JP3545366B2 - フレーバーオイルのための比重調整剤、及びそれを用いて製造された飲料濃縮物及び飲料 - Google Patents
フレーバーオイルのための比重調整剤、及びそれを用いて製造された飲料濃縮物及び飲料 Download PDFInfo
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、フレーバーオイルのための比重調整剤、及びそれを用いて製造された飲料濃縮物及び飲料に関する。
【従来の技術】
非アルコール飲料の中で、フルーツジュース及び特にコーラ飲料に加え、果汁飲料及びレモネードは、最終的な消費者市場において際だった位置を占めている。特にレモネードは、多くの場合に、果汁を含まない柑橘(シトラス)系飲料として作られる。これが、これらの飲料が往々にして透明である理由である。しかし、消費者は、混濁した飲料の方が栄養があり、消化がよいと考えるので、一般的に、透明な製品よりも混濁した飲料の方を好む。それゆえ、混濁飲料に対する要求が高まっている。
柑橘系フレーバーを含む混濁飲料は、果汁または濃縮果汁、他のフレーバー成分、甘味料、酸味料及び他の成分、例えば着色料、混濁安定化剤、ビタミン及び他の栄養素を含み得、また炭酸飲料の場合には、二酸化炭素も含み得る。これらの飲料においては、混濁は、果汁からの混濁成分によって与えられる。
柑橘系フレーバーを含む飲料は、通常、飲料の芳香及び風味に大いに寄与し得るフレーバーオイルを含む。これらの飲料では、フレーバーオイルを乳化させることによって、果汁を加えずとも混濁状態を得ることができる。この種の混濁は、特に炭酸飲料に重要であるが(なぜならば、開栓、開缶後に二酸化炭素がより均等に放出されるようになるため)、普通の果汁飲料と比べて果汁からの混濁を安定させるのがより困難な非炭酸系の飲料、例えばフィットネスドリンクまたはスポーツドリンクにも重要である。
しかし実際上は、単にフレーバーオイルを乳化させるだけでは貯蔵安定性の飲料を作ることはできない。なぜならば、フレーバーオイルと飲料の水性相とは密度がかなり異なるからである。フレーバーオイルは、その比較的低い比重のために、たとえ微細に分布されたとしても液表面上に浮遊物を生じさせる傾向があり、また更には、それによって瓶の首の所にリング状の付着物、すなわち“オイルリング”が生ずる場合もある。このような付着物は、外観を損ねるばかりではなく、飲料の風味を変化させる場合さえもある。
このような付着物を避けるためには、そのエマルションを安定化しなければならない。そのためには、水溶性の安定化剤、例えば加工デンプンまたはアラビアガム、及び場合によっては追加的に水中油型乳化剤が、あるいは比重調整剤(Weighting agents)なるものが使用される。この比重調整剤は水溶性ではなく、油溶性であり、フレーバーオイルと最大限に混和性でなければならない。これらは、油滴の比重を飲料の水性相の比重と同じにする役割がある。これは、飲料の水性相中で、密度が比較的小さい油滴が浮遊物化(creaming)するのを防ぎ、それによって、より長い貯蔵寿命にわたって安定した消費者製品が得られる。
比重調整剤は、フレーバーオイルとの最大限の混和性の他に、要求されるエマルション安定化効果が発揮され得るように飲料の水性相よりもかなり高い密度を有する必要がある。フレーバーオイルの密度は通例0.9g/ml 未満の範囲であり、一方、ソフトドリンクの水性相は、1.04g/mlを超える値を有し得る。
加えて、比重調整剤は、無色、無臭かつ無味でなければならず、フレーバーオイルの成分となじみがよくなければならず、かつ通常は著しい酸性pHであり及び光が当たる場所に置かれる飲料の条件下に貯蔵安定性でなければならない。極く少ない数の物質だけが、これらの要件をほぼ満たし、加えて、飲料中の比重調整剤として使用するのに健康上の理由からも適している。このような物質には、ダンマー樹脂及びルートレジン(root resins) のグリセロールエステルなどが含まれる。臭素化された食用油は、密度が高いために工業的には比重調整剤として極めて好適ではあるが、健康面の理由からはそれほど高く評価されず、一部の国において食品での使用が認められているに過ぎない。合成することができ、それゆえ簡単にしかも広く利用される比重調整剤は、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)、すなわち約2:6 の比率の酢酸及びイソ酪酸でエステル化されたショ糖である。SAIBは、他の物と比較して、無色及び無味で、しかも変化しない、例えば脂肪酸酸化または他の酸化反応あるいは他の望ましくない反応による変化を受けないという利点を持ち、多くの国で食品での使用が認められている(EASTMAN SAIB-SG for beverage applications, Publication ZM-90C, July 1995 and EASTMAN Chemical Company, Vol.2 No.4, November 1994, 'Food for Thought'参照)。
しかし、SAIBは、室温で約20 000Pa.sの非常に高い粘度を有するため、その純粋な形で実際に使用するのは困難である。それで、SAIBは室温で非常に粘性が高く、それ単独では液体として計量添加することができない。高温下では、その粘度は劇的に低下する。SAIBを加工中に60℃を有意に超える温度まで加熱すると、ポンプ輸送及び計量添加可能な液体が得られる。しかし、この加熱は、生成物が過熱されて不所望な変化を受けないように、時間が短いことが必要とされる。このような加熱段階は、飲料生産における慣用の加工手順中に組み入れることは困難をもってしか為すことができず、それゆえ経済的ではない。
このような使用上の困難さを無くすために、SAIBを他の物質と混合することによって粘度を下げる試みが為されている。これに使用される物質は、特に、エタノール( 例えば、Eastman SAIB-ET10 )及びシトラス油(例えば、Eastman SAIB-CO)である(EASTMAN SAIB-SG for beverage applications, Publication ZM-90C, July 1995参照)。
約10容量%のエタノールの添加(例えば、Eastman SAIB-ET10 )は、粘度を約1000mPa.s まで落とす。しかし、エタノールの使用には不都合な点がある。エタノールは、完成品の飲料においてエマルション安定性に悪影響を及ぼす。エタノールは、水性相の表面張力を低め、そしてアラビアガムが使用される場合には、この安定化剤の変性を招く恐れがある。更には、エタノールは、極東の多くの国、特にアラブ諸国においては飲料中に存在してはならない。しかし、アルコールを含まない飲料の一人当たりの消費量は、まさにこれらの国において非常に多い。それゆえ、SAIB- エタノール溶液に基づく飲料は、最適なエマルション安定性を示すものでなく、また多くの国において生産・販売できるものでもない。
代替物の一つとして、テルペン油に基づく調合物(例えば、Eastman-CO) が使用される。この場合は、強い柑橘系フレーバーを有するテルペン油が使用される。しかし、完成品の飲料の芳香に対するこれらのテルペン油の強力な芳香の寄与は、実地においては望ましいものではない。また、このSAIB調合物は液体として計量添加することはできるが、テルペン油が酸化されやすいことや、SAIB調合物中でテルペン油の芳香値を標準化することの困難さが、このSAIB調合物の実地における使用を難しくする。更に加えて、この調合物は、柑橘系以外の芳香を有する製品には有用ではないという事実もある。
SAIB、並びにテルペン油及びアルコールに基づく上記のSAIB調合物は実際に使用されているが、これらの調合物中に使用される成分について上に述べた不都合、特に完成品としての飲料の品質及び市場性に起こりうる不都合な結果が、SAIBの普及の妨げとなっている。
【発明が解決しようとする課題】
それゆえ、本発明の課題は、上記の不都合なしに、簡単に計量添加することができるSAIB調合物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
SAIBは、食品成分を処方するための慣用の溶剤であるグリセロール及び1,2-プロパンジオールと不混和性である。驚くべきことに、SAIBが、以下の式(I)
【化2】
[ 式中、R1、R2及びR3は、C1-C17- アルキルまたはC3-C17- アルケニルまたはC5-C17- アルカジエニルからなる群から任意に選択され、
R4はHまたはOHであり、そして
Yは-O-C(O)-または-C(O)-O-である]
で表される、室温(=25℃)で液状(すなわち、1000 Pa.s 以下の粘度を有する)の化合物と極めて易混和性であること、更には驚くべきことに、この化合物の含有量が少ない場合でさえ混合物の粘度も大いに低減されること、及び易流動性で、それゆえ液体として計量添加可能な材料が得られることがここに見出された。好ましいものは、式(I) 中、R1、R2及びR3が全てエチルであり、R4がOHでありそしてYが-C(O)-O-であるもの(クエン酸トリエチル)、R1、R2及びR3が全てメチルであり、R4がHでありそしてY=-O-C(O)-であるもの(トリアセチン)、及びR1、R2及びR3が、C7- 及びC9- アルキルからなる群から任意に選択されたものであり、そしてR4がHでありそしてYが-O-C(O)-であるもの(トリグリセリド)である。
上記式(I) の化合物は、フレーバーも良く溶解する。特に、トリアセチン及びクエン酸トリエチルは更に、SAIBと同程度の比重を持ちそして限られた程度でしか水に溶解しないため、SAIBの比重調整効果を低めない。
上記の式(I) の化合物は商業的に入手することができるが、例えばグリセロールを対応するカルボン酸(Y=-O-C(O)-の場合)またはそれらのC1-C3-アルキルエステルもしくはハロゲン化物、特に塩化物と反応させることによって得ることもできる。Y が-C(O)-O-である式(I) の化合物は、例えば、クエン酸を対応する飽和もしくは不飽和アルコールと反応させることによって製造することができる。SAIBも商業的に入手可能である。これは、ショ糖を無水酢酸及び無水イソ酪酸と反応させることによって得ることができる。
SAIBと式(I) の化合物との良好な混和性のために、原則的に、混合比は幅広い範囲で設定することができる。所望とする比重調整効果を達成するためには、脂肪を使用する場合(Y が-O-C(O)-でありそしてR4がHである式(I) の化合物)、その含有量は最大で約30重量%に制限される。しかし、式(I) の化合物の添加量が少量である場合にも粘度は劇的に低下するため(図1参照)、数重量%の少ない添加量の場合でさえ液体としての計量添加が実地で可能である。上記式(I) の粘度低下性物質は、本発明の飲料中においてフレーバーオイルのための比重調整剤中に、比重調整剤の重量に基づいて1〜50重量%、好ましくは3〜30重量%、特に好ましくは5〜20重量%の量で使用される。
得られる自由流動性SAIB溶液は、比較的長い貯蔵時間(これは、少なくとも、飲料の場合の典型的に言われる最小貯蔵寿命にも相当する)の後でも中性の感覚的性質を示す。それらの中性の風味(flavor)のため、これらは柑橘系の風味以外にも使用することができる。
驚くべきことに、本発明による調合物を使用すると、現在使用されているSAIB溶液または純粋なSAIBを用いてより高い光学密度が得られるため、より強い混濁効果も達成され得る。
本発明による比重調整剤は、フレーバーオイルと組み合わせて飲料の製造に直接使用することができる。この比重調整剤は、これとフレーバーオイルとの比率が水性相の密度に適合する場合に、フレーバーオイルと一緒になって、強力な混合及び必要に応じて均一化の後に貯蔵安定性のエマルションを与える。このことは、特に、水中油型エマルションのための食品用乳化剤または非乳化性の、但しエマルション安定化性の剤、例えばアラビアガム、加工デンプン、カロブビーンミール、グアーガムまたはトラガカントが油相中の比重調整剤と同程度の量で水性相に追加的に加えられた時に当てはまる。密度をつり合わせる方法は文献から公知であり、例えばピアソン・スクエアー法(Pearson Square Method) などがある。
更に、該比重調整剤は、他の成分と一緒に飲料濃縮物中に入れることもできる。このような濃縮物は、フレーバーオイル及び比重調整剤の他に、飲料に使用された酸、例えばクエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、フマル酸またはリン酸、エマルション安定化剤、防腐剤、例えばソルビン酸または安息香酸及びこれらの塩、及び必要に応じて水及び着色料を含み得る。これらの濃縮物も、他の飲料成分及び水と混合し、強力な混合及び必要に応じて均一化の後に、所蔵安定性のエマルションを与える。
以下の実施例は本発明を例示する。
【実施例】
例1
トリグリセリドを含む比重調整剤調合物の製造
純粋なSAIBを加熱する。次いで、液状トリグリセリド(Miglyol 812 (R) , Condea, Witten, Germany; R1 、R2及びR3が、C7- 及びC9- アルキルから任意に選択され、R4がHでありそしてYが-O-C(O)-である式(I) の化合物)を、比重調整剤調合物の重量に基づいて2、5、10、20及び50重量%の量で加え、そして強力に混合する。均一な液体が生じる。この液体の粘度は、トリグリセリドの濃度の上昇と共に大いに低下する。
図1に示す各粘度は混合比に応じて現れる。
例2
トリアセチンを含む比重調整剤調合物の製造
純粋なSAIBを加熱する。純粋なトリアセチン(R1、R2及びR3が全てメチルであり、R4がHでありそしてYが-O-C(O)-である式(I) の化合物)を、比重調整剤調合物の重量を基準にして2、5、10、20及び50重量%の量で加え、そして強力に混合する。均一な液体が生ずる。トリアセチンの濃度の上昇に伴い、その粘度は、例1でトリグリセリドを使用した場合と同じように急激に低下する。
例3
クエン酸トリエチルを含む比重調整剤調合物の製造
純粋なSAIBを加熱する。純粋なクエン酸トリエチル(R1、R2及びR3が全てエチルであり、R4がOHでありそしてYが-C(O)-O-である式(I) の化合物)を、比重調整剤調合物の重量を基準にして2、5、10、20及び50重量%の量で加え、そして強力に混合する。均一な液体が生ずる。クエン酸トリエチルの濃度の上昇と共に、その粘度は、例1でトリグリセリドを使用した場合と同じように急激に低下する。
例4
比重調整剤の使用
柑橘系フレーバーオイル5重量部と、SAIB9重量部及びトリグリセリド(Miglyol 812)1重量部からなる比重調整剤10重量部とを混合し、そして完成品の飲料の混合製造中に200mg/L の量で加え、次いで強力な攪拌及び必要に応じて均一化することによって均一に分布させる。強い柑橘系の芳香を持った著しく混濁した飲料が得られる。
例5
フレーバー濃縮物の製造
フレーバーオイル(Orange Terpene MC Standard No. 2000.0769, MCI Miritz, Citrus Ingredients, Kirchgandern, Germany)50重量部と、SAIB 90 重量部及びトリグリセリド(Myglyol 812)10 重量部からなる比重調整剤100 重量部とを、混合する。これと並行して、アラビアガム150 重量部をエマルション安定化剤として溶解させ、クエン酸1重量部を溶解させ及びソルビン酸カリウム1重量部を防腐剤として溶解させた水700 重量部の水性相を用意する。この二つの相を強力に混合しそして均一化する。
例6
フレーバー濃縮物から混濁飲料の製造
例5のフレーバー濃縮物1重量部を、甘ショ糖64重量部、クエン酸1重量部及び水34重量部と混合する。この溶液1重量部及び水7重量部を混合して完成品としての飲料を作る。
例7(比較例)
例4に相当する飲料を作るが、但し、これは、比重調整剤として、加熱することによって液化した純粋なSAIBを同程度の量で含む。
例4の飲料を、この飲料と視覚的に比較する。例4の飲料は、より顕著に強力な混濁効果を与える。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、トリグリセリドの濃度に対する、SAIB- トリグリセリド混合物の粘度依存性を示す図である。
本発明は、フレーバーオイルのための比重調整剤、及びそれを用いて製造された飲料濃縮物及び飲料に関する。
【従来の技術】
非アルコール飲料の中で、フルーツジュース及び特にコーラ飲料に加え、果汁飲料及びレモネードは、最終的な消費者市場において際だった位置を占めている。特にレモネードは、多くの場合に、果汁を含まない柑橘(シトラス)系飲料として作られる。これが、これらの飲料が往々にして透明である理由である。しかし、消費者は、混濁した飲料の方が栄養があり、消化がよいと考えるので、一般的に、透明な製品よりも混濁した飲料の方を好む。それゆえ、混濁飲料に対する要求が高まっている。
柑橘系フレーバーを含む混濁飲料は、果汁または濃縮果汁、他のフレーバー成分、甘味料、酸味料及び他の成分、例えば着色料、混濁安定化剤、ビタミン及び他の栄養素を含み得、また炭酸飲料の場合には、二酸化炭素も含み得る。これらの飲料においては、混濁は、果汁からの混濁成分によって与えられる。
柑橘系フレーバーを含む飲料は、通常、飲料の芳香及び風味に大いに寄与し得るフレーバーオイルを含む。これらの飲料では、フレーバーオイルを乳化させることによって、果汁を加えずとも混濁状態を得ることができる。この種の混濁は、特に炭酸飲料に重要であるが(なぜならば、開栓、開缶後に二酸化炭素がより均等に放出されるようになるため)、普通の果汁飲料と比べて果汁からの混濁を安定させるのがより困難な非炭酸系の飲料、例えばフィットネスドリンクまたはスポーツドリンクにも重要である。
しかし実際上は、単にフレーバーオイルを乳化させるだけでは貯蔵安定性の飲料を作ることはできない。なぜならば、フレーバーオイルと飲料の水性相とは密度がかなり異なるからである。フレーバーオイルは、その比較的低い比重のために、たとえ微細に分布されたとしても液表面上に浮遊物を生じさせる傾向があり、また更には、それによって瓶の首の所にリング状の付着物、すなわち“オイルリング”が生ずる場合もある。このような付着物は、外観を損ねるばかりではなく、飲料の風味を変化させる場合さえもある。
このような付着物を避けるためには、そのエマルションを安定化しなければならない。そのためには、水溶性の安定化剤、例えば加工デンプンまたはアラビアガム、及び場合によっては追加的に水中油型乳化剤が、あるいは比重調整剤(Weighting agents)なるものが使用される。この比重調整剤は水溶性ではなく、油溶性であり、フレーバーオイルと最大限に混和性でなければならない。これらは、油滴の比重を飲料の水性相の比重と同じにする役割がある。これは、飲料の水性相中で、密度が比較的小さい油滴が浮遊物化(creaming)するのを防ぎ、それによって、より長い貯蔵寿命にわたって安定した消費者製品が得られる。
比重調整剤は、フレーバーオイルとの最大限の混和性の他に、要求されるエマルション安定化効果が発揮され得るように飲料の水性相よりもかなり高い密度を有する必要がある。フレーバーオイルの密度は通例0.9g/ml 未満の範囲であり、一方、ソフトドリンクの水性相は、1.04g/mlを超える値を有し得る。
加えて、比重調整剤は、無色、無臭かつ無味でなければならず、フレーバーオイルの成分となじみがよくなければならず、かつ通常は著しい酸性pHであり及び光が当たる場所に置かれる飲料の条件下に貯蔵安定性でなければならない。極く少ない数の物質だけが、これらの要件をほぼ満たし、加えて、飲料中の比重調整剤として使用するのに健康上の理由からも適している。このような物質には、ダンマー樹脂及びルートレジン(root resins) のグリセロールエステルなどが含まれる。臭素化された食用油は、密度が高いために工業的には比重調整剤として極めて好適ではあるが、健康面の理由からはそれほど高く評価されず、一部の国において食品での使用が認められているに過ぎない。合成することができ、それゆえ簡単にしかも広く利用される比重調整剤は、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)、すなわち約2:6 の比率の酢酸及びイソ酪酸でエステル化されたショ糖である。SAIBは、他の物と比較して、無色及び無味で、しかも変化しない、例えば脂肪酸酸化または他の酸化反応あるいは他の望ましくない反応による変化を受けないという利点を持ち、多くの国で食品での使用が認められている(EASTMAN SAIB-SG for beverage applications, Publication ZM-90C, July 1995 and EASTMAN Chemical Company, Vol.2 No.4, November 1994, 'Food for Thought'参照)。
しかし、SAIBは、室温で約20 000Pa.sの非常に高い粘度を有するため、その純粋な形で実際に使用するのは困難である。それで、SAIBは室温で非常に粘性が高く、それ単独では液体として計量添加することができない。高温下では、その粘度は劇的に低下する。SAIBを加工中に60℃を有意に超える温度まで加熱すると、ポンプ輸送及び計量添加可能な液体が得られる。しかし、この加熱は、生成物が過熱されて不所望な変化を受けないように、時間が短いことが必要とされる。このような加熱段階は、飲料生産における慣用の加工手順中に組み入れることは困難をもってしか為すことができず、それゆえ経済的ではない。
このような使用上の困難さを無くすために、SAIBを他の物質と混合することによって粘度を下げる試みが為されている。これに使用される物質は、特に、エタノール( 例えば、Eastman SAIB-ET10 )及びシトラス油(例えば、Eastman SAIB-CO)である(EASTMAN SAIB-SG for beverage applications, Publication ZM-90C, July 1995参照)。
約10容量%のエタノールの添加(例えば、Eastman SAIB-ET10 )は、粘度を約1000mPa.s まで落とす。しかし、エタノールの使用には不都合な点がある。エタノールは、完成品の飲料においてエマルション安定性に悪影響を及ぼす。エタノールは、水性相の表面張力を低め、そしてアラビアガムが使用される場合には、この安定化剤の変性を招く恐れがある。更には、エタノールは、極東の多くの国、特にアラブ諸国においては飲料中に存在してはならない。しかし、アルコールを含まない飲料の一人当たりの消費量は、まさにこれらの国において非常に多い。それゆえ、SAIB- エタノール溶液に基づく飲料は、最適なエマルション安定性を示すものでなく、また多くの国において生産・販売できるものでもない。
代替物の一つとして、テルペン油に基づく調合物(例えば、Eastman-CO) が使用される。この場合は、強い柑橘系フレーバーを有するテルペン油が使用される。しかし、完成品の飲料の芳香に対するこれらのテルペン油の強力な芳香の寄与は、実地においては望ましいものではない。また、このSAIB調合物は液体として計量添加することはできるが、テルペン油が酸化されやすいことや、SAIB調合物中でテルペン油の芳香値を標準化することの困難さが、このSAIB調合物の実地における使用を難しくする。更に加えて、この調合物は、柑橘系以外の芳香を有する製品には有用ではないという事実もある。
SAIB、並びにテルペン油及びアルコールに基づく上記のSAIB調合物は実際に使用されているが、これらの調合物中に使用される成分について上に述べた不都合、特に完成品としての飲料の品質及び市場性に起こりうる不都合な結果が、SAIBの普及の妨げとなっている。
【発明が解決しようとする課題】
それゆえ、本発明の課題は、上記の不都合なしに、簡単に計量添加することができるSAIB調合物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
SAIBは、食品成分を処方するための慣用の溶剤であるグリセロール及び1,2-プロパンジオールと不混和性である。驚くべきことに、SAIBが、以下の式(I)
【化2】
[ 式中、R1、R2及びR3は、C1-C17- アルキルまたはC3-C17- アルケニルまたはC5-C17- アルカジエニルからなる群から任意に選択され、
R4はHまたはOHであり、そして
Yは-O-C(O)-または-C(O)-O-である]
で表される、室温(=25℃)で液状(すなわち、1000 Pa.s 以下の粘度を有する)の化合物と極めて易混和性であること、更には驚くべきことに、この化合物の含有量が少ない場合でさえ混合物の粘度も大いに低減されること、及び易流動性で、それゆえ液体として計量添加可能な材料が得られることがここに見出された。好ましいものは、式(I) 中、R1、R2及びR3が全てエチルであり、R4がOHでありそしてYが-C(O)-O-であるもの(クエン酸トリエチル)、R1、R2及びR3が全てメチルであり、R4がHでありそしてY=-O-C(O)-であるもの(トリアセチン)、及びR1、R2及びR3が、C7- 及びC9- アルキルからなる群から任意に選択されたものであり、そしてR4がHでありそしてYが-O-C(O)-であるもの(トリグリセリド)である。
上記式(I) の化合物は、フレーバーも良く溶解する。特に、トリアセチン及びクエン酸トリエチルは更に、SAIBと同程度の比重を持ちそして限られた程度でしか水に溶解しないため、SAIBの比重調整効果を低めない。
上記の式(I) の化合物は商業的に入手することができるが、例えばグリセロールを対応するカルボン酸(Y=-O-C(O)-の場合)またはそれらのC1-C3-アルキルエステルもしくはハロゲン化物、特に塩化物と反応させることによって得ることもできる。Y が-C(O)-O-である式(I) の化合物は、例えば、クエン酸を対応する飽和もしくは不飽和アルコールと反応させることによって製造することができる。SAIBも商業的に入手可能である。これは、ショ糖を無水酢酸及び無水イソ酪酸と反応させることによって得ることができる。
SAIBと式(I) の化合物との良好な混和性のために、原則的に、混合比は幅広い範囲で設定することができる。所望とする比重調整効果を達成するためには、脂肪を使用する場合(Y が-O-C(O)-でありそしてR4がHである式(I) の化合物)、その含有量は最大で約30重量%に制限される。しかし、式(I) の化合物の添加量が少量である場合にも粘度は劇的に低下するため(図1参照)、数重量%の少ない添加量の場合でさえ液体としての計量添加が実地で可能である。上記式(I) の粘度低下性物質は、本発明の飲料中においてフレーバーオイルのための比重調整剤中に、比重調整剤の重量に基づいて1〜50重量%、好ましくは3〜30重量%、特に好ましくは5〜20重量%の量で使用される。
得られる自由流動性SAIB溶液は、比較的長い貯蔵時間(これは、少なくとも、飲料の場合の典型的に言われる最小貯蔵寿命にも相当する)の後でも中性の感覚的性質を示す。それらの中性の風味(flavor)のため、これらは柑橘系の風味以外にも使用することができる。
驚くべきことに、本発明による調合物を使用すると、現在使用されているSAIB溶液または純粋なSAIBを用いてより高い光学密度が得られるため、より強い混濁効果も達成され得る。
本発明による比重調整剤は、フレーバーオイルと組み合わせて飲料の製造に直接使用することができる。この比重調整剤は、これとフレーバーオイルとの比率が水性相の密度に適合する場合に、フレーバーオイルと一緒になって、強力な混合及び必要に応じて均一化の後に貯蔵安定性のエマルションを与える。このことは、特に、水中油型エマルションのための食品用乳化剤または非乳化性の、但しエマルション安定化性の剤、例えばアラビアガム、加工デンプン、カロブビーンミール、グアーガムまたはトラガカントが油相中の比重調整剤と同程度の量で水性相に追加的に加えられた時に当てはまる。密度をつり合わせる方法は文献から公知であり、例えばピアソン・スクエアー法(Pearson Square Method) などがある。
更に、該比重調整剤は、他の成分と一緒に飲料濃縮物中に入れることもできる。このような濃縮物は、フレーバーオイル及び比重調整剤の他に、飲料に使用された酸、例えばクエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、フマル酸またはリン酸、エマルション安定化剤、防腐剤、例えばソルビン酸または安息香酸及びこれらの塩、及び必要に応じて水及び着色料を含み得る。これらの濃縮物も、他の飲料成分及び水と混合し、強力な混合及び必要に応じて均一化の後に、所蔵安定性のエマルションを与える。
以下の実施例は本発明を例示する。
【実施例】
例1
トリグリセリドを含む比重調整剤調合物の製造
純粋なSAIBを加熱する。次いで、液状トリグリセリド(Miglyol 812 (R) , Condea, Witten, Germany; R1 、R2及びR3が、C7- 及びC9- アルキルから任意に選択され、R4がHでありそしてYが-O-C(O)-である式(I) の化合物)を、比重調整剤調合物の重量に基づいて2、5、10、20及び50重量%の量で加え、そして強力に混合する。均一な液体が生じる。この液体の粘度は、トリグリセリドの濃度の上昇と共に大いに低下する。
図1に示す各粘度は混合比に応じて現れる。
例2
トリアセチンを含む比重調整剤調合物の製造
純粋なSAIBを加熱する。純粋なトリアセチン(R1、R2及びR3が全てメチルであり、R4がHでありそしてYが-O-C(O)-である式(I) の化合物)を、比重調整剤調合物の重量を基準にして2、5、10、20及び50重量%の量で加え、そして強力に混合する。均一な液体が生ずる。トリアセチンの濃度の上昇に伴い、その粘度は、例1でトリグリセリドを使用した場合と同じように急激に低下する。
例3
クエン酸トリエチルを含む比重調整剤調合物の製造
純粋なSAIBを加熱する。純粋なクエン酸トリエチル(R1、R2及びR3が全てエチルであり、R4がOHでありそしてYが-C(O)-O-である式(I) の化合物)を、比重調整剤調合物の重量を基準にして2、5、10、20及び50重量%の量で加え、そして強力に混合する。均一な液体が生ずる。クエン酸トリエチルの濃度の上昇と共に、その粘度は、例1でトリグリセリドを使用した場合と同じように急激に低下する。
例4
比重調整剤の使用
柑橘系フレーバーオイル5重量部と、SAIB9重量部及びトリグリセリド(Miglyol 812)1重量部からなる比重調整剤10重量部とを混合し、そして完成品の飲料の混合製造中に200mg/L の量で加え、次いで強力な攪拌及び必要に応じて均一化することによって均一に分布させる。強い柑橘系の芳香を持った著しく混濁した飲料が得られる。
例5
フレーバー濃縮物の製造
フレーバーオイル(Orange Terpene MC Standard No. 2000.0769, MCI Miritz, Citrus Ingredients, Kirchgandern, Germany)50重量部と、SAIB 90 重量部及びトリグリセリド(Myglyol 812)10 重量部からなる比重調整剤100 重量部とを、混合する。これと並行して、アラビアガム150 重量部をエマルション安定化剤として溶解させ、クエン酸1重量部を溶解させ及びソルビン酸カリウム1重量部を防腐剤として溶解させた水700 重量部の水性相を用意する。この二つの相を強力に混合しそして均一化する。
例6
フレーバー濃縮物から混濁飲料の製造
例5のフレーバー濃縮物1重量部を、甘ショ糖64重量部、クエン酸1重量部及び水34重量部と混合する。この溶液1重量部及び水7重量部を混合して完成品としての飲料を作る。
例7(比較例)
例4に相当する飲料を作るが、但し、これは、比重調整剤として、加熱することによって液化した純粋なSAIBを同程度の量で含む。
例4の飲料を、この飲料と視覚的に比較する。例4の飲料は、より顕著に強力な混濁効果を与える。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、トリグリセリドの濃度に対する、SAIB- トリグリセリド混合物の粘度依存性を示す図である。
Claims (14)
- 式(I) の化合物が、比重調整剤の重量を基準にして1〜50重量%、好ましくは3〜30重量%の量で使用される、請求項1の比重調整剤。
- 式(I) の化合物が、比重調整剤の重量を基準にして5〜20重量%の量で使用される、請求項1の比重調整剤。
- 請求項1〜3のいずれか一つに記載の比重調整剤と、少なくとも一種のフレーバーオイル及び/またはフレーバー濃縮物とを含む、フレーバー調合物。
- フレーバーオイル及び/またはフレーバー濃縮物が、フレーバー調合物の重量を基準にして少なくとも40重量%の量で存在する、請求項4のフレーバー調合物。
- フレーバーオイル及び/またはフレーバー濃縮物が、フレーバー調合物の重量を基準にして40〜90重量%の量で存在する、請求項5のフレーバー調合物。
- 請求項1〜3のいずれか一つの比重調整剤を含む、飲料濃縮物。
- アルコール飲料及び非アルコール飲料を製造するための、請求項1〜3のいずれか一つの比重調整剤の使用。
- 飲料濃縮物を製造するための、請求項1〜3のいずれか一つの比重調整剤の使用。
- 飲料濃縮物、アルコール飲料及び非アルコール飲料を製造するための、請求項4〜6のいずれか一つのフレーバー調合物の使用。
- アルコール飲料及び非アルコール飲料を製造するための、請求項7の飲料濃縮物の使用。
- 式 (I) の化合物を、これとSAIBとの合計重量を基準にして1〜 50 重量%、好ましくは3〜 30 重量%の量で使用する、請求項12の方法。
- 式 (I) の化合物を、これとSAIBとの合計重量を基準にして5〜 20 重量%の量で使用する、請求項12の方法。
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