JP3544455B2 - 継目無鋼管用高強度非調質鋼の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐力比に優れる高周波焼入れ可能な継目無高強度非調質鋼管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
産業車両や建設機械等のシャフト類、シリンダー類用として使用されている継目無鋼管としては、従来の炭素鋼に調質を施したものから調質を省略した非調質鋼管が採用されており、例えば特開平5−202447号に提案の発明がある。この提案では、強度を各合金元素の寄与率を足し合わせて整理した炭素当量において上限を設けており、引張強度は882N/mm2以下に限定される。しかし近年では、さらなる軽量化すなわち強度を上昇させることにより薄肉化への要求が高まっており、当該特許ではこの要求に限りがある。
【0003】
引張強度882N/mm2以上の非調質鋼管に関するものとしては、例えば特開平4−358025号および特開平8−100214号に提案の発明がある。ここで耐摩耗性、耐かじり性および高疲労強度が要求される場合には表面を高周波焼入れされるが、当該提案のC量の上限は0.30% である。高周波焼入れとして要求される表面硬さはC量で決まり、一般的に035%以上が必要とされるが、当該特許のC量では満足できない。
【0004】
また非調質鋼は、調質鋼に比べて一般的に耐力比(0.2%耐力/引張強さ)が低い。0.2%耐力あるいは降伏強さはHall−Petchの関係から結晶粒を微細化することで改善されることは知られており、前記提案ではTiおよびNbの添加により炭窒化物を形成させ、熱間圧延時の結晶粒の粗大化を防止している。しかしこれらの元素は高価であることからコストアップの要因となっており、また改善されたとしても調質鋼の耐力比(0.75以上)には及ばない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題を解決するものであって、成分および製造条件を限定することにより、引張強さが882N/mm2以上かつ耐力比が0.75以上と調質材並みに優れ、2UE20 ℃=49J/cm2 (2mmUノッチシャルピー衝撃試験による20℃での衝撃値)以上である高周波焼入れが可能な継目無非調質鋼管を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記のように、TiやNbなどの高価な元素を添加したとしても調質鋼並みの耐力比が得られないことから、本発明者らは化学成分および製造方法の種々検討を行った結果、下記に示す成分および製造方法により、引張強さが882N/mm2以上かつTiおよびNbを添加しなくとも耐力比が0.75以上と調質材並みに優れ、2UE20 ℃=49J/cm2 (2mmUノッチシャルピー衝撃試験による20℃での衝撃値)以上を満足する高周波焼入れが可能な継目無非調質鋼管を発明した。
【0007】
すなわち、上記の課題を解決するための請求項1の発明の手段は、
質量比にして、C:0.35〜0.45%、Si:0.10〜0.80%、Mn:1.2〜2.0%、S:0.020%以下、Cr:0.3〜0.8%、V:0.05〜0.30%、Al:0.01〜0.05%、N:0.008〜0.050%を含有し、C+1/7Si+1/5Mn+1/9Cr+1/2Vで表される炭素当量(Ceq)が0.83以上かつ(Mn+Cr)/C≦6.0であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼片を1100〜1200℃の範囲で加熱し、熱間連続穿孔圧延にて素管成形後、再熱炉にて950〜1000℃に均熱後、外径絞り機等により所定の寸法に仕上げ圧延を行った後、空冷することを特徴とする。
【0008】
以下に成分の限定理由を述べる。
C:0.35〜0.45%
Cは、高周波焼入れ硬さと強度を確保するために0.35% 以上を必要とする。
しかし、多すぎると靭性が低下するため0.45% を上限とした。
【0009】
Si:0.05 〜0.8%
Siは、溶製時の脱酸材であるとともにフェライト中に固溶して強化する元素であり、強度(特に降伏強度)を確保するために添加され、0.05% 未満ではその効果が不足し、多すぎると靭性及び被削性を劣化させるため上限を0.8%とする。
【0010】
Mn:1.2〜2.0%
Mnは、Siと同様に溶製時の脱酸材であるとともにフェライト中に固溶して強化する元素であり、強度(特に降伏強度)を確保させるために1.2%以上を必要とする。しかし、多すぎると靭性が劣化し、またベイナイト組織を生じて残留オーステナイトの存在によりかえって耐力比も低下するので、2.0%を上限とする。
【0011】
S:0.020%以下
Sを添加するとフェライト強化元素であるMnと結合してMnS を形成し、鋼中に固溶するMn量が低下するために降伏強度が低下し、また後述する温度範囲では鋼管の内面キズの要因となり易いため、S の上限を0.02% 以下とする必要がある。
【0012】
Cr:0.3〜0.8%
Crは、Mnと同様にフェライト中に固溶して強度(特に降伏強度)を確保するのに必要な元素であるが、その効果を発揮するには0.3%以上を必要とする。しかし、多すぎるとベイナイト組織を現出させて耐力比を低下させ、靱性も劣化するので0.8%を上限とする。
【0013】
V:0.05〜0.3%
Vは、微細な炭窒化物を析出して強度を確保するのに重要な元素であり、0.05% 未満ではその作用が不足する。多量に添加してもその効果は飽和し、コストアップとなることから0.3%を上限とする。
【0014】
Al:0.01 〜0.05%
Alは、MnおよびSiと同様に溶製時の脱酸材であるとともに、N と結合してAlN を生成させて結晶粒粗大化を防止するのに必須の元素である。特に熱間連続穿孔圧延にて素管に圧延した際、仕上げ圧延を行うには変形抵抗低減のために再熱させる必要があり、その際の結晶粒粗大化を防止するのに必要である。Alが0.01%より少ないと上記効果は期待できず、多量に添加すると介在物を生成して機械的特性に悪影響を及ぼすので上限を0.05% とする。
【0015】
N:0.008 〜0.050%
Nは、Alと結合してAlN を生成させて結晶粒粗大化防止に必須の元素であり、0.008%以上を必要とする。しかし、多量に添加すると、熱間加工性および機械的性質を劣化させるので0.050%を上限とする。
【0016】
Ceq=C+1/7Si+1/5Mn+1/9Cr+1/2V≧0.83
以上に示した成分の限定に加え、引張強さ882N/mm2を有するために上記の式で与えられる炭素当量(Ceq) を0.83以上に制限する。
【0017】
(Mn+Cr)/C ≦6.0
上記成分範囲では、C 、MnおよびCrの成分バランスにおいてフェライト・パーライト組織もしくはベイナイト組織を現出する可能性がある。特にベイナイト組織が現出すると残留オーステナイトの存在により耐力比を低下させる。発明者らは、ベイナイトが生成する要因としてMnおよびCrの添加がベイナイト組織を現出させ、C の添加がそれを抑制することを見出し、ベイナイト組織を現出させない(Mn+Cr)/C ≦6.0 に限定する。
【0018】
ここで継目無鋼管の製造方法は、以下に要約される。鋼片を加熱した後、ピアシングミルにて穿孔し、マンドレルバーを挿入して延伸圧延を行い、素管を製造する。この後、外径絞り機等により定型圧延を行うが、素管製造段階で温度が低下しており、また温度分布が均一でないため、均熱のために再熱炉へ挿入される。所定の温度へ再熱された後、外径絞り機等により定型圧延を行った後、空冷される。本発明者らはこの製造条件において、耐力比におよぼす加熱温度及び再熱温度の影響を確認することにより、耐力比に優れる製造条件を検討した。
【0019】
鋼片の加熱温度は、C 、Cr、V を固溶させ、穿孔時の変形抵抗低減およびキズの問題から1100℃以上にする必要がある。しかし加熱温度を高すぎると結晶粒粗大化防止として作用するAlN が固溶してしまうため、圧延前の結晶粒が粗大化し、また素管圧延の仕上がり温度が高くなるために結晶粒粗大化を助長させ、その結果として耐力比が低下するので上限を1200℃以下とする必要がある。
【0020】
素管圧延を行った後、定型圧延を行うため均熱を施すが、その際の温度が低いと変形抵抗が高くなるので形状が不定形になり、またフェライト面積率が増加して強度が低下するので、950 ℃以上を必要とする。しかし再熱温度を高くしすぎるとAlN が粗大化して結晶粒粗大化のピン止めとしての作用が薄れるために、結晶粒が粗大化して耐力比が低下し、また酸化スケールを生じて表面性状を劣化させるので、1000℃を上限とする。
【0021】
【発明実施の形態】
本発明は、引張強さが882N/mm2以上かつ調質鋼並みの耐力比0.75以上が得られ、2UE20 ℃=49J/cm2 (2mmUノッチシャルピー衝撃試験による20℃での衝撃値)以上を満足する高周波焼入れが可能な継目無非調質鋼管を得るものである。
【0022】
したがって、本発明を実施するには、質量比にして、C:0.35〜0.45%、Si:0.10〜0.80%、Mn:1.2〜2.0%、S:0.020%以下、Cr:0.3〜0.8%、V:0.05〜0.30%、Al:0.01〜0.05%、N:0.008〜0.050%を含有し、C+1/7Si+1/5Mn+1/9Cr+1/2Vで表される炭素当量(Ceq)が0.83以上かつ(Mn+Cr)/C≦6.0であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼片を1100〜1200℃の範囲で加熱し、熱間連続穿孔圧延にて素管成形後、再熱炉にて950〜1000℃に均熱後、外径絞り機等により所定の寸法に仕上げ圧延を行った後、空冷する必要がある。
【0023】
【実施例】
表1に示す化学成分の鋼を真空溶解炉にて1t鋼塊を溶製し、φ140mm 鋼片へ鍛伸した。これらの鋼片を1180℃に加熱した後、ピアシングミルにて外径φ138mm ×肉厚25mmへ穿孔圧延し、マンドレルバーを挿入してトランスバルエロンゲーターにて外径φ121mm ×肉厚19mmに延伸圧延した。その後、再熱炉にて980 ℃に均熱してシンキングミルおよびサイザーにより外径φ105mm ×肉厚20mmへ外径絞り圧延を行って空冷した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1において、番号1〜3は発明鋼であり、番号4〜12は比較鋼である。比較項において、下線で示す番号4はSが上限以上であり、番号5および6はCがそれぞれ下限以下および上限以上であり、特に番号5は(Mn+Cr)/C が6.0 以上である。番号7および8はMnがそれぞれ下限以下および上限以上であり、特に番号8は(Mn+Cr)/C が6.0 以上である。番号9および10は、Crがそれぞれ下限以下および上限以上である。番号11、12、13および14は、それぞれSi、Al、VおよびNが下限以下である。
【0026】
【表2】
【0027】
これら管材において圧延方向と平行に引張試験片(JIS 4号)およびシャルピー衝撃試験片(JIS 3号)を割り出して試験を行い、同時に光学顕微鏡にてミクロ組織観察も行った。これら試験結果を表2に示す。番号1〜3はすべて引張強さ882N/mm2以上、2UE20 ℃=49J/cm2 以上を満足しており、また耐力比も0.75以上と高い。番号4および5は引張強度および衝撃値は満足しているものの、耐力比が低い。特に番号5はベイナイト組織が現出して残留オーステナイトが存在するために耐力比が低下している。番号6〜14は、引張強度は満足しているものの、耐力比が低く、また衝撃値も目標値を達成していない。
【0028】
【表3】
【0029】
ここで熱間圧延条件を変えて実施した例について説明する。表3に番号1の鋼の熱間圧延において、鋼片の加熱温度(抽出温度)および再熱炉の温度を変えたときの、引張強さ、0.2%耐力および耐力比を示す。
【0030】
番号1’は番号1の鋼の熱間圧延における鋼片の加熱温度を1230℃としたもので、番号1に比べて鋼片加熱時の温度が高いので結晶粒粗大化のピン止めとして作用するAlN が固溶してしまったために、結晶粒が粗大化して耐力比が低下したものと思われる。番号1”は番号1の鋼片の再熱炉の温度出側の温度を1030℃としたものでAlN が粗大化してピン止め作用が薄れたために、結晶粒が粗大化して耐力比が低下したものと考えられる。
【0031】
【発明の効果】
この発明によれば、引張強さ882N/mm2以上かつ耐力比が0.75以上と調質材並みに優れ、2UE20 ℃=49J/cm2 以上を満足し、高周波焼入れ用途にも適用可能な非調質鋼管が提供できることから、従来の鋼管の薄肉化はもちろん、棒鋼を中空化することにより大幅な軽量化およびコストダウンが可能となる。
Claims (1)
- 質量比にして、C:0.35〜0.45%、Si:0.10〜0.80%、Mn:1.2〜2.0%、S:0.020%以下、Cr:0.3〜0.8%、V:0.05〜0.30%、Al:0.01〜0.05%、N:0.008〜0.050%、を含有し、C+1/7Si+1/5Mn+1/9Cr+1/2Vで表される炭素当量(Ceq)が0.83以上かつ(Mn+Cr)/C≦6.0であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼片を、1100〜1200℃の範囲で加熱し、熱間連続穿孔圧延にて素管成形後、再熱炉にて950〜1000℃に均熱後、外径絞り機等により所定の寸法に仕上げ圧延を行った後、空冷することを特徴とする継目無鋼管用高強度非調質鋼の製造方法。
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