JP3557823B2 - 中空重合体粒子、その水性分散液およびそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は中空重合体粒子およびその水性分散液、ならびにそれらの製造方法に関する。さらに詳しくは、比較的大きな空隙率を有する中空重合体粒子およびその水性分散液、ならびにそのような中空重合体粒子およびその水性分散液を工業的有利に製造する方法に関する。
本発明の中空重合体粒子は有機顔料、断熱材、不透明化剤などとして水系塗料、紙塗被物などの分野で用いられる。
【0002】
【従来の技術】
従来より、中空重合体粒子を含有する水性分散液は、水系塗料または紙塗被組成物などの用途に使用されている。すなわち、中空重合体粒子は、粒子中に密実均一に重合体が充填された重合体粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くするので、隠蔽剤や不透明度、白色度などの光学的性質に優れた有機顔料として水系塗料、紙塗被組成物などの用途で汎用されている。
【0003】
ところで、水系塗料、紙塗被組成物などの用途においては、塗料や紙塗被組成物などの軽量化および中空重合体粒子による断熱化、不透明化などの効果の向上のために、配合する中空重合体粒子の空隙率を高めることが望まれている。しかしながら、従来知られている中空重合体粒子の製造方法では、空隙率の大きい中空重合体粒子を安定して製造することは困難であった。
【0004】
例えば、特開平6−248012号公報には、多割合のカルボキシル基含有単量体を含む単量体混合物を共重合してなる芯重合体、少割合のカルボキシル基含有単量体を含む単量体混合物を共重合してなる中間層重合体およびカルボキシル基を含まない重合体を含有してなる外層重合体からなる少なくとも3層構造を有する重合体粒子の水性分散液に塩基を加え、さらに酸を加えることからなる、空隙率が大きく、殻厚が比較的薄い中空重合体粒子の製造方法が記載されている。
【0005】
上記特開平6−248012号公報に記載される方法では、表面層を形成するための重合時に表面層形成用単量体が芯層、中間層に侵入して表面層の酸濃度が高くなり、塩基処理時にこの酸含有重合体が容易に溶出するため、重合体粒子中にボイドが形成されなかったりする可能性があった。これを防ぐには外層をある程度厚くする必要があり、この結果、アルカリ処理の時間を長くとる必要が生じ、生産性が必ずしもよいとはいえなかった。加えて、重合時の安定性も、必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
特開昭61−185505号公報には、多割合のカルボキシル基含有単量体を含む単量体混合物を共重合してなる芯重合体と、少割合のカルボキシル基含有単量体を含む単量体混合物を共重合してなる、少なくとも1%のカルボキシル基を含むかまたは溶媒で膨潤する外層重合体からなる2層構造重合体粒子のラテックスを非揮発性塩基で処理することからなる中空重合体粒子の製造方法が記載されている。この方法によって得られる中空重合体粒子は不透明度が十分高いとはいえず、その不透明化剤としての用途が著しく制約される。さらに、この方法においても、特に、中空重合体粒子の空隙率を高めるために、外層重合体の厚さを薄くすると、酸を含む重合体が外層の外側に移動して表面層の酸濃度が高くなり、塩基処理時にこの酸含有重合体が溶け出し易く、重合体粒子中にボイドが形成されない場合がある。
【0007】
特開平1−48805号公報には、カルボキシル基含有単量体を10重量%以上含む単量体混合物を共重合してなる芯重合体と、カルボキシル基含有単量体を含まず、芳香族系単量体25モル%以上を含む単量体混合物を共重合してなる外層重合体からなる2層構造重合体粒子の水性ラテックスを非揮発性塩基で処理することからなる中空重合体粒子の製造方法が記載されている。
【0008】
上記特開平1−48805号公報に記載される方法では、外層重合体形成の段階で、外層形成用単量体のみからなる新重合体粒子が生成することが多く、目的とする2層構造重合体粒子が形成され難く、その結果、中空粒子が得難いという問題がある。また、芯層重合体が極性のない芳香族単量体を含有する外層重合体の表面層に移動してくるためか、塩基処理時に重合体が溶解して、重合体粒子内にボイドが形成されないことが多い。さらに、凝集物が多量に生成するなど、重合時の安定性にも問題があった。
【0009】
特開平1−201313号公報には、カルボキシル基含有単量体を含む単量体混合物を共重合してなる芯重合体と、カルボキシル基含有単量体を含まず、非イオン性モノエチレン系不飽和脂肪族単量体、エステル含有不飽和単量体および0〜25モル%の芳香族単量体からなる単量体混合物を共重合してなる外層重合体からなる2層構造重合体粒子のラテックスを非揮発性塩基で処理することからなる中空重合体粒子の製造方法が記載されている。この方法によれば、重合時の安定性は、若干改良されるものの十分ではなく、塩基処理時に重合体が溶解され易く、ボイドの形成が不十分である。従って、中空重合体粒子を形成することができても、ボイド径が小さく、その不透明化効果は十分ではない。
【0010】
特開平4−224803号公報には、カルボキシル基含有単量体を含む単量体混合物を共重合してなる芯重合体と、芳香族単量体と15モル%以上の極性単量体との単量体混合物を共重合してなる中間層重合体と、水に対する溶解度1%未満の非イオン性単量体の外層重合体からなる3層構造重合体粒子のラテックスを非揮発性塩基で処理することからなる中空重合体粒子の製造方法が記載されている。この方法においても、やはり、重合時の安定性が十分ではなく、また、塩基処理時の安定性も乏しく、中空重合体粒子が安定的に形成されないという問題がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような従来の技術に鑑み、比較的大きな空隙率を有し、殻厚が薄く、不透明度が高い中空重合体粒子であって、特にボイド形成のための塩基処理時に、凝集物を生成することがなく、また塩基の浸透性がよく、安定して製造することができる中空重合体粒子およびその水性分散液を提供することにある。
本発明の他の目的は、そのような中空重合体粒子およびその水性分散液を安定して形成することができ、工業的有利に製造することができる方法を提供するにある。
【0012】
発明者らは、酸性基含有単量体単位を比較的多量に含む共重合体からなる芯重合体、酸性基含有単量体単位を極く少量含む共重合体からなる中間層重合体および酸性基含有単量体単位を極く少量含む芳香族ビニル単量体の共重合体でできた外層重合体からなる少なくとも3層構造を有する重合体粒子の水性分散液を塩基で処理することによって上記目的が達成されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
【課題を解決するための手段】
かくして、本発明によれば、(1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な単量体80〜40重量%とを共重合してなる芯重合体、
(2)酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な単量体99.9〜99.3重量%とを共重合することによって形成された、実質的に上記芯重合体を包囲する少なくとも1層の中間層重合体、
(3)酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な芳香族ビニル単量体99.9〜99.3重量%とを共重合することによって形成された、実質的に上記中間層重合体を包囲する外層重合体
からなる少なくとも3層構造を有し、かつ、芯重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有することを特徴とする中空重合体粒子が提供される。
【0014】
本発明によれば、他の一面において、上記のような特徴を有する中空重合体粒子の水性分散液が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、(1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な単量体80〜40重量%との単量体混合物を共重合することによって芯重合体粒子を調製し、
(2)上記芯重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な単量体99.9〜99.3重量%からなる単量体混合物を共重合することによって、実質的に該芯重合体粒子を包囲する少なくとも1層の中間層重合体を形成し、
(3)上記芯重合体粒子を包囲する中間層重合体が形成された重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な芳香族ビニル単量体99.9〜99.3重量%とからなる単量体混合物を共重合することによって、実質的に上記中間層重合体を包囲する外層重合体を形成し、
(4)得られた少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に塩基を添加して該分散液のpHを7以上とする、
上記(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする中空重合体粒子の製造方法が提供される。
【0016】
さらに、本発明によれば、他の一面において、上記の(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする中空重合体粒子の水性分散液の製造方法が提供される。
【0017】
【発明の実施形態】
本発明の中空重合体粒子は、芯重合体、中間層重合体および外層重合体からなる少なくとも3層構造を有するか、または、これらに加えて、最外層重合体を有する少なくとも4層構造を有し、かつ、芯重合体に比較的多量に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有する。
【0018】
芯重合体
芯重合体は、酸性基含有単量体20〜60重量%、好ましくは30〜55重量%およびこれと共重合可能な単量体80〜40重量%、好ましくは70〜45重量%とを共重合して得られる。酸性基含有単量体の量が過小であると、塩基処理工程において重合体粒子中に塩基が浸透し難くなり、重合体粒子中にボイドの形成が困難となる。また、その量が過大であると、芯重合体が中間層重合体や外層重合体の外側へ移動し易くなり、重合の安定性が損われる。
【0019】
本発明で使用する酸性基含有単量体は酸性を示す官能基を有する単量体であって、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸;イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルなどのカルボキシル基含有単量体、ならびにスチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体などを挙げることができる。これらの酸性基含有単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。過度に親水性が強い酸では酸性基が重合体粒子の外側に局在し易く、中間層重合体による芯重合体の被覆が困難となったり、重合体粒子内のボイドの形成が困難になる。
酸性基含有単量体の中でもモノカルボン酸およびジカルボン酸のモノエステルが好ましく用いられる。これらの中でもメタクリル酸が最も好ましい。
【0020】
共重合体の形成に使用する酸性基含有単量体と共重合可能な酸性基を含有しない単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ハロゲン化スチレンなどの芳香族ビニル単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体;ブタジエン、イソプレンなどのジエン系単量体;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン;ビニルピリジンなどを挙げることができる。これらの単量体の中でも(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。これらの単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
また、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの架橋性単量体を必要に応じて使用することができる。但し、架橋性単量体を多量に使用するとボイド形成が困難になるので、その量は安定なボイド形成が維持できる範囲にとどめるべきである。
【0022】
芯重合体を形成する重合方法としては、通常、乳化重合法が採られる。ただし、他の重合法によって得られた重合体を転相法によってラテックスとしてもよい。重合方式としては、回分式、半連続式、連続式などのいずれの方式を採用してもよい。重合温度も、低温、高温のいずれでもよい。重合圧力、重合時間も格別限定されることなく、公知の条件が採られる。また、重合用副資材としては、公知のもの、例えば、各種乳化剤、重合開始剤、キレート剤、電解質、分子量調整剤、界面活性剤などの各種添加剤を使用することができる。また、芯重合体の形成はシードを用いて重合を行うことが望ましい。シードを使用すれば生成する重合体粒子の径を制御することが容易となる。シードの組成は格別限定されない。重合反応における単量体の転化率は通常90重量%以上、好ましくは97重量%以上であり、生成する共重合体の組成は使用した単量体混合物の組成とほぼ同じである。
【0023】
芯重合体における酸性基含有単量体単位の半径方向の分布は、特に限定されない。単量体混合物の組成を逐次変化させて重合反応系に添加しながら共重合を行うことができるが、このような重合方法によって、芯重合体粒子中に酸性基含有単量体単位の含有量に半径方向の分布を生じる場合には、酸性基含有単量体単位の最も少ない部分が、該部分を形成する全単量体単位に対して酸性基含有単量体単位を10重量%以上、好ましくは15重量%以上含有することが好ましい。この割合が10重量%未満では、中空重合体粒子のボイドの中に小粒子が生成し、空隙率が低くなることがある。
【0024】
中間層重合体
中間層重合体は、実質的に芯重合体を包み込むものであり、芯重合体と表面層重合体に挟まれているものである。中間層重合体は、芯重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%およびこれと共重合可能な単量体99.9〜99.3重量%、好ましくは99.8〜99.5重量%との2種以上の単量体混合物を共重合することにより芯重合体の外周に形成される。なお、中間層は単一の重合体層で形成されていてもよく、または、複数の重合体層で形成されていてもよい。複数の重合体層で形成される場合、それぞれの層が上記組成に関する要件を満足する限り、それぞれの重合体層の組成は格別限定されるものではない。
【0025】
中間層重合体形成用単量体混合物中に酸性基含有単量体が含まれないか、または、その割合が0.1重量%未満では、塩基処理時に重合体が膨潤し難く、得られる中空体粒子の殻厚が厚くなり、また、塩基処理時の安定性が低下する。
逆に、中間層重合体中の酸性基含有単量体単位の量が0.7重量%を超えると、芯層重合体が外表面に向って移動し、塩基処理時に重合体が溶解され易くなり、得られる中空重合体粒子の粒径が小さくなる。
【0026】
中間層重合体の形成に用いる酸性基含有単量体の具体例としては芯重合体の形成に用いる酸性基含有単量体として例示したものと同様な単量体を挙げることができ、また、これと共重合可能な単量体の具体例としては、同様に芯重合体の形成に用いる共重合可能な単量体として例示したものと同様な単量体を挙げることができる。
【0027】
芯重合体と中間層重合体との重量比(芯/中間層)は、通常1/99〜50/50、好ましくは5/95〜40/60、より好ましくは10/90〜30/70の範囲である。中間層重合体の量が過大であると、塩基処理時に塩基が浸透し難く、重合体粒子中のボイド形成が困難となる。また、中間層重合体の量が過小であると重合時または塩基処理時に芯重合体が外層重合体の外側に移動して、やはりボイド形成が困難となる。
中間層重合体を形成するための重合方法としては、通常は乳化重合法が採用され、また、回分式、連続式、半連続式などいずれの方式も採用でき、また、重合条件および重合用副資材については芯重合体の場合と同様に公知の条件および資材を使用することができる。
【0028】
外層重合体
外層重合体は、芯重合体と中間層重合体とからなる重合体粒子の外周に形成され、これら芯/中間層重合体を実質的に包み込むものである。必要に応じて、外層重合体のさらに外周に最外層重合体を形成することができるが、この場合には、外層重合体は中間層重合体と最外層重合体との間に介在することになる。
本発明の中空重合体粒子を構成する外層重合体は、芯重合体の外周に中間層重合体が形成された重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%と芳香族ビニル単量体99.9〜99.3重量%、好ましくは99.8〜99.5重量%とからなる単量体混合物を重合することによって形成される。
【0029】
外層重合体の形成に用いる単量体は、極く少割合の酸性基含有単量体と極めて多割合の芳香族ビニル単量体を含む単量体混合物であるが、酸性基含有単量体の量が0.7重量%を越えると、塩基処理時に内部の芯層重合体が重合反応系内に溶けだし易く、得られる中空重合体粒子の不透明化効果が低下する。逆に、外層重合体中に酸性基含有単量体が含まれないか、または、その量が0.1重量%未満であると、塩基処理時の安定性が不十分となり、凝集物が発生する恐れがある。
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンおよびハロゲン化スチレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレンが最も好ましい。
【0030】
芳香族ビニル単量体と共重合される酸性基含有単量体としては、芯重合体形成用単量体として例示した酸性基含有単量体を挙げることができる。
【0031】
芯重合体と中間層重合体とからなる重合体粒子と外層重合体との重量比〔(芯重合体+中間層重合体)/外層重合体〕は、通常30/70〜80/20、好ましくは40/60〜75/25の範囲である。外層重合体の量が過大であると塩基処理時に塩基が浸透し難く、重合体粒子中にボイドの形成が困難となる。逆に、外層重合体の量が過小であると、重合時または塩基処理時に芯重合体が外層重合体の外側に移動して、やはりボイドの形成が困難となる。
外層重合体を形成するための重合方法としては、中間層重合体の場合と同様に、通常、乳化重合法が採用され、また、重合方式、重合条件、重合用副資材についても同様に公知のものが採られる。
【0032】
塩基処理
芯重合体、中間層重合体および外層重合体からなる少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有するラテックスなどの水性分散液に塩基を添加して水性分散液のpHを7以上とすることによって、重合体粒子内に少なくとも一つのボイドが形成される(ボイドは水性分散液を形成する水性液で充満している)。
【0033】
使用される塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなどのアルカリ金属(重)炭酸塩;炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムなどの(重)炭酸アンモニウム塩;などを挙げることができる。これらの中でも、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。使用する塩基の量は、前記重合体粒子中の酸性基の少なくとも一部を中和して、重合体粒子を含有する水性分散液のpHを7以上とする量である。
【0034】
塩基を水性分散液に添加して、重合体粒子内部の酸性基を中和させるためには、塩基が重合体粒子内部に拡散する時間が必要であり、従って、塩基を添加した後、時間をかけて攪拌を十分に行うことが望ましい。塩基処理における処理温度は、重合体粒子を十分に軟化させうる温度以上が好ましい。塩基添加後の処理時間は、通常15分〜60分程度である。
塩基の添加により水性分散液の安定性が低下することがあるが、これを防ぐために、塩基を添加する前に、アニオン界面活性剤や非イオン界面活性剤を単独または併用して添加してもよい。
【0035】
塩基処理工程において、特開平3−26724号公報に開示されている方法に準じて、有機溶剤の存在下に塩基を添加してもよい。有機溶剤の使用によって重合体粒子が軟化し、塩基の拡散が促進される。有機溶剤としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール類、エーテル類、ケトン類、飽和カルボン酸エステル類などが挙げられる。有機溶剤は、前記重合体粒子を製造する際に仕込んだ全単量体混合物100重量部に対して、通常0.1〜1000重量部の範囲で使用する。使用した有機溶剤は、塩基処理の後、蒸発させて除去することができる。
【0036】
塩基処理工程において、有機溶剤のかわりに、重合性単量体を存在させてもよい。重合性単量体としては、通常、酸性基を含まない単量体を使用する。重合性単量体は、前記重合体粒子を製造する際に仕込んだ全単量体混合物100重量部に対して、通常1〜20重量部、好ましくは2〜10重量部の範囲で使用する。
【0037】
酸処理
塩基処理した重合体ラテックスは、所望により、酸で処理してラテックスのpHを7未満にすることができる。酸で処理することによって粒子径、ボイド径を大きくすることができる。
酸処理に使用される酸は、特に限定されず、その具体例としては、塩酸、硫酸などの鉱酸;酢酸、マロン酸などの有機酸を挙げることができる。酸処理工程において、酸として酸性基含有単量体を使用することができる。酸として酸性基含有単量体を使用する場合には、芯重合体、中間層重合体および外層重合体の合成に使用した単量体合計100重量部に対して、通常0.01〜40重量部、好ましくは0.05〜20重量部、さらに好ましくは0.2〜10重量部の範囲で使用する。
【0038】
また、酸処理工程において、酸性基含有単量体と共に、これと共重合可能な単量体を共存させてもよい。酸性基含有単量体と共重合可能な単量体を使用する場合には、酸性基含有単量体は、最外層用単量体合計100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部の範囲で使用する。酸性基含有単量体および共重合可能な単量体の具体例としては芯重合体について例示したものと同様な単量体が挙げられる。
酸処理工程における処理温度、処理時間などは、塩基処理の条件とほぼ同様である。酸の添加により水性分散液の安定性が低下することがあるが、これを防ぐために、酸を添加する前に、アニオン界面活性剤や非イオン界面活性剤を単独または併用して添加してもよい。
【0039】
最外層重合体
塩基処理の後、またはさらに酸処理を行った後、所望により、重合体粒子の存在下に芳香族ビニル単量体または芳香族ビニル単量体90重量%以上およびこれと共重合可能な単量体10重量%以下とからなる単量体混合物を重合することによって外層重合体の外周に最外層重合体を形成することができる。芳香族ビニル単量体またはそれを主成分とする単量体混合物を重合することによってガラス転移温度(Tg)の高い最外層重合体が形成され、得られる中空重合体粒子の不透明化効果が向上するとともに、粒子同士の融着も防止される。
【0040】
最外層重合体形成用単量体は、前述のように、塩基処理工程において重合体粒子中への塩基の拡散を促進するために、塩基処理する重合体の水性分散液中に添加することができる。また、芳香族ビニル単量体に併用する共重合可能な単量体として、酸性基含有単量体を用いることができる。この酸性基含有単量体は、前記酸処理工程で説明したように酸処理を目的として重合体の水性分散液に添加することができる。芳香族ビニル単量体に酸性基含有単量体を併用すると、中空重合体粒子の空隙率が向上するので好ましい。
【0041】
最外層重合体形成用単量体混合物中の芳香族ビニル単量体の量が90重量%未満であると不透明化効果が不十分となり、使用する単量体の種類によっては粒子同士の融着も起り易くなる。
芯重合体、中間層重合体および外層重合体からなる重合体粒子と最外層重合体との重量比〔(芯重合体+中間層重合体+外層重合体)/最外層重合体〕は、通常100/10〜50/100、好ましくは100/25〜100/100である。
【0042】
所望ならば、最外層重合体形成用単量体混合物の一部として、少割合の架橋性単量体を用いることができる。
最外層重合体を形成するための重合方法としては、他の層の場合と同様に、通常、乳化重合法が採用され、また、重合条件、重合用副資材についても同様に公知のものが採用される。
【0043】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部および%は、特に断りのない限り重量基準である。また、重合はすべて不活性ガスである窒素雰囲気下で行った。中空重合体粒子の平均粒径およびボイド径は、透過型電子顕微鏡で中空重合体粒子を観察して測定し、20個の平均値として求めた。
【0044】
実施例1
単量体混合物
メチルメタクリレート(MMA)40%、ブチルアクリレート(BA)10%およびメタクリル酸(MAA)50%からなる、芯重合体形成用の単量体混合物(a)6部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、DBS)0.03部およびイオン交換水48部を攪拌下に混合してエマルジョン(イ)を調製した。別に、MMA78%、BA21.5%およびMAA0.5%からなる中間層重合体形成用の単量体混合物(b)25部、DBS0.075部およびイオン交換水35部を攪拌下に混合してエマルジョン(ロ)を調製した。さらに、外層重合体形成用および最外層重合体形成用単量体としてスチレン99.5%およびMAA0.5%からなる単量体混合物(c)75部、DBS0.075部およびイオン交換水33部を攪拌下に混合してエマルジョン(ハ)を調製した。
【0045】
重合体粒子の製造
攪拌装置、還流冷却管、温度計、分液ロートを取りつけた反応器に、イオン交換水17部、粒子径35nm、固形分濃度12%のアクリル系シードラテックス(固形分換算)0.06重量部を仕込み、80℃まで昇温した。次いで、過硫酸カリウム(KPS)3%水溶液1部を分液ロートより添加し、エマルジョン(イ)を4時間かけて連続的に添加し、その後さらに1時間重合して芯重合体を形成した。単量体混合物(a)の転化率は99%であった。
【0046】
次いで、イオン交換水256部、KPS3%水溶液3.5部を添加した後、エマルジョン(ロ)を上記反応器に2時間かけて連続的に添加した。添加後、さらに2時間重合して中間層重合体を形成した。単量体混合物(b)の転化率は99%であった。
さらに、85℃に昇温し、KPS3%水溶液3.5部を添加した後、エマルジョン(ハ)の半量を上記反応器に1.5時間かけて連続的に添加した。添加後、さらに1時間重合して外層重合体を形成した後重合体粒子を含有するラテックスを得た。単量体混合物(c)の転化率は99%であった。
【0047】
中空重合体粒子の製造
上記で得られた重合体粒子を含有するラテックスに、水酸化ナトリウム10%水溶液10部を分液ロートから添加し、その後、30分間、85℃に加熱を続けて塩基処理を行った。この段階でラテックスの一部を採取し、室温にてpHを測定したところ7.2であった。塩基処理時に凝集物の発生は認められなかった。次いで、KPS3%水溶液33部を添加し、次いでエマルジョン(ハ)の残量を1.5時間かけて連続的に添加し、その後さらに2時間重合し、最外層重合体を形成した。この最終段階での重合転化率は99%であった。透過型電子顕微鏡(TEM)により、得られた中空重合体粒子の粒子径およびボイド径を観察し、測定した(写真測定)。結果を表1に示す。
【0048】
実施例2、3、比較例1、2
重合体粒子を形成する各層に使用する単量体混合物の組成および量を表1に示すようにかえた他は、実施例1と同様にして重合体粒子を含有するラテックスを得た。得られた重合体粒子の特性を評価した結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表中の略号は下記のとおり。
【0051】
表1から明らかなように、本発明によれば比較的大きな空隙率を有し、殻厚の薄い中空重合体粒子を安定して得ることができる。特に、塩基処理時に凝集物を生成することがない。これとは対照的に、中間層重合体と外層重合体をともに、酸性基含有単量体を用いずに形成すると、塩基処理時に凝集物の発生がみられ、また、塩基の浸透性が悪く、ボイドが形成されない(比較例1)。中間層重合体および外層重合体を、ともに比較的多量の酸性基含有単量体を含む単量体混合物から形成すると、重合安定性も悪く、得られる中空重合体粒子の粒径が小さく、また、中空率も低い(比較例2)。逆に、中間層重合体を酸性基含有単量体を比較的多量に含む単量体混合物から形成し、かつ、外層重合体を酸性基含有単量体を含まない単量体混合物から形成すると、塩基処理時に凝集物の発生がみられ、また、得られる中空重合体粒子の中空率が低くなる(比較例3)。
【0052】
【発明の効果】
本発明の中空重合体粒子は、比較的大きな空隙率を有し、ボイドを包む殻厚の薄い中空重合体粒子であって、特にボイド形成のための塩基処理時に、凝集物を生成することがなく、また塩基の浸透性がよく、安定して製造することができるという利点を有する。
【0053】
(発明の好ましい実施態様)
本発明に係る中空重合体粒子、すなわち、(1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な単量体80〜40重量%とを共重合してなる芯重合体、
(2)酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な単量体99.9〜99.3重量%とを共重合することによって形成された、実質的に上記芯重合体を包囲する少なくとも1層の中間層重合体、
(3)酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な芳香族ビニル単量体99.9〜99.3重量%とを共重合することによって形成された、実質的に上記中間層重合体を包囲する外層重合体
からなる少なくとも3層構造を有し、かつ、芯重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有することを特徴とする中空重合体粒子;および、そのような中空重合体粒子の水性分散液の好ましい実施態様;ならびに
【0054】
本発明に係る中空重合体粒子の製造方法、すなわち、(1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な単量体80〜40重量%との単量体混合物を共重合することによって芯重合体粒子を調製し、
(2)上記芯重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な単量体99.9〜99.3重量%からなる単量体混合物を共重合することによって、実質的に該芯重合体粒子を包囲する少なくとも1層の中間層重合体を形成し、
(3)上記芯重合体粒子を包囲する中間層重合体が形成された重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な芳香族ビニル単量体99.9〜99.3重量%とからなる単量体混合物を共重合することによって、実質的に上記中間層重合体を包囲する外層重合体を形成し、
(4)得られた少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に塩基を添加して該分散液のpHを7以上とする、
上記(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする中空重合体粒子の製造方法;および、上記(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする中空重合体粒子の水性分散液の製造方法の好ましい実施態様をまとめると以下のとおりである。
【0055】
(1)芯重合体は、酸性基含有単量体30〜55重量%およびこれと共重合可能な単量体70〜45重量%とを共重合してなるものである。
(2)中間層重合体は、酸性基含有単量体0.2〜0.5重量%およびこれと共重合可能な単量体99.8〜99.5重量%とを共重合してなるものである。
(3)外層重合体は、酸性基含有単量体0.2〜0.5重量%およびこれと共重合可能な芳香族ビニル単量体99.8〜99.5重量%とを共重合してなるものである。
【0056】
(4)芯重合体、中間層重合体および外層重合体の形成に用いる酸性基含有単量体がカルボキシル基含有単量体、より好ましくは、モノカルボン酸またはジカルボン酸のモノエステルである。
(5)芯重合体および中間層重合体の形成に用いる、酸性基含有単量体と共重合可能な単量体が芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体、ジエン系単量体、カルボン酸ビニルエステル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、ビニルピリジンの中から選ばれ、より好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルの中から選ばれる。
【0057】
(6)外層重合体の形成に用いる芳香族ビニル単量体がスチレンである。
(7)芯重合体と中間層重合体との重量比(芯/中間層)は、1/99〜50/50、好ましくは5/95〜50/50、さらに好ましくは10/90〜40/60の範囲である。
【0058】
(8)芯重合体と中間層重合体とからなる重合体粒子と外層重合体との重量比〔(芯重合体+中間層重合体)/外層重合体〕は30/70〜80/20、より好ましくは40/60〜75/25の範囲である。
(9)少なくとも3層構造を有する重合体粒子の水性分散液に添加する塩基がアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩および重炭酸塩、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムの中から選ばれ、より好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物である。
【0059】
(10)重合体粒子含有水性分散液に塩基を添加する処理を、有機溶剤または酸性基を含まない単量体の共存下に行う。
(11)重合体粒子含有水性分散液に塩基を添加してpHを7以上とする処理を行った後、酸で処理してpHを7未満とする。
(12)芯重合体、中間層重合体および外層重合体とからなる重合体粒子と最外層重合体との重量比〔(芯+中間層+外層)/最外層〕が100/10〜50/100、より好ましくは100/25〜100/100の範囲である。
Claims (4)
- (1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な単量体80〜40重量%とを共重合してなる芯重合体、
(2)酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な単量体99.9〜99.3重量%とを共重合することによって形成された、実質的に上記芯重合体を包囲する少なくとも1層の中間層重合体、
(3)酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な芳香族ビニル単量体99.9〜99.3重量%とを共重合することによって形成された、実質的に上記中間層重合体を包囲する外層重合体
からなる少なくとも3層構造を有し、かつ、芯重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有することを特徴とする中空重合体粒子。 - 請求項1記載の中空重合体粒子の水性分散液。
- (1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な単量体80〜40重量%との単量体混合物を共重合することによって芯重合体粒子を調製し、
(2)上記芯重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な単量体99.9〜99.3重量%からなる単量体混合物を共重合することによって、実質的に該芯重合体粒子を包囲する少なくとも1層の中間層重合体を形成し、
(3)上記芯重合体粒子を包囲する中間層重合体が形成された重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0.1〜0.7重量%およびこれと共重合可能な芳香族ビニル単量体99.9〜99.3重量%とからなる単量体混合物を共重合することによって、実質的に上記中間層重合体を包囲する外層重合体を形成し、
(4)得られた少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に塩基を添加して該分散液のpHを7以上とする、
上記(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする中空重合体粒子の製造方法。 - 請求項3記載の(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする中空重合体粒子の水性分散液の製造方法。
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