JP3559829B2 - カチオン電着塗装方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン電着塗装方法に関し、詳しくは自動車ボディなどの構造の複雑な被塗物に対して、カチオン電着塗料を特定条件で2回塗装することによって、被塗物表面の各部分に目的膜厚の電着塗膜を形成することができ、かつ被塗物表面の各部分の電着塗装膜厚の差を小さくできるカチオン電着塗装方法に関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
カチオン電着塗装は、被塗物を陰極とし、電着浴中で被塗物と対極との間に電圧を印加することにより被塗物の表面に電着塗膜を形成する方法であり、焼付け過程における熱流動により、平滑性の優れた塗膜を得るものである。
【0003】
しかしながら、被塗物が複雑な構造を有する場合、例えば袋状構造体部を有する自動車ボディなどの場合には、袋状構造体内部まで必要な防食性を有するに十分な膜厚の電着塗膜を形成することが困難であった。例えば、袋状構造体内部まで十分な膜厚を形成するために印加電圧を大きくすることが考えられるが、印加電圧を大きくすると、ボディ外板部の電着塗膜厚が必要以上に大きくなりすぎて塗料使用量が増大してしまったり、塗膜外観が低下するといった問題が発生するといった不具合がある。
【0004】
そこで本出願人は、特開平7−41994号公報において、複雑な構造を有する被塗物に、水酸基を含有するカチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とするカチオン電着塗料(A)を塗装し、50〜100℃未満の温度で焼付けた後、カチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とするカチオン電着塗料(B)を塗装し焼付けることを特徴とするカチオン電着塗装方法を提案した。
【0005】
上記方法によって耐候性、防食性がかなり良好な電着塗膜を形成することができるが、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位とボディ外板部などのつきまわり性を必要としない部位とにおける電着塗膜厚の差がいまだにかなり大きく、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位の耐食性をさらに向上させる必要がある場合には、この方法では十分に対応できないという問題があった。
【0006】
そこで本発明者らは、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位における電着塗膜厚を増大させることが可能であり、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位とボディ外板部などのつきまわり性を必要としない部位とにおける電着塗膜厚の差を従来の方法に比較して小さくできるカチオン電着塗装方法を得るために鋭意研究を行った結果、1回目の電着塗装後に行う加熱における温度条件を、つきまわり性が良くないと塗装が困難な部位とつきまわり性を必要としない部位との表面温度に一定の差をつけて加熱を行った後に、2回目の電着塗装を行うことによって上記目的を達成することができることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、複雑な構造を有する被塗物に、カチオン電着塗料(A)を電着塗装して、電着塗膜厚の目的膜厚を有する部分と目的膜厚に達しない部分とを形成した後、目的膜厚に達しない部分の被塗物表面の到達最高温度が40〜80℃となり、かつ目的膜厚を有する部分の被塗物表面の到達最高温度の最大温度が目的膜厚に達しない部分の被塗物表面の到達最高温度の最小温度より20〜70℃高い温度となるように被塗物を加熱した後、カチオン電着塗料(A)と同一であっても異なっていてもよいカチオン電着塗料(B)を電着塗装して該目的膜厚に達しない部分にカチオン電着塗料(B)による電着塗膜を形成し焼付けることを特徴とするカチオン電着塗装方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明方法において、複雑な構造を有する被塗物は、1回の電着塗装によって形成される塗装膜厚に部分的に差を生じやすい、すなわち電着塗料の「つきまわり性」を必要とする構造部を有する被塗物である。この被塗物としては、例えば、電着塗装のための電気導電性を有するものであって、袋構造部や管状構造部を有するもの、例えば自動車ボディ、複雑な構造の自動車部品、金属管、電気機器の箱体などを挙げることができる。被塗物の材質としては、防錆性の点から防錆処理鋼板からなるものが好適である。該鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛・鉄二層めっき鋼板及び有機複合めっき鋼板など、並びにこれらの鋼板や冷延鋼板などの基材を、必要によってアルカリ脱脂等表面を清浄化した後、リン酸塩化成処理、クロメート処理などの表面処理を行ったもの等が挙げられる。
【0009】
上記複雑な構造を有する被塗物にカチオン電着塗料(A)を電着塗装すると、つきまわり性を必要としない部位(以下、「電着容易部」と略称する)に目的とする膜厚の電着塗膜を形成させたとき、つきまわり性が良くないと塗装が困難な部位(以下、「電着困難部」と略称する)は、目的とする膜厚より薄かったり全く塗膜が形成されていなかったりする。
【0010】
本発明方法において、第1回目の電着塗装に使用するカチオン電着塗料(A)及び第2回目の電着塗装に使用するカチオン電着塗料(B)としては、カチオン電着塗料であるかぎり特に制限なく使用することができ、目標とする塗膜性能に応じて適宜選択して使用すればよい。またカチオン電着塗料(A)とカチオン電着塗料(B)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよく、それぞれに別の機能を持たせたものであってもよい。
【0011】
上記カチオン電着塗料としては、例えばカチオン電着性ビニル共重合体を主成分とする電着塗料やカチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料を挙げることができる。
【0012】
上記カチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とする電着塗料において、カチオン電着性ビニル系共重合体としては、従来公知のものが使用でき、例えばアミノ基含有モノマーと水酸基含有モノマー及びその他のビニルモノマーとを共重合してなるものが挙げられる。
【0013】
該アミノ基含有モノマーとしては、アミノ基含有アクリル系モノマーが好ましく、例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N−tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキルアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル類;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアミノアルキルアクリルアミド又はメタクリルアミド類が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用することができる。かかるアミノ基含有モノマーは全モノマー量の3〜20重量%、好ましくは5〜18重量%の範囲で使用されるのが適当である。
【0014】
上記水酸基含有モノマーとしては、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸のC1 〜C8 のヒドロキシアルキルエステルが好ましく使用できる。
【0015】
上記その他のビニルモノマーとしては、上記アミノ基含有モノマーや水酸基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はなく、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、 iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸のC1 〜C24のアルキル又はシクロアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ベオバモノマー(シェル化学製品)などのビニルモノマーが挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上組合せて使用することができる。これらのモノマーは所望する電着塗料の性質及びそれより形成される塗膜の要求性能に応じて適宜選択できる。
【0016】
以上の如きモノマー類からなる共重合体の製造は従来公知の方法で行うことができ、一般には溶液重合法に従って行われる。
【0017】
また前記カチオン電着性ビニル系共重合体として、グリシジル基含有モノマーと水酸基含有モノマー及びこれらと共重合可能でグリシジル基と反応しないその他のビニルモノマーとの共重合体にアミンを付加してなるものも挙げられる。
【0018】
上記グリシジル基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、N−グリシジルアクリルアミド、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。かかるグリシジル基含有モノマーは、全モノマー量の5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%の範囲で使用されるのが適当である。
【0019】
水酸基含有モノマー及びこれらと共重合可能でグリシジル基と反応しないその他のビニルモノマーは、前述のものが同様に使用できる。またかかるモノマー類からなる共重合体の製造も、従来公知の方法で行うことができる。
【0020】
上記のようにして得られるグリシジル基含有共重合体とアミンとの付加反応は、従来公知の方法に従って行うことができ、例えば該共重合体溶液に第2級アミンを加え約50〜120℃の温度で約1〜20時間反応せしめる方法などが挙げられる。使用されるアミンとしては、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミンなどのアルキルアミン類;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン類;ピペリジン、モルホリン、N−メチルピペラジンなどが挙げられる。かかるアミンの使用量は通常グリシジル基1モル当たり約0.1〜1モルの範囲が適当である。
【0021】
以上の如くして得られるカチオン電着性ビニル系共重合体の水酸基価は、特に制限されるものではないが、通常30〜200、好ましくは50〜150の範囲が適当である。該水酸基価が30未満では得られる塗膜の硬化性が劣りやすく、また200を越えると耐候性や防食性が劣る傾向がみられる。
【0022】
また該カチオン電着性ビニル系共重合体の分子量は、通常約5,000〜100,000、好ましくは10,000〜50,000の範囲が適当である。
【0023】
上記カチオン電着性ビニル系共重合体は、酢酸、プロピオン酸、乳酸、ヒドロキシ酢酸などの有機酸によって中和され水分散能が付与されることができる。また該共重合体に必要に応じて、ブロックポリイソシアネート化合物又はメラミン樹脂などの架橋剤を混合してもよい。
【0024】
かかるブロックポリイソシアネート化合物は、各々ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤(例えば、アルコール系化合物、オキシム系化合物、第3級ヒドロキシアミン化合物、フェノール系化合物など)との付加反応生成物であり、このポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂環式族、脂肪族のポリイソシアネート化合物及びこれらのポリイソシアネート化合物の過剰量にエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物を反応させて得られる末端イソシアネート含有化合物が挙げられる。さらに上記カチオン電着性ビニル系共重合体には、他のカチオン電着性樹脂として従来公知のアミン付加エポキシ樹脂を、少量併用することが防食性の点から望ましい。
【0025】
前記カチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料において、カチオン電着性エポキシ樹脂としては、アミン付加エポキシ樹脂が挙げられ、該アミン付加エポキシ樹脂は、電着塗料において通常使用されているポリアミン樹脂、例えば、(i)ポリエポキシド化合物と1級モノ−及びポリアミン、2級モノ−及びポリアミン又は1、2級混合ポリアミンとの付加物(例えば米国特許第3,984,299号明細書参照);(ii)ポリエポキシド化合物とケチミン化された1級アミノ基を有する2級モノ−及びポリアミンとの付加物(例えば米国特許第4,017,438号明細書参照);(iii) ポリエポキシド化合物とケチミン化された1級アミノ基を有するヒドロキシ化合物とのエーテル化により得られる反応物(例えば特開昭59−43013号公報参照)などを包含しうる。
【0026】
上記ポリアミン樹脂の製造に使用されるポリエポキシド化合物は、エポキシ基を1分子中に2個以上有する化合物であり、一般に少なくとも200、好ましくは400〜4,000、さらに好ましくは800〜2,000の範囲内の数平均分子量を有するものが適しており、特にポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるものが好ましい。該ポリエポキシド化合物の形成のために用いうるポリフェノール化合物としては、例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が挙げられる。
【0027】
該ポリエポキシド化合物はポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアシドアミン、ポリカルボン酸、ポリイソシアネート化合物などと一部反応させたものであってもよく、さらにまた、ε−カプロラクトン、アクリルモノマーなどをグラフト重合させたものであってもよい。
【0028】
上記アミン付加エポキシ樹脂は酢酸、プロピオン酸、乳酸、ヒドロキシ酢酸などの酸で中和され、水分散能が付与される。またアミン付加エポキシ樹脂には必要に応じて架橋剤を混合してもよい。この架橋剤としては、前記カチオン電着性ビニル系共重合体に必要に応じて混合できる架橋剤として挙げたブロックポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0029】
また、上記架橋剤を使用しなくても硬化させることが可能な自己架橋タイプのアミン付加エポキシ樹脂を使用することができ、例えばポリエポキシ物質にβ−ヒドロキシアルキルカルバメート基を導入した樹脂(例えば特開昭59−155470号公報参照);エステル交換反応によって硬化しうるタイプの樹脂(例えば特開昭55−80436号公報参照);基体樹脂中にブロックイソシアネート基を導入した樹脂などを用いることもできる。
【0030】
上記したカチオン電着塗料(A)、カチオン電着塗料(B)として使用できる電着塗料は、必要に応じて、塗料添加物、例えば、カーボンブラック、チタン白、ベンガラのような着色顔料;クレー、タルク、炭酸カルシウムのような体質顔料;クロム酸ストロンチウム、クロム酸鉛、ケイ酸鉛などの防錆顔料;或はさらに他の添加剤を配合することができる。他の添加剤としては、例えば、分散助剤(非イオン系界面活性剤);塗面のハジキ防止剤(アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂など);硬化促進剤(例えば鉛、ビスマス、スズなどの金属の塩);有機溶剤等が挙げられる。
【0031】
カチオン電着塗料(A)は、前記樹脂、架橋剤及び塗料添加物に加え、さらに必要に応じて導電性カーボン(グラファイト等)、金属性粉末などの導電性粉末を配合してもよく、その場合には、カチオン電着塗料(A)により形成される塗膜が、20℃・20Vでは1×107 〜1013Ω・cmの範囲の体積固有電気抵抗値(膜厚25μm)を有することが好ましく、これにより1回目の電着塗膜と2回目の電着塗膜との境界部の塗膜形成をよりよく行うことができる。
【0032】
上記カチオン電着塗料(A)は、適宜脱イオン水で希釈して固形分濃度が約5〜25重量%、pHが5.5〜8の範囲内になるように調整することができる。
カチオン電着塗料(A)の塗装
上記カチオン電着塗料(A)を用いて被塗物に電着塗装を行う方法及び装置としては、従来からカチオン電着塗装において使用されているそれ自体既知の方法及び装置を使用することができる。その際、被塗物をカソードとし、アノードとしてはステンレス#316板、フェライト金属板などを用いるのが好ましい。用いうる電着塗装条件は特に制限されるものではないが、一般的には、浴温:15〜35℃(好ましくは20〜30℃)、電圧:100〜400V(好ましくは200〜300V)、電流密度:0.01〜3A/dm2 、通電時間:30秒〜10分、極面積比(A/C):6/1〜1/6、極間距離:10〜100cm、撹拌状態で電着することが望ましい。
【0033】
カチオン電着塗料(A)による電着塗膜の電着容易部における膜厚は目的とする性能に応じて適宜選定すればよいが、10〜70μm 、さらには10〜30μm の範囲であることが好ましい。
【0034】
カチオン電着塗料(A)として、カチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とする電着塗料を使用することによって一般に耐候性の良好な塗膜を得ることができ、カチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料を使用することによって防食性の良好な塗膜を得ることができる。
【0035】
本発明方法においては、上記カチオン電着塗料(A)の電着塗装後、必要に応じて水洗を行い、ついで加熱を行うが、この加熱条件が重要であり、まず電着困難部の表面の到達最高温度が40〜80℃、好ましくは50〜70℃となることが必要である。電着困難部の表面の到達最高温度が40℃未満では、第2回目の電着塗装を行った際に1回目の電着塗膜と2回目の電着塗膜とが混合しやすくなり、仕上り性が低下し十分な防食性などの塗膜性能を有する塗膜が得られなくなる。一方、電着困難部の表面の到達最高温度が80℃を超えると、電着困難部に形成された目的膜厚に達していない1回目の電着塗膜が溶融して緻密な膜となるので、電着困難部のうちの目的膜厚に到達していない塗膜であっても、第2回目の電着塗装による電着塗膜が形成されない箇所が発生しやすくなる。
【0036】
さらに、上記加熱において、電着容易部の表面の到達最高温度及び電着困難部の表面の到達最高温度のそれぞれは、加熱方法などにより、バラツキを生じることがあるが、電着容易部の表面の到達最高温度の最大温度が、電着困難部の表面の到達最高温度の最小温度より20〜70℃高い温度となることが必要である。この温度差が、20℃より小さくなると、加熱による電着容易部の塗膜と電着困難部の塗膜との塗膜状態の差が小さくなり、温度差による第2回目の電着塗膜の形成のしやすさに差がなくなってしまう。一方、温度差が、70℃より大きくなると、電着容易部の場所ごとの温度のバラツキが大きくなり、電着容易部の塗膜の場所ごとの乾燥程度に差が出てしまい、2回目の電着の際に膜厚分布に差が出やすくなり、塗面の平滑性が低下するという問題がある。
【0037】
本発明方法において、被塗物が自動車ボディである場合には、上記加熱は、通常、3〜7分間行うことが好ましい。加熱時間が短いと、電着困難部の到達最高温度が、40℃に到達しないことが起こりやすく、また加熱時間が長いと、電着容易部の表面の到達最高温度の最大温度と、電着困難部の表面の到達最高温度の最小温度との温度差が、20℃より小さくなりやすくなる。
【0038】
また上記加熱において、電着容易部の表面のいずれの箇所においても、その到達最高温度は、電着困難部の表面のいずれの箇所における到達最高温度より実質的に高い温度となるようにすることが好ましい。
【0039】
本発明方法においては、上記加熱後、通常、被塗物を冷却し、ついで第2回目の電着塗装として、カチオン電着塗料〔2〕が電着塗装される。カチオン電着塗料(B)には、エッジ防食性が強く要求される場合は前記樹脂、架橋剤及び塗料添加物に加え、さらにゲル化微粒子を配合してエッジ被覆性を改良することが好適である。
【0040】
上記ゲル化微粒子としては、粒子内の架橋反応によりゲル化された微粒子重合体であれば特に制限なく従来公知のものが使用でき、例えばアルコキシシラン基とカチオン性基とを含有するアクリル共重合体を水分散化し、粒子内架橋せしめたもの(特開平2−269164号公報参照);アルコキシシラン基と水酸基及びカチオン性基を有する内部架橋ゲル化微粒子(特開平2−47173号公報参照);アルコキシシラン基とウレタン結合と水酸基及びカチオン性基を有する内部架橋ゲル化微粒子(特開平3−62860号公報参照)などが挙げられる。
【0041】
さらに上記ゲル化微粒子として、特に加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物を水分散化し、かつ粒子内架橋せしめてなるカチオン電着性ゲル化微粒子が、防食性の点から好適に使用できる。以下、該ゲル化微粒子について説明する。
【0042】
上記「加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物」は、エポキシ樹脂アミン付加物へ加水分解性アルコキシシラン基を導入したものであって、カチオン性基、特に酸で中和されたアミノ基を水分散基として水中において安定に分散し、かつ該アルコキシシラン基の加水分解によって生成したシラノール基がシラノール基同志、及びヒドロキシル基がある場合にはそのヒドロキシル基とも縮合して粒子内架橋が行われ、ゲル化することが可能な付加物を指称したものである。
【0043】
該ゲル化微粒子の構成成分であるエポキシ樹脂アミン付加物は、前記カチオン電着性エポキシ樹脂のところで説明した如き、ポリアミン樹脂などが包含される。
【0044】
加水分解性アルコキシシラン基の該エポキシ樹脂アミン付加物への導入方法は、特に制限されるものではなく、それ自体既知の方法から導入すべき加水分解性アルコキシシラン基の種類等に応じて任意に選ぶことができるが、水可溶性塩類など電着塗装に悪影響を及ぼす副生成物を生じない方法を採用することが好ましく、例えば次のような方法を例示することができる。
【0045】
(1)アルコキシシラン基含有アミン化合物を基体樹脂中のエポキシ基に付加する方法:ここで使用しうるアミン化合物としては次式のものが例示される。
【0046】
【化1】
【0047】
(2)アルコキシシラン基含有メルカプタンを基体樹脂中のエポキシ基に付加する方法:ここで使用しうるメルカプタンとしては次式のものが例示される。
【0048】
【化2】
【0049】
(3)アルコキシシラン基含有エポキシ化合物を基体樹脂中のアミノ基に付加する方法:ここで使用しうるエポキシ化合物としては次式のものが例示される。
【0050】
【化3】
【0051】
(4)アルコキシシラン基含有イソシアネート化合物を基体樹脂中の水酸基、アミノ基に付加する方法:ここで使用しうるイソシアネート化合物としては次式のものが例示される。
【0052】
【化4】
【0053】
上記に述べた各式において、Rとしては次のものを例示しうる:(i)メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルコール残基;(ii)メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシプロピル基などのエーテルアルコール残基; (iii)アセトキシエチル基などのエステルアルコール残基;(iv)シクロヘキシル基、ベンジル基などのシクロアルキル又はアラルキルアルコール残基;(v)オキシムアルコール残基などが挙げられる。
【0054】
前記式中のRは炭素数の小さなものほど加水分解しやすいが、安定性に劣るので、炭素数2〜7程度がバランス上有利である。また、炭素数2以下のものと7以上のものとを組合せてバランスさせてもよい。
【0055】
上記の加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の水分散化は、それ自体既知の方法に従って行うことができる。例えば、上記の加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物を、存在するアミノ基に対して約0.1〜1当量の酸、例えばギ酸、酢酸、乳酸、ヒドロキシ酢酸などの水溶性カルボン酸などで中和し、その後、固形分濃度が約40重量%以下になるようにして水中に分散することによって行うことができる。
【0056】
かくして得られる加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の分散粒子はついで粒子内架橋させることができる。粒子内架橋は、該分散物を単に長期間貯蔵することによってもある程度進行する可能性があるが、有利には、該水分散化物を約50℃以上の温度に加熱することにより粒子内架橋を促進するのが望ましい。あるいはまた、上記加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の水分散化に際して、該樹脂溶液中又は水媒体中にオクチル酸錫、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ジルコニウム、ジブチル錫ジラウレートなどのシラノール基縮合触媒を加えて、該触媒の存在下で水分散化を行うことによって、水分散化と同時に粒子内架橋を行うこともできる。
【0057】
このようにして製造されるゲル化微粒子水分散液は、通常約10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%の樹脂固形分含量を有することができる。また、分散粒子の粒径は、一般に0.5μm 以下、好ましくは0.01〜0.3μm 、より好ましくは0.05〜0.2μm の範囲内にあることができる。粒径の調整は加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物中のカチオン性基の量を調節することによって行うことができ、それによって容易に所望の範囲内の粒径を得ることができる。
【0058】
該カチオン電着塗料(B)において、上記ゲル化微粒子を配合する場合には、該配合量が全樹脂固形分(カチオン電着性エポキシ樹脂とゲル化微粒子の合計)に対し、3〜50重量%、好ましくは7〜35重量%であることが適当である。さらに粒子状成分としてゲル化微粒子を使用せずに顔料を配合してエッジ被覆性を改良することもできる。この場合には、顔料量を通常配合量より多くする方法によることもできるが、吸油量100以上の顔料、例えば無水二酸化珪素、含水無定形二酸化珪素などの二酸化珪素系顔料及びカーボン系顔料などを全顔料分中5重量%以上配合することが適当である。
【0059】
かくして得られるカチオン電着塗料(B)は、適宜脱イオン水で希釈して固形分濃度が約3〜25重量%、好ましくは5〜20重量%、pHが約5.5〜8の範囲内になるように調整するのが適当である。
【0060】
カチオン電着塗料(B)の塗装
第2回目の電着塗装として、上記カチオン電着塗料(B)をカチオン電着塗装する。カチオン電着塗料(B)は、カチオン電着塗料(A)と同一であってもよいし、異なっていてもよく、それぞれに別の機能を持たせたものであってもよい。この電着塗装によって、カチオン電着塗料(A)の塗膜が少なくとも電着容易部にすでに形成された複雑な構造を有する被塗物に、カチオン電着塗料(B)の塗膜が少なくとも電着困難部に形成される。このとき、カチオン電着塗料(B)の塗膜が電着容易部の一部に形成されてもよい。
【0061】
カチオン電着塗料(B)の電着塗装においては、電着容易部には膜抵抗の大きな塗膜が形成されているので電着容易部には電流が流れにくくなっており、電着困難部に電流が集中して流れるので電着困難部に電着塗料(B)の塗膜を形成することができ、電着困難部にも総合的に目的膜厚の電着塗膜を形成することができるとともに、熱流動によって素地が露出したエッジ部などの未塗装部分にも電着塗膜を形成することができる。
【0062】
上記カチオン電着塗料(B)を用いて電着塗装を行う方法及び装置は、前記カチオン電着塗料(A)の塗装に使用される方法及び装置を同様に使用することができる。そのうち、通電時間などについては、前記カチオン電着塗料(A)において必要とする時間の1/4〜1/1でも十分に、被塗物の未塗装部分にカチオン電着塗料(B)による電着塗膜を形成することができる。
【0063】
また、被塗物を電着浴中に全没させて電着塗装する方法が一般的であるが、この方法以外に電着困難部を含む被塗物の一部を電着浴中に浸漬して電着する、いわゆる「半没電着法」によって第2回目の電着塗装を行うこともできる。
【0064】
上記のように被塗物に電着塗料(A)及び電着塗料(B)の塗膜を形成し、これら両者が硬化する条件にて焼付けを行うことにより被塗物に目的とする電着硬化塗膜を形成することができる。この焼付け条件は、通常、120〜180℃で10〜30分間保持する条件である。
【0065】
上記のように、カチオン電着塗料(A)及びカチオン電着塗料(B)による2回の電着塗装により、複雑な構造を有する被塗物の一般部(第1回目の電着塗装により目的膜厚が形成される部分)には、カチオン電着塗料(A)による塗膜が主として形成され、複雑な構造を有する被塗物の、袋構造部内部などの内板部、円筒の内部などの複雑な構造部(第1回目の電着塗装により目的膜厚が形成されない部分)には、カチオン電着塗料(A)による塗膜の上にカチオン電着塗料(B)による塗膜が形成されるか、又はカチオン電着塗料(A)による塗膜なしにカチオン電着塗料(B)による塗膜が形成されて目的膜厚の塗膜が得られる。
【0066】
上記のように、被塗物に形成される塗膜を被塗物の部分によって代えることができるので、被塗物の一般部と複雑な構造部とで異なる機能を発揮する電着塗膜を形成することができる。例えば、カチオン電着塗料(A)として、耐候性の良好な塗膜を形成できるカチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とする電着塗料を使用し、カチオン電着塗料(B)として、耐食性の良好なカチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料を使用することによって、被塗物の一般部に耐候性の良好な電着塗膜を形成し、被塗物の複雑な構造部に耐食性の良好な電着塗膜を形成することができる。またカチオン電着塗料(B)として、ゲル化微粒子を配合するか又は顔料組成を考慮した、エッジ被覆性の良好なカチオン電着塗料を使用することにより被塗物のエッジ部を十分に被覆することができる。その他、目的に応じ種々の機能を有する塗膜の組合せとすることができる。
【0067】
上記のようにして形成される電着塗膜上には、必要に応じて中塗り及び/又は上塗り塗料を適宜塗り重ねて仕上げることができる。
【0068】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。実施例及び比較例において、「部」及び「%」はそれぞれ「重量部」及び「重量%」を示す。
【0069】
ビニル系共重合体溶液の製造例
製造例1
n−ブチルアルコール27部及びイソプロピルアルコール27部を反応容器に入れ、加熱して90℃にした。この中にスチレン30部、2−エチルヘキシルメタクリレート35部、2−ヒドロキシエチルアクリレート20部、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート15部、アゾビスイソブチロニトリル3.5部の混合物を約2時間かけて滴下した。反応は窒素注入下で行った。反応温度を90℃に保ち、さらに4時間反応を行って固形分65%のビニル系共重合体溶液(I)を得た。
【0070】
ゲル化微粒子の製造例
製造例2
温度計、撹拌機、還流冷却器及び窒素ガス吹き込み口を取付けた反応容器に、窒素ガス吹き込み下でエポン828EL(注1)1,045部、ビスフェノールA171部及びジエタノールアミン52.2部を仕込んで120℃に加熱し、エポキシ当量(注2)が理論値(317)に達するまで反応させた。その後80℃まで冷却し、KBE−903(注3)221部とジエタノールアミン157.5部を加え、3級アミン価(注4)が理論値(102)に達するまで反応させた。その後エチレングリコールモノブチルエーテル706部で希釈し、数平均分子量約1,650の加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の固形分70%のエチレングリコールモノブチルエーテル溶液を得た。
【0071】
2リットルフラスコに、上記で得た加水分解性アルコキシシリル基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物100部及び10%酢酸11部を加えて30℃で5分間撹拌した後、脱イオン水239部を強く撹拌しながら約30分間かけて滴下し、50℃に昇温して約3時間撹拌を行った。かくして、固形分20%の乳白色の粒子内架橋したゲル化微粒子分散液(G)が得られ、この微粒子のエチレングリコールモノブチルエーテル中での平均粒子径は0.15μm であった。
【0072】
(注1)エポキシ当量約190を持つビスフェノールAのジグリシジルエーテル(油化シェル(株)製)
(注2)JIS−K−7236に準拠。但し、アミノ基もエポキシ基として合算する。
【0073】
(注3)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学(株)製)
(注4)無水酢酸でアセチル化した後、クリスタルバイオレットを指示薬として過塩素酸で滴定。
【0074】
カチオン電着塗料の作成
作成例1
前記製造例で得られたビニル系共重合体溶液(I)123部(固形分80部)に酢酸4.8部を加えさらに脱イオン水を加えて水分散液を製造し、これに60%ポリエステル変性エポキシ樹脂水分散液15部を加えて撹拌混合し、さらに4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートのエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルジブロック化物6.4部、イソホロンジイソシアネートのメチルエチルケトオキシムジブロック化物23部、ジブチル錫ジラウレート1部及びポリプロピレングリコール4000 0.5部を加えて均一に混合し、撹拌しながら脱イオン水を加えて不揮発分32%のクリヤエマルジョンを得た。該クリヤエマルジョン320部に後記表1に示す固形分43%の顔料ペースト(P−1)95.3部を撹拌しながら加え、脱イオン水で希釈して固形分20%のカチオン電着塗料(1)を得た。
【0075】
作成例2
固形分32%のHB3000クリヤエマルション(関西ペイント社製、カチオン電着塗料用樹脂エマルジョン、樹脂分は、ポリエステル変性エポキシ樹脂及びブロック化したジイソシアネート化合物からなる)687.5部に表1に示す固形分55%の顔料ペースト(P−2)109部を配合、撹拌し、脱イオン水で希釈して固形分20%のカチオン電着塗料(2)を得た。
【0076】
作成例3
固形分32%のHB3000クリヤエマルション625部に固形分55%の顔料ペースト(P−2)109部及び製造例2で得た固形分20%のゲル化微粒子分散液(G)100部を配合、撹拌し、脱イオン水で希釈して固形分20%のカチオン電着塗料(3)を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
つきまわり性についてのモデル実験
作成例2で得た固形分20%のカチオン電着塗料(2)を入れた、内径150mm、高さ350mmの底を有する円筒状のステンレス容器に、基準板を取付けた肉厚1.8mm、内径16.0mm、長さ330mmのステンレス製円筒管の内部の中央位置に0.5×10.0×350mmの大きさの被塗物をステンレス製円筒管に触れないように配置した試験器具を、後記図1に示すように設置した。上記試験装置における基準板及び被塗物の材質は、いずれもリン酸亜鉛処理冷延鋼板である。またステンレス容器の底にはマグネットスターラーによって回転できるスターラーチップが入れられている。
【0079】
上記試験装置を用いて、第1回目の電着塗装、加熱及び第2回目の電着塗装を下記表2に示す条件にて行った。表2に、第1回目の電着塗装によって得られる、基準板における電着塗膜の膜厚、被塗物における電着塗料のつきまわり長さ(被塗物の円筒入口部における塗膜形成端部から電着塗膜が形成されなくなる箇所までの距離)、並びに第2回目の電着塗装によって得られる、基準板における電着塗膜の総合膜厚(第1回目の電着塗装によって形成される電着膜厚と第2回目の電着塗装によって形成される電着膜厚との合計膜厚)、第2回目の電着塗装後の被塗物における電着塗料のつきまわり長さ(最大長さは30cm)及び第1回目の電着塗装によって形成される電着塗膜と第2回目の電着塗装によって形成される電着塗膜との境界膜厚(境界部における第1回目の電着塗膜の膜厚)を記載する。また表3に実験3と実験5と実験9とについて、上記被塗物上における被塗物の円筒入口部の塗膜形成端部からの距離に対する電着総合塗膜厚を示す。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
実施例1
第1回目電着用のカチオン電着塗料(A)として、作成例2で得たカチオン電着塗料(2)を使用し、第2回目電着用のカチオン電着塗料(B)として、作成例3で得たカチオン電着塗料(3)を使用して、表4に示す条件で電着塗装した後、160℃で20分間焼付けて電着塗膜を得た。被塗物としては下記の袋部塗装性試験用被塗物を使用した。電着塗装時におけるこの被塗物と対極との距離が110mmとなるようにし、かつ8mmφの穴の開いた面が対極に面するように浸漬した。この被塗物の平行に配置された4枚の鋼板のうちの穴の開いていない鋼板の、箱状体における内面に相当する部分を内板部とし、箱状体を形成している穴の開いた鋼板のうちの対極に最も近い鋼板の、箱状体における外面に相当する部分を外板部とし、上記内板部及び外板部における膜厚及び加熱条件、並びに内板部と外板部との総合膜厚比を表4に示した。また表4における電着塗膜厚は硬化膜としての膜厚である。実施例1において得られた総合塗膜は、内板部最小総合膜厚と外板部総合膜厚との総合膜厚比が0.42であり、つきまわり性が悪くなりがちな箇所にも十分な膜厚の塗膜を形成できる。
【0083】
袋部塗装性試験用被塗物:横70×縦150×厚さ0.8mmのリン酸亜鉛処理冷延鋼板4枚のうちの3枚に底辺から45mmで左右対称となる位置に8mmφの穴を開け、4枚の鋼板を等間隔に平行に配置し、側面、底面もリン酸亜鉛処理冷延鋼板で遮蔽して、上面が開放された、70×150×60mmの箱状構造体を作成した。なお、上記4枚の鋼板のうちの穴を開けていない鋼板が構造体の外面を形成するように配置した。得られた箱状構造体を袋部塗装性試験用に供する。この箱状構造体は、電着塗装時、90mmの深さまで浸漬され、電着塗料は8mmφの穴を通じてのみ出入する。
【0084】
実施例2〜6及び比較例1〜3
実施例1において、カチオン電着塗料(A)及び(B)の塗料種、電着塗装条件並びに加熱条件を表4に示すとおりとする以外、実施例1と同様に行った。
【0085】
実施例1〜6において、(内板部最小総合膜厚/外板部総合膜厚)の比である総合膜厚比は、いずれの実施例も比較例1〜3の総合膜厚比より大きな値であり、つきまわり性が良好である。
【0086】
【表4】
【0087】
【発明の効果】
本発明方法によって、第1回目及び第2回目の電着塗装を行うと、第1回目に塗装した電着塗膜が十分につきまわらなかった複雑な構造部などの目的膜厚に達しない部分に選択的に、第2回目に塗装した電着塗膜が形成され、第1回目の電着塗装によって目的膜厚に達しない部分の加熱が40〜80℃の範囲に抑えられているので第2回目の電着塗装によって、この部分に十分な膜厚の塗膜を形成することができ、また第1回目の電着塗膜と第2回目の電着塗膜との境界部の膜厚を十分に確保することができる。さらに一般部と複雑な構造部とで、それぞれの機能目的に応じて、電着塗料を選択、使用することにより、それぞれの部位の機能目的に応じた高性能の電着塗膜を形成することが可能である。
【0088】
また第1回目の電着時間を短くするなど、電着時間を調節することにより、第1回目の電着塗装によって目的膜厚に達した部分と目的膜厚に達しない部分とにおける、第2回目の電着塗装後における総合電着塗膜の部分間の膜厚差を小さくできるので電着膜厚の均一化をはかることができ、また電着時間の短時間化、過剰塗膜厚の形成防止による電着塗料の使用量の低減をはかることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】前記「つきまわり性についてのモデル実験」に使用した試験器具の設置状態を示すモデル図である。
【符号の説明】
1…基準板
2…被塗物
3…ステンレス製円筒管
4…ステンレス容器
5…カチオン電着塗料
6…スターラーチップ
7…マグネットスターラー
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン電着塗装方法に関し、詳しくは自動車ボディなどの構造の複雑な被塗物に対して、カチオン電着塗料を特定条件で2回塗装することによって、被塗物表面の各部分に目的膜厚の電着塗膜を形成することができ、かつ被塗物表面の各部分の電着塗装膜厚の差を小さくできるカチオン電着塗装方法に関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
カチオン電着塗装は、被塗物を陰極とし、電着浴中で被塗物と対極との間に電圧を印加することにより被塗物の表面に電着塗膜を形成する方法であり、焼付け過程における熱流動により、平滑性の優れた塗膜を得るものである。
【0003】
しかしながら、被塗物が複雑な構造を有する場合、例えば袋状構造体部を有する自動車ボディなどの場合には、袋状構造体内部まで必要な防食性を有するに十分な膜厚の電着塗膜を形成することが困難であった。例えば、袋状構造体内部まで十分な膜厚を形成するために印加電圧を大きくすることが考えられるが、印加電圧を大きくすると、ボディ外板部の電着塗膜厚が必要以上に大きくなりすぎて塗料使用量が増大してしまったり、塗膜外観が低下するといった問題が発生するといった不具合がある。
【0004】
そこで本出願人は、特開平7−41994号公報において、複雑な構造を有する被塗物に、水酸基を含有するカチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とするカチオン電着塗料(A)を塗装し、50〜100℃未満の温度で焼付けた後、カチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とするカチオン電着塗料(B)を塗装し焼付けることを特徴とするカチオン電着塗装方法を提案した。
【0005】
上記方法によって耐候性、防食性がかなり良好な電着塗膜を形成することができるが、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位とボディ外板部などのつきまわり性を必要としない部位とにおける電着塗膜厚の差がいまだにかなり大きく、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位の耐食性をさらに向上させる必要がある場合には、この方法では十分に対応できないという問題があった。
【0006】
そこで本発明者らは、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位における電着塗膜厚を増大させることが可能であり、袋構造部内部などの極度につきまわり性が良くないと塗装が困難な部位とボディ外板部などのつきまわり性を必要としない部位とにおける電着塗膜厚の差を従来の方法に比較して小さくできるカチオン電着塗装方法を得るために鋭意研究を行った結果、1回目の電着塗装後に行う加熱における温度条件を、つきまわり性が良くないと塗装が困難な部位とつきまわり性を必要としない部位との表面温度に一定の差をつけて加熱を行った後に、2回目の電着塗装を行うことによって上記目的を達成することができることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、複雑な構造を有する被塗物に、カチオン電着塗料(A)を電着塗装して、電着塗膜厚の目的膜厚を有する部分と目的膜厚に達しない部分とを形成した後、目的膜厚に達しない部分の被塗物表面の到達最高温度が40〜80℃となり、かつ目的膜厚を有する部分の被塗物表面の到達最高温度の最大温度が目的膜厚に達しない部分の被塗物表面の到達最高温度の最小温度より20〜70℃高い温度となるように被塗物を加熱した後、カチオン電着塗料(A)と同一であっても異なっていてもよいカチオン電着塗料(B)を電着塗装して該目的膜厚に達しない部分にカチオン電着塗料(B)による電着塗膜を形成し焼付けることを特徴とするカチオン電着塗装方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明方法において、複雑な構造を有する被塗物は、1回の電着塗装によって形成される塗装膜厚に部分的に差を生じやすい、すなわち電着塗料の「つきまわり性」を必要とする構造部を有する被塗物である。この被塗物としては、例えば、電着塗装のための電気導電性を有するものであって、袋構造部や管状構造部を有するもの、例えば自動車ボディ、複雑な構造の自動車部品、金属管、電気機器の箱体などを挙げることができる。被塗物の材質としては、防錆性の点から防錆処理鋼板からなるものが好適である。該鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛・鉄二層めっき鋼板及び有機複合めっき鋼板など、並びにこれらの鋼板や冷延鋼板などの基材を、必要によってアルカリ脱脂等表面を清浄化した後、リン酸塩化成処理、クロメート処理などの表面処理を行ったもの等が挙げられる。
【0009】
上記複雑な構造を有する被塗物にカチオン電着塗料(A)を電着塗装すると、つきまわり性を必要としない部位(以下、「電着容易部」と略称する)に目的とする膜厚の電着塗膜を形成させたとき、つきまわり性が良くないと塗装が困難な部位(以下、「電着困難部」と略称する)は、目的とする膜厚より薄かったり全く塗膜が形成されていなかったりする。
【0010】
本発明方法において、第1回目の電着塗装に使用するカチオン電着塗料(A)及び第2回目の電着塗装に使用するカチオン電着塗料(B)としては、カチオン電着塗料であるかぎり特に制限なく使用することができ、目標とする塗膜性能に応じて適宜選択して使用すればよい。またカチオン電着塗料(A)とカチオン電着塗料(B)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよく、それぞれに別の機能を持たせたものであってもよい。
【0011】
上記カチオン電着塗料としては、例えばカチオン電着性ビニル共重合体を主成分とする電着塗料やカチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料を挙げることができる。
【0012】
上記カチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とする電着塗料において、カチオン電着性ビニル系共重合体としては、従来公知のものが使用でき、例えばアミノ基含有モノマーと水酸基含有モノマー及びその他のビニルモノマーとを共重合してなるものが挙げられる。
【0013】
該アミノ基含有モノマーとしては、アミノ基含有アクリル系モノマーが好ましく、例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N−tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキルアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル類;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアミノアルキルアクリルアミド又はメタクリルアミド類が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用することができる。かかるアミノ基含有モノマーは全モノマー量の3〜20重量%、好ましくは5〜18重量%の範囲で使用されるのが適当である。
【0014】
上記水酸基含有モノマーとしては、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸のC1 〜C8 のヒドロキシアルキルエステルが好ましく使用できる。
【0015】
上記その他のビニルモノマーとしては、上記アミノ基含有モノマーや水酸基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はなく、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、 iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸のC1 〜C24のアルキル又はシクロアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ベオバモノマー(シェル化学製品)などのビニルモノマーが挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上組合せて使用することができる。これらのモノマーは所望する電着塗料の性質及びそれより形成される塗膜の要求性能に応じて適宜選択できる。
【0016】
以上の如きモノマー類からなる共重合体の製造は従来公知の方法で行うことができ、一般には溶液重合法に従って行われる。
【0017】
また前記カチオン電着性ビニル系共重合体として、グリシジル基含有モノマーと水酸基含有モノマー及びこれらと共重合可能でグリシジル基と反応しないその他のビニルモノマーとの共重合体にアミンを付加してなるものも挙げられる。
【0018】
上記グリシジル基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、N−グリシジルアクリルアミド、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。かかるグリシジル基含有モノマーは、全モノマー量の5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%の範囲で使用されるのが適当である。
【0019】
水酸基含有モノマー及びこれらと共重合可能でグリシジル基と反応しないその他のビニルモノマーは、前述のものが同様に使用できる。またかかるモノマー類からなる共重合体の製造も、従来公知の方法で行うことができる。
【0020】
上記のようにして得られるグリシジル基含有共重合体とアミンとの付加反応は、従来公知の方法に従って行うことができ、例えば該共重合体溶液に第2級アミンを加え約50〜120℃の温度で約1〜20時間反応せしめる方法などが挙げられる。使用されるアミンとしては、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミンなどのアルキルアミン類;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン類;ピペリジン、モルホリン、N−メチルピペラジンなどが挙げられる。かかるアミンの使用量は通常グリシジル基1モル当たり約0.1〜1モルの範囲が適当である。
【0021】
以上の如くして得られるカチオン電着性ビニル系共重合体の水酸基価は、特に制限されるものではないが、通常30〜200、好ましくは50〜150の範囲が適当である。該水酸基価が30未満では得られる塗膜の硬化性が劣りやすく、また200を越えると耐候性や防食性が劣る傾向がみられる。
【0022】
また該カチオン電着性ビニル系共重合体の分子量は、通常約5,000〜100,000、好ましくは10,000〜50,000の範囲が適当である。
【0023】
上記カチオン電着性ビニル系共重合体は、酢酸、プロピオン酸、乳酸、ヒドロキシ酢酸などの有機酸によって中和され水分散能が付与されることができる。また該共重合体に必要に応じて、ブロックポリイソシアネート化合物又はメラミン樹脂などの架橋剤を混合してもよい。
【0024】
かかるブロックポリイソシアネート化合物は、各々ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤(例えば、アルコール系化合物、オキシム系化合物、第3級ヒドロキシアミン化合物、フェノール系化合物など)との付加反応生成物であり、このポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂環式族、脂肪族のポリイソシアネート化合物及びこれらのポリイソシアネート化合物の過剰量にエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物を反応させて得られる末端イソシアネート含有化合物が挙げられる。さらに上記カチオン電着性ビニル系共重合体には、他のカチオン電着性樹脂として従来公知のアミン付加エポキシ樹脂を、少量併用することが防食性の点から望ましい。
【0025】
前記カチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料において、カチオン電着性エポキシ樹脂としては、アミン付加エポキシ樹脂が挙げられ、該アミン付加エポキシ樹脂は、電着塗料において通常使用されているポリアミン樹脂、例えば、(i)ポリエポキシド化合物と1級モノ−及びポリアミン、2級モノ−及びポリアミン又は1、2級混合ポリアミンとの付加物(例えば米国特許第3,984,299号明細書参照);(ii)ポリエポキシド化合物とケチミン化された1級アミノ基を有する2級モノ−及びポリアミンとの付加物(例えば米国特許第4,017,438号明細書参照);(iii) ポリエポキシド化合物とケチミン化された1級アミノ基を有するヒドロキシ化合物とのエーテル化により得られる反応物(例えば特開昭59−43013号公報参照)などを包含しうる。
【0026】
上記ポリアミン樹脂の製造に使用されるポリエポキシド化合物は、エポキシ基を1分子中に2個以上有する化合物であり、一般に少なくとも200、好ましくは400〜4,000、さらに好ましくは800〜2,000の範囲内の数平均分子量を有するものが適しており、特にポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるものが好ましい。該ポリエポキシド化合物の形成のために用いうるポリフェノール化合物としては、例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が挙げられる。
【0027】
該ポリエポキシド化合物はポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアシドアミン、ポリカルボン酸、ポリイソシアネート化合物などと一部反応させたものであってもよく、さらにまた、ε−カプロラクトン、アクリルモノマーなどをグラフト重合させたものであってもよい。
【0028】
上記アミン付加エポキシ樹脂は酢酸、プロピオン酸、乳酸、ヒドロキシ酢酸などの酸で中和され、水分散能が付与される。またアミン付加エポキシ樹脂には必要に応じて架橋剤を混合してもよい。この架橋剤としては、前記カチオン電着性ビニル系共重合体に必要に応じて混合できる架橋剤として挙げたブロックポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0029】
また、上記架橋剤を使用しなくても硬化させることが可能な自己架橋タイプのアミン付加エポキシ樹脂を使用することができ、例えばポリエポキシ物質にβ−ヒドロキシアルキルカルバメート基を導入した樹脂(例えば特開昭59−155470号公報参照);エステル交換反応によって硬化しうるタイプの樹脂(例えば特開昭55−80436号公報参照);基体樹脂中にブロックイソシアネート基を導入した樹脂などを用いることもできる。
【0030】
上記したカチオン電着塗料(A)、カチオン電着塗料(B)として使用できる電着塗料は、必要に応じて、塗料添加物、例えば、カーボンブラック、チタン白、ベンガラのような着色顔料;クレー、タルク、炭酸カルシウムのような体質顔料;クロム酸ストロンチウム、クロム酸鉛、ケイ酸鉛などの防錆顔料;或はさらに他の添加剤を配合することができる。他の添加剤としては、例えば、分散助剤(非イオン系界面活性剤);塗面のハジキ防止剤(アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂など);硬化促進剤(例えば鉛、ビスマス、スズなどの金属の塩);有機溶剤等が挙げられる。
【0031】
カチオン電着塗料(A)は、前記樹脂、架橋剤及び塗料添加物に加え、さらに必要に応じて導電性カーボン(グラファイト等)、金属性粉末などの導電性粉末を配合してもよく、その場合には、カチオン電着塗料(A)により形成される塗膜が、20℃・20Vでは1×107 〜1013Ω・cmの範囲の体積固有電気抵抗値(膜厚25μm)を有することが好ましく、これにより1回目の電着塗膜と2回目の電着塗膜との境界部の塗膜形成をよりよく行うことができる。
【0032】
上記カチオン電着塗料(A)は、適宜脱イオン水で希釈して固形分濃度が約5〜25重量%、pHが5.5〜8の範囲内になるように調整することができる。
カチオン電着塗料(A)の塗装
上記カチオン電着塗料(A)を用いて被塗物に電着塗装を行う方法及び装置としては、従来からカチオン電着塗装において使用されているそれ自体既知の方法及び装置を使用することができる。その際、被塗物をカソードとし、アノードとしてはステンレス#316板、フェライト金属板などを用いるのが好ましい。用いうる電着塗装条件は特に制限されるものではないが、一般的には、浴温:15〜35℃(好ましくは20〜30℃)、電圧:100〜400V(好ましくは200〜300V)、電流密度:0.01〜3A/dm2 、通電時間:30秒〜10分、極面積比(A/C):6/1〜1/6、極間距離:10〜100cm、撹拌状態で電着することが望ましい。
【0033】
カチオン電着塗料(A)による電着塗膜の電着容易部における膜厚は目的とする性能に応じて適宜選定すればよいが、10〜70μm 、さらには10〜30μm の範囲であることが好ましい。
【0034】
カチオン電着塗料(A)として、カチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とする電着塗料を使用することによって一般に耐候性の良好な塗膜を得ることができ、カチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料を使用することによって防食性の良好な塗膜を得ることができる。
【0035】
本発明方法においては、上記カチオン電着塗料(A)の電着塗装後、必要に応じて水洗を行い、ついで加熱を行うが、この加熱条件が重要であり、まず電着困難部の表面の到達最高温度が40〜80℃、好ましくは50〜70℃となることが必要である。電着困難部の表面の到達最高温度が40℃未満では、第2回目の電着塗装を行った際に1回目の電着塗膜と2回目の電着塗膜とが混合しやすくなり、仕上り性が低下し十分な防食性などの塗膜性能を有する塗膜が得られなくなる。一方、電着困難部の表面の到達最高温度が80℃を超えると、電着困難部に形成された目的膜厚に達していない1回目の電着塗膜が溶融して緻密な膜となるので、電着困難部のうちの目的膜厚に到達していない塗膜であっても、第2回目の電着塗装による電着塗膜が形成されない箇所が発生しやすくなる。
【0036】
さらに、上記加熱において、電着容易部の表面の到達最高温度及び電着困難部の表面の到達最高温度のそれぞれは、加熱方法などにより、バラツキを生じることがあるが、電着容易部の表面の到達最高温度の最大温度が、電着困難部の表面の到達最高温度の最小温度より20〜70℃高い温度となることが必要である。この温度差が、20℃より小さくなると、加熱による電着容易部の塗膜と電着困難部の塗膜との塗膜状態の差が小さくなり、温度差による第2回目の電着塗膜の形成のしやすさに差がなくなってしまう。一方、温度差が、70℃より大きくなると、電着容易部の場所ごとの温度のバラツキが大きくなり、電着容易部の塗膜の場所ごとの乾燥程度に差が出てしまい、2回目の電着の際に膜厚分布に差が出やすくなり、塗面の平滑性が低下するという問題がある。
【0037】
本発明方法において、被塗物が自動車ボディである場合には、上記加熱は、通常、3〜7分間行うことが好ましい。加熱時間が短いと、電着困難部の到達最高温度が、40℃に到達しないことが起こりやすく、また加熱時間が長いと、電着容易部の表面の到達最高温度の最大温度と、電着困難部の表面の到達最高温度の最小温度との温度差が、20℃より小さくなりやすくなる。
【0038】
また上記加熱において、電着容易部の表面のいずれの箇所においても、その到達最高温度は、電着困難部の表面のいずれの箇所における到達最高温度より実質的に高い温度となるようにすることが好ましい。
【0039】
本発明方法においては、上記加熱後、通常、被塗物を冷却し、ついで第2回目の電着塗装として、カチオン電着塗料〔2〕が電着塗装される。カチオン電着塗料(B)には、エッジ防食性が強く要求される場合は前記樹脂、架橋剤及び塗料添加物に加え、さらにゲル化微粒子を配合してエッジ被覆性を改良することが好適である。
【0040】
上記ゲル化微粒子としては、粒子内の架橋反応によりゲル化された微粒子重合体であれば特に制限なく従来公知のものが使用でき、例えばアルコキシシラン基とカチオン性基とを含有するアクリル共重合体を水分散化し、粒子内架橋せしめたもの(特開平2−269164号公報参照);アルコキシシラン基と水酸基及びカチオン性基を有する内部架橋ゲル化微粒子(特開平2−47173号公報参照);アルコキシシラン基とウレタン結合と水酸基及びカチオン性基を有する内部架橋ゲル化微粒子(特開平3−62860号公報参照)などが挙げられる。
【0041】
さらに上記ゲル化微粒子として、特に加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物を水分散化し、かつ粒子内架橋せしめてなるカチオン電着性ゲル化微粒子が、防食性の点から好適に使用できる。以下、該ゲル化微粒子について説明する。
【0042】
上記「加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物」は、エポキシ樹脂アミン付加物へ加水分解性アルコキシシラン基を導入したものであって、カチオン性基、特に酸で中和されたアミノ基を水分散基として水中において安定に分散し、かつ該アルコキシシラン基の加水分解によって生成したシラノール基がシラノール基同志、及びヒドロキシル基がある場合にはそのヒドロキシル基とも縮合して粒子内架橋が行われ、ゲル化することが可能な付加物を指称したものである。
【0043】
該ゲル化微粒子の構成成分であるエポキシ樹脂アミン付加物は、前記カチオン電着性エポキシ樹脂のところで説明した如き、ポリアミン樹脂などが包含される。
【0044】
加水分解性アルコキシシラン基の該エポキシ樹脂アミン付加物への導入方法は、特に制限されるものではなく、それ自体既知の方法から導入すべき加水分解性アルコキシシラン基の種類等に応じて任意に選ぶことができるが、水可溶性塩類など電着塗装に悪影響を及ぼす副生成物を生じない方法を採用することが好ましく、例えば次のような方法を例示することができる。
【0045】
(1)アルコキシシラン基含有アミン化合物を基体樹脂中のエポキシ基に付加する方法:ここで使用しうるアミン化合物としては次式のものが例示される。
【0046】
【化1】
【0047】
(2)アルコキシシラン基含有メルカプタンを基体樹脂中のエポキシ基に付加する方法:ここで使用しうるメルカプタンとしては次式のものが例示される。
【0048】
【化2】
【0049】
(3)アルコキシシラン基含有エポキシ化合物を基体樹脂中のアミノ基に付加する方法:ここで使用しうるエポキシ化合物としては次式のものが例示される。
【0050】
【化3】
【0051】
(4)アルコキシシラン基含有イソシアネート化合物を基体樹脂中の水酸基、アミノ基に付加する方法:ここで使用しうるイソシアネート化合物としては次式のものが例示される。
【0052】
【化4】
【0053】
上記に述べた各式において、Rとしては次のものを例示しうる:(i)メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルコール残基;(ii)メトキシエチル基、エトキシエチル基、メトキシプロピル基などのエーテルアルコール残基; (iii)アセトキシエチル基などのエステルアルコール残基;(iv)シクロヘキシル基、ベンジル基などのシクロアルキル又はアラルキルアルコール残基;(v)オキシムアルコール残基などが挙げられる。
【0054】
前記式中のRは炭素数の小さなものほど加水分解しやすいが、安定性に劣るので、炭素数2〜7程度がバランス上有利である。また、炭素数2以下のものと7以上のものとを組合せてバランスさせてもよい。
【0055】
上記の加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の水分散化は、それ自体既知の方法に従って行うことができる。例えば、上記の加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物を、存在するアミノ基に対して約0.1〜1当量の酸、例えばギ酸、酢酸、乳酸、ヒドロキシ酢酸などの水溶性カルボン酸などで中和し、その後、固形分濃度が約40重量%以下になるようにして水中に分散することによって行うことができる。
【0056】
かくして得られる加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の分散粒子はついで粒子内架橋させることができる。粒子内架橋は、該分散物を単に長期間貯蔵することによってもある程度進行する可能性があるが、有利には、該水分散化物を約50℃以上の温度に加熱することにより粒子内架橋を促進するのが望ましい。あるいはまた、上記加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の水分散化に際して、該樹脂溶液中又は水媒体中にオクチル酸錫、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ジルコニウム、ジブチル錫ジラウレートなどのシラノール基縮合触媒を加えて、該触媒の存在下で水分散化を行うことによって、水分散化と同時に粒子内架橋を行うこともできる。
【0057】
このようにして製造されるゲル化微粒子水分散液は、通常約10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%の樹脂固形分含量を有することができる。また、分散粒子の粒径は、一般に0.5μm 以下、好ましくは0.01〜0.3μm 、より好ましくは0.05〜0.2μm の範囲内にあることができる。粒径の調整は加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物中のカチオン性基の量を調節することによって行うことができ、それによって容易に所望の範囲内の粒径を得ることができる。
【0058】
該カチオン電着塗料(B)において、上記ゲル化微粒子を配合する場合には、該配合量が全樹脂固形分(カチオン電着性エポキシ樹脂とゲル化微粒子の合計)に対し、3〜50重量%、好ましくは7〜35重量%であることが適当である。さらに粒子状成分としてゲル化微粒子を使用せずに顔料を配合してエッジ被覆性を改良することもできる。この場合には、顔料量を通常配合量より多くする方法によることもできるが、吸油量100以上の顔料、例えば無水二酸化珪素、含水無定形二酸化珪素などの二酸化珪素系顔料及びカーボン系顔料などを全顔料分中5重量%以上配合することが適当である。
【0059】
かくして得られるカチオン電着塗料(B)は、適宜脱イオン水で希釈して固形分濃度が約3〜25重量%、好ましくは5〜20重量%、pHが約5.5〜8の範囲内になるように調整するのが適当である。
【0060】
カチオン電着塗料(B)の塗装
第2回目の電着塗装として、上記カチオン電着塗料(B)をカチオン電着塗装する。カチオン電着塗料(B)は、カチオン電着塗料(A)と同一であってもよいし、異なっていてもよく、それぞれに別の機能を持たせたものであってもよい。この電着塗装によって、カチオン電着塗料(A)の塗膜が少なくとも電着容易部にすでに形成された複雑な構造を有する被塗物に、カチオン電着塗料(B)の塗膜が少なくとも電着困難部に形成される。このとき、カチオン電着塗料(B)の塗膜が電着容易部の一部に形成されてもよい。
【0061】
カチオン電着塗料(B)の電着塗装においては、電着容易部には膜抵抗の大きな塗膜が形成されているので電着容易部には電流が流れにくくなっており、電着困難部に電流が集中して流れるので電着困難部に電着塗料(B)の塗膜を形成することができ、電着困難部にも総合的に目的膜厚の電着塗膜を形成することができるとともに、熱流動によって素地が露出したエッジ部などの未塗装部分にも電着塗膜を形成することができる。
【0062】
上記カチオン電着塗料(B)を用いて電着塗装を行う方法及び装置は、前記カチオン電着塗料(A)の塗装に使用される方法及び装置を同様に使用することができる。そのうち、通電時間などについては、前記カチオン電着塗料(A)において必要とする時間の1/4〜1/1でも十分に、被塗物の未塗装部分にカチオン電着塗料(B)による電着塗膜を形成することができる。
【0063】
また、被塗物を電着浴中に全没させて電着塗装する方法が一般的であるが、この方法以外に電着困難部を含む被塗物の一部を電着浴中に浸漬して電着する、いわゆる「半没電着法」によって第2回目の電着塗装を行うこともできる。
【0064】
上記のように被塗物に電着塗料(A)及び電着塗料(B)の塗膜を形成し、これら両者が硬化する条件にて焼付けを行うことにより被塗物に目的とする電着硬化塗膜を形成することができる。この焼付け条件は、通常、120〜180℃で10〜30分間保持する条件である。
【0065】
上記のように、カチオン電着塗料(A)及びカチオン電着塗料(B)による2回の電着塗装により、複雑な構造を有する被塗物の一般部(第1回目の電着塗装により目的膜厚が形成される部分)には、カチオン電着塗料(A)による塗膜が主として形成され、複雑な構造を有する被塗物の、袋構造部内部などの内板部、円筒の内部などの複雑な構造部(第1回目の電着塗装により目的膜厚が形成されない部分)には、カチオン電着塗料(A)による塗膜の上にカチオン電着塗料(B)による塗膜が形成されるか、又はカチオン電着塗料(A)による塗膜なしにカチオン電着塗料(B)による塗膜が形成されて目的膜厚の塗膜が得られる。
【0066】
上記のように、被塗物に形成される塗膜を被塗物の部分によって代えることができるので、被塗物の一般部と複雑な構造部とで異なる機能を発揮する電着塗膜を形成することができる。例えば、カチオン電着塗料(A)として、耐候性の良好な塗膜を形成できるカチオン電着性ビニル系共重合体を主成分とする電着塗料を使用し、カチオン電着塗料(B)として、耐食性の良好なカチオン電着性エポキシ樹脂を主成分とする電着塗料を使用することによって、被塗物の一般部に耐候性の良好な電着塗膜を形成し、被塗物の複雑な構造部に耐食性の良好な電着塗膜を形成することができる。またカチオン電着塗料(B)として、ゲル化微粒子を配合するか又は顔料組成を考慮した、エッジ被覆性の良好なカチオン電着塗料を使用することにより被塗物のエッジ部を十分に被覆することができる。その他、目的に応じ種々の機能を有する塗膜の組合せとすることができる。
【0067】
上記のようにして形成される電着塗膜上には、必要に応じて中塗り及び/又は上塗り塗料を適宜塗り重ねて仕上げることができる。
【0068】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。実施例及び比較例において、「部」及び「%」はそれぞれ「重量部」及び「重量%」を示す。
【0069】
ビニル系共重合体溶液の製造例
製造例1
n−ブチルアルコール27部及びイソプロピルアルコール27部を反応容器に入れ、加熱して90℃にした。この中にスチレン30部、2−エチルヘキシルメタクリレート35部、2−ヒドロキシエチルアクリレート20部、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート15部、アゾビスイソブチロニトリル3.5部の混合物を約2時間かけて滴下した。反応は窒素注入下で行った。反応温度を90℃に保ち、さらに4時間反応を行って固形分65%のビニル系共重合体溶液(I)を得た。
【0070】
ゲル化微粒子の製造例
製造例2
温度計、撹拌機、還流冷却器及び窒素ガス吹き込み口を取付けた反応容器に、窒素ガス吹き込み下でエポン828EL(注1)1,045部、ビスフェノールA171部及びジエタノールアミン52.2部を仕込んで120℃に加熱し、エポキシ当量(注2)が理論値(317)に達するまで反応させた。その後80℃まで冷却し、KBE−903(注3)221部とジエタノールアミン157.5部を加え、3級アミン価(注4)が理論値(102)に達するまで反応させた。その後エチレングリコールモノブチルエーテル706部で希釈し、数平均分子量約1,650の加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物の固形分70%のエチレングリコールモノブチルエーテル溶液を得た。
【0071】
2リットルフラスコに、上記で得た加水分解性アルコキシシリル基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物100部及び10%酢酸11部を加えて30℃で5分間撹拌した後、脱イオン水239部を強く撹拌しながら約30分間かけて滴下し、50℃に昇温して約3時間撹拌を行った。かくして、固形分20%の乳白色の粒子内架橋したゲル化微粒子分散液(G)が得られ、この微粒子のエチレングリコールモノブチルエーテル中での平均粒子径は0.15μm であった。
【0072】
(注1)エポキシ当量約190を持つビスフェノールAのジグリシジルエーテル(油化シェル(株)製)
(注2)JIS−K−7236に準拠。但し、アミノ基もエポキシ基として合算する。
【0073】
(注3)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学(株)製)
(注4)無水酢酸でアセチル化した後、クリスタルバイオレットを指示薬として過塩素酸で滴定。
【0074】
カチオン電着塗料の作成
作成例1
前記製造例で得られたビニル系共重合体溶液(I)123部(固形分80部)に酢酸4.8部を加えさらに脱イオン水を加えて水分散液を製造し、これに60%ポリエステル変性エポキシ樹脂水分散液15部を加えて撹拌混合し、さらに4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートのエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルジブロック化物6.4部、イソホロンジイソシアネートのメチルエチルケトオキシムジブロック化物23部、ジブチル錫ジラウレート1部及びポリプロピレングリコール4000 0.5部を加えて均一に混合し、撹拌しながら脱イオン水を加えて不揮発分32%のクリヤエマルジョンを得た。該クリヤエマルジョン320部に後記表1に示す固形分43%の顔料ペースト(P−1)95.3部を撹拌しながら加え、脱イオン水で希釈して固形分20%のカチオン電着塗料(1)を得た。
【0075】
作成例2
固形分32%のHB3000クリヤエマルション(関西ペイント社製、カチオン電着塗料用樹脂エマルジョン、樹脂分は、ポリエステル変性エポキシ樹脂及びブロック化したジイソシアネート化合物からなる)687.5部に表1に示す固形分55%の顔料ペースト(P−2)109部を配合、撹拌し、脱イオン水で希釈して固形分20%のカチオン電着塗料(2)を得た。
【0076】
作成例3
固形分32%のHB3000クリヤエマルション625部に固形分55%の顔料ペースト(P−2)109部及び製造例2で得た固形分20%のゲル化微粒子分散液(G)100部を配合、撹拌し、脱イオン水で希釈して固形分20%のカチオン電着塗料(3)を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
つきまわり性についてのモデル実験
作成例2で得た固形分20%のカチオン電着塗料(2)を入れた、内径150mm、高さ350mmの底を有する円筒状のステンレス容器に、基準板を取付けた肉厚1.8mm、内径16.0mm、長さ330mmのステンレス製円筒管の内部の中央位置に0.5×10.0×350mmの大きさの被塗物をステンレス製円筒管に触れないように配置した試験器具を、後記図1に示すように設置した。上記試験装置における基準板及び被塗物の材質は、いずれもリン酸亜鉛処理冷延鋼板である。またステンレス容器の底にはマグネットスターラーによって回転できるスターラーチップが入れられている。
【0079】
上記試験装置を用いて、第1回目の電着塗装、加熱及び第2回目の電着塗装を下記表2に示す条件にて行った。表2に、第1回目の電着塗装によって得られる、基準板における電着塗膜の膜厚、被塗物における電着塗料のつきまわり長さ(被塗物の円筒入口部における塗膜形成端部から電着塗膜が形成されなくなる箇所までの距離)、並びに第2回目の電着塗装によって得られる、基準板における電着塗膜の総合膜厚(第1回目の電着塗装によって形成される電着膜厚と第2回目の電着塗装によって形成される電着膜厚との合計膜厚)、第2回目の電着塗装後の被塗物における電着塗料のつきまわり長さ(最大長さは30cm)及び第1回目の電着塗装によって形成される電着塗膜と第2回目の電着塗装によって形成される電着塗膜との境界膜厚(境界部における第1回目の電着塗膜の膜厚)を記載する。また表3に実験3と実験5と実験9とについて、上記被塗物上における被塗物の円筒入口部の塗膜形成端部からの距離に対する電着総合塗膜厚を示す。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
実施例1
第1回目電着用のカチオン電着塗料(A)として、作成例2で得たカチオン電着塗料(2)を使用し、第2回目電着用のカチオン電着塗料(B)として、作成例3で得たカチオン電着塗料(3)を使用して、表4に示す条件で電着塗装した後、160℃で20分間焼付けて電着塗膜を得た。被塗物としては下記の袋部塗装性試験用被塗物を使用した。電着塗装時におけるこの被塗物と対極との距離が110mmとなるようにし、かつ8mmφの穴の開いた面が対極に面するように浸漬した。この被塗物の平行に配置された4枚の鋼板のうちの穴の開いていない鋼板の、箱状体における内面に相当する部分を内板部とし、箱状体を形成している穴の開いた鋼板のうちの対極に最も近い鋼板の、箱状体における外面に相当する部分を外板部とし、上記内板部及び外板部における膜厚及び加熱条件、並びに内板部と外板部との総合膜厚比を表4に示した。また表4における電着塗膜厚は硬化膜としての膜厚である。実施例1において得られた総合塗膜は、内板部最小総合膜厚と外板部総合膜厚との総合膜厚比が0.42であり、つきまわり性が悪くなりがちな箇所にも十分な膜厚の塗膜を形成できる。
【0083】
袋部塗装性試験用被塗物:横70×縦150×厚さ0.8mmのリン酸亜鉛処理冷延鋼板4枚のうちの3枚に底辺から45mmで左右対称となる位置に8mmφの穴を開け、4枚の鋼板を等間隔に平行に配置し、側面、底面もリン酸亜鉛処理冷延鋼板で遮蔽して、上面が開放された、70×150×60mmの箱状構造体を作成した。なお、上記4枚の鋼板のうちの穴を開けていない鋼板が構造体の外面を形成するように配置した。得られた箱状構造体を袋部塗装性試験用に供する。この箱状構造体は、電着塗装時、90mmの深さまで浸漬され、電着塗料は8mmφの穴を通じてのみ出入する。
【0084】
実施例2〜6及び比較例1〜3
実施例1において、カチオン電着塗料(A)及び(B)の塗料種、電着塗装条件並びに加熱条件を表4に示すとおりとする以外、実施例1と同様に行った。
【0085】
実施例1〜6において、(内板部最小総合膜厚/外板部総合膜厚)の比である総合膜厚比は、いずれの実施例も比較例1〜3の総合膜厚比より大きな値であり、つきまわり性が良好である。
【0086】
【表4】
【0087】
【発明の効果】
本発明方法によって、第1回目及び第2回目の電着塗装を行うと、第1回目に塗装した電着塗膜が十分につきまわらなかった複雑な構造部などの目的膜厚に達しない部分に選択的に、第2回目に塗装した電着塗膜が形成され、第1回目の電着塗装によって目的膜厚に達しない部分の加熱が40〜80℃の範囲に抑えられているので第2回目の電着塗装によって、この部分に十分な膜厚の塗膜を形成することができ、また第1回目の電着塗膜と第2回目の電着塗膜との境界部の膜厚を十分に確保することができる。さらに一般部と複雑な構造部とで、それぞれの機能目的に応じて、電着塗料を選択、使用することにより、それぞれの部位の機能目的に応じた高性能の電着塗膜を形成することが可能である。
【0088】
また第1回目の電着時間を短くするなど、電着時間を調節することにより、第1回目の電着塗装によって目的膜厚に達した部分と目的膜厚に達しない部分とにおける、第2回目の電着塗装後における総合電着塗膜の部分間の膜厚差を小さくできるので電着膜厚の均一化をはかることができ、また電着時間の短時間化、過剰塗膜厚の形成防止による電着塗料の使用量の低減をはかることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】前記「つきまわり性についてのモデル実験」に使用した試験器具の設置状態を示すモデル図である。
【符号の説明】
1…基準板
2…被塗物
3…ステンレス製円筒管
4…ステンレス容器
5…カチオン電着塗料
6…スターラーチップ
7…マグネットスターラー
Claims (7)
- 複雑な構造を有する被塗物に、カチオン電着塗料(A)を電着塗装して、電着塗膜厚の目的膜厚を有する部分と目的膜厚に達しない部分とを形成した後、目的膜厚に達しない部分の被塗物表面の到達最高温度が40〜80℃となり、かつ目的膜厚を有する部分の被塗物表面の到達最高温度の最大温度が目的膜厚に達しない部分の被塗物表面の到達最高温度の最小温度より20〜70℃高い温度となるように被塗物を加熱した後、カチオン電着塗料(A)と同一であっても異なっていてもよいカチオン電着塗料(B)を電着塗装して該目的膜厚に達しない部分にカチオン電着塗料(B)による電着塗膜を形成し焼付けることを特徴とするカチオン電着塗装方法。
- 複雑な構造を有する被塗物が、袋構造部を有する被塗物であり、カチオン電着塗料(A)を電着塗装した際における、電着塗膜厚の目的膜厚に達しない部分が袋構造部内部を包含するものである請求項1記載のカチオン電着塗装方法。
- カチオン電着塗料(A)塗装後における被塗物の加熱が、熱風によるものであり、加熱時間が3〜7分間であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカチオン電着塗装方法。
- カチオン電着塗料(A)の塗装塗膜の最大膜厚が、10〜20μm である請求項1〜3のいずれか一項に記載のカチオン電着塗装方法。
- カチオン電着塗料(B)が、ゲル化微粒子及び/又は顔料を含有してなる請求項1〜4のいずれか一項に記載のカチオン電着塗装方法。
- ゲル化微粒子が、加水分解性アルコキシシリル基を含有するエポキシ樹脂アミン付加物を水分散化し粒子内架橋せしめてなるカチオン電着性ゲル化微粒子である請求項5記載のカチオン電着塗装方法。
- 被塗物が防錆処理鋼板である請求項1〜6のいずれか一項に記載のカチオン電着塗装方法。
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