JP3548721B2 - 磁性流体利用の減衰力調整装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば建物等の構造物が地震や風等によって振動されたとき、その振動エネルギーを吸収して構造物全体を防振したり、構造部材同士の相対変位を抑制したりするためのダンパーの減衰力調整や、自動車用エンジンを車体に弾性支持させて振動を吸収し減衰する液体封入式エンジンマウントの振動吸収力調整等に適用される減衰装置で、詳しくは、電磁石と、その磁力の変化に伴い磁束の大きさを調整することで粘度が変化する磁性流体とを用いて減衰力を可変に構成してなる磁性流体利用の減衰力調整装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の磁性流体利用の減衰力調整装置として、従来、例えば特開平7−197976号公報等に開示されているように、磁性流体を充填したシリンダ状ケーシングと該ケーシング内の磁性流体中を相対移動可能なピストンとからなるダンパーにおけるピストンの移動抵抗を変化させる可変機構として、ケーシング側にその内部に充填した磁性流体に対し磁束を付与するための電磁石を配設し、この電磁石の磁力を調整して磁性流体に付与する磁束の大きさを変化させ、磁性流体の粘度を増減変化させることにより、ピストンの移動抵抗を変化させて減衰力を可変にしたダンパーの減衰力調整装置や、例えば特開平5−26287号公報等に開示されているように、磁性流体を収容したシリンダ内にピストンを相対摺動可能に嵌装するとともに、シリンダに連通した磁性流体通路に電磁石を配設し、この電磁石の磁力を調整して磁性流体に付与する磁束の大きさを変化させ、磁性流体の粘度を増減変化させることにより、上記と同様に減衰力を可変にした減衰力調整装置などが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来の減衰力調整装置はいずれも、磁性流体の周りに単一の電磁石が環状形に配置されているだけのものであるから、この電磁石の磁力を調整して磁性流体に付与する磁束の大きさを変化させることにより、磁性流体の粘度を変化させることが可能であるものの、磁束が発散してロスを生じやすいために、磁性流体の粘度変化のみで減衰力を広い範囲にわたり可変とすることが技術的に難しい。特に、ピストンとケーシングまたはシリンダとの相対移動が規制(位置固定)されるまで磁性流体の粘度を上昇させるには磁束のロス分も含めて相当大きな電力を必要する。また、単一の電磁石を用いて減衰力の可変範囲を大きくとるためには、磁束を収束するために磁性体で作られた大きな磁気回路を使用するか、もしくは、大出力の電磁石を使用しなければならず、その結果、装置全体が大型化、重量化するだけでなく、消費電力が益々増加し、ランニングコストの面でも好ましくないという問題があった。
【0004】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、装置全体を小型、軽量で、かつ、消費電力の軽減を図りながらも、磁性流体を高密度磁束で効率よく粘度変化させて減衰力の可変範囲を十分に広く確保することができる磁性流体利用の減衰力調整装置を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁性流体利用の減衰力調整装置は、相対移動可能な状態で互いに同芯に配置する内外二つの部材のうち、一方の部材に同極が対向する状態に配置して固定保持された少なくとも二つの電磁石と、二つの電磁石の対向極間を一部とする磁気回路を形成するように上記内外二つの部材側それぞれに設けられた磁性体と、上記磁気回路中で少なくとも二つの電磁石の対向極間の磁気回路部分に介在されて磁束の大きさにより粘度が変化する磁性流体と、上記二つの電磁石の磁力を変化させて磁気回路の磁束の大きさを調整する磁束制御装置とを備えている磁性流体利用の減衰力調整装置であって、上記磁性流体は、その全周囲がシール材で密封状に包囲されたカプセル状体に構成され、上記内側の部材の外周面と上記外側の部材の内周面との対向面間に環状形に介在され、二つの電磁石の対向極間の磁気回路部分に介在されていることを特徴とするものである。
【0006】
上記のような特徴構成を有する本発明によれば、二つの電磁石の同極を対向状態に配置してその対向極間に磁気回路の一部分を形成しこの磁気回路部分にカプセル状体の磁性流体を介在させることにより、カプセル状磁性流体の介在領域に磁束を高密度に収束させて磁性流体の粘度を少ない消費電力のもとで大きく、かつ、効率よく増減変化させることが可能である。これによって、二つの電磁石を用いるものの、それら各電磁石の出力は小さいものでよく、かつ、大型の磁気回路を用いる必要もなく、さらに、カプセル状磁性流体の使用により、装置全体の小型、軽量化並びに消費電力の軽減を図りつつ、減衰力の可変範囲を十分に広く確保することが可能で、ダンパーの減衰力調整装置や、液体封入式マウントの振動吸収調整装置等のように、広範囲の振動吸収性能が望まれる装置として有効に利用することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明に係る磁性流体利用の減衰力調整装置の実施例1を示す原理構成図であり、磁性体材料から作製された内外二つの環状部材1,2を軸芯方向(矢印a−b方向)に相対移動可能な状態で互いに同芯に配置し、内側の環状部材1の外周面と外側の環状部材2の内周面との対向面間には、その周囲がシール材3で密封状態に包囲されてカプセル状体に構成された磁性流体4が環状形に介在されている。
【0008】
上記内外二つの環状部材1,2及びカプセル状の磁性流体4の軸芯方向両側には、環状形の二つの電磁石5A,5Bがそれらの同極(NとNまたはSとS)を対向させた状態で配置され、かつ、これら二つの電磁石5A,5Bは外側の環状部材2に固定保持されている。以上の構成によって、二つの電磁石5A,5Bと磁性体材料製の内外二つの環状部材1,2とにより二つの電磁石5A,5Bの対向極を一部とする磁気回路6が形成されており、この磁気回路6のうち二つの電磁石5A,5Bの対向極間の磁気回路部分6aにカプセル状磁性流体4が介在されている。
【0009】
上記二つの電磁石5A,5Bを構成するコイル(図示省略する)には、通電電流を調整して磁力を変化させることにより、磁気回路6及び磁気回路部分6aに形成される磁束の大きさを調整することが可能な磁束制御装置7が電気的に接続されている。
【0010】
上記のような構成を有する実施例1の磁性流体利用の減衰力調整装置Aにおいては、磁束制御装置7を通して二つの電磁石5A,5Bのコイルに通電電流を流すことによって、磁気回路6に磁束が発生され、このとき、二つの電磁石5A,5Bの同極が対向している磁気回路部分6aでは磁束が高密度状態に収束され、この収束された磁束によりカプセル状磁性流体4の粘度が増減変化されることになる。したがって、二つの電磁石5A,5Bへの通電電流を磁束制御装置7を介してコントロールして磁気回路6及び磁気回路部分6aに発生される磁束の大きさを調整することによって、カプセル状磁性流体4の粘度が少ない消費電力のもとで急速に、かつ、大きく増減変化され、二つの環状部材1,2の軸芯a−b方向への相対移動による減衰力の可変範囲を広く確保することが可能である。
【0011】
図2は本発明に係る磁性流体利用の減衰力調整装置の実施例2を示す原理構成図であり、磁性体材料から作製された内外二つの環状部材1,2及び1´,2´を軸芯方向で二段に形成し、これら各段の内側の環状部材1,1´の外周面と外側の環状部材2,2´の内周面との対向面間にそれぞれ周囲がシール材3,3´で密封状態に包囲されてカプセル状体に構成された磁性流体4,4´を環状形に介在させるとともに、各段の内外二つの環状部材1,1´、2,2´及びカプセル状磁性流体4,4´の軸芯方向両側にそれぞれ、環状形の二つの電磁石5A,5B及び5B,5Cを同極(NとN及びSとS)が対向する状態に配置し、これら電磁石5A,5B,5Cは外側の環状部材2,2´に固定保持する一方、内側の環状部材1,1´には、三つの電磁石5A,5B,5Cの中心部を貫通する磁性体材料製の芯部材8が一連一体に連設されている。
【0012】
以上の構成によって、各段それぞれにおける二つの電磁石5A,5B及び5B,5Cと磁性体材料製の内外二つの環状部材1,2及び1´,2´と芯部材8とにより二つの電磁石5A,5B及び5B,5Cの対向極を一部とする磁気回路6,6´が二段に形成され、各段の磁気回路6,6´のうち二つの電磁石5A,5B及び5B,5Cの対向極間の磁気回路部分6a,6a´にカプセル状磁性流体4,4´が介在される実施例2の磁性流体利用の減衰力調整装置Aにおいて、三つの電磁石5A,5B,5Cへの通電電流を磁束制御装置7を介してコントロールして磁気回路6,6´及び磁気回路部分6a,6a´に発生される磁束の大きさを調整することによって、カプセル状磁性流体4,4´の粘度を少ない消費電力のもとで急速に、かつ、大きく増減変化させて、内側環状部材1,1´と外側環状部材2,2´及び芯部材8との軸芯a−b方向への相対相対移動による減衰力の可変範囲を広く確保することが可能である。
【0013】
図3は本発明に係る磁性流体利用の減衰力調整装置の実施例3を示す原理構成図であり、外側の部材2を磁性体材料より筒状体に形成する一方、内側の部材1を上記筒状外側部材2内に軸芯方向に摺動可能に嵌装される磁性体材料製のピストン状体に形成し、このピストン状内側部材1に形成した上下二段の凹部1a,1a内に二つの電磁石5A,5Bを同極が対向する状態で収納配置して固定するとともに、筒状外側部材2の内周面とピストン状内側部材1の外周面との間に磁性流体4を環状形に介在させたものである。
【0014】
上記のような構成を有する実施例3の磁性流体利用の減衰力調整装置Bにおいては、磁束制御装置7を通して二つの電磁石5A,5Bのコイルに通電電流を流すことによって、磁気回路6,6に磁束が発生され、このとき、二つの電磁石5A,5Bの同極が対向している磁気回路部分6a,6aでは磁束が高密度状態に収束される。したがって、二つの電磁石5A,5Bへの通電電流を磁束制御装置7を介してコントロールして磁気回路6,6に発生される磁束の大きさを調整することによって、カプセル状磁性流体4の粘度を少ない消費電力のもとで急速に、かつ、大きく増減変化させて、ピストン状内側部材1と筒状外側部材2との軸芯a−b方向への相対移動による減衰力可変範囲を広く確保することが可能である。
【0015】
なお、本発明におけるカプセル状磁性流体としては、磁束の大きさによって粘度が変化するものであればよいが、特に、高濃度の懸濁液中に1〜10μm程度の粒子径をもつ強磁性金属微粒子を分散させてなるビンガム流体で、−40〜150℃の作動温度域を有し磁束の大きさによって粘度が変化する磁気粘性流体あるいは磁気流動学的流体と呼ばれるMR流体を使用することが望ましい。
【0016】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、二つの電磁石をそれらの同極が対向する状態に配置してその対向極間に形成される磁気回路の一部分にカプセル状の磁性流体を介在させることにより、少ない消費電力のもとでカプセル状磁性流体の介在領域に磁束を高密度に収束させてその高密度磁束によりカプセル状磁性流体の粘度を、効率よく、かつ、大きく増減変化させることができる。したがって、二つの電磁石を用いるものの、それら各電磁石の出力は小さいものでよく、かつ、大型の磁気回路を用いる必要もなく、さらに、カプセル状に構成された磁性流体の使用しているので、装置全体の小型、軽量化並びに消費電力の軽減を図りつつ、減衰力の可変範囲を十分に広く確保することができるという効果を奏し、各種タンパーの減衰力調整装置や液体封入式マウントの振動吸収調整装置等のように、軽量小型で、かつ、広範囲の振動吸収性能が望まれる装置として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る磁性流体利用の減衰力調整装置の実施例1を示す原理構成図である。
【図2】本発明に係る磁性流体利用の減衰力調整装置の実施例2を示す原理構成図である。
【図3】本発明に係る磁性流体利用の減衰力調整装置の実施例3を示す原理構成図である。
【符号の説明】
1,1´ 一方(内側)の部材
2,2´ 他方(外側)の部材
3 シール材
4,4´ カプセル状磁性流体
5A,5B,5C 電磁石
6,6´ 磁気回路
6a,6a´ 磁気回路部分
7 磁束制御装置
Claims (1)
- 相対移動可能な状態で互いに同芯に配置する内外二つの部材のうち、一方の部材に同極が対向する状態に配置して固定保持された少なくとも二つの電磁石と、二つの電磁石の対向極間を一部とする磁気回路を形成するように上記内外二つの部材側それぞれに設けられた磁性体と、上記磁気回路中で少なくとも二つの電磁石の対向極間の磁気回路部分に介在されて磁束の大きさにより粘度が変化する磁性流体と、上記二つの電磁石の磁力を変化させて磁気回路の磁束の大きさを調整する磁束制御装置とを備えている磁性流体利用の減衰力調整装置であって、
上記磁性流体は、その全周囲がシール材で密封状に包囲されたカプセル状体に構成され、上記内側の部材の外周面と上記外側の部材の内周面との対向面間に環状形に介在されて、二つの電磁石の対向極間の磁気回路部分に介在されていることを特徴とする磁性流体利用の減衰力調整装置。
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