JP3544296B2 - 電子放出素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子放出素子、特に、多孔質半導体電子放出素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から電界電子放出表示装置のFED(field emission display)が、陰極の加熱を必要としない冷陰極の電子放出源のアレイを備えた平面形発光ディスプレイとして知られている。面電子放出源として金属層−絶縁層−金属層(MIM)構造の電子放出素子や、多孔度の均一な多孔質シリコンSiの多孔質半導体を用いた電子放出素子も注目されている。
【0003】
多孔質半導体の電子放出素子は、図1に示すように、裏面にオーミック電極11を設けたシリコン層12に多孔質シリコン層13を設け、その上に金属薄膜電極15を形成したものである。
多孔質半導体電子放出素子は、表面の薄膜電極を正電位Vpsにし裏面オーミック電極を接地電位としたダイオードである。オーミック電極11と薄膜電極15との間に電圧Vpsを印加し半導体層12に電子を注入すると、ダイオード電流Ipsが流れ、多孔質半導体層13は高抵抗であるので、印加電界の大部分は多孔質半導体層にかかる。電子は、金属薄膜電極15側に向けて多孔質半導体層13内を移動する。金属薄膜電極付近に達した電子は、そこで強電界により一部は金属薄膜電極をトンネルし、外部の真空中に放出される。このトンネル効果によって薄膜電極15から放出された電子e(放出電流IEM)は、透明基板1上の対向したコレクタ電極(透明電極)2に印加された高電圧Vcによって加速され、コレクタ電極に集められる。コレクタ電極に蛍光体が塗布されていれば対応する可視光を発光させる。
【0004】
このように、表示装置としては、多孔質シリコン層12と金属薄膜電極15の間に電圧を印加し、電子の一部を金属薄膜電極15をトンネルさせ、蛍光体3R,3G,3B付きの対向電極2に当て、発光させる。
多孔質Si層はSi膜を弗化水素酸溶液とエチルアルコールとの混合溶液中で陽極酸化することにより形成されている。
【0005】
陽極酸化後の多孔質Si層は、真空中で高温を加えることにより、その表面の水素終端を除去し、酸素ガスや窒素ガス中で加熱もしくはプラズマ処理等の方法で酸素、窒素終端を形成し、安定化をおこなってきた。
しかしながら、この終端方法では、多孔質Si層内の酸素及び窒素が終端された部分の厚さの制御は困難であった。終端処理条件の最適化が難しいためである。よって、酸素及び窒素が終端された多孔質Si部分は電子放出のEL(electroluminescence),PL(photoluminescence)発光の重要条件であるので、均一なEL,PL発光を安定に得られる多孔質半導体電子放出素子は得られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、EL,PL発光の安定な電子放出効率の高い電子放出素子を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の電子放出素子は、電子を供給する半導体層、前記半導体層上に形成された多孔質半導体層及び前記多孔質半導体層上に形成され前記真空空間に面する金属薄膜電極からなり、前記半導体層及び前記金属薄膜電極間に電界を印加し電子を放出する電子放出素子であって、前記多孔質半導体層及び前記金属薄膜電極間に酸化珪素又は窒化珪素からなる絶縁体層を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の電子放出素子においては、前記多孔質半導体層は、酸素又は窒素により終端されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の電子放出素子においては、前記多孔質半導体層は前記半導体層の表面を陽極酸化処理により多孔質化して形成されたことを特徴とする。
本発明の電子放出素子は電子放出効率が高くなるので、表示素子とした場合、高輝度が得られ、駆動電流の消費及び発熱を抑制でき、さらに駆動回路への負担を低減できる。
【0010】
本発明の電子放出素子は、面状又は点状の電子放出ダイオードであり、赤外線又は可視光又は紫外線の電磁波を放出する発光ダイオード又はレーザダイオードとして動作可能である。本発明の電子放出素子によれば、多孔質半導体層及び金属薄膜電極間に酸化珪素又は窒化珪素からなる絶縁体層を設けたので、電子放出が安定する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。
図2に示すように、実施例の電子放出素子は、オーミック電極11を備えた例えば素子ガラス基板10と、そのオーミック電極上に例えばスパッタ成膜された電子を供給する半導体層12と、このSi半導体層を陽極酸化により多孔質化したSiの多孔質半導体層13と、酸化珪素又は窒化珪素からなる絶縁体層14と、真空空間に面する金属薄膜電極15と、からなり、半導体層及び金属薄膜電極間に電界を印加し電子を放出する電子放出素子である。実施例の電子放出素子では、多孔質半導体層13及び金属薄膜電極15間に、スパッタリング法で形成された酸化珪素又は窒化珪素からなる絶縁体層14を設けてある。
【0012】
また、多孔質化するSi層は、N型、P型、単結晶、多結晶もしくはアモルファスのSiウエハー自体を基板としてもよく、或いはオーミック電極を予め形成した素子基板上に形成されたSi薄膜でも良い。複数素子を形成して表示素子とするためには都合がよい。
絶縁体層14の誘電体材料としては酸化珪素SiOx(xは原子比を示す)が特に有効であるが、 SiN x ( x は原子比を示す)でも有効である。
【0013】
またこれら機能層の成膜法としては、スパッタリング法が特に有効であるが、真空蒸着法、CVD(chemical vapor deposition)法、レーザアブレイション法、MBE(molecular beam epitaxy)法、イオンビームスパッタリング法でも有効である。
半導体層12の材質は、シリコン(Si)が挙げられるが、本発明の半導体層はシリコンに限られたものではなく、陽極酸化法を適用できる半導体は全て利用することができ、ゲルマニウム(Ge)、炭化シリコン(SiC)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)、セレン化カドミウム(CdSe)など、IV族、III−V族、II−VI族などの単体及び化合物半導体が、用いられ得る。Si層12では単結晶、アモルファス、多結晶、n型、p型の何れでも良いが、単結晶の場合、(100)方向が面に垂直に配向している方が、多孔質Si層の電子放出効率ηの点で好ましい。(100)面Si層はナノメータオーダ内径の孔及びSi結晶が表面に垂直に配向するからであると推定される。アモルファスSi層から多孔質Si層を陽極酸化形成する場合、残留Siもアモルファスとなる。
【0014】
多孔質半導体層13は半導体層12を陽極酸化処理を行って得られる。
例えば、半導体層にn型Siウエハを用い陽極酸化処理を行う場合、Si層のウエハ12を用意し、その表面に多孔質半導体層用開口を有する絶縁層を積層形成する。開口を有するSi層のウエハを陽極、Pt線を陰極として、弗化水素酸HF溶液内にて両者を対向させ、低い電流密度で陽極化成して、Si層12内に多孔質Si層13を形成する。この場合、多孔質形成にはホールの消費が必要であるからホール供給のために光照射が必要である。多孔質Si層はp型Si半導体層にも形成できるが、この場合は、暗状態でも多孔質Si層が形成される。
【0015】
多孔質Si層は多数の微細孔と残留Siとからなる。微細孔径が1〜数百nm内径で残留Siが原子数十〜数百の大きさにした多孔質Si層により、量子サイズ効果による放出現象が得られる。これらの値はHF濃度、化成電流密度、処理時間、光照射の陽極酸化処理条件によって制御される。
次に、電子放出側の金属薄膜電極材料15としてはPt, Au, W, Ru, Irなどの金属が有効であるが、Al, Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ga, Y, Zr, Nb, Mo, Tc, Rh, Pd, Ag, Cd, Ln, Sn, Ta, Re, Os, Tl, Pb, La, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luも用いられ、更に、それらの合金であっても良い。薄膜電極15の材質は、電子放出の原理から仕事関数φが小さい材料で、薄い程良いが、薄膜電極15の材質は極薄化の面では、導電性が高く化学的に安定な金属が良く、たとえばAu、Pt、Lu、Ag,Cuの単体又はこれらの合金等が望ましい。また、これらの金属に、上記仕事関数の小さい金属をコート、あるいはドープしても有効である。AuまたはPt薄膜電極膜厚が1〜50nmで実用化可能な効率が得られる。素子としての安定性を考えるとAuまたはPt薄膜電極膜厚は2〜20nmが最も適当である。
【0016】
電子供給側のオーミック電極11の材料としては、Au、Pt、Al、W等の一般にICの配線に用いられる材料である。
半導体層12を薄膜として成膜するための素子基板10の材質はガラスの他に、Al2O3,Si3N4、BN等のセラミックスでも良い。
このように、本発明では、陽極化成後の多孔質Si層上に、酸化Si層もしくは窒化Si層の絶縁体層14を、スパッタ法、CVD法等によって形成することを特徴とする。この方法により、酸化Si層もしくは窒化Si層の膜厚の制御を容易にすることができる。
【0017】
一方、図3に示すような、上記の絶縁体層14を設けることなく、多孔質Si内部の骨格までも酸化もしくは窒化した多孔質Si層13aを有する多孔質半導体電子放出素子も上記同様な特性を奏する。陽極酸化により多孔質Si層の形成後、その細孔の表面のダングリングボンドに対して終端部分を酸化もしくは窒化するのではなく、多孔質Si層の内部の骨格までも酸化もしくは窒化することによって同様な特性を得ることができる。例えば、多孔質Si層の形成後、摂氏温度900〜1000度、処理時間10〜70分で急速熱酸化もしくは窒化を行い、Arなどの不活性ガス中で摂氏温度500度、処理時間10分で熱処理する。すなわち、半導体層の多孔質化後に下記の条件で、酸化もしくは窒化を行い、その後、Pt等の薄膜電極を設けると安定性と耐久性がより向上する。
【0018】
酸化条件では酸素ガス中で、700〜1200℃、1〜120分間、又は酸素プラズマ中で、200〜900℃、1〜120分間である。さらに窒化条件では窒素ガス中で、700〜1200℃、1〜120分間、又は窒素プラズマ中で、200〜900℃、1〜120分間である。
さらにまた、図4に示すような、上記2つの方法を組み合わせた、すなわち、内部骨格を酸化もしくは窒化した多孔質Si層13a上に酸化Si層もしくは窒化Si層の絶縁体層14を形成した多孔質半導体電子放出素子も上記同様な特性を奏する。
【0019】
具体的に、Alのオーミック電極を設けた素子ガラス基板上にスパッタ成膜したSi層を設けた基板から電子放出素子を作製し特性を調べた。
以下の陽極酸化法において、半導体層から多孔質半導体層を得た。
<陽極化成条件>
HF(55%溶液):EtOH=1:1
電流密度: 12.5mA/cm2
光照射有り
化成時間 72秒
多孔質Si膜厚:2μm
多孔質半導体層を得た後、膜厚50nmの酸化Si層をスパッタ法で成膜した。
【0020】
酸化Si層形成後、その表面上に直径6mmのPtの薄膜電極を膜厚10nmでスパッタ成膜し、素子基板を多数作成した。
さらに、内面にITOコレクタ電極が形成された透明ガラス基板や、各コレクタ電極上に、R,G,Bに対応する蛍光体からなる蛍光体層を常法により形成した透明基板を作成した。
【0021】
これら素子基板及び透明基板を、薄膜電極及びコレクタ電極が対向するように平行に10mm離間してスペーサにより保持し、間隙を10−5Paの真空にして、電子放出素子を組立て、作製した。
一方、比較例として、Si層を有さない以外は上記実施例と同一の従来の電子放出素子を作製した。
【0022】
さらに、多孔質半導体層上に酸化Si層を成膜しないで、多孔質半導体層の形成後、多孔質Si層の骨格を、深さ50nmまで十分酸化した以外、上記実施例と同一の参考例の電子放出素子を作製した。
従来例の電子放出素子と上記実施例の酸化Si層の有無及び前記参考例のSi層の骨格酸化の有無による電気特性の差を見た結果、酸化Si層があるもの及びSi層が骨格酸化された素子からは、冷電子放出および、EL,PL発光が確認された(図5参照)。このとき、EL発光、PL発光のピークエネルギーは 1.7eVであった。
【0023】
また、上記実施例の酸化Si層を多孔質Si層及びPt薄膜電極間に設けた素子と、従来例の電子放出素子とについて、Alオーミック電極とPt薄膜電極15との間に-20〜20Vの電圧Vpsを印加してSiウエハ層に電子を注入し、ダイオード電流Ips (Diode current)及び放出電流IEM (Emission current)を測定した。
【0024】
この結果を図6に示す。図からあきらかなように、ダイオード電流については本発明及び従来例の電子放出素子では同様なヒステリシスを示したが、放出電流については、本発明の素子は従来の素子よりも絶縁耐圧が高くなり、従来の放出電流IEMの数Vの電圧Vps(グラフ中B)よりも高い20Vの電圧Vps(グラフ中A)にて高い放出電流IEMピークが得られた、さらに、電子放出効率も向上していた。
【図面の簡単な説明】
【図1】電子放出素子の概略断面図である。
【図2】本発明による実施例の電子放出素子の概略断面図である。
【図3】本発明による他の実施例の電子放出素子の概略断面図である。
【図4】本発明による他の実施例の電子放出素子の概略断面図である。
【図5】本発明による電子放出素子のEL,PL発光スペクトルを示すグラフである。
【図6】本発明による電子放出素子のダイオード電流及び放出電流対電圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1 透明基板
2 コレクタ電極
3R,3G,3B 蛍光体層
4 真空空間
10 素子基板
11 オーミック電極
12 半導体層
13 多孔質半導体層
13a 酸化もしくは窒化した多孔質層
14 絶縁体層
15 金属薄膜電極
Claims (3)
- 電子を供給する半導体層、前記半導体層上に形成された多孔質半導体層及び前記多孔質半導体層上に形成され前記真空空間に面する金属薄膜電極からなり、前記半導体層及び前記金属薄膜電極間に電界を印加し電子を放出する電子放出素子であって、前記多孔質半導体層及び前記金属薄膜電極間に酸化珪素又は窒化珪素からなる絶縁体層を有することを特徴とする電子放出素子。
- 前記多孔質半導体層は前記半導体層の表面を陽極酸化処理により多孔質化して形成されたことを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
- 前記多孔質半導体層は、酸素又は窒素により終端されていることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
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