JP3548284B2 - 誘導加熱コイルの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の変速装置を構成する駆動側または従動側プーリ機構のベルト摺動面を、高周波焼入れを行うために高周波加熱する誘導加熱コイルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、製品の耐久性を向上させるために、該製品の摺動部分並びに摩耗部分等を加熱した後、急速に冷却して硬化させる熱処理が用いられており、この熱処理として、高周波焼入れ方法が広く採用されている。この高周波焼入れ方法では、ワークに対応して種々の形状を有するコイルに高周波電流を供給し、前記高周波電流により発生する誘導電流によってワークを高周波加熱した後、冷却水を用いて前記加熱部分を急速に冷却することにより、該ワークの表面に硬化層を形成している。
【0003】
ところで、前記ワークとして車両の変速装置を構成する駆動側または従動側プーリ機構のベルト摺動面に対して高周波焼入れを施す場合、半径外方向に向かって連続して周回する渦巻き状コイルが用いられている。具体的には、この渦巻き状コイルと前記ベルト摺動面とを所定距離離間させた状態で両者を位置決めして固定し、前記渦巻き状コイルに高周波電流を供給してベルト摺動面を加熱した後、前記加熱部分を冷却水供給手段によって冷却することにより、プーリシャフトおよびプーリのベルト摺動面に硬化層を形成している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術に係る渦巻き状コイルを用いて高周波焼入れを行った場合、渦巻き状コイルを中心としてベルト摺動面の反対側に冷却水供給手段が設けられ、各隣接する渦巻き状コイルの外周間の狭小な間隙を介して冷却水がベルト摺動面に導出されることから、プーリシャフトおよびプーリのベルト摺動面を均一に冷却することができないという問題がある。
【0005】
さらに、プーリシャフトおよびプーリでは、ベルト摺動面の反対側に種々の突起部が形成されている。従って、ベルト摺動面の肉厚が部分的に異なっており、特に厚肉な部分が有効に加熱されない場合が多い。
【0006】
この結果、ベルト摺動面に加熱ムラや冷却ムラが発生してしまい、前記ベルト摺動面全体にわたって所望の硬度を得ることができないという問題が指摘されている。
【0007】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、プーリシャフトおよびプーリのベルト摺動面を均一に加熱および冷却することができ、所望の硬度を確実に得ることが可能な誘導加熱コイルの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明の誘導加熱コイルの製造方法は、車両の変速装置を構成する駆動側または従動側プーリ機構のベルト摺動面を、高周波焼入れを行うために高周波加熱する誘導加熱コイルの製造方法であって、
所定角度の中心角を等角度毎に分割するとともに前記ベルト摺動面の形状に対応して半径が順次大きくなる第1〜第N円弧部と、隣接する前記第1〜第N円弧部の端部を夫々連結する第1〜第(N−1)段部とを有した基準誘導加熱コイルを用い、前記ベルト摺動面を加熱する工程と、
前記加熱されたベルト摺動面の温度分布を検出する工程と、
前記検出された温度分布に基づいて前記第1〜第N円弧部の分割角度を設定する工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
図1は、本実施形態に係る誘導加熱コイルの斜視図を示す。この誘導加熱コイルによって高周波加熱されるプーリおよびプーリシャフトは、車両の変速装置に組み込まれている。
【0012】
図3に示すように、変速装置10は、高周波加熱されるプーリシャフトである駆動側および従動側プーリシャフト12、14を備え、この駆動側および従動側プーリシャフト12、14は、それぞれプーリ部16、18とシャフト部20、22とから一体的に形成される。プーリ部16、18の一面側には、Vベルト24、26と接触するベルト摺動面28、30が形成される一方、前記プーリ部16、18の他面側周縁には、複数のドグ(突起部)32、34が所定間隔離間して設けられる。
【0013】
駆動側および従動側プーリシャフト12、14のシャフト部20、22には、高周波加熱されるプーリである駆動側および従動側プーリ36、38がそれぞれ軸線方向に沿って変位自在に支持される。駆動側および従動側プーリ36、38の一面側にベルト摺動面40、42が形成される一方、前記駆動側および従動側プーリ36、38の他面側には、複数の突起部44、46が設けられる。駆動側および従動側プーリ36、38の中央部には、貫通孔36a、38aが形成される。ベルト摺動面40、42とベルト摺動面28、30の間には、Vベルト24、26が懸架される。
【0014】
図1および図2において、参照数字50は、誘導加熱コイルを示す。この誘導加熱コイル50は、所定角度、例えば180゜の中心角を所定の角度毎に分割するとともにベルト摺動面40、42の形状に対応して中心Oからの半径が順次大きくなる第1〜第5円弧部52a〜52eと、隣接する前記第1〜第5円弧部52a〜52eの端部をそれぞれ連結する第1〜第4段部54a〜54dと、前記第1円弧部52aの一端部に連結され駆動側および従動側プーリ36、38の貫通孔36a、38aの内壁面に沿った半周コイル部56を含む第1誘導加熱導体部58と、前記第5円弧部52eの一端部に連結される第2誘導加熱導体部60とを備える。
【0015】
第1〜第5円弧部52a〜52e、第1〜第4段部54a〜54d並びに第1および第2誘導加熱導体部58、60は、それぞれの断面が四角形の略同一形状に形成されるとともに、それぞれのコイル幅も略同一に構成される。第1および第2誘導加熱導体部58、60の端部には、高周波用の一組の入力端子64a、64bが設けられ、前記入力端子64a、64bは、リード線を介して図示しない高周波電源に接続される。
【0016】
誘導加熱コイル50の内部には、中空状の連続する管路66が形成され、この管路66に冷却水を供給することにより、前記誘導加熱コイル50が冷却される。中心Oからの半径が最も大きな第5円弧部52eは、駆動側および従動側プーリ36、38のベルト摺動面40、42より外方に向かって突出するように構成されている(図2参照)。
【0017】
図1および図2に示すように、第1〜第5円弧部52a〜52eの中心角は、中心Oに対してそれぞれ角度θ、θ、θ、θおよびθに分割される。角度θ、θ、θ、θおよびθは、第1〜第5円弧部52a〜52eに対応するベルト摺動面40、42の各部位の温度分布(後述する)に応じて設定される。具体的には、θ=33゜、θ=37゜、θ=40゜、θ=37゜およびθ=33゜に設定されている。
【0018】
次に、上記誘導加熱コイル50を製造する方法について説明する。なお、ワークとして駆動側プーリ36を用いて説明する。
【0019】
先ず、図4および図5に示すように、基準誘導加熱コイル80が用意される。この基準誘導加熱コイル80は、第1〜第5円弧部82a〜82eと第1〜第4段部84a〜84dと第1および第2誘導加熱導体部88、90とを備え、前記第1〜第5円弧部82a〜82eの中心角は、中心Oに対してそれぞれ等角度で分割されている(θ=θ=θ=θ=θ=36゜)。
【0020】
そこで、基準誘導加熱コイル80の第1誘導加熱導体部88が駆動側プーリ36の貫通孔36aに挿入されるとともに、第1〜第5円弧部82a〜82eがベルト摺動面40から所定間隔離間して位置決めされる。駆動側プーリ36は、図示しない回転手段に連結されて回転自在に支持される。また、基準誘導加熱コイル80は、図示しない高周波電源に接続される。
【0021】
次いで、高周波電源を付勢して基準誘導加熱コイル80に高周波電流が供給されるとともに、回転手段を介し中心Oを回転中心にして駆動側プーリ36が所定方向に回転される。高周波電流によって誘導電流が発生し、前記誘導電流によって基準誘導加熱コイル80と対面する駆動側プーリ36のベルト摺動面40が加熱される。
【0022】
そして、加熱後のベルト摺動面40において、第1〜第5円弧部82a〜82eに対応する各部位の温度が、例えば赤外線放射温度計によって検出される。この検出結果は、図6に示されている。すなわち、駆動側プーリ36の裏面側(ベルト摺動面40とは反対側)に複数の突起部44が設けられてこの駆動側プーリ36が部分的に肉厚となっており、前記突起部44に対応する部位(第3円弧部82cにより加熱される部位)の温度が最も低くなった。一方、ベルト摺動面40の内周縁(第1円弧部82aに対応)と外周縁(第5円弧部82eに対応)が最も高温になった。
【0023】
そこで、ベルト摺動面40の各部位の温度分布に基づいて、第1〜第5円弧部82a〜82eのそれぞれの中心角θ〜θが設定される。この結果が、表1に示されており、これによって駆動側プーリ36のベルト摺動面40に対応した誘導加熱コイル50が製造される。
【0024】
【表1】
Figure 0003548284
【0025】
以下に、このようにして製造された誘導加熱コイル50の動作について説明する。
【0026】
先ず、図7および図8に示すように、誘導加熱コイル50、駆動側プーリ36および冷却水供給手段100a、100bが位置決め固定される。すなわち、誘導加熱コイル50の第1誘導加熱導体部58が駆動側プーリ36の貫通孔36aに挿入されるとともに、第1〜第5円弧部52a〜52eがこの駆動側プーリ36のベルト摺動面40から所定間隔離間するように位置決めされる。駆動側プーリ36は、図示しない回転手段に連結されたホルダ102を介して矢印方向に回転自在に支持される(図8参照)。
【0027】
さらに、誘導加熱コイル50の上方に、所定間隔離間して略半円状の一対の冷却水供給手段100a、100bが位置決めされる。冷却水供給手段100a、100bの底面部には、ベルト摺動面40に向かって複数の冷却水導出孔部104が形成されている。
【0028】
入力端子64a、64bは、リード線を介して図示しない高周波電源に接続されており、また、誘導加熱コイル50自体を冷却するために、管路66内に冷却水が供給されている。
【0029】
このような準備段階を経た後、高周波電源を付勢して誘導加熱コイル50に高周波電流が供給されるとともに、回転手段を介し中心Oを回転中心にして駆動側プーリ36が所定方向に回転される。高周波電流によって誘導電流が発生し、前記誘導電流によって誘導加熱コイル50と対面する駆動側プーリ36のベルト摺動面40が加熱される。
【0030】
この場合、誘導加熱コイル50では、予め検出されたベルト摺動面40の各部位の温度分布に基づいて、第1〜第5円弧部52a〜52eのそれぞれの中心角θ〜θが設定されている。従って、誘導加熱コイル50を介して加熱されたベルト摺動面40は、図9に示すように、第1〜第5円弧部52a〜52eに対応する部位が全て均一な温度に加熱されている。
【0031】
このため、複数の突起部44が設けられて部分的に肉厚が異なる駆動側プーリ36において、ベルト摺動面40全体を確実に均一加熱することが可能になるという効果が得られる。しかも、ベルト摺動面40に最適な誘導加熱コイル50を容易かつ正確に製造することができ、前記誘導加熱コイル50を効率的に製造し得るとともに、該誘導加熱コイル50の品質の向上が図られる。
【0032】
ところで、ベルト摺動面40が一様に加熱されて所定の焼入れ温度に到達した後、冷却水供給手段100a、100bが駆動されて複数の冷却水導出孔部104から前記ベルト摺動面40の全体にわたって冷却水106が供給される。その際、必要に応じて、回転手段を滅勢して駆動側プーリ36を静止させた状態でベルト摺動面40に冷却水106を供給し、あるいは前記回転手段を付勢した状態を継続させ、前記駆動側プーリ36を所定方向に回転させた状態でベルト摺動面40に冷却水106を供給してもよい。
【0033】
本実施形態に係る誘導加熱コイル50は、従来技術に係る渦巻き状コイルと異なり、冷却水106をベルト摺動面40全体に有効に供給することができる。この結果、冷却ムラを発生させることがなく、ベルト摺動面40が均一かつ効率的に冷却される。
【0034】
これにより、誘導加熱コイル50を用いることによって、ベルト摺動面40全面を均一に加熱することができるとともに、冷却ムラを発生させることがなく、該ベルト摺動面40の表面に所望の硬度からなる硬化層を確実に形成することが可能になる。
【0035】
なお、従動側プーリ38、駆動側および従動側プーリシャフト12、14の各ベルト摺動面42、28および30も駆動側プーリ36のベルト摺動面40と同様の方法で高周波焼入れされるため、その詳細な説明は省略する。
【0036】
【発明の効果】
本発明に係る誘導加熱コイルの製造方法によれば、予め基準誘導加熱コイルを用いて実際にベルト摺動面を加熱し、このベルト摺動面の温度分布を検出するため、所望のベルト摺動面全体を均一に加熱し得る誘導加熱コイルを容易かつ確実に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る誘導加熱コイルの斜視図である。
【図2】前記誘導加熱コイルの平面図である。
【図3】前記誘導加熱コイルにより高周波焼入れが施されるワークが組み込まれる変速装置の縦断説明図である。
【図4】前記ワークに対し基準誘導加熱コイルにより高周波加熱を施す状態を示す平面図である。
【図5】前記基準誘導加熱コイルの側面説明図である。
【図6】前記基準誘導加熱コイルにより高周波加熱されたベルト摺動面の温度分布説明図である。
【図7】前記ワークに対し誘導加熱コイルにより高周波焼入れを施す状態を示す平面図である。
【図8】前記高周波焼入れを施す状態を示す側面説明図である。
【図9】前記誘導加熱コイルにより高周波加熱されたベルト摺動面の温度分布説明図である。
【符号の説明】
10…変速装置 12、14…プーリシャフト
16、18…プーリ部 28、30…ベルト摺動面
36、38…プーリ 40、42…ベルト摺動面
50…誘導加熱コイル 52a〜52e…円弧部
54a〜54d…段部 56…半周コイル部
58、60…誘導加熱導体部 64a、64b…入力端子
66…管路 80…基準誘導加熱コイル
100a、100b…冷却水供給手段

Claims (1)

  1. 車両の変速装置を構成する駆動側または従動側プーリ機構のベルト摺動面を、高周波焼入れを行うために高周波加熱する誘導加熱コイルの製造方法であって、
    所定角度の中心角を等角度毎に分割するとともに前記ベルト摺動面の形状に対応して半径が順次大きくなる第1〜第N円弧部と、隣接する前記第1〜第N円弧部の端部を夫々連結する第1〜第(N−1)段部とを有した基準誘導加熱コイルを用い、前記ベルト摺動面を加熱する工程と、
    前記加熱されたベルト摺動面の温度分布を検出する工程と、
    前記検出された温度分布に基づいて前記第1〜第N円弧部の分割角度を設定する工程と、
    を有することを特徴とする誘導加熱コイルの製造方法。
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