JP3546350B2 - ゴルフクラブ用シャフト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はゴルフクラブ用シャフトに関し、詳しくは、異方性ゴルフクラブ用シャフトの強度及び生産性向上すると共に軽量化を図るものである。
【0002】
【従来の技術】
ゴルフのプレーにおいてはそのスコアメイクの上でも、また、飛距離をかせぐ上でもボールを真っ直ぐ飛ばすことが有利であることはいうまでもない。しかしながら、実際には多くのゴルファーがいわゆるフックまたはスライスといった打球(ボール)の曲がり癖に悩んでいる。
【0003】
打球の曲がる原因はインパクト時にクラブヘッドの軌道の向きとクラブヘッドのフェースの向き(フェース面の法線の向き)が一致していない為である。すなわち、クラブヘッドの軌道に対してフェース(フェース面の法線の向き)が右を向いている場合に右へ曲がる飛球(右利きのプレーヤーにおけるスライス)となり、左を向いている場合に左へ曲がる(右利きのプレーヤーにおけるフック)となる。
【0004】
従って、ボールを狙った方向に真っ直ぐに飛ばすためにはインパクトにおけるフェースの向きを修正すればよいが、現実にはスイングの癖を直すことは容易ではなく、多くのプレイヤーが、スイングの矯正に頭を悩ましている。
【0005】
ところで、本件出願人は、特開平3−227616号公報において、すくなくとも一部に繊維強化樹脂等の異方性材料を用いて形成した中空あるいは中実のシャフトにおいて、異方性材料の繊維角度を周方向で部分的に、かつ、厚さ方向の少なくとも一部分で異ならせると(変化させると)、該中空あるいは中実のシャフトの弾性主軸を幾何学的主軸と相違させて任意の位置に設定することが出来ることを明らかにしている。
【0006】
上記弾性主軸と幾何学的主軸を相違させた中空のシャフトでは弾性主軸上にある点を通らない荷重を下方に加えると、撓みを生じると共にねじれが生じる。図10、図11はこれを示している。すなわち、図10のように、中空のシャフト10を、一端を固定端10c、他端を自由端10dとすると、弾性主軸Eは幾何学的主軸Gと一致せず、上記自由端10dが弾性主軸E上の点Qの上方に位置する。この状態で、弾性主軸E上の点Qを通らない荷重Wをシャフトの自由端10dに加えると、シャフト10は図11に示すように撓むとともに捩じれる。
【0007】
そこで、本件出願人は特願平9−146950号において、上記異方性を有する中空のシャフトをゴルフクラブ用シャフトに適用し、ゴルフクラブのスイング中に生じるシャフトの撓みによってシャフトをねじれさせて、フッカーあるいはスライサーが使用した場合に、クラブヘッドのフェースの向き(フェース面の法線の向き)が自己修正されるゴルフクラブを提案した。このゴルフクラブは、詳しくは、撓みを生じると共にねじれが生じる異方性シャフ卜の先端に、スイング時の撓みによりシャフトが所望角度捩じれてクラブヘッドのフェース面の法線の向きがボールを飛球させるべき方向に向くようにクラブヘッドをそのフェース面が特定方向を向くように取り付けるものである。
【0008】
上記特願平9−146950号では、異方性シャフトを、シャフトの周方向の0゜≦θ<180゜の部分(第一半周部)と、180゜≦θ<360゜の部分(第二半周部)に、強化繊維をシャフトの軸方向に対して互いに逆方向に傾斜させた半周幅プリプレグを巻き付け、これら2つの半周幅プリプレグからなる一周分のプリプレグ(逆方向傾斜2分割層)を複数巻き付けて製造している。しかしながら、この方法では、シャフトの1周当たりのプリプレグの第一半周部と第二半周部の境界に強化繊維の不連続部分(プリプレグの継ぎ目:分割ライン)が形成されてしまい、該不連続部分でシャフトの強度が低下し、また、一周当りに半周幅プリプレグを2枚巻付けるので製造時間が長くなり、かつ、製品の特性バラツキが起こりやすくなるという欠点がある。
【0009】
また、特開平10−71220号公報においても、シャフトを横断面にて2つの円弧に2分割して、シャフトの長手方向(軸線方向)に沿った2つ領域に区画し、該2つの領域に互いに繊維方向、繊維量、樹脂含浸量等が異なる半周幅プリプレグを積層して、上記と同様の撓みを生じると共にねじれが生じる(しなりと同時に軸の回りにねじれが生じる)ゴルフクラブ用シャフトが提案されている。しかし、該シャフトにおいても2つの円弧に2分割して、シャフトの長手方向(軸線方向)に沿った区画された2つ領域に半周幅プリプレグを積層しているので、上記と同様にシャフトの1周当たりのプリプレグに強化繊維の不連続部分(プリプレグの継ぎ目:分割ライン)が形成され、強度低下及び製品の特性バラツキを生じてしまう。
【0010】
そこで、本件出願人は特願平9−242340号で上記半周幅プリプレグをシャフトの1周当たり2枚巻き付けてシャフトの横断面に分割ラインが形成されてしまう異方性シャフトの欠点を解消したゴルフクラブシャフト及びその製造方法を提案をしている。
【0011】
このゴルフクラブシャフト及びその製造方法は、強化繊維がシャフトの軸方向に対してほぼ直角に配向するフープ層を逆方向傾斜2分割層の第1半周部と第2半周部の境界部に重ねて積層することで該第1半周部と第2半周部の境界部(強化繊維の不連続部分)における強度低下を抑制し、製造時には、上記フープ層に逆方向傾斜2分割層を構成する2つの半周幅プリプレグを貼り付けた複合プリプレグを予め作製し、これを成形用の芯材(マンドレル)の外周に巻き付けることで製造時間を短縮し、かつ、製品特性のバラツキを軽減している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特願平9−242340号の提案では、確かに、フープ層を用いない場合に比べてシャフトの強度及び生産性を向上することができるが、プリプレグのシャフト1周の巻き付け分にプリプレグの継ぎ目(半周幅プリプレグの境界部)が存在することには変わりなく未だ強度が弱い。
【0013】
強度向上のためには、上記プリプレグの継ぎ目の部分において、一方と他方のプリプレグの端部を隙間を空けることなく、かつ、重なり合うことなく、突き合わせることが理想的であるが、量産を目的とした製造現場において、全ての生産品をそのような理想的な状態で突き合わせるのは事実上困難であり、個体間のバラツキを避けることができない。換言すれば、継ぎ目を上記のような理想的な状態にしようと思えば、熟練した作業者が時間と労力を惜しまずに作業する必要があり、生産性を大きく低下させることになる。また、たとえ、隙間を空けることなく突き合わせることができても、継ぎ目が存在すること自体、シャフトの耐久性向上の観点からは無視できない。
【0014】
また、従来の異方性をもたない(弾性主軸と幾何学的主軸が一致している)ノーマルシャフトの場合、シャフト周方向で均質な物性を得るため、半周幅ごとに材料を変えるということはなく、最低でも1周分のプリプレグを巻付けるが、上記異方性シャフトの場合、半周分のプリプレグを用いるので、同量のプリプレグを使用してシャフトを作る場合、巻き付けるプリプレグの総数が多くなり、また、一周分毎に2枚のプリプレグを突き合わせる必要があると共に半周長プリプレグの幅が細く取り扱いが面倒なため、生産性が大きく低下してしまう。
【0015】
ゴルフクラブ用シャフトは、軽量であるほうが、飛距離向上のために有利であることは言うまでもない。上級者、プロ、腕の筋力が強い一部のプレーヤーでは問題なくとも、一般の多くのアマチュアプレーヤーの場合、シャフトが重いとヘッドスピードが上がらず、飛距離が伸びない。このため、従来の異方性を有しないノーマルシャフトにおいてはプリプレグ材料の改良と製造技術の進歩により日々軽量化が進んでいる。よって、上記異方性シャフトにおいても強度及び生産性の向上のみならず軽量化が課題となっている。
【0016】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、撓むと共に捩じれが生じる異方性を有するゴルフクラブ用シャフトの強度及び生産性の向上と軽量化を図ることを課題としている。
【0017】
【発明を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、繊維強化樹脂層の積層体からなるゴルフクラブ用シャフトであって、上記繊維強化樹脂層として、繊維角度をシャフトの軸線に対して20°〜35°の角度で互いに逆方向に傾斜させた第1アングル層と第2アングル層とからなるアングル層を複数組備え、各第1アングル層の巻き始め位置は周方向において統一されていると共に、各第2アングル層の巻き始め位置は周方向において統一されており、
上記第1アングル層及び第2アングル層を、シャフト横断面層にて1周以下で分割せずに1.5周巻回し、かつ、第1アングル層と第2アングル層の巻き始めの位置を互いに180°ずらせ、シャフト横断面において、2層の第1アングル層と1層の第2アングル層を積層した部分と、1層の第1アングル層と2層の第2アングル層を積層した部分とを設けたことを特徴とするゴルフクラブ用シャフトを提供している。
【0018】
上記構成とすると、1.5周幅のアングル層を巻回するだけで、上記2層の第1アングル層と1層の第2アングル層を積層した部分と、1層の第1アングル層と2層の第2アングル層を積層した部分が、一方がシャフトの周方向の第1半周部(0゜≦θ<180゜の部分)に他方がシャフトの周方向の第2半周部(180゜≦θ<360゜の部分)に配置し、両者間で互いに層構成(強化繊維の配向状態)が相違することとなる。よって、従来のように、シャフト1周当たりを強化繊維がシャフト軸に対して互いに逆方向に傾斜する半周幅のアングル層(プリプレグ)で分割することなく、シャフトは撓みを生じると共にねじれが生じる異方性を奏するものとなる。よって、シャフト1周当たりにアングル層の継ぎ目が存在せず、シャフトの強度を向上させることができる。
【0019】
また、半周幅のプリプレグを用いないので、半周幅のプリプレグ同士の突き合わせ作業がなく、製造時間を短縮でき生産性が向上する。
【0020】
前記従来の強化繊維を互いに逆方向に傾斜させた半周幅のプリプレグを、第一半周部(0゜≦θ<180゜の部分)と第二半周部(180゜≦θ<360゜の部分)にそれぞれ巻付けた異方性シャフトでは、半周幅のプリプレグの強化繊維のシャフトの軸線に対する傾斜角度を40°〜45°に設定している。これは、異方性を持たないノーマルシャフトにおいてシャフトのねじり剛性及びねじり強度を確保するために設けるバイアス層(強化繊維をシャフトの軸線に対して傾斜させている層)の強化繊維の傾斜角度は一般に40°〜45°で、異方性を付与する半周幅のプリプレグの強化繊維の配向角度を改めて検討することなく、上記バイアス層の強化繊維の傾斜角度(40°〜45°)をそのまま適用していたためである。これに対して、本発明では、上記第1アングル層と第2アングル層の強化繊維のシャフトの軸線に対する傾斜角度(配向角度)を20°〜35°に設定しているので、傾斜角度(配向角度)をこれ以外の他の角度に設定した場合に比べて、一定加重をかけた時のシャフトのねじれ量が大きく、しかも、シャフトの曲げ剛性が高くなる。よって、シャフト全体の繊維強化樹脂層(プリプレグ)の層数を少なくして、異方性と高い曲げ剛性を備えたシャフトを構成でき、従来の異方性シャフトよりも軽量化を図ることができる。
【0021】
本発明の異方性シャフトは、前記したように、第1アングル層と第2アングル層とからなるアングル層を複数組備えており、各第1アングル層の巻き始め位置は周方向において統一されており、各第2アングル層の巻き始め位置は周方向において統一されている。これにより、各アングル層の構成が等価となり、1つのアングル層で発現される異方性が他のアングル層で発現される異方性によってうち消されてしまうことが防がれる。従って、効率よく異方性を発現させることが出来る。
本発明の異方性シャフトでは、上記繊維強化樹脂層として、上記アングル層以外に繊維角度をシャフト軸線に対して90°のフープ層と、繊維角度をシャフト軸線に対して0°としたストレート層とを設け、上記フープ層とストレート層を、上記第1及び第2アングル層の巻き始め周方向の位置と90°ずらせてシャフト周方向に1以上の整数回巻き付け、上記第1及び第2アングル層の巻き始めの分割ラインが、上記フープ層とストレート層とで分割されない構成としているのが好ましい。これにより、シャフトの強度が更に向上する。
【0022】
また、本発明の異方性シャフトでは、上記第1アングル層の巻き終わりの端に、第2アングル層の巻き始め端を連続させて巻回して、第1アングル層の外周に直接第2アングル層を配置し、上記第2アングル層の外周に上記フープ層を配置し、該フープ層の外周で、かつ、シャフトの最表面に上記ストレート層を配置しているのが好ましい。これにより、上記2層の第1アングル層と1層の第2アングル層を積層した部分と1層の第1アングル層と2層の第2アングル層を積層した部分が大きく離れることなく対向させることができ、シャフトにより効果的に異方性を付与することができる。
【0023】
本発明において、繊維強化樹脂としては、補強繊維としてガラス繊維、炭素繊維、各種有機繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、および/又は、これらの混合物からなる繊維、織布あるいはマット等を用いることができる。また、樹脂としてポリアミド、エポキシ、ポリエステル等の各種樹脂を用いるこができる。
【0024】
また、ゴルフクラブ用シャフト全体を繊維強化樹脂層のみで形成してもよいが、繊維強化樹脂層以外に繊維強化ゴム層、配向性を有するゴム層等の繊維強化樹脂層以外の異方性を有する材料層を組み合わせてもよい。また、繊維を含有しない樹脂やゴムを一部に組み合わせてもよい。
【0025】
また、シャフトに撓みとともに捩じれを生じさせるアングル層部分はシャフトの軸方向の少なくとも一部に設ければよく、すなわち、シャフトの軸方向の全長に対して設けても部分的に設けてもよい。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例と比較例により更に詳しく説明する。
表1左欄に示すスペックで実施例1、2と比較例1〜3のゴルフクラブ用シャフトを作製した。
【0027】
【表1】
【0028】
また、図1(A)(B)は実施例1のシャフトを構成するプリプレグの展開状態と巻回状態を示し、同様に、図2(A)(B)〜図5(A)(B)はそれぞれ実施例2、比較例1〜3のシャフトを構成するプリプレグの展開状態と巻回状態を示している。
【0029】
上記図1(A)〜図5(A)に示す各プリプレグに付している数値はその強化繊維のシャフトの軸に対する配向角度である。また、図中の最下位置に示す3角形状のプリプレグはクラブヘッドを取り付けるシャフトの細径の端部に巻きつける補強用のプリプレグである。
【0030】
上記実施例及び比較例で用いている強化繊維のシャフトの軸に対する配向角度が0°、−20°、+20°、−35°、+35°、−45°、+45°のプリプレグは全て東レ(株)製の炭素繊維強化樹脂プリプレグ8055S−12(厚み0.1053mm、炭素繊維含有率76wt%、CF引張り弾性率30,000kg、CF引っ張り強度560kgf)を使用し、強化繊維の配向角度が90°のプリプレグ(前記特願平9−242340号の提案によるフープ層に対応するもの)は東レ(株)製の805−3(厚み0.0342mm、炭素繊維含有率60wt%、CF引張り弾性率30,000kg、CF引っ張り強度410kgf)を使用した。
【0031】
表1中のアングル層とはシャフトに異方性を生じせしめるプリプレグであり、アングル層の巻回数とは該プリプレグをシャフト周方向の何周分に巻いているかを示している。また、アングル層角度はアングル層の強化繊維のシャフト軸に対する傾斜角度である。異方性付与方式の0.5方式とは従来の強化繊維がシャフトの軸に対して互いに逆方向に傾斜した2つの半周幅プリプレグ(半周幅アングル層)をシャフトの周方向の第一半周部(0゜≦θ<180゜の部分)と第二半周部(180゜≦θ<360゜の部分)にそれぞれ巻き付けてシャフトに異方性を付与する方式であり、1.5方式とは本発明で採用している強化繊維がシャフトの軸に対して互いに逆方向に傾斜した第1アングル層と第2アングル層をシャフト周方向の180°ずれた位置から同一方向に1.5周巻付けてシャフトに異方性を付与する方式である。
【0032】
表1に示すように、比較例1は0.5方式の異方性シャフト、実施例1、2及び比較例2、3は1.5方式の異方性シャフトで、これら全てのシャフトはいずれもアングル層の巻回数を2周にして異方性が生じる条件を近似させている。また、シャフトの長さ(全長)は1143mmとした。
【0033】
比較例1のシャフト(図3(A)(B))において、プリプレグ3A、3Bは強化繊維のシャフトの軸に対する配向角度(傾斜角度)が−45°と45°の半周幅プリプレグ(アングル層)で、それそれを第1半周部(0゜≦θ<180゜の部分)と第2半周部(180゜≦θ<360゜)に2層設けている。また、プリプレグ3C、3Dは強化繊維のシャフトの軸に対する配向角度(傾斜角度)が−45°と45°の、それぞれが二周巻きされる二周幅プリプレグ、プリプレグ3Eは強化繊維がシャフトの軸に対して直交して配向する一周幅プリプレグ、プリプレグ3Dは強化繊維がシャフトの軸と平行に配向する二周幅プリプレグである。シャフトは2周分の半周幅プリプレグ3A、3Bにより異方性が付与されている。
【0034】
比較例2(図4(A)(B))において、プリプレグ4A、4Bは強化繊維のシャフトの軸に対する配向角度(傾斜角度)が−45°と45°の1.5周幅プリプレグで、それぞれを2枚づつ用い、シャフト周方向の180°ずれた位置から巻回している。また、プリプレグ4Cは強化繊維がシャフトの軸に対して直交して配向する一周幅プリプレグ、プリプレグ4Dは強化繊維がシャフトの軸と平行に配向する二周幅プリプレグである。シャフトは、プリプレグ4Aの巻き始めの0.5周分(太線部分)と巻き終わりの0.5周分(太線部分)とプリプレグ4Bの中間の0.5周分(細線部分)が積層した第1積層部分40Aと、プリプレグ4Bの巻き始めの0.5周分(太線部分)と巻き終わりの0.5周分(太線部分)とプリプレグ4Aの中間の0.5周分(細線部分)が積層した第2積層部分40Bとにより異方性が付与されている。
【0035】
比較例3(図5(A)(B))のシャフトは比較例2(図4(A)(B))のシャフトの最外周に更に強化繊維がシャフトの軸と平行に配向する二周長プリプレグ4Eと強化繊維がシャフトの軸と平行に配向する一周幅プリプレグ4Fを追加して巻付けたものである。
【0036】
実施例1のシャフト(図1(A)(B))において、プリプレグ1A、1Bは強化繊維のシャフトの軸に対する配向角度(傾斜角度)が−35°と35°の1.5周幅プリプレグで、それぞれを2枚づつ用い、シャフト周方向の180°ずれた位置から巻回している。すなわち、このシャフトは2組のアングル層を備えており、2つの第1アングル層の巻き始め位置は周方向において同一であり、2つの第2アングル層の巻き始め位置は周方向において同一である。この結果、2つの第1アングル層の巻き終わり位置は周方向において同一となっており、2つの第2アングル層の巻き終わり位置も周方向において同一となっている。また、プリプレグ1Cは強化繊維がシャフトの軸に対して直交して配向する一周幅プリプレグ、プリプレグ1Dは強化繊維がシャフトの軸と平行に配向する二周幅プリプレグである。シャフトはプリプレグ1Aの巻き始めの0.5周分(太線部分)と巻き終わりの0.5周分(太線部分)とプリプレグ1Bの中間の0.5周分(細線部分)が積層した第1積層部分11Aと、プリプレグ1Bの巻き始めの0.5周分(太線部分)と巻き終わりの0.5周分(太線部分)とプリプレグ1Aの中間の0.5周分(細線部分)が積層した第2積層部分11Bとにより異方性が付与されている。
【0037】
実施例2のシャフト(図2(A)(B))において、プリプレグ2A、2Bは強化繊維のシャフトの軸に対する配向角度(傾斜角度)が−20°と20°の1.5周幅プリプレグで、それぞれを2枚づつ用い、シャフト周方向の180°すれた位置から巻回している。すなわち、このシャフトは2組のアングル層を備えており、2つの第1アングル層の巻き始め位置は周方向において同一であり、2つの第2アングル層の巻き始め位置は周方向において同一である。また、プリプレグ2Cはプリプレグ1Cと同じ強化繊維がシャフトの軸に対して直交して配向する一周幅プリプレグ、プリプレグ2Dはプリプレグ1Dと同じ強化繊維がシャフトの軸と平行に配向する二周幅プリプレグである。シャフトはプリプレグ2Aの巻き始めの0.5周分(太線部分)と巻き終わりの0.5周分(太線部分)とプリプレグ2Bの中間の0.5周分(細線部分)が積層した第1積層部分12Aと、プリプレグ2Bの巻き始めの0.5周分(太線部分)と巻き終わりの0.5周分(太線部分)とプリプレグ2Aの中間の0.5周分(細線部分)が積層した第2積層部分12Bとにより異方性が付与されている。
【0038】
実施例1、2のシャフトは異方層を形成するプリプレグの強化繊維の配向角度(−35°と35°、−20°と20°)を比較例2のシャフトのそれ(−45°と45°)と相違させた以外、比較例2のシャフトと同一構造である。
【0039】
以上の全ての実施例及び比較例のシャフトは強化繊維がシャフト軸に対して傾斜配向するプリプレグの総巻周を6周にして、巻き付け量を統一している。
【0040】
上記実施例及び比較例のシャフトのそれぞれについて、以下の曲げねじれ量、フレックス(曲げ剛性)、ねじれ強度Nm度を測定した。その結果が表1右欄である。
【0041】
(曲げねじれ量)
図6(A)(B)に示すように、シャフトSの太径側端から150mmの長さ部分をチャキング装置200で把持し、シャフトSを水平に保持する一方、シャフトSの細径側端から20mmの箇所に錘51を吊り下げてシャフトを撓ませ、シャフトSの細径側端から15mmの上端にシャフトSの軸に対して直交し、かつ、水平となるように取り付けた長さ140mmの標識棒50の回転角度(θ)を読みとって曲げねじれ量を測定した。この値はシャフトの周方向で変化するが、ここでの曲げねじれ量は、そのうちの最大値であり、図7に示すように、対向する異方層のそれぞれの中心を結ぶ線が鉛直方向になるようにシャフトを曲げて測定したものである。
【0042】
(フレックス)
図8に示すように、シャフトSの大径側を該大径側の端部から104mm離れたA位置と該A位置から140mm離れたB位置を2点支持して固定し、シャフトSの細径側の端部から129mm離れたC位置の下端に2.7kgの錘51をつり下げ、錘51に位置での撓み量を測定した。
【0043】
(ねじれ破壊強度)
製品安全協会の定める「ゴルフクラブ認定基準」に基づいて、図9に示すように、シャフトの両端の50mmの長さ部分を固定してトルクを加えてシャフトを破壊した時のトルク(Nm)と回転角度(度)の積を評価値とした。
【0044】
比較例1のシャフトは従来の半周幅プリプレグを用いる0.5方式で異方性を付与したシャフト、比較例2のシャフトは今回提案した1.5周幅プリプレグを用いる1.5方式で異方性を付与したシャフトである。これらは共にアングル層における強化繊維の配向角度(−45°、45°)が同じでシャフト重量を55gにしている。従来の半周幅プリプレグを用いる0.5方式で異方性を付与した比較例1のシャフトに比べ、今回提案した1.5周幅プリプレグを用いる1.5方式で異方性を付与した比較例2のシャフトはねじれ強度が若干向上している。また、比較例2のシャフトはプリプレグの巻回数が少なく、また、半周幅プリプレグの突き合わせ作業も不要であり、比較例1のシャフトよりも製造時間を短縮できた。しかし、双方のシャフトともフレックスの値が160mmを越えて大きく、曲げ剛性不足であり、一般的なゴルファーには柔らかすぎて使用しづらい。また、比較例2のシャフトのねじれ強度も未だ満足できるレベルのものではい。
【0045】
比較例3のシャフトは上記比較例2のシャフトの曲げ剛性不足を解消するためにストレート層(強化繊維がシャフトの軸と平行に配向する二周幅プリプレグ4E)を最外周に追加したものである。これにより、ねじれ破壊強度が増大するとともに、フレックスの値が113mmまで低下して、曲げ剛性不足が解消されている。しかしながら、ストレート層を設けたことでシャフト重量が71gまで増大している。
【0046】
なお、シャフトの曲げ剛性の増大には上記比較例3のようなプリプレグの巻き付け量を増加する以外に、プリプレグの強化繊維の弾性率を高める方法もあるが、プリプレグの強化繊維の弾性率を高めるとシャフトの曲げ強度が低下することが知られており、55g程度の軽量シャフトにおいては曲げ強度の低下の度合いが大きく、シャフトの強度低下が顕著になる。
【0047】
実施例1、2のシャフトはアングル層であるプリプレグの強化繊維の配向角度(−35°と35°、−20°と20°)を比較例2のシャフトのそれ(−45°と45°)と相違させた以外、比較例2のシャフトと同一構造である。これら実施例1、2のシャフトの重量は比較例2のシャフトと同じ55gでありながら、フレックスの値が111mmと86mmで比較例2のシャフトのそれ(113m)よりも更に小さくなって曲げ剛性が高くなり、また、ねじれ破壊強度も更に増大している。
【0048】
以上の結果から、シャフトの軸に対して互いに逆方向から強化繊維が角度20°〜35°で傾斜配向する第1アングル層と第2アングル層をシャフト周方向の180°ずれた位置から、シャフト横断面層にて1周以下で分割せずに1.5周巻回して、2層の第1アングル層と1層の第2アングル層を積層した部分と、1層の第1アングル層と2層の第2アングル層を積層した部分を設けることにより、従来よりも軽量で実使用に適した十分な曲げ剛性を有する高強度の異方性のゴルフクラブ用シャフトが得られることが分かる。
【0049】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、シャフト1周当たりに半周幅に分割したアングル層を2枚巻き付けることなく、強化繊維がシャフトの軸線に対して20°〜35°で傾斜するアングル層をシャフト横断面にて1周以下で分割せずに1.5周巻回することにより、シャフトに異方性を付与でき、しかも、シャフトの曲げ剛性を最大限に高めることができる。よって、シャフト横断面にて繊維強化樹脂層を2個の円弧に分割することなく、少ない繊維強化樹脂層の巻付け量で異方性シャフトを構成でき、従来よりも軽量で十分な曲げ剛性を有すると共に高強度の異方性ゴルフクラブ用シャフトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)(B)は実施例1のシャフトを構成するプリプレグの展開図と巻回状態を示す図である。
【図2】(A)(B)は実施例2のシャフトを構成するプリプレグの展開図と巻回状態を示す図である。
【図3】(A)(B)は比較例1のシャフトを構成するプリプレグの展開図と巻回状態を示す図である。
【図4】(A)(B)は比較例2のシャフトを構成するプリプレグの展開図と巻回状態を示す図である。
【図5】(A)(B)は比較例3のシャフトを構成するプリプレグの展開図と巻回状態を示す図である。
【図6】(A)(B)はシャフトの曲げねじれ量の測定方法を示す図である。
【図7】図6の曲げねじれ量の測定方法における加重方向と異方層の位置の関係を示した図である。
【図8】シャフトの曲げ強度試験を示す模式図である。
【図9】シャフトのねじれ破壊強度を示す模式図である。
【図10】異方性を有する中空シャフトの弾性主軸と幾何学的主軸の関係を示す概略図である。
【図11】(A)は異方性を有する中空シャフトに荷重を付加した状態を示す側面図、(B)は異方性を有する中空シャフトの変形挙動を示す概略図である。
【符号の説明】
1A〜1D、2A〜2D、3A〜3F、4A〜4F プリプレグ
11A 第1積層部分
11B 第2積層部分
50 標識棒
51 錘
S シャフト
Claims (3)
- 繊維強化樹脂層の積層体からなるゴルフクラブ用シャフトであって、上記繊維強化樹脂層として、繊維角度をシャフトの軸線に対して20°〜35°の角度で互いに逆方向に傾斜させた第1アングル層と第2アングル層とからなるアングル層を複数組備え、各第1アングル層の巻き始め位置は周方向において統一されていると共に、各第2アングル層の巻き始め位置は周方向において統一されており、
上記第1アングル層及び第2アングル層を、シャフト横断面にて1周以下で分割せずに1.5周巻回し、かつ、第1アングル層と第2アングル層の巻き始めの位置を互いに180°ずらせ、シャフト横断面において、2層の第1アングル層と1層の第2アングル層を積層した部分と、1層の第1アングル層と2層の第2アングル層を積層した部分とを設け、これら両部分のアングル層の積層構成を異ならせていることを特徴とするゴルフクラブ用シャフト。 - 繊維強化樹脂層の積層体からなるゴルフクラブ用シャフトであって、上記繊維強化樹脂層として、繊維角度をシャフトの軸線に対して20°〜35°の角度で互いに逆方向に傾斜させた第1アングル層と第2アングル層とからなる1組または複数組のアングル層を備え、
上記第1アングル層及び第2アングル層を、シャフト横断面にて1周以下で分割せずに1.5周巻回し、かつ、第1アングル層と第2アングル層の巻き始めの位置を互いに180°ずらせ、シャフト横断面において、2層の第1アングル層と1層の第2アングル層を積層した部分と、1層の第1アングル層と2層の第2アングル層を積層した部分とを設け、これら両部分のアングル層の積層構成を異ならせ、
さらに、上記繊維強化樹脂層として、繊維角度をシャフト軸線に対して90°のフープ層と、繊維角度をシャフト軸線に対して0°としたストレート層とを備え、
上記フープ層とストレート層を、上記第1及び第2アングル層の巻き始め周方向の位置と90°ずらせてシャフト周方向に1以上の整数回巻き付け、上記第1及び第2アングル層の巻き始めの分割ラインが、上記フープ層とストレート層とで分割されない構成としていることを特徴とするゴルフクラブ用シャフト。 - 上記第1アングル層の巻き終わりの端に、第2アングル層の巻き始め端を連続させて巻回して、第1アングル層の外周に直接第2アングル層を配置し、上記第2アングル層の外周に上記フープ層を配置し、該フープ層の外周で、かつ、シャフトの最表面に上記ストレート層を配置している請求項2に記載のゴルフクラブ用シャフト。
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