安息香酸、リグナン、ピノレジノール等が挙げられるが、ケイヒ酸及びケイヒ酸誘導体が好ましい。特に好ましいケイヒ酸誘導体は、p−クマル酸、コーヒー酸、フェルラ酸等である。これらは、単独で或いは2種以上で使用することができる。
【0016】
これらの化合物は化学的合成法によっても得られるものであるが、農業分野、園芸分野、あるいは化粧品分野等への応用という、安全性あるいは環境問題への配慮が特に望まれる本発明の目的を達成するために、天然物由来で獲得可能な物質を使用することとし、木材あるいは草本類中に存在するリグニンを分解するという方法により得たリグニン分解物質が本発明に適用できることを発案し、更に同様に天然物であるデン粉に由来するCD類をそれらの性能を向上、改善するための包接材料として使用することを発案し、本発明を完成した。
尚、本発明においては、リグニン分解物質に該当する上記の化合物を天然精油等の天然物から分離したもの、化学合成したものもリグニン分解物質同様使用できることは言うまでもない。
【0017】
本発明の包接化合物は、リグニン分解物質をCDで包接した化合物である。
CDは、グルコースが環状にα−1,4−グルコシド結合した構造を持ち、グルコース残基が垂直に立っていることから、その1分子は筒状になっている。水溶液中でCDのキャビティ(内腔)は疎水性環境になっており、エネルギー的には不安定な状態にあるが、リグニン分解物質、例えばケイヒ酸が接近すると疎水的な性質を有するケイヒ酸の芳香核部分がこのキャビティ部分に取り込まれ、エネルギー的に安定なケイヒ酸−CD包接化合物になると考えられる。このCDの包接作用により、ケイヒ酸等リグニン分解物質の臭気低減効果、安定化効果、溶解性向上効果等が発現される。
【0018】
次にリグニン分解物質のCD包接化合物の製造方法について説明する。
リグニン分解物質とCDとの包接化合物の製造方法は特に制限されず、従来公知の包接方法に準じて調製される。
例えば、飽和水溶液法では、CDの飽和水溶液にリグニン分解物質の水溶液、あるいは予めリグニン分解物質を少量、エタノール等の溶媒に溶かした溶液を添加、混合し、30分乃至3〜4時間撹拌することにより、リグニン分解物質のCD包接化合物が懸濁し、沈殿として得られる。
又、混練法ではCDに0.5〜5倍量の水を加え、必要量のリグニン分解物質を入れ、混練機で充分混合撹拌することによってリグニン分解物質−CD包接化合物が得られる。
【0019】
どのような方法を用いるにせよ、CDとリグニン分解物質の使用割合は任意であるが、好ましい使用割合は、モル比で、リグニン分解物質:CDが1:1〜10、さらに好ましくは1:1〜5である。このような割合で両物質を用いることにより、リグニン分解物質の含有量が1〜15重量%の包接化合物が得られる。
【0020】
包接化合物は、その水懸濁液、ペースト、湿潤粉末等を噴霧乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、通風乾燥等によって乾燥することによって粉末状態として得られる。
【0021】
こうして得られた本発明のリグニン分解物質−CD包接化合物は、抗菌剤、防黴剤、紫外線吸収剤、鮮度保持剤、開花促進剤や鑑賞用植物の緑色保持剤等の農園芸用植物活性剤等の用途に応じて使い分けられる。
【0022】
リグニン分解物質、例えば、ケイヒ酸はエチレンの発生を抑止し、クロロフィルの分解を抑制し、花芽形成を促進する作用を有する。ケイヒ酸はPAL(フェニルアラニンアンモニアリアーゼ)をアロステリックに阻害し、その結果、スペルミンやスペルミジンといったポリアミンが植物体内に蓄積される。このポリアミンはエチレンの発生を抑える働きがあり、この結果として、色素の変化や落葉などの老化現象が抑制されると同時にクロロフィル分解も抑制される。また、このポリアミンの蓄積は花芽の形成を促進する作用を示すと考えられる。
また、ケイヒ酸は顕著な防黴抗菌活性を有しており(特開平8−259408号公報)、栽培中や観賞期間中の病害菌の発生の抑制に効果を示すものと思われる。さらに、ケイヒ酸は食品添加物として指定されており、他の防黴剤や抗菌剤等に比して、すぐれた安全性を有していると言える。
【0023】
本発明ではCDで包接されたことによるリグニン分解物質徐放効果により、リグニン分解物質の持つ種々の機能が持続的に作用し、抗菌剤、防黴剤、紫外線吸収剤、開花促進剤等の農園芸用植物活性剤、青果物や花卉等の鮮度保持剤等として安全に使用することができる。
例えば、農業・園芸用植物活性剤として使用する場合は、リグニン分解物質−CD包接化合物からリグニン分解物質が徐放されることにより、リグニン分解物質の少量が持続的に用土中又は、栽培液中に放出され、この少量のリグニン分解物質が植物体に悪影響を及ぼすこと無くエチレンの発生を抑え、植物体の老化を防止し、クロロフィルの分解を抑制し、緑色度を保ち、病害菌の繁殖を抑制し、植物体の活性を保持する。更に、根が充分に生育していない農園芸用植物の苗に用いても根の生育が阻害されることはない。
【0024】
本発明のリグニン分解物質−CD包接化合物を上記のような農園芸用植物の活性剤として使用する場合には、その使用形態は特に限定されず、例えば、リグニン分解物質−CD包接化合物を粉末状のまま用土中又は栽培液に散布するか、リグニン分解物質−CD包接化合物を水に易分散性の粉体あるいは顆粒状として、又は水または他の溶剤に溶解、分散又は乳化させた液体として使用される。液体として使用する場合は、予め所定の濃度に希釈したものでも、濃厚液として使用時に希釈して使用するものでもよい。さらに、必要に応じて、肥料や他の植物活性剤、ミネラル剤など、その他の添加剤等と混合して用いることができる。
【0025】
本発明のリグニン分解物質−CD包接化合物を植物活性剤の有効成分として使用する場合、その使用量は特に限定されないが、特に効果的な使用量は、用土(栽培液を含む)100重量部あたり0.0001〜0.20重量部(リグニン分解物質として0.00001〜0.02重量部)である。使用量がこの範囲から外れると植物の生育に悪影響を及ぼすことがある。
又、本発明の包接化合物の用途において、安全性、衛生性に関係する要件が特に厳しくない場合、例えば直接内容物に接触しない使い方等においては、化学合成由来の、例えばケイヒ酸、コーヒー酸等の前記のリグニン分解物質と同じ化合物をCD類で包接した化合物を使用することができる。
【0026】
【実施例】
次に実施例及び参考例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中部又は%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
【0027】
実施例1
β−CDの純分約15%の水懸濁液100部を約70℃に加温してβ−CDを溶解させ、これにケイヒ酸の10%エタノール溶液19.5部を徐々に添加し撹拌した。次いで加熱を止め、撹拌しながら放冷し室温にまで冷やした。生じた沈殿を濾別し、60℃以下の温度で減圧乾燥した。
得られた粉末についてX線回折を測定したところ、図1に示したように、得られた粉末がケイヒ酸(図2)、β−CD(図3)及びこれらの混合物(図4)とは異なるX線回折図形を示し、包接化合物を形成していることが示された。この包接化合物中のケイヒ酸の含有量は11.3%であった。
同様にしてコーヒー酸のβ−CD包接化合物(コーヒー酸の含有量13.5%)を得た。これらの包接化合物(以下ではケイヒ酸−CD包接化合物と記す)を以下の実施例で使用する。
【0028】
(ケイヒ酸−CD包接化合物の耐熱性)
ケイヒ酸−CD包接化合物及びケイヒ酸の含有量が包接化合物と同じ量になるように機械的に混合したケイヒ酸とCDの混合物をそれぞれ3g精秤瓶に採取し、105℃で恒量となるまで乾燥させ、デシケータ内で冷却した後、精秤した。これらの試料を200℃の雰囲気に2時間放置した後、室温まで冷却させた。再度、上記の条件で乾燥、冷却し、各試料を精秤した。
最初の精秤時の重量と200℃熱処理後の精秤重量との差から重量減少率を算出した。この結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
表1.ケイヒ酸−CD包接化合物の耐熱性向上効果
Figure 0003563559
【0030】
この結果から明らかなように、ケイヒ酸をβ−CDで包接することによりケイヒ酸の耐熱性は向上する
【0031】
参考
300ml容三角フラスコに試料溶液10mlを入れ、口をパラフィルムで密封後、冷暗所(4℃)で保存した。1時間後これらの試料を官能試験に供した。試料は以下に示す溶液を用いた。
コントロール :蒸留水(pH5.4)
C D 液 :1.6%β−CD水溶液(pH5.4)
ケイヒ酸液 :0.03%ケイヒ酸水溶液
ケイヒ酸−CD包接化合物液:1.6%β−CD水溶液(pH5.4)に 0.03%量のケイヒ酸を加え、加熱しつつ1時間撹拌し、 冷却した懸濁液
【0032】
官能試験は女性1名を含む10名で行い、次の6段階評価により臭気を評価した。官能試験結果を表2に示す。
0点:無臭 1点:かすかに感ずる臭い
2点:楽に感ずる臭い 3点:明らかに感ずる臭い
4点:強い臭い 5点:耐えられない程強く感ずる臭い
【0033】
【表2】
表2.ケイヒ酸臭官能試験結果
Figure 0003563559
【0034】
表2の結果から明らかな様に、ケイヒ酸をβ−CDで包接するとケイヒ酸臭を低減し、ほとんど無臭にすることができる。
【0035】
参考
大腸菌(Escherichia coli、IAM 1268)と黄色ブドウ球菌(Staphyloccocus aureus、IAM1011)をそれぞれ接種したNB(肉汁栄養)液体培地(組成:肉エキス10g、ペプトン10g、NaCl5g、蒸留水1リットル、pH7.2)を37℃で16時間振盪培養し、菌体懸濁液を調整した。この菌体懸濁液の200倍希釈液5mlを25ml容L字管にとり、これにサンプルとしてのケイヒ酸−CD包接化合物、コーヒー酸−CD包接化合物各0.05gを添加し、37℃で24時間振盪培養に付した後、平板希釈法により希釈液中の生菌数を測定した。サンプルを添加しないコントロールの生菌数の値とを比較して、サンプル添加時の各菌の生存率を算出した。この結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
表3.リグニン分解物質−CD包接化合物の抗菌効果
Figure 0003563559
【0037】
この結果から明らかな様に、ケイヒ酸−CD包接化合物、及びコーヒー酸−CD包接化合物は大腸菌と黄色ブドウ球菌の生存率を著しく低下させ、これらの菌に対して抗菌効果を有することがわかる。
【0038】
参考
ケイヒ酸−CD包接化合物をMYG培地(マルトエキス0.6g、イーストエキス0.4g、グルコース0.4g、寒天1.5g/100ml蒸留水、pH5.6)中に添加し、この培地を直径9cmのシャーレに分注してプレートを作った。このプレートの中央に一白金耳量のセントポーリア苗から分離した汚染菌である不完全菌アスペルギルス(Aspergillus sp.)の菌糸を植え付け、25℃で培養した。
成長したコロニーの直径を経時的に測定し、ケイヒ酸−CD包接化合物の本汚染菌に対する生育抑制効果を調べたところ、表4に示す結果を得た。
【0039】
【表4】
表4.ケイヒ酸−CD包接化合物の防黴効果
Figure 0003563559
(注)表中の「−」はコロニーを生じなかったことを示す。
【0040】
この結果から明らかな様に、ケイヒ酸−CD包接化合物は汚染菌アスペルギルスの生育を抑制する効果を有する。
【0041】
以下に他の使用例を示す。
参考
100ml容コニカルビーカー(口径4.6cm、高さ9cm)の底にミリオンA(ソフト・シリカ株式会社製珪酸塩白土)を敷き、0.1%ケイヒ酸−CD包接化合物液及び蒸留水を口下2cmの所まで入れ、口にアルミ箔をかぶせた。セントポーリアの葉を、葉柄のところで斜めにカットし、これをアルミ箔の上から突き刺し、葉柄の切り口の先端が水面下2cmになるように調整した。これを21℃、2000ルックス/16時間照射/日の条件の人工気象器内に3日間置き、葉のクロロフィル含量を測定した。この結果を表5に示す。
【0042】
【表5】
表5.ケイヒ酸−CD包接化合物のクロロフィル保持効果
Figure 0003563559
(*1):アルコール抽出されたクロロフィル量/新鮮材料
【0043】
この結果から明らかな様に、ケイヒ酸−CD包接化合物はクロロフィルを保持し、緑色を保つ効果を有する。
【0044】
参考
100ml容コニカルビーカー(口径4.6cm、高さ9cm)に0.1%β−CD−ケイヒ酸包接化合物液、および蒸留水を口下2cmの所まで入れ、口にアルミ箔をかぶせた。ポトスの葉を、葉柄のところで斜めにカットし、これをアルミ箔の上から突き刺し、葉柄の切り口の先端が水面下2cmになるように調整した。これを21℃、2000ルックス/16時間照射/日の条件の人工気象器内に2日間置き、葉色を測定した。葉色の測定については、コンピューターカラーマッチング法(大日精化工業社製 COLORCOM−C SPECTROPHOTOMETER を使用)を実施し、マンセル表色系(色相(H)、明度(V)、彩度(C))での表示を試みた。この結果を表6に示す。
【0045】
【表6】
表6.ケイヒ酸−CD包接化合物の緑色保持効果
Figure 0003563559
【0046】
表6の結果から明らかな様に、CD−ケイヒ酸包接化合物を添加した栽培液に浸したポトスの葉色は蒸留水に浸したポトスの葉色より緑味が増しており、CD−ケイヒ酸包接化合物は緑色保持効果を有することがわかる。
【0047】
実施
セントポリア(スージー)の苗を小鉢(直径10cm、深さ7cm)に植え付け、セントポーリア用温室内(約20℃、自然光)で2週間栽培した。この後、用土にCD−ケイヒ酸包接化合物0.01g/1鉢を混入させ、十分に給水した。また、0.0005%ケイヒ酸水溶液を鉢の受皿に流し込み、ケイヒ酸水溶液が常に満ちているように適宜供給した。比較のため、水のみを供給した鉢をコントロールとして用意した。これらの鉢について、上記の条件で栽培を続け、28日後に花芽の形成を調査した。この結果を表7に示す。
【0048】
【表7】
表7.ケイヒ酸−CD包接化合物の花芽形成効果
Figure 0003563559
【0049】
表7の結果から明らかな様に、ケイヒ酸添加時と同様にケイヒ酸−CD包接化合物を添加した株に花芽が確認され、ケイヒ酸−CD包接化合物がセントポ−リアの花芽形成を促進することがわかる。
【0050】
実施
100ml容三角コニカルビーカー(口径4.6cm、深さ9cm)の底にミリオンA(珪酸塩白土、ソフト・シリカ株式会社製)を敷き、それぞれ、0.1%CD−ケイヒ酸包接化合物液、0.01%ケイヒ酸溶液、蒸留水を口下2cmの所まで入れ、口にアルミ箔をかぶせた。セントポーリアの葉を、葉柄のところで斜めにカットし、これをアルミ箔の上から突き刺し、葉柄の切り口の先端が水面下2cmになるように調整した。これを21℃、2000ルックス/16時間照射/日の条件の人工気象器内に48日間置き、葉柄の先端より生じた根の長さを測定した。結果を表8示す。
【0051】
【表8】
表8.CD−ケイヒ酸包接化合物とセントポーリアの根の発育
Figure 0003563559
【0052】
表4の結果から明らかな様に、ケイヒ酸をCDによって包接することにより、セントポーリアの根の発育に及ぼすケイヒ酸の悪影響を軽減することができる。
【0053】
参考
100ml容コニカルビーカーにリンゴ片40gを入れ、さらにキムワイプ(実験用拭き取り紙;十條キンバリー株式会社製)に包んだ実施例1のケイヒ酸−CD包接化合物2.0gを投入し、コニカルビーカーの口をパラフィルムで密閉した。このビーカーを23℃で所定期間放置した後、ビーカー中のエチレン濃度をガス検知管(ガステック社製)にて測定した。この結果を試料を投入しないコントロールの結果と比較し、表9に示す。
【0054】
【表9】
表9.ケイヒ酸−CD包接化合物のリンゴ片からのエチレン発生の抑制
Figure 0003563559
【0055】
この結果から明らかな様に、ケイヒ酸−CD包接化合物はリンゴ片からのエチレンの発生を抑制する。
【0056】
【発明の効果】
以上の本発明によれば、リグニン分解物質の特有臭が低減され、リグニン分解物質が有する開花促進、緑色保持性等の農園芸用植物活性作用、抗菌性、防黴性、紫外線吸収性等の優れた特性を維持した新規なリグニン分解物質のシクロデキストリン包接化合物が提供される。この包接化合物は、開花促進剤や鑑賞用植物の緑色保持剤等の農園芸用植物活性剤、青果物や花卉の鮮度保持剤、抗菌剤、防化微剤あるいは紫外線吸収剤等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のケイヒ酸−β−CD包接化合物のX線回折図形である。
【図2】ケイヒ酸のX線回折図形である。
【図3】β−CDのX線回折図形である。
【図4】ケイヒ酸とβ−CDの混合物のX線回折図形である。

Claims (2)

  1. ケイヒ酸、p−クマル酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のシクロデキストリン包接化合物であって、上記化合物の含有量が1〜15重量%である包接化合物を有効成分とすることを特徴とする徐放性農園芸植物用活性剤
  2. 請求項に記載の徐放性農園芸植物用活性剤を培地又は土壌に散布することを特徴とする農園芸植物用活性剤の使用方法。
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