JP3558600B2 - 調質後の被削性が優れた低合金工具鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼き鈍し等の調質処理をした後、使用に供される低合金工具鋼に関し、特に、調質により硬度が55HRC(ロックウエル硬度Cスケール)を超えるような場合においても、被削性が優れた低合金工具鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、被削性にばらつきが少なく、旋削加工性等の被削性が優れた快削鋼として、特開2000−219936号公報に開示されたものがある。この従来の快削鋼は、S、Ca、Al及びOを夫々適量ずつ複合添加することにより、硫化物を均一微細に分散させることにより被削性を向上させ、硫化物のCa含有量を10質量%以下とすると共に、円相当径が5μm以上の硫化物の個数を3.3mm2当たり5個以上含有することにより、被削性を改善したものである。なお、この「円相当径」とは、介在物の断面積と同一の面積を有する円を想定した場合のこの円の直径をいう。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の従来の快削鋼(低合金工具鋼)は、焼なまし材での被削性を改善するため、Ca、Mn又はS等を添加しているが、調質後の硬度が55HRCを超えるような場合には、このような対策では十分な被削性を確保することができず、また、靭性も低いものであった。従って、調質により硬度が55HRCを超えるような用途に使用される低合金工具鋼として、調質後の被削性が高い低合金工具鋼の開発が要望されている。
【0004】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、調質後の硬度が55HRCを超える場合であっても、調質後において被削性が劣化せず、優れた被削性が得られる調質後の被削性が優れた低合金工具鋼を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る調質後の快削性が優れた低合金工具鋼は、C:0.6乃至0.90質量%、Si:0.50乃至2.00質量%、Mn:0.50乃至2.00質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.030乃至0.150質量%、Cr:0.50乃至2.00質量%、Mo:0.20乃至0.70質量%、V:0.02乃至0.10質量%、Al:0.0002乃至0.0009質量%、Ti:0.0001乃至0.0035質量%、N:0.0010乃至0.0090質量%、O:0.0001乃至0.0020質量%、Mg:0.0001乃至0.0009質量%及びH:0.0002質量%以下を含有する鋼材であって、断面積が3μm 2 以上の炭化物が視野面積5500μm2当たり5個以下であり、炭化物の総量が視野面積5500μm2当たり300個以下であり、鋼材清浄度はA系の硫化物系介在物が0.1乃至0.5%であり、B+C系の酸化物系介在物が0.015%以下であることを特徴とする。
【0006】
また、この低合金工具鋼において、Ca:0.0005乃至0.02質量%を含有しても良い。更に、本発明は上記各成分を上記組成のように含有することにより、本発明の効果を奏するものであり、その他の成分を添加することを排除するものではない。しかし、上記各成分以外はFe及び不可避的不純物のみが含有されるものとしても良い。更にまた、AlとNとの含有量(質量%)の積Al×Nを0.000010以下とすることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の調質後の被削性が優れた低合金工具鋼について詳細に説明する。本願発明者等が鋭意研究した結果、従来の快削鋼では、調質後の硬度が55HRCを超える場合、従来、問題にならなかった介在物又は粗大な炭化物による被削性の劣化が生じることを見いだした。従って、調質後における被削性を高めるためには、この介在物又は粗大な炭化物を制御する必要がある。更に、これらの介在物制御を行うためには、従来、不純物とされていた元素であるAl、Ti、O、N、Mg、Nb又はCaを規制し、更に調質材での靱性を劣化させるHを規制する必要があることを知見した。また、N、O又はMg等を制御することにより、介在物の清浄度であるB系及びC系の酸化物系介在物を0.015%以下に制御することで、被削性が改善された低合金工具鋼が得られることを見出した。更に、炭化物の総量が視野面積5500μm2当たり300個以下で、望ましくは50個以下とし、断面積が3μm2(円相当径2μm)以上の炭化物が5個以下で、望ましくは0にすると、著しく被削性が改善されることが判明した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
次に、本発明の調質後の被削性が優れた低合金工具鋼の組成限定理由について説明する。
【0009】
C:0.6乃至0.9質量%
Cは、硬度と強度とを確保するために保有させる元素であり、C含有量が0.6質量%未満では、金型中心部での硬度と強度とが確保できない。また、C含有量が0.9質量%を超えると、靱性又は被削性が低下する。従って、C含有量は0.6乃至0.9質量%とする。
【0010】
Si:0.5乃至2.0質量%
Siは、鋼材の中心まで焼入性を向上させるために必要な元素であり、Si含有量が0.5質量%未満では所望の効果が得られない。また、Si含有量が2.0質量%を超えると、延性が低下し、また塑性加工時に割れが発生し易くなる。従って、Si含有量は0.5乃至2.0質量%とする。
【0011】
Mn:0.5乃至2.0質量%
Mnは硫化物形成元素であり、Mn含有量が0.5質量%未満では、必要量の硫化物が得られない。また、Mn含有量が2.0質量%を超えると、鋼の硬さを高くして被削性が低下する。従って、Mn含有量は0.5乃至2.0質量%とする。
【0012】
P:0.001乃至0.030質量%
Pは、被削性、特に仕上げ面性状の改善のために有用な元素であり、P含有量が0.001質量%未満ではその効果が得られない。また、P含有量が0.030質量%を超えると、靱性の低下が著しい。従って、P含有量は0.001乃至0.030質量%とする。
【0013】
S:0.03乃至0.15質量%
Sは、被削性を向上させるために含有させる元素であり、S含有量が0.03質量%未満では、被削性が改善されない。また、S含有量が0.15質量%を超えると、靱性の低下が著しい。従って、S含有量は0.03乃至0.15質量%とする。
【0014】
Al:0.0002乃至0.0009質量%
Alは、脱酸と同時に微細な酸化物を生成させるために添加する元素であり、Al含有量が0.0002質量%未満ではその効果が得られない。また、Al含有量が0.0009質量%を超えると、硬質で粗大なアルミナが生成し、酸化・窒化物系の介在物量も多くなり、被削性を悪化させる。Al含有量を本発明の範囲内にすると、0.05μm2以下の微細な酸化物が生成し、C系介在物であるAlNを生成させず、B+C系介在物の合計を0.015質量%以下とさせることができる。これらのB+C系介在物に角張った形状を有するAlNが少量でも含まれると、切削工具が欠けやすくなり、被削性を悪化させる。AlNを生成させないためには、Alの含有量とNの含有量との積が0.00045以下であればよい。しかし、実用鋼塊では、成分偏析等が発生するため、Alの含有量とNの含有量との積を0.000010以下に規制することにより、製品の全ての位置でAlNの生成を抑えることができる。このAlNを含まない窒化・酸化物として、MnS等のA系介在物を0.1乃至0.5%含有させると、被削性を悪化させず、耐摩耗性を良好にすることができる。従って、Al含有量は0.0002乃至0.0009質量%とする。
【0015】
Ca:0.0005乃至0.02質量%
Caは、脱酸させるために添加する元素であり、Ca含有量が0.0005質量%未満ではその効果が得られない。また、Ca含有量が0.02質量%を超えると、硬質の酸化物が生成する上に、CaSを形成して鋳造工程においてノズルの閉塞等の多大な障害をもたらす。従って、Ca含有量は0.0005乃至0.02質量%とする。
【0016】
Mg:0.0001乃至0.0009質量%
後述するOの含有量が0.0001乃至0.0020質量%の場合、Mgの含有量は0.0001乃至0.0009質量%の範囲がよい。Mgは、脱酸させるために添加する元素であり、Mg含有量が0.0001質量%未満ではその効果が得られない。また、Mg含有量が0.0009質量%を超えると、Mg2SiO4の粗大な硬質のMg酸化物が生成される。従って、Mg含有量は0.0001乃至0.0009質量%とする。
【0017】
O:0.0001乃至0.0020質量%
Oは、被削性を悪化させる酸化物を生成するため、規制する必要がある。O含有量が0.0004質量%を超えると酸化物を生成する。しかし、O含有量が0.0020質量%までは、酸化物は硫化物によりくるまれるので、Ca、Ti、Nb又はMg等の酸化物による被削性の悪化がない。この場合、酸化物を作りやすいAl、Si、Ti、Nb又はMg等の元素と同時に、Oを規制する必要がある。また、O含有量の下限値は、本来0質量%にすることが望ましいが、このような低レベルに脱酸することはコスト面において不利であり、このため、O含有量の下限値を0.0001質量%とした。従って、O含有量は0.0001乃至0.0020質量%とする。好ましくは、O含有量は0.0009質量%以下、更に望ましくは、O含有量は0.0004質量%以下である。
【0018】
Cr:0.50乃至2.00質量%
Crは、焼入れ性を向上させるために有効な元素であり、そのためには、Cr含有量を最小限0.50質量%必要である。しかし、Cr含有量が2.00質量%を超えると、コスト面において不利である。従って、Cr含有量は0.50乃至2.00質量%とする。
【0019】
Mo:0.2乃至0.70質量%
Moは、Crと同様に焼入れ性を向上させるために有効な元素であり、最小限0.2質量%必要であるが、0.70質量%を超えると、コスト面において不利である。従って、Mo含有量は0.2乃至0.70質量%とする。
【0020】
Ti:0.0001乃至0.0035質量%以下
Tiは、Nと結合してTiNを形成し、Bの焼入性向上効果をより高くするために含有させる元素である。しかし、Ti含有量が0.0035質量%を超えると、TiNが過多となり、被削性を悪化させ、同時に熱間加工時に割れが多発する。一方、Tiの添加により焼き入れ性を向上させるためには、Ti含有量の下限値は0.0001質量%とすることが必要である。従って、Ti含有量は0.0001乃至0.0035質量%以下とする。
【0021】
V:0.02乃至0.10質量%
Vは、C又はNと結合して炭窒化物を生成して結晶粒を微細化し、靱性を向上させるために含有させる元素であり、このような効果を得るためには、V含有量は0.02質量%以上とする必要がある。しかし、V含有量が0.1質量%を超えて含有させても、その効果が飽和する上にコストが嵩む。従って、V含有量は0.02乃至0.10質量%とする。
【0022】
H:0.0002質量%以下
Hは、水素脆性等を起こすため、規制する必要がある。Crを0.5乃至2.0質量%添加した材料では、H含有量が0.0002質量%を超えると水素脆化を起こし、製品中に割れが発生する。従って、H含有量は0.0002質量%以下に規制する。望ましくは、H含有量は0.00005質量%以下に規制する。
【0023】
N:0.0010乃至0.0090質量%
Nは、被削性を悪化させるAlN窒化物を生成するため、Alの含有量とNの含有量との積を0.000010以下に制限することが好ましい。Alが0.0002乃至0.0009質量%添加され、Tiの添加により焼入れ性を向上させるためにTiを0.0001乃至0.0035質量%添加している。このため、被削性を悪化させるAlN及びTiN等の窒化物生成を抑えるために、N含有量を0.0090質量%以下に規制することが重要である。N含有量が0.0090質量%までは窒化物は硫化物にくるまれるので、Al又はTi等の窒化物による被削性の悪化がない。この場合、Nの含有量は、窒化物を作りやすいAl、Si、Ti又はNb等の元素と同時に規制することが好ましい。
【0024】
また、N含有量の下限値は、0質量%にすると、結晶粒が粗大化するので、N含有量の下限値は0.0010質量%を限度とした。従って、N含有量は0.0010乃至0.0090質量%とする。
【0025】
硫化物の面積率:円相当径5μm以上の硫化物が3.3mm 2 当たり5個以上硫化物の面積率は、円相当径5μm以上の硫化物が3.3mm2当たり5個以上であることが好ましい。硫化物は被削性を悪化させる酸化物等をくるみ、被削性の悪化を防止する作用があるからである。
【0026】
A系介在物の清浄度:0.1乃至0.5%
硫化物は被削性の悪化を防止する作用があるので、JIS G0555における介在物の清浄度についてA系介在物はdA60×400を0.1乃至0.5%とする。この場合、dA60は介在物の種類及び測定視野数を示し、400は観察倍率を示し、0.1乃至0.5%は介在物の清浄度を示す。従って、dA60×400とは、A系介在物を400倍で測定視野数60で観察することにより、得られた清浄度が0.1乃至0.5%であることを示す。A系介在物の保有量(清浄度)が0.1%未満では被削性の改善効果が得られない。また、A系介在物は保有量(清浄度)が0.5%を超えると靱性を劣化させる。従って、A系介在物の清浄度は0.1乃至0.5%とする。
【0027】
B系+C系介在物の清浄度:dB+dC60×400≦0.015%
JIS G0555におけるB系のAl2O3、C系のAlN等の介在物又はC系介在物のTiN若しくはSiO2等は、被削性を悪化させるためにdB+dC60×400≦0.015%とする必要がある。従って、B系及びC系の介在物の清浄度は0.015%以下とする。望ましくは、B系+C系介在物の清浄度は0%が良い。これらのB系+C系の介在物を制御するためには、O、Ti、Mg、Nb及びNの制限が重要である。
【0028】
炭化物の個数:(a)調質材及び焼なまし材において断面積が3μm 2 (円相当径2μm)以上の炭化物が視野面積5500μm 2 当たり5個以下であり、望ましくは0個、(b)炭化物の総量が視野面積5500μm 2 当たり300個以下、望ましくは50個以下
熱処理済みの鋼(プレハードン鋼)の被削性は、特に3μm2(円相当径:2μm)以上の粗大炭化物が熱処理後に残留すると、被削性が著しく悪化する。このため、上述の粗大炭化物の個数は視野面積5500μm2当たり5個以下とし、望ましくは0にする必要がある。また、炭化物の個数を視野面積5500μm2当たり300個以下、望ましくは50個以下にすることで被削性を著しく改善できる。また、同様の効果は焼なまし材にも現れる。
【0029】
炭化物の構成
本成分系では、炭化物の組成がFe3CとM23C6とにより構成されている。M23C6は焼なまし状態での炭化物合計の30体積%以上であり、円相当径が2μmを超えないことが重要である。更に、焼入れ後の炭化物が1体積%以下であり、望ましくは0体積%である。
【0030】
なお、本発明においては、上述の元素以外にも、下記に示す元素を下記に示す組成で含有してもよい。
【0031】
Cu:2.0質量%以下
Cuは、組織を緻密にし、強度を向上させる元素であるが、Cu含有量が2.0%を超えると熱間加工性を低下させると共に、被削性も低下する。従って、Cu含有量は2.0質量%以下とする。
【0032】
Ni:4.0質量%以下
Niは、Crと同様に焼入れ性を向上させるために有効な元素であるが、Ni含有量が4.0質量%を超えるとコスト面において不利であり、また被削性も低下する。従って、Ni含有量は4.0質量%以下とする。
【0033】
B:0.0003乃至0.01質量%
Bは、焼入れ性を向上させるために含有させる元素であり、B含有量が0.0003質量%未満ではその効果が得られない。また、B含有量が0.01質量%を超えると結晶粒が粗大化すると共に、その熱間加工時に割れが多発する。従って、B含有量は0.0003乃至0.01質量%とする。
【0034】
Nb:0.2質量%以下
Nbは、高温における結晶粒の粗大化を防止するために有効な元素であるが、0.2質量%を超えて含有させてもその効果が飽和する。従って、Nb含有量は0.2質量%以下とする。
【0035】
Ta:0.5質量%以下
Taは、結晶粒を微細化し、靱性を向上させるのに有効な元素であるが、Ta含有量が0.5質量%を超えて含有させてもその効果が飽和する。従って、Ta含有量は0.5質量%以下とする。
【0036】
Zr:0.5質量%以下
Zrは、Taと類似した性質を有し、結晶粒を微細化し、靱性を向上させるために含有させる元素であるが、Zrを0.5質量%を超えて含有させてもその効果が飽和する。従って、Zr含有量は0.5%以下とする。
【0037】
Pb:0.0005質量%以下
Pbは、よく知られた被削性を向上させる元素であり、鋼中において単独又は硫化物外周に付着するような形態で存在し、それ自身が被削性を向上させる効果を有する。しかし、調質鋼の場合、切削温度が高くなり、かえって被削性を悪化させる。従って、Pb含有量は0.0005質量%以下とする。
【0038】
Bi:0.0005質量%以下
Biは、Pbと類似した性質を有し、よく知られた被削性を向上させる元素である。しかし、Pbと同様に調質鋼の場合、切削温度が高くなり、かえって被削性を悪化させる。従って、Bi含有量は0.0005質量%以下とする。
【0039】
Se:0.5質量%以下
Seは、よく知られた被削性を向上させる元素であるが、Se含有量が0.5質量%を超えると熱間加工性が低下して割れが多発する。従って、Se含有量は0.5質量%以下とする。
【0040】
Te:0.1質量%以下
Teは、よく知られた被削性を向上させる元素であるが、含有量が0.5質量%を超えると熱間加工性を低下して割れが多発するので、Te含有量は0.5質量%以下とする。
【0041】
また、本発明においては、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、その他の元素を含有することもできる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明の実施例に係る低合金工具鋼の特性について、比較例と比較して本発明の効果について具体的に説明する。
【0043】
先ず、10kgの原料を真空溶解炉にて溶製してインゴット得、そのインゴットを45mm×65mm角断面に鍛造した後、寸法が40mm×60mm×100mmの試験材を製作した。その後、この試験材を900乃至1050℃の温度に1時間加熱した後、油冷又は水冷により冷却して焼入れした。その後、200乃至450℃の温度で2時間の焼戻し処理をして、硬度を55±0.5HRCにした。試験材の組成を下記表1乃至13に示す。表1及び2は実施例1乃至10、表3及び4は実施例11乃至21、表5及び6は実施例22乃至35、表7乃至9は実施例36乃至47である。また、表10及び11は比較例48乃至58,表12及び13は比較例59乃至70である。これらの表において、表示した元素以外は、Fe及び不可避的不純物である。
【0044】
炭化物の測定は、研磨後にピクラール又はナイタール等で腐食した試験材を3000倍の倍率で写真撮影し、この写真を画像解析して0.07μm2以上の大きさの炭化物を調査した。その結果から、5500μm2の視野面積当たりの炭化物の総量(個数)を測定した。また、同一視野面積当たりの断面積が3μm2以上の炭化物の個数も測定した。断面積が3μm2以上の炭化物は表2、4、6、9、11及び13においては、「粗大炭化物」と表す。
【0045】
割れ試験は、寸法が50mm×50mm×100mmの試験材を800乃至1050℃の範囲の所定の温度で1時間加熱し、その後油冷した。次いで、この試験材を中央部で切断し、割れがあるか否かを目視で確認し、割れ性を3段階で評価した。評価は、割れがない場合を「割れなし」とし、1mm程度の割れがある場合を「多少割れる」とし、5mm以上の割れがある場合を「割れ発生」と判定した。
【0046】
切削試験は、上述のように55HRCに調質された寸法が40mm×60mm×100mmの試験材を直径が6mmのTiAlNコ−ティングした高速度工具(エンドミル)を使用して、潤滑油を使用せずにドライ加工した。このドライ加工の切削速度は20m/分、送り速度は125mm/分(0.06mm/刃)、切り込み量は9×0.6mmである。なお、この切り込み量は、試験材のコーナー部を、エンドミルの送り方向に垂直の断面において、深さ9mm、幅0.6mmで削りだしたものである。この切削条件でドライ加工を実施し、高速度工具が溶損するまでの期間を加工寿命とした。被削性は、SKS3の加工寿命を1として算出した値である。この結果を表2、4、6、9、11及び13に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
【表10】
【0057】
【表11】
【0058】
【表12】
【0059】
【表13】
【0060】
上記表2、4、6及び9に示すように、実施例No.1乃至47は被削性が極めて優れていると共に、割れ試験の結果も良好であった。
【0061】
また、上記表11に示すように、水素が0.00021質量%以上含有されている比較例No.48乃至58及び比較例No.64,65,67及び68においては、割れ試験において割れが検出された。更に、比較例No.59乃至63及び実施例No.1乃至47に示すように、水素を0.00020質量%以下に規制することにより、割れの発生を抑制することができた。
【0062】
比較例No.59乃至65に見られるように、S、Al、N、O、Mg、Nb及びTiのうち2種類又は3種類を規制することにより、比較例No.48乃至55(既存鋼SKS3、SKS4S)又は比較例No.56乃至58等に比べ、比較例No.59乃至65は2.0乃至10倍以上被削性を改善できる。これらの性能は、3μm2以上の粗大炭化物の個数を5個以下にし、更に炭化物の総数を300個以下にすることにより得られる。
【0063】
更に、S、Al、N、O、Mg、Nb及びTiの組成範囲を所定範囲にすると共に、介在物の清浄度をA系介在物で0.1乃至0.50%又はB+C系介在物を0.015%以下に制限をすることにより、比較例No.48(SKS3)に比べて98乃至140倍以上も被削性が良好になる。
【0064】
これらの効果は、焼き入れ温度を900℃以上の高温とすることにより、顕著となり、3μm2以上の粗大炭化物が0%となり、炭化物総数も50個以下となり、B+C系の介在物も0.009%以下にすることにより、比較例No.48(SKS3)の200倍以上の改善が可能となる。
【0065】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、組成を適切に規定し、炭化物の大きさ及び個数を適切に規定しているので、調質後の被削性が優れていると共に、割れの発生が防止された低合金工具鋼を得ることができる。
Claims (5)
- C:0.6乃至0.90質量%、Si:0.50乃至2.00質量%、Mn:0.50乃至2.00質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.030乃至0.150質量%、Cr:0.50乃至2.00質量%、Mo:0.20乃至0.70質量%、V:0.02乃至0.10質量%、Al:0.0002乃至0.0009質量%、Ti:0.0001乃至0.0035質量%、N:0.0010乃至0.0090質量%、O:0.0001乃至0.0020質量%、Mg:0.0001乃至0.0009質量%及びH:0.0002質量%以下を含有する鋼材であって、断面積が3μm 2 以上の炭化物が視野面積5500μm2当たり5個以下であり、炭化物の総量が視野面積5500μm2当たり300個以下であり、鋼材清浄度はA系の硫化物系介在物が0.1乃至0.5%であり、B+C系の酸化物系介在物が0.015%以下であることを特徴とする調質後の被削性が優れた低合金工具鋼。
- C:0.6乃至0.90質量%、Si:0.50乃至2.00質量%、Mn:0.50乃至2.00質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.030乃至0.150質量%、Cr:0.50乃至2.00質量%、Mo:0.20乃至0.70質量%、V:0.02乃至0.10質量%、Al:0.0002乃至0.0009質量%、Ti:0.0001乃至0.0035質量%、N:0.0010乃至0.0090質量%、O:0.0001乃至0.0020質量%、Mg:0.0001乃至0.0009質量%、Ca:0.0005乃至0.02質量%及びH:0.0002質量%以下を含有する鋼材であって、断面積が3μm 2 以上の炭化物が視野面積5500μm2当たり5個以下であり、炭化物の総量が視野面積5500μm2当たり300個以下であり、鋼材清浄度はA系の硫化物系介在物が0.1乃至0.5%であり、B+C系の酸化物系介在物が0.015%以下であることを特徴とする調質後の被削性が優れた低合金工具鋼。
- C:0.6乃至0.90質量%、Si:0.50乃至2.00質量%、Mn:0.50乃至2.00質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.030乃至0.150質量%、Cr:0.50乃至2.00質量%、Mo:0.20乃至0.70質量%、V:0.02乃至0.10質量%、Al:0.0002乃至0.0009質量%、Ti:0.0001乃至0.0035質量%、N:0.0010乃至0.0090質量%、O:0.0001乃至0.0020質量%、Mg:0.0001乃至0.0009質量%及びH:0.0002質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなると共に、断面積が3μm 2 以上の炭化物が視野面積5500μm2当たり5個以下であり、炭化物の総量が視野面積5500μm2当たり300個以下であり、鋼材清浄度はA系の硫化物系介在物が0.1乃至0.5%であり、B+C系の酸化物系介在物が0.015%以下であることを特徴とする調質後の被削性が優れた低合金工具鋼。
- C:0.6乃至0.90質量%、Si:0.50乃至2.00質量%、Mn:0.50乃至2.00質量%、P:0.001乃至0.030質量%、S:0.030乃至0.150質量%、Cr:0.50乃至2.00質量%、Mo:0.20乃至0.70質量%、V:0.02乃至0.10質量%、Al:0.0002乃至0.0009質量%、Ti:0.0001乃至0.0035質量%、N:0.0010乃至0.0090質量%、O:0.0001乃至0.0020質量%、Mg:0.0001乃至0.0009質量%、Ca:0.0005乃至0.02質量%及びH:0.0002質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなると共に、断面積が3μm 2 以上の炭化物が視野面積5500μm2当たり5個以下であり、炭化物の総量が視野面積5500μm2当たり300個以下であり、鋼材清浄度はA系の硫化物系介在物が0.1乃至0.5%であり、B+C系の酸化物系介在物が0.015%以下であることを特徴とする調質後の被削性が優れた低合金工具鋼。
- AlとNとの含有量(質量%)の積Al×Nを0.000010以下とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の調質後の被削性が優れた低合金工具鋼。
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