JP3795244B2 - 層間化合物およびその製造方法 - Google Patents

層間化合物およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グラファイト状物質の層状空間に異種の 2種以上の金属原子を挿入した層間化合物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
層間化合物は、層状構造を有するグラファイトなどの層状空間に、異種の物質を導入して作製したものであり、電気伝導性の向上や挿入物質の性質を利用した触媒などの機能材料への応用が可能であることから、各種の層間化合物の合成や物性、応用などについての研究が行われている。
【0003】
グラファイトの層状空間に挿入した異種物質の例としては、Li、Na、Kなどのアルカリ金属元素、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属元素、Sm、Eu、Ybなどの希土類元素、Mn、Fe、Ni、Co、Zn、Moなどの遷移金属、Br2 、ICl、IBrなどのハロゲン元素やその化合物、HNO3 、H2 SO4 、HF、HBF4 などの酸、MgCl2 、FeCl2 、FeCl3 、 NiCl2 、AlCl3 、SbCl5 などの化合物が報告されている。
【0004】
上述したような異種物質を層状空間に挿入したグラファイト層間化合物は、従来、 (a)グラファイトと気相または液相の挿入物質とを接触させる方法、 (b)挿入物質を含む電解溶液をグラファイト電極を用いて電気分解する方法、などを適用して作製されている。
【0005】
例えば、アルカリ金属を用いたグラファイト層間化合物は、アルカリ金属とグラファイトを真空下で共存させ、加熱することによって得られる。また、ハロゲンを用いたグラファイト層間化合物は、Br2 、ICl、IBrなどの液相または蒸気とグラファイトとを接触させることで作製することができる。Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属やSm、Eu、Ybなどの希土類元素を用いたグラファイト層間化合物は、これらの金属粉末とグラファイト微粉末とを混合し、 1〜2MPa程度で加圧した後、常圧下で焼成する方法で合成されている。
【0006】
一方、Fe、Co、Moなどの遷移金属を用いたグラファイト層間化合物については、これら金属の塩化物の層間化合物をまず合成した後、それらをNaBH4 、LiAlH4 、Naなどを用いて、室温以下でゆっくりと還元することにより合成した例が報告されている。しかし、このような還元法はその再現性が低く、安定して遷移金属のグラファイト層間化合物が得難いという欠点があった。
【0007】
また、上述したような従来のグラファイト層間化合物の製造方法は、いずれも粉末焼成、粉末−気相/液相反応、電解生成などの通常の合成法を利用したものであるため、集合体としてグラファイト層間化合物を合成するには適するものの、例えばグラファイトの極微小領域に層間化合物を形成するというように、制御された形状、分布、状態などを満足させた上でグラファイト層間化合物を作製することは不可能であり、これらを実現可能とすることが求められている。さらに、グラファイト層間化合物の応用範囲の拡大を図るために、グラファイトなどの層状空間に挿入する元素の種類やその選択性などについても制御可能とすることが求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来のグラファイト層間化合物においては、遷移金属をグラファイトの層状空間に挿入する際の再現性に乏しく、また使用可能な遷移金属も限られているという難点があった。
【0009】
また、従来のグラファイト層間化合物の製造方法は、集合体としてグラファイト層間化合物を合成するには適するものの、制御された形状、分布、状態などを満足させてグラファイト層間化合物を作製することは不可能であった。そして、グラファイト層間化合物の応用範囲の拡大を図るために、例えばグラファイトの極微小領域に選択的に形成された層間化合物など、形成状態の制御が可能な層間化合物の作製を可能にすると共に、層状空間に挿入する元素の種類やその選択性などを制御可能とすることが求められている。
【0010】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、層状空間に挿入する元素の種類やその選択性などを制御可能とし、各種金属原子を挿入した層間化合物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のグラファイト層間化合物は、請求項1に記載したように、グラファイトの (001)面と (002)面に相当する結晶面を有する層状構造のグラファイト系物質と、前記グラファイト系物質の前記結晶面間の層状空間に挿入された異種の 2種以上の金属原子とを具備することを特徴としている。
【0012】
本発明の層間化合物は、請求項1に記載したように、グラファイトの(001)面と(002)面に相当する結晶面を有する層状構造のグラファイト系物質と、前記グラファイト系物質の前記結晶面間の層状空間に挿入された、Al、PtおよびAuから選ばれる第1の金属原子とCuからなる第2の金属原子とを具備することを特徴としている。
【0013】
本発明の層間化合物の製造方法は、請求項5に記載したように、アモルファスカーボン支持膜上に第1の原料物質としてAl、PtおよびAuから選ばれる第1の金属原子で構成された金属超微粒子を配置すると共に、前記アモルファスカーボン支持膜の近傍にCuからなる第2の金属原子を含む第2の原料物質を配置する工程と、前記第1の原料物質と共に前記アモルファスカーボン支持膜に対して10-5Pa以下の真空雰囲気下で1019e/cm2・sec以上の強度を有する電子線を照射して、前記アモルファスカーボン支持膜にグラファイトの(001)面と(002)面に相当する結晶面を有する層状構造のグラファイト状物質を前記金属超微粒子を核生成点として誘起する工程と、誘起した前記グラファイト状物質に対して、さらに前記第1および第2の原料物質と共に1021e/cm2・sec以上の強度を有する電子線を照射して、前記グラファイト状物質の前記結晶面間の層状空間に、前記第1の原料物質を構成する前記第1の金属原子と前記第2の原料物質に含まれる前記第2の金属原子とを挿入する工程とを有することを特徴としている。
【0014】
本発明の層間化合物の製造方法において、請求項6に記載したように、アモルファスカーボン支持膜は例えば第2の原料物質からなるメッシュ状の支持部材上に配置され、このような第2の原料物質から蒸発した第2の金属原子が第1の金属原子と共にグラファイト状物質の層状空間に挿入される。
【0015】
本発明の層間化合物は、グラファイトの (001)面と (002)面に相当する結晶面間の層状空間に、電子線照射により異種の 2種以上の金属原子を挿入したものである。ここで用いられるグラファイト状物質としては、上記したようにたまねぎ状フラーレンのような層間距離がグラファイトと一致する巨大フラーレン類が挙げられる。このようなたまねぎ状フラーレン上に第1の金属元素からなる金属超微粒子を存在させ、かつその近傍に第2の金属元素を含む物質を配置した状態で電子線を照射することによって、たまねぎ状フラーレンの (001)面と (002)面との間の層状空間に第1および第2の金属原子をそれぞれ侵入させることができ、これにより本発明の層間化合物が形成される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
図1は本発明の層間化合物の製造工程を模式的に示す断面図である。まず、図1(a)に示すように、アモルファスカーボン支持膜1上に第1の原料物質として第1の金属元素からなる金属超微粒子2を配置する。第1の原料物質としての金属超微粒子2としては、その下部およぶ周囲のアモルファスカーボン支持膜1にグラファイト状物質を誘起することが可能なものであればよく、例えば表面酸化膜を有しない純Alの超微粒子などが用いられる。なお、金属超微粒子2の構成元素はAlに限らず、PtやAuなどの他の金属であってもよい。
【0018】
金属超微粒子2の直径は 5〜 100nmの範囲であることが好ましい。金属超微粒子2の直径が 100nmを超えると、下層のアモルファスカーボン支持膜1を十分に活性化できず、グラファイト状物質を誘起することができないおそれがある。一方、金属超微粒子2の直径が 5nm未満であると、アモルファスカーボン支持膜1の活性化される領域が不足し、十分な大きさを有するグラファイト状物質を誘起することができないおそれがある。金属超微粒子2のより好ましい直径は 5〜20nmの範囲である。
【0019】
アモルファスカーボン支持膜1の近傍には、さらに金属超微粒子2を構成する第1の金属元素とは異なる第2の金属元素を含む第2の原料物質を配置する。この実施形態では、第2の原料物質としてメッシュ状の支持部材3を用い、このメッシュ状の支持部材3上にアモルファスカーボン支持膜1を配置している。第2の原料物質は薄膜などとしてアモルファスカーボン支持膜1の裏面側に形成してもよい。
【0020】
第2の原料物質の配置位置は、後述する層間化合物の形成工程で金属超微粒子2やアモルファスカーボン支持膜1と共に電子線が照射される領域内であればよい。従って、アモルファスカーボン支持膜1の裏面側に限らず、アモルファスカーボン支持膜1の金属超微粒子2が配置された側に、金属超微粒子2と同様に第2の原料物質からなる微粒子などを配置してもよい。
【0021】
第2の原料物質の構成材料は特に限定されるものではないが、後述する層間化合物の形成工程で真空雰囲気中で電子線を照射した際に、例えば蒸発するものであればよい。このような第2の原料物質としては、各種金属や合金、あるいはそれらを含む化合物などを用いることができる。なお、電子線照射時の蒸発性やその後の層状空間への挿入性などを考慮すると、第2の原料物質としてはCuを用いることが好ましい。上記したメッシュ状の支持部材3は、例えばCuからなるものである。
【0022】
このようにして、第1の原料物質としての金属超微粒子2を配置すると共に、第2の原料物質としてのメッシュ状支持部材3を近傍に配置したアモルファスカーボン支持膜1に対して、図1(b)に示すように、高真空雰囲気下で金属超微粒子2と共に電子線4を照射する。
【0023】
活性な金属超微粒子2と共にアモルファスカーボン支持膜1に対して電子線4を照射すると、活性な金属超微粒子2の下層に存在するアモルファスカーボンの原子配列が変化して、例えば図2(a)に示すように、金属超微粒子2の下部およびその周囲に金属超微粒子を核生成点としてグラファイト状物質が誘起する。このようなグラファイト状物質としては、例えば多層同心円構造を有するたまねぎ状フラーレン5のような巨大フラーレン類が挙げられる。電子線4照射により誘起するたまねき状フラーレン5は、個々に独立した状態で得ることができ、さらに続けて電子線を容易に照射することが可能であるため、本発明の層間化合物の作製に用いるグラファイト状物質として好適である。
【0024】
たまねぎ状フラーレン5は多層同心円構造を有し、その中心部に存在するC60などの核フラーレンの周囲に多層構造の炭素層が形成された構造を有するものである。たまねぎ状フラーレン5は一般的なグラファイトのような平面構造を有していないが、外殻側の炭素層の層間間隔は約0.35nmであり、グラファイトの層間距離に一致する。たまねぎ状フラーレン5の外殻側の炭素層(結晶面)は層間距離が約0.35nmであることから、グラファイトの (001)面および (002)面に相当し、これら結晶面間に層状空間(ファンデルワールス空間)が形成されている。
【0025】
たまねぎ状フラーレン5などのグラファイト状物質を作製する際に照射する電子線4の強度は1019e/cm2 ・sec 以上であることが好ましい。照射する電子線4の強度が1019e/cm2 ・sec 未満であると、たまねぎ状フラーレン5を生成し得るほどにアモルファスカーボン支持膜1を活性化できないおそれがある。言い換えると、1019e/cm2 ・sec 以上の強度を有する電子線4は、金属超微粒子2およびアモルファスカーボンの局所加熱効果と原子変位誘起(knock-on)効果などをもたらし、これらによってたまねぎ状フラーレン5が誘起する。
【0026】
また、電子線4の照射は10-5Pa以下の真空雰囲気中で行うことが好ましい。電子線4を照射する際の真空雰囲気が10-5Paを超えると、残留ガス原子の吸着などが起り、たまねぎ状フラーレン5の生成が阻害されるおそれがある。
【0027】
次に、アモルファスカーボン支持膜1に誘起したたまねぎ状フラーレン5などのグラファイト状物質に対して、図1(c)に示すように、第1の原料物質としての金属超微粒子2および第2の原料物質としてのメッシュ状支持部材3と共に、さらに電子線6を照射する。電子線6の照射領域は、金属超微粒子2やたまねぎ状フラーレン5と共に、メッシュ状支持部材3にも電子線6が照射されるように調整する。また、この際の電子線6の強度は1021e/cm2 ・sec 以上であることが好ましい。
【0028】
このように、上部に活性な金属超微粒子2を存在させたたまねぎ状フラーレン5に対して、1021e/cm2 ・sec 以上というような高強度の電子線6を照射すると、たまねぎ状フラーレン5の収縮および金属超微粒子2の小径化などが起こり、図1(c)および図2(b)に示すように、金属超微粒子2を構成している第1の金属原子(例えばAl原子)が原子集団(Al原子集団)2′および金属原子(例えばAl原子)2″として、収縮したたまねぎ状フラーレン5′の層状空間に侵入する。
【0029】
この際、たまねぎ状フラーレン5の下側に存在するメッシュ状支持部材3にも電子線6が照射されているため、このメッシュ状支持部材3を構成していた金属原子(例えばCu原子)が蒸発する。たまねぎ状フラーレン5は電子線6の照射により活性化されているため、その層状空間にはAl原子などの第1の金属原子2′、2″と共に、例えばCu原子のような第2の金属原子7が侵入する。
【0030】
このようにして、たまねぎ状フラーレン5などのグラファイト状物質の層状空間(ファンデルワールス空間)、すなわちグラファイトの (001)面および (002)面に相当する結晶面間の層状空間に、Al原子などの第1の金属原子2′2″とCu原子などの第2の金属原子7とが挿入された層間化合物8が得られる。なお、たまねぎ状フラーレン5の層状空間にAl原子やCu原子などが挿入されたことは、例えばたまねぎ状フラーレン5の層間隔が拡大することにより確認することができる。
【0031】
層間化合物8の生成工程で照射する電子線6の強度は1021e/cm2 ・sec 以上であることが好ましい。照射する電子線6の強度が1021e/cm2 ・sec 未満であると、たまねぎ状フラーレン5を収縮させ得るほどに炭素原子を活性化できないと共に、その近傍に位置する第2の原料物質としてのメッシュ状支持部材3を蒸発させることができないおそれがある。
【0032】
言い換えると、上記強度を有する電子線6は、たまねぎ状フラーレン5の局所加熱効果や原子変位誘起(knock-on)効果、さらには第2の原料物質としてのメッシュ状支持部材3の局所加熱効果などをもたらし、これらによってたまねぎ状フラーレン5の収縮およびその層状空間への第1の金属原子2′、2″および第2の金属原子7の挿入が可能となる。また、電子線6の照射は10-5Pa以下の真空雰囲気中で行うことが好ましい。電子線6の照射時の真空雰囲気が10-5Paを超えると残留ガス原子の吸着などによって、たまねぎ状フラーレン5の層状空間への金属原子2′、2″、7の侵入が阻害されるおそれがある。
【0033】
本発明の層間化合物8は、上述したようにグラファイトの (001)面と (002)面に相当する結晶面間の層状空間に、異種の 2種以上の金属原子2′、2″、7を挿入したものである。このように、たまねぎ状フラーレン5などのグラファイト状物質の層状空間に 2種以上の金属原子2′、2″、7を挿入することによって、単一の金属原子のみを挿入した層間化合物では得られないような特性の出現が期待できる。層状空間に挿入された各金属原子2′、2″、7は、それぞれ活性な金属Alや金属Cuなどとしての性質を有しているため、特性に優れた層間化合物8が得られる。
【0034】
さらに、本発明の層間化合物8は上部に金属超微粒子2が存在するたまねぎ状フラーレン5などの個々に制御可能な巨大フラーレン類に電子線6を照射することで得られるため、例えばグラファイト状物質の極微小領域に形成することが可能であるなど、その状態、形状、分布などの制御性を大幅に向上させた上で、再現性よく得ることができる。加えて、制御された条件下で層間化合物8を独立した状態で作製することができるため、層間化合物8の各種操作や制御、その物性の掌握なども容易に実現可能となる。
【0035】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0036】
実施例1
まず、直径 100nm程度の球状θ−Al2 3 粒子(純度=99.8%)を用意し、これをアルコールに分散させた後、i-カーボンからなるアモルファスカーボン支持膜上に塗布、乾燥させた。このθ−Al2 3 粒子を配置したアモルファスカーボン支持膜をCuメッシュ製の支持部材上に配置し、この状態でFE−TEM装置の真空室内に配置された室温ステージ上に設置した。
【0037】
上記真空室内を 1×10-5Paの真空度まで排気した後、アモルファスカーボン支持膜上に配置されたθ−Al2 3 粒子に 1.3×1020e/cm2 ・sec の電子線を照射した。このθ−Al2 3 粒子への電子線照射によって、直径 5〜15nm程度のAl超微粒子をアモルファスカーボン支持膜上に生成した。
【0038】
次に、生成したAl超微粒子を有するアモルファスカーボン支持膜(Cuメッシュを含む)が配置されたFE−TEM装置の真空室内の状態(真空度を含む)を維持した上で、アモルファスカーボン支持膜上のAl超微粒子に対して下層のアモルファスカーボンと共に 1×1022e/cm2 ・sec の電子線を照射した。この際、電子線の照射領域内にCuメッシュの一部が存在するように、電子線の照射領域を設定した。
【0039】
電子線の照射を行いながらAl超微粒子およびアモルファスカーボンの状態をTEMでその場(in-situ) 観察した。この観察結果について、図2の模式図を参照しながら説明する。電子線の照射開始から 300秒程度経過したところで、図2(a)に示すように、Al超微粒子2の下部に楕円状同心円を持つカーボン組織が誘起した。この楕円状同心円を持つカーボン組織は層間隔が約0.35nmであることから、たまねぎ状フラーレン5であることが確認された。なお、たまねぎ状フラーレン5の周囲はアモルファスカーボンの状態を維持していた。
【0040】
さらに、電子線を照射し続けると、たまねぎ状フラーレン5は徐々に収縮しつつ同心円状になっていき、またAl超微粒子2も同様に小径化していった。電子線の照射開始から 800〜1000秒程度経過したところで、図2(b)に示すように、たまねぎ状フラーレン5′は同心円状に収縮すると共に、Al超微粒子2′は直径 2nm程度まで小さくなった。
【0041】
上述した電子線照射を3000秒継続した後、たまねぎ状フラーレン5′が存在している部分(具体的には図2(b)の領域A)について、エネルギー分散型X線分析器(EDS)による測定を行った。その結果を図3に示す。なお、図4は電子線照射前のEDSの測定結果である。図3から明らかなように、たまねぎ状フラーレン内にはAlと共にCuが存在していることが分かる。これらAlとCuはたまねぎ状フラーレンの (001)面と (002)面との間の層状空間(ファンデルワールス結合層間)に侵入して、層間化合物を形成している。
【0042】
すなわち、上述したたまねぎ状フラーレンおよびAl超微粒子の小径化に伴って、Al超微粒子を構成していたAl原子がAl原子集団や原子状態でたまねぎ状フラーレンの (001)面と (002)面との間の層状空間に侵入すると同時に、その下側に存在するCuメッシュも電子線により活性化され、このCuメッシュを構成していたCu原子がたまねぎ状フラーレンの層状空間に侵入したものと考えられる。これらAl原子およびCu原子は、たまねぎ状フラーレン5′の各部位に分散していることが確認された。
【0043】
上述した層間化合物においては、Al超微粒子2の {002}面とたまねぎ状フラーレン5の (002)面とが平行となるように、Al超微粒子を構成していたAl原子集団2′が配列しており、Al原子集団2′とたまねぎ状フラーレン5′とはエピタキシー関係を有していた。また、Al原子集団2′の存在が明確な部位におけるたまねぎ状フラーレン5′の (001)面と (002)面との面間隔dは0.40nmであり、d(200) Al=0.20nm の 2倍となるようにたまねぎ状フラーレン5′の格子が膨らんでいた。この面間隔の増大からもAl原子とCu原子がたまねぎ状フラーレン5′の層状空間に侵入していることが確認された。
【0044】
さらに、層状空間にAl原子およびCu原子を挿入したたまねぎ状フラーレン5′の電子エネルギー損失分光装置(EELS)による測定を実施したところ、たまねぎ状フラーレン5′の内部電子の状態が変化していた。このことからも、たまねぎ状フラーレン5′の層状空間にAl原子およびCu原子が侵入していることが確認された。
【0045】
このように、Al超微粒子が上部に存在し、かつ下側にCuメッシュが配置されたたまねぎ状フラーレンに、例えば1022e/cm2 ・sec というような高強度の電子線を照射することによって、たまねぎ状フラーレンの (001)面と (002)面との間の層状空間にAl原子とCu原子を挿入した層間化合物が得られる。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば異種の 2種以上の金属原子をグラファイト状物質の層状空間に再現性よく挿入することができる。このような本発明の層間化合物は、その応用範囲の拡大などに大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態による層間化合物の作製工程を模式的す断面図である。
【図2】 本発明の実施例1による層間化合物の作製過程におけるAl超微粒子およびたまねぎ状フラーレンの状態変化を模式的に示す図である。
【図3】 本発明の実施例1による電子線照射後のたまねぎ状フラーレンのEDS測定結果を示す図である。
【図4】 本発明の実施例1による電子線照射前のアモルファスカーボンのEDS測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1……アモルファスカーボン支持膜
2……金属超微粒子
2′、2″……第1の金属原子
3……メッシュ状支持部材
4、6……電子線
5……たまねぎ状フラーレン
7……第2の金属原子
8……層間化合物

Claims (8)

  1. グラファイトの(001)面と(002)面に相当する結晶面を有する層状構造のグラファイト系物質と、
    前記グラファイト系物質の前記結晶面間の層状空間に挿入された、Al、PtおよびAuから選ばれる第1の金属原子とCuからなる第2の金属原子と
    を具備することを特徴とする層間化合物。
  2. 請求項1記載の層間化合物において、
    前記グラファイト系物質は多層同心円構造を有することを特徴とする層間化合物。
  3. 請求項1記載の層間化合物において、
    前記グラファイト系物質はたまねぎ状フラーレンであることを特徴とする層間化合物。
  4. 請求項1記載の層間化合物において、
    前記グラファイト系物質の前記結晶面間の層状空間に、前記第1および第2の金属原子としてAl原子とCu原子とが挿入されていることを特徴とする層間化合物。
  5. アモルファスカーボン支持膜上に第1の原料物質としてAl、PtおよびAuから選ばれる第1の金属原子で構成された金属超微粒子を配置すると共に、前記アモルファスカーボン支持膜の近傍にCuからなる第2の金属原子を含む第2の原料物質を配置する工程と、
    前記第1の原料物質と共に前記アモルファスカーボン支持膜に対して10-5Pa以下の真空雰囲気下で1019e/cm2・sec以上の強度を有する電子線を照射して、前記アモルファスカーボン支持膜にグラファイトの(001)面と(002)面に相当する結晶面を有する層状構造のグラファイト状物質を前記金属超微粒子を核生成点として誘起する工程と、
    誘起した前記グラファイト状物質に対して、さらに前記第1および第2の原料物質と共に1021e/cm2・sec以上の強度を有する電子線を照射して、前記グラファイト状物質の前記結晶面間の層状空間に、前記第1の原料物質を構成する前記第1の金属原子と前記第2の原料物質に含まれる前記第2の金属原子とを挿入する工程と
    を有することを特徴とする層間化合物の製造方法。
  6. 請求項5記載の層間化合物の製造方法において、
    前記アモルファスカーボン支持膜を前記第2の原料物質からなるメッシュ状の支持部材上に配置することを特徴とする層間化合物の製造方法。
  7. 請求項5記載の層間化合物の製造方法において、
    前記グラファイト系物質はたまねぎ状フラーレンであることを特徴とする層間化合物の製造方法。
  8. 請求項5記載の層間化合物の製造方法において、
    前記グラファイト系物質の前記結晶面間の層状空間に、前記第1および第2の金属原子としてAl原子とCu原子とを挿入することを特徴とする層間化合物の製造方法。
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