JP3544787B2 - ラテックス比濁免疫測定法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、検体中の抗原又は抗体を定量するラテックス凝集法による免疫測定法及び免疫測定用試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、臨床検査の分野において検体中の抗原又は抗体を測定する免疫測定法として、検出感度が高く、測定方法が簡単なラテックス比濁免疫測定法が盛んに行われている。
【0003】
このラテックス比濁免疫測定法では、一般的には検体中の測定すべき抗原又は抗体に対する抗原又は抗体を感作したポリスチレンラテックス粒子の懸濁液と検体が混合される。検体中の抗原又は抗体と抗体又は抗原を感作したラテックス粒子との抗原抗体反応によってラテックス粒子が凝集し濁りが発生する。この濁度は、検体中の抗原又は抗体の濃度に比例するので、この濁度を測定することによって検体中の抗原又は抗体を定量することができ、濁度の測定は試料混合液の吸光度又は透過率を分光光度計によって測定することで簡単に行うことができる。
この方法は、測定方法が簡単で、ラジオアイソトープ法や酵素免疫測定法のような特殊な設備や専用分析装置を必要としないので広く検査室で採用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、検体中の高濃度に含まれる抗原又は抗体を従来のラテックス比濁免疫測定によって定量する場合には、予め検体を希釈し、この希釈検体中の抗原又は抗体を定量する必要がある。検体を希釈しないでそのまま測定に用いると、検体中の測定すべき抗原又は抗体の過剰による地帯現象が起こり、ラテックス粒子の凝集によって生じる濁度と検体中の抗原又は抗体の濃度との比例関係がなくなり、逆に抗原又は抗体の濃度に反比例してラテックス粒子の凝集によって生じる濁度が減少する。そのため、既知濃度の標準物質で作成した濃度と濁度が比例関係を示す検量線から地帯現象領域の検体中の測定すべき抗原又は抗体の濃度を算出すると、実際の濃度よりも低値となって診断における誤判定の原因となる。
【0005】
このように従来の方法では、測定すべき抗原又は抗体が高濃度に含まれる場合には、検体原液のままでは正確な定量が不可能なために、予め検体を希釈する必要がある。そのために、例えば、検体中に比較的高濃度に含まれるC反応性タンパク質等を定量する場合には、検体を希釈して用いなければならず、大きな病院等において、検体数が数百、数千にも上る場合があり、これら全てを正確に希釈することは非常に時間と労力を要する仕事である。
【0006】
そこで、この問題点を解決する方法として、検体と抗原又は抗体を結合したラテックス粒子との混合液中に、該混合液の全量に対して9〜30(v/v%)のアミノ酸を存在せしめるラテックス凝集法による免疫定量法「特公平6−17912号」が開示されている。しかし、この発明を実施するには、高価なアミノ酸を高濃度で用いるため、試薬コストが高価となることから、新たな問題点を付随することになる。
【0007】
本発明の目的は、測定すべき抗原又は抗体が、検体中に高濃度に含まれる場合であっても、検体を希釈することなく原液のままで用いることが可能なラテックス比濁免疫測定法を提供することである。本発明者らは、上記問題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、ラテックス懸濁液と検体との混合液中に二価アルコールを存在させることによって、測定すべき抗原又は抗体が検体中に高濃度に含まれる場合であっても、検体を希釈することなく原液のままで用いることが可能である事実を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
【課題を解決するための手段】
従って、本発明は、検体中の測定すべき抗原又は抗体に対する抗体又は抗原を感作したラテックス懸濁液と前記検体とを混合し、ラテックス凝集反応によって発生した濁度を測定して検体中の抗原又は抗体を定量するラテックス比濁免疫測定法において、前記検体と前記懸濁液との混合液中に二価アルコールを存在せしめることを特徴とする免疫測定法、に関する。
【0009】
更に、本発明は、検体中の測定すべき抗原又は抗体に対する抗体又は抗原を感作したラテックス懸濁液と前記検体とを混合し、ラテックス凝集反応によって発生した濁度を測定して検体中の抗原又は抗体を定量するラテックス比濁免疫測定用試薬において、二価のアルコールを緩衝液あるいはラテックス懸濁液のどちらか一方あるいは両方に含有することを特徴とするラテックス比濁免疫測定用試薬、にも関する。
【0010】
上述のように、本発明の方法は、測定すべき抗原又は抗体を含む検体と、該抗原又は抗体に対する抗体又は抗原を感作したラテックス懸濁液とを混合した混合液中において、二価アルコールを存在させることを特徴とする。本発明の方法に用いられる二価アルコールは、物性的にはナトリウムD線(λ=589.3nm)による屈折率が、1.42以上の二価アルコールを使用することができる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、1.5−ペンタンジオール及びヘキシレングリコールである。これらの単独あるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらの二価アルコールのうち、ジエチレングリコール、プロピレングリコール及びトリメチレングリコールが好適に用いられる。
【0011】
上記二価アルコールの単独あるいは2種類以上組み合わせたものを、免疫反応の結果を光学的に測定する際にその反応系に存在させればよい。ラテックス懸濁液と検体との混合液中の二価アルコールの終濃度は、10〜80v/v%である。好ましくは、10〜60v/v%である。測定すべき抗原又は抗体の種類や含有量、ラテックス粒径や濃度、更には使用する抗体の力価等によって、前記濃度範囲内で適宜変更することができる。例えば、C反応性タンパク質のように、検体中に数mg/dLから数十mg/dL含まれるものでは、二価アルコールをその反応系に20〜40v/v%存在させれば良い。
【0012】
二価アルコールの濃度が10v/v%未満では、Mie理論に従って検体とラテックス懸濁液との混合液中におけるラテックス粒子の相対屈折率の低下による5分間の吸光度変化量の低下が見られるだけで地帯現象の解消は見られず好ましくない。また、80v/v%を越えると検体とラテックス懸濁液との混合液の粘性が大きくなることで、測定精度が悪くなり正確な定量が不可能となるため好ましくない。
【0013】
本発明方法は、検体と抗原あるいは抗体を感作したラテックスの懸濁液を接触させ、免疫反応によって生じる濁りの変化を光学的(例えば、波長300nm〜800nmにおける吸光度を測定する)に測定する反応系に適用される。この時、必要に応じて検体を緩衝液で希釈・処理(例えば、検体由来の濁りを予め消去する)する行程があっても構わない。一般的に、試薬キットは緩衝液とラテックス懸濁液の2試薬から構成されており、二価アルコールは緩衝液又はラテックス懸濁液のどちらかに添加して用いても、緩衝液及びラテックス懸濁液の両方に添加して用いてもよい。
【0014】
本発明の方法の特徴は、検体とラテックス懸濁液との混合液中に所定濃度の二価アルコールを存在させることであり、その他の事項、例えば用いられるラテックス粒子の粒径やその他の性質、ラテックス粒子の濃度、ラテックス粒子への抗原又は抗体の結合方法、ラテックス粒子の凝集によって発生する濁度の測定方法等は、本発明にとって何ら特徴的なものではなく、従来のラテックス比濁免疫測定法に用いられている全てのものを用いることが可能である。
本発明における検体とは、任意の方法により患者などから得られた生体液試料であり、具体的には、血液、血清、血漿、尿、髄液、唾液、糞便、細胞抽出液等である。
【0015】
本発明における抗原または抗体とは、検体中に一般に含まれている成分であれば特に制限されないが、例えば、各種タンパク質、多糖類、脂質等が挙げられる。より詳細には、HBs抗原、HBs抗体、HIV−1抗体、HIV−2抗体、HTLV−1抗体、トレポネーマ抗体等の感染症関連マーカー、AFP、CRP、CEA等の腫瘍関連抗原、プラスミノーゲン、アンチトロンビン−III 、D−ダイマー、TAT、PPI等の凝固線溶マーカー、ホルモン等の抗てんかん薬及びジゴキシン等の各種薬剤等を挙げることができる。抗体としては、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のどちらを用いても良い。
【0016】
本発明におけるラテックスは、従来公知のポリスチレン等の合成高分子粒子であり、粒径は0.05〜1.0μm、好ましくは0.05〜0.5μmのものを用いることができる。
本発明におけるラテックス懸濁液は、公知の方法によって得た抗体(ポリクロナール抗体またはモノクロナール抗体)を公知の手段によってラテックスに感作(物理吸着法または化学結合法)したラテックス粒子を0.05〜10%の濃度になるよう生理食塩水や精製水、またはpH6〜9の緩衝液に懸濁した液である。
【0017】
また、ラテックス懸濁用の緩衝液とは別の希釈・処理用の緩衝液については、pH6〜9の緩衝能を有するものであれば特に限定されない。前記のラテックス懸濁液用の緩衝液と合わせ、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液やPIPES緩衝液等のグッド緩衝液等の従来公知の緩衝液を用いることができる。
必要に応じて、緩衝液には、安定化剤(糖類、キレート剤、アジ化物等)、検体由来の濁りを消去するための各種界面活性剤や脂質分解酵素、免疫反応による凝集を促進するための添加剤(界面活性剤等)を含ませても良い。
【0018】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
実施例1:
濃度0〜54(mg/dl)のC反応性タンパク質(CRP)の標準液3μlに40v/v%ジエチレングリコールを含む0.1Mのトリス緩衝液(pH8.2)250μlを加えた。対照として、上記CRP標準液にジエチレングリコールを含まない同緩衝液250μlを加えた。検体と緩衝液との混合液を37℃で5分間予加温をし、該混合液に抗CRP(ウサギ)抗体を感作した粒径0.12μmのポリスチレンラテックス懸濁液(0.5w/v%)50μlを加え、37℃で抗原抗体反応させ、日立7070型自動分析装置を用いて5分間の吸光度変化量を800nmで測定した。
【0019】
その結果は図1に示されているように、ジエチレングリコールを添加しない場合には、CRP10mg/dlを越えると抗原過剰による地帯現象が生じたが、ジエチレングリコールを添加した場合には、54mg/dlまで地帯現象が見られなかった。このように、本発明の方法によると従来のラテックス比濁免疫測定法では予め検体を希釈しなければ測定不可能な高濃度の抗原又は抗体でも希釈しないで測定可能になる。
【0020】
実施例2:
実施例1と同様の操作法で緩衝液に添加するジエチレングリコールの濃度を0%、25%、30%、37%、50%と変化させて、各々の濃度におけるC反応性タンパク質(CRP)濃度と吸光度変化量との関係を検討した。その結果は、図2に示されているように、ジエチレングリコールを37%又は50%含むトリス緩衝液を用いた場合には、CRP濃度と吸光度変化量とに比例関係が得られたが、30%以下のジエチレングリコール濃度では比例関係が得られなかった。
【0021】
実施例3:
本実施例は、二価アルコールの存在により測定法の特異性、精度及び正確度が変化しないことを示すためのジエチレングリコールを添加した本発明の方法と従来法(無添加系)との相関実験である。
種々の既知濃度のCRP標準液を用いて実施例1と同様の操作を行って検量線を作成し、次に種々の未知濃度のCRPを含む検体を原液のまま用いてCRP標準液と同様の操作を行い、その測定結果と上記検量線から検体中のCRP濃度を算出した。
上記2法による測定値の相関図の図3に示されているように、相関係数は0.9959と高い相関性を示しており、上記2法の測定値がほぼ完全に一致した。すなわち、本発明の方法において、二価アルコールの存在により測定法の特異性、精度及び正確度に悪影響が及ぼされないことが明らかになった。
【0022】
実施例4:
濃度0〜54(μg/ml)のプラスミン・α2 −プラスミンインヒビター複合体(PPI)の標準液3μlに30v/v%ジエチレングリコールを含む0.1Mのトリス緩衝液(pH8.0)270μlを加えた。対照として、上記PPI標準液にジエチレングリコールを含まない同緩衝液270μlを加えた。検体と緩衝液との混合液を37℃で5分間予加混をし、該混合液に抗ヒトプラスミン・α2 −プラスミンインヒビター複合体モノクローナル(マウス)抗体を感作した粒径0.20μmのポリスチレンラテックス懸濁液(0.6w/v%)50μlを加え、37℃で抗原抗体反応させ、日立7070型自動分析装置を用いて5分間の吸光度変化量を800nmで測定した。
【0023】
その結果は図4に示されているように、ジエチレングリコールを添加しない場合には、PPI濃度が35μg/mlを越えると抗原過剰による地帯現象が生じたが、ジエチレングリコールを添加した場合には、54μg/mlまで地帯現象が見られなかった。
【0024】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、測定すべき抗原又は抗体が検体中に高濃度に含まれる場合であっても、検体を希釈することなく原液のままでラテックス凝集法による免疫定量が可能である。従って、検体を正確に希釈するのに要する時間と労力を省略することができ、非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1で得られたCRP濃度と5分間の吸光度変化量との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、種々のジエチレングリコール濃度におけるCRP濃度と5分間尾吸光度変化量との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の方法と従来法(無添加系)との相関図である。
【図4】図4は、実施例4で得られたPPI濃度と5分間の吸光度変化量との関係を示すグラフである。

Claims (10)

  1. 検体中の測定すべき抗原又は抗体に対する抗体又は抗原を感作したラテックス懸濁液と前記検体とを混合し、ラテックス凝集反応によって発生した濁度を測定して検体中の抗原又は抗体を定量するラテックス比濁免疫測定法において、前記検体と前記懸濁液との混合液中に該混合液に二価アルコールを存在せしめることを特徴とするラテックス比濁免疫測定法。
  2. 二価アルコールが検体と懸濁液との混合液の全量に対し、10〜80v/v%存在せしめることを特徴とする請求項1に記載のラテックス比濁免疫測定法。
  3. 二価アルコールの屈折率がナトリウムD線(λ=589.3nm)で測定したとき1.42以上である請求項1または2に記載のラテックス比濁免疫測定法。
  4. 前記二価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、 1.5 −ペンタンジオールまたはヘキシレングリコールである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のラテックス比濁免疫測定法
  5. 前記二価アルコールが、ジエチレングリコール、プロピレングリコールまたはトリメチレングリコールである請求項1〜4のいずれか1項に記載のラテックス比濁免疫測定法。
  6. 検体中の測定すべき抗原又は抗体に対する抗体又は抗原を感作したラテックス懸濁液と前記検体とを混合し、ラテックス凝集反応によって発生した濁度を測定して検体中の抗原又は抗体を定量するラテックス比濁免疫測定用試薬において、二価のアルコールを緩衝液あるいはラテックス懸濁液のどちらか一方あるいは両方に含有することを特徴とするラテックス比濁免疫測定用試薬。
  7. 二価アルコールが検体と懸濁液との混合液の全量に対し、10〜80v/v%となるように含有する請求項に記載のラテックス比濁免疫測定用試薬。
  8. 二価アルコールの屈折率がナトリウムD線(λ=589.3nm)で測定したとき1.42以上である請求項6または7に記載のラテックス比濁免疫測定用試薬。
  9. 前記二価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、 1.5 −ペンタンジオールまたはヘキシレングリコールである、請求項6〜8のいずれか1項に記載のラテックス比濁免疫測定用試薬
  10. 前記二価アルコールがジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコールである請求項6〜9のいずれか1項に記載のラテックス比濁免疫測定用試薬。
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