JP3544267B2 - 巨大フラーレンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は巨大フラーレンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
C60に代表されるフラーレンは、分子間力によって結合しており、高い対称性を持ったサッカーボール型の分子である。分子中の全てのカーボン原子は等価であって、互いに共有結合しており、非常に安定な結晶体である。C60等のフラーレンは、結晶構造的には fcc構造をとると見なすことができ、塑性変形能や加工硬化性等の金属的な力学特性を示すことから、新しい炭素系材料として各種用途への応用が期待されている。また、フラーレン自体の特性に基いて、超伝導材料、触媒、非線形光学材料等への応用も研究されている。
【0003】
従来、C60等のフラーレンは、炭素棒や粒状炭素を電極としたアーク放電法や紫外レーザをグラファイト表面に照射するレーザアブレーション法等によって作製されている。フラーレンはスス中に混在した状態で生成されるため、フィルタやベンゼン等を用いた捕集装置により抽出している。
【0004】
上述したアーク放電時に陰極側に堆積した物質中には、カーボンナノカプセルやカーボンナノチューブと呼ばれる高次フラーレン(巨大フラーレン)が含まれており、陰極側の堆積物を粉砕した後にエタノール等の有機溶媒を用いて精製することにより、上述したカーボンナノカプセルやカーボンナノチューブが得られている。カーボンナノカプセルやカーボンナノチューブは、いずれも中空形状を有すると共に、例えば潤滑性や耐候性等に優れることから、それらの中空部内に他の金属原子や微細結晶等を閉じ込めることによって、新物質の合成や新機能の探索等が行われている。
【0005】
上記したようなカーボンナノカプセルやカーボンナノチューブの中空部内に他の金属原子や微細結晶等を閉じ込めた巨大フラーレン(以下、内包巨大フラーレンと記す)としては、従来、LaやY等の希土類金属の炭化物や、Fe、Co、Ni等の金属微粒子を内包させたものが報告されている。これらは、金属や酸化物等の粉を仕込んだ炭素電極を用いてアーク放電等を行い、その陰極堆積物中に含まれる内包巨大フラーレンを精製することにより得ている。
【0006】
しかし、このような従来の内包巨大フラーレンは、その製造工程が複雑であると共に、アーク放電法により生成される堆積物中に含まれるものであるため、黒鉛状物質やアモルファスカーボン等の不純物との分離自体が困難であるという問題を有している。また、従来の内包巨大フラーレンはアーク放電法等により副次的に生成されるものであるため、形状や内包状態の制御等を容易に行うことはできず、また巨大フラーレンに内包させる微粒子についても、現状では特定の金属微粒子や化合物微粒子に限られている。
【0007】
また、巨大フラーレンの一種として、C60等からなるコアの外殻にさらに大きな分子量を持つフラーレンが同心円状に重なりあった、たまねぎ状グラファイトと呼ばれる物質も発見されているが、現状では存在が確認された程度であって、その形状や物性等の制御は十分には行われておらず、ましてやたまねぎ状グラファイトを用いた内包巨大フラーレン等は実現されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の内包巨大フラーレンは、金属や酸化物等の粉を仕込んだ炭素電極を用いたアーク放電等により得られる極堆積物中に含まれるものであるため、製造過程が複雑であると共に、黒鉛状物質やアモルファスカーボン等の不純物との分離が困難であるというような問題を有している。さらに、従来の内包巨大フラーレンは、その製造方法に起因して、形状や内包状態等を容易に制御することはできず、また巨大フラーレンに内包させる微粒子についても、現状では特定の金属微粒子や化合物微粒子に限られている。
【0009】
このようなことから、分離工程等を経ることなく、比較的簡易な工程で内包巨大フラーレンの作製を可能にすることが求められている。さらには、各種の微粒子を用いた内包巨大フラーレンの作製を可能にすると共に、内包巨大フラーレンの形状や内包状態の制御等を実現することが求められている。またこのために、内包巨大フラーレンを制御された条件下で独立した状態で作製することを可能にする技術が望まれている。
【0010】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、比較的簡易な工程で、かつ制御された条件下で独立した状態で作製が可能であると共に、形状等を制御することができ、超微粒子が内包される可能性を有する巨大フラーレンの製造方法を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の巨大フラーレンの製造方法は、非晶質炭素膜上に、Al超微粒子、Pt超微粒子、Al2O3超微粒子およびSi超微粒子から選ばれる超微粒子を配置する工程と、前記非晶質炭素膜に対して電子線をその照射径の外縁部近傍に前記超微粒子が位置するようにして照射し、前記超微粒子を核生成物質とすると共に、前記電子線の照射径内の非晶質炭素の活性化に基づいて流動または浮遊した炭素原子を構成原子の少なくとも一部として供給して、閉殻構造の層状カーボン組織を有する巨大フラーレンを生成する工程とを具備することを特徴としている。
【0013】
すなわち本発明は、超微粒子が配置された非晶質炭素に高エネルギービームとして電子線を照射し、この電子線の照射径内の非晶質炭素の活性化に基づいて流動または浮遊した炭素原子を構成原子の少なくとも一部として供給すると共に、非晶質炭素上に配置したに超微粒子を核生成物質とすることによって、巨大フラーレンを生成し得ること、さらに超微粒子が巨大フラーレンに内包される可能性があることを見出したことに基くものである。
【0014】
本発明の巨大フラーレンの製造方法によれば、電子線の照射径の外縁部近傍に選択的にかつ独立した状態で巨大フラーレンを形成することができる。この巨大フラーレンは超微粒子を内包する可能性があることから、そのような巨大フラーレンの物性等の掌握や各種の操作、制御等が実現可能となる。その上で、電子線の照射により活性化した炭素原子の流動や浮遊等により、巨大フラーレンを構成する炭素原子の少なくとも一部を供給しているため、超微粒子を立体的に内包した巨大フラーレンが得られる可能性がある。また、巨大フラーレンの形状等は、超微粒子の当初の形状や高エネルギービームの照射領域との位置関係等によって制御することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の巨大フラーレンの製造過程の一実施形態を模式的に示す断面図である。同図において、1は非晶質炭素膜であり、この非晶質炭素としては例えばi−カーボン等が用いられる。このような非晶質炭素膜1上に、図1(a)に示すように、単数もしくは複数の超微粒子2を適当な間隔で配置する。この超微粒子2は、巨大フラーレンの核生成物質となると共に、最終的には生成した巨大フラーレンに内包される可能性を有するものである。
【0017】
上記した超微粒子2としては、金属超微粒子、半導体超微粒子、化合物超微粒子等の固体物質からなる超微粒子を用いることができる。言い換えると、固体物質からなる超微粒子2を核生成物質(核生成点)として、後述するように巨大フラーレンを誘起および成長させることができる。このような超微粒子2としては、Al、Ptのような金属超微粒子、Siのような半導体超微粒子、Al 2 O 3 のような金属酸化物超微粒子が用いられる。
【0018】
また、超微粒子2の直径は 2〜 100nm程度であることが好ましい。超微粒子2の直径が 100nmを超えると、下層の非晶質炭素を十分に活性化できず、巨大フラーレンを誘起できないおそれがある。なお、直径 2nm未満の超微粒子2は作製自体が困難である。超微粒子2のより好ましい直径は 3〜30nmの範囲である。このような超微粒子2の作製方法は特に限定されるものではなく、非晶質炭素膜1上に分離した状態で配置することが可能であれば、種々の方法で作製した超微粒子2を使用することができる。
【0019】
上述したような超微粒子2を配置した非晶質炭素膜1に対して、高エネルギービーム3を照射する。この非晶質炭素膜1に照射する高エネルギービーム3としては、例えば強度が1×1018e/cm2・sec以上の電子線が用いられる。
【0020】
高エネルギービーム3として電子線を用いる場合、照射強度が1×1018e/cm2・sec未満であると、巨大フラーレンを生成し得るほどに非晶質炭素を活性化できないおそれがある。言い換えると、1×1018e/cm2・sec以上の強度を有する電子線(3)は、超微粒子2および非晶質炭素膜1の活性化効果や局所加熱効果等をもたらし、これらによって巨大フラーレンの生成が可能となる。
【0021】
高エネルギービーム3の照射雰囲気は、使用ビームに応じて設定すればよく、例えば真空雰囲気、アルゴン雰囲気のような不活性雰囲気等が挙げられ、また場合によっては酸素含有雰囲気や窒素雰囲気等でもよい。例えば、電子線照射を適用する場合の雰囲気は 1×10−5Pa以下の真空雰囲気とすることが好ましく、これによって残留ガス原子の吸着等を防ぐことができることから、巨大フラーレンの生成が促進される。
【0022】
上述したような高エネルギービーム3を、超微粒子2を配置した非晶質炭素膜1に照射すると、高エネルギービーム3の照射領域内の非晶質炭素膜1が活性化して、図1(b)に示すように、超微粒子2を核生成点として、超微粒子2の下側に存在する非晶質炭素の原子配列が変化して巨大フラーレン4が誘起されると共に、活性化した炭素原子の例えば図中矢印で示すような流動および集積が起こる。また、活性化した炭素原子の一部は浮遊および堆積する。ここで、高エネルギービーム3の照射により誘起された巨大フラーレン4は、閉殻構造の層状カーボン組織を有するものである。
【0023】
流動や浮遊等により空間的に移動した炭素原子は、巨大フラーレン4の構成原子の一部となり、巨大フラーレン4が成長する。言い換えると、高エネルギービーム3の照射領域内の非晶質炭素膜1の活性化によって、巨大フラーレン4を構成する炭素原子の少なくとも一部が流動や浮遊等の空間的な移動により供給され、この炭素原子の供給により巨大フラーレン4が成長する。このように、空間的に移動した炭素原子が巨大フラーレン4の構成原子の一部となるために、超微粒子2を立体的に、言い換えると三次元的に内包するように、巨大フラーレン4が成長する可能性がある。
【0024】
そして、上記した高エネルギービーム3の照射を一定時間継続し、上記したように巨大フラーレン4を成長させることによって、図1(c)に示すように、超微粒子2を立体的に内包している可能性がある巨大フラーレン5が得られる。高エネルギービーム3の照射時間は、高エネルギービーム3の強度等に応じて適宜設定するものとする。得られる巨大フラーレン5の大きさは、高エネルギービーム3の照射強度や照射時間等が一定であれば、当初の超微粒子2の大きさおよび位置に対応する傾向を示す。
【0026】
このように、巨大フラーレン5は、超微粒子2を核生成物質とすると共に、高エネルギービーム3の照射径内の非晶質炭素膜1から少なくとも一部の炭素原子を供給して形成した巨大フラーレンである。従って、高エネルギービーム3の照射領域およびその周辺部に選択的にかつ独立した状態で巨大フラーレン5を作製することができる。
【0029】
特に、非晶質炭素膜1への高エネルギービーム3の照射による活性化によって、流動や浮遊等により空間的に移動した炭素原子は、高エネルギービーム3の照射径の外縁部近傍に集積および堆積しやすいことが実験的に確認されている。従って、高エネルギービーム3をその照射径の外縁部近傍に超微粒子2が位置するように照射することによって、より大きな巨大フラーレン5を得ることができる。これは巨大フラーレン5を作製する際に有効である。
【0031】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例について述べる。
【0032】
実施例
まず、巨大フラーレンの作製に使用したAl超微粒子の形成例について述べる。すなわち、直径100nm程度の球状θ−Al2O3粒子を配置したi−カーボンからなる非晶質カーボン支持膜を、200kVTEM装置の真空室内に配置された室温ステージ上に設置し、上記真空室内を1×10−5Paの真空度まで排気した後、非晶質カーボン支持膜上に配置されたθ−Al2O3粒子に1.3×1020e/cm2・secの電子線を照射した。そして、この電子線照射によって、直径2〜30nm程度のAl超微粒子を非晶質カーボン支持膜上に生成した。
【0033】
上述したAl超微粒子を使用して、巨大フラーレンを以下のようにして作製した。すなわち、上記したAl超微粒子が配置された非晶質カーボン支持膜に対して、上記TEM装置の真空室内に配置した状態(真空度を含む)を維持した上で、Al超微粒子と共に3.0×1019e/cm2・secの電子線(照射径D=400nm)を照射した。電子線の照射位置は、その照射領域内に複数のAl超微粒子が位置するように決定した。なお、電子線の照射領域外にもAl超微粒子は存在していた。
【0034】
電子線を2050秒照射した後、電子線の照射領域近傍をTEM観察した。観察結果を図2に模式的に示す。なお、図2における点線は電子線の照射領域(照射径)を示している。図2から明らかなように、電子線の照射領域内(電子線の照射径の外縁部上を含む)に位置するAl超微粒子11a、11b等に対応する部分には、電子線の照射により同心円状の層状カーボン組織12が生成していることが観察された。この同心円状の層状カーボン組織12は、層間隔から閉殻構造の巨大フラーレンであることが確認された。また、電子線の照射領域の外側に位置するAl超微粒子11c等に対応する部分にも、電子線の照射により同様な層状カーボン組織(巨大フラーレン)12が生成していることが観察された。
【0035】
層状カーボン組織(巨大フラーレン)12の状態を確認するために、巨大フラーレン12を電子線を15deg傾けて観察した。その観察結果を図3に示す。図3(a)は電子線を垂直に照射して観察した場合のTEM写真を模式的に示す図であり、図3(b)は電子線を15deg傾けて観察した場合のTEM写真を模式的に示す図である。図3(b)から明らかなように、電子線を15deg傾けた場合においても、巨大フラーレン12の同心円状の縞が観察されている。このことはAl超微粒子11が巨大フラーレン12に立体的に内包されている可能性を示している。
【0036】
すなわち、Al超微粒子11の周囲に3.0×1019e/cm2・secの電子線を照射することによって、Al超微粒子11を核生成物質として巨大フラーレン12が生成し、この巨大フラーレン12はAl超微粒子11を立体的に内包する可能性を有するものである。これは、電子線の照射により非晶質カーボン支持膜が活性化し、この活性化した炭素原子が流動や浮遊等により空間的に移動し、この炭素原子の集積および堆積等により巨大フラーレン12の一部が生成されるためである。
【0037】
図4は、巨大フラーレン12の直径dO−fとそれに対応するAl超微粒子11の直径dAlとの関係を示している。この図から、巨大フラーレン12の直径dO−f はAl超微粒子1の直径dAlに対応することが分かる。
【0038】
また図5は、図2に示した種々の巨大フラーレン12の電子線の照射中心からの距離と、巨大フラーレン12の直径dO−fのAl超微粒子11の直径dAlに対する比(dO−f/dAl)との関係を示している。この図から、電子線の照射径の外縁部近傍にAl超微粒子11が位置する場合(図2ではAl超微粒子11a)に、Al超微粒子11に対してより大きな巨大フラーレン12が生成することが分かる。
【0039】
一方、本発明との比較例として、金属等の超微粒子を配置していないi−カーボンからなる非晶質カーボン膜に電子線を照射したところ、炭素原子の浮遊、流動等は認められたが、フラーレンは生成しなかった。
【0040】
なお、Al超微粒子に代えて、同様な大きさのPt超微粒子、Al2O3超微粒子、Si超微粒子を用いた場合にも、同様な結果が得られた。
【0041】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、分離工程等を必要としない巨大フラーレンを、その大きさ等を制御した上で、比較的簡易な工程で得ることが可能となる。従って、本発明の巨大フラーレンの製造方法は、巨大フラーレンの作製やその応用展開等に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による巨大フラーレンの製造過程の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施例による巨大フラーレンの作製結果を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施例により作製した巨大フラーレンに電子線を垂直に照射して観察した場合と15deg傾けて観察した場合のTEM写真を模式的に示す図である。
【図4】本発明の一実施例で作製した巨大フラーレンの直径dO−fとそれに対応するAl超微粒子の直径dAlとの関係を示す図である。
【図5】本発明の一実施例で作製した巨大フラーレンの電子線照射中心からの距離と巨大フラーレンの直径dO−fのAl超微粒子の直径dAlに対する比(dO−f/dAl)との関係を示す図である。
【符号の説明】
1………非晶質炭素膜
2………超微粒子
3………高エネルギービーム
4,5,12………巨大フラーレン
11……Al超微粒子
Claims (3)
- 非晶質炭素膜上に、Al超微粒子、Pt超微粒子、Al2O3超微粒子およびSi超微粒子から選ばれる超微粒子を配置する工程と、
前記非晶質炭素膜に対して電子線をその照射径の外縁部近傍に前記超微粒子が位置するようにして照射し、前記超微粒子を核生成物質とすると共に、前記電子線の照射径内の非晶質炭素の活性化に基づいて流動または浮遊した炭素原子を構成原子の少なくとも一部として供給して、閉殻構造の層状カーボン組織を有する巨大フラーレンを生成する工程と
を具備することを特徴とする巨大フラーレンの製造方法。 - 請求項1記載の巨大フラーレンの製造方法において、
前記電子線は1×1018e/cm2・sec以上の強度を有することを特徴とする巨大フラーレンの製造方法。 - 請求項1記載の巨大フラーレンの製造方法において、
前記非晶質炭素膜に前記電子線を1×10−5Pa以下の真空雰囲中で照射することを特徴とする巨大フラーレンの製造方法。
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