JP3547531B2 - 電子線装置 - Google Patents

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    • H01ELECTRIC ELEMENTS
    • H01JELECTRIC DISCHARGE TUBES OR DISCHARGE LAMPS
    • H01J2237/00Discharge tubes exposing object to beam, e.g. for analysis treatment, etching, imaging
    • H01J2237/06Sources
    • H01J2237/063Electron sources
    • H01J2237/06308Thermionic sources
    • H01J2237/06316Schottky emission

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電子線描画装置や電子顕微鏡等の電子線応用装置において用いられるに電子線装置関し、特に長期間安定で、かつ、エネルギーの揃った電子放出を得るための電子線装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
WやMo等の耐高温金属材料の単結晶ティップ表面に、この単結晶ティップより仕事関数が低い金属原子、例えばZr, Ti, Hf等とO原子をそれぞれ単原子層程度吸着させる表面拡散型電子源が実用化されている。この電子源は、Wヘアピンフィラメントの頂点に電解研磨により先端を尖らせた単結晶線を接合し、接合部付近に水素化Zr等の水素化物粉末を付着させ、酸素ガス分圧のある真空雰囲気中で熱処理することにより作成されることが米国特許番号3814975号公報に開示されている。
【0003】
このような電子源を1500K以上の高温で使用した場合を特にショットキー放出状態と呼んでいる。この電子源の基本的な構造を図1に示す。1は、W〈100〉の単結晶ティップ、2は、Wの多結晶線からなるヘアピン型のフィラメント、4は、フィラメント2がスポット熔接されているステンレス等の端子、5はセラミック碍子である。Wの単結晶ティップ1よりも仕事関数が低いZr等の酸化物補給源3が、単結晶ティップ1の中央部、付け根またはフィラメント2に付着した構造となっている。これを1500〜1900K程度に加熱することでこの酸化物が単結晶ティップ1に沿って熱拡散する。単結晶ティップ1の先端に拡散していった金属酸化物は単結晶ティップ1の先端に、酸素と金属それぞれほぼ単原子層ずつ吸着する。この時、表面拡散及び脱離の活性化エネルギーの高い特定の結晶面(100)に選択的に吸着する。(100)結晶面が単結晶ティップ1の先端となるような単結晶線を用いることで、単結晶ティップ1の先端のみを仕事関数の低い状態に保つことができる。したがって、その部分から高い放出電子電流密度が得られる。このようなショットキー電子源としてはZr/O/Wが Journal of Vacuum Science Technology, B3(1),1985, p220 に開示されている。
【0004】
この電子源の特徴は、通常の熱電子源と異なり、放出される電子のエネルギー幅が狭く、数千時間連続に稼働できる点である。
【0005】
この種の電子源で安定な電子放出を得るための電子源処理法が米国特許4324999号公報に、また一度不安定な状態になった電子源を安定化させる方法については特開平2−27643号公報に記されている。これら文献は、安定な電子放出が得られる条件として電子源先端に平坦な結晶面(以下ファセットと呼ぶ)が存在することを挙げている。その形成方法として米国特許4324999号公報では酸素中で加熱する方法、また特開平2−27643号公報では一時的に強電界を印加する方法が述べられている。
【0006】
さらに,この種の電子源の使用条件に関しては特開昭60−501581号公報に記されている。これには、表面拡散による電子源先端の鈍化を防ぎ放出電流値を安定に維持するために、電子源先端に一定の値以上の電界を印加し、先端方向へ静電気力を作用させる必要があることが記載されている。
【0007】
なお、表面拡散と、電界により電子源先端にかかる先端方向への引力のバランスの定式化が Physical Review, Volume 117, Number 6, P1452 に開示されている。ただし本文献ではW単体の場合の実験結果が記載されているが上記ショットキ−電子源での実験はなされていない。
【0008】
米国特許4324999号公報および特開平2−27643号公報に記載されている方法ではファセット形成に数時間以上、通常10時間程度を必要としていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
電子源の安定性、放出電子のエネルギ−のばらつき(エネルギ−幅)、電流密度等はいずれも電子顕微鏡や電子線描画装置等の電子線応用装置の性能を決める重要な特性である。一般にショットキ−電子源は、電子を引き出すための電界強度を強くすると安定性が増す一方、放出電子のエネルギ−幅が拡がり、かつ、電流密度が不必要に増大する傾向にある。エネルギ−幅が拡がると電子ビ−ムを細く収束できなくなる。また、電流密度が大きくなり過ぎると試料ダメ−ジや汚染の問題が生じる。以上のように、従来は、安定性と、エネルギ−幅や電流密度の最適条件を同時に満足する条件について検討されていなかった。
【0010】
本発明の一つの目的は、所定の範囲内のエネルギー幅を持ち、長時間安定な電子放出が得られる電子源を提供することである。本発明の他の目的は、電子源装置から、安定な電子放出が維持出来、かつ所定のエネルギ−幅の電子放出を得るための電子引出電圧を設定することを可能とする電子線装置を提供することである。本発明のさらに他の目的は、電子源からの電子ビームの安定放出に必要な条件であるファセットの形成を短時間に行える方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、本発明の一実施例によれば、フィラメントの先端に高融点金属の単結晶線を取付け、この単結晶線先端に仕事関数又は電気陰性度が該単結晶より小さい金属の吸着層を設け、吸着層が安定に維持できる温度まで単結晶線を電流加熱した状態で、単結晶線先端に電界を加えて電子が取り出される電子源において、電子源先端の曲率半径を、表面拡散による電子源先端の鈍化と静電気力とがバランスする電界強度と、所望のエネルギー幅の電子放出が得られる電界強度とを考慮して最適化することにより達成出来る。
【0012】
さらに、上記目的は、本発明の他の一実施例によれば、このような安定でエネルギー幅の狭い電子源を用い、電子源を加熱する加熱電源、電子源から電子を引き出すための電界を与える引き出し電源、電子源からの放出電子を加速するための加速電源および引き出し電源を制御する制御計算機を備え、この制御計算機が、安定な電子放出が維持できる強度で、かつ、所定の値より狭いエネルギー幅の電子放出が得られる強度の電界を、電子源の針状単結晶線先端に生じさせる引き出し電圧を設定する構成の電子線装置で達成される。
【0013】
さらに、上記目的は、本発明のさらに他の一実施例によれば、最初に電子源
の単結晶先端の金属吸着層を加熱蒸発により取り除き、次に単結晶線先端原子のマイグレーションによる先端鈍化を防ぐための電界を印加した状態で保持し、放出電子電流が増加して均一な円形の電子放出パターンが得られるまで、または、放出電子電流が飽和するまで放置することにより、電子源先端に電子ビームの安定放出に必須なファセットを形成することで達成出来る。
【0014】
さらに、上記目的は、本発明のさらに他の一実施例によれば、電子源、電子源を加熱する加熱電源、電子源から電子を引き出すための電界を与える引き出し電源、電子源からの放出電子を加速するための加速電源、及び三つの電源を制御する制御計算機を備え、電子源から引き出された電子を、絞りを備えたレンズにより収束し、試料に照射する電子線装置において、絞りに吸収される電子電流を検出し、この値を制御計算機にインプットし、電子電流値により加熱電源と引き出し電源を制御することによって達成される。
【0015】
【作用】
電子源先端の結晶面(100)の平坦部が形成され、安定な状態になった場合でも数百時間以上連続で使用していると、わずかずつ(100)面の平坦部が崩れていき、ある一定時間安定に動作した後再び急激な電流の減少が発生することが多い。この様子を示したのが図2である。これは、プローブ電流を長時間モニターしたもので、50時間から100時間おきに電流密度が30%以上減少している。このような電流の減少が突然発生すると、例えば電子顕微鏡に搭載していた場合には顕微鏡像の像質の劣化がおきる。特に、半導体プロセス評価用として無人で自動計測等を行っている場合、評価結果の信頼性が著しく損なわれる可能性がある。
【0016】
この現象は、高温(約1800K)における電子源先端の原子のマイグレーションと、電界による静電気力がバランスせず先端に形成したファセットが崩れることにより発生する。これを防ぐには特開昭60−501581号公報に記載されているように電界を強くすれば良い。ところが、この方法では電流値の変動を抑えることはできるが、それと連動して放出電子のエネルギー幅が1eV程度に広がってしまう。ここで、エネルギー幅とは放出電子のエネルギー分布の半値幅のことである。放出電子のエネルギー幅が広がると電子ビームを細く収束することが困難となる。
【0017】
特に、低エネルギーの電子ビームを用いた電子顕微鏡ではエネルギー幅が重要な性能決定要因となる。LSIプロセス評価用の寸法測定用走査型電子顕微鏡(以下CDSEMと呼ぶ)ではLSIプロセスに要求される寸法精度から考慮すると像分解能や測定再現性が8nm程度であることが要求されている。しかも、試料となるLSIのダメージ、チャージアップの防止から電子ビームのエネルギーは約1keVとする必要が有る。
【0018】
図3には1keVの電子ビームにおけるエネルギー幅と最小ビーム直径の関係を示した。最小ビーム直径は色収差と回折収差の二乗和が最小となる条件から求めた。この計算では色収差係数として、測長SEM用の電子レンズとしてはこれ以上小さくするのは困難と考えられる6mmの値で計算した。像分解能はビーム直径の約1/2程度であるから8nmの像分解能を得るにはビーム直径が16nm程度となるエネルギー幅0.5eV以下であることが必要である。
【0019】
以上のように、安定な電子放出を得るために単に電界強度を大きくするだけではエネルギー幅が0.5eV以上となってしまい問題があることがわかった。さらに、単に電界強度を強くするだけでは放出電流密度が必要以上に大きくなってしまうという問題もある。この場合、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等の観察装置の場合、試料のダメ−ジや汚染が増大してしまう。
【0020】
まず、電界強度が小さい場合に発生する電子源の不安定動作とそのメカニズムを図4(a)〜4(d)を用いて簡単に説明する。図4(c)及び4(d)は〈100〉方位のW単結晶22を用いたZr/O/W 電子源先端の斜視図で、走査型電子顕微鏡で観察した結果を元に概略を示したものである。先端の平坦な部分23と二段目の平坦な部分24は(100)の結晶面であり、このような部分をファセットと呼ぶ。また図4(a)及び4(b)に示した電子放出パターンは、蛍光体を塗布した金属板を電子源に対向させて置き、電子源とその金属板との間に電界を印加することで電子源から電子線を引き出し、その電子が金属板上の蛍光体に衝突し発光することにより得られたものである。したがって、明るく発光するほどその部分の電流密度が大きい。図4(a)及び4(b)において斜線及び黒線の部分は発光の少ない部分を示す。なお電子放出パターンの中心の黒い点20は、蛍光体を塗布した金属板に開けられた電流を計測するための小孔である。
【0021】
電界による先端方向への引力が表面拡散に比較して小さくなりバランスがくずれると、先端の(100)面ファセットの周辺部をなす原子がチップの根本部分に表面拡散していき、(100)面ファセットが崩壊し次第に小さくなっていく。(100)面23が小さくなると、その下に新たな(100)面が現われる。この両者の(100)面の段差部分は、電子放出が非常に小さい部分すなわち図4(a)及び4(b)に示した放出パターンに現われたリング状の黒い部分21である。そしてこの段差部分が移動し、小孔20を横切るときにプローブ電流の急激な減少が発生する。
【0022】
従来技術に関連して述べたようにショットキー表面拡散型電子源から電子放出させる場合に、引き出し電圧を上げれば静電気力が増加し、表面拡散による先端の鈍化が抑えられるため電子源先端のファセットの崩壊が止り、上記に述べた電流の変動がなくなる。一方、引き出し電圧を上げるとショットキー放出電子以外に電界放出電子が含まれるため、エネルギー幅は大きくなる。この関係を定量的に調べるために、ファセットの崩壊が止る引き出し電圧を実験的に求め、その時の放出電子のエネルギー幅を測定した。ファセットの崩壊が止まる引き出し電圧は以下の実験から求めた。先ず、各種の引出電圧においてそれぞれ長時間に亘ってプローブ電流をモニタし、プローブ電流の急激な減少が発生する周期を求めた。
【0023】
次に、下式1を用いて、引き出し電圧から電界強度Fを計算してこれを横軸に、プローブ電流減少の周期の逆数を縦軸に示したものを図5に示す。
【0024】
【数1】・・・・・・・・(1)
Figure 0003547531
【0025】
ここで、dは電子源先端から引き出し電極までの距離、rは電子源先端の曲率半径、
Vは引き出し電圧、Aはサプレッサ電極の効果を表す係数で電界計算及び実験の結果に基きほぼ1である。
【0026】
電子源先端の曲率半径は通常用いられている0.5μmのものの他に、1〜2μmという通常使用されることのなかった大きなものについても実験した。図5にはそのうち曲率半径が0.5,1.1,2μmについての結果を示す。その結果、実験結果のプロットはそれぞれの曲率半径においてほぼ直線となった。プローブ電流の急激な減少が発生しない電界強度は発生周期の逆数がゼロとなる場合である。したがって、実験結果から得られる直線を外挿し横軸切片を求めることによりプローブ電流の急激な減少が発生しない電界強度すなわちファセットが維持できる電界強度を求めることができる。
【0027】
次に、上で求められた電界強度を印加した場合の放出電子のエネルギー分布を計測した。その結果、0.5μmの先端曲率半径の電子源では、ファセットが維持できるだけの電界を印加するとエネルギー幅は0.7eV以上となることがわかった。一方これまで試みられることのなかった大きな先端曲率半径を持った電子源ではファセットが維持できる電界強度を印加してもエネルギー幅が0.5eV以下となることを見出した。これまでショットキ−電子源においてこのような大きな先端曲率半径のものが使用されることはなかった。なぜなら、ショットキ−電子源は高輝度電界放出型電子源の改良から出発したものであり、輝度を下げる方向となる曲率半径の極端な増大は試みられなかったからである。ところが以上のように実際に実験したところ、電子源の先端曲率半径をおよそ2.5μm以下に抑えれば,極端な輝度の低下は認められず、充分に実用となる範囲であった。
【0028】
そして、曲率半径1.1μm以上では、上述のファセットが維持できる引き出し電圧を印加してもエネルギー幅が0.5eV以下となる条件が存在することがわかった。なお電子源先端の曲率半径とは、図6に示した電子源先端の断面図において電子源の先端の曲面を半球面で最小二乗近似したとき半球の半径31で定義した。またW単結晶の根元部分から先端の半球状の部分にいたるまでに円錐台形状をした部分32が存在する。この円錐台の外周部のなす角度33を開き角と呼ぶことにする。
【0029】
以上の結果の詳細は、後述する実施例で述べるが、曲率半径を大きくすることにより、ファセットが維持できる強さの引き出し電圧を印加しても、エネルギー幅が狭く抑えられることが実験的に確認できた。この理由は次のように説明することができる。
【0030】
電子源先端における表面拡散と静電気力のバランスに関する関係は式2のようになる。
【0031】
【数2】・・・・・・(2)
Figure 0003547531
【0032】
ここで、γは表面張力、Fは電界強度、Cは先端の形状に依存する係数でほぼ0.5、rは先端の曲率半径である(前掲フィジカル レヴュー,ボリューム117,ナンバー6,ページ1452)。
【0033】
dz/dt は電子源先端が短くなる速度を表しており、添え字が0のものは電界がゼロのとき表面拡散のみで先端が短くなる速度、添え字Fがあるのは静電気力も考慮した場合を表している。
【0034】
したがって、この式の値がゼロの時、表面拡散と静電気力のバランスが取れたことになる。そこでこのような条件が成り立つ電界強度F0(以後平衡電界強度と呼ぶことにする)を求めると式3のようになる。
【0035】
【数3】・・・・・・・・(3)
Figure 0003547531
【0036】
この式は先端曲率半径rが大きくなるほど平衡電界強度F0が小さくなることを表している。ただし、結晶方位による表面張力の違い、先端にZrが吸着した場合の表面張力の変化を考慮していないのであくまで定性的な式である。
【0037】
以上のように電子源先端の曲率半径を大きくすると、弱い電界強度で安定な電子放出が得られる。そして、弱い電界強度で使用できるということは、放出電子に電界放出成分がほとんど含まれないショットキー放出電子のみの状態、すなわちエネルギー幅の狭い状態で使用できることになる。さらに、曲率半径を大きくすると電子放出部の面積が大きくなり、放出電子のエネルギー幅を拡大する作用がある空間電荷効果(ベルシェ効果と呼ばれる)が小さくなるという利点もある。
【0038】
以上をまとめると、曲率半径を大きくすれば平衡電界強度が小さくなるため、平衡電界強度以上の電界を印加してファセット崩壊のない安定な電子放出状態としてもエネルギー幅は充分狭い状態で使えるということである。ただし、曲率半径が大きくなるほど放出電流は引き出しにくくなるので、実用的な電流密度を得るには曲率半径を2.5μm以下とする必要がある。
【0039】
【実施例】
次に具体的な実施例について述べる。
【0040】
ジルコニウムと酸素をW<100>の針状単結晶先端に吸着させた電子源について、先端曲率半径を変化させ、エネルギー幅0.5eV以下で、かつ、安定動作する条件を実験で求めた。図7には実験に用いたこの電子源先端部と電子引き出しのための陽極の構造を示す。W<100>単結晶1よりなる電子源先端部分は、サプレッサ電極41の中心にあけられた直径0.4mmの穴から250μmだけ突出している。サプレッサ電極41は電子源の根元部分から不要な熱電子が放出されるのを防ぐ電極で、単結晶1に対して300〜800Vの負の電位が与えられる。電子を引き出すためのアノード9はサプレッサ電極41から0.5mm離れたところに位置しており、単結晶1に対して正の高電圧を印加する。本明細書ではこの電圧を引き出し電圧と称する。このような電極構成で、各種の先端曲率半径を持った電子源をテストした。ただしW<100>の針状単結晶先端の開き角がすべて30度以下のもので評価した。ここで開き角とは図6の33で定義される角度である。
【0041】
実験は、引き出し電圧と放出電子のエネルギー幅の関係を測定すると共に、長時間に亘って放出電子の電流密度をモニタし、プローブ電流に大きな減少が発生せずプローブ電流変動率が5%/時間以下の安定な電子放出が得られる最も低い引き出し電圧を求めた。この電圧は、前述の図5を用いファセットを維持できる最小の電界強度から求めた。これを平衡引き出し電圧と呼ぶことにする。これが、電子源先端のファセット維持に必要な最小の電界(平衡電界すなわち式3のF0)を形成する引き出し電圧である。
【0042】
この実験結果を、先端曲率半径と平衡引き出し電圧、および先端曲率半径とエネルギー幅が0.5eVとなるときの引き出し電圧との関係を示したのが図8である。これをみると、曲率半径が大きくなると平衡引き出し電圧はやや減少することがわかる。一方、エネルギー幅0.5eVとなる時の引き出し電圧は、曲率半径が大きいほど大きくなる。そのため、平衡引き出し電圧の線とエネルギー幅一定の線はある曲率半径において交わる。エネルギー幅0.5eVの時の引き出し電圧の線は、曲率半径が1.1μmのとき平衡引き出し電圧の線と交わる。曲率半径が1.1μm以上であれば、平衡引き出し電圧以上の電圧を印加しても放出電子のエネルギー幅が0.5eV以下となる領域が存在することがわかる。図8にはこの領域を斜線で示した。例えば先端曲率半径が1.5μmの場合には、引き出し電圧は3.0kV以上5kV以下、曲率半径が2μmであれば引き出し電圧2.6kV以上6kV以下とすればよい。
【0043】
上記実施例では特定の電極構造における引き出し電圧の値をあげたが、より一般性を持たせるためには、電子源先端にかかる電界強度に換算して述べる必要がある。前述の式1から電界強度を計算し、図8の縦軸を電界強度に換算したものが図9である。図8の場合と同様に、エネルギー幅0.5eV以下の電子放出を得たい場合には先端曲率半径を1.1μm以上の電子源を用いればよいことが示されている。たとえば先端曲率半径が1.5μmの場合には,電界強度を0.051V/Å以上0.1V/Å以下、曲率半径が2μmであれば電界強度0.041V/Å以上0.1V/Å以下とすればよい。
【0044】
以上ではW<100>単結晶にZr,Oを吸着させた電子源について述べたが、異なる材料でも曲率半径を大きくするほど平衡電界以上の引き出し電圧を印加した時のエネルギー幅が小さくなる傾向が確認できた。例えば、W<100>単結晶にYとOを吸着させた電子源では、先端曲率半径が0.9μm以上の時、平衡電界強度を示す線と放出電子のエネルギー幅が0.5eVとなるときの電界を示す線とが交差した。例えば、曲率半径1.2μmの時は電界強度0.068V/Å以上、0.081V/Å以下であれば放出電子のエネルギー幅が0.5eV以下で安定に動作した。
【0045】
以上述べたことをまとめると、所望のエネルギー幅以下の電子放出を安定に得るためには、ある特定の曲率半径以上の電子源を、特定の電界強度の範囲で使用すれば良いことになる。
【0046】
次に、以上で述べたような、先端曲率半径の大きな針状単結晶を作成する方法について述べる。まず、通常の電界放出型電子源を作成するときと同様に電解エッチングによりW単結晶線を針状にする。このとき針状の先端は曲率半径が0.1μm以下の非常に鋭い先端を持ち、また開き角は約15度である。この電子源先端を鈍化させるためには先端を加熱すれば良い。ただし加熱処理の前に、先端の開き角を広げておくことで低い加熱温度で短時間に目的の曲率半径とすることができる。開き角を広げるためには、針状に加工した単結晶線をさらに交流電圧により電解エッチングすればよい。
【0047】
図10は曲率半径を1.1μm以上とするために必要な温度と加熱時間の関係を示す。交流電解エッチングにより開き角を30度にしたものと開き角の拡大処理を行なわないものの両者を示した。開き角30度の場合、先端曲率半径を1.1μmとするときの加熱温度と加熱時間は、2200Kで加熱の場合5時間以上、2600Kで加熱の場合0.5時間以上、2800Kで加熱の場合は0.2時間以上の加熱時間が必要であった。また開き角15度の場合は2200Kで50時間以上、2600Kで5時間以上、2800Kでは2時間以上の加熱時間が必要であった。
【0048】
上記方法で製作した電子源先端形状を図11(a)及び11(b)に示す。先端部分は半球状をしており、曲率半径は約1.1μm、開き角は約30度であった。また、開き角を40度としたものも製作し、電子を放出させたところ電子放出パターンが楕円形状で、しかも先端にファセットが形成されなかったため安定に動作しなかった。 次に、電子源先端にファセットを形成する方法について説明する。電子源先端に印加される電界が強ければいわゆるビルドアップ現象が起こり電子源先端〈100〉以外の方位、例えば〈111〉、〈310〉等が成長し、先端の(100)面はさらに大きくなる。したがって、一般にファセットを先端に形成するためには強い電界を印加すればよい。また、ファセットを形成するのに必要とする時間はW原子の表面拡散の速さで決まる。
【0049】
ところで、ショットキ−電子源はZr,Ti,Hf等の金属の化合物を(100)面に吸着させている。これらの吸着層は、このW原子の表面拡散を妨げる方向に働くのでこれらの吸着層が存在する状態では(100)面のファセットを生じさせるには長時間が必要となる。本実施例ではファセットを形成し安定な電子源を製造する処理として、まず先端に吸着しているZr,Ti,Hf等の金属の吸着層を取り除き、W(100)をむき出しにして強電界を印加する方法を採用した。これにより、Zr,Ti,Hf等が吸着している場合に比べ処理時間が飛躍的に短縮される。
【0050】
以上の方法で電子源の先端にファセットを形成する処理を行った一例として、電子源の先端温度、引き出し電圧、放出電子電流および放射角電流密度のタイムチャートを図12(a)〜12(d)に示す。放射角電流密度は単位立体角当たりの電流密度でプローブ電流とほぼ比例関係にある。電子源は、W(100)単結晶にZr(ジルコニウム)とO(酸素)を吸着させたものである。
【0051】
引き出し電圧が1.4kV,先端温度が1800Kの状態では、放出パターンは図4(a)及び4(b)に示したようなリング状の暗い部分の存在するパターンとなっていた。そこでまず、先端温度を2150Kに上昇させた。上昇させた直後は放出電子電流、放射角電流密度共に一桁以上上昇したがすぐに激減し、1〜2分後には放射角電流密度はほとんどゼロ、放出電子電流は4μA以下となり、放出パターンは消えた。この状態はW(100)先端に吸着していたZrが高温加熱により取り除かれ、仕事関数が上昇した状態である。その後温度を1800Kに戻し、引き出し電圧を5kVに上昇させた。この状態で放置したところ約25分後に放出電子電流、放射角電流密度が上昇し始め、さらに、その10分後には放射角電流密度が一桁以上急激に上昇した。その後放射角電流密度と放出電子電流がほぼ飽和したので引き出し電圧を1.4kVに戻した。このときの放出パターンは暗いリング状の部分がない均一な円形であり、電子源先端に(100)面の平坦部分を形成でき、電子源のファセット形成処理が達成できたことが確認できた。以上のフローをフローチャートにまとめたものが図13である。
【0052】
上記実施例では、電子源先端の温度を上昇させた直後や、引き出し電圧を上げて放出電子電流の飽和を待っている状態において、通常の使用状態に比べて一桁以上の大きな放出電子電流が出る。したがって、電子源引き出し用の電源にこの処理のためだけに一桁以上大きな電流容量のものを用意しなければならないという問題点がある。次に述べる実施例ではこの問題を解決し、通常の状態の放出電子電流以上の大きな容量の電源を必要としない、電子源のファセット形成処理方法について、図14(a)〜14(d)を用いて説明する。
【0053】
図14(a)〜14(d)は、それぞれ、引き出し電圧、電子源先端温度、放射角電流密度、及び放出電子電流のタイムチャートである。まず、電子源先端温度1800K、引き出し電圧1.4kVでの通常使用条件から、電子源先端の温度を2150Kに上昇させた。このとき引き出し電圧が一定では放出電子電流が急激に増大するので、放出電子電流が10μAの一定値を越えないようにあらかじめ引き出し電圧を温度の上昇と同時にゼロとした。その後放出電子電流は急激に減少したので再び引き出し電圧を上げていき、1.4kVまで上昇させた。この時点での引き出し電圧は、熱電子が引き出される程度の電圧であればよく、電子源先端の(100)面に何も吸着していない状態で、電界放出電子が放出される程の高い引き出し電圧を印加しないことが重要である。この電圧は0.5〜1.5kVの範囲の適当な電圧で良い。この状態で放出電子電流が5μA以下になるまで放置した。その次に温度を1800Kに設定し、引き出し電圧を5kVとした。放出電子電流が増加し、あらかじめ設定された放出電子電流の値10μAに達したら、その値以上にならないように引き出し電圧を制御し引き出し電圧が一定になったところで通常の使用状態(引き出し電圧1.4kV、電子源先端温度1800K)に戻した。この時、円形状の電子放出パターンが得られた。これにより先端が平坦化され、電子源のファセット形成処理が達成されることがわかった。以上のプロセスフローをまとめると図15のフローチャートとなる。また上記実施例では、放出電子電流の上限値を10μAとしたがこの値も5μA以上であれば良く、電源の容量に合わせて自由に設定できる。また,1900K以上に加熱した後再び温度を下げるときの値は1500Kから1850Kの範囲であればよい。
【0054】
図12(a)〜12(d)及び13では電子源先端を2150Kに上昇させた場合のタイムチャート、フローチャートを示したが、この温度は1900K以上であれば良い。すなわち単結晶1の根元のZr供給源からの拡散供給量よりも先端からのZrの蒸発量の方が多くなる温度であれば良い。具体的には放出電子電流が5μA以下になるまでの時間は1900Kの加熱では5分、1950Kの加熱では4分、2000Kの加熱では3分、2150Kの加熱では2分であった。したがって、それぞれの温度に対し、ここに示した時間よりやや長く放置することで電子源先端のW(100)面からZrを除去できる。その後、図12(a)〜12(d)では1800Kに温度を下げた場合を示したが1500K〜1850Kの範囲、すなわち単結晶1の根元のZr供給源からの拡散供給量が、先端からのZrの蒸発量より多くなる温度であれば良い。ただし、1700K以下では放出電子電流と放射角電流密度が立ち上がり始めるまでの時間が長くかかるため1800K程度が最適である。
【0055】
また、この実施例では引き出し電圧が5kVの場合を示したが、このときの電界は、電子源の先端曲率半径、及び電子源先端と引き出し電極との間の距離に依存する。この場合の電界強度Fを引き出し電圧V、電子源の先端曲率半径rと電子源先端と引き出し電極の間隔dから式1により計算すると0.2V/Åであった。引き出し電圧や電極間の距離を変化させて行った実験結果では、0.15V/Å以上であれば先端が平坦化され、電子源のファセット形成処理が達成されることがわかった。
【0056】
次に、上記電子源を搭載した装置構成の例を図16に示す。サプレッサ電極41を備えた先端曲率1.2μmのZr拡散型電子源40の直下にはアノード9があり、電子源40の先端とアノード9の間には高圧の引き出し電源8により電界があたえられている。また,電子源40の先端は加速電源7によりグランドに対して高い負の電位が与えられている。サプレッサ電極41には、電子源40の先端の電位より300Vから800V負の電位が、電源43により与えられている。電子源40の先端は、加熱電源6によるフィラメント2(図1参照)ヘの通電で加熱できるようになっている。引き出し電源8は制御計算機11により制御されている。電子源40より引き出された電子42はアノード9の中心に開けられた穴を通過し、走査偏向器19により偏向された後、電子レンズ15により収束される。対物絞り14を通過した電子は試料13上に焦点を結ぶ。このような構成において、搭載した電子源40の先端曲率半径と放出電子の所望のエネルギー幅ΔE0を入力することで、制御計算機11が図8または図9の関係から、印加する必要のある引き出し電圧を決定し、引き出し電源8を制御する。ここで、所望のエネルギー幅ΔE0は電子ビームの加速電圧によって決まる。具体的な値は、使用する電子レンズおよび偏向器の収差、必要とする電子ビームの電流量、必要とする電子ビーム径により決定される。
【0057】
一例として、30kV以上の高加速電圧で電子ビ−ムを放射させる場合は、エネルギー幅の値を特に設定せずに、引き出し電圧は所望の電流量のみで決定する。一方、5kV以下の低加速電圧で電子ビ−ムを放射させる場合はエネルギー幅が広いと色収差によりビーム径を細く絞れなくなるので、所望のエネルギー幅ΔE0を0.5eV以下とし、かつ電流の変動がない平衡電圧以上となるような引き出し電圧を設定する。これにより、安定性が高く、電子ビームを細く絞ることのできる電子線装置が実現できる。
【0058】
電子源の先端曲率半径が1.1μm以上でかつファセットの崩壊が生じない十分な電界強度が印加されていれば、一度上記のようなファセット形成を行えば補給源が消費されてしまうまで電子は安定に放出され、プローブ電流の減少は生じない。しかしながら、実際は装置のメンテナンスや他の設備の点検等で全く同一の状態が保たれるとは限らない。その場合、装置の再立ち上げ後、電子源の先端形状が変化している可能性がある。このような場合、長時間経過後に電流の減少が発生する可能性がある。これを防止するためには上記処理を定期的に行なうようにすれば良い。この実施例として、本発明の電子源を搭載した測長SEMの長期間の稼働状況の一例を図17に示す。この図ではほぼ2カ月に一回ファセット形成処理を行った場合について示した。電子源の寿命はほぼ1年であり,その間に6回のファセット形成処理を行った。その結果,プローブ電流の減少は発生せず常に非常に安定な電子ビームの放出が得られた。
【0059】
上記の実施例では,あらかじめファセット形成処理を行う周期を決めていた。しかし、ティップ先端温度の微妙な変化や電子源周囲の真空度の変化などによりファセットが急激に崩れ、電流減少が短期間の内に発生する場合がある。そこで、急激な電流減少が発生する数時間前からプローブ電流密度が必ず少しづつ減少するということを利用し、プローブ電流が初期電流値より10%以上低下した時点でファセット形成処理を行うようにした。これによってもプローブ電流の急激な減少の発生を抑えることができた。さらに、前記の実施例に比べ、無用のファセット形成処理を行わずにすみ、稼働率が上昇した。このような条件で約1年(8500時間)のプローブ電流をモニタした結果が図18である。図にはプローブ電流が安定であった期間は省略し、ファセット形成処理を行った前後のみを示した。8500時間の間でファセット形成処理は二回行った。処理方法は前記の実施例と同じ条件である。ビーム立ち上げ後約二ヶ月間経過しても電流が全く減少しなかったためファセット形成処理は行なわなかった。二ヶ月経過後(1450時間)プローブ電流が10%減少したためその時点でファセット形成処理を行った。さらに6.5カ月経過後(4680時間)に再びプローブ電流が10%減少したためその時点でファセット形成処理を行った。そして一年後(8500時間)に電子源を交換した。このような操作の結果、急激な電流減少を完全に防ぐことができた。この場合、プローブ電流量が厳密に規定されている特別の場合を除いて、プローブ電流が10%以下となった時点で速やかにファセット形成処理を行う必要はなく、一般にはプローブ電流の低下が15〜20%になるまでにファセット形成処理を行えば問題ない。要は、電流の急激な減少を未然に防ぐために、プローブ電流をモニターし、あらかじめ設定した値より電流が減少した場合にファセット形成処理を行うようにすることである。
【0060】
次に、上記実施例を実現するための電子線装置構成の例を図19に示す。電子線を引き出すための電源構成、アノード等の電極構成は図16と同様である。電子源40より引き出された電子はアノード9の中心に開けられた穴を通過し,電子レンズ15により収束される。対物絞り14を通過した電子は試料13上に焦点を結ぶ。対物絞り14はアンプ12の入力に接続されている。なお、25は試料ステ−ジを示す。対物絞り14を通過できなかった電子は、対物絞り14に吸収され、電流としてアンプ12により増幅および電圧信号に変換され、制御計算機11に送られる。この信号がこれまで述べてきたプローブ電流に相当する。
【0061】
前述の如く上記ファセット形成処理を定期的に行う場合は、制御計算機11にあらかじめファセット形成処理の周期と時間を設定しておけばよい。また、前述の如くプロ−ブ電流の低下量を基準に行う場合は、アンプ12の信号を用いて制御計算機11により上記の実施例で述べた手順によって引き出し電源8および、加熱電源6を制御すればよい。
【0062】
プローブ電流の計測手段としては、対物絞り14以外にもさまざまなものが存在する。例えば、ブランキング機構のある電子線応用装置では、ブランキング時に、電子ビームプローブをファラデーカップ等の電流計測機構に入射させるようにし、この計測結果から引き出し電源8、及び加熱電源6を制御すればよい。要は、プローブ電流をなんらかの方法で定期的かつ継続的に計測し、その結果から電子源の条件を制御できるようにすることである。
【0063】
上記の例ではプローブ電流の時間的変化から電子源のファセット形成処理が必要かどうかを判断していた。次に述べる実施例では一回の計測結果のみから電子源のファセット形成処理が必要かどうかを判断できる方法について述べる。この方法は,放出電流密度の放射角分布を計測することで電流密度の減少を事前に予測するものである。この電子線装置の構成を図20を用いて説明する。
【0064】
電子源40から電子線を引き出すための電源構成、アノード等の電極構成は図16と同様である。電子源40より引き出された電子線42は、アノード9の中心に開けられた孔を通過し、放射角分布測定用偏向器17を通り、絞り18、偏向器19を通過後、対物絞り14、対物レンズ15により収束される。そして対物絞り14を通過した電子は試料13上に焦点を結ぶ。対物絞り14はアンプ12の入力に接続されている。対物絞り14を通過できなかった電子は対物絞り14に吸収され、電流としてアンプ12により増幅および、電圧信号に変換され,放射角分布測定制御回路16に送られる。放射角分布測定回路16は放射角分布測定用偏向器17の偏向信号を発生すると同時に、偏向信号と同期させてアンプ12からの信号を取り込む。放射角分布測定用偏向器17は電子線42を軸中心である0mradを中心として一次元で走査する。走査範囲は±300mradである。これにより放出電子電流の放射角分布が測定できる。
【0065】
この装置において、電子源40の単結晶ティップを1800Kに加熱し、引き出し電圧を2kVとして連続で電子放出させて使用した。その間24時間ごとに放射角分布の測定を行なった。2000時間経過後、それまで一定であった放射角分布が変化した。その結果を図21に示す。点線で示した分布aは変化前の放射角分布であり、中心部が最も電流密度が大きく周辺ほど電流密度は小さくなっていた。一方実線で示した分布bは,±170mrad付近に電流密度の極小値が存在している。これは、図4(a)及び4(b)に示した如く、暗いリング状のパターンが存在するときのものに対応する。このまま放置したところ、この極小値の位置が中心に近づいていき、48時間後に試料照射電流の急激な減少が発生した。
【0066】
そこで,図21のカ−ブbの様な放射角分布が測定された時点で図13または図15に示した実施例の処理を行った。この処理により(100)面の平坦部(以下ファセットと呼ぶ)を再形成したところ、再び図21のカ−ブaの様な放射角分布となった。
【0067】
また、放射角分布を計測するための電流測定を対物絞り14でなく試料ステージの周辺部に取付けられたファラデーカップとした装置構成例を図22に示す。試料ステージ25の周辺部にはファラデーカップ26が設けられている。ファラデーカップ26で検出された電子電流はアンプ12を経由して放射角分布測定制御回路16に送られる。放射角分布を計測するときは電子線42がファラデーカップ24に入射するようステージ25が移動するようになっている。その他の使用方法は上記実施例と全く同様である。なお、電流密度の放射角分布を測定するには放射角分布測定用偏向器17を動作させて電子線42を偏向する。それに応じてファラデーカップ26に到達する電子線42の位置も移動してしまう。そこでファラデーカップ26の開口の大きさは、偏向器17で電子線42を±300mrad偏向しても電子線42が開口からはずれない程度に大きくした。ファラデーカップ26で計測するこの実施例は、対物絞り14で計測する実施例に比べ放射角分布の角度分解能が高いという長所がある。
【0068】
以上、具体的な実施例について述べたが、放射角分布測定を行なうための具体的な構成はこのほかにも多数考えられる。要は、拡散型電子源から放出される電子線を放射角方向に偏向する偏向器と特定の放射角の電子線のみを検出する電子検出手段が存在すれば良い。
【0069】
これまで、電子源先端曲率半径を最適化し、特定の範囲の電界強度を印加して使用することで、安定で、かつ、エネルギー幅の狭い電子放出が得られる電子源およびその製造法、電子源のファセット形成手法およびこの電子源を使用した装置構成については、W(100)にZrおよびOを吸着させた電子源について例をあげて説明したが、特にこれに限らず高融点金属の単結晶の先端を加熱し、上記単結晶線先端に仕事関数又は電気陰性度が該単結晶より小さい金属の吸着層を設けて電界を印加して電子を取り出す電子源であれば同様な手法が適用できる。例えば高融点金属の単結晶としてWの〈100〉方位または〈110〉方位又は〈111〉方位を用い、上記吸着原子としてはTi,Hf,Y,Sc等とO,N,C等を用いてもよい。
【0070】
【発明の効果】
本発明によれば電子源の先端曲率半径を大きくすることにより、ファセットを維持できる電界を印加してもエネルギー幅の狭い電子放出が得られる。これにより長時間安定でしかも質の良い電子放出が得られる効果がある。
【0071】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用する電子源の側面図である。
【図2】従来の電子源を従来の使用方法で稼働した場合の放出電流密度の経時変化を示す図である。
【図3】放出電子のエネルギー幅と放出電子の最小ビーム径の関係を示す図である。
【図4】(a)及び(b)は電子放出パターンと、(c)及び(d)はこれらに対応する電子源先端の斜視図である。
【図5】電流減少が発生する迄の時間と電界強度の関係を示す図である。
【図6】電子源先端の曲率半径と開き角の定義を説明するための電子源先端の断面図である。
【図7】本発明の一実施例による電子源装置の電極部の断面図である。
【図8】電子源先端の曲率半径と平衡引き出し電圧との関係、及び電子源先端の曲率半径と放出電子のエネルギ−幅が一定となる引き出し電圧との関係を示す図である。
【図9】電子源先端の曲率半径と平衡引き出し電界との関係、及び電子源先端の曲率半径と放出電子のエネルギ−幅が一定となる引き出し電界との関係を示す図である。
【図10】曲率半径が1.1μm以上の電子源先端を形成するための、加熱温度と加熱時間との関係を示す図である。
【図11】(a)は本発明の実施例による電子源の先端部の側面図、(b)はそのA部拡大図である。
【図12】(a)、(b)、(c)、及び(d)はそれぞれ、本発明の実施例による電子源のファセット形成方法における、引き出し電圧、電子源先端温度、放射角電流密度、放出電子電流、と時間との関係の示す図である。
【図13】図12(a)、図12(b)、図12(c)、及び図12(d)に示した実施例のフローチャートである。
【図14】(a)、(b)、(c)、および(d)はそれぞれ、本発明の実施例による電子源のファセット形成方法における、引き出し電圧、電子源先端温度、放射角電流密度、放出電子電流、と時間との関係を示す図である。
【図15】図14(a)、図14(b)、図14(c)、および図14(d)に示した実施例のフローチャートである。
【図16】本発明の一実施例による電子源を搭載した電子線装置の構成図である。
【図17】本発明の一実施例による電子源を搭載した測長SEMの稼働スケジュー ルの一実施例を示す。
【図18】本発明の一実施例による
【電子源のファセット形成方法】を施した場合の放射角電流密度の経時変化である。
【図19】本発明の一実施例による電子源のファセットを形成するための装置構成図である。
【図20】本発明の他の実施例による電子源のファセットを形成するための装置構成図である。
【図21】図20の実施例において、計測した放出電子電流密度の放射角分布を示す図である。
【図22】本発明のさらに他の実施例による電子源のファセットを形成するための装置構成図である。
【符号の説明】
1…単結晶ティップ
2…フィラメント
3…補給源
4…端子
5…セラミック碍子又はガラスベース
6…加熱電源
7…加速電源
8…引き出し電源
9…アノード
11…制御計算機
12…アンプ
13…試料
14…対物絞り
15…対物レンズ
16…放射角分布測定制御回路
17…放射角分布測定用偏向器
18…絞り
19…走査偏向器
20…小孔
21…電流密度の低い部分
22…単結晶
23…先端の(100)面
24…二段目の(100)面
25…試料ステージ
26…ファラデーカップ
31…曲率半径
32…円錐台状部分
33…開き角
40…電子源
41…サプレッサ電極
42…電子線
43…サプレッサ電源

Claims (4)

  1. 高融点金属の細線をヘアピン状に形成したフィラメントと、
    該フィラメントの先端に取り付けられた高融点金属の単結晶線と、
    該単結晶線の先端に設けられた吸着層とを備えたショットキー電子源と、
    該吸着層を安定に維持できる温度まで該単結晶線を電流加熱する加熱電源と、
    該単結晶線の先端に電界を形成し電子を引き出す引出し電源と、
    該電子源からの放出電子を加速するための加速電源と、
    該電子源から引き出された電子を収束し試料に照射する絞りを備えた電子レンズと、
    該電子源からの放出電子電流の放射角方向の電流密度分布を計測する手段とを有し、
    更に、放射角方向の電流密度分布に二つ以上の極小値が検出されたことを契機として前記吸着層の再形成処理を行なう際に、前記引出し電源に印加する電圧を制御する制御計算機とを有することを特徴とする電子線装置。
  2. 請求項1に記載の電子線装置において、前記放出電子電流の放射角方向の電流密度分布を計測する手段は、
    前記電子源直下に配置されたアノード電極と、
    該アノード電極の下方にある電子線偏向器と、
    該電子線偏向器より下方にある角度分布検出用絞りと、
    該角度分布検出用絞りより下方にある電流検出手段とを備え、
    前記電子線偏向器による前記電子線の偏向と同期して該電流検出手段により前記電流密度分布を計測することを特徴とする電子線装置。
  3. 請求項2に記載の電子線装置において、
    前記電流検出手段は、前記角度分布検出用絞りよりも下方にある絞りに照射された電流を増幅器により検出するものであることを特徴とする電子線装置。
  4. 請求項2に記載の電子線装置において、前記電流検出手段が前記電子レンズの下方にある試料ステージ上に設けられた電流検出用のファラデーカップからなり、前記電子線の電流密度分布計測時に該電流検出用のファラデーカップに前記電子線が照射されるよう前記試料ステージを移動しうることを特徴とする電子線装置。
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