JP3559090B2 - 厚膜回路基板 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、絶縁基板上に導体配線層や抵抗体層膜が印刷焼成される厚膜回路基板に関し、特に同厚膜回路基板としてより安定した品質の回路基板を得るための厚膜形成構造の具現に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えばエンジン制御装置のICイグナイタやICレギュレータ等に用いられる厚膜回路基板は通常、アルミナ基板や窒化アルミナ基板等のセラミック基板上に導体配線層が印刷焼成され、それら配線層間に所望のシート抵抗値を有する抵抗体が印刷焼成されて厚膜回路が形成される。
【0003】
また、場合によってはその後、必要に応じてそれら形成した厚膜回路上に保護ガラス体を印刷焼成し、最後にレーザトリミングによって、所望とする抵抗値への合わせ込みが行われる。
【0004】
なお近年、上記導体配線材料としては、銅(Cu)導体が用いられることが多く、また上記厚膜抵抗体材料としては、ホウ化ランタン(LaB6 )系の抵抗体が用いられることが多い。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
こうした厚膜回路基板にあって、例えばシート抵抗値10〜50Ω/□程度のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体材料に用いた場合、上記導体配線材料として用いられる銅導体にクラックが生じることが発明者等によって確認されている。因みにこれは、
(1)銅導体配線上に印刷・堆積された上記抵抗体が焼成されるとき、ホウ化ランタン(LaB6 )の還元作用によって銅導体中の酸化物(CuO等)が還元される。
(2)このとき、銅導体配線層上の抵抗体端辺が掛かる部分との境界部分、すなわち上記還元される酸化物を補給すべき抵抗体が上部に存在しない部分から急激に酸化物が拡散する。
(3)この拡散が急激であるために、同部分にカーケンダルボイド(空孔)が生成され、それが繋がってクラックに至る。
といったメカニズムに基づくものであることが推定される。
【0006】
こうして導体配線にクラックが生じる場合には、往々にしてその電気的な導通が絶たれることともなり、ひいては同厚膜回路に所望されている機能も正常には満たされなくなる。そして何よりも、同厚膜回路基板を製造するに際しての歩留まりが大きく低下する。
【0007】
一方、同厚膜回路基板にあって、シート抵抗値が例えば5〜6KΩ/□以上のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体材料に用いた場合には、得られる抵抗値のばらつきが大きく、到底実用には耐え得ないことがこれも発明者等によって確認されている。これは、高抵抗のシート抵抗値ほどホウ化ランタン系抵抗体の導電成分であるLaB6 の量が少なく、この導電成分であるLaB6 が銅導体中の酸化物と反応して絶縁層を形成するため、高抵抗のシート抵抗値ほど抵抗値の異常が発生し易くなるものと考えられる。
【0008】
このように、厚膜抵抗体として、得られる抵抗値のばらつきが大きい場合にも、当該厚膜回路としての機能は正常に満たされなくなり、そしてこの場合にも、同厚膜回路基板を製造するに際しての歩留まりは大きく低下する。
【0009】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、歩留まりの高い安定した品質の回路基板として製造することができ、しかも量産性に優れた厚膜形成構造を有する厚膜回路基板を提供することを目的とする。
【0010】
またこの発明は、シート抵抗値10〜50Ω/□程度のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、上記導体配線材料にクラックを生じせしめることのない厚膜形成構造を有する厚膜回路基板を提供することを目的とする。
【0011】
またこの発明は、シート抵抗値が例えば5〜6KΩ/□以上のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、得られる抵抗値のばらつきを抑制しうる厚膜形成構造を有する厚膜回路基板を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
こうした目的を達成するため、請求項1記載の発明では、セラミック基板上に銅導体配線層を印刷焼成し、それら配線層間に所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体を印刷焼成して厚膜回路を形成する厚膜回路基板において、前記銅導体配線層と前記抵抗体との間に、該抵抗体と異なるシート抵抗値を有したホウ化ランタン(LaB 6 )系の抵抗体からなるバリア層を設けるようにする。
【0016】
そして、前記所望のシート抵抗値を有する抵抗体としてホウ化ランタン系導体成分の多い低いシート抵抗値を有するものを用い、前記バリア層を形成する抵抗体として同ホウ化ランタン系導体成分のより少ないより高いシート抵抗値を有するものを用いる。
【0017】
また、請求項2記載の発明では、この請求項1記載の発明の厚膜形成構造において、前記所望のシート抵抗値を有する抵抗体としてそのシート抵抗値が10〜50Ω/□のものを用い、前記バリア層を形成する抵抗体としてそのシート抵抗値が60Ω/□以上で且つ5KΩ/□未満のものを用いる。
【0018】
一方、請求項3記載の発明では、セラミック基板上に銅導体配線層を印刷焼成し、それら配線層間に所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体を印刷焼成して厚膜回路を形成する厚膜回路基板において、前記銅導体配線層と前記抵抗体との間に、該抵抗体と異なるシート抵抗値を有したホウ化ランタン(LaB 6 )系の抵抗体からなるバリア層を設けるようにする。
そして、前記所望のシート抵抗値を有する抵抗体として前記銅導体配線層と反応し易い高いシート抵抗値を有するものを用い、前記バリア層を形成する抵抗体として同銅導体配線層と反応し難いより低いシート抵抗値を有するものを用いる。
【0019】
また、請求項4記載の発明では、この請求項3記載の発明の厚膜形成構造において、前記所望のシート抵抗値を有する抵抗体としてそのシート抵抗値が5K〜10KΩ/□のものを用い、前記バリア層を形成する抵抗体としてそのシート抵抗値が60Ω/□以上で且つ5KΩ/□未満のものを用いる。
また、請求項5記載の発明では、これら請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明の厚膜形成構造において、前記バリア層は、前記導体配線層上の少なくとも前記抵抗体端辺が掛かる部分を覆うように配設されるものとする。
【0020】
【作用】
請求項1記載の発明によるように、前記厚膜回路基板にあって、前記導体配線層と前記抵抗体との間に導電性の適宜のバリア層を設けるようにすれば、抵抗体が焼成されるときの同抵抗体の還元作用によって導体配線層中の酸化物が還元され、また拡散するような現象は抑制されるようになる。
【0021】
また、同バリア層によれば、抵抗体が導体配線層と反応して前述した絶縁層が形成されること、或いはその焼成によってガラス化すること等も良好に抑制されるようになる。
【0022】
したがって、請求項1記載の発明による同厚膜形成構造によれば、上記抵抗体の材質やシート抵抗値、更には上記導体配線層の材質等に拘わらず、導体配線層へのクラックや厚膜抵抗体としての抵抗値ばらつき等のない、安定した厚膜回路基板の製造が実現されるようになる。そして勿論、こうした厚膜形成構造の採用により、その歩留まりや量産性も著しく高められるようになる。
【0024】
なお、こうしたバリア層としては、例えば導体配線層材料に対応した純金属のメッキや蒸着膜等を用いることができるが、同バリア層として、
・前記抵抗体と異なるシート抵抗値を有する抵抗体。
を用いるようにすれば、同厚膜回路基板を製造する上での工程数や材料数を増やすことなく、すなわち通常用いられる各種シート抵抗値の抵抗体成膜工程を好適に流用してバリア層を形成することができるようになる。
【0025】
また前述したように、前記絶縁基板としてセラミック基板が用いられ、前記導体配線として銅導体が用いられるときには、前記所望のシート抵抗値を有する抵抗体としてホウ化ランタン(LaB6 )系の抵抗体が用いられることが多い。
【0026】
したがってこの場合、上記バリア層を形成する抵抗体にもこのホウ化ランタン系の抵抗体を用いることが、上述の如く工程数や材料数を増やすことなく、効率的に同厚膜形成構造を有する回路基板を製造する上で望ましい。
【0027】
そしてこの場合、請求項1記載の発明によるように、
・前記所望のシート抵抗値を有する抵抗体がホウ化ランタン系導体成分の多い低いシート抵抗値であるとき、前記バリア層を形成する抵抗体として同ホウ化ランタン系導体成分のより少ないより高いシート抵抗値を有するものを用いる。
といった態様でその抵抗値を選定するようにすれば、例えば前述したシート抵抗値10〜50Ω/□程度のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、上記導体配線材料にクラックを生じせしめることのない厚膜形成構造を実現することができるようになる。
【0028】
具体的には請求項2記載の発明によるように、前記バリア層を形成する抵抗体のシート抵抗値が60Ω/□以上で且つ5KΩ/□未満であれば、上記クラックは生じないし、また抵抗値のばらつきも生じないことが発明者等による実験によって確認されている。
【0029】
また一方、請求項3記載の発明によるように、
・前記所望のシート抵抗値を有する抵抗体が前記銅導体配線層と反応し易い高いシート抵抗値であるとき、前記バリア層を形成する抵抗体として同銅導体配線層と反応し難いより低いシート抵抗値を有するものを用いる。
といった態様でその抵抗値を選定するようにすれば、シート抵抗値が例えば5〜6KΩ/□以上のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、得られる抵抗値のばらつきを抑制しうる厚膜形成構造を実現することができるようになる。
【0030】
具体的には請求項4記載の発明によるように、前記バリア層を形成する抵抗体のシート抵抗値が60Ω/□以上で且つ5KΩ/□未満であれば、上記抵抗値のばらつきもそれほど生じないし、またクラックも生じないことが発明者等による実験によって確認されている。
また、請求項5記載の発明によるように、前記バリア層が前記導体配線層上の少なくとも前記抵抗体端辺が掛かる部分を覆うように配設されるものとすれば、導体配線層上の同抵抗体端辺が掛かる部分に発生しやすい上記クラックについてはこれを確実に回避することができるようになる。また同構造によれば、バリア層の配設面積自体を小さくできるため、抵抗体の抵抗値に与える影響も少なくて済む。
【0031】
【実施例】
(第1実施例)
図1に、この発明にかかる厚膜回路基板の第1の実施例についてその断面構造を示す。
【0032】
この実施例の厚膜回路基板は、同図1に示されるように、アルミナ基板1上に印刷焼成された銅(Cu)導体配線層2のターミナル上に、バリア層3としてのホウ化ランタン(LaB6 )系抵抗体と所望のシート抵抗値を有する同じくホウ化ランタン系抵抗体4とが順次厚膜形成されて構成されている。
【0033】
ここで、同第1の実施例においては、上記抵抗体4としてシート抵抗値10〜50Ω/□程度の低抵抗のものを用い、上記バリア層3を形成する抵抗体としてはシート抵抗値60Ω/□以上のものを用いるようにしている。
【0034】
前述したように、従来、上記シート抵抗値10〜50Ω/□程度の抵抗体4は上記銅導体配線層2にクラックの発生を引き起こしていた。しかし、同実施例の厚膜回路基板のように、バリア層3としてシート抵抗値60Ω/□以上の抵抗体をこれら銅導体配線層2及び抵抗体4間に介在せしめることにより、該クラックの発生は良好に回避されるようになる。
【0035】
これは、ホウ化ランタン系導体成分の多いシート抵抗値10〜50Ω/□程度の抵抗体4の還元作用が、同ホウ化ランタン系導体成分の少ないシート抵抗値60Ω/□以上の抵抗体(バリア層)3によって抑制されるためと考えられる。
【0036】
実際に、従来の厚膜回路基板とこうした第1の実施例の厚膜回路基板とを製作し、その諸特性についての比較検討を試みたので、その結果を以下に示す。
この試作では、96%のアルミナ基板(サイズ:25.4mm×25.4mm、厚さ:0.8mm)1上に、図2に示すパターンにて銅導体ペースト(Dupont(デュポン)社製Cuペースト9922)を印刷焼成して銅導体配線層2を形成し、それら配線層2間に、同図2に示されるように、1mm×1mmといった寸法で、ホウ化ランタン(LaB6 )系10Ω/□抵抗体(Dupont社製抵抗ペーストQP601)を上記厚膜抵抗体層4として形成する。
【0037】
以下、この試作手順について列記する。
まず、
(1)上記アルミナ基板1に銅導体ペーストをスクリーン印刷し、これを大気中120℃で10分間乾燥して膜厚22μmの塗膜を形成する。
(2)その後、ベルトコンベア炉内、酸素濃度5ppmの窒素雰囲気中にて900℃で10分間焼成する。
といった手順にてアルミナ基板1上に銅導体配線層2を形成した回路基板を63個作製し、これを21個ずつのA群、B群、及びC群の3群に分けた。
【0038】
そして、これら各群の別に、各異なる3通りの方法及び形態で抵抗体の塗膜を試み、従来並びに第1の実施例の厚膜回路基板として、各群21個の試料を作製した。それら各群の詳細は以下の通りである。
【0039】
・A群(A1〜A21)
図3(a)に示される態様でアルミナ基板1上に銅導体配線層2が形成された試料の同配線層2間に、図3(b)に示される態様で上記ホウ化ランタン系10Ω/□の抵抗体ペーストをスクリーン印刷した。そしてその後、大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmの抵抗体塗膜41を形成するとともに、これを酸素濃度5ppmの窒素雰囲気炉内に入れ900℃で10分間焼成した。
【0040】
・B群(B1〜B21)
図4(a)に示される態様でアルミナ基板1上に銅導体配線層2が形成された試料の同配線層2各々に、図4(b)に示されるように0.6mm×1.3mmの寸法で、ホウ化ランタン(LaB6 )系100Ω/□抵抗体(Dupont社製抵抗ペーストQP602)をスクリーン印刷し、その後これを、大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmのバリア層抵抗体塗膜31を形成した。更にその後、図4(c)に示される態様で上記ホウ化ランタン系10Ω/□の抵抗体ペーストをスクリーン印刷し、これも大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmの抵抗体塗膜41を形成した。そして最後に、これを酸素濃度5ppmの窒素雰囲気炉内に入れ900℃で10分間焼成した。
【0041】
・C群(C1〜C21)
図5(a)に示される態様でアルミナ基板1上に銅導体配線層2が形成された試料の同配線層2各々に、図5(b)に示されるように0.3mm×1.3mmの寸法で、上記ホウ化ランタン系100Ω/□の抵抗体ペーストをスクリーン印刷し、その後これを、大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmのバリア層抵抗体塗膜31を形成した。更にその後、図5(c)に示される態様で上記ホウ化ランタン系10Ω/□の抵抗体ペーストをスクリーン印刷し、これも大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmの抵抗体塗膜41を形成した。そして最後に、これを酸素濃度5ppmの窒素雰囲気炉内に入れ900℃で10分間焼成した。
【0042】
図6は、これら作製した試料について、その抵抗値をディジタルマルチメータを用いて測定した結果を示す。
同図6から明らかなように、従来の方法及び形態で作製したA群の試料A1〜A21の場合には、厚膜抵抗体41としての目標抵抗値「10Ω」に対し、その平均抵抗値が「5.5KΩ」と大きく、またばらつきCvも「406%(試料数21中、抵抗値異常が2個発生)」とかなり大きくなっている。因みにこのばらつきCvは、
Cv=(標準偏差σ(n−1))/(平均値)
によって求められる。
【0043】
また、それら試料の断面を観察して、上記銅導体配線層2へのクラックの有無を調査したところ、同A群の試料A1〜A21では、相当数のクラックが確認されている。
【0044】
他方、第1の実施例にかかる厚膜回路基板として作製したB群或いはC群の試料B1〜B21或いはC1〜C21の場合には、これも同図6から明らかなように、厚膜抵抗体41としての目標抵抗値「10Ω」に対し、その平均抵抗値が、B群の試料B1〜B21で「8.33Ω」、またC群の試料C1〜C21で「11.87Ω」と、ほぼ狙い通りの抵抗値となっている。また、ばらつきCvも、B群の試料B1〜B21で「6.2%」、C群の試料C1〜C21で「5.32%」と、問題のないレベルに達している。
【0045】
そして、このB群及びC群の試料B1〜B21及びC1〜C21についても、それら試料の断面を観察して上記銅導体配線層2へのクラックの有無を調査したが、クラックの発生は認められなかった。
【0046】
このように、同第1の実施例の厚膜回路基板によれば、従来、銅導体配線層2へのクラック発生の原因となっていたシート抵抗値10〜50Ω/□程度のホウ化ランタン系抵抗体を厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、クラックの発生は良好に回避されるようになる。そしてこれが、バリア層抵抗体31の介在によるものであることは、上記試作に基づく実験の結果からも明らかである。
【0047】
なおこの場合、上記バリア層抵抗体31のシート抵抗値が60Ω/□以上(抵抗体41とのブレンド値としては50Ω/□以上)であれば、こうしたクラックの発生が回避されることも実験により確認されている。
【0048】
また、図6の結果からも明らかなように、こうしてバリア層抵抗体31を介在せしめることにより、厚膜抵抗体層41としての抵抗値も安定し、その精度が著しく向上されることともなる。
【0049】
また、B群の試料B1〜B21であれC群の試料C1〜C21であれ、これらが共に厚膜回路基板としての良好な特性に設定されることに鑑みれば、上記バリア層抵抗体31は、銅導体配線層2上の少なくとも前記抵抗体41端辺が掛かる部分を覆うように配設されることで十分であるともいえる。
【0050】
因みに従来の厚膜回路基板にあって、上記クラックは、図3(b)に矢印CRとして付記した部分、すなわち銅導体配線層2上の前記抵抗体41端辺が掛かる部分との境界部分に発生している。そこで図5にそのプロセスを示すC群の試料C1〜C21では、銅導体配線層2上の該部分を覆うように上記バリア層抵抗体31を配設するようにしている。このような態様でバリア層抵抗体31を配設することで上記クラックの発生が回避され、また厚膜抵抗体層41としても十分に精度の高い抵抗値が得られるようになることは、図6を含めた上記結果から明らかである。
【0051】
また、同C群の試料の厚膜形成構造によれば、バリア層抵抗体31の配設面積自体を小さくできるため、上記厚膜抵抗体層41の抵抗値に与える影響も少なくて済む。
【0052】
なお、同C群の試料において、上記バリア層抵抗体31の「0.3mm」という配設幅は、基板1への印刷ずれ(例えばこの場合「0.1mm」)を考慮してこれを補いうる最小限の値として設定されている。
【0053】
(第2実施例)
次に、この発明にかかる厚膜回路基板の第2の実施例について説明する。
この第2の実施例の厚膜回路基板も、その断面構造は、先の図1に示される構造と基本的に同様の厚膜構造となっている。すなわち、アルミナ基板1上に印刷焼成された銅(Cu)導体配線層2のターミナル上に、バリア層3としてのホウ化ランタン(LaB6 )系抵抗体と所望のシート抵抗値を有する同じくホウ化ランタン系抵抗体4とが順次厚膜形成されて構成されている。
【0054】
ここで、同第2の実施例においては、上記抵抗体4としてシート抵抗値5〜6KΩ/□以上の比較的高抵抗のものを用い、上記バリア層3を形成する抵抗体としてはシート抵抗値がそれ未満のものを用いるようにしている。
【0055】
前述したように、従来、シート抵抗値5〜6KΩ/□以上のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体4の材料として用いた場合には、得られる抵抗値のばらつきが大きく、到底実用には耐え得なかった。しかし、同実施例の厚膜回路基板のように、バリア層3としてシート抵抗値がそれ未満の抵抗体をこれら銅導体配線層2及び抵抗体4間に介在せしめることにより、該抵抗値のばらつきは良好に回避されるようになる。
【0056】
これは、シート抵抗値5〜6KΩ/□以上のホウ化ランタン系抵抗体4が銅導体配線2と反応して絶縁層が形成される現象が、シート抵抗値がそれ未満の同ホウ化ランタン系抵抗体(バリア層)3の介在によって抑制されるためと考えられる。
【0057】
実際に、従来の厚膜回路基板とこうした第2の実施例の厚膜回路基板とを製作し、その諸特性についての比較検討を試みたので、その結果を以下に示す。
この試作では、96%のアルミナ基板(サイズ:25.4mm×25.4mm、厚さ:0.8mm)1上に、これも先の図2に示すパターンにて銅導体ペースト(Dupont(デュポン)社製Cuペースト9922)を印刷焼成して銅導体配線層2を形成し、それら配線層2間に、同図2に示されるように、1mm×1mmといった寸法で、ここではホウ化ランタン(LaB6 )系10KΩ/□抵抗体(Dupont社製抵抗ペーストQP604)を上記厚膜抵抗体層4として形成する。
【0058】
以下、この試作手順について列記する。
まず、
(1)上記アルミナ基板1に銅導体ペーストをスクリーン印刷し、これを大気中120℃で10分間乾燥して膜厚22μmの塗膜を形成する。
(2)その後、ベルトコンベア炉内、酸素濃度5ppmの窒素雰囲気中にて900℃で10分間焼成する。
といった手順にてアルミナ基板1上に銅導体配線層2を形成した回路基板を42個作製し、これを21個ずつのD群、及びE群の2群に分けた。
【0059】
そして、これら各群の別に2通りの方法及び形態で抵抗体の塗膜を試み、従来並びに第2の実施例の厚膜回路基板として、各群21個の試料を作製した。それら各群の詳細は以下の通りである。
【0060】
・D群(D1〜D21)
図7(a)に示される態様でアルミナ基板1上に銅導体配線層2が形成された試料の同配線層2間に、図7(b)に示される態様で上記ホウ化ランタン系10KΩ/□の抵抗体ペーストをスクリーン印刷した。そしてその後、大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmの抵抗体塗膜42を形成し、これを酸素濃度5ppmの窒素雰囲気炉内に入れ900℃で10分間焼成した。
【0061】
・E群(E1〜E21)
図8(a)に示される態様でアルミナ基板1上に銅導体配線層2が形成された試料の同配線層2各々に、図8(b)に示されるように0.6mm×1.3mmの寸法で、ホウ化ランタン(LaB6 )系1KΩ/□抵抗体(Dupont社製抵抗ペーストQP603)をスクリーン印刷し、その後これを、大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmのバリア層抵抗体塗膜32を形成した。更にその後、図8(c)に示される態様で上記ホウ化ランタン系10KΩ/□の抵抗体ペーストをスクリーン印刷し、これも大気中120℃で10分間乾燥して膜厚25μmの抵抗体塗膜42を形成した。そして最後に、これを酸素濃度5ppmの窒素雰囲気炉内に入れ900℃で10分間焼成した。
【0062】
図9は、これら作製した試料について、その抵抗値をディジタルマルチメータを用いて測定した結果を示す。
同図9から明らかなように、従来の方法及び形態で作製したD群の試料D1〜D21の場合には、厚膜抵抗体42としての目標抵抗値「10KΩ」に対し、その平均抵抗値が「18.8KΩ」と大きく、またばらつきCvも「24.7%」と大きくなっている。
【0063】
他方、第2の実施例にかかる厚膜回路基板として作製したE群の試料E1〜E21の場合には、これも同図9から明らかなように、厚膜抵抗体42としての目標抵抗値「10KΩ」に対し、その平均抵抗値が「12.6KΩ」と、ほぼ狙い通りの抵抗値となっている。また、ばらつきCvも「4.9%」と、問題のないレベルに達している。
【0064】
なお、これらD群及びE群の試料D1〜D21及びE1〜E21についても、それら試料の断面を観察して上記銅導体配線層2へのクラックの有無を調査したが、何れもクラックの発生は認められなかった。
【0065】
このように、同第2の実施例の厚膜回路基板によれば、従来、抵抗値ばらつきの原因となっていたシート抵抗値5〜6KΩ/□以上のホウ化ランタン系抵抗体を厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、同厚膜抵抗体としての抵抗値ばらつきは良好に抑制されるようになる。そしてこれが、バリア層抵抗体32の介在によるものであることは、上記試作に基づく実験の結果からも明らかである。
【0066】
なおこの場合、上記バリア層抵抗体32のシート抵抗値が5KΩ/□未満(ただし、上記クラックの発生を回避するためには60Ω/□以上)であれば、こうした抵抗値のばらつきにが抑制されることも実験により確認されている。
【0067】
ところで、これら第1及び第2の実施例にかかる厚膜回路基板では、バリア層抵抗体3(31或いは32)を別途配設するために、工程数や材料数のアップにつながるかのように思われがちであるが、実際には、これらバリア層抵抗体3を配設するにあたってのコストアップはほとんどない。すなわち、これら厚膜回路基板が製造される際には通常、種々のシート抵抗値を有する抵抗体が使用されることから、例えば
・シート抵抗値10〜50Ω/□程度の抵抗体が塗膜される部分には、シート抵抗値60Ω/□以上でそれに近いシート抵抗値の抵抗体を塗膜する際に、これを図4(b)或いは図5(b)に示される態様で、ついでに流用塗膜する。
・シート抵抗値5〜6KΩ/□以上の抵抗体が塗膜される部分には、シート抵抗値がそれ未満の抵抗体(この場合、シート抵抗値60Ω/□以上であれば低いシート抵抗値の抵抗体であってもよい)を塗膜する際に、これを例えば図8(b)に示される態様で、ついでに流用塗膜する。
といった態様で流用するようにすれば、こうしたコストアップを殆ど招くことなく、同バリア層抵抗体3(31或いは32)の配設が実現されるようになる。
【0068】
また、上記各実施例にかかる厚膜回路基板の試作例では、バリア層抵抗体層3(31或いは32)及び厚膜抵抗体層4(41或いは42)をそれぞれ塗膜形成した後、これら抵抗体をまとめて焼成するようにしたが、それら手順は任意である。すなわち、バリア層抵抗体層3(31或いは32)を塗膜し、焼成した後、厚膜抵抗体層4(41或いは42)を塗膜し、焼成するようにしてもよい。バリア層抵抗体3(31或いは32)を設けることによる作用、効果は、この場合であっても同様に得られるようになる。
【0069】
また、上記各実施例にあっては、導体配線層2のターミナル部分にのみ、上記バリア層抵抗体3(31或いは32)を設ける構造としたが、その上に配設される厚膜抵抗体層4(41或いは42)の抵抗値に及ぼす影響が小さければ、このバリア層抵抗体3(31或いは32)についても、それら対象となるターミナル間に掛け渡されるかたちで、これを配設することもできる。
【0070】
また、このバリア層抵抗体3(31或いは32)は、必ずしも1層のみである必要はない。すなわち、上述した種々のシート抵抗値を有する抵抗体を同バリア層抵抗体3として流用する都合等によって、同一若しくは異なるシート抵抗値の抵抗体が2層或いは3層に重畳して塗膜される場合であれ、少なくとも導体配線2上に直接塗膜される抵抗体のシート抵抗値が上記第1若しくは第2の実施例の条件を満たしさえすれば、同バリア層抵抗体3としてこれを利用することはできる。
【0071】
また、こうしたバリア層が、必ずしも抵抗体である必要もない。例えば導体配線層材料として上述した銅導体が用いられる場合には、銅メッキや銅蒸着膜、或いはニッケルメッキ等、それら使用する材料に見合った純金属メッキや蒸着膜等も適宜採用することができる。そしてその場合であれ、上述したクラックの発生を回避したり、抵抗値のばらつきを抑制したりすることはできる。
【0072】
また、上記各実施例においては、基板1としてアルミナ基板を用い、導体配線層2として銅導体を用いたが、それら材料の選定も任意である。
要は、絶縁基板上に導体配線層を印刷焼成し、それら配線層間に所望のシート抵抗値を有する抵抗体を印刷焼成して厚膜回路を形成する厚膜回路基板でさえあれば、この発明にかかる上記厚膜形成構造を同様に適用することができる。
【0073】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明にかかる厚膜回路基板によれば、歩留まりの高い安定した品質の回路基板として、量産性よく同厚膜回路基板を製造することができるようになる。
【0074】
またこの発明の厚膜形成構造によれば、シート抵抗値10〜50Ω/□程度のホウ化ランタン系抵抗体を厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、導体配線材料にクラックが生じることはない。
【0075】
またこの発明によれば、シート抵抗値が例えば5〜6KΩ/□以上のホウ化ランタン系抵抗体を上記厚膜抵抗体材料に用いる場合でも、得られる抵抗値のばらつきは好適に抑制されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明にかかる厚膜回路基板の断面構造例を示す断面図。
【図2】実施例に用いた厚膜回路基板のパターン構成を示す斜視図。
【図3】従来の厚膜回路基板製造プロセス例を示す断面図。
【図4】第1の実施例による厚膜回路基板製造プロセス例を示す断面図。
【図5】第1の実施例による厚膜回路基板製造プロセス例を示す断面図。
【図6】従来の厚膜回路基板と第1実施例の厚膜回路基板との特性一覧図。
【図7】従来の厚膜回路基板製造プロセス例を示す断面図。
【図8】第2の実施例による厚膜回路基板製造プロセス例を示す断面図。
【図9】従来の厚膜回路基板と第2実施例の厚膜回路基板との特性一覧図。
【符号の説明】
1…アルミナ基板、2…銅(Cu)導体配線層、3、31、32…バリア層であるホウ化ランタン(LaB6 )系抵抗体、4、41、42…所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン(LaB6 )系抵抗体。
Claims (5)
- セラミック基板上に銅導体配線層を印刷焼成し、それら配線層間に所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体を印刷焼成して厚膜回路を形成する厚膜回路基板において、
前記銅導体配線層と前記抵抗体との間に、該抵抗体と異なるシート抵抗値を有したホウ化ランタン系の抵抗体からなるバリア層を設け、
前記所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体がホウ化ランタン系導体成分の多い低いシート抵抗値を有し、前記バリア層を形成するホウ化ランタン系の抵抗体が同ホウ化ランタン系導体成分のより少ないより高いシート抵抗値を有する
ことを特徴とする厚膜回路基板。 - 前記所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体のシート抵抗値が10〜50Ω/□であり、前記バリア層を形成する抵抗体のシート抵抗値が60Ω/□以上で且つ5KΩ/□未満である
請求項1記載の厚膜回路基板。 - セラミック基板上に銅導体配線層を印刷焼成し、それら配線層間に所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体を印刷焼成して厚膜回路を形成する厚膜回路基板において、
前記銅導体配線層と前記抵抗体との間に、該抵抗体と異なるシート抵抗値を有したホウ化ランタン系の抵抗体からなるバリア層を設け、
前記所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体が前記銅導体配線層と反応し易い高いシート抵抗値を有し、前記バリア層を形成するホウ化ランタン系の抵抗体が同銅導体配線層と反応し難いより低いシート抵抗値を有する
ことを特徴とする厚膜回路基板。 - 前記所望のシート抵抗値を有するホウ化ランタン系の抵抗体のシート抵抗値が5K〜10KΩ/□であり、前記バリア層を形成する抵抗体のシート抵抗値が60Ω/□以上で且つ5KΩ/□未満である
請求項3記載の厚膜回路基板。 - 前記バリア層は、前記銅導体配線層上の少なくとも前記抵抗体端辺が掛かる部分を覆うように配設される
請求項1〜4のいずれか一項に記載の厚膜回路基板。
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