JP3555656B2 - ゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、柔軟かつ高い反発弾性を備え、強靭で十分な耐屈曲疲労性と引裂強さを有し、しかも溶融時の流動性が良好なため射出成形に適し、成形後の層状剥離の起こりにくいゴルフボール用樹脂組成物及び該ゴルフボール用樹脂組成物を使用して形成され、飛距離・フィーリング・耐久性に優れたゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリブチレンテレフタレート単位のような結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位及び/又はポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位をソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体は、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、高温特性に優れ、更に熱可塑性で成形加工が容易であることから、例えば、特開平7−24084号公報に開示されているように、ゴルフボール用樹脂として注目されてきた。
【0003】
このように、優れた物性を有するポリエステルブロック共重合体であるが、高硬度になるほど反発弾性率や強度、耐衝撃性などの機械的性質や低温特性が低下するという性質があり、上記材料を用いたゴルフボールの飛距離を改良するためにも更なる物性の向上が求められている。
【0004】
一方、α−オレフィンと、α,β−不飽和カルボン酸の共重合体を1〜3価の金属イオンで中和したアイオノマー樹脂は、熱可塑性で成形加工が容易である。また、極めて強靭で、特に高速で大きな変形を与えられた際にも破断しにくい。この性能は、ゴルフボールの耐擦過傷性、繰返し打撃による耐久性向上に非常に有利である。このような性能を有するアイオノマー樹脂は、ゴルフボールのカバー材料として長年使用されている。
【0005】
しかしながら、この材料には柔軟性が不足していて硬い感触がある。
【0006】
そこで、α−オレフィンと、α,β−不飽和カルボン酸と、α,β−不飽和カルボン酸エステルの共重合体を1〜3価の金属イオンで中和し、柔軟化したアイオノマー樹脂をゴルフボール用樹脂組成物として用いる提案もなされている。
【0007】
しかしながら、このような柔軟化したアイオノマー樹脂は、反発弾性、低温特性が劣るため、更なる改良が求められている。
【0008】
一方、ポリエステルブロック共重合体とアイオノマー樹脂を混合することによって、両者の欠点を補い合った樹脂組成物を用いたゴルフボールの製造が試みられている。例えば、特開昭56−83367号公報や特開昭62−275480号公報には、ポリエステルブロック共重合体とアイオノマー樹脂を混合した樹脂組成物を用いたゴルフボールが提案されている。これによれば、柔軟で反発性に優れるポリエステルブロック共重合体と、柔軟性に欠けるが、極めて強靭で、反発弾性に優れたアイオノマー樹脂が混合されているので、両者の良い性能が生かされ、特に反発性能の改良に有効である。
【0009】
しかし、ポリエステルブロック共重合体とアイオノマー樹脂とは、それほど相溶性に優れた組合せではないため、提案された上記のゴルフボール材料は、不均一なモルフォロジーをしており、射出成形によって樹脂が配向しやすいために、層状剥離が生じ易かったり、繰返し打撃による耐久性が不十分であるという問題を有する。
【0010】
そこで、このような樹脂組成物を更に改良する試みがなされている。例えば、WO92/12206号公報には、ポリエステルブロック共重合体とアイオノマー樹脂とエポキシ含有化合物とを含む樹脂組成物がゴルフボールコア材として提案されており、特開平9−176429号公報には、ポリエステルブロック共重合体とアイオノマー樹脂とエポキシ化ジエン系ブロック共重合体からなる樹脂組成物を用いたゴルフボールが提案されている。
【0011】
上記2つの公報に開示された樹脂組成物は、確かにポリエステルブロック共重合体とアイオノマー樹脂の相溶性を改良することによって、層状剥離が改善され、柔軟性と反発弾性に優れたゴルフボール用樹脂組成物になり得る。しかし、これらのようなエポキシ基含有共重合体を配合すると、樹脂組成物の溶融粘度が上昇して高粘度になってしまい、押出成形やブロー成形には有利であっても、射出成形には不向きな材料となることが多く、ゴルフボールの成形に不利なものである。
【0012】
一方、特開平10−147690号公報には、ポリエステル系樹脂と付加重合系ブロック共重合体とポリエステル系ブロック共重合体とアイオノマー樹脂とからなる熱可塑性重合体組成物が開示されており、ゴルフボールカバー材の提案もされている。
【0013】
しかしながら、ここに開示された熱可塑性重合体組成物は、引張強度や曲げ強度の高い材料ではあるが、曲げ弾性率が極めて高い硬い素材であって、ゴムのように柔軟性と高い反発弾性を備えた素材ではない。また、ゴルフボールカバー材料として十分な打撃耐久性を備えたものではないために、上記求められているゴルフボール材料とはかけ離れた素材である。
【0014】
また、特開平11−342229号公報には、アイオノマー樹脂と、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、スチレン系ブロック共重合体を配合してなるゴルフボール用熱可塑性組成物が開示されている。
【0015】
ここに提案されたゴルフボール用熱可塑性組成物は、確かに柔軟性と反発性とが共に優れるものではあるが、やはり、ゴルフボールカバー材料として十分な打撃耐久性を備えたものではない。
【0016】
以上のように、柔軟かつ高い反発弾性を備え、強靱で十分な耐屈曲疲労性と引裂強さを有し、しかも溶融時の流動性が良好で射出成形に適し、層状剥離のないゴルフボール用樹脂組成物は見出されていないのが現状である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、柔軟かつ高い反発弾性を備え、強靭で十分な耐屈曲疲労性と引裂強さを有し、しかも溶融時の流動性が良好なため射出成形に適し、成形後の層状剥離の起こりにくいゴルフボール用樹脂組成物及び該ゴルフボール用樹脂組成物を使用して形成され、飛距離・フィーリング・耐久性に優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために、従来技術のポリエステルブロック共重合体とアイオノマー樹脂の両者の欠点を補い合って、破断強さや衝撃強さなどが高く、適度な柔軟性と高い反発弾性などのゴム的な性質を有し、特に耐屈曲疲労性などの耐久性と引裂強さに優れ、しかも溶融粘度が低く、射出成形性が良好で、層状剥離のないゴルフボール用熱可塑性樹脂組成物を得るべく検討した結果、下記(A)ポリエステルブロック共重合体と、(B)アイオノマー樹脂と、(C)コポリマーとを特定量配合することにより得られる樹脂組成物は、柔軟かつ高い反発弾性を備え、強靭で十分な耐屈曲疲労性と引裂強さを有し、しかも溶融時の流動性が良好なため射出成形に適し、成形後の層状剥離の起こりにくい材料になることを知見した。
(A)(a1)結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメントと、(a2)脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントとを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体 5〜95質量%、
(B)(b1)α−オレフィンと、(b2)炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸とを主たる構成成分とする共重合体を、(b3)1〜3価の金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンで中和したアイオノマー樹脂 95〜5質量%、
(C)(c1)ポリエステルからなるブロックと、(c2)芳香族ビニル系単量体と共役ジエンとからなるブロック共重合体あるいはランダム共重合体及び/又はこれらの水素添加物から形成されるブロックから選ばれる少なくとも1種のブロックとからなるポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマー。
【0019】
そして、本発明者が更に検討を行ったところ、上記樹脂組成物を使用してゴルフボールを形成することにより、飛距離・フィーリング・耐久性に優れたゴルフボールが得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0020】
従って、本発明は、下記のゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボールを提供する。
〔請求項1〕 (A)(a1)結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結
晶性重合体セグメントと、
(a2)脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低
融点重合体セグメントとを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体
5〜95質量%と、
(B)(b1)α−オレフィンと、
(b2)炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸とを主たる構成成分とす
る共重合体を、
(b3)1〜3価の金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンで中和
したアイオノマー樹脂 95〜5質量%
との合計量100質量部に対し、
(C)(c1)ポリエステルからなるブロックと、
(c2)芳香族ビニル系単量体と共役ジエンとからなるブロック共重合体あるい
はランダム共重合体及び/又はこれらの水素添加物から形成されるブロックから
選ばれる少なくとも1種のブロックとからなるポリエステル−芳香族ビニル系共
重合体ブロックコポリマー 1〜40質量部
を配合してなることを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項2〕 (B)の共重合体が
(b1)α−オレフィンと、
(b2)炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸と、
(b4)アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルとを主たる構成成分とする共重合体である請求項1記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項3〕 (c1)のポリエステルが芳香族ポリエステルである請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項4〕 (c1)のポリエステルがポリブチレンテレフタレートであると共に、(c2)のコポリマーがスチレン−ブタジエンブロック共重合体若しくはスチレン−イソプレンブロック共重合体及び/又はこれらの水素添加物である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項5〕 (a1)の高融点結晶性重合体セグメントが、ポリブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする請求項1〜4のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項6〕 (a2)の低融点重合体セグメントが、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール単位を主たる構成成分とする請求項1〜5のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項7〕 (A)成分における(a2)の低融点重合体セグメントの共重合量が15〜90質量%である請求項1〜6のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項8〕 (A)成分における(a2)の低融点重合体セグメントの共重合量が50〜90質量%である請求項7記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項9〕 (B)のアイオノマー樹脂が、異なる金属イオンで中和された2種以上のアイオノマー樹脂からなる請求項1〜8のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項10〕 (A)のポリエステルブロック共重合体のJIS規格K−7106に従って測定した曲げ剛性率が5〜250MPaであり、(B)のアイオノマー樹脂のJIS規格K−7106に従って測定した曲げ剛性率が25〜500MPaであると共に、上記(A)の共重合体と上記(B)のアイオノマー樹脂のASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)差〔(B)成分の硬度−(A)成分の硬度〕が10以上である請求項1〜9のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項11〕 ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)が25〜70である請求項1〜10のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項12〕 BS規格903に従って測定した反発弾性率が40〜90%である請求項1〜11のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項13〕 ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)が25〜70であり、かつBS規格903に従って測定した反発弾性率が40〜90%である請求項1〜12のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
〔請求項14〕 請求項1〜13のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物を使用して形成されたことを特徴とするゴルフボール。
〔請求項15〕 ゴルフボールがコアと、中間層と、カバーとを具備してなると共に、上記中間層が請求項1〜13のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物にて形成されたことを特徴とするゴルフボール。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述すると、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)成分として、ポリエステルブロック共重合体を必須成分として配合するものであり、この(A)成分は、(a1)結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメントと、(a2)脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントとを主たる構成成分とするものである。
【0022】
ここで、(a1)成分は、好ましくはテレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートなどであるが、この他に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールなどから誘導されるポリエステル、あるいはこれらのジカルボン酸成分及びジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであっても良い。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分及び多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
【0023】
本発明の(a2)成分は、脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントである。ここで、脂肪族ポリエーテルとして、具体的には、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体などが挙げられる。
【0024】
また、脂肪族ポリエステルとして、具体的には、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。
【0025】
これら(a2)成分としては、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性から、特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましく、特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールであることが好ましい。
【0026】
このような低融点重合体セグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0027】
本発明において、(A)成分における(a2)成分の共重合量は、通常15質量%以上、特に50質量%以上、上限として90質量%以下となるように調整することが好ましい。(a2)成分との配合割合が上記範囲より多いと、熱可塑性共重合体として十分な溶融特性が得られず、溶融ブレンドが困難となり、均一に混合することが困難であり、少ないと、十分な柔軟性・反発性が得られないという問題が生じる場合がある。
【0028】
本発明の(A)成分は、上記(a1)成分と(a2)成分とを主構成成分とする共重合体であるが、製造方法に制限はなく、公知の方法で製造することができる。例えば、下記▲1▼〜▲5▼の方法などを挙げることができ、いずれの方法を採用してもよい。
【0029】
▲1▼ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、及び低融点重合体セグメント成分を、触媒の存在下、エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法。
▲2▼ジカルボン酸と過剰量のグリコール及び低融点重合体セグメント成分を、触媒の存在下、エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法。
▲3▼予め高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法。
▲4▼高融点結晶性セグメントと低融点重合体セグメントを鎖連結剤でつなぐ方法。
▲5▼ポリ(ε−カプロラクトン)を低融点重合体セグメントに用いる場合は、高融点結晶性セグメントにε−カプロラクトンモノマーを付加反応させる方法。
【0030】
本発明の(A)成分のポリエステルブロック共重合体は、ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)で、通常10以上、好ましくは25以上、上限として55以下、特に50以下であることが推奨され、後述する(B)成分のアイオノマー樹脂と比べて柔軟であることが好ましい。
【0031】
また、(A)成分のBS規格903に従って測定した反発弾性率は、通常40%以上、好ましくは50%以上、上限として90%以下と高いものであることが好ましい。(A)成分の反発弾性率が低いと、(A),(B),(C)成分を配合してなる樹脂組成物の反発性が小さくなり、その結果、ゴルフボールの飛び性能が低下する場合がある。
【0032】
更に、(A)成分は、JIS規格K−7106に従って測定した曲げ剛性率が適正化されることが好ましく、通常5MPa以上、好ましくは10MPa以上、更に好ましくは15MPa以上、上限として250MPa以下、好ましくは200MPa以下、更に好ましくは150MPa以下と比較的低いものであることが好ましい。曲げ剛性率が高すぎると、(A),(B),(C)成分を配合してなる樹脂組成物の剛性が高くなり、ボールの打感・耐久性が悪くなる場合がある。
【0033】
次に、本発明の(B)成分であるアイオノマー樹脂は、(b1)α−オレフィンと、(b2)炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸とを主たる構成成分とする共重合体を(b3)1〜3価の金属イオンで中和したものである。
【0034】
ここで、(b1)成分のα−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1などが挙げられ、この中でも、特にエチレンが好ましい。
【0035】
(b2)成分の炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などが挙げられるが、この中でもアクリル酸、メタクリル酸が好ましく使用される。
【0036】
本発明の(B)成分の共重合体は、上記(b1)成分と(b2)成分とを主たる構成成分とするものであるが、更に、任意成分として(b4)アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを主たる構成成分とする共重合体を使用することもできる。
【0037】
ここで、(b4)成分のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとして、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル等を挙げることができるが、これらの中でもアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルなどが好ましく使用される。
【0038】
なお、(B)成分の共重合体は、任意成分(b4)との共重合体であるか否かに拘らず、共重合体中にα,β−不飽和カルボン酸を通常0.2モル%以上、特に5モル%以上、上限として25モル%以下、特に15モル%以下含まれることが推奨され、不飽和カルボン酸含有量が少ないと、剛性・反発性が小さくなるため、(A),(B),(C)成分を配合してなる樹脂組成物を使用して形成したゴルフボールの飛び性能が低下する場合がある。
【0039】
本発明の(B)アイオノマー樹脂は、上記共重合体を(b3)1〜3価の金属イオンの少なくとも1種で中和して得られるものであり、中和に適した1〜3価の金属イオンとして、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、第1鉄、第2鉄などのイオンを挙げることができる。
【0040】
このような金属イオンを導入するには、上記(b1)、(b2)、任意成分(b4)を主たる構成成分とする共重合体と、上記1〜3価金属の水酸化物、メトキシド、エトキシド、炭酸塩、硝酸塩、ギ酸塩、酢酸塩及び酸化物などを反応させることによって達成される。中和度としては、共重合体中のカルボン酸基の少なくとも10モル%以上、特に30モル%以上、100モル%以下、特に90モル%以下が金属イオンによって中和されていることが好ましい。中和量が少ないと、低反発性となる場合がある。
【0041】
【0042】
本発明において、(B)成分のアイオノマー樹脂は、1種の金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂を単独で配合してもよいが、互いに異なる金属イオンで中和された2種以上のアイオノマー樹脂を併用することが好ましい。例えば、上述した市販品を使用する場合、異なるイオンタイプのアイオノマー樹脂を組み合わせて使用することが推奨され、これにより、溶融時の流動性と耐屈曲疲労性や引裂強さ、反発性のバランスが更に良好なものとなり、よりゴルフボール用樹脂組成物に適したものとなる。
【0043】
本発明の(B)成分は、ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)が通常45以上、好ましくは55以上、更に好ましくは60以上、上限としては80以下、好ましくは75以下、更に好ましくは70以下であることが推奨され、上記(A)成分と比較して高いことが推奨される。
【0044】
また、(B)成分は、JIS規格K−7106に従って測定した曲げ剛性率が通常25MPa以上、好ましくは50MPa以上、更に好ましくは200MPa以上、上限として500MPa以下、好ましくは450MPa以下、更に好ましくは400MPa以下であることが推奨され、上記(A)成分と比較して高いことが好ましい。
【0045】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物において、上記(A)成分と(B)成分との配合割合は、強靱性、柔軟性、反発弾性付与の観点から、(A)成分5〜95質量%、好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは20〜80質量%に対し、(B)成分は95〜5質量%、好ましくは90〜10質量%、更に好ましくは80〜20質量%で、合計100質量%であることを要する。この場合、(A)成分と(B)成分との配合割合が上記範囲を逸脱すると、打感、耐久性、飛び性能等のゴルフボール性能の低下という問題が生じる。
【0046】
本発明において、上記配合に際しては、特に、製造する樹脂組成物の反発弾性率、低温特性、機械的強度を高める点から、(A)ポリエステルブロック共重合体としては曲げ剛性率・表面硬度が低く反発弾性率が高い数値を示すものを、(B)アイオノマー樹脂としては曲げ剛性率・表面硬度が高い数値を示すものを選び、混練することが推奨される。
【0047】
また、上記(A)成分と(B)成分との配合に際し、両者の表面硬度を調整することが好ましく、この場合のショアD硬度差〔(B)成分の硬度−(A)成分の硬度〕は、通常10以上、好ましくは20以上、更に好ましくは30以上のものを混練することで、両ポリマーの特性をより生かせることとなる。なお、表面硬度差の上限としては、50以下であることが推奨される。
【0048】
また、本発明の(A)成分と(B)成分との曲げ剛性率の差〔(B)成分の曲げ剛性率−(A)成分の曲げ剛性率〕は、通常100MPa以上、好ましくは150MPa以上、特に好ましくは200MPa以上であることが好ましく、剛性率の差が少ないと、反発性の改良が不十分になる場合がある。
【0049】
本発明は、(C)成分として、ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーを配合するもので、この(C)成分は、(c1)ポリエステルからなるブロックと、(c2)芳香族ビニル系単量体と共役ジエンとからなるブロック共重合体あるいはランダム共重合体及び/又はこれらの水素添加物から形成されるブロックとによって構成されるものである。
【0050】
ここで、(c1)成分のポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートなどを挙げることができ、これらの中でも芳香族ポリエステルが好ましく、特にポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0051】
また、(c2)成分の芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−ジクロルスチレン、p−ジクロルスチレンなどが挙げられる。
【0052】
共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。
【0053】
本発明の(c2)成分としては、特に、スチレンとブタジエン若しくはイソプレンとから得られるブロック共重合体あるいはランダム共重合体及び/又はこれらの水素添加物を好適に使用することができる。
【0054】
本発明の(C)成分のポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーは、(c1)ポリエステルからなるブロックと、(c2)芳香族ビニル系単量体と共役ジエンとからなるブロック共重合体あるいはランダム共重合体及び/又はこれらの水素添加物から形成されるブロックとを共重合してブロックコポリマーとしたものであり、特に(c1)成分として、ポリブチレンテレフタレートからなるブロックと、(c2)としてスチレン−ブタジエンブロック共重合体又はスチレン−イソプレンブロック共重合体あるいはランダム共重合体及び/又はこれらの水素添加物からなるブロックを共重合してなるブロックコポリマーであることが(A),(B)両成分との相溶性を高めるという点から好ましい。ブロックコポリマーの種類としては、ジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、マルチブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0055】
本発明の(C)成分は、上記(A)ポリエステルブロック共重合体と(B)アイオノマー樹脂の合計100質量部に対し、相溶性に伴う樹脂強度を考慮して、1質量部以上、好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、上限としては40質量部以下、好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下配合する。これら範囲から外れると、ゴルフボールとして反発性が不十分となったり、耐久性が低下する。
【0056】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、上記(A)〜(C)成分を必須成分とするが、更に、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤を添加することができ、例えば、公知のヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエステル系、芳香族アミン系等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系等の耐光剤、顔料、染料などの着色剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、補強剤、充填剤、可塑剤、離型剤などを任意に含有せしめることができる。
【0057】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、上述したように、上記(A)〜(C)成分を、必要に応じて各種添加剤を加え溶融混練して得ることができ、例えば、下記▲1▼〜▲3▼の方法等を採用することができる。
【0058】
▲1▼(A)ポリエステルブロック共重合体、(B)アイオノマー樹脂、(C)ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーを一緒に配合した原料をスクリュー型押出機に供給し、溶融混練する方法。
▲2▼スクリュー型押出機に(A)ポリエステルブロック共重合体を供給して溶融し、更に他の供給口から(B)アイオノマー樹脂と(C)ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーを供給し、溶融混練する方法。
▲3▼スクリュー型押出機に(B)アイオノマー樹脂を供給して溶融し、更に他の供給口から(A)ポリエステルブロック共重合体及び(C)ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーを供給し、溶融混練する方法。
【0059】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、射出成形により容易に成形できるので、柔軟かつ高い反発弾性を有するゴルフボールを得るのに好適に使用することができる。
【0060】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)を25以上、好ましくは30以上、上限として70以下、好ましくは60以下、更に好ましくは50以下にすることができ、特に比較的柔軟な硬度を有する材料として好適に使用することができる。
【0061】
また、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、BS規格903に従って測定した反発弾性率が40%以上、好ましくは50%以上、90%以下と高いものであることが好ましい。反発弾性率が低いと、ボールの飛び性能が低下する場合がある。
【0062】
次に、本発明のゴルフボールは、少なくとも上記ゴルフボール用樹脂組成物にて形成されたボール構造を有するもので、強靭で十分な耐屈曲疲労性と引裂強さを有し、しかも層状剥離がないために打撃耐久性に優れるという特性を有する。この場合、本発明のゴルフボール用樹脂組成物の流動性に優れ、薄膜成形も容易であるという利点を生かしてゴルフボールを得ることができる。
【0063】
本発明のゴルフボールは、上記ゴルフボール用樹脂組成物をゴルフボールのコア材、中間層材、カバー材、ワンピースゴルフボール材、ソリッドセンター材(糸巻きゴルフボール用)等の各種ゴルフボール用材料として使用して形成されるもので、コアとカバーを具備してなるツーピースゴルフボール、コアに二層以上の熱可塑性樹脂若しくはゴムが被覆形成されたマルチピースゴルフボール、ワンピースゴルフボール、糸巻きゴルフボールなどとして形成することができる。
【0064】
ここで、本発明のゴルフボールについて、上記ゴルフボール用樹脂組成物で形成されるボール構造について説明すると、本発明の樹脂組成物をソリッドコアやソリッドセンターとする場合、通常、直径は25.00mm以上、特に35.00mm以上、上限として39.95mm以下、特に38.90mm以下に作成することができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物をコア材として使用する際、ゴルフ規則に沿った大きさ、重量に形成されるように、比重の調整には不活性充填剤を用いることができる。不活性充填剤としては酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛等が例示されるが、硫酸バリウムが特に好ましい。その配合量は、コアとカバーの比重、ボールの重量規格等に左右され、特に限定的ではないが、通常は本発明の樹脂組成物100質量部に対して10質量部以上、特に15質量部以上、上限として60質量部以下、特に30質量部以下にすることができる。
【0066】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物を中間層材として使用する場合には、厚さを0.5mm以上、好ましくは1.0mm以上、更に好ましくは1.4mm以上、上限として3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは1.9mm以下とすることができ、これよりも厚いと反発性を損ない、飛距離が低下し、薄いと耐久性に劣る場合がある。
【0067】
カバー材として使用する場合には、厚さを0.5mm以上、好ましくは1.0mm以上、更に好ましくは1.4mm以上、上限として3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは1.9mm以下とすることができ、これよりも厚いと反発性を損ない、飛距離が低下し、薄いと耐久性に劣る場合がある。
【0068】
更に、ワンピースゴルフボール材として使用する場合には、42.60mm以上、特に42.65mm以上、上限として42.75mm以下、特に42.70mm以下にすることができる。
【0069】
なお、本発明の樹脂組成物を使用して上記ボール構造にする場合、いずれの場合も、本発明のゴルフボール用樹脂組成物による製造には、金型に圧縮又は射出成形する方法を好適に採用することができ、特に射出成形を好適に採用することができる。
【0070】
本発明のゴルフボールは、ゴルフ規則に沿った大きさ、重量に形成することができ、通常、直径は42.65〜42.75mm、重さは45.0〜45.5gに形成することができる。
【0071】
本発明のゴルフボールは、上述したように、各種ボール構造の少なくとも一層に上記本発明の樹脂組成物を使用して形成したものであるが、特に、本発明の樹脂組成物をソリッドコアとカバーとの間に介在する中間層材として使用したソリッドゴルフボールにすることで、組成物の特性が十分に生かされたものになり得る。
【0072】
ここで、上記ソリッドゴルフボールを得るには、中間層以外の材料に制限はなく、例えば、コア材としては、本発明の樹脂組成物を使用してもよいが、通常の材料を用いることができ、加硫条件、配合比等を調整して得ることができる。この場合、コアの配合には基材ゴム、架橋剤、共架橋剤、不活性充填剤等が含まれる。基材ゴムとしては、従来からソリッドゴルフボールに用いられている天然ゴム及び/又は合成ゴムを使用することができるが、本発明においては、シス構造を少なくとも40%以上有する1,4−ポリブタジエンが好ましい。この場合、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等を適宜配合しても良い。
【0073】
架橋剤としてはジクミルパーオキサイドやジ−t−ブチルパーオキサイドのような有機過酸化物等が例示されるが、特に好ましいものはジクミルパーオキサイドである。架橋剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して通常0.5質量部以上、好ましくは0.8質量部以上、上限として3質量部以下、好ましくは1.5質量部以下とすることができる。
【0074】
共架橋剤としては、特に限定するものではないが、不飽和脂肪酸の金属塩、就中、炭素原子数3〜8の不飽和脂肪酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸等)の亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩を例示できるが、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛等の亜鉛塩が特に好適である。この共架橋剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して24質量部以上、好ましくは28質量部以上、38質量部以下、好ましくは34質量部以下にすることができる。
【0075】
不活性充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛等が例示されるが、酸化亜鉛が一般的で、その配合量は、コアとカバーの比重、ボールの重量規格等に左右され、特に限定的ではないが、基材ゴム100質量部に対して10〜60質量部とすることができる。
【0076】
上記成分を配合して得られるコア用組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、コア用金型に圧縮又は射出成形し、成形体を架橋剤及び共架橋剤が作用するのに十分な温度(例えば、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを用い共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を用いた場合には、約130〜170℃)で加熱硬化することができる。
【0077】
上記成分を配合して得られるソリッドコアは、直径38.85〜39.95mmとすることができる。
【0078】
次いで、本発明のゴルフボール用樹脂組成物を中間層材として、通常のゴルフボール成形で用いられる金型に上記コアを配備して圧縮又は射出成形して中間層を形成する。
【0079】
【0080】
なお、カバー被覆後、バリ取り研磨、前処理を施した後に塗装する工程については、通常のゴルフボール製造法に準じた方法を採用することができる。
【0081】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0082】
なお、以下、部及び反発弾性率以外の%はすべて質量基準である。また、例中に示される各材料の物性及びゴルフボール物性は次のように測定した。
【0083】
−各材料の物性−
[融点]
差動走査熱量計(Du Pont社製DSC−910型)を使用して、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱した時の融解ピークの頂上温度を測定した。
[溶融粘度指数(MFR値)]
ASTM D−1238に従って荷重2160gで測定した。
[表面硬度]
ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)。
[曲げ剛性率]
JIS規格K−7106に従って測定した。
[反発弾性率]
BS規格903に従って測定した。
[耐屈曲疲労性]
80℃で5時間乾燥した各ペレットを温度230℃でプレス成形して、厚さ2mm、幅20mmの試験片を作った。
この試験片を用いて下記の条件で耐屈曲疲労性を50万回の屈曲サイクル後の亀裂長さを測定することにより調べた。
試験条件:
試験機:デマッチャ屈曲疲労試験機
試験温度:23℃
チャック間距離:25mm←→5.6mm
屈曲サイクル:300回/分
この試験において、発生した亀裂の長さが短い方がゴルフボールの打撃耐久性に優れる。
[引裂強さ]
ASTM D−624に従って測定した。ダイはタイプCを用い、2mm厚さの試験片で測定した。強度が大きい方がゴルフボールの打撃耐久性に優れる。
【0084】
−ゴルフボール物性−
[外径]
コア、中間層被覆状態、製品の外径(mm)をそれぞれ測定した。
[重量]
コア、中間層被覆状態、製品の重量(g)をそれぞれ測定した。
[硬度]
コア、中間層被覆状態、製品に対し、100kg荷重時の変形量(mm)を測定した。数値が大きいほど軟らかいことを示す。
[飛距離]
ツルーテンパー社製スイングロボットにウッド1番クラブを取り付け、ヘッドスピード35m/sで打撃してキャリーとトータル飛距離(m)を測定した。
[繰返し打撃耐久性]
ツルーテンパー社製スイングロボットにウッド1番クラブを取り付け、ヘッドスピード40m/sでボール定点を繰返し打撃した時、比較例3の割れ回数平均を100とした指数で示した。
【0085】
[ゴルフボールコアの製造]
表1に示すシス−1,4−ポリブタジエンゴムとアクリル酸亜鉛、酸化亜鉛、及びジクミルパーオキサイド、その他の添加剤からなるコア用組成物をモールド内で加硫し、表1に示す物性、形状を有するコアを成形した。
【0086】
【表1】
【0087】
[ポリエステルブロック共重合体(A−1)の製造]
テレフタル酸234部、1,4−ブタンジオール215部、及び数平均分子量約2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール723部をチタンテトラブトキシド2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱し、反応水を系外に留出させながらエステル化反応を行った。
【0088】
【0089】
[ポリエステルブロック共重合体(A−2)の製造]
ジメチルテレフタレート406部、1,4−ブタンジオール257部、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(数平均分子量約1400)576部を、チタンテトラブトキシド1.5部及びトリメリット酸無水物3部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、210℃で2時間30分加熱して、理論メタノール量95%のメタノールを系外に留出させた。
【0090】
【0091】
得られたポリマーを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行ってペレットとした。
【0092】
表2にA−1,A−2の組成と物性を示す。なお、表中、低融点重合体セグメントの種類PTMGはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを表し、4桁の数字は数平均分子量を示す。
【0093】
【表2】
【0094】
[アイオノマー樹脂]
実施例及び比較例で使用したアイオノマー樹脂を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
[ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマー]
実施例において使用したポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーを表4に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
[中間層樹脂配合:実施例1〜10]
ポリエステルブロック共重合体(A−1)、(A−2)に、アイオノマー樹脂(B−1)〜(B−5)及び本発明のポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマー(C−1)、(C−2)を表5に示す配合比率でV−ブレンダーを用いて混合し、直径45mmで三条ネジタイプのスクリューを有する二軸押出機を用いて240℃で溶融混練してペレット化し、中間層樹脂組成物を得た。
【0099】
【表5】
【0100】
これらのペレットを用いて、溶融粘度指数(MFR)、表面硬度(ショアD硬度)、曲げ剛性率、反発弾性率、耐屈曲疲労性、引裂強さを測定した。結果を表6に示す。
【0101】
【表6】
【0102】
[中間層樹脂配合:比較例1〜6,15,16]
表7に示す配合比率で、(C)ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーを配合しないで実施例1〜10と同様に溶融混練し、ペレット化し、中間層樹脂組成物を得た。これらのペレットを用いて実施例1〜10と同様に物性を評価した。結果を表8に示す。
【0103】
[比較例7〜9]
ポリエステルブロック共重合体の代わりにポリブチレンテレフタレート(P−1)を用いて、表7に示す配合比率で実施例1〜10と同様に溶融混練し、ペレット化し、中間層樹脂組成物を得た。このペレットを用いて実施例1〜10と同様に物性を評価した。結果を表8に示す。
【0104】
[比較例10,11]
上記ポリエステルブロック共重合体(A−1)、(A−2)そのもののペレットを用いて、実施例1〜10と同様に物性を評価した。結果を表8に示す。
【0105】
[比較例12〜14]
本発明の中間層樹脂組成物を構成する(C)ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーとは異なるエポキシ変性芳香族ビニル系重合体(S−1)、(S−2)、あるいは無変性芳香族ビニル系重合体(S−3)を用いて、表7に示す配合比率で実施例5と同様に溶融混練し、ペレット化した。これらのペレットを用いて、実施例5と同様に射出成形を試みた。しかし、比較例12,13は、溶融粘度が高すぎて、金型内に樹脂を十分に流し込むことができず、中間層樹脂組成物を得ることができなかった。
S−1:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のエポキシ化物
S−2:水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のエポキシ化物
S−3:水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体
【0106】
【表7】
【0107】
【表8】
【0108】
以上の結果より、実施例に示す本発明の中間層樹脂組成物は、柔軟性と高い反発弾性率を有し、更に耐屈曲疲労性に優れ、引裂強さが大きい。これに対し、比較例に示した本発明の(C)ポリエステル−芳香族ビニル系共重合体ブロックコポリマーを含有しない樹脂組成物や、本発明の(A)ポリエステルブロック共重合体以外のポリエステル樹脂を使用した樹脂組成物又はポリエステルブロック共重合体は、耐屈曲疲労性が劣り、引裂強さも小さいことが認められた。
【0109】
表1のコアと、表5,7の中間層樹脂組成物と、カバー樹脂〔アイオノマー樹脂(ハイミラン1706:ハイミラン1605=1:1)/二酸化チタン/ステアリン酸マグネシウム=96/3/1,表面硬度(ショアD硬度)67,曲げ剛性率310MPa〕を使用し、表9〜11に示すスリーピースゴルフボールをそれぞれ製造した。
【0110】
得られたゴルフボールについて、上記評価方法に従ってそれぞれ評価を行った。結果を表9〜11に併記する。
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【0113】
【表11】
【0114】
表9〜11の結果より、実施例1〜10の本発明の中間層樹脂組成物を使用したゴルフボールは、飛距離・フィーリング・耐久性のバランスのとれたものであった。反面、比較例1〜11,14〜16は、飛距離・フィーリング・耐久性のいずれか若しくはすべてに劣ることが分かった。また、比較例12,13については、中間層樹脂組成物の粘度が高すぎるためにゴルフボール成形には向かないことが分かった。
【0115】
【発明の効果】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、柔軟で高い反発弾性を備え、強靱で十分な耐屈曲疲労性と引裂強さを有し、しかも溶融時の流動性が良好なため射出成形に適し、層状剥離のない成形性を与えることができ、飛距離・フィーリング・耐久性のバランスのとれたゴルフボールを容易に得ることができる。
Claims (15)
- (A)(a1)結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融
点結晶性重合体セグメントと、
(a2)脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低
融点重合体セグメントとを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体
5〜95質量%と、
(B)(b1)α−オレフィンと、
(b2)炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸とを主たる構成成分とす
る共重合体を、
(b3)1〜3価の金属イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンで中和
したアイオノマー樹脂 95〜5質量%
との合計量100質量部に対し、
(C)(c1)ポリエステルからなるブロックと、
(c2)芳香族ビニル系単量体と共役ジエンとからなるブロック共重合体あるい
はランダム共重合体及び/又はこれらの水素添加物から形成されるブロックから
選ばれる少なくとも1種のブロックとからなるポリエステル−芳香族ビニル系共
重合体ブロックコポリマー 1〜40質量部
を配合してなることを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物。 - (B)の共重合体が
(b1)α−オレフィンと、
(b2)炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸と、
(b4)アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルとを主たる構成成分とする共重合体である請求項1記載のゴルフボール用樹脂組成物。 - (c1)のポリエステルが芳香族ポリエステルである請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- (c1)のポリエステルがポリブチレンテレフタレートであると共に、(c2)のコポリマーがスチレン−ブタジエンブロック共重合体若しくはスチレン−イソプレンブロック共重合体及び/又はこれらの水素添加物である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- (a1)の高融点結晶性重合体セグメントが、ポリブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする請求項1〜4のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- (a2)の低融点重合体セグメントが、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール単位を主たる構成成分とする請求項1〜5のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- (A)成分における(a2)の低融点重合体セグメントの共重合量が15〜90質量%である請求項1〜6のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- (A)成分における(a2)の低融点重合体セグメントの共重合量が50〜90質量%である請求項7記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- (B)のアイオノマー樹脂が、異なる金属イオンで中和された2種以上のアイオノマー樹脂からなる請求項1〜8のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- (A)のポリエステルブロック共重合体のJIS規格K−7106に従って測定した曲げ剛性率が5〜250MPaであり、(B)のアイオノマー樹脂のJIS規格K−7106に従って測定した曲げ剛性率が25〜500MPaであると共に、上記(A)の共重合体と上記(B)のアイオノマー樹脂のASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)差〔(B)成分の硬度−(A)成分の硬度〕が10以上である請求項1〜9のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)が25〜70である請求項1〜10のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- BS規格903に従って測定した反発弾性率が40〜90%である請求項1〜11のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)が25〜70であり、かつBS規格903に従って測定した反発弾性率が40〜90%である請求項1〜12のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物。
- 請求項1〜13のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物を使用して形成されたことを特徴とするゴルフボール。
- ゴルフボールがコアと、中間層と、カバーとを具備してなると共に、上記中間層が請求項1〜13のいずれか1項記載のゴルフボール用樹脂組成物にて形成されたことを特徴とするゴルフボール。
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