JP3543175B2 - α−グルコシダーゼ阻害物質 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬品、食品、健康食品、特定保健用食品などに使用することができるエゾイシゲおよびヒバマタ、もしくはそれらの水あるいは有機溶剤の抽出物を有効成分としてなるα−グルコシダーゼ阻害物質に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
α−グルコシダーゼ阻害物質は、小腸上皮上に局在する二糖類分解酵素であるα−グルコシダーゼを特異的に阻害し、糖質の分解・吸収を遅延することにより食後の血糖値の急上昇及びそれに続くインスリン値の上昇を抑制することが明らかにされている。したがって、α−グルコシダーゼ阻害物質は過血糖症状に由来する糖尿病や肥満などの疾患の改善に有用である。また、α−グルコシダーゼ阻害物質を添加した食品はこれら疾病の症状を改善することから関連する代謝異常の患者に有用であり、さらに日常の食生活に取り入れることによって糖尿病や肥満の予防食として健常者にも適している。
【0003】
これまでに開発されたα−グルコシダーゼ阻害物質であるアカルボースやボグリボースはインスリン非依存型糖尿病の有効な治療薬として臨床に用いられているが、医師の厳密な処方が必要であり、また、腹部膨張、放屁の増加、軟便、下痢などの副作用も有り食品や食品素材として利用するのは困難である。したがって、食品や食品素材として利用可能な安全性が高く、容易に摂取できるα−グルコシダーゼ阻害物質が求められる。
【0004】
食品に由来するα−グルコシダーゼ阻害物質としては、例えば、特開平10−292000号公報には、動物性または植物性蛋白質の加水分解物由来のペプチドおよびその混合物が開示されている。さらに、特開平12−072682号公報にはクローブ由来のα−グルコシダーゼ阻害物質が開示され、特開平12−239164号公報にはハイビスカス酸類を有効成分としたα−グルコシダーゼ阻害剤が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開平10−292000号公報に記載のα−グルコシダーゼ阻害物質およびその混合物は、ペプチドおよびその混合物が胃内および小腸で容易に分解される可能性があるが、実際の生体内においてはα−グルコシダーゼ阻害活性を示すか否かが検討されていない。また、特開平12−072682号公報に記載のα−グルコシダーゼ阻害物質はクローブ由来のオイゲニインおよびその誘導体であり、試験管内でのα−グルコシダーゼ阻害活性は認められるものの生体内での血糖上昇抑制効果が示されておらず、その生理的有効性は不明確である。前記と同様に特開平12−239164号公報に記載のハイビスカス酸類を有効成分としたα−グルコシダーゼ阻害剤についても生理効果が示されていない。
【0006】
本発明は、強いα−グルコシダーゼ阻害活性を示し、かつ安全性が高く容易に摂取が可能で実際に生体内で血糖上昇抑制作用を有するα−グルコシダーゼ阻害物質を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記した課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒバマタ科のヒバマタ及びエゾイシゲ抽出物が強いα−グルコシダーゼ阻害活性を示すこと、その阻害物質がフロログルシノールの重合物であるフロロタンニン類であることを初めて明らかにした。これらの化合物を有効成分として含有させれば、その顕著なα−グルコシダーゼ阻害作用により、血糖上昇を抑制して糖尿病や肥満の予防・改善に有効であることなどを見出し、これら知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のヒバマタ(Fucus evanescens C.Agardh)及びエゾイシゲ(Pelvetia babingtonii de Toni)は食用の褐藻類であり、葉部及び茎部、又は全ての部位を用いてもよい。
【0009】
ヒバマタ及びエゾイシゲは乾燥させて粉末化したもの、もしくはそのものを水あるいは有機溶剤等の溶媒で抽出したものが該当する。抽出に用いる有機溶媒としてはメタノール、エタノール等のアルコール、酢酸エチル、アセトン等が該当するが、中でも強いα−グルコシダーゼ阻害活性が得られる10〜90重量%アルコール水溶液が好ましい。該アルコールとしては、メタノール、エタノールが好ましい。抽出法としては浸漬による抽出、加熱抽出、連続抽出、超臨界抽出等のいずれの方法を用いてもよい。前記の溶媒を用いて抽出物を得るには、公知の方法に従えばよく、例えばヒバマタ及びエゾイシゲを原料とし、これを適当に破砕した後、それらの粉砕物を前記した溶媒で公知の方法を用いて抽出する。具体的には、原料の1〜100倍(重量比)、好ましくは3〜30倍(重量比)の溶媒で、室温で1〜7日間放置、もしくは40〜60℃で2〜16時間加熱還流しながら抽出する。
【0010】
上記のごとくして得られる該抽出物をそのまま本発明に用いてもよいが、好ましくは抽出に使用した水、有機溶媒を留去するのがよい。更に、より強いα−グルコシダーゼ阻害活性を有する有効成分を得るためには該抽出物を水、メタノール、エタノール、プロパノール、クロロホルム、酢酸エチル、アセトンなどの溶媒を用いた溶媒分画操作によって有効成分を濃縮し、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィー、セルロースカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどの方法で、分離精製することができる。
【0011】
上記精製法により、
【化1】(1)で示されるフロログルシノールを構成単位
とし、
【化2】(2)で示される直鎖構造及び
【化3】(3)で示される分岐構造を部分構造として持つ重合度25〜200のフロロタンニン類が単離され、これらの単離化合物をα−グルコシダーゼ阻害物質として用いることも可能である。
【0012】
【化1】
Figure 0003543175
Figure 0003543175
【0013】
【化2】
Figure 0003543175
Figure 0003543175
【0014】
【化3】
Figure 0003543175
Figure 0003543175
【0015】
【実施例】以下本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
【実施例1】α−グルコシダーゼ阻害活性成分の分離精製および構造解析
【0017】
採取したエゾイシゲを水洗後に乾燥して(乾燥物12.95kg)細切し、メタノール:水=7:3(容量比)の抽出液を5倍量(重量比)加え、室温で7日間抽出した。抽出液(1次抽出液)を除いた残渣に新たにメタノール水=7:3(容量比)の混液を加えて、室温で7日間抽出して、2次抽出液を得た。それぞれの抽出液を別々に濃縮して、それぞれ1次抽出物(338g)と2次抽出物(298g)を得た。両抽出物をそれぞれ酢酸エチルと水で溶剤分画を行い、1次抽出物酢酸エチル可溶部、1次抽出物水可溶部、2次抽出物酢酸エチル可溶部及び2次抽出物水可溶部を得た。このうち1次抽出物酢酸エチル可溶部及び2次抽出物酢酸エチル可溶部にα−グルコシダーゼ阻害活性が確認された。両抽出物ともにα−グルコシダーゼ阻害活性が認められ、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(以下、TLC)で同様な成分が含まれるのを確認した。ここではさらに2次抽出物酢酸エチル可溶部のみ(23.62g)を分画した。当該可溶部濃縮物にクロロホルムを加え、溶解性により分画してクロロホルム不溶画分(20.10g)を得た。
【0018】
クロロホルム不溶画分のうち、2.62gを用いてセルロースカラムクロマトグラフィー(メルク社製)を行った。溶出溶剤は酢酸エチル、酢酸エチル:アセトン=1:1(容量比)、アセトン、メタノール及び水で順次溶出した。溶出した画分の中で水溶出画分(1.37g)に強いα−グルコシダーゼ阻害活性が見られた。さらにこの水溶出画分を酢酸エチルと水に対する分配で分画し、水分配画分(1.28g)に強い阻害活性が見られた。
【0019】
得られた水分配画分をシリカゲルTLCに供した。展開溶媒はn−ブタノール:酢酸:水=4:1:2(容量比)を用いて、検出は2,4−ジメトキシベンズアルデヒド(DMBA)試薬を用いた。本画分を展開した結果、原点からR値0.3までに複数のスポットとテーリングがみられたが、すべてDMBA試薬に対して同様の呈色を示した。よって本画分は1,3−ジヒドロキシベンゼン構造を有する化合物の同族体の混合物と結論した。
【0020】
水分配画分のH NMR及び13C NMRスペクトルを測定した。測定溶媒として重メタノール及び内部標準としてテトラメチルシランを用いて、JEOL JNM−FX90Q(日本電子株式会社)により測定した。H NMRスペクトルでは、5.91〜6.31ppmに複数のシグナルが重なっているブロードなシグナルのみが観察された。これは両側のオルト位に酸素置換基がある芳香族プロトンと帰属した。13C NMRスペクトルでは、152.2〜158.2ppm、126.1〜126.2ppm及び95.9〜96.8ppmにそれぞれ複数のシグナルが重なりあっているシグナルが観察された。これら3つのシグナルのグループの積分強度比は約3:1:2であった。これら3つのシグナルのグループのシグナルはそれぞれ酸素置換基の根元の芳香族カーボン、1,2,3−三酸素置換ベンゼン構造の2位芳香族カーボン及び1,3−二酸素置換ベンゼン構造の2位芳香族カーボンと帰属した。これらの3つのグループのシグナルはフロロタンニンに特有なシグナルである。1,3−ヒドロキシベンゼン構造に特異的に呈色するDMBA試薬に陽性なことからも本発明がフロロタンニンであることが支持される。フロロタンニンの部分構造は以下のように決定した。これまでに知られているフロロタンニンの部分構造として、1,2,3,4,5−五酸素置換ベンゼン構造や2つのベンゼン環の直接結合がある。1,2,3,4,5−五酸素置換ベンゼン構造の1位、3位及び5位の13C NMRスペクトルでのケミカルシフトの計算値は139.5〜146.0ppmである。2つのベンゼン環の直接結合したときの13C NMRスペクトルでのケミカルシフトの計算値は139.5〜146.0ppmである。本発明のフロロタンニンの13C NMRスペクトルではそれらに対応するシグナルが観察されなかったため、1,2,3,4,5−五酸素置換ベンゼン構造や2つのベンゼン環の直接結合
はないと結論した。よって、本発明のフロロタンニンは、
【化1】(1)で示さ
れるフロログルシノールを構成単位とし、
【化2】(2)で示される直鎖構造及

【化3】(3)で示される分岐構造を部分構造として持つ重合体であると決定した。
【0021】
さらに本発明のフロロタンニンの分子量をゲル浸透高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で測定した。
【0022】
フロロタンニンに無水酢酸とピリジンを加え、60℃で6時間保ち、フェノール性ヒドロキシル基のアセチル化を行った。このアセチル化物をゲル浸透HPLCに供した。HPLCの条件は以下のとおりである。カラム:TSK−GEL G5000H(東ソー株式会社)、カラムサイズ:直径7.5mm×長さ30cm、クロマトグラフ:島津LC−10ATVP、検出器:島津SPD−10AVP、検出:UV(254nm)、移動相:テトラヒドロフラン、サンプル濃度及び注入量:0.2mg/ml、0.02ml、流速:1.0ml/分、温度:室温。分子量は標準ポリスチレンキット(東ソー株式会社)を用い、その保持時間から決定した。
【0023】
フロロタンニンのアセチル化物をHPLCに供したところ、保持時間11.5分を極大とする10.5〜12.0分までの幅広のピークが得られた。保持時間から分子量14000を極大として分子量5200〜40000に相当することが明らかとなった。アセチル化物の値から遊離フロロタンニンの分子量を計算すると、本発明のフロロタンニンの分子量分布は8300を極大とする3100〜24000と結論した。したがって、前記精製法で得られるフロロタンニンは、
【化1】(1)で示されるフロログルシノールを構成単位とし、
【化2】(2)
で示される直鎖構造及び
【化3】(3)で示される分岐構造を部分構造として持つ重合度25〜200の重合物と同定された。
【0024】
【実施例2】試験管内ラット小腸α−グルコシダーゼ活性試験
【0025】
ラット小腸粉末より調製した粗α−グルコシダーゼ溶液を用いて、α−グルコシダーゼ阻害試験を行った。ラット小腸アセトン粉末(シグマ社製)10gに対して0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)100mlを加えて超音波処理をしたあとに、3000rpm、30分間遠心分離を行った。得られた上清を粗α−グルコシダーゼ溶液とした。スクロースを基質としてスクラーゼ活性を測定するときは原液をそのまま利用し、マルトースを基質としてマルターゼ活性を測定するときは緩衝液で4倍(容量比)に希釈したものを用いた。スクロース及びマルトース基質溶液は500mMとなるように0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した。基質溶液0.1ml、被験溶液又は0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)0.1ml及び緩衝液0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)0.7mlを加えて混合し、粗酵素溶液0.1mlを添加することで酵素反応を開始した。酵素反応を37℃、60分間行ない、2.0Mマレイン酸−トリス−水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.4)を加えて酵素反応を停止した。酵素反応液0.02mlを試験管にとり、グルコース定量発色液(グルコースオキシダーゼ−ペルオキシダーゼ法、グルコースB−テストワコー、和光純薬工業株式会社)3.0mlを加えて37℃、30分間発色させ、505nmの吸光度を測定して次式によりα−グルコシダーゼ阻害率を求めた。
【0026】
【数1】
Figure 0003543175
Figure 0003543175
【0027】
本発明で得られた水分配画分フロロタンニンのラット小腸マルターゼ及びスクラーゼに対する阻害活性を検討した結果、マルターゼ活性及びスクラーゼ活性に対する50%阻害濃度(IC50)はそれぞれ0.48及び1.65mg/mlだった。
【0028】
【実施例3】ラット糖負荷試験
【0029】
本発明で得られたフロロタンニン(水分配画分)のラット糖負荷試験における血糖値変化に対する影響を検討した。24時間絶食した8週齢のWistar系ラットを対照群及びフロロタンニン投与群(以下投与群)それぞれ12匹ずつ用いた。ラットをエーテル軽麻酔をかけ、頚静脈からヘパリン入り採血管に約0.5ml採血した。採血後に対照群にはスクロース水溶液を500mg/体重kgを、投与群にはスクロース水溶液500mg/体重kg及びフロロタンニン水溶液300mg/体重kgをそれぞれゾンデを用いて経口投与した。投与後、10、30、60及び120分後に約0.5ml採血を行った。採血した血は遠心分離によって血漿画分に分画して、供試するまで−80℃で保存した。血漿中グルコース量はグルコースオキシダーゼ法による測定キット(グルコースB−テストワコー、和光純薬工業株式会社)で測定した。血漿中グルコースの経時変化を表1に示す。その結果、本発明品は投与後10分で対照群と比較して有意に血漿中のグルコース量の上昇を抑制させることが明らかとなった。したがって、本発明のフロロタンニンは血糖上昇抑制作用を有し、糖尿病・肥満の発症防止及び改善に有効である。
【0030】
【表1】
Figure 0003543175
Figure 0003543175
【0031】
【発明の効果】
以上のように、本発明のエゾイシゲおよびヒバマタの双方もしくはどちらか一方、あるいはこれら海藻の水および有機溶剤抽出物の双方もしくはどちらかを使用することにより、これらに含まれる有効成分(フロログルシノールの重合物であるフロロタンニン)が有するα−グルコシダーゼ阻害活性により、血糖上昇抑制作用を示すことから糖尿病及び肥満の発症防止や改善が可能となる。

Claims (1)

  1. エゾイシゲおよびヒバマタの双方もしくはどちらか一方の水および有機溶剤の双方もしくはどちらか一方の抽出物中に、フロログルシノールの重合物で、重合度が25〜200であるフロロタンニン類を含有することを特徴とするα−グルコシダーゼ阻害物質。
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