JP3550074B2 - フッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極及びそれを用いたフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極及びそれを用いたフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生装置に関し、特に、四フッ化炭素ガスの発生が少ない高純度のフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガスを安定的に発生でき且つ陽極効果が抑制され、フッ素ガスまたは三フッ化窒素ガスを安定的に発生でき、オン・サイトで、フッ素ガスまたは三フッ化窒素ガスを半導体製造設備等に供給することができるフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極及びそれを用いたフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
フッ素ガス(以下、F2 という。)は、フッ化カリウム−フッ化水素系(以下、KF−HF系という。)混合溶融塩を電解液とし、陽極に炭素電極を用いて電解し製造されている。
【0003】
また三フッ化窒素ガス(以下、NF3 という。)は、フッ化アンモニウム−フッ化水素系(以下、NH4 F−HF系という。)混合溶融塩をニッケル(以下、Niという)陽極を用いて電解し製造されている。
【0004】
従来、これらF2 やNF3 は、通常ボンベから必要な量だけ半導体製造設備に供給され、半導体部品の洗浄等に使用されている。しかし、特に高純度NF3 は生産性が悪く安定供給できないという問題があった。そのため、しばしばNF3 の供給不足により、半導体製造が停止するなどの影響を受けることがあった。これを回避するため高価なガスを予備的にしかも多量に貯蔵する必要があった。また、F2 についてもボンベ出口部分の高圧F2 による腐食問題があり、貯蔵中に有害なガスの漏洩を生じる場合があった。
【0005】
そのため、最近になり、半導体製造設備においては、半導体部品等の洗浄のために、これらF2 やNF3 を常時、所望量を使用できるようなオン・サイトでこれらF2 やNF3 を発生できる装置が要望されている。
【0006】
ところが、F2 やNF3 の発生にNi陽極を用いた場合、電解中に陽極の溶解が起こり、電極が消耗するだけでなく、溶出したNiイオンがフッ化物のスラッジとなって電解槽の底に沈殿し、定期的にスラッジを除去する必要があった。また、これらF2 やNF3 の発生に炭素電極を用いた場合は、分極作用により突然電圧が急上昇するといういわゆる陽極効果が発生するため、高電流密度での操業が困難であった。そのため、これらF2 やNF3 を、オン・サイトで発生させることは困難であった。
【0007】
例えば、NF3 の製造に炭素電極を使用することは特開平5−70982号公報や同平5−86490号公報に開示されているが、NH4 F−HF系の溶融塩ではHFの蒸気圧が高いため炭素粒子の粒界や炭素粒子内に存在する微細な層状結晶の層間にHFが侵入して、炭素電極に歪みや局部的な崩壊を起こし炭素電極を構成する炭素粒子の脱落を生じる。電解槽中に脱落した炭素粒子は生成したF2 と反応して四フッ化炭素ガス(以下、CF4 という。)となりNF3 に混入する。NF3 とCF4 の沸点は極めて近いため蒸留分離ができないため、例えば、半導体製造用のドライエッチング用ガスやCVD装置のクリーニングガスとして多用されるCF4 の含有量の少ない高純度NF3 が得られないという問題がある。
【0008】
HFの蒸気圧を下げるため、KFを添加したKF−NH4 F−HF系溶融塩を使用すると炭素電極においてもある程度の電解は可能であるが、やはり陽極効果の問題の他にNF3 生成電流効率がニッケル陽極を使用した場合に比べて低く、実用化にまで至っていない。
【0009】
陽極効果を抑制するための一手段として、金属フッ化物を炭素電極の気孔中に含浸した電極を用いる例が特開平2−47297号公報に開示されている。しかし、金属フッ化物を炭素電極の気孔中に含浸するには大型の加圧加熱装置(HIP装置等)が必要なだけでなく、炭素電極や装置部品の酸化消耗を防止するため窒素ガス(以下、N2 という。)等の不活性ガス雰囲気に置換しなければならず、ひいては作業性、製造期間、製造コストの面で問題となっている。
【0010】
また、他の方法としては、粉砕された炭素質骨材に金属フッ化物を混合させる方法が特公昭61−12994号公報中に開示されている。これによれば、含浸装置等の大掛かりな設備を必要とせず、コスト的にも優れたものであるといえる。しかし、この方法では、炭素材の焼成温度が900〜1000℃であるのに対し、LiFは約850℃以上で溶融し始めるので炭素材の焼成工程で飛散・消失し、炭素材料中に含有させることは極めて困難であった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、CF4 の含有量の少ない高純度のF2 、NF3 を製造でき、これらF2 またはNF3 をオン・サイトで安定的に供給するための高純度のF2 またはNF3 発生用炭素電極及びそれを用いた高純度のF2 またはNF3 発生装置を提供することを第1の目的とする。また、電解時の陽極効果による分極を抑制し、F2 またはNF3 をオン・サイトで安定的に供給するF2 またはNF3 発生用炭素電極及びそれを用いた高純度のF2 またはNF3 発生装置を提供することを第2の目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らはまず、CF4 の発生を防止する手段について検討を加えた結果、炭素粒子の脱落の少ない炭素電極、つまり炭素粒子間の結合力の高い炭素質材料を使用することによってCF4 の発生を抑制できることを知見した。さらに、炭素粒子間の結合力はACT−JP法による測定値と密接な関係があることを見い出した。そこで本発明者らは炭素質材料のACT−JP法による測定値を最適化することによって高純度のF2 またはNF3 を発生させることができる炭素質材料からなる炭素電極とできることを見出し本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、ACT−JP法により測定した値が0.2(g/mm3 )以上である高純度のF2 またはNF3 発生用炭素電極を要旨とする。
【0013】
本発明で最大の課題は所望するF2 やNF3 中に副生成物として混入するCF4 の混入を抑制することである。このCF4 は主として下記(1)式により生じる。
C+2F2 →CF4 ・・・・(1)
(1)式におけるCF4 は電解中HFが炭素材の気孔や粒界に侵入し、そこでHFの電解反応が生じF2 が発生することにより生じる。すなわち炭素質材料の原料(骨材)が焼成された時点で保有する材料由来の粒子間結合力の大小が(1)式で示したCF4 の生じ易さの指標となる。したがって、前記の粒子間結合力を評価する方法が必要となる。炭素質材料の硬度(例えばショア硬度)は材料の加工性を評価する際に一般的に用いられるパラメーターであるが、本発明でいうところの炭素粒子間結合力を評価する評価方法としては不適当である。
【0014】
そこで本発明者らは原料粒子が重畳する構造を持つセラミック溶射被膜の粒子間結合力を評価する際に一般的に用いられている荒田式被膜評価法(ArataCoating Test with Jet Particles(ACT−JP法)を本系に適用し系統的検討を行った結果、本法が炭素質材料の粒子間結合力を評価しうる方法であることを知見した。ACT−JP法は噴射式試験方法の一つで、溶射被膜に照射速度や照射角度を変えてセラミック粒子を吹き付け、各々の条件下における摩耗の度合い(重量減少)を測定することによって被膜の摩耗速度を利用して溶射被膜の粒子間結合力を評価する方法である。一般的な炭素質材料(炭素質骨材とバインダーからなる炭素成形体)と溶射被膜は作製方法は異なるが、粒子が結合したものとしてみると、これらは同様とみなすことができる。ACT−JP法における摩耗機構から、試験片の摩耗速度は粒子間結合力として検出される。そして、粒子間結合力が大きいほど摩耗速度は減少する。ACT−JP法においては、以下のようにACT−JP値を定義し、この値により評価を行った。
ACT−JP値=1/MV ・・・・(2)
MV :定常摩耗状態での試験片の摩耗速度(mm3 /g)
MV =(1000・W1 )/(ρ・W0 )・・・・(3)
ρ:試験片(炭素基材)のかさ密度(g/cm3 )
W0 :ACT−JP試験に用いた噴射材(60メッシュのアルミナ粉末)の量(g)
W1 :定常摩耗状態での試験片(炭素基材)の摩耗量(g)
試験片の摩耗量は噴射速度により変化し、ここでいうACT−JP値も一定の角度においてのみ対応する。すなわち、アルミナ粒子の試験片への入射角が90°よりも小さくなるとアルミナ粒子と試験片表面との間で摩耗を生じる。本来試験片となる炭素材料を構成している粒子の粒子間結合力を評価するためにはアルミナ粒子の運動エネルギーがすべて試験片である炭素基材を構成する粒子の開裂に費やされねばならない。したがって、アルミナ粒子の試験片への入射角は90°とすることが好ましい。
【0015】
本発明に係る炭素電極の製造方法としては炭素質骨材として、石油コークス、ピッチコークス等のコークスを用いこれにコールタールピッチ等の結合材を添加し混練、成形、焼成したいわゆる二元系の炭素成形体や、変質ピッチやメソカーボンマイクロビーズを成形、焼成した一元系の炭素成形体を用いることができる。例えば、二元系の炭素成形体は、炭素質骨材として、石油コークス、ピッチコークス等のコークスを所定の配合で混合し、その混合した炭素質骨材と同量のコールタールピッチ等の結合材を加え混合し、圧力50〜100MPaでCIP成形を行い、所定の形状に加工後、900〜1100℃で焼成して成形する。また、一元系の炭素成形体は、変質ピッチやメソカーボンマイクロビーズを圧力50〜100MPaでCIP成形を行い、所定の形状に加工後、900〜1100℃で焼成して成形する。そして、一元系の炭素成形体の場合は圧力を調整し、また、二元系の炭素成形体の場合は圧力及び炭素質骨材の配合比を適宜調整して、ACT−JP法による測定値が0.2(g/mm3 )以上、好ましくは0.25(g/mm3 )以上となるように調整し、電極として使用することが好ましい。
【0016】
上記炭素材料はそれ自体でもKF−2HFにおいて低分極性であり、CF4 含有量を20ppm以下の高純度のF2 またはNF3 を発生させることができる。
【0017】
また、電解中の陽極効果による分極特性を向上させる(分極しにくくする)ためにLiFと、炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つフッ化カルシウム(以下、CaF2 という。)、フッ化マグネシウム(以下、MgF2 という。)、フッ化バリウム(以下、BaF2 という。)、フッ化アルミニウム(以下、AlF3 という。)、フッ化ランタン(以下、LaF3 をいう。)のうちから選ばれる少なくとも1種以上を所定量混合し、LiFとこれら炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ金属フッ化物の両相が液相になるまで加熱し、冷却後粉砕し、上記炭素質骨材に所定量添加し、成形(CIP等)後、900〜1000℃で焼成することによりLiFと炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ金属フッ化物からなる2成分系金属フッ化物含有炭素材料を得る。このようにすると融点の高い金属フッ化物粒子の周りがLiFでくるまわれた状態になり炭素質材料に混合して900〜1000℃で焼成しても、LiFと融点の高い金属フッ化物が結合した状態となり、炭素質材料焼成中に、LiFが飛散することなく、炭素質材料中にうまく分散する。これによって、炭素質材料からなる電極の炭素粒子間の結合力が高まり、陽極効果による分極化を抑制できる。なお、LiFと組み合わせる炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ金属フッ化物の混合割合は、目的に対し最適範囲が存在する。LiFの割合が多くなると融点が1000℃以下となって炭素質材料を焼成した際に該混合物を炭素質材料中に含有させることができない。また、LiFの混合割合が少なくなりすぎると分極特性が悪く(分極しやすく)なる。したがって、LiFと金属フッ化物との混合割合はLiFを20〜40%とし、残部(80〜60%)を炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ金属フッ化物とすることが好ましい。さらに付言すると、LiFと組み合わせる炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ金属フッ化物としてはLiF−CaF2 、LiF−MgF2 の組み合わせが好ましい。このようにして炭素粒子間の結合力を高め、陽極効果による分極化を抑制した金属フッ化物含有炭素材料を電極形状に加工して本発明に係る2成分系金属フッ化物含有炭素電極を得る。
【0018】
このようにして得られた2成分系金属フッ化物含有炭素電極は緻密な構造を有しており、開気孔率は約2〜20%で、平均気孔半径は約0.1〜1.0μmである。炭素質骨材に混合させる2成分系金属フッ化物の含有率は、最終的に炭素電極に対して0.1〜5質量%となるように適宜配合量を調節する。2成分系金属フッ化物の含有率が0.1%よりも少ないと分極特性の抑制に効果がなく、5%よりも多くなると炭素成形体の成形性や強度の低下を招くので好ましくない。
【0019】
また、前述の炭素質材料のみからなる電極及び2成分系金属フッ化物含有炭素電極の通電部分にはNiや銅(以下、Cuという。)の被覆を、溶射や電解メッキ等の任意の方法で行うことによって、ブスバー部分の接触が金属−金属となり、ひいては経時的な電気的接触抵抗の増加を抑制できる。これは電極寿命を延命させるために好ましい。さらに、電極1枚1枚の分担する電流値が一様となり、安定な操業を確保できる。
【0020】
このようにすることで、高純度のF2 またはNF3 を安定的に供給することができる炭素電極とすることができる。また、陽極効果による分極を抑制した炭素電極とすることができ、半導体設備等に連設できるようなオン・サイトによるF2 またはNF3 発生装置とすることができる。
【0021】
次に、この電極を用い、オン・サイトでF2 またはNF3 を安定的に発生することができる発生装置について説明する。図1は、F2 またはNF3 の発生装置の模式図である。電解槽本体1は軟鋼が使用されており、この中にはKF−2HFまたはKF−NH4 −2HFの電解液2が入っている。また、気相部分はモネル合金製のスカート10で陽極室12と陰極室13に分離されている。陽極室12には本発明に係る炭素電極3が装着されており、電解時にこの表面からF2 またはNF3 が発生する。陰極室13にはNi陰極5があり、F2 またはNF3 何れの電解時にもこの表面からH2 ガス6が発生する。発生したガス4、6はそれぞれ捕集口8、9から流出する。H2 ガス6は図示しない除外装置へ導入される。F2 またはNF3 はHF除外目的で付設したフッ化ナトリウム(以下、NaFという。)塔11を通って次の系に導入される。場合によっては、図示していないが、電解液の飛沫同伴により発生するパーティクルを除去するための焼結モネルまたは焼結ハステロイ製のフィルターをNaF塔11の下流側に設けてもよい。装置内の不要なガスはN2 ボンベ7を使用して装置外に排気処理する。NF3 発生の際には主にN2 、O2 、一酸化二窒素(以下、N2 Oという。)が不要なガスとして生成する。このうちN2 Oは水とN2 O塔とチオ硫酸ナトリウムを通過させることで除去できる。O2 は活性炭により除去する。
【0022】
このようにして発生したF2 またはNF3 を減圧下で使用する場合は、減圧ライン14を用いる。ラインには圧力調整弁15、減圧下の貯蔵手段(以下、バッファタンクという。)17、圧力計18及び真空ポンプ30等が設けられている。バッファタンク17は真空ポンプ30で圧力制御し、圧力計18と弁16または19で調圧され、F2 またはNF3 ガスの出入りを制御する。圧力調整弁15は電解槽本体1内が減圧になることを防止する。そしてF2 またはNF3 を使用する際には出口20から取り出す。
【0023】
F2 またはNF3 を加圧下で使用する際は加圧ライン21を用いる。ラインには圧力調整弁22、加圧器23、貯蔵手段となるバッファタンク25、圧力計26、流量調節機能付き流量計(以下、マスフローという。)28及び真空ポンプ30が設けられている。電解槽本体1から発生したガスは加圧器23で加圧される。この時圧力調整弁22は電解槽本体1内が減圧になることを防止する。バッファタンク25は、圧力計26と弁24、27、マスフロー28でガスの出入りを制御する。そしてF2 を使用する際は出口29から取り出す。本発明では電解によって発生したF2 またはNF3 を貯蔵する手段を設けており、これによって必要なときに所望量のF2 またはNF3 を提供することができる。なお、これら減圧ラインまたは加圧ラインは適宜配設することが可能であり、本発明にかかるF2 またはNF3 発生装置は、これらに限定されるものではない。
【0024】
生成ガスF2 及びNF3 に混入するCF4 をさらに低減させるため電解槽本体1を収納する収納容器(以下、キャビネットという。)31を配設しN2 、アルゴンガス(以下、Arという。)等の希ガスで雰囲気置換することによってCF4 発生の原因となる空気中の二酸化炭素(以下、CO2 という。)や水分等を排除することができる。これによって、高純度のF2 及びNF3 を発生することができる。
【0025】
炭素電極に特有に生じる陽極効果発生機構は次のように考えられる。すなわち、通常の電解では式(4)の他に式(5)によりフッ化黒鉛が電極表面に生じ易い。フッ化黒鉛は式(6)により熱分解するが、式(5)の速度が式(6)の速度よりも大きくなると、フッ化黒鉛が存在するようになるため電極と電解液との濡れ性が悪くなる。その結果、電解液と接触する面積が減少し電流密度は見かけのその値に比べて非常に高くなるので分極作用が大きくなり、ついには陽極効果を生じるに至る。
C+HF2 − →C十1/2F2 +HF十e− ・・・・(4)
nC+nHF2 − →(CF)n 十nHF+ne− ・・・・(5)
4CF→CF4 +3C・・・・(6)
しかし、炭素電極と電解液の界面に分子状のLiFが存在すると下記の式(7)の反応によりフッ素−黒鉛層間化合物(CX + F− )が容易に生成する。この化合物は導電性が良く表面エネルギーが高いため電解液に良く濡れる。また、式(6)に示したように生成した層間化合物上で電解液中のHFが放電しF2 が発生する。
XC+HF2 →(CX + F− )十HF十e− ・・・・(7)
(CX + F− )+HF2 →(CX + F− )十1/2F2 +HF十e− ・・・・(8)
このようにLiFはフッ素−黒鉛層間化合物生成反応の触媒として作用し、その作用はF2 電解やNF3 電解においても同様な効果を示すため、本発明の金属フッ化物含有炭素電極はF2 やNF3 の発生時の陽極効果による分極や割れ等を抑制することが可能となり、F2 やNF3 の何れの電解にも適用することができる。ただし、NF3 の電解合成反応の場合は式(9)に示した反応であり、炭素電極を用いる場合は特にNF3 生成電流効率が低いことが工業上大きな課題であった。
NH4 F+6HF2 − →NF3 十10HF十6e・・・・(9)
炭素電極の場合は、式(5)に示した反応により表面エネルギーが極めて低いフッ化黒鉛が電極表面に生成するためにNH4 + が電極表面上へ吸着できなくなり、式(9)に示したNF3 の生成電流効率が低くなる。ところが、本発明に係る炭素電極を陽極として用いると式(7)に示したフッ素−黒鉛層間化合物が生じ、電極表面エネルギーが従来の電極のように低下せず、NH4 + が吸着可能となり、NF3 生成電流効率が上昇する。本発明に係る電極は粒子間結合力が大きくフッ素−黒鉛層間化合物が表面近傍に生じても粒子脱落が少なく、式(1)で示すようなCF4 の生成は極めて少ない。このため混入するCF4 が20ppm以下という極めて高純度のF2 またはNF3 を得られるという特徴を有する。
【0026】
次に、電解槽から発生するガス圧は1.0kPa程度と小さいので、反応系や処理系にF2 またはNF3 を供給する際の工夫点について説明する。本装置は図1に示したように減圧系または加圧系に対してこれらのガスを供給するライン14または21を持っている。基本的に、圧力調整弁15または22が0.5kPaより減圧になった時点で閉じ、陽極室12及びHF吸収塔11を含むラインの圧力が常圧に達すると圧力調整弁15または22が開きガス供給を開始する。この操作が繰り返されることにより所定量のガスが減圧系のバッファタンク17、また加圧系なら加圧器23を経由してバッファタンク25に溜まることになる。ここでは減圧系及び加圧系の両系を保有するラインを示したが用途にあった何れかの形式のラインを付設すれば良い。これらの発明は従来ボンベでなければ供給できなかったガスを電解槽を用いて反応系や処理系にオン・サイトに供給できる点に最大の特徴を有する。特に、高純度のF2 やNF3 ガスが要求される半導体製造分野や液晶分野にも好適に使用できる。
【0027】
【実施例】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
平均粒子径が30μmのLiFと平均粒子径が30μmのCaF2 をモル比で4:6の割合で混合し1200℃で加熱溶融した後、室温まで冷却し、ジェットミルで粉砕し、平均粒子径が10μmの2成分系金属フッ化物を得た。この2成分系金属フッ化物3質量部を実施例1で使用したメソカーボンマイクロビーズ100質量部に混合し90MPaでCIPで成形後、1000℃で焼成し300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を3%含有していた。
【0036】
(実施例2)
LiFとCaF2 の混合モル比を2:8に変更したこと以外は実施例6と同様にして300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を3%含有していた。
【0037】
(実施例3)
金属フッ化物としてCaF2 の代わりにMgF2 を使用したこと以外は実施例6と同様にして300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を3%含有していた。
【0038】
(実施例4)
平均粒子径が30μmのLiFと平均粒子径が30μmのCaF2 をモル比で4:6の割合で混合し1200℃で加熱溶融した後、室温まで冷却し、ジェットミルで10μmに粉砕し、2成分系金属フッ化物を得た。この2成分系金属フッ化物1質量部を実施例5の炭素質骨材100質量部と混合し、コールタールピッチ100質量部を添加し混練後、90MPaでCIP成形後、950℃で焼成し300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を1%含有していた。
【0039】
(実施例5)
平均粒子径が30μmのLiFと平均粒子径が30μmのCaF2 をモル比で4:6の割合で混合し1200℃で加熱溶融させた後、室温まで冷却し、ジェットミルで10μmに粉砕し2成分系金属フッ化物を得た。この2成分系金属フッ化物3質量部を実施例5の炭素質骨材100質量部と混合し、コールタールピッチ100質量部を添加し混錬後、90MPaでCIP成形後、950℃で焼成し300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を3%含有していた。
【0040】
(実施例6)
平均粒子径が30μmのLiFと平均粒子径が30μmのCaF2 をモル比で4:6の割合で混合し1200℃で加熱溶融させた後、室温まで冷却し、ジェットミルで10μmに粉砕し2成分系金属フッ化物を得た。この2成分系金属フッ化物5質量部を実施例5の炭素質骨材100質量部と混合し、コールタールピッチ100質量部を添加し混錬後、90MPaでCIP成形後、950℃で焼成し300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を5%含有していた。
【0041】
(実施例7)
平均粒子径が30μmのLiFと平均粒子径が30μmのCaF2 をモル比で4:6の割合で混合し1200℃で加熱溶融させた後、室温まで冷却し、ジェットミルで10μmに粉砕し2成分系金属フッ化物を得た。この2成分系金属フッ化物0.1質量部を実施例5の炭素質骨材100質量部と混合し、コールタールピッチ100質量部を添加し混錬後、90MPaでCIP成形後、950℃で焼成し300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を0.1%含有していた。
【0042】
(比較例1)
平均粒子径が30μmのLiFと平均粒子径が30μmのCaF2 をモル比で4:6の割合で混合し1200℃で加熱溶融させた後、室温まで冷却し、ジェットミルで10μmに粉砕し2成分系金属フッ化物を得た。この2成分系金属フッ化物0.05質量部を実施例5の炭素質骨材100質量部と混合し、コールタールピッチ100質量部を添加し混錬後、90MPaでCIP成形後、950℃で焼成し300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を0.05%含有していた。
【0043】
(比較例2)
平均粒子径が30μmのLiFと平均粒子径が30μmのCaF2 をモル比で4:6の割合で混合し1200℃で加熱溶融させた後、室温まで冷却し、ジェットミルで10μmに粉砕し2成分系金属フッ化物を得た。この2成分系金属フッ化物6質量部を実施例3の炭素質骨材100質量部と混合し、コールタールピッチ100質量部を添加し混錬後、90MPaでCIP成形後、950℃で焼成し300×300×500(mm)の2成分系金属フッ化物含有炭素焼成品を得た。得られた焼成品は2成分系金属フッ化物を6%含有していた。
【0044】
上記実施例1〜7と比較例1、2の2成分系金属フッ化物含有炭素材料から70×40×5(mm)の炭素材料試験片を切り出し、アルミナの入射角度90°におけるACT−JP法による試験片の重量減少量とかさ密度を測定し、前述した式(2)および式(3)からACT−JP値を算出した。なお、ACT−JP値については以下の測定条件とした。
噴射ノズル径 :5.2mm
噴射材 :60メッシュのアルミナ
試料 :炭素材試験片(70×40×5(mm))
気流圧力 :5kg/cm2
噴射材入射角 :90°
噴射気流の流量:390cm3 /min
噴射材の量 :70g/回
噴射ノズルから試料表面までの距離:100mm
結果をまとめて表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
測定装置の模式図は図2に示す。図2中、炭素材料試験片は201、噴射ノズル202とし、θは炭素材料試験片に吹き付けられる噴射材の入射角度である。
【0047】
上記実施例1〜7および比較例1、2の2成分系金属フッ化物含有炭素材料から210×80×20(mm)のブロックを切り出した。各々のブロックについての電極の通電部分(ブスバー部分)となる部分にNiを100μm被覆したものをF2 、NF3 電解用電極として使用し、電解装置は50アンペア(A)容量の電解槽を使用し、臨界電流密度(印可できる最大の電流密度であり、これ以上印可すると陽極効果を生じる最大電流密度)およびCF4 の濃度を求めた。CF4 濃度は、電流密度5A/dm3 の定常状態でガスを採取し、ガスクロマトグラフィーにより測定した。F2 発生時には電解液として90℃のKF−2HFを使用し、NF3 発生時には120℃のKF−NH4 F−2HFを使用した。
【0048】
NF3 の電解については発生するNF3 の生成電流効率も求めた。電解槽および電解液は前記したものと同じものを用いた。NF3 の生成電流効率は式(10)により求めた。結果を表1に併記する。
電流効率(%)=n・F・P・V・f/(6×104 ×R×I)・・(10)
ここで、
n:NF3 生成反応の反応電子数
F:ファラデー定数
P:圧力(atm)
V:NF3 の体積%
f:NF3 の流量(10−3cm3 /min)
R:気体定数(atm・cm3 ・deg−1・mol−1)
T:絶対温度(K)
I:電流値(A)とし、NF3 の生成反応は式(7)に示したものであり反応電子数(n)=6とした。
【0049】
以上の実験結果から次のことがいえる。ACT−JP値が0.2以上の炭素材料の通電部分にNi被覆した電極をF2 またはNF3 発生に用いると生成ガス中のCF4 濃度が20ppm以下となった。また、該炭素電極に4:6の混合モル比のLiF−CaF2 またはLiF−MgF2 を0.1〜5質量%添加した2成分系金属フッ化物含有炭素電極をF2 またはNF3 発生に用いた際、何れの場合にも生成ガス中のCF4 濃度は20ppm以下となり、何れの場合も15A/dm2 以上の高い電流密度でしかも分極することなく作動することが判る。さらに、該金属フッ化物含有炭素電極を用いてNF3 を発生させる際のNF3 発生電流効率は70%以上の高効率であった。
【0050】
【発明の効果】
本発明に係る炭素電極または2成分系金属フッ化物を含有した炭素電極を使用することによってCF4 の少ない高純度のF2 またはNF3 を製造することができる。また、2成分系金属フッ化物含有炭素電極をNF3 の製造に用いることによって、陽極効果による分極化を抑制することができ、高電流効率でNF3 を発生させることもできる。
【0051】
また、電解槽本体に生成ガス貯蔵手段を設けることによって必要なときに所望する量のF2 またはNF3 を安定的に供給できるいわゆるオン・サイト化が可能となり、高価なF2 またはNF3 の予備のボンベを購入する必要がなくなっただけでなく、必要な時に必要量だけF2 またはNF3 ガスを供給できるので従来のようにF2 またはNF3 ガスの供給量に左右されることがなく、半導体製造設備等に連設して好適に使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明のF2 とまたはNF3 のオンサイト発生装置の模式図である。
【図2】ACT−JP法の測定装置の模式図である。
【符号の説明】
1 電解槽本体
2 電解液
3 陽極
4 陽極発生ガス
5 陰極
6 水素ガス
7 置換用窒素ボンベ
8 水素発生口
9 生成ガス発生口
10 スカート
11 NaF塔
12 陽極室
13 陰極室
14 減圧用ライン
15 圧力調整弁
16、19、24、27 弁
17、25 バッファタンク
18、26 圧力計
20 減圧ガス出口
21 加圧用ライン
22 圧力調整弁
23 加圧器
28 マスフロー
29 加圧ガス出口
30 真空ポンプ
31 キャビネット
201 炭素材料試験片
202 噴射ノズル
Claims (6)
- 炭素質材料と、フッ化リチウムと、炭素質材料の焼成温度以上の融点を持つ金属フッ化物とを混合してなるフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極であって、前記フッ化リチウムと前記金属フッ化物とからなる2成分系金属フッ化物の含有率が0.1〜5質量%であり、前記2成分系金属フッ化物のうち、20〜40%を前記フッ化リチウムの混合割合とし、残部を前記金属フッ化物とするフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極。
- 前記金属フッ化物が、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化ランタンの内から選ばれる少なくとも1種以上のものからなる請求項1に記載のフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極。
- 下記条件によるACT−JP法により測定した値が0.2(g/mm3)以上である請求項1または2に記載の高純度のフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極。
噴射ノズル径 :5.2mm
噴射材 :アルミナ
気流圧力 :5kg/cm 2
噴射材入射角 :90°
噴射気流の流量:390cm 3 /min
噴射材の量 :70g/回
噴射ノズルから試料表面までの距離:100mm - 請求項1乃至3のいずれかに記載のフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生用炭素電極を用いた電解槽を雰囲気制御用の容器内に収納したフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生装置。
- 発生したフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガスを貯蔵する貯蔵手段が設けられた請求項4に記載のフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生装置。
- 前記発生したフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス中に含まれる四フッ化炭素ガスが20ppm以下である請求項4又は5に記載のフッ素ガスまたは三フッ化窒素ガス発生装置。
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