JP3545787B2 - Al合金スパッタ用ターゲットおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、金属薄膜の製造に用いるAl合金スパッタ用ターゲットおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種光記録媒体が実用化されているが、そのうち、光磁気記録媒体は情報容量が大きい点で有望視され、近年その開発進歩が著しい。光磁気記録媒体は、透明基板上に、誘電体層を介して記録層磁性膜を設けて構成されている。そして、最近では、記録層上に第2の誘電体層を設け、記録層を一対の誘電体層で挟持するとともに、その最上層に金属反射層を設け、再生信号の出力を高めている。
【0003】
このような金属反射層としては、光反射率やコストの点でAlないしAl合金が有望とされている。そのうちでも特公平5−24571号公報によれば、特にAl−Ni合金が、Al単独の反射層で発生する白濁を防止するためにすぐれているとされている。そして、特開昭61−194664号公報では、Al−Ni合金のうち、Niを2〜10at%含むものが記録感度や再生のC/Nの点ですぐれているとされている。このような金属反射層の成膜には、一般に製造の容易さ等の理由でスパッタ法が用いられている。
【0004】
このような金属反射層では、その熱伝導率を低下させることで記録感度をさらに高めることができる。そこで、Al合金の熱伝導率を低下させるためには、Ni含有量を増加させたスパッタ用ターゲットを用い、熱伝導率を低下させた金属反射層を成膜することが望ましい。
【0005】
しかし、例えばNi含有量を増加させたAl−Ni合金スパッタ用ターゲットは、従来法である押出し成形法により製造した場合、膜質が均一とならず、Niリッチ相がターゲット面上で偏析してしまう。そして、このようなAl−Ni合金スパッタ用ターゲットを用いて成膜した金属反射層中のNiの含有量分布が不均一になりやすく、金属反射層としての特性のバラツキ等が生じ、所望の特性が得られない。
【0006】
このようなAl−Ni合金の他、Alと、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、CuおよびZn等とその合金をターゲットとするときも同様の現象が生じる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、例えば光磁気記録媒体等の金属反射層などの成膜に用いたとき、膜中の合金組成が均一で、金属反射層等の特性のバラツキが少なく、さらに合金構成成分の含有率を高くすることが可能で、金属反射層等の熱伝導率を低下させることができ、例えばより一層高い記録感度をもつ光磁気記録媒体等の光記録媒体が得られる、Al合金スパッタ用ターゲットとその製造方法とを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような目的は下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) Al−M合金(ただしMは、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnのうちの1種以上である)から形成されており、
鏡面加工をして走査型電子顕微鏡観察を行ったとき、平均粒径0.01〜2μm の前記Mリッチの微細粒を含有するグレインをもち、
このグレイン周囲にバウンダリー層を有し、このバウンダリー層中にMリッチの第2の微細粒を有するAl合金スパッタ用ターゲット。
(2) 前記Mの含有量が1〜40wt%である上記(1)のAl合金スパッタ用ターゲット。
(3) 前記MがNiであり、Ni含有量2〜40wt%のAl−Ni合金から形成されている上記(1)または(2)のAl合金スパッタ用ターゲット。
(4) 前記グレインの平均径が1μm 〜1mmである上記(1)〜(3)のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
(5) 前記微細粒が、前記グレイン中に面積比で5〜80%存在する上記(1)〜(4)のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
(6) 前記第2の微細粒の平均粒径が0.1〜10μm である上記(1)〜(5)のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
(7) 前記第2の微細粒が、前記バウンダリー層中に面積比で5〜80%存在する上記(1)〜(6)のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
(8) Al−M合金の粉末を加圧成形した上記(1)〜(7)のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
(9) 光記録媒体の反射膜の成膜に用いる上記(1)〜(8)のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
(10) Al−M合金(ただしMは、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnのうちの1種以上である)を溶融して高速急冷法により粉末とし、得られたAl−M合金の粉末を、400〜650℃の温度まで加熱しながら加圧成形するAl合金スパッタ用ターゲットの製造方法。
(11) 前記高速急冷法により得られた微細粉末に、さらにMリッチの微細粒を添加して加圧成形する上記(10)のAl合金スパッタ用ターゲットの製造方法。
(12) 前記Al−M合金の粉末中にMリッチの微細粒が存在する上記(10)または(11)のAl合金スパッタ用ターゲットの製造方法。
【0009】
【作用および効果】
本発明のスパッタ用ターゲットは、Al−M合金(ただしMは、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnのうちの1種以上である)である。そして、好ましくはAl−M合金を溶融して高速急冷法により粉末とし、得られた粉末を、好ましくはAlの融点未満の温度で加圧成形して得られるもので、平均粒径5μm 以下のMリッチの微細粒を含有するグレインをもつ。この場合、微細粒は全体のM含有量よりもM過剰の金属間化合物を主体とし、全体のMの含有量は、好ましくは1〜40wt%である。このターゲットは、従来の押出し成形法により製造したAl−M合金スパッタ用ターゲットと比較して、Mの組成が均質である。すなわち、例えばMとしてNiを用いたとき、直径5インチ(約127mm)のAl−Ni合金スパッタ用ターゲットのスパッタ面を、縦および横方向にそれぞれ直径の1/6の長さで等間隔に区切り、得られた32区画のNiの平均含有量を測定すると、押出し成形法によるターゲットでは、Niリッチ相の微細粒は比較的均一に分布しているが、一軸方向に配向するので区画ごとのNiの平均含有量が変化しており、区画ごとの平均含有量のバラツキは全体としてのNi含有量増加させると著しくバラツいてしまう。すなわち、押出し成形法では、Ni含有量を例えば6wt%超とすると、押出し方向に縞状にNiリッチ相が偏析・偏在し、前記の区画ごとの平均含有量が同一のターゲットを製造することはできない。一方、本発明のAl−Ni合金スパッタ用ターゲットでは、Niリッチの微細粒はグレイン内部、あるいはこれに加えグレイン近傍のバウンダリー層に偏在してはいるが、前記の区画内のNiの平均含有量は、Ni含有量が多くても区画間でほぼ同一である。
【0010】
すなわち、本発明によれば、より一層高いM含有量とするときにも、M量が均質なAl−M合金スパッタ用ターゲットを製造することができる。従って、本発明のAl−M合金スパッタ用ターゲットを用いることで、M含有率を多くして、熱伝導率が低く、より一層高い記録感度をもつ光磁気記録媒体用等の金属反射層等の成膜が可能となる。
【0011】
また、光磁気記録媒体、例えばミニディスクでは、ブロックエラーレート(BLER)が特に3.0×10-2以下となる記録パワー下限値(Pmin )に対し、Pmin ×1.4として表わされる最適記録パワー(P0 )、すなわち光磁気記録媒体に記録するための記録書き込み光の最適パワーが、低ければ低いほど記録感度は高くなる。このP0 は、例えばMとしてNiを用いたとき、金属反射層厚が同じであれば、Al−Ni合金製金属反射層のNi含有率が高いほど低下し、金属反射層厚が薄いほど低下する。このときNi含有率が高いほど金属反射層厚の変化に対するP0 の変化も小さくなる。すなわち、金属反射層の製造に際し、膜厚を厚くしてもP0 は高くならず、製造上の膜厚制御マージンが広がり、また膜厚を薄くせざるをえなくなって反射性が低下したり、高温高湿下での耐食性が低下するということも無くなり製造上の大きなメリットとなる。
【0012】
またさらに、本発明あるいは押出し成形法により製造したAl合金スパッタ用ターゲットを用いてその直上に基板固定してスパッタを行ない、得られた金属層について、ターゲット中心から径方向にM含有率を測定すると、押出し成形法によるターゲットを用いた場合、金属層中のM含有率は、ターゲット中心付近でM含有率が低く、測定位置を径方向に移動していくと、M含有率は大きく増加していく。しかし、本発明のターゲットを用いた場合には、ターゲット中心付近では、ターゲットのM含有率とほぼ同等の薄膜が安定して得られ、また金属層中のM含有率の径方向の変化も格段と小さい。
【0013】
すなわち、本発明のAl−M合金スパッタ用ターゲットを用いることで、スパッタの際のターゲット中心から径方向の位置の違いによる金属反射層中のM含有率の変化が小さく、特にターゲット直上付近での薄膜中のM含有率がターゲット組成とほぼ等しいという特段の効果が合わせて得られる。このような効果は、本発明のターゲットによりはじめて得られた効果である。
【0014】
【具体的構成】
以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。
【0015】
本発明のAl合金スパッタ用ターゲットは、Al−M合金(ただしMは、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnのうちの1種以上である)から形成されており、平均粒径5μm以下、より好ましくは0.01〜2μmの前記Mリッチの微細粒を含有するグレインをもつ。そして、好ましくはMの含有量は1〜40wt%である。M含有量が少なすぎると、本発明の実効が少なくなり、また例えば金属反射層を成膜したとき、金属反射層の熱伝導率が高くなりやすく、媒体の記録感度が低下してくる。また多すぎても本発明の実効が少なくなる他、例えば金属反射層として良好なアモルファス状態や結晶状態を維持できなくなったりして、金属反射層としての反射率が低下しやすくなり、媒体のC/N比も劣化してくる。
【0016】
次に、本発明のAl−M合金スパッタ用ターゲットのMとして最も好ましいNiを用い、特にミニディスク等の光磁気記録媒体の金属反射層を成膜する場合を例として説明する。なお、Ni以外の前記Mでも、そのマイクロストラクチャー等は以下と同様である。
【0017】
本発明のAl−M合金スパッタ用ターゲットのMとしてNiを用いる場合は、Ni含有量が2〜40wt%、より好ましくは3〜20wt%、特に6〜10wt%であることが好ましい。Ni含有量が少なすぎると、例えば金属反射層を成膜したとき、前記のように、金属反射層の熱伝導率が高くなりやすく、記録感度が低下してくる。また多すぎると、金属反射層の反射率が低下しやすくなり、C/N比が劣化してくる。
【0018】
このような範囲でNiを含有し、後述する方法で製造した本発明のAl−Ni合金スパッタ用ターゲットは、平均粒径5μm 以下、より好ましくは0.01〜2μm のNiリッチの微細粒を含有するグレインをもつ。すなわち、ターゲット表面を例えばダイアパウダーによりスズ定盤上でポリッシングして鏡面加工したのち、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行なうと、粒界が明確に確認されるグレインをもつ。本明細書において、Niリッチの微細粒を含有するグレインとは、このような処理で確認されるグレインをいう。一方、押出し成形法により製造したAl−Ni合金スパッタ用ターゲットでは、前記の鏡面加工後、さらに塩化鉄水溶液でエッチング加工を施してはじめてグレインが確認されることはあるが、前記の鏡面加工のみではグレインは確認されない。
【0019】
グレインの平均径は、好ましくは1μm 〜1mm、より好ましくは2〜100μm である。この場合、平均粒径や平均径は、SEM視野下での50個程度のグレインの最大長辺の平均で表わす。そして、Niリッチ(Mリッチ)微細粒はSEM視野下、一定量グレイン内に存在し、好ましくはグレイン中に面積比で5〜80%、より好ましくは15〜50%存在する。そして、グレインのほとんどが、主に球状あるいは偏平状に近い形状をもつ。
【0020】
さらに、このようなグレイン周囲には通常バウンダリー層が存在し、このバウンダリー層中にもNiリッチの第2の微細粒を有する。そしてこの第2の微細粒は、主にグレイン近傍に存在し、平均粒径としては0.1〜10μm 、より好ましくは2〜5μm で、バウンダリー層中に面積比で5〜80%、より好ましくは15〜60%存在する。これら、グレイン中のNiリッチの微細粒や、バウンダリー層中に存在する第2の微細粒は、主に金属間化合物NiAl3 を主体とし、さらに、Al−Ni合金中のNi含有量が25〜40wt%の場合、Ni2 Al3 やNiAl等の合金(金属間化合物)として存在することもある。これらは、X線回折(XRD)により確認することができる。なお、バウンダリー層の厚さは5〜20μm 程度、また、面積比は0〜30%、特に5〜20%であることが好ましい。ただし、後述する加圧成形法、特に加熱を伴なわない成形を行なう場合は、上記のようなバウンダリー層がほとんど存在せず、グレイン近傍にNiリッチの微細粒が存在する層のみ有する場合もある。この場合、Niリッチの微細粒とともに空隙が存在することもある。なお、このようなAl−Ni合金スパッタ用ターゲットのNiリッチの微細粒等は特にSEMよる組成像からの確認が有効である。また、このようなNiリッチ相を除く部分は、実質的にアルミニウム相であり、さらに、これらの組成成分のほかに、ターゲット組成中には原料の不純物等に由来する例えばSi、Fe、Cu等が1000ppm 程度以下、またOやN等が1000ppm 程度以下含まれていてもよい。
【0021】
以上では、前記MとしてNiを用いたときについて説明してきたが、Ni以外の金属を用いた場合のAl合金中の好ましいM含有量や、グレイン中のMリッチの微細粒およびバウンダリー層中に存在する第2の微細粒の、存在形態等を以下に示す。
【0022】
MがMgの場合、Al中のM含有量は2〜40wt%が好ましい。またMリッチの微細粒としては金属間化合物AlMgのβ相が偏析する。MがTiの場合、Al中のM含有量は2〜40wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にTiAl3が主体となる。MがZrの場合、Al中のM含有量は1〜30wt%が好ましい。また、Mリッチの微細粒は主にZrAl3が主体となる。MがHfの場合、Al中のM含有量は1〜30wt%が好ましい。MがVの場合、Al中のM含有量は1〜20wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にVAl6やVAl5が主体となる。MがNbまたはTaの場合、Al中のM含有量はいずれの場合も1〜30wt%が好ましい。MがCrの場合、Al中のM含有量は1〜20wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にCrAl7を主体とし、さらにM含有量が10〜20wt%の場合、Cr12Al11、CrAl4として存在することもある。MがMoの場合、Al中のM含有量は1〜20wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にMoAl12が主体となる。MがWの場合、Al中のM含有量は1〜20wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にWAl12が主体となる。MがMnの場合、Al中のM含有量は1〜30wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にMnAl6やMnAl4が主体となる。MがFeの場合、Al中のM含有量は2〜40wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にFeAl3やFe2Al5が主体となる。MがCoの場合、Al中のM含有量は1〜30wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主にCo2Al9を主体とし、さらにM含有量が20〜30wt%の場合、Co4Al13、Co2Al5として存在することもある。MがCuの場合、Al中のM含有量は1〜30wt%が好ましい。またMリッチの微細粒は主に金属間化合物AlCuのθ相が偏析する。MがZnの場合、Al中のM含有量は1〜30wt%が好ましい。またAl−ZnはZnの重力偏析が生じる。
【0023】
さらに、本発明のAl合金スパッタ用ターゲットでは、Al合金を形成するMは、例示したこれらの金属単独のみでなく、これらの金属が2種以上含まれたものであってもよい。
【0024】
本発明は、グレインの平均径やグレイン中のこのようなMリッチの微細粒の平均粒径や存在比率、さらにバウンダリー層中の第2の微細粒の平均粒径や存在比率を上記のように制御する。このようなMリッチ微細粒の分布は、グレイン内部およびその近傍に存在する点では微視的には局在的ではあるが、巨視的にはほぼ等方的である。従って、M含有量をより高いものとしても、前記の押出し成形法により得られるターゲットのような、M組成のバラツキがなく、M組成が均質なAl合金スパッタ用ターゲットが得られる。従って、媒体の反射層として用いる場合、C/N比の劣化なしに記録感度をより一層高くすることが可能で、さらに金属反射板の膜厚変化に対するP0 の変化が小さくなり、製造上のマージンが広いというメリットももつ金属反射層を得ることが可能となる。また、前記のように、スパッタの際のターゲット直上を中心とし、その中心からの位置による金属反射層中のM含有率の変化が少ないというすぐれた効果も得られる。このような効果は、Mとして前記いずれの金属を用いても得られるが、これらのMのうちではNiを用いると最も高い効果が得られる。
【0025】
他方、押出し成形法による合金ではこのようなグレインやバウンダリー層、さらにはMリッチの微細粒の局在的ではあるがほぼ等方的な分布は認められない。押出し成形法により得たターゲットを用いるスパッタにより得られた金属反射層は、ターゲット直上を中心とすると、その中心付近のM含有率が低くなる。さらに、金属反射層の径方向のM含有率はターゲット直上中心からはなれるにつれて増加する。さらに、ターゲットのM含有量が高くなるにつれて、Mリッチの微細粒がターゲット内で押出し方向と平行の縞状に不均一に分布するので、ターゲットのM含有量が一定しない。そのため、そのようなターゲットを用いて成膜した金属反射層では、均一なM含有率とはなりにくい。すなわち、用いるターゲットのM含有量を高くできないため、金属反射層のM含有率を高くできず、これを光磁気記録媒体としたとき、記録感度を高くすることができない。
【0026】
本発明のAl合金スパッタ用ターゲットは、前記のようなM含有量のAl−M合金を溶融して高速急冷法により粉末とし、得られた微粉末を加圧成形することで得ることができる。
【0027】
以下にMとしてNiを用いて本発明のAl合金スパッタ用ターゲットの製造方法を説明する。
【0028】
合金の原料としては、原料金属としてAlおよびNiを用い、Ni含有量が前記範囲となるように秤量して混合し、アークメルト法、高周波誘導溶解炉法等により700〜1000℃で溶融して高速急冷法により粉末とすればよい。高速急冷法としては、いずれの方法も用いることができ、各種冷却ロール法、遠心急冷法、アトマイズ法等を用いることができるが、球状あるいは偏平状の粉末を容易に得ることができることから、特にガスアトマイズ法が好ましい。用いるガスとしてはN2 またはAr、Heその他の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0029】
前記溶融に際し、MとしてNi以外の金属を用いる場合は、用いる溶融温度としては、700〜2000℃程度の範囲から、用いる金属により最適な温度を選択すればよい。
【0030】
また、粉末の大きさとしては、最大長辺が平均で1μm 〜1mm、より好ましくは2〜100μm である。大きすぎると高速急冷されにくく、Niリッチ粒が微粒子化しにくい。また小さすぎると加圧成形が難しくなる。
【0031】
得られた粉末は、加圧成形する。加圧成形する方法は、どのような方法であってもよく、たとえば通常の加圧成形法、ホットプレス法(HP)、あるいは熱間静圧プレス法(HIP)等を用いることができる。
【0032】
例えばHP法を用いる加圧成形法としては、得られた粉末を、例えばグラファイト製等の型に充填し、加圧成形する。加圧成形条件は、Alの融点以下の温度であって、通常は室温以上の温度で、より好ましくは400〜650℃で、100kg/cm2〜1000kg/cm2、5秒〜1時間行なえばよい。
【0033】
このとき、加熱後の冷却は、好ましくは100〜500℃/時間、より好ましくは300〜500℃/時間の速度で冷却する。冷却する速度が遅すぎると、例えばバウンダリー層等に含まれるNiリッチの微細粒の平均粒径が局部的に大きくなりすぎることがあり、また速すぎると、生産性が低下する。さらに、加圧成形時の温度が高すぎるとAlが溶融してしまい、Niリッチの微細粒を含有するグレインおよびバウンダリー層をもつ構造が消失する傾向がある。
【0034】
この際、加圧成形する方法としては、前記高速急冷法により得られた粉末に、さらにNiリッチの微細粒を添加して混合したのちに加圧成形してもよい。ここで添加するNiリッチの微細粒としては、例えばNiAl3 、Ni2 Al3 、NiAl、Ni3 Al等のNiを含有するAl合金(金属間化合物)やNiであって、平均粒径が0.1〜10μm 、より好ましくは2〜5μm である。この場合の加圧成形の条件としては、前記と同様であるが、例えば加圧を室温程度の温度で行う場合は特に、1〜5t/cm2 、1秒〜10分程度とすることが好ましい。Niリッチの微細粒を添加、混合して加圧成形する場合、加圧成形時の温度は、前記温度範囲で加熱しても、また加熱せずに例えば室温程度でおこなってもよいが、バウンダリー層や、その中にNiリッチ相を析出させる目的で加熱することが好ましい。なお、加圧成形時にバウンダリー層や、その中にNiリッチ相が析出する程度に加熱せずに圧粉する場合、グレイン間に空隙が存在する場合がある。
【0035】
なお、MとしてNiを例に製造方法を説明したが、Ni以外の前記M金属であっても同様である。また、前記高速急冷法により得られた粉末に、さらにMリッチの微細粒を添加して混合した後に加圧成形する場合、用いるMリッチの微細粒としては、前記Niリッチの微細粒以外に、前記高速急冷法の原料として用いた前記Mの金属とのAl合金や、前記Mであってよい。具体的には、前記した各M金属のAl合金や金属間化合物等および各M金属が挙げられる。
【0036】
また、用いるMリッチの微細粒の金属種は、複数であってもよく、さらに前記高速急冷法により得られた粉末に含まれるMの金属種と同一でなくてもよい。
【0037】
このようにして得られた本発明のAl合金スパッタ用ターゲットのグレインには、加圧成形方向と平行の方向と垂直の方向とで異方性を有することもあるが、グレイン中やバウンダリー層中に析出した微細粒には異方性が認められない。
【0038】
本発明のAl合金スパッタ用ターゲットは、例えば光記録媒体等の光記録媒体の金属反射層を成膜するためのスパッタ用ターゲットとして好適である。すなわち、光磁気記録媒体は、透明基板上に誘電体層を介してTb20Fe74Co6 等の記録層磁性膜を設けて構成されている。そして、最近では、記録層磁性膜上に第2の誘電体層を設け、記録層を一対の誘電体層で挟持するとともに、その最上層には金属反射層を設けて再生信号の出力を高めているが、このような金属反射層を成膜する際に好適に用いられる。
【0039】
本発明のAl合金スパッタ用ターゲットを用いて成膜した光磁気記録媒体等の光記録媒体の金属反射層の膜厚は400〜1500A 程度が好ましい。膜厚が薄すぎると金属反射層としての効果が無くなり、出力やC/Nが低下しやすい。また厚すぎると感度が低下する傾向がある。
【0040】
なお、これまで光磁気記録媒体を例に述べてきたが、本発明のAl合金スパッタ用ターゲットは、これ以外の各種光記録媒体の製造にも用いることができる。
【0041】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
実施例1
原料AlとNiとをNi含有量が6wt%および8wt%となるように秤量、混合し、それぞれ700℃で溶融した。これをそれぞれN2 ガスを用いるガスアトマイズ法により、平均粒径が50μm の粉末を得た。この粉末を、グラファイト製の型に充填し、640℃、130kg/cm2、10-2Torrで10分間加圧成形を行い、直径127mm、厚さ5mmの加圧成形体試料1(Ni含有量6wt%)および加圧成形体試料2(Ni含有量8wt%)を得た。
【0043】
得られた試料の表面を前述の方法で鏡面加工し、走査型電子顕微鏡(SEM)で得られた組成像を図1(Ni含有量6wt%)および図2(Ni含有量8wt%)に示す。それぞれ倍率の異なる組成像として(a)および(b)に示した。
【0044】
比較例1
Ni含有量を6wt%としたほかは実施例1と同様にして原料を700℃で溶融した後、450℃、押出比1/10で押出し成形を行い、比較試料1を得た。
【0045】
得られた試料の押出し方向に対して平行の方向の断面と、垂直の方向の断面とについて、実施例1と同様にしてSEMによる組成像を得、図3(押出し方向に平行)および図4(押出し方向に垂直)に示した。それぞれ倍率の異なる組成像として(a)および(b)に示した。
【0046】
図1および図2に示すように、表面を前述の方法で鏡面加工した本発明のAl−Ni合金スパッタ用ターゲットのSEMによる組成像では、白く示されているNiリッチの微細粒を含有するグレインが認められ、さらにグレイン近傍のバウンダリー層中に平均粒径の大きなNiリッチの第2の微細粒が存在することがわかる。これに対し、表面を前述の方法で鏡面加工しても、比較試料1では、図3および図4に示すように、グレインが認められない。
【0047】
実施例2
実施例1で得た加圧成形体試料1をターゲットとして用い、高周波マグネトロンスパッタにより、半径150mmのガラス製基板に対してスパッタを行って、膜厚600A のAl−Ni合金アモルファス薄膜(薄膜1)を成膜した。なお、RFパワーは750w とし、ターゲット中心と基板中心を一致させて直上固定とした。
【0048】
得られた薄膜の中心から径方向に、表1に示す部分のNi含有率を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
比較例2
比較例1で得られた比較試料1を用い、これを実施例1と同じサイズのスパッタ用比較試料1とした。このスパッタ用比較試料1を用いて実施例2と同様にして基板上にAl−Ni合金アモルファス薄膜を得た。得られた薄膜を比較薄膜1とし、実施例2と同様に薄膜の中心から径方向に、表1に示す部分のNi含有率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0051】
表1より明らかなように、比較薄膜1のNi含有率は、中心付近で低いことがわかる。一方、薄膜1では中心付近のNi含有率がターゲットのNi含有率に近く、さらに中心から径方向にNi含有率の変化が少ない。
【0052】
実施例3
Ni含有量を10wt%としたほかは実施例1と同様にして直径127mm、厚さ5mmの加圧成形体試料3(Ni含有量10wt%)を得た。
【0053】
実施例1と同様にして得た加圧成形体試料2と加圧成形体試料3とをそれぞれ10試料用い、実施例2と同じ条件でそれぞれ10個のAl−Ni合金アモルファス薄膜を成膜した。
【0054】
得られた各薄膜のターゲット中心位置のNi含有率を実施例2と同様に測定した。Ni含有率の平均値のバラツキ範囲を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
比較例3
Ni含有量を8wt%および10wt%としたほかは、比較例1と同様にして押出し成形法による比較試料2(Ni含有量8wt%)および比較試料3(Ni含有量10wt%)を得た。
【0057】
比較試料2と比較試料3とをそれぞれ10試料用い、実施例3と同様にしてAl−Ni合金アモルファス薄膜を成膜した。
【0058】
得られた各薄膜のターゲット直上中心位置のNi含有率を実施例3と同様に測定した。Ni含有率の平均値のバラツキ範囲を表2に示す。
【0059】
実施例4
原料AlとNiとをNi含有量が6wt%となるように秤量、混合し、それぞれ700℃で溶融した。これをそれぞれN2 ガスを用いるガスアトマイズ法により、平均粒径が50μm の粉末を得た。この粉末に、さらに平均粒径5μm のNiAl3 の粉末を、加圧成形後のNi含有量が8wt%となる量添加し、Vミキサーを用いて2時間混合し、得られた混合粉末を、超硬(WC)製の型に充填し、室温で4t/cm2 、大気中で20秒間加圧成形を行い、直径127mm、厚さ5mmのAl−Ni合金スパッタ用ターゲットを得た。
【0060】
実施例1と同様にして、得られたターゲットのSEMによる組成像を得、組成像から平均粒径が5μm 以下のNiリッチの微細粒を含有するグレインをもち、さらにグレイン周囲にNiリッチの微細粒が分布していることを確認した。
【0061】
また、このターゲットを用い、実施例3と同様の薄膜を作製したところ、実施例3と同様のNi含有率の平均値のバラツキ範囲であった。
【0062】
実施例5
前記MとしてMg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、CuおよびZnを用い、AlとこれらのMとをそれぞれのM含有量が6wt%となるように秤量、混合し、Mの種類に合わせて700〜1500℃の範囲で溶融した。なお、Mはそれぞれ単独でAlと混合した。これをそれぞれN2 ガスを用いるガスアトマイズ法により、平均粒径が50μm の粉末を得た。この粉末を、それぞれ実施例1と同様にして加圧成形し、直径127mm、厚さ5mmの加圧成形体試料を得た。
【0063】
得られたそれぞれの加圧成形体試料を用い、実施例1と同様にして、得られたターゲットのSEMによる組成像を得た。その結果、組成像から平均粒径が5μm 以下のそれぞれのMリッチの微細粒を含有するグレインが認められ、さらにグレイン近傍のバウンダリー層中に平均粒径がより大きいMリッチの第2の微細粒が分布していることを確認した。
【0064】
また、このターゲットを用い、実施例3と同様の薄膜を作製したところ、実施例3より若干は劣るが、M含有率のバラツキの少ない膜が得られた。
【0065】
実施例6
ポリカーボネートを射出成形して86mm径、厚さ1.2mmの基板サンプルを得た。この基板上に、SiNx(x=1.1)の第1の誘電体層を高周波マグネトロンスパッタにより層厚900A に設層した。次に、この第1の誘電体層上に、Tb20Fe74Co6 の組成を有する記録層を、スパッタにより層厚200A に設層した。
【0066】
さらに、この記録層上に、La2 O3 30モル%、SiO2 20モル%およびSi3 N4 50モル%を含有する膜厚200A の第2の誘電体層を高周波マグネトロンスパッタにより形成した。
【0067】
この第2の誘電体層上に、Ni含有量6wt%、Ni含有量8wt%およびNi含有量10wt%のそれぞれのターゲットを用い、高周波マグネトロンスパッタによりNi含有量が6wt%、8wt%および10wt%で、以下の膜厚の金属反射層を設層した。Ni含有量6wt%および8wt%のターゲットを用いたものでは、膜厚を500、600および700A とした。また、Ni含有量10wt%のターゲットを用いたものでは、膜厚を600、700および800A とした。
【0068】
得られた9種それぞれの試料の金属反射層上に保護コートを設層した。保護コートは、オリゴエステルアクリレートを含有する紫外線硬化型樹脂を塗布した後、紫外線硬化して5μm 厚の膜厚とした。これを光磁気記録ディスクサンプルとして最適記録パワー(P0 )を以下の方法で測定した。得られた結果を図5に示す。
【0069】
<最適記録パワー(P0 )測定法>
ディスクをCLV1.4m/s で回転し、780nmの連続レーザ光を照射しつつ200Oeの印加磁界で磁界変調して、EFM信号を記録した。記録パワーを変化させて3T信号のジッタを測定し、ジッタが40nsecを切るパワーPmin を測定し、最適記録パワーP0 =1.4×Pmin を算出した。
【0070】
図5に示すように、金属反射層の厚さが同じ場合、Ni含有率を増やすとP0 が低下する。また、金属反射層の厚さを厚くするとP0 は高くなるが、Ni含有率を増やすことで金属反射層の厚さの変化に対するP0 の変化量が低下する。すなわち、金属反射層の製造に際し、金属反射層中のNi含有率を増やすことで、膜厚を厚くすることができ、製造上の膜厚制御マージンが広がり、製造上の大きなメリットとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)および(b)は、粒子の構造を示す図面代用写真であって、本発明のAl−Ni合金スパッタ用ターゲット(Ni含有量6wt%)の走査型電子顕微鏡(SEM)の組成像である。
【図2】(a)および(b)は、粒子の構造を示す図面代用写真であって、本発明のAl−Ni合金スパッタ用ターゲット(Ni含有量8wt%)の走査型電子顕微鏡(SEM)の組成像である。
【図3】(a)および(b)は、粒子の構造を示す図面代用写真であって、比較例のAl−Ni合金スパッタ用ターゲット(Ni含有量6wt%)の押出し方向と平行の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の組成像である。なお、押出し方向は、図面横方向である。
【図4】(a)および(b)は、粒子の構造を示す図面代用写真であって、比較例のAl−Ni合金スパッタ用ターゲット(Ni含有量6wt%)の押出し方向と垂直の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の組成像である。
【図5】本発明のAl−Ni合金スパッタ用ターゲットを用いて成膜した金属反射層をもつ光磁気記録ディスクの、金属反射層厚さとP0 との関係を示すグラフである。
Claims (12)
- Al−M合金(ただしMは、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnのうちの1種以上である)から形成されており、
鏡面加工をして走査型電子顕微鏡観察を行ったとき、平均粒径0.01〜2μm の前記Mリッチの微細粒を含有するグレインをもち、
このグレイン周囲にバウンダリー層を有し、このバウンダリー層中にMリッチの第2の微細粒を有するAl合金スパッタ用ターゲット。 - 前記Mの含有量が1〜40wt%である請求項1のAl合金スパッタ用ターゲット。
- 前記MがNiであり、Ni含有量2〜40wt%のAl−Ni合金から形成されている請求項1または2のAl合金スパッタ用ターゲット。
- 前記グレインの平均径が1μm 〜1mmである請求項1〜3のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
- 前記微細粒が、前記グレイン中に面積比で5〜80%存在する請求項1〜4のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
- 前記第2の微細粒の平均粒径が0.1〜10μm である請求項1〜5のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
- 前記第2の微細粒が、前記バウンダリー層中に面積比で5〜80%存在する請求項1〜6のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
- Al−M合金の粉末を加圧成形した請求項1〜7のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
- 光記録媒体の反射膜の成膜に用いる請求項1〜8のいずれかのAl合金スパッタ用ターゲット。
- Al−M合金(ただしMは、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnのうちの1種以上である)を溶融して高速急冷法により粉末とし、得られたAl−M合金の粉末を、400〜650℃の温度まで加熱しながら加圧成形するAl合金スパッタ用ターゲットの製造方法。
- 前記高速急冷法により得られた微細粉末に、さらにMリッチの微細粒を添加して加圧成形する請求項10のAl合金スパッタ用ターゲットの製造方法。
- 前記Al−M合金の粉末中にMリッチの微細粒が存在する請求項10または11のAl合金スパッタ用ターゲットの製造方法。
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