JP3549412B2 - 低水素系被覆アーク溶接棒 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はパイプの振分け上進法による円周溶接に使用するのに好適である低水素系被覆アーク溶接棒に関し、特に、裏波溶接から最終層の溶接までに適用することができ、良好なアークの安定性及びビード形状を得ることができる低水素系被覆アーク溶接棒に関する。
【0002】
【従来の技術】
パイプの溶接において、裏当材を使用することなく裏波ビードを形成させる初層の溶接法である裏波溶接は、パイプ溶接の溶接性及び得られる溶接物の品質を決定する重要な因子である。従って、従来より、被覆剤の組成が適切に調整された裏波溶接専用の溶接棒が提案されている(特開平5−212586及び特開昭56−148492号公報)。
【0003】
パイプ裏波溶接用の溶接棒には、十分な溶込みと、良好な裏波ビードとを得るために、アークの集中性が良好であると共に、適切な粘度を有するスラグを生成する被覆剤が被覆されている。また、パイプ裏波溶接用の溶接棒は、低電流で溶接した場合においてもアーク切れが発生しにくく、良好なアーク持続性を有するものである。裏波溶接用の溶接棒を使用することにより、容易に良好な裏波ビードを得ることができるので、このような溶接棒はパイプライン及び配管類の裏波溶接に適用されて、産業界に多大な貢献をなしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の裏波溶接用の溶接棒は、裏波ビードを形成する初層の溶接のみに使用されるものであり、2層目以降の溶接に使用するには、スラグの粘性が高くなりすぎると共に、広幅の開先を溶接するには、アークの拡がりが不足するという問題点がある。従って、従来の裏波溶接用の溶接棒を2層目以降の溶接に使用すると、ビード形状が凸状となると共に、2層目以降の溶接時にその前の層の凹部が溶け込まない現象である融合不良が発生しやすくなって、X線透過試験によって評価される溶接部の健全性が不良となる。
【0005】
また、上述の特開平5−212586及び特開昭56−148492号公報において開示された溶接棒を使用した場合においても、裏波溶接では優れた溶接性を得ることができるが、2層目以降にこの溶接棒を使用すると、溶接が困難となり、融合不良が頻繁に発生する。
【0006】
なお、2層目以降の溶接時においても裏波溶接用の溶接棒を使用するために、各層毎にグラインダがけをしてビードを平滑にした後に、溶接を実施する方法がある。しかし、この方法を使用すると、溶接能率が著しく低下する。また、2層目以降の溶接時に使用されている一般的な全姿勢用溶接棒を、裏波溶接に適用する方法もある。しかし、一般的な全姿勢用溶接棒を使用して良好な裏波ビードを得るためには、高い能力を有する溶接技術者によっても困難であり、頻繁な手直しが必要となるので、溶接能率が低下する。
【0007】
従って、従来においては、裏波溶接用の溶接棒は専用棒として初層の溶接時のみに使用されており、2層目以降の溶接時には一般的な全姿勢用溶接棒が使用されている。そうすると、溶接現場において2種類の溶接棒を使い分ける必要があり、管理が煩雑になる。
【0008】
そこで、近時、裏波溶接から最終層の溶接までを1種類の溶接棒で実施することができる技術の開発が要求されている。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、裏波溶接から最終層の溶接までの全層を効率よく溶接することができ、良好なアークの安定性及びビード形状を得ることができる低水素系被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る低水素系被覆アーク溶接棒は、鋼心線に被覆剤が被覆されている低水素系被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤全重量あたり、ルチール:3乃至15重量%、アルミナ:0.5乃至4重量%、珪砂:5乃至15重量%、蛍石:4乃至12重量%及び金属炭酸塩:35乃至60重量%を含有し、カリ長石が2重量%以下に規制されていることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本願発明者は、1本の溶接棒により全層を溶接することができる方法を開発すべく、被覆剤の組成を考慮して鋭意実験研究を重ねた。特に、裏波溶接時と2層目以降の溶接時とに要求されるスラグの粘性及びアークの拡がりの相違点について、いずれの条件をも満足することができる被覆剤を開発すべく種々研究を行った。その結果、被覆剤中のカリ長石、ルチール及びアルミナの含有量を適切に調整することが効果的であることを見い出した。
【0011】
即ち、カリ長石はスラグの粘性を高めると共に、アークの集中性を向上させる作用を有する成分であるので、裏波溶接時に良好な裏波ビードを形成して溶接を容易にすると共に、低電流溶接時のアーク安定性を維持するために有効な原料である。しかし、被覆剤中のカリ長石の含有量が増加すると、2層目以降の溶接時にはスラグの粘度が高くなりすぎると共に、アークの拡がりが低減されるので、ビード形状が凸状となる。従って、2層目以降の溶接時に、その前の層の凹部が溶け込まない現象である融合不良が発生する。
【0012】
そこで、本発明においては、溶接棒に被覆された被覆剤中のカリ長石の含有量を2重量%以下に規制することにより、2層目以降の溶接に影響を与えないようにして、裏波溶接による初層から最終層の全層を溶接することができるものとする。また、本発明においては、カリ長石の代わりに、被覆剤中に適切量のルチール及びアルミナを含有させることにより、良好な裏波ビードを形成して裏波溶接を容易にすることができると共に、低電流溶接時のアーク安定性を維持することができる。
【0013】
以下、本発明に係る低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤に含有される成分及びその組成限定理由について説明する。
【0014】
カリ長石:2重量%以下
前述の如く、被覆剤中のカリ長石の含有量を増加させると、スラグの流動性が低下して、裏波溶接時には適切な粘性のスラグを得ることができると共に、アークの集中性が向上するので、良好な裏波溶接を実施することができる。しかし、被覆剤中のカリ長石の含有量が2重量%を超えると、2層目以降の溶接時にはスラグの粘度が高くなりすぎて、特に、立向姿勢及び上向姿勢の溶接時にスラグの流れが低下すると共に、アークの集中性が増加してアークの拡がりが低減されるので、ビード形状が凸状となる。従って、2層目以降の溶接時に悪影響を及ぼさないようにするために、被覆剤中のカリ長石は被覆剤全重量あたり2重量%以下に規制する。
【0015】
ルチール:3乃至15重量%
被覆剤中のカリ長石の含有量を2重量%以下に規制すると、裏波溶接時におけるスラグの流動性が高くなって、裏波ビードの形成不良が生じる。ルチールは、裏波溶接時におけるスラグの流動性の過多によって裏波ビードが形成不良となることを防止することができる成分である。被覆剤中のルチールの含有量が3重量%未満であると、スラグの粘性を十分に高めることができず、良好な裏波ビードを得ることは困難となる。一方、被覆剤中のルチールの含有量が15重量%を超えると、2層目以降の溶接時にはスラグの粘度が高くなりすぎて、特に、立向姿勢及び上向姿勢の溶接時にスラグの流れが低下するので、ビード形状が凸状となる。従って、被覆剤中のルチールは被覆剤全重量あたり3乃至15重量%とする。
【0016】
アルミナ:0.5乃至4重量%
アルミナは、ルチールと同様に、スラグの流動性を調整するスラグ生成剤の1つであると共に、アークの集中性を左右する重要な成分である。従って、被覆剤中のアルミナの含有量を調整することにより、カリ長石の含有量を規制することにより発生するアーク集中性の低下を防止することができる。被覆剤中のアルミナの含有量が0.5重量%未満であると、アークの集中性及びスラグの粘性を十分に高めることができず、良好な裏波ビードを得ることは困難となる。一方、被覆剤中のアルミナの含有量が4重量%を超えると、アークの集中性が高くなりすぎて、アークの拡がりが不足する。また、2層目以降の溶接時にはスラグの粘度が高くなりすぎて、特に、立向姿勢及び上向姿勢の溶接時にスラグの流れが低下するので、ビード形状が凸状となる。従って、被覆剤中のアルミナは被覆剤全重量あたり0.5乃至4重量%とする。
【0017】
珪砂:5乃至15重量%
珪砂はスラグの粘度を適切に保持すると共に、アークの吹き付け力を増加させてアークの安定性を向上させる効果を有する成分であり、被覆剤中の珪砂の含有量を適切に調整することにより、全般的な溶接作業性を向上させる効果を得ることができる。被覆剤中の珪砂の含有量が5重量%未満であると、アークの吹き付け力が弱くなり、裏波溶接のように、特に低電流での溶接時においては、アークが不安定となる。一方、被覆剤中の珪砂の含有量が15重量%を超えると、アークの吹き付けは強くなるが、2層目以降の溶接時にはスラグの粘度が高くなりすぎて、ビード形状が凸状となる。従って、被覆剤中の珪砂は被覆剤全重量あたり5乃至15重量%とする。
【0018】
蛍石:4乃至12重量%,金属炭酸塩:35乃至60重量%
蛍石及び金属炭酸塩は、低水素系溶接棒としての耐気孔性を向上させると共に、全般の溶接作業性を良好に維持するために必要な成分である。被覆剤中の蛍石の含有量が4重量%未満であると、スラグの粘性が高くなりすぎて、全般の溶接作業性が劣化する。一方、被覆剤中の蛍石の含有量が12重量%を超えると、逆にスラグの粘性が低くなりすぎて、全般の溶接作業性が劣化する。また、被覆剤中の金属炭酸塩の含有量が35重量%未満であると、シールド効果が不足して、ブローホールが発生しやすくなる。一方、被覆剤中の金属炭酸塩の含有量が60重量%を超えると、アークの吹き付けが弱くなり、アークが不安定になる。従って、被覆剤中の蛍石は被覆剤全重量あたり4乃至12重量%とし、被覆剤中の金属炭酸塩は被覆剤全重量あたり35乃至60重量%とする。
【0019】
なお、本発明においては、上記成分の他に、アーク安定剤、合金剤、脱酸剤、スラグ生成剤及び水ガラス等を被覆剤中に含有させることができる。また、本発明において、数式((被覆剤の重量/溶接棒全重量)×100)により算出される被覆率は20乃至35重量%であることが好ましい。
【0020】
【実施例】
以下、本発明に係る低水素系被覆アーク溶接棒の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。先ず、JIS G3523に規定された炭素鋼心線の外周面に、下記表1及び2に示す種々の組成を有する被覆剤を25重量%の被覆率で塗布した後に、110℃で1時間の予備乾燥及び450℃で1時間のベーキングを施すことにより、低水素系被覆アーク溶接棒を作製した。なお、本実施例においては、心線の直径を3.2mm、長さを350mmとした。
【0021】
次に、得られた被覆アーク溶接棒を使用して、外径が254mm、肉厚が12.7mmであるパイプ水平固定管を円周溶接した。このとき、初層の裏波溶接時には80Aの溶接電流を使用し、2層目以降の溶接時には110乃至120Aの溶接電流を使用した。図1は本実施例において溶接母材として使用したパイプ水平固定管の開先形状を示す断面図である。図1に示すように、パイプ管1及び2は、その外周面1a及び2aから端面1b及び2bに向かって切欠が設けられており、端面1bと端面2bとを対向させて水平に固定されることにより、パイプ管1とパイプ管2との間にV開先が形成されている。なお、本実施例においては、ルート面の幅を0.5mm、ルート間隔を3.2mmとし、ベベル角度を35°とした。
【0022】
そして、裏波溶接時におけるアークの安定性及び裏波溶接後における裏波ビードの均一性を観察することにより、溶接作業性を評価すると共に、X線透過試験により溶接部の健全性を評価した。図2は裏波ビードの均一性の評価方法を示す断面図である。図2に示すように、パイプ管1とパイプ管2との間に形成された溶接金属3について、パイプ管1及び2の内周面1c及び2cから突出した突出部3aの高さAを溶接線全長にわたって測定し、高さAが0乃至2mmであるものを○(良好)とし、それ以外のものを×(不良)とした。
【0023】
また、裏波溶接時におけるアークの安定性については、溶接時のアーク切れの有無及びアークの状態を観察することにより評価し、アーク切れの回数が1本あたり1回以下であると共に、アークの状態が安定であるものを○(良好)とし、それ以外のものを×(不良)とした。なお、良好な裏波ビードを形成するためには、比較的低電流での溶接が要求されるので、本実施例においては、裏波溶接時におけるアークの安定性を80Aという低電流領域で評価した。
【0024】
更に、溶接部の健全性については、全層の溶接が終了した後にX線透過試験を実施し、融合不良及びブローホールの発生状況を観察することにより評価した。そして、JIS Z3104に規定されたキズの分類で、1類又は2類であるものを○(良好)とし、それ以外のものを×(不良)とした。これらの評価結果を下記表3及び4に示す。なお、下記表3及び4に示す総合評価欄においては、いずれの評価試験においてもその評価結果が○(良好)であったものを○とし、少なくとも1種の評価結果が×(不良)であったものを×とした。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
なお、上記表1及び2に示す被覆剤の組成のうち、その他の成分としては固着剤、その他のスラグ生成剤、合金剤及び不可避的不純物等がある。
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
上記表1乃至4に示すように、実施例No.1乃至16は被覆剤の組成が適切に調整されているので、溶接作業性が良好であると共に、健全な溶接部を得ることができた。
【0031】
一方、比較例No.17乃至20は被覆剤中のカリ長石の含有量が本発明範囲の上限を超えているので、2層目以降の溶接時にスラグの粘度が高くなりすぎて、特に、立向姿勢及び上向姿勢の溶接時にスラグの流れが低下した。また、アークの拡がりが低減されたため、ビード形状が凸状となって融合不良が散発した。従って、X線透過試験による溶接部の健全性が不良となった。特に、比較例No.19及び20は被覆剤中のルチール又はアルミナの含有量が本発明範囲の上限を超えているので、溶接部の健全性がより一層不良となった。
【0032】
比較例No.21は被覆剤中のルチールの含有量が本発明範囲の下限未満であるので、スラグの粘性が小さくなって、良好な裏波ビードを形成することができなかった。比較例No.22は被覆剤中のルチールの含有量が本発明範囲の上限を超えているので、2層目以降の溶接時にはスラグの粘度が高くなりすぎて、その結果、ビード形状が凸状となって融合不良が散発し、X線透過試験による溶接部の健全性が不良となった。
【0033】
比較例No.23は被覆剤中のアルミナの含有量が本発明範囲の下限未満であるので、アークが集中性が低下すると共に、スラグの粘度が小さくなって、良好な裏波ビードを形成することができなかった。比較例No.24は被覆剤中のアルミナの含有量が本発明範囲の上限を超えているので、2層目以降の溶接時にはスラグの粘度が高くなりすぎて、その結果、ビード形状が凸状となって融合不良が散発し、X線透過試験による溶接部の健全性が不良となった。
【0034】
比較例No.25は被覆剤中の珪砂の含有量が本発明範囲の下限未満であるので、アークの吹き付け力が弱くなって、裏波溶接時にアーク切れが散発し、アークの安定性が低下した。比較例No.26は被覆剤中の珪砂の含有量が本発明範囲の上限を超えているので、アークの吹き付け力は強くなったが、スラグの粘度が高くなりすぎて、X線透過試験による溶接部の健全性が不良となった。比較例No.27、28及び29は被覆剤中の蛍石又は金属炭酸塩の含有量が本発明の範囲から外れているので、いずれも低水素系溶接棒としての耐気孔性及び溶接作業性が低下した。
【0035】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤の組成を適切に調整しているので、裏波から最終層までの全層を効率よく溶接することができると共に、良好なアークの安定性及びビード形状を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例において溶接母材として使用したパイプ水平固定管の開先形状を示す断面図である。
【図2】裏波ビードの均一性の評価方法を示す断面図である。
【符号の説明】
1,2;パイプ管
1a,2a;外周面
1b,2b;端面
1c,2c;内周面
3;溶接金属
3a;突出部
Claims (1)
- 鋼心線に被覆剤が被覆されている低水素系被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤全重量あたり、ルチール:3乃至15重量%、アルミナ:0.5乃至4重量%、珪砂:5乃至15重量%、蛍石:4乃至12重量%及び金属炭酸塩:35乃至60重量%を含有し、カリ長石が2重量%以下に規制されていることを特徴とする低水素系被覆アーク溶接棒。
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